ドラえもん のび太と宇宙友情物語 ぷらす・仮面ライダーメテオ 作:ルシエド
コピペミスで貼っていなかった部分に気が付いたので修正
流星は傷の痛みで目が覚めた。
「う、づ……」
「あ、流星さん! 起きたみたいだね、どこか身体に変なところはない?」
「……ドラえもんか。多少痛い程度だ」
「た、多少……?」
流星の多少発言が明らかに強がりなのだと分かるほどに、流星の全身は傷だらけ、出血だらけ、青あざだらけだった。
流星が周りを見渡せば、そこは牢のような場所。
「ここは、どこだ……?」
「分かんない。元々ここに牢なんてなかったから……
確証はないけど、種をまく者が作ったんじゃないかしら」
ドラえもんの推測は正しく、そこは流星達を捕らえておくために作った二つの牢の内の一つ。
片方には流星とドラえもん、もう片方には静香が捕らえられており、内側からではどうやっても開けられない仕組みになっていた。
「のび太達は、上手く逃げてくれているといいが」
「うん。でも、のび太くんならきっと上手くやってるさ」
心配と信頼。
のび太達との付き合いの長さからか、本当の土壇場で出てくる二人の感情は対照的だ。
「あとは、俺達が逃げ出すだけか。
のび太達の方は地上の頼りになる奴に任せてはいるが、それも絶対じゃあない」
「そうだね、流星さんはなんとしても逃さないと」
「……?」
またこれだ。
ドラえもんの言葉や態度の中に浮かぶ違和感。
流星はそれに気付いてすぐに、それを気のせいだったと断じずに、彼に問いかける。
「俺とお前、どこかで会ったことがあったか?」
「? ないと思うなあ。ぼくらはこれが初対面のはずだよ」
「……だろうな。だが、なんとなくだが、お前の態度は変だ。俺と無関係な奴とは思えない」
それはただの勘だ。根拠の無い、ドラえもんの言動に感じた違和感からの類推でしかない。
だが事実ではあったようで、ドラえもんは流星の言葉に目を丸くして、笑った。
気付かれたことが嬉しいとでも言わんばかりの笑顔のまま、ドラえもんは流星に秘密を明かす。
「うん。だって初対面だけど、無関係ではないもの」
「どういう意味だ?」
ドラえもんは、22世紀の未来から来た猫型ロボットだ。猫耳はないが。
「ぼくが元々はのび太くんの孫の孫、セワシくんのロボットだって話は知ってる?」
「ああ。インガ……仲間からそう聞いている。
お前は未来から、自分の主の生きている未来を変えるために、ここに居るのだと」
セワシは昔、調査の結果野比家の先祖を最低でも戦国時代まで把握しているのだということを、のび太に明かして教えたことがある。
当然、ドラえもんもセワシの先祖を全て把握している。
「のび太くんはセワシくんの父方の先祖なんだ」
「ほう、それで?」
「父方の先祖が居るなら、母方の先祖も居るはずだよね?」
「……?」
『だから』、ドラえもんは初めて会った時、流星の名を知っていたのだ。
「流星さんは、セワシくんの母方の先祖なんだ」
「―――は?」
未来、子孫。そういう話を振られて、ありえないと断じる証拠は流星の手の中にない。
その未来に繋がる流星の子孫は、既に妻の中で命を授けられているのだから。
「この時代は仮面ライダーというものが生まれ初めて、40年経った時代。
この時代から100年経った未来にも、仮面ライダーはちゃんと居るんだよ。
だから流星さんの名は知る人ぞ知る名前なんだ。子孫が誇れるくらいに、立派なね」
100年経っても悪が絶えない未来を嘆くべきか。
100年経っても悪に屈しない人の正義を喜ぶべきか。
仮面ライダーというものが認知され、人々に知られている時代。
とにもかくにも、流星は開いた口が塞がらない。
「……ああ、そういうことか。だからお前は俺を信じ、俺を生かそうとしたのか」
「ふふふ。流星さんって人が好きなのもあるよ」
「未来を守るために俺を守る、か。合点がいったよ」
流星は話を聞き、納得し、奮い立つ自分の心を自覚する。
父親の自覚が芽生え始めている今の流星に、ドラえもんの話はいいカンフル剤になったようだ。
「ここから逃げる方法を探すぞ、ドラえもん。
あんな奴に、お前達の未来へと続く道を奪われてたまるか」
「おうとも!」
青色の流星は、その力の全てを奪われた今でも折れず、青いロボットを従え立ち上がる。
地球へ向かう宇宙船の中で、スネ夫は膝を抱えながら泣き出していた。
「もうおしまいだ……ママぁー!」
「うるせえぞスネ夫! 静かにしないとぶんなぐるぞ!」
「ひぃっ」
強い言葉を使うのは怯えている証拠だ。
腕を振り上げ、強い言葉でスネ夫を脅したジャイアンだが、それは裏を返せば彼も怯えているということに他ならない。
何しろこの大ピンチだ。
地球が滅びるかもしれないのだというのに、頼りになるひみつ道具も使えないのである。
子供達が不安と焦燥に飲み込まれてしまうのも仕方がない。のび太も堂々巡りの思考の中、ひたすらに思い悩むだけだった。
(ひみつ道具も頼れないのにどうしたら……ん? ひみつ道具?)
だがそこで、ドラえもんの道具の応用や活用に関しては天才的と謳われた、のび太の限定的天才頭脳が閃きを見せる。
「そうだ、スペアポケットだ」
「え?」
「スペアポケットだよ! あれがあれば、なんとかなるかもしれない!」
のび太が思い出したのは、スペアポケット。
ドラえもんのポケットのスペアで、ドラえもんのポケットが紛失してしまった時、ドラえもん本人にトラブルがあった時に、ドラえもんのひみつ道具を使えるスペアの四次元ポケットだ。
あれがあれば、まだきっとどうにかなるはず。
「地球に着いたらすぐにスペアポケットを拾って、ドラえもん達を助けに……」
「あそこに戻るって言うの!? 正気かよ!」
希望を見つけ、勇気を見せるのび太とは対照的に、スネ夫は立ち上がったのび太を止める。
「勝てるわけないじゃん! のび太だってあのバケモノの強さは見ただろ!?」
「う」
「逃げようよ! 勝てるわけないよ!」
スネ夫は臆病だ。
それは欠点と断じられるものではない。
本来人は危ない場所に、命の危険がある場所に、勇気を理由に踏み出していくべきではない。
でなければ、いつかどこかで簡単に死んでしまう。
恐怖を乗り越える勇気を持つのび太、男気から勇気を見せるジャイアン、慈愛から勇気を振り絞る静香といった面々は、スネ夫が臆病風に吹かれて止めるという役目を果たしていなければ、彼らはどこかで勇気を無謀へと変えてしまう可能性を持ってしまうのだ。
スネ夫が臆病で居てくれることは、決して悪いことではない。
まして、のび太は一瞬口ごもったのだ。
のび太だって分かっている。覚えている。
あの獅子座の怪物の強さを、その恐ろしさを。
ひみつ道具の効力や攻撃をコズミックエナジーで弾くあの怪物がいる限り、スペアポケットがあったからといって何とか出来る可能性は低い。
だが、それでも、のび太の決意は揺らがない。
野比のび太という少年が友達を助けるために、勇気を振り絞らないはずがないのだ。
「……それでも!
流星お兄さんを、しずちゃんを、ドラえもんを見捨てて行けるわけないじゃないか!」
「行くんなら一人で行けよ! ねえ、ジャイアン?!」
そこでスネ夫は、のび太を止めるためにジャイアンに話を振る。
ジャイアンは腕を組み、目を閉じ、何かを考え込んでいた。
そして目を開き、力強く拳を握って二人に見せる。
「俺はやるぜ」
「え?」
それはいつかどこかの冒険の、在りし日の物語のリフレイン。
友のため、ピー助という恐竜を見捨てなかったあの日に、剛田武が見せた心の熱さ。
「俺は戦う! のび太と一緒にな!」
「……ジャイアンっ!」
「ドラえもんも、しずちゃんも、流星さんも助ける。
世界も守る。じゃなきゃ男がすたるよな、心の友よ」
短気かもしれない。横暴で乱暴かもしれない。自己中心的かもしれない。
それでもジャイアンは、友情に厚い男であった。友情に熱い男であった。
「な、なにさ、なんで二人ともそんな目でボクを見るのさ」
のび太とジャイアンは、無言のままじっとスネ夫を見る。
無言の圧力。二人は何も言わず、何も強制しない。
スネ夫が皆が行き過ぎないよう引けた腰で皆を引っ張るのと同じように、スネ夫が勇気を出すべき時に臆病風に吹かれた時は、スネ夫を引っ張っていくのが周りの皆の仕事だ。
だって彼らは、友達だから。
いつだって互いに間違えないように支え合い、引っ張り合い、助け合う。
「うわあああもう! 行くよ! ボクも一緒に行けばいいんでしょ!」
半泣きで同意を示すスネ夫にジャイアンとのび太は笑い、二人は顔を見合わせる。
「よく言った! それでこそ心の友だ!」
「うん、行こう! みんなでいっしょに!」
たった三人。されど三人。一人じゃない。
戦い抜く意志を固めて、少年達は心を重ねる。
「まずは地球に……わっ!?」
だが、敵は待ってはくれない。
突如何かが宇宙船にぶつかったかのような衝撃と音が鳴り響く。
「一体何が……!?」
「わー! じゃ、ジャイアン! のび太! 窓から外を見て!」
「外? こんな宇宙に、何かが居るわけ……」
三人が、窓から外を見てみれば。
そこには『魚』が居た。
魚の形をした、巨大な怪物が居た。
「ばばばばばバケモノだー!」
スネ夫が叫ぶのもさもありなん。
その怪物の名はピスケス。ピスケス・ゾディアーツ。
それも超新星の力を宿したピスケス・ノヴァだ。
魚座の怪人であるピスケス・ノヴァは、宇宙の海を自在に泳ぐ大魚である。
「どうするのび太? このままじゃこんな宇宙船、すぐぺしゃんこにされちゃうぜ!」
「どうする、って言っても……武器も無いんじゃどうすることもできないよ!」
この宇宙船に武器はなく、少年達も武器など持っていない。
絶体絶命、そんな危機。
されどヒーローはやってくる。
『なでしこロケットキーック!』
漆黒の宇宙を、銀色が引き裂いた。
一瞬、少年達にはそう見えたのだ。
だが実際には、銀色のスーツを来た誰かが腕に付けたロケットを噴射して、宇宙船を噛み砕こうとした大魚を蹴り飛ばした……なんて、光景が少年達の目に映っていた。
メテオとどこか似た色合いの、ロケットを持った銀色の少女の戦士。
それが自分達を助けてくれたのだと、のび太達が理解するまでにそう時間はかからなかった。
「あれは……流星お兄さんと同じ、仮面なんとか?」
「女の子?」
「なに!? なんなの!?」
『わたし、リュウセイの友達の友達。
だからリュウセイの友達。君達を助けに来たの』
「この通信……! ジャイアン、スネ夫、あの人は味方だよ!」
「やったぜ!」
「やったあ!」
『わたしは仮面ライダーなでしこ。たいまんはらせてもらうぜぇ!』
なでしこ、と名乗った仮面ライダーは果敢にピスケス・ノヴァへと向かっていく。
宇宙船はその間に大気圏に突入し、地球の空へと辿り着いていた。
「よし、地球に――」
「次! 次の追手来ちゃったよ!」
「またぁ!?」
天翔ける牛。牛座のタウラス・ゾディアーツだ。
上から下々を見下ろす、という方向性で肉体を巨大化・強化する方向性の超新星を纏ったそのモンスターは、タウラス・ノヴァ。
敵に破壊を誓約させ、強制的に破壊を押し付けるその体当たりを喰らってしまえば、こんなチャチな宇宙船では一撃で粉砕されてしまうだろう。
「超力招来!」
だが、ヒーロー達がそれを見逃すわけがない。
「超力イナズマ落とし! チェスト!」
横から割って入った誰かが、稲妻を纏った手刀でタウラスの二本の角を切断し、突撃を止める。
だがその飛行速度があまりにも速すぎて、のび太達にはそこに誰かが居て守ってくれているということは分かっているのに、その誰かを目で捉えることができない。
その誰かが引き付けてくれたのか、その誰かとタウラスは空中戦を続けながら、宇宙船から徐々に離れて戦う場を移していく。
「あの人も、流星お兄さんの友達なのかな……」
「このタイミングで一緒に来てくれたってことは、そうでしょ」
「やっぱあの人すげえや! ダチまですげえ!」
助っ人に安堵するのび太、このタイミングで駆け付けてくれた助っ人達に共通点を見い出したスネ夫、興奮するジャイアン。
地球の未来を背負った子供達を乗せ、宇宙船はとうとう地球の大地を踏む。
宇宙船から飛び出した少年達は、周りも見ずに一目散に野比家に向かってただ走る。
「急げ! 遅いんだよのび太! せめてスネ夫くらいの速さで走れ!」
「無茶言わないでよぉ!」
「のび太のグズ! のろま! これで地球が滅びたらあとでひどいからな!」
ジャイアン、のび太、スネ夫は走る。
だが追手の手は緩まない。
宇宙、空で一体づつ襲って来た超新星の怪物は、地上という最後の戦場にて三体同時に少年達の前に立ち塞がった。
「嘘でしょー!?」
「げ、さっきの奴らと同じのが、三体」
「あ、あと10分くらい走れば、スペアポケットがある僕の家なのに……!」
右には煌めく水を纏った水瓶座の怪人、アクエリアス・ゾディアーツ。
超新星の輝きを示すアクエリアス・ノヴァが水で道を塞いでいる。
左には凄まじいエネルギーでただ居るだけでも空間を歪める乙女座の怪人。
ヴァルゴ・ゾディアーツが変化したヴァルゴ・ノヴァは、焼け爛れた女性のような容姿だ。
そして真ん中に、射手座の怪人サジタリウス・ゾディアーツ。
燃える太陽のような赤を体表に滲ませ、圧倒的な存在感で子供達を威圧している。
「も、もうダメだぁ……」
スネ夫の弱音に同意しそうになってしまうのび太とジャイアンだが、ぐっと堪える。
だがこらえたところで何かが変わるわけでもない。
どうしようもなく『詰み』であることに変わりはないのだ。
(ダメだ、ダメだ、諦めちゃ、ダメだ……!)
のび太は足りない頭で考える。
けれど起死回生の一手など思いつけるわけもなく、目の端に涙が滲んでしまう。
メガネを外して、涙を拭い、鼻水をすする。
そう。それでいい。
泣いたっていい。鼻水を垂らしながら、情けなく逃げまわったっていい。
心さえ折れなければいい。
友達を助けることを諦めないと、その気持ちを強く貫けるならばそれでいい。
そう在る者が居るのなら。
必ず、手を差し伸べる者は現れる。
「よく頑張ったな」
のび太の背後から現れた者が、くしゃりとのび太の頭を撫でた。
驚いたのび太が振り返り見上げると、そこには予想だにしない姿があった。
スーツ。それはいい。容姿の整った大人の男性。それもいい。
それだけならいかにも教師、といった風体なのだが、それら全てを頭部の『リーゼント』が台無しにしている。
リーゼントの成人男性を目にするなど、のび太には生まれて初めての経験だった。
だが、何故か異常に頼もしかった。
その声も、雰囲気も、笑みを浮かべた横顔も。
「この人に任せればなんとかしてくれる」と、のび太が初対面で思ってしまったほどに、異様に頼もしい男性がそこに立っていた。
「え、あなたは……?」
「流星のダチだ」
「!」
男の名は『如月弦太朗』。
またの名を、"仮面ライダーフォーゼ"。
朔田流星の友である。
そして弦太郎に続き、その場に巨大な二足歩行のロボットが三体も現れた。
「俺達は、宇宙仮面ライダー部」
先陣を切る先頭のロボの名は、キングダイザー。
名乗りを上げる搭乗者は大文字隼。
朔田流星の友である。
「宇宙の平和、地球の平和、学園の平和。そんでもって子供は俺達が守るっすよー」
それに続くはJKダイザー。
飄々とした口調の搭乗者はJK。
朔田流星の友である。
「だから安心して、ここは私達に任せなさい」
子供達に優しく声をかけながら、二人に続くクイーンダイザー。
女性であるのに平然とロボを動かすは、
朔田流星の友である。
「俺達は、どんな敵からだって人間の自由と平和を守る」
「流星くんがもしもの時にはって頼んでた、君達は私達が守るよ!」
そして少し離れた、攻撃が届かない位置にある建物の上、屋上。
一人の男性、二人の女性がそこに居た。
片や機材を操作してゾディアーツの分析を行う歌星賢吾という名の男性。
片や『仮面ライダー部』と書かれた旗の左端を持つ、城島ユウキという名の女性。
二人とも、朔田流星の友である。
「……だから、行って。ここは私達に任せて先に行って」
ユウキは旗の左端を持っている。よって右端は、もう一人の女性が持っていた。
その女性は片手で旗を持ち、もう片方の手で腹を抑え、その周囲を厳重に
最後にのび太達の背を押したのは、朔田友子という名の妊婦であった。
彼女は、朔田流星の妻である。
「―――!」
流星の友が自分達を助けてくれたことに、その時のび太が何を思ったかは定かではない。
だが、"行かなければ""無駄にしてはいけない"と、そう思ったことだけは事実。
「行こう! ジャイアン! スネ夫!」
「おう!」
「もうなんなの~!?」
子供達が駆け出すのを見て、その後を追おうとするゾディアーツ達を、弦太郎は視線のみで制する。それが出来るだけの実力が、彼には備わっていた。
「悪いな。今の俺は教師なんだ。
……あの頃以上に、子供が傷付けられるのを見過ごせねえ理由が増えた」
弦太郎は腰に装着したベルト、フォーゼドライバーを起動。
パチ、パチ、パチ、パチと、スイッチを操作する小気味のいい音が響き渡る。
そしてドライバーが、変身プロセス完了までのカウントダウンを開始した。
《
「変身!」
如月弦太朗は叫ぶと同時に、宇宙を掴もうとするかのように空に手を伸ばす。
そのポーズがスイッチとなり、変身は一瞬で完了した。
現れるは、白を基調とした宇宙服に近いスーツの仮面ライダー。
「宇宙っ、キターーーー!!」
身体に漲るコズミックエナジーに居ても立っても居られないようで、弦太郎は全身で『X』の字を象るように、両手両足をぐいっと伸ばす。
そして頭部をきゅっ、と磨くような仕草を見せ、拳を相対する敵へと向ける。
「仮面ライダーフォーゼ。タイマンじゃねえが、タイマン張らせてもらうぜ!」
フォーゼが駆け出す。
キングダイザー、JKダイザー、クイーンダイザーがそれに続く。
遠方より賢吾が分析でサポートし、友子は少し下がって、ユウキが友子を庇うように前に立つ。
立ち向かうは射手座、乙女座、水瓶座の超新星。
途方もない強敵であったが、仮面ライダー部に負けは許されない。
子供達のために足止めをしている彼らにも、この星の未来は託されているのだから。
何故如月弦太朗達は、こんなにもいいタイミングで駆け付けられたのか?
少し考えれば、その答えは簡単に導き出せる。
流星はインガ・ブリンクに対し、「俺の監視は頼んだが」と言った。
つまりだ。流星の動向はメテオスイッチを通して常にインガが監視しており、流星が敗北したその時点で、インガは地上の弦太郎達に救援要請を届けていたのである。
全ては流星が仕込んだ保険だ。
もしも流星に何かがあった場合、即座に彼の友が動いてくれるよう、事前に抜け目なく仕込んでいた彼の策が功を奏していた。
「あったよ、スペアポケット!」
「よっし、よくやった!」
のび太達はスペアポケットを確保し、中身を確認。
ドラえもんが安物ばっかり買うために、道具のメンテや破損や紛失で入れ替わりの激しいひみつ道具が、今何があって何がないのかを確認しつつ、宇宙に行く手段を探す。
どこにも繋がっていない状態のどこでもドアなど、いくつかの道具が宇宙ステーションに置きっぱなしになっていることを確認しながら、のび太はポケットの中を奥へ奥へと探っていく。
まず真っ先にのび太が取り出したのは、宇宙救命ボートだった。
「これに流星お兄さんのベルトをセットすれば、宇宙ステーションまで行けるはずだよ」
のび太の説明にスネ夫は首を縦に振るが、ジャイアンは首を傾げる。
「そんなことしなくても、別の道具で一直線に飛んでいけばいいんじゃないか?」
「バカだなあ、ジャイアンは。
地球も宇宙ステーションもすごく速く回ってるんだから、目印ないと行けないでしょ」
「……?」
「……いいよ、分かんないなら分かんないで」
実はジャイアンだけでなくのび太もその辺りの理屈は分かっていないのだが、言わぬが花だ。
ジャイアンとスネ夫は窓から外を警戒し、のび太はメテオドライバーを探知ユニットにセットする。メテオドライバーと流星の絆が、きっとあの場所に連れて行ってくれると信じて。
(流星お兄さん、ドラえもん、しずちゃん)
そして大切な人達の顔を想い、発進スイッチを押した。
(今、行くよ!)
子供達は今、飛び立つ。友を救い出し、世界の平和を守るために。
種をまく者は強力な追手をのび太達に差し向けた。
なら、本丸である宇宙ステーションの周囲はどうなっているのだろうか?
のび太達は宇宙ステーションに近付くにつれ、それを嫌でも理解させられていた。
「な、なんだこれぇ!?」
宇宙は基本的に黒い。
そんなことは誰でも知っていることだが、その時はいつにも増して宇宙が黒かった。
なにせ黒装束の宇宙仕様ダスタードが、何十万と宇宙空間にひしめき、星々の光すらも遮って、宇宙ステーションの周囲に浮かんでいたのだから。
しかもその数は、時間経過で加速度的に増えている。
「こ、これじゃ突破できない……!」
「それどころかこっちに来るぞ!?」
あまりにも多勢に無勢だ。
ひみつ道具があるとはいえ、のび太達は宇宙船ですらない救命ボートが一隻のみ。
乗員三名VS数十万。
あまりにも勝負の見えた戦いだった。
「一から十まで容赦がない……
あの種をまく者ってやつ、本気で僕達を消し去るつもりなんだ……」
「諦めんなスネ夫! のび太が道具で何とかするから待ってろ!」
「ええええ僕!? どうにかするって言ったって、こんなのあんまりにあんまりで――」
スネ夫の胸中に湧き上がるのは諦観。
ジャイアンの胸中に湧き上がるのは奮起。
のび太の胸中に湧き上がるのは焦燥。
三人が三人とも何一つとして手を打てないままに、宇宙仕様のダスタード達はボートに群がり、ボートごとのび太達を葬らんとする。
「もうダメだぁ! 今度こそおしまいだ! ママ~!」
怯えたスネ夫が、目を閉じてその場にうずくまる。
もう誰も助けてくれる人なんて居ないと、諦める。
……本当に? 本当にそうだろうか?
のび太達が宇宙ステーションから逃げる時、のび太達を助けたのは朔田流星の絆だった。
彼の友情が、のび太達を助けてくれる人を呼び寄せてくれた。
なら、のび太達は?
彼らは自分達のピンチに誰も助けに来てくれないほどに、薄情な生き方をしてきたのだろうか?
否。否である。
情けは人のためならず。のび太達の重ねてきた善行は、必ず彼らの下へ返って来る。
なればこそ、ここからは朔田流星の友情ではなく、のび太達の友情が描く新たなステージ。
ここからは、彼らの絆のステージだ。
「君は僕達を助けてくれた」
のび太達のボートに通信が来て、聞き覚えのある声が聞こえる。
すると同時に、宇宙空間に無数の宇宙戦闘機が現れた。
少年達のボートを沈めようと動く全てのダスタード達が撃墜されていき、呆気にとられるのび太達をよそに、宇宙戦闘機達は宇宙ステーションへと続く敵の空白地帯を作り上げる。
「だから僕達も君を助けるんだ、のび太くん」
また通信。今度は声だけでなく、映像まで伴った対話形式の通信だ。
その少年の顔を見た時、まず始めにのび太の中に生まれたのは驚愕。
次に感謝。最後に興奮だった。
「リアン!?」
「銀河漂流船団から、みんなで助けに来たよ!
みんなみんな、のび太くん達に恩を返すんだって、張り切ってるんだ!」
かつてのび太達が宇宙を旅する銀河漂流船団と出会った時に友達になった、宇宙少年騎士団の少年リアンが、映像越しにのび太に笑いかけている。
その後ろではフレイヤ、ログ、ゴロゴロといったリアンの仲間達が手を振っていた。
ドラえもんとのび太の宇宙漂流記の果てに、紡がれた友情がそこにある。
「リアン! 何か変な反応が来てるわ!」
「見せて、フレイヤ……これは、レーダーにも映らないような極小サイズのダスタード!?」
だが、地球人類への意外な援軍に、種をまく者は攻めの手法を変えたようだ。
銀河漂流船団の艦隊が一番対応しにくい方法、つまり人の爪の先ほどの大きさの怪人を大量に作り出し、アリが獲物をかじるように削り殺す算段なのだろう。
一難去ってまた一難。
されど、のび太達の友もまた一人だけには留まらない。
宇宙空間にまたしても現れた援軍。
それは子供が手に持てるプラモデルサイズの小さな戦艦達であったが、今のこの状況には最高に痛快な形で刺さる。
銀河漂流船団のレーダーに映らなくとも、これだけ小さな戦艦のレーダーには映るのだろう。
極小サイズのダスタードは、小さな小さな宇宙戦艦に次々と撃ち落されていく。
「小さなものなら私達にお任せください」
「パピくん!」
「大統領として、恩のある地球の危機は見過ごせません。
一個人として、我々の星を救ってくれた大恩ある友人を見捨てられるわけがありません」
かつてピリカ星の大統領・パピを守って、クーデターを起こした独裁者・ギルモアと戦った日のことを、のび太は鮮明に思い出す。
パピの横にはおしゃべりな犬・ロコロコが、あいも変わらず自慢話に似た長話を意味もなく長々と垂れ流していて、それがおかしくてのび太は笑ってしまう。
ドラえもんとのび太の宇宙小戦争の果てに、紡がれた友情がそこにある。
「撃てー!」
リアン、パピに続いてボートに三人目の通信が繋がれる。
三人目の登場と同時に放たれた放火はダスタードの群れを横一直線に貫いて、宇宙空間に満ちていたダスタード達を一気にふっ飛ばし、かき混ぜた。
「今度こそ人の手で作った、人の手で動く宇宙船だよ。
人が作った、ロボット任せじゃない人助けのための船で、君を助ける!」
「サピオくん!」
かつてロボット文明の過剰な発達と、人類の過剰な怠け癖のせいで人類がロボットの支配下に置かれてしまった、チャモチャ星の少年、サピオ。
機械任せではなく、人間が人間らしく生きていける社会を作り直そうと誓った通りに、サピオ達の手で動かされる機械の戦艦達は、友であり恩人であるのび太達を助けようとする人間の手足となっていた。
ドラえもんとのび太がブリキの迷宮を踏破した果てに、紡がれた友情がそこにある。
「のび太、あれ見てよ!」
そして極めつけがこれだ。
スネ夫が窓越しに見付けた、新たに現れた超巨大ダスタード。
それと真正面からぶつかり合う、超巨大人型ロボットの姿があった。
のび太がそれを見間違えるはずがない。
だってのび太は、それを一から組み上げたことだってあるのだから。
「あれは……!」
鏡面世界で組み立てて、共に鉄人兵団へと立ち向かった鉄の巨人。
「『ザンダクロス』だ!」
男のロマンを詰め込んだような人型の巨大ロボットが、宇宙空間にて唸りを上げていた。
源静香は、牢の中で一人泣いていた。
ダスタードに捕らえられ、気付けば冷たい牢の中。
寂しくて、不安で、こらえようとしても涙が溢れ出てしまう。
「のび太さん……ドラちゃん……たけしさん……スネ夫さん……」
涙が雫となり、床に落ちた、まさにその時。
『ナイテルノ? シズカサン』
静香に向けられやた、機械的な声が響いた。
『ナカナイデ、ボク、シズカサンノタメナラナンデモスル』
「バギーちゃん!?」
静香が顔を上げれば、牢の鉄格子の向こうに一台のバギーカーがあった。
そういえば、と彼女は思い出す。
このバギーカーもドラえもんのポケットにしまわれないまま、この宇宙ステーションに放置されていたんだ、という事実を。
そしてバギーカーの上に人影が居ることに気付き、それが誰かを確かめようと顔を見た瞬間、静香は自分の心臓が止まるかと思った。
「この子がここまで導いてくれたの」
ひらりとバギーから飛び降りる彼女の姿を見て、静香はただそれだけで、泣きそうだった。
「神は始まりのロボット、アムとイムを作った時にこう言われたの。
"お前達で天国のような社会を作りなさい"
"地球は君達の遠い隣人、遠い昔と遠い未来に助け合うべき友"
"地球の危機には駆け付け、助けてあげなさい"
メカトピアのロボットは、あなた達の遠く親しい機械の隣人。あなた達を助けに来たのよ」
静香は気付いた。
『あの時』、最後にアムとイムのロボットをいじったのは誰だったのか。
そんな命令をメカトピアのロボット達にプログラミングできたとすれば、誰なのか。
『彼女』しか居ない。
この助けは、今目の前に居る、けれどもうこの世のどこにも居ない『彼女』からの贈り物。
もう涙を堪えられない。
静香は『天使のような彼女』を前にして、泣き出してしまう。
―――すばらしいと思わない? ほんとの天国づくりに役立てるなんて。
―――今度生まれ変わったら……天使のようなロボットに……
『彼女』の言葉を、思い出を、思い出しながら。
「どうしたの? そんなに泣いて……どこか痛いの?」
「ううん、ううん、この涙は、嬉しいの……」
―――お友だちになってね
(いいの、いいの、あなたが覚えてなくたって。
私は覚えてるから。天使のようなあなたのことを……だって、私は……)
静香は嬉しくて、泣いてしまう。
「わたしは『リルル』。あなたのお名前は?」
「……静香。源、静香よ」
「しずかさんね」
こうして話しているだけでも、ワンワンと泣いてしまいそうだ。
だけどこらえて、牢から逃げ出しつつ静香はリルルに問いかける。
「ね、リルルさん。お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
「? あまり時間を取らないものなら」
「私と、お友達になって欲しいな」
ピタリと、リルルの動きが止まる。
「わたし、ロボットよ?」
「知ってるわ。よく、知ってるもの」
「……いいの?」
「私がお願いしてる方なのよ。決める権利はリルルさんにあるわ」
リルルは一瞬、逡巡する。
それは迷っているように見えてその実、答えなど決まりきっているように見えた。
口を開いて、微笑んで、リルルは応える。
「……わたしでよければ、喜んで」
天使のような微笑みを浮かべて、リルルは静香の願いを聞き入れた。
そこには静香だけが知る、言葉以上の意味がある。
あの日の約束は果たされたのだ。
誰も居ないその場所で、種をまく者は佇んでいた。
その姿は変わらず極小の光の粒が集まって出来た人の形で、感情や情緒が見えて来ない。
種をまく者は宇宙を見る。
そこには宇宙の色んな場所からやって来た『のび太の友達』が、自身の手の者と戦っていた。
種をまく者は、流星の言葉を思い出す。
人は誰でも失敗すると、けれど誰かが失敗すれば誰かが支えると、その助け合いが円ではなく渦を巻くのが、人の心の銀河だと。
のび太達の失敗を支えるために集まり、守るために戦うのび太達の友人達。
流星の言葉が形になった光景が、そこにあった。
種をまく者は宇宙の戦いを眺めるのを一旦止め、何もない空間に向かって振り返り、そこに滲むように現れた光の玉に向かって話しかける。
【君か】
【そ、われだよ】
厳格な口調で話しかけるのは、人を消し去ろうとしている種をまく者。
そして話しかけられている軽薄な口調の方の光は、地球と火星を作り上げ、地球に生物の種を蒔いた種をまく者だった。
【この大集合は君の差し金か】
【そんなわけないない。ま、われが教えて回ってたのは事実だけどね。
ちょろっと寄った星で、ちょろっと話してた子にポロッと漏らしたら、ちょっとね】
両者とも、大昔にプレゼンターより分かたれた眷属。
そして生物における表現に当てはめるのならば、同じくプレゼンターを父として生まれた、血を分けた兄弟のようなものだった。
【コーヤコーヤって星で、ロップルって子に頼まれたんだ。
"あなたが気まぐれにぼくに教えてくれたその話を、のび太くんの友達に伝えて欲しい"
ってね。われはそのお願いを叶えてあげただけさ】
【白々しいな。君はそう頼まれると分かった上で話したはずだ】
人類の敵に回っている方の種をまく者は、この同族がどうにも好きになれない。
寛容だが、適当なのだ。
自分が生物の種を蒔いた星を守ろうとは考えるものの、うっかりで小惑星がぶつかって生物が死滅することだってザラ、その後平気な顔をして次の星へと挑戦していく。
その責任感のなさが、どうにも好きになれないらしい。
【結局、君が援軍を募ったのと何も変わりはない】
【違うね。われは声をかけただけ。のび太くん達を助けたのは、のび太くん達の優しささ】
【優しさだと?】
【うん】
そんな種をまく者が、この現状をもたらしたのは、のび太達の優しさだと言う。
【バギーカーに、リルルに向けられた優しさ。
容易に潰せる小さな命に、いい印象を持っていなかった相手に、別の星の人に向ける優しさ。
命は優しさがあれば誰とだって繋がれる。誰とだって仲良くなれる。誰とだって友達になれる】
まずは優しさだよと、その種をまく者は言う。
【相も変わらず
【宇宙に命を蒔いているんだ。われらは宇宙最高のロマンチストであるべきだよ】
顔があったなら、その時その種をまく者はドヤ顔で笑顔を見せていただろう。
そして相対する種をまく者は、ムスッとした表情で苛立ちを見せていただろう。
そんな光景が、容易に想像できる。
【そして君もロマンチストだろう? だからこうやって、人の可能性を試している】
【……】
【君は何億年経っても変わらないよね。
脅かされた命のために怒るのも、過ちを犯した命に可能性を証明する機会を与えるのも】
【帰れ】
【ん、そんじゃま帰るね。彼らが勝つと、われは信じているし】
光の片方が消え、片方の光だけが残る。
残された種をまく者は、宇宙に広がる戦いを見た。
今はM-BUSのコズミックエナジービームがダスタード達をなぎ払い、その合間をフォーゼ・なでしこ・イナズマン達が駆け抜け、格別大きなダスタードはXVIIなる全長2kmの巨大変形ロボットが片付けている。
のび太達は真っ当なルートを選ぶことを避け、宇宙クリームで宇宙空間に適応し、通り抜けフープで侵入、石ころ帽子で侵入ルートを絞らせないようにして移動しているようだ。
ザンダクロスを始めとした鉄人兵団も既に参戦している。
種をまく者は人間の足掻きを見つめ、情動の見えない声で呟いた。
【私が間違っていて、君達が正しいというのなら】
あと一時間もしない内に、地球人類はこの世界から全て抹消される。
【私を倒し、証明してみせろ】
人類が滅びたくないのなら。種をまく者を、レオ・ノヴァを、打ち倒すしかない。
散々手を尽くしても出る手段を見つけられていなかった流星とドラえもんを牢の中から救い出したのは、リルルだった。
リルルは静香を安全な場所に隠し、バギーとセットで配置することで外部から侵入していると推測される、のび太達に発見・回収してもらえるように計算づくで動いていた。
そしてリルルは途中で流星達と別れ、この宇宙ステーションでの地の利を得るためにコントロールルームへ直行。
流星とドラえもんはのび太達との合流を目指し、敵に見付からないよう慎重に歩く。
「この先もダスタードの気配はないな」
「気配って……流星さん、ひみつ道具要らずだね」
「そこまで便利なものじゃあない」
すいすいと、とまでは行かないがかなりのペースで進んでいく流星とドラえもん。
流星は歩けているのが不思議なくらいに満身創痍だが、その動きに淀みや鈍りはない。
ドラえもんに先行し、ダスタードの警戒網をくぐり抜けつつ、流星はのび太達を探し続けた。
「あのリルルという少女ともわけありなのか? ドラえもん」
「うん、まあ、なんと言えばいいのかしらん……
ぼく達はあの子のこと知ってるけど、あの子はぼく達のことを忘れてる、みたいな」
「友達か?」
「うん、友達だ。そこだけはハッキリと断言できるよ」
「そうか」
流星は、かつての戦いの中で、アクエリアス・ゾディアーツとなった少女と、弦太郎達との間に築き上げられた友情を覚えている。
それが戦いの果てに、その少女の記憶の喪失という形で終わったことを覚えている。
だから流星は励まさない。
記憶がなくとも想いがあれば、友情は朽ち果てることも一方通行になることもないのだと、流星はその経験から知っていたから。
「急ぐぞ。種をまく者が、レオがどう動くかまでは読めないからな」
「うん」
そうして道を進んでいく内に、流星の視界に探していた者達の姿が入ってきた。
一方その頃、のび太は静香と再会していた。
「しずちゃん!」
「のび太さん!」
最後に互いに手を伸ばして、それでも手が届かなかった時のことを気にしていたのだろう。
二人は顔を合わせた途端、互いの手を取り合い、互いの無事を喜び合っていた。
「お前も無事だったか、悪運がいい奴め」
「あはは、こいつのふてぶてしさはボクらが一番よく知ってるじゃん、ジャイアン」
『アナタガタガイッテイルボクハ、ボクデアッテボクデナイボクノコトナノデハ……』
ジャイアンとスネ夫は静香の無事を喜んだ後、静香を守ってくれていたバギーカーに悪態をつきつつ、その車体をぺちぺちと叩く。
「しずちゃん、よく無事で……」
「バギーちゃんと、リルルさんが助けてくれたの」
「リルルが!?」
驚くのび太。リルルと因縁があるのは、何も静香だけではないのだ。
静香のピンチに真っ先に駆けつけたのがバギーカーとリルルであったのは、ただの偶然でしかない巡り合わせの結果だが、運命というものを感じざるを得ない。
今は一刻を争う事態だ。
……だが、それを分かった上で、のび太には今しなければならないことがある。
次に静香に会った時、真っ先にすべきだと思っていたことがある。
のび太は自分がそれをして、そうして初めて静香や流星に胸を張って向き合えるのだと、そう考えていた。
「しずちゃん、バギーのこと、ごめんね」
「え?」
「僕、バギーがきみのことを助けてくれたことを知ってたのに、それでも疑っちゃったんだ。
バギーはこうして生まれ変わっても、しずちゃんのことを守ってくれていたのに。
だから、ごめんなさい。しずちゃんに嫌な思いさせちゃって……」
「……いいのよ。私だって言い過ぎちゃったもの。
それに、私こそ謝らなくちゃいけないわ。ごめんなさい。
のび太さんが私のことを思って言ってくれてたのに、ひどい言葉で返しちゃって」
「そんな、僕が」
「いえ、私が」
謝り謝られてのループが出来上がる。
いつまでやってるんだ、とジャイアン達に思われ始めたその時に、のび太と静香の間に穏やかに割って入り、謝罪のループを止めた者が居た。
「その辺にしておけ。収拾がつかなくなるぞ」
満身創痍のその男を見て、子供達は揃って驚愕の声を上げる。
「流星さん!」
「流星お兄さん!」
半分は流星の元気な様子を見れたことへの歓喜。半分は流星の怪我への心配だろう。
流星は平然と歩いているし、一見痛みもないような様子に見えるが、見かけの負傷度合いで言えばかなり大変なことになっている。
「だ、大丈夫なの……?」
「安心しろ。人間、全身黒焦げになっても案外平気なもんだ」
(この人は一体どういう人生を送ってきたんだ……)
怪我を見てのび太や静香は心配するが、生憎
流星の人生に対するスネ夫の誤解が加速していくが、自業自得なので仕方ない。
「待って、今治療を……」
「いや、いい。時間があるわけでもなさそうだ」
のび太が流星の怪我を直そうと、ポケットの中に手を突っ込む。
だが流星は、それを手で制す。
流星、のび太、ジャイアン、スネ夫、静香、バギー、ドラえもんはここに一同に介した。
だが彼らが進もうとしている先の広場から、膨大なコズミックエナジーの波動が伝わってくる。
常人に理解できるものではないが、コズミックエナジーを扱う仮面ライダーである流星は、その強大なコズミックエナジーの存在をひしひしと感じていた。
これは誘いだ。「こっちへ来い」という。
そして警告だ。「もうすぐこれを地球に撃つぞ」という。
寄り道している暇もなければ、おそらくは怪我の手当てをする時間もない。
朔田流星は、種をまく者から送られたその挑戦状に、受けて立った。
「隠す気が微塵もない。この先で堂々と待ち受けているようだな」
流星は敵が自分より強いから、なんて理由で逃げることをしない男だ。
だが流石に満身創痍の無手であのバケモノに挑むのは無茶が過ぎる。
のび太は慌ててポケットの中を探り、流星が戦う時に使っていた道具を手渡した。
「流星お兄さん、これ」
「! メテオドライバー……のび太が拾っていてくれていたのか」
「これが僕らを、ここまで連れて来てくれたんだ」
割れ物を扱うように丁寧に、のび太はメテオドライバーを流星に手渡す。
だが流星の表情は晴れないままだ。
のび太はこれで流星が戦えると思っているようだが、これはスイッチとセットで扱わなければ意味が無い。戦いにならないのだ。
そこで一歩踏み出したのはドラえもん。
どうやらドラえもんは、のび太達がスペアポケットを持って来てくれたことに気付いたようだ。
「のび太くん、僕のポケット返してくれる?」
「あ、うん。はいどうぞ」
「そうそう、このポケットの、この辺りに……」
「?」
「あ、あったあった。はいどうぞ、流星さん」
「!?」
そして受け取ったスペアポケットの中から何かを取り出し、流星に手渡すドラえもん。
流星の表情が驚愕に染まり、受け取ったものが握り締められる。
「――メテオスイッチとメテオストームスイッチ、だと?」
「流星さんはそれを終生大事にしていて、流星さんの子孫もそれをずっと大事にしていた。
22世紀ではもうほとんどお守りみたいな扱いだったけどね。
それでも、何度かのバージョンアップを繰り返して、それは僕の手元に流れ着いていたんだ」
それはセワシが、過去の世界に旅立つドラえもんという友達に、お守り代わりに渡したもの。
22世紀になっても形を残す、メテオスイッチとメテオストームスイッチだった。
寿命を迎えた流星の手を離れ、それから一世紀の壁を越え、二つのスイッチはまた流星の手元へと帰って来たのだ。セワシとドラえもんの友情を、未来から過去への架け橋にして。
スイッチが人の思いに応える、相性のいい人とスイッチは運命的に引き合う、選ばれた者の星の運命。流星が今日に至るまで何度も耳にしてきた文面だ。
だが自分がその当事者となれば、驚愕よりも感動の方が先に来る。
「……なんて運命だ」
一度手放したはずの、一度失われたはずのドライバーとスイッチが、絆を辿って流星の手の中に今再び戻って来た。
スイッチ達が「諦めるな、戦え、勝て」と言っているような気すらする。
流星は、今ならフォーゼドライバーをダチと呼んだ弦太郎の気持ちが理解できる気がした。
「行こう、流星お兄さん! みんなでいっしょに!」
流星の手を取るのび太。陽気に微笑んでいるドラえもん。
男らしく拳を構えるジャイアン。いまだに怯えつつも逃げようとはしないスネ夫。
全員の無事を祈っている静香。やる気満々にエンジンをふかしているバギー。
皆が流星の言葉を待ち、並び立っている。
「ああ、あの神様気取りに目に物見せてやろう。俺達の
おー! と後に続く子供達の言葉を背に受けて、流星は戦いの場へと踏み出した。
広場にはやはり、皆が予想していた最強最大の怪物レオ・ノヴァが待ち構えていた。
その後ろには数体のダスタード。
ご丁寧にその手には、秘密裏に回収していたのだろう、踏み潰された流星のメテオスイッチとメテオストームスイッチがある。
そしてレオの後ろの、ダスタード達が屯しているその頭上。
鎖で縛られたリルルが、そこに吊り下げられていた。
「リルルさん!」
「……しずかさん。ごめんなさい、わたし失敗しちゃった」
静香が悲鳴を上げると、それに気付いたリルルが弱々しい返事を返した。
静香を助け出し、流星とドラえもんを助け出すという大金星を上げていたリルルだが、どうやらコントロールルームの奪取まではできなかったようだ。
その途中で捕まってしまったのだろう。
【来たか】
「待たせたな。種をまく者」
流星は自分を助けてくれた子を、それも年端の行かない女の子だろうと推測している女の子を、鎖で縛って吊り下げている敵に向かって戦意をぶつける。
流星の胸中に湧き上がるのは不快感だ。
男と父の間に居る今の流星は、子供が傷付けられることを酷く嫌う。
そんな流星の袖を引き、静香は懇願した。
「流星さん、リルルさんを……」
「分かっている。俺とドラえもんを牢から出してくれたのはあの子だからな。借りは返すさ」
流星はメテオドライバーを己の腰にセットして、メテオスイッチをそこに添える。
のび太が、ドラえもんが信頼を込めた目線を彼への背中へと向ける。
ジャイアンとスネ夫は戦いから一瞬たりとも目を逸らさないと、そう志して前を見据える。
静香が祈り、バギーがその横に寄り添った。
《 Meteor Ready? 》
「変身!」
円を描き、直線を描く腕の軌跡。変身のプロセスを奏でるドライバー。
流星の叫びがそのまま形になったかのように、彼は青い隕石に包まれる。
青い隕石は青い流星と化し、リルルを吊っていた鎖を体当たりで引きちぎり、リルルを呑み込んでのび太達の前にまで戻った後、床にぶつかる。
青い光が解ければ、そこにはリルルをお姫様のように横抱きにする、メテオの姿があった。
【仮面ライダーメテオ……】
流星はリルルを下ろして鎖を指でつまんで引きちぎり、レオ・ノヴァとそれに重なる種をまく者へと向き合い、親指で鼻をこする仕草を見せる。
「言ったはずだ。お前の
そして、死刑宣告を叩き付けた。
助けられたリルルは流星に例を言い、流星はそちらも見ずにそっくりそのまま礼を返す。
「ありがとう」
「それはこちらの台詞だ。下がっていろ」
構えたメテオが、後ろに下がったリルルと子供達に背を向け、駆け出す。
合わせてレオ・ノヴァもまた、咆哮しながらメテオを食い千切らんとばかりに跳ねる。
仮面ライダーメテオVSレオ・ゾディアーツ。
もはや何度目かも分からない宿命の戦いが、ここにまたしても幕を上げるのだった。
「お前と戦うのも飽きてきたぜ、単細胞の犬っころ!」
《 Saturn Ready? OK! Saturn! 》
ガントレットを操作して、メテオは遠隔操作ができる土星を選択。
メテオは超新星のレオの顔面に向けて土星を発射し、その顔に群がらさせる。
規格外の防御力を持つレオは、急所に攻撃を当てたとして僅かなダメージすらも入らない。
だが、「鬱陶しい」と思わせて冷静さを奪い、視界を塞ぐことはできる。
そうしてレオの視界を塞ぎつつ、メテオは高く跳んでレオの頭上を跳び越えながら、ドライバーのスイッチを入れ替えた。
《 Meteor Storm! Meteor on Ready? 》
レオの頭上で青と金の嵐が吹き荒れ、メテオがレオを跳び越えて着地したその時には、青い流星は黄金の嵐を纏う形態へと変わりきっていた。
《 Limit Break! OK! 》
「メテオストームパニッシャー!」
レオの顔面に集中していた三つの土星が散り、全身をくまなく叩く。
そこに自動追尾モードに切り替えた独楽を追加し、メテオ本人も接近戦を仕掛けることで、なんと五方向からの同時攻撃が可能となっていた。
どんな技量と練習量があればここまでのことができるのか。
だがしかし、凡庸な相手ならばこれだけで圧倒できるはずの絶技の嵐は、圧倒的な硬さを持つレオ・ノヴァの堅牢な表皮を貫けない。
「種をまく者、貴様は言ったな! 子供達に向けて、お前達は有害だと、だから消し去ると!」
それでも流星は諦めない。
振るわれた爪の回避に成功したというのに、ただ爪にかすっただけでメテオストームシャフトを吹っ飛ばされてしまい、武器を失ってしまう。
それでも流星は諦めない。
その身一つになっても喰らいつき、徒手空拳でレオ・ノヴァへと挑む。
「だがな! 子供の
頼れるのはもはや鍛え上げた技量、戦闘経験、己の身一つだけ。
土星と独楽を囮に気を引き、レオ・ノヴァの眼球に人差し指と中指を揃えて突き刺すも、眼球の異常な硬さに逆に指先を痛めてしまう。
それでも流星は諦めない。
「滅びの
心が折れない限り、勝機はある。
分かりきっていたことだったが、流星は次第に劣勢に追い込まれていた。
先の戦いでレオ・ノヴァの恐ろしさを目にしていた子供達は、その変わらぬ強さに思わず身震いし、流星の勝利を信じきれていなかった。
「やっぱり強いぜ、あいつ!」
「ドラえもん、道具でなんとかできないの?」
「無茶言うな! ぼくの道具にあれをどうこうできるような力があるもんか!」
のび太達も何とかしようとしてはいるのだが、ひみつ道具の特殊な干渉を防ぐコズミックエナジーの鎧と、物理的な干渉が通じない肉体スペックの高さが厄介過ぎる。
ひみつ道具だって修理に出したり買い替えたりする都合上、全てがドラえもんのポケットの中に揃っているわけでもない。
皆が頭をひねる中、真っ先に案を出したのはスネ夫だった。
「ねえ、あのスイッチを取って流星さんに渡せたら、どうにかならない?
タイムふろしきとか復元光線で直せるんじゃないの?」
スネ夫が指差す先は、踏み潰された流星のスイッチを握っているダスタード達。
彼らの戦闘を眺めて、多少なりと考える頭と知識がある人間ならば、流星が戦闘に使うエネルギーをスイッチから得ていることは推測できるだろう。
スネ夫の推測は正しい。
エネルギーの供給元であるスイッチの数が倍になれば、流星が選べる『小細工』の種類も、勝機そのものも倍以上になるはずだ。
「そ、そうだよ! なんとかできないの、ドラえもん!?」
「スイッチは直せるけど……ダスタードが握ったままじゃ、取り戻すのは無理だよ」
だがそれには、根本的な問題がある。
コズミックエナジーの側が受け入れてくれるならばいい。
意思のないスイッチならば、タイムふろしきで直すことができるだろう。
だがダスタードにひみつ道具の力はどうやっても通じない。
ダスタードが握っている限り、道具だけでスイッチを回収するのは不可能に近いのだ。
「……」
その話を聞き、ジャイアンは考える。
ダスタード達を見つめながら、剛田武は口を真一文字に引き結んだ。
「あ、危ないっ!」
「なんだ!?」
「流星さんの武器だ! 敵に弾かれちゃったんだよ!」
そうこうしている内に、のび太達の方へと何かが飛んで来た。
レオ・ノヴァに弾かれたメテオの武器、メテオストームシャフトだ。
ジャイアンはそれが偶然目の前に突き刺さったのを見て、言葉にしがたい何かを感じ取る。
巡り合わせとでも言うべき、偶然の中に見い出される何か。
流星は加速度的に追い込まれながらも、諦めていない。
守るために喰らいつき、戦い続けている。
そんな男の背中が、ジャイアンに覚悟を促した。
男を見せろと叫ぶ魂に従い、ジャイアンは目の前に刺さったメテオのシャフトを引き抜く。
「俺が行く」
そして仲間達に、自分の選択の内容を告げた。
「……え?」
「見てろお前ら! イサマル先生直伝の、オレさまの棒術を!」
「ちょ、ジャイアン!?」
「うおおおおおおっ!」
メテオストームシャフトは、インパクトの瞬間にコズミックエナジーを放出し、敵を粉砕する嵐を纏った棒術武器である。
流星がメテオストームスイッチをセットしたままであったことで、それはジャイアンが使った場合でも微弱な効果を発揮するだろう。
だがそれは、ダスタードに対して「絶対に勝てない」という前提を「勝てるかもしれない」へと変える程度の効果しかなく、勝てるかどうかは全てジャイアンの技量次第だ。
(振り下ろし、初撃は、体重を乗せることを意識する……!)
シャフトが届くその距離で、ジャイアンはダスタードを間合いに捉え、武器を振り上げる。
ジャイアンは太陽王伝説が生まれたかの冒険で、恩師イサマルに習った棒術の基礎を思い出し、その思い出を意図してなぞる。
魔女レディナの部下であり、一流の戦士であった"ヤリつかい"相手にも食い下がってみせたこともあるのが、ジャイアンという少年だ。
技量は十分。
ならば勝利に必要なのは、彼が振り絞る勇気のみ。
「おりゃあ!」
ジャイアンが振り下ろした一撃は油断していたダスタードの脳天に命中し、シャフトが噴き出したコズミックエナジーの爆発により、その頭部は粉砕される。
ダスタードの肉体は霧散し、その場にメテオスイッチの残骸が残る。
残ったダスタード達はジャイアンという脅威に気付き、全員揃って一斉にジャイアンに向かって飛びかかり始める。数は三。
(イサマル先生が教えてくれた。敵が多い時は、二つ以上の方向から攻めさせちゃいけない!)
ジャイアンは横に後ろにと立ち位置を変え、ダスタード達を極力一直線に置くようにする。
彼には流星のような、三方向から同時に攻められても逆に圧倒できるような技量はない。
ゆえに選んだ、立ち回りを考えて横も後ろも取らせない、そういう動きだ。
かつそれと同時に攻撃もして、シャフトでアッパー気味にダスタードの顎をかち上げて、その頭部を打ち砕く。
それと同時に、そのダスタードが抱えていたメテオストームスイッチの残骸も地に落ちた。
「今だ! ドラえもん! 流星さん!」
流星、ジャイアン、ドラえもんの視線が交錯する。
三人はほぼ同時に、息を合わせて行動した。
「頭を下げろ武!」
「ジャイアンって呼んでくれよ!」
流星が土星を飛ばし、ジャイアンの前に居た二体のダスタードを切り裂き仕留める。
それと同時にジャイアンはシャフトをメテオに向けて投げ、メテオはシャフトでなんとかレオ・ノヴァの一撃を受け流した。
「取り寄せバッグ~!」
ドラえもんはポケットから三つの道具を取り出し、その内二つをのび太とスネ夫へと投げる。
取り寄せバッグを手にしたドラえもんは、遠く離れたものを掴めるその道具で、スイッチの残骸を片っ端から拾い、自分の足元に放っていく。
「タイムふろしき!」
のび太はドラえもんから受け取ったタイムふろしきでスイッチを修復。
時間を巻き戻す風呂敷により、二つのスイッチは新品同然の輝きを取り戻していた。
「いっ」
「せーのっ」
「せーでっ!」
スネ夫は何かを思い出してすごく嫌な顔をしつつ、受け取ったナゲーなげなわの端を静香、リルルと一緒に持ち、レオとメテオの戦いに近付きすぎたジャイアンを回収。
どこまでも伸びる投げ縄は、三人分の力で引っ張られたことにより、ジャイアンをあっという間に安全圏まで引き戻すのだった。
「ただいま!」
「おかえり!」
流星、ジャイアン、ドラえもんの視線が交錯してから、ジャイアンとスネ夫が半ギレ気味のただいまおかえりを交わすまでにかかった時間はものの数秒。
たった数秒でめまぐるしく状況は移り変わり、そして今また、のび太から二つのスイッチを受け取ったバギーカーが出陣する。
「信じて、任せるから……だから、頼んだからね!」
『マカセテクダサイ。イキマス!』
バギーを信じていなかったのび太も、今はバギーを信じている。
それを理解し、託されたものの重みを感じ取りながら、バギーはメテオとレオの戦いの余波の中に飛び込んだ。
戦闘領域に踏み込んだわけでもないのに、恐ろしい数の流れ弾が飛んで来て、そこかしこで爆発し爆炎を発生させている。
そんな流れ弾の中を縫うようにバギーは走り、メテオとの距離を詰めてスイッチを慣性で放り投げる。スイッチは放物線を描き、振り返りもせずキャッチしたメテオの両手に収まった。
『リュウセイサン!』
「礼を言う!」
ここで決める、と流星は勝負に出る決意を固めた。
戦いは常に劣勢。戦闘能力にも圧倒的な差が存在する。
なればこそ、どこかで"弱い方が強い方に勝つ"ための賭けに出なければならない。
そして負けられない理由があるのなら、その賭けがどんなに不利であろうとも、勝つしかない。
流星はまずメテオドライバーにメテオスイッチをセット。
続いて右手のガントレット・メテオギャラクシーにメテオスイッチをセット。
持っていたメテオストームシャフトに、メテオストームスイッチをセット。
三つの武器に装填した三つのスイッチを同時起動し、三つの
《 Meteor Limit Break! 》
《 Limit Break! OK! 》
《 Limit Break! OK! 》
「神様気取りもここまでだ! 種をまく者!」
ここに来て初めて、超然としていた種をまく者の声に感情の色が出る。
【……トリプルリミットブレイクだと!? バカな、その身にどれだけの負荷が……!】
初手はメテオストームパニッシャー。
メテオストームスイッチが全力で吐き出したエネルギーを纏い、独楽がメテオの前に浮かぶ。
次手はスターライトシャワー。
右手のガントレット・メテオギャラクシーがメテオスイッチの力を引き出し、青い光弾をエネルギーを吸収し威力を増す独楽へと叩き込んでいく。
スターライトシャワーは拳の軌道に沿って、青い光弾を放つ必殺技だ。
ゆえに流星は、目にも留まらぬ速度で右の拳を打ち出し続ける。
「ホゥワチャァッ!」
そして
「あれは……あの時と同じだよ! ジャイアン!」
「流星さんが、しずちゃんを助けた時と同じ!」
「流星お兄さんの……殴って飛ばす流れ星だ!」
リミットブレイク二つ分のエネルギーが込められた独楽を、レオ・ノヴァはその大きく鋭い牙で噛み止める。
独楽はレオ・ノヴァのエネルギーを吸い上げ更に威力・回転力・切断力を増していくが、それでもまだこの怪物を倒すには足りない。足りなすぎる。
現状、独楽は獅子の牙を傷付けることすらできていないのだ。
【この程度で】
「この程度で倒せるだなどとは、思っていないっ!」
ならばダメ押しをするのみだ。
流星はその場で跳躍し、最後のリミットブレイク・メテオストライクを発動。
二つ目のメテオスイッチのエネルギーを右足に纏い、仮面ライダーの代名詞・ライダーキックを撃ち放つ。
そしてそのライダーキックを、レオ・ノヴァが噛み止めている独楽に向かってぶち当てた。
「く……う……!!」
このまま押し切れれば、独楽が体内を切り裂いて流星の勝ち。
獅子が止めきれれば、流星が全ての力を使い果たして獅子の勝ち。
独楽はメテオのライダーキックに押し込まれて徐々に獅子の側へと食い込み、ライダーキックのエネルギーも巻き込んでその破壊力を増していく。
だが独楽という形状の性質上、メテオは足裏で独楽を押し込む度に、その足裏を独楽のエネルギーによって破壊されていく。
真っ向からの力勝負。
引いたら負けの、痛みに耐える我慢比べの対決だった。
「ぐ……ぐっ……!!」
だがそこで、ピシリ、ピタリと何かが壊れる音がする。
独楽だ。独楽にヒビが入り、壊れかけているのだ。
レオ・ノヴァの強力な牙に噛まれ、その上ライダーキックの圧力までかけられてしまった独楽は限界を超え、崩壊しかかっている。
ヒビは徐々に、徐々に広がり、そして。
【一手足りなかったな】
独楽は砕け散る。
「……っ!」
"朔田流星の計算通りに"。
「このタイミングを待っていた。もういっぱぁっつ!」
《 Meteor Limit Break! 》
流星は再度メテオスイッチとメテオドライバーで
その右足に青と金の煌めきが纏われ、ライダーキックが空中より放たれる。
自分の身体への反動を一切考えない、捨て身の追撃。
【! トリプルリミットブレイクに二段リミットブレイク……死ぬ気か!?】
「俺に死ぬ気はない! 子供を死なせる気もない! ただそれだけの話だ!」
リミットブレイク三回分のエネルギー、独楽が吸収し自分の力に変えていたレオ・ノヴァのエネルギーが巻き込まれ、メテオの右足に収束される。
そのライダーキックは、炸裂すればいかなレオ・ノヴァとて一撃で葬られるであろう威力。
獅子はそれを受けられない。
それゆえに、全身のエネルギーを口内に一点集中し、即座に橙色の衝撃波を撃ち放った。
青と金のライダーキック、橙の衝撃波が真正面からぶつかり合う。
「行け、行け、メテオ行けーっ!」
「これで決まれー! 勝てー、流星さん!」
「頑張って……!」
子供達の声援を背に、メテオは少しづつ、少しづつライダーキックを押し込んでいく。
青と金の嵐を纏い、橙の衝撃波の中に青色の軌跡を残しながら。
「俺の
その瞬間のメテオの姿は、まさしく
「――嵐を呼ぶぜっ!」
衝撃波を突き抜け、ライダーキックが決まるか、と誰もが思ったその瞬間。
「ガァァァァァァッ!!」
獅子が、吠えた。
「!?」
忘れてはならない。
種をまく者が生み出した
それゆえに、このレオにも己の限界を超える意志の原石が備わっている。
メテオが限界を超えられるなら、レオに限界を超えられない道理はないのだ。
「ぐ、あ、あっ!?」
レオ・ノヴァはここに来て衝撃波の威力、密度を倍加させる。
先程まで押し込んでいたはずのライダーキックは、今度は逆に徐々に押し戻され、ついにはメテオともども吹き飛ばされてしまう。
トリプルリミットブレイクと二段リミットブレイクの合わせ技ですら、レオの超新星には届かないのだと、獅子の凄まじき強さを証明するかのような光景がそこにあった。
「そんな……!」
「流星さーん!」
「強すぎるだろぉ!?」
これでもダメなのか、と表情を曇らせるギャラリーの中。
「頑張れー! 流星お兄さーん!」
ただ一人だけ、この状況でも朔田流星を信じ続ける一人の
「……この瞬間を、待っていた」
流星はまだ折れない。まだ諦めない。
心が折れない限り、勝機はある。
流星はここまでメテオスイッチ二個、メテオストームスイッチ一個を使用済みだ。
つまり、あとひとつ。
未使用のメテオストームスイッチが彼の手元にはある。
メテオはリミットブレイクを発動済みのメテオストームスイッチを投げ捨て、シャフトに新たなメテオストームスイッチをセット。
それもリミットブレイクの動作を三連続で行う、マックスパワー状態での発動を為した。
《 Max Power! Limit Break! OK! 》
トリプルリミットブレイク、二段リミットブレイクに続く追撃、プラスワンリミットブレイク。
正真正銘最後の切り札。
これが流星の最後の一撃だ。
「メテオストーム……パニッシャァァァァッ!!」
トリプルリミットブレイクで放出されたエネルギー。
二段リミットブレイクで放出されたエネルギー。
メテオストームパニッシャーが吸い上げていたエネルギー。
レオ・ノヴァが最後にライダーキックを押し返すために放出した全エネルギー。
普段の横回転とは違い縦回転で放たれた黄金の独楽が、それら全てのエネルギーを吸い込んで、巨大な光の刃と化して飛んで行く。
【何故だ、何故そこまで、何故それほどまでに喰らいついて来られる……!?】
立ちはだかる壁がどれだけ強くとも、硬くとも、厚くとも。
後に続く者のために、壁に挑み続けることを、叩き続けることを止めない強き心の姿勢。
それこそが朔田流星の強さだ。
点滴、石を穿つ。
「どんなに敵が強くとも。
たとえ一度は負けたとしても。
どんな時も諦めず、立ち上がり、最後の最後には勝利する。それが『仮面ライダー』だ!」
最強の怪人、レオ・ゾディアーツ。
それが更に強化され、種をまく者の力をも加えられたレオ・ノヴァ。
ありとあらゆる攻撃を通さなかったその最硬の表皮が光の刃に切り裂かれ、正中線に沿って綺麗に左右に切り分けられていく。
真っ二つ。レオの末路に、それ以外の表現はありえない。
ゆったりと着地したメテオがレオに背を向ければ、二つに分かれた死体は爆発。
宇宙ステーションに被害を与えない程度の規模であったが、目も眩むような爆炎と共に、その死体は消え去っていった。
「仮面ライダーは必ず勝つ。それが道理だ、覚えておけ」
子供に応援される限り。子供を守ろうとする限り。
仮面ライダーが負けることはありえない。
それは自然の理でも宇宙の法則でもないが、絶対に揺らがない"世界のお約束"だった。
メテオストームパニッシャーには、敵のエネルギーを吸い上げることで、大量のエネルギーを内包した敵を倒した時の爆発の威力を抑えるという効果がある。
流星はきっと最初から、フィニッシュはメテオストームパニッシャーにすると決めていたのだろう。考えに考え、気力と根性で己が定めた詰みへと持っていったのだ。
彼は戦闘者としては、既に完成の域にある。
【最後に聞きたい。君の戦う理由は何なのか】
レオとダメージを共有していたのか、ボロボロになった姿で床に座り壁に背を預ける、種をまく者。メテオはその首筋にシャフトを突きつけていた。
「子供の
【父の決意か】
感慨深そうに、種をまく者は誰に向けたものでもない言葉を呟く。
種をまく者はプレゼンターを父と仰ぐ子のようなものであり、この宇宙に幾多の命を生み出してきた父のようなもの。だからこそ、流星の決意が何であるかを理解できる。
【……愚かなだけの命には、持ち得ないものだ……】
弱肉強食。
この宇宙に満ちる最もシンプルな原理の一つを、種をまく者は受け入れる。
流星にこのまま首を刎ねられたとしても、後悔はない。
種をまく者はのび太を見て、流星を見て、彼らの危機に駆けつけた友を見て。
地球人類に自分が敗北し、自分が消えてしまうのも悪くないと、そう思えるようになっていた。
「……お前を生かしておくわけにはいかない。お前は危険過ぎる」
メテオはシャフトを振り上げ、最後のトドメになる一撃を振り下ろし――
「ダメーーーー!!」
――はせず、メテオと種をまく者の間に割り込んで来たのび太によって、その一撃は振り下ろされずに止められていた。
「のび太!?」
「ダメだよ! もうこの人は戦えないんだから、それでいいでしょ!?」
「だが、回復すればどうなるかは分らない。
いつまた人類に敵意を持つかも分からない。
それに今回は運よく勝てたが、次も勝てるなんて保証は……」
「それでも、殺すなんて絶対ダメだよ!
死なせちゃったら仲直りもできないんだよ?
死んじゃうってきっとすごく痛いよ?
もしかしたら話せば友達になれるかもしれないのに、そんなことしちゃ、絶対……!」
野比のび太は優しい少年だ。
のび太は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる少年だ。
それはきっと、人間にとって一番大切なこと。
「それに、この人が怒ってたのは僕のせいなんだ!
僕のせいで色んな人に迷惑がかかって……僕が悪いんだ!
なのに、なのに、僕が悪いのにこの人が殺されちゃうなんて……絶対に間違ってるよ!」
「……のび太」
そして、彼は物の道理をわきまえている。
死なせるということ、殺すということがどういうことなのか、のび太はよく分かっている。
のび太はこの種をまく者を死なせたくないと思っている。
そしてそれ以上に、流星に殺させたくないと思っている。
だからメテオと種をまく者の間に、割って入ることができたのだ。
「止めるぜ、流星さん。悪いが今はのび太の味方だ。棒術勝負ならオレだって負けない」
「ジャイアン!?」
そして、そんなのび太が好きな奴らだって居る。
適当な金属の棒を拾ってきたジャイアンが、のび太の横に並び立つ。
「許すことも、大切なことじゃないかな」
ドラえもんが。
「流星さん。私ものび太さんに賛成。敵が味方になることだってあるって、私は信じてるの」
源静香が。
「えと、ほら、また来たら流星さんがまた追い返せばいいんじゃないかなって」
ややヘタれたスネ夫が。
『ワタシハシズカサンノミカタデス』
「わたしは……誰も死なずにこの戦いに決着が付くなら、それは素敵だなって思うわ」
バギーカーが、リルルが続く。
いつの間にか流星の後ろに味方は居なくて、皆が種をまく者を庇っている。
【君達、何故……】
「だって僕、あなたに謝って許してもらわないといけない、失敗したダメなやつだもの。
僕、種をまく者さんが悪い人だったなんて、どうしても思えないんだ」
【―――】
そして、困ったことに。
朔田流星その人も、こういう甘っちょろい選択が、こういう甘っちょろい選択をする者達が、嫌いではなかった。
「……好きにしろ」
そして、変身を解除する。
メテオから人間の姿へと戻った流星は、やれやれとでも言いたげな、そんな顔をしていた。
「やったー! ありがとう、流星お兄さん!」
「礼を言われるようなことはしていないさ」
流星は流石に疲れたのか、壁の方に歩いて行って、壁を背にして床に座り込む。
彼に礼を言ってから振り返ったのび太は、そこに佇む光――種をまく者――に話しかけられた。
【野比のび太】
「え、僕? なにかな」
【今より数えて100年の間。
君の子孫が窮地に陥った時、君の子孫を助けることを約束する。この命ある限り】
「え?」
【それと、君の過失はもう誰にも迷惑をかけてはいない。君はとうに許されている】
「え? それって……」
言うだけ言って、のび太の言葉や返答は何一つとして聞かないままに、種をまく者は流星が座り込んでいる方へと歩いて行く。
そして流星の横に立ち、彼に話しかけた。
【誰かが失敗しても、支え合い、助け合う銀河か。
心でも力でも完敗したよ、仮面ライダーメテオ……いや、朔田流星】
「もう来るなよ。次は、のび太に免じて見逃すなんてことはしない」
【もう来ないとも。この星は、我が思うほどに愚かな生命で満ちていたわけではなかった】
自分が至った結論の一端を、朔田流星へと伝えるために。
「のび太の優しさに、何かを感じたか?」
【……さあ、どうだろうかね】
そして、種をまく者は霧散するように消えていく。
一瞬で数光年の彼方、あるいはもっと遠くへと飛んで行ったのだろうか。
もしも種をまく者がレオに変化せず、そのままの姿でかかって来ていたら……そう考えると、流星はまるで勝てる気がしなかった。
(……ああ、疲れた……)
疲労からか、肉体への物理ダメージゆえか、それとも人体に過度の負荷をかけるリミットブレイクの乱発のせいか。
異常な眠気に飲み込まれ、重くなった瞼が降りてくる。
流星はそんな状態で、広場をぼーっと見回してみた。
外の敵は片付いたのか、外に居た援軍達が皆宇宙ステーションの中へと入って来ているようだ。
のび太がリアンと抱き合っているが、流星はあいにくリアンとの面識がない。
だから、のび太の顔が広いことにただ感心するだけだ。
友達が多いということは、その人が優しいということの証明でもある。
どんな力よりも強い、優しさという強さを備えているということの証明である。
どいつもこいつも、本当の友達が多い奴はどいつもこいつも凄いなと、流星はのび太と教師をやっている親友の姿を思い返しながら、肉体の要求通りに意識を手放していく。
そうして横に倒れた流星の身体が床にぶつかる前に、その体は抱きとめられる。
「おつかれ、流星」
「お疲れ様、流星さん」
まさに意識が、失われるその瞬間。
流星は一番大きな友情を向けている親友の声と、一番大きな愛情を向けている妻の声を、耳にした……そんな、気がした。
目が覚めれば、流星は友や愛する妻と勝利を喜び、平和を守れた喜びを分かち合い、子供達と笑顔で笑い合うのだろう。
流星は未来からの贈り物をドラえもんに返して、そうしてこの戦いは終わりを迎えるはずだ。
遠い遠い宇宙から来た、一人の怒れる来訪者との絆を残して。
戦いの果てに、子供達と一人の大人は、この世界の平和を勝ち取ったのだった。
かの戦いから、四年後のこと。
パパが大事にしているスイッチをパチ、パチといじって遊びながら、キャッキャキャッキャと声を上げている。
「ほら、州輝。スイッチで遊ぶんじゃない」
「パパー、じゃあかたぐるまして? おでかけしよ」
「……しょうがないな」
パパと呼ばれたその男は、州輝を肩車して外に出る。
既に日は暮れていて、空には満天の星空が広がっていた。
州輝は空を見上げて、ほぅと熱い息を吐く。
「コンビニでも行くか」
「おかしかってくれる?」
「ひとつだけだぞ、州輝」
嬉しくて、思わず州輝が手をグーにして振り上げる。
そこでふと、空を見上げた州輝の耳に、不思議な声が届いた。
【聞こえたならおいで。ここで待ってるから】
星の声が聞こえたんだと、州輝は直感的にそう思う。
前から星空は好きだったのに、前よりももっと好きになってしまって困っちゃうと、州輝はその身をよじりながら、言葉を返す。
「わかった、やくそくだ、きっといくよ!」
「……? どうした? 州輝」
「おとこどーしのやくそく!」
いつか星の海を行くという夢を、その胸の奥に抱いて。
おしまい。いつか我望光明の夢を、江本州輝の名を受け継いだ少年が、歌星緑郎のフォーゼドライバーを片手に叶えてくれることでしょう
ドラえもん大長編では鉄人兵団が一番好きでした