美少女超人キン肉マンルージュ   作:マッフル

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【第2試合】 VSノワールプペ(6)

「使命……正義超人の……使命……しめい……そ、そんなの………………そんなの決まってるよ!」

 

 突然、キン肉マンルージュから放出されているマッスルアフェクションの火柱が、ごおおおおおッ! と勢いを増した。火柱は轟炎と化し、空をも焼きそうな勢いである。

 

「正義超人の使命! そんなのわたしが幼児の頃から知ってるよ! わたしが乳児だった頃から知ってたよ! それは」

 

 キン肉マンルージュが言いかけると、轟炎は小さくなり、縮みだした。しかし勢いが弱まったのではない。炎は密度が高まり、濃密、濃縮されたような、ひと際に輝く光炎へと変化していく。

 異常な濃度のマッスルアフェクションが、キン肉マンルージュの全身を包み込む。ごうごうと放出されどおしであったマッスルアフェクションは、キン肉マンルージュの表面上を滑らかに流れ、表面上にとどまっている。

 

「わ、わ、わあ、な、なにこれぇ」

 

 キン肉マンルージュは不思議そうに身体を見つめている。

 

『少女よ、よくぞマッスルアフェクションをとどめた。これでそなたの器が完成した。今後はその器を拡げられるように、切磋琢磨するのだ』

 

 キン肉マンルージュは周囲を見渡しながら、謎の声に向かって言葉を返す。

 

「器? 完成した? 何? どういうことなの? 教えて! 何がどうなっているの?! わたし、どうなっちゃったの!?」

 

『少女よ、今こそ目覚めよ! 完全なる火事場のクソ力、火事場のクソ力パーフェクションを発動するのだ!』

 

“どおおぉぉおおおぉぉぉんッ!”

 

 キン肉マンルージュの中で何かが弾けた。何かが爆発したような、とてつもない衝撃が、キン肉マンルージュの全身を襲った。

 

「あ、熱い! またさっきみたいに、身体が燃えてるみたい! ……ううん、さっきよりも熱い! 熱いよ! すっごく熱い! ……でも、違う……さっきよりも熱いけど、今度のは我慢できるよ……それどころか、なんだか……心地いいよ! なんだか気持ちいい! とっても気持ちがいいよおッ!」

 

 キン肉マンルージュの全身を包んでいるマッスルアフェクションが、カァッと眩しいくらいに光り輝いた。光の塊と化したキン肉マンルージュは、シルエットが変化していく。

 

「なんだろう、この感覚……涼やかだけど、熱々しくて……癒されるほどに落ちついているのけど、でも猛々しくて……優しいけど、ひどく厳しくて……極端だけど、フラットな感じ……矛盾してるけど、合理的で……いっぱいなようで、ひとつしかない……」

 

 マッスルアフェクションの輝きは、少しづつ落ちついていく。そしてキン肉マンルージュの姿があらわとなる。

 

「わ、わあ!」

 

 キン肉マンルージュは驚いた。

 元々ツインテールであった髪は、更にツインテールが追加されてクアッドテールになっている。

 コスチュームの端々にはリボンが飾られている。そしてリボンの余った紐部分は、くるりと身体に巻きついている。

 とても薄いがとても濃密なマッスルアフェクションに、全身が包まれている。

 

「これって……レベルアップだよね! パワーアップだよね! 第2形態だよね! 進化だよね! そうだよね! じゃあ決め台詞もポーズも変えないとね!」

 

 キン肉マンルージュはその場でくるりと身体を一回転させ、4本の髪の束をなびかせる。きらきらとマッスルアフェクションが揺らめき、ぽわぁと全身が緩く光り輝いた。

 

「正義は、みんなの中にある! みんなの正義を守りし、守護天使!」

 

 キン肉マンルージュは胸に何かを抱きかかえるように、両腕を胸の前に出して抱え込む格好をする。そして、ぱぁっと、胸に抱いていたマッスルアフェクションを周囲に撒いた。周囲にはきらきらと光り輝く花びらのように、マッスルアフェクションが舞い散る。

 

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル! マッスル守護天使、キン肉マンルージュ!」

 

 力強いキン肉マンルージュの声に呼応するように、キン肉マンルージュの背中にはマッスルアフェクションでできた、光り輝く2枚の翼が広がる。

 そして額がマッスルアフェクションによって、ピンク色に光り輝く。輝く額には、丸文字で“肉”の文字が刻まれる。

 

「パ~~~フェーック、ショ~~ーーーンッ!!」

 

 キン肉マンルージュは小さく投げキッスをしながら、お尻を突き出す。そしてお尻で“P”という文字を宙に描く。

 

“ずびゅばちゅごーん”

 

 キン肉マンルージュの背後で、ピンク色のファンシーすぎる爆発が起こる。そして周囲にはピンク色に輝くハートが舞い散る。

 中心に“R”と刻まれているハートは、地面に落ちると、まるで降り落ちた雪のようにはかなく消えた。

 

『……………………少女よ』

 

 ウィンクしながらお尻を突き出し、投げキッス後のとがった口を見せているキン肉マンルージュ。そんな彼女に、謎の声の主は勇気を振り絞って話しかけた。

 

『……少女よ……いや、何も言うまい……』

 

 そしてしばしの沈黙が周囲を包み込む。

 言葉を失った謎の声の主は、笑顔のままお尻を突き出して静止しているキン肉マンルージュを、生暖く見つめている。

 

『……弟よ……これでよかったのだろうか……私には何が何やら、わからなくなってきたぞ……』

 

『兄さん、時代だよ。時代がそうさせているんだよ』

 

 キン肉マンルージュはふと、謎の声が真上から聞こえてくることに気がつく。そしてキン肉マンルージュはふいに、顔を真上に向けた。

 

「あ」

 

 キン肉マンルージュは間の抜けた、驚きの声を上げる。そこには金と銀が織り混ざった光を放つ、完全のマスクがいた。

 かつてキン肉マンが銀のマスクと共に、黄金のマスクをめぐって悪魔将軍率いる悪魔六騎士と戦った。そして激闘の果てに、兄である黄金のマスクと、弟である銀のマスクはひとつとなり、完全のマスクとなった。

 キン肉神殿にあるはずの完全のマスクが、なぜだか今はキン肉マンルージュの前に現れている。

 

『弟よ、なぜだろうか……あの少女と接しておると、口の裏がむずむずする……顔中に鳥肌がたつような……冷ややかなようで、妙にほっこりしたような……くすぐったくもあり、たまらなく切ない気持ちにさせられる……ううむ、わたしには理解できぬ、あの少女は……』

 

『そうかな、僕は純粋に可愛いと思うけどな。この子は現代という時代を象徴する、究極の存在な気がするけど』

 

『感じ方は人それぞれということか……ううむ、なんとも釈然とせぬ……』

 

『あ、ルージュちゃん、こっちを見てるよ。兄さん』

 

『ぬあにぃッ!?』

 

 完全のマスクとキン肉マンルージュの目が合う。ふたりは見つめあったまま、微動だにしない。そしてしばしの沈黙が流れる。

 

“カァッ!”

 

 突然、何の前ぶれもなく、完全のマスクは強く光りだした。

 

「きゃぁうッ!」

 

 キン肉マンルージュはまぶしさに耐え兼ね、手の平で目を隠す。

 やがて光は弱まり、キン肉マンルージュは目を細めて辺りを見渡す。

 

『少女よ』

 

 声を掛けられたキン肉マンルージュは顔を上げて、完全のマスクに目を移す。

 そこにはキリッとした完全のマスクがいた。威厳と気品溢れる雰囲気を漂わせながら、完全のマスクは落ち着き払った声で話しだす。

 

『少女よ。ここは超人墓場の入り口。そしてこれは、死者の大扉。この大扉を通ったが最期、生命の玉を4つ揃えるまで出ることはかなわぬ』

 

 キン肉マンルージュは、ひゃあッ! と声を上げて大扉から離れた。

 

「……ええと……超人墓場? ……ってことは……」

 

 ぶつぶつと独り言を呟くキン肉マンルージュは、何かに気がついたように顔を上げる。

 そしてうるうると目を涙でいっぱいにして、完全のマスクに言葉をこぼす。

 

「……わたし、死んじゃったの?」

 

『そなたはまだ死してはいない。超人の死とは、魂が超人墓場に入った時点で成立する。今のそなたは仮の死、文字通り仮死状態にいる』

 

「……本当に?」

 

『本当だ』

 

「ホントにほんとッスル?」

 

『……? ……ホントにほんとッスルだ』

 

「ファイナルマッスル?」

 

『……?? ……ファイナルマッスルだ』

 

 キン肉マンルージュは、ぱあッと輝かんばかりの笑みを見せ、ぴょこんと飛び跳ねた。

 

「よかったッスル!」

 

 キン肉マンルージュは手でハートを作り、完全のマスクに向けて突き出した。

 そしてウィンクをしながら小首を傾げる。

 

『……弟よ……顔の表面と口の中が、どうにもこうにもムズ痒いぞ……』

 

『可愛いなあ、ルージュちゃん』

 

 兄と弟の気持ちが複雑に織り混ざっている完全のマスクに見つめられながら、キン肉マンルージュは何かに気がついたように顔を上げる。

 そしてうるうると目を涙でいっぱいにして、完全のマスクに言葉をこぼす。

 

「……わたし、どうやって帰ればいいの?」

 

『元の場所へは、私が戻してやろう』

 

「……戻してくれるの?」

 

『戻してやろう』

 

「……本当に?」

 

『本当だ』

 

「ホントにほんとッスル?」

 

『……? ……ホントにほんとッスルだ』

 

「ファイナルマッスル?」

 

『……?? ……ファイナルマッスルだ』

 

 キン肉マンルージュは、ぱあッと輝かんばかりの笑みを見せ、ぴょこりんと飛び跳ねた。

 

「よかったッスル!」

 

 キン肉マンルージュは手でハートを作り、完全のマスクに向けて突き出した。

 そしてウィンクをしながら小首を傾げる。

 

『……弟よ……この甘ったるい、濃密な小娘臭のする雰囲気……私は耐えかねるぞ……』

 

『んふーッ! 可愛いなあ、ルージュちゃんわあ!』

 

 しばしの沈黙が流れる。

 

『……どいつもこいつも……ぬええい! いい加減にせんか! さっさと元の世界へと戻れい!』

 

『どうしたの兄さん!? なんでキレちゃったの?!』

 

 困惑する弟を尻目に、兄は逆ギレ気味に声を荒げ、カァッ! と強く光り出した。

 するとキン肉マンルージュの足元に大穴が開き、キン肉マンルージュはその穴へと落ちてしまう。

 

「きゃわわわわわあああああぁぁぁぁぁ………………」

 

 キン肉マンルージュの声がフェードアウトしていき、やがて聞こえなくなった。

 

『弟よ! さっさとキン肉神殿に戻るぞ! 今ごろ神殿では我らが忽然と消えてしまって、大騒ぎになっているに違いないぞ!』

 

『そうだね、兄さん』

 

 ――。

 ――。

 ――。

 ――光。

 

「………………ぁぁぁぁぁあああああッ!!!」

 

“カアアアッ!!”

 

 突然リング上から、フェードイン気味の悲鳴が上がった。そして悲鳴と同時に、強烈な光が溢れ出した。

 

「きゃうッ! ま、まぶし……こ、これは一体?! ですぅ」

 

「プペッ! ま、まぶし……ど、どうしたことだ、これは!?」

 

 あまりの強烈な光に、誰もが目をくらませてしまう。

 

「プペェ……この忌々しい気分が悪くなる光……まさか……」

 

「このピンク色の光は……マッスルアフェクションなのですぅ!」

 

 人々の目をくらませていた光は、少しづつ弱くなっていく。そしてリング上に降り立った、雄々しくも可憐な天使の姿があらわとなった。

 

「そ、そのお姿は!? ですぅ」

 

「プペェ! まさか、こやつ……目覚めたというのか?!」

 

 先程まで全身がどす黒く変色していたキン肉マンルージュ。誰もが絶命したと思っていたキン肉マンルージュが、まるでイリュージョンのように、一瞬で全く別の姿になって登場した。

 

「ここは……ッ! わたし、戻ってこれたんだあ!」

 

 キン肉マンルージュはきょろきょろと周囲を見渡しながら、安堵と歓喜の声を上げる。

 

「おかえりなさいですぅ! ルージュ様ぁ!」

 

 ミーノは涙でぐしゃぐしゃになった顔を腕で拭い、こぼれんばかりの笑顔をキン肉マンルージュに向けた。

 

「ただいまだよ! ミーノちゃんッ! 心配かけて、ごめんねッ!」

 

 ミーノに負けないくらいに輝かんばかりの笑顔を、キン肉マンルージュはミーノに向けた。

 

「……って、あれ? みんなが私を見てる? なんだか注目されちゃってる?」

 

 会場中の視線が自分に向けられていることに、キン肉マンルージュは気がついた。

 

「皆様、不思議に思っているのですぅ。かくいう私も、とっても不思議なのですぅ。先程まで全身が真っ黒に変色していて、更に致命傷ともいえる負傷を身体中に負っていて……どう見ても絶命している……と思っていたら、いきなりビカビカッと輝きだして、姿かたちが変わった、いかにもパワーアップしたと言わんばかりのキン肉マンルージュ様が、目の前に現れて……まるで凄腕マジシャンのスーパーイリュージョンを見せられた気分なのですぅ」

 

「……そっか、いきなりこんな格好で戻ってきたんだもんね……みんな困惑してるよね……じゃあ! わたし、またやっちゃよッ!」

 

 キン肉マンルージュはその場でくるりと身体を一回転させ、4本の髪の束をなびかせる。きらきらとマッスルアフェクションが揺らめき、ぽわぁと全身が緩く光り輝いた。

 

「正義は、みんなの中にある! みんなの正義を守りし、守護天使!」

 

 キン肉マンルージュは胸に何かを抱きかかえるように、両腕を胸の前に出して、抱え込む格好をする。そして、ぱぁっと、胸に抱いていたマッスルアフェクションを周囲に撒いた。周囲にはきらきらと、光り輝く花びらのように、マッスルアフェクションが舞い散る。

 

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル! マッスル守護天使、キン肉マンルージュ! パ~~~フェーック、ショ~~ーーーンッ!!」

 

 キン肉マンルージュは小さく投げキッスをしながら、お尻を突き出す。そしてお尻で“P”という文字を宙に描く。

 

“ずびゅばちゅごーん”

 

 キン肉マンルージュの背後で、ピンク色のファンシーすぎる爆発が起こる。そして周囲にはピンク色に輝くハートが舞い散る。

 中心に“R”と刻まれているハートは、地面に落ちると、まるで降り落ちた雪のようにはかなく消えた。

 

「……? ……?? ……??? ……???? ……?????」

 

 静まりかえる会場。そんな中、キン肉マンルージュはお尻を突き出し、ウィンクしながら投げキッス後のとがった口を見せている。

 そんな彼女を誰もが頭の中を疑問符でいっぱいにして、呆然と見つめる。そしてしばしの沈黙が、周囲を包み込む。

 

「パーフェクション? もしかして完全なる火事場のクソ力、火事場のクソ力パーフェクションが使えるようになったのですぅ?!」

 

 静寂を破るように、ミーノは口を開いた。

 

「うん、話せば長くなるから、手短に説明するけど……わたしね、超人墓場の入り口、死者の大扉の目の前にいたの」

 

「死者の大扉?! くぐったが最期、二度と現世には戻れないとされている、あの超人墓場の入り口にですぅ?!」

 

「その大扉の前でね、完全のマスクに会ったの」

 

「か、完全のマスク?! ですぅ!? 確かキン肉神殿で、厳重に守られているはずなのですぅ……」

 

 真・悪魔将軍プペは苦々しい顔をして、舌打ちをした。

 

「プペェ……ゴールドマンとシルバーマン兄弟の仕業か……チィッ、余計な真似をしくさりおって……」

 

 ぶつぶつと文句を口走る真・悪魔将軍プペを尻目に、キン肉マンルージュは説明を続ける。

 

「完全のマスクは、わたしの中で眠っていた火事場のクソ力を、すべて外へと引っ張り出したの。それでね、その火事場のクソ力をコントロールしろって……それがすっごく難しくて、すっごく苦しかったよ……どんなに頑張ってもね、どんどん勝手にでちゃうの……でちゃって、でちゃって、とめどもなくでちゃうの……いま思い出しただけでも、わたし……ちびっちゃいそう……」

 

 キン肉マンルージュは頬を赤らめながら、内股になってもじもじしている。

 

「火事場のクソ力は扱いがとても難しく、超大パワーを得られるかわりに、生命エネルギーの消費が凄まじいのですぅ。自らの命を落としかねない、諸刃の剣なのですぅ。現キン肉族の王子である万太郎様は、火事場のクソ力チャレンジでようやく完全な火事場のクソ力を扱えるようになったのですぅ……そうですかぁ、完全のマスクはかなり荒っぽい方法で、キン肉マンルージュ様に火事場のクソ力のコントロールを身につけさせたのですね」

 

 キン肉マンルージュとミーノが話し込んでいる横で、突然、巨大な黒い火柱が上がった。

 

“ぐごおおおぉぉぉごごごごごおおおッ”

 

「プペプペプペプペプペッ! 火事場のクソ力がようやく解放され、覚醒したというわけか! 面白い! まったくもって面白い! ならば余の魔界のクソ力と、貴様の火事場のクソ力、どちらがより優れたクソ力なのか、はっきりさせようではないか!」

 

 真・悪魔将軍プペはごうごうとデヴィルディスペアを燃やしながら、キン肉マンルージュに迫った。

 対するキン肉マンルージュは、全身の表面にマッスルアフェクションを薄くまとわせながら、静かに、優しく、きらめている。

 

「そんなにメラメラ、ゴウゴウ出しちゃって、もったいないよ。力の無駄遣いだね」

 

「プペプペプペプペプペッ! ほざけ、小娘! 貴様のその薄っぺらいマッスルアフェクションを剥ぎ取って、素っ裸にしてくれるわ!」

 

「うわー! 変態だー! 真・変態将軍プペだー!」

 

「言うに事欠いて、変態将軍だと! こんのションベンガキ超人めが!」

 

 口喧嘩をしながら、ふたりは間合いを詰めていく。お互いの距離が少しづつ縮まっていく。そしてふたりは、互いに射程範囲内に入った。

 

“ずがづぅづうううんッ!”

 

 一瞬のうちに、ふたりの距離はゼロとなり、激突した。

 互いの右拳が激しくぶつかり合う。ふたりはリング中央で、渾身の右ストレートを放った。

 

“じゅごばばばッ”

 

 ふたりがまとっているマッスルアフェクションとデヴィルディスペアが干渉し合い、音をたてながら相殺されていく。

 ふたりは右腕を引き戻し、今度は渾身のハイキックを放つ。

 

“がっつぅッ! じゅばごごぉッ”

 

 リング中央でぶつかり合ったふたりのスネから、マッスルアフェクションとデヴィルディスペアが相殺される音が鳴り響く。

 

「こんのおおおぉぉぉおおおッ!」

 

「プペプペエエエェェェエエエッ!」

 

 ふたりは右脚を引き戻すと、身体を後ろに思いきりのけ反らせる。そして、ぶぉん! と音がするほどに、上体を前方に振り曲げる。

 

“ずがごぉぉんッ!”

 

 リング中央でふたりの額が激突し合った。

 

“じゅばしゅごおおぉぉぉッ”

 

 激突の衝撃によって、周囲に衝撃波が飛び伝う。

 

“じゅばちぃぃッん”

 

 ふたりは反発し合うように、後方に向かって弾け飛んだ。そして、そのまま互いのコーナーポストにまで飛び退いた。

 

“うおおおッ! すんげぇ! バッチバチいってるけど、ちゃんと触れてるよ! ルージュちゃん、まともに触れてるよ!”

 

“戦えてる! ルージュちゃん、戦えてるぜ! さすがは火事場のクソ力、パーフェクション!”

 

 観客達は対等に渡り合っているキン肉マンルージュを見て、沸きに沸いた。

 

「プペプペプペプペプペッ! ゴミ共が騒ぎおって。やっとまともに戦えるようになった、ただそれだけではないか」

 

 くだらんとばかりに言葉を吐き捨てる真・悪魔将軍プペに、ミーノは言葉を返す。

 

「皆様が声を上げて応援してくれるのは、キン肉マンルージュという超人が好きだからなのですぅ。キン肉マンルージュ様のことが好きで、心配で、夢中で、そして、愛しているのですぅ」

 

「プペプペプペプペプペッ! 愛?! 愛しているだと!? プペェツ! 気色悪いわ! 愛だの、好きだの、心配だのと、こんなションベンガキ超人なんぞに、無駄に感情移入しおって!」

 

 真・悪魔将軍プペはいまいましいと言わんばかりに、ぎりぎりと歯を鳴らす。

 

「いつの時代も貴様ら正義超人と人間どもは、べたべたと馴れ合いおって! むしずが走るわ!」

 

「真・悪魔将軍プペ……あなたは、わかろうとしていないだけなのですぅ。わかろうとすれば、気がつきさえすれば、たとえ悪魔であるあなたにでも、正義、そして愛の偉大さが、絶対にわかるのですぅ」

 

 真・悪魔将軍プペは苦々しい顔をしながら、ダイヤモンドの唾を吐き捨てる。ダイヤモンドの唾は猛烈な速さで、ミーノに襲いかかる。

 

“ばちゅうんッ”

 

 キン肉マンルージュは素早く反応し、ミーノの前に立ちはだかった。そして宙を握り締める。

 キン肉マンルージュの手にはダイヤモンドの唾が握られている。

 

「仮にも悪魔将軍の名を授かっているんでしょう? だったら相手を間違えるような恥ずかしい真似、しちゃダメだよ」

 

 キン肉マンルージュは握っているダイヤモンドの唾に力を込め、マッスルアフェクションをまとわせる。そして真・悪魔将軍プペに投げ返す。

 

「ふん、こざかしい」

 

 ピンク色に輝くダイヤモンドの唾は真・悪魔将軍プペのデヴィルディスペアに触れ、一瞬にして蒸発してしまった。

 

「ションベンガキ超人よ、貴様がそうまで言うのなら、悪魔将軍の名に恥じぬよう、真の九所封じである破滅の九所封じで、貴様を滅ぼしてやろうぞ」

 

「わたしは滅びないよ。だって正義は、絶対に滅びないんだから」

 

 キン肉マンルージュは先程ダイヤモンドの唾を握った手を、ゆっくりと開いた。ダイヤモンドを受け止めた衝撃のせいで、手の平には線状の傷が数本ついている。そして傷からは、じわりと血がにじみ出ている。

 キン肉マンルージュは小指の先で、血のついた手の平に触れた。指先が赤く染まる。そして小指でそっと、唇をなぞった。

 キン肉マンルージュは傷のついていない方の手の平にキスをし、その手の平を真・悪魔将軍プペの頬に押し当てる。

 

「マッスルオウスキッスは堅い誓い。血の誓約。マッスルオウスキッスを与えた者は、必ず打ち倒す。マッスルオウスキッスは聖なる血の刻印」

 

 キン肉マンルージュはそっと手を離した。

 

「48の殺人技のひとつ、マッスルオウスキッス」

 

 真・悪魔将軍プペの頬には鮮血のキスマークがついている。

 

「先の戦いでも、そうやってグレート・ザ・屍豪鬼につけていたな……そうか、これは貴様なりの覚悟というわけか」

 

 真・悪魔将軍プペは右手を鏡の形に変化させ、ダイヤモンドに物質変換させた。そして真・悪魔将軍プペはギラギラと派手な輝き方をする鏡に、自らの頬を写した。

 

「プペェ! くだらん! なにが覚悟か? なにが血の誓約か? こんな無意味なもの、消してしまえばそれでしまいよ!」

 

 真・悪魔将軍プペはフンと鼻を鳴らしながら、マッスルオウスキッスを拭い取った。そしてダイヤモンドの鏡に、真・悪魔将軍プペは頬を写す。

 

「プペプペプペプペプペッ! なにが48の殺人技のひとつか! このとおりきれいさっぱりと消えて……んん? これはどうしたことか?」

 

 ダイヤモンドの鏡にはマッスルオウスキッスがくっきりと写っている。真・悪魔将軍プペは再度、ごしごしと頬を拭う。

 

「……な、なんだこれは」

 

 しかしマッスルオウスキッスは消えていない。ダイヤモンドの鏡にしっかりと写り込んでいる。

 

「プペェ! こ、このぉ! ふざけおってぇ!」

 

 真・悪魔将軍プペは、がしがしと頬を擦り上げる。表面が削れてしまうほどに、真・悪魔将軍プペはむきになって激しく擦る。しかしそれでもマッスルオウスキッスは消えない。

 

「プペェ! なんだというのだ! 腹が立つほどにしつこい! 気味が悪いわ!」

 

 懸命にマッスルオウスキッスを消そうとする真・悪魔将軍プペを見て、ミーノは口を開く。

 

「どんなに消そうとしても、マッスルオウスキッスは消えないのですぅ。マッスルオウスキッスは正義超人であるキン肉マンルージュ様の血に、マッスルアフェクションが混ざり込んでいるのですぅ。悪魔であるあなたには聖なる血の刻印は絶対に消せないのですぅ。試合終了まで、マッスルオウスキッスは絶対に消えないのですぅ」

 

 真・悪魔将軍プペはミーノに向かって嘲笑する。

 

「プペプペプペプペプペッ! そうか、消せぬのか! ならば、取り去ってしまえばよい!」

 

 真・悪魔将軍プペはマッスルオウスキッスがある頬に、人差し指と中指を突き刺した。

 

“バキャッ! べりばりごりぃ! バギャガッ!”

 

 真・悪魔将軍プペは強引に、マッスルオウスキッスがある頬の部分を引き剥がす。そして剥がし取った頬を、真・悪魔将軍プペはミーノの足元に投げつけた。

 

「プペプペプペプペプペッ! これで気色の悪いションベンガキ超人のキスマークは、完全に消えたわ!」

 

 真・悪魔将軍プペは笑い上げながら、失った頬を再生する。

 

「果たしてそうでしょうか? ですぅ」

 

 ミーノの言葉を聞いて真・悪魔将軍プペは、自らの頬を鏡に写す。ギラギラと下品に光り輝く鏡には、くっきりと、はっきりと、しっかりと、マッスルオウスキッスが写っている。

 

「……ププペペペェ……プペプペプペプペプペッ! そうか! 確かに消えぬ! 全く消えん! ならば! そこのションベンガキ超人を消し滅ぼして、見事マッスルオウスキッスを消してくれるわ!」

 

 真・悪魔将軍プペは叫び上げるように、声を荒げる。そして真・悪魔将軍プペがまとっているデヴィルディスペアが、ぐごおッと強まり、吹き溢れた。

 真・悪魔将軍プペのあまりの迫力に、キン肉マンルージュはびくんと身体を揺らす。

 その刹那、真・悪魔将軍プペがぎらりと光り、キン肉マンルージュの視界から姿を消した。

 

「ッ! ど、どこに?!」

 

「どこを見ている。余はここにおる」

 

 足元から声が聞こえる。キン肉マンルージュはハッとして、顔を下に向けた。しかしそれよりも速く、真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの股に右腕を突っ込み、片腕でキン肉マンルージュを真上に放り投げる。

 

「きゃあああああッ」

 

 悲鳴を上げながらキン肉マンルージュは上へと飛ばされてしまう。そしてキン肉マンルージュは空中で仰向けになり、そのまま落下を始める。

 

「プペッ!」

 

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを追うように飛び上がる。そしてキン肉マンルージュの上に乗り、首と左足を掴み上げる。

 

「はわわわあッ! こ、この技は! ですぅ!」

 

 真・悪魔将軍プペが放とうとしている技の正体に気がついたミーノは、声を荒げた。

 キン肉マンルージュを心配そうに見つめるミーノを尻目に、真・悪魔将軍プペは声を上げる。

 

「破滅の九所封じ、一の封じ、大雪山おとし!」

 

“ずぐおごどぉぉぉん!”

 

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを背中から落とし、キャンバスに激突させた。

 

「きゃわわわあああああッ!」

 

 キン肉マンルージュの身体は技の衝撃でバウンドし、宙に放り出されてしまう。そしてキン肉マンルージュの背中は、真っ黒に変色していた。

 真・悪魔将軍プペは宙にいるキン肉マンルージュを、素早く抱きかかえた。そのまま真・悪魔将軍プペは身体を回転させ、ダブルアームスープレックスを放った。

 

“ずごおぐどぉぉぉん!”

 

「破滅の九所封じ、二と三の封じ、スピンダブルアームソルト!」

 

「きゃひゃわわわあああああッ!」

 

 真・悪魔将軍プペの声とキン肉マンルージュの悲鳴が重なる。そしてキン肉マンルージュの両腕は背中と同じように、真っ黒に変色している。

 真・悪魔将軍プペは間髪入れずに、キン肉マンルージュを持ち上げる。そしてキン肉マンルージュの両膝を、自らの両膝に叩きつけた。

 

“ずどおぐごぉぉぉん!”

 

「破滅の九所封じ、四と五の封じ、ダブルニークラッシャー!」

 

「きゃひゃにゅわわわあああああッ!」

 

 キン肉マンルージュの両脚が、真っ黒に変色してしまう。

 真・悪魔将軍プペのあまりの速さに、そして流れるような無駄の無い動きに、キン肉マンルージュは翻弄されてしまい、反撃どころか微動だに出来ないでいた。

 

「わ、わかったのですぅ! 破滅の九所封じの正体が! 破滅の九所封じとは、連続技! 一から九までの全ての封じ技が繋がっている、連続した技の集合体なのですぅ!」

 

「プペプペプペプペプペッ! 今更に気がつきおったか! 以前キン肉スグルが戦ったゴールドマン版悪魔将軍、奴が使っていた地獄の九所封じは、破滅の九所封じの基礎となる技なのだ。結局ゴールドマンは最期まで、破滅の九所封じをマスターすることが出来なかった。だが、余は違うぞ。真の九所封じ、破滅の九所封じを完璧にマスターし、自在に繰り出すことができるのだ」

 

 真・悪魔将軍プペは膝の上に乗っているキン肉マンルージュを抱え上げ、フロントスープレックスを放った。

 あまりにも勢いのついたフロントスープレックスがキン肉マンルージュを襲う。豪快かつ猛烈なフロントスープレックスはキン肉マンルージュの頭部をキャンバスに打ちつけてしまう。

 

“ずおどぐごぉぉぉん!”

 

「破滅の九所封じ、六の封じ、カブト割り!」

 

「きゃひゃにゅみゅわわわあああああッ!」

 

 キン肉マンルージュの頭部が真っ黒に変色してしまう。そしてキン肉マンルージュは、頭部がキャンバスにめり込んでしまい、キャンバスに突き刺さった状態になっている。

 真・悪魔将軍プペは間髪入れずに、キン肉マンルージュの両脚を掴んだ。そして頭部と同じように、キン肉マンルージュの両足をキャンバスにめり込ませる。

 キン肉マンルージュは強制的に、キャンバス上でブリッジの格好にさせられている。

 

「に、逃げてくださいですぅ! キン肉マンルージュ様ぁ!」

 

「プペプペプペプペプペッ! 無茶なことを言いよる。既に六ヶ所を封じているのだ。ほぼ全身が動かない状態よ。身体が動かせなければ、このブリッジから脱することなど不可能だ」

 

 キン肉マンルージュは身じろぐことすら出来ずに、キャンバス上でブリッジを続けている。

 

「破滅の九所封じ、七の封じ、ストマッククラッシュ!」

 

 真・悪魔将軍プペはコーナーポストの先端に飛び乗った。そしてそこからキン肉マンルージュの腹部を目掛けて飛び降り、頭突きを喰らわす。

 

“ずどぐおごぉぉぉん!”

 

「きゃひゅにゃみゅひゃわわわあああああッ!」

 

 ストマッククラッシュの衝撃でキン肉マンルージュの身体は宙に浮き飛び、キャンバスから両手両足が抜け出た。

 そして宙にいるキン肉マンルージュの腹部は、真っ黒に変色していた。

 

「こ、これ以上は、本当にダメなのですぅ! キン肉マンルージュ様! なんとか、なんとかして、破滅の九所封じから脱出してくださいですぅ!」

 

 叫び上げるミーノを見て、真・悪魔将軍プペは笑い上げた。

 

「プペプペプペプペプペッ! 無駄だ! 既に封じた七ヶ所は、ほぼ全身に渡る。もう身動きできぬ状態だ」

 

 真・悪魔将軍プペは宙にいるキン肉マンルージュに掴みかかる。

 

“ぎんッ”

 

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペを睨みつけ、宙にいる状態で身体を回転させた。

 

「48の殺人技のひとつ、マッスルトルナード!」

 

 真・悪魔将軍プペは弾き飛ばされ、上体をのけ反らせてしまう。

 体勢を崩した真・悪魔将軍プペに、キン肉マンルージュはマッスルトルナードを喰らわせる。

 高速回転しているキン肉マンルージュに突っ込まれ、真・悪魔将軍プペは吹き飛ばされてしまう。そしてコーナーポストに激突した。

 

「プペェ……どういうことだ? 貴様、なぜ動ける」

 

 ふらふらになりながらも、リング上に立っているキン肉マンルージュ。それを見て真・悪魔将軍プペは困惑した。

 

「破滅の九所封じという技は、七ヶ所を封じた時点で、全身の自由を奪ってしまう。つまり身動きがとれなくなる……マッスルトルナードなどという全身を使うような技、使えるはずはないのだが……」

 

 真・悪魔将軍プペはいぶかしげな顔をしながら、キン肉マンルージュを見つめる。

 

「将軍透視」

 

 真・悪魔将軍プペは透視光線を目から放ち、キン肉マンルージュの全身を見探る。

 

「プペェ! こ、これは! ……そうか、そういうことか」

 

 将軍透視によってキン肉マンルージュの霊体を見た真・悪魔将軍プペは、キン肉マンルージュ自身も気がついていない秘密を知る。

 

「貴様の全身には、まるで血液のように、マッスルアフェクションが流れておる。そして破滅の九所封じによって活動を停止してしまった肉体を、マッスルアフェクションが動かしておるわ……なるほどのう。例え肉体を封じられても、マッスルアフェクションが肉体のかわりをしてくれるというわけか」

 

 真・悪魔将軍プペは声を大にして笑い上げる。

 

「プペプペプペプペプペッ! タネがわかれば、たわいもないし、たいしたこともない! どちらにせよ、破滅の九所封じ、八の封じを喰らわせてしまえば、貴様は終いよ! さしものマッスルアフェクションといえど、八の封じには通じぬわ!」

 

 ミーノは表情を曇らせて、呟くように言う。

 

「八の封じ……ゴールドマン版悪魔将軍が使っていた地獄の九所封じでは、八の封じは“握手”でした。相手の手の平を握ることで、超人の思考能力を司るツボに触れて、思考力を奪ってしまう技なのですぅ……つまりマッスルアフェクションでは、八の封じを防ぐことができないのですぅ……もはや防ぐ事は……出来ないのですぅ……」

 

「プペプペプペプペプペッ! その通りよ。思考力さえ奪ってしまえば、貴様はもはや生きる屍。余の攻撃を受けるだけの、超人サンドバッグと化すのだ」

 

 真・悪魔将軍プペは身体の力を抜き、柔らかい動きで身構える。

 

「プペプペプペプペプペッ! キン肉マンルージュよ! ションベンガキ超人の分際で、よくぞ破滅の九所封じを止めよった。たいしたものだ。だが……」

 

 突然、キン肉マンルージュの前から真・悪魔将軍プペが姿を消した。

 

「ッ! ど、どこに?!」

 

 きょろきょろとしながら、周囲を見渡すキン肉マンルージュ。

 

「ションベンガキ超人よ。例え貴様が破滅の九所封じを止めたとしても、再び動きだせば、何の問題も無いのだ」

 

 真・悪魔将軍プペの声が聞こえて、キン肉マンルージュは身体をびくんとさせた。そして無意識のうちに、真上へと飛び上がっていた。

 上空からリングを見下ろすキン肉マンルージュ。しかし、どこにも真・悪魔将軍プペの姿は無い。

 

「キン肉マンルージュ様! う、後ろですぅ! 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュ様の背後に、ずっと張り付いていますですぅ!」

 

 ミーノの言葉を受け、キン肉マンルージュはとっさにその場から離れた。そして背後に顔を向ける。しかし真・悪魔将軍プペの姿は見当たらない。

 

「キン肉マンルージュ様! 真・悪魔将軍プペは超高速で動いて、キン肉マンルージュ様にぴったりとくっついていますですぅ! 真・悪魔将軍プペは全身の力を程よく抜いて、超高速移動を可能にしていますでぅ!」

 

 キン肉マンルージュは必死になって動きまわり、真・悪魔将軍プペを引き剥がそうとする。しかし一向に、真・悪魔将軍プペが離れる様子がない。

 

「プペプペプペプペプペッ! 破滅の九所封じの効果が、ようやく現れたようだな。動きがぎこちないぞ、ションベンガキ超人」

 

 キン肉マンルージュは縦横無尽にリング上を走りまわり、飛び交っている。しかしそこまでしても、真・悪魔将軍プペの姿を捉えられない。

 

「プペプペプペプペプペッ! 動きが直線的。無駄な溜めがタイムラグを生んでいる。ストップ・アンド・ゴーが雑。緩急は更に雑……まるでガキの鬼ごっこだ」

 

 動きまわっていたキン肉マンルージュはリング中央に着地し、そのまま四つん這いになってしまう。はぁはぁと息を切らすキン肉マンルージュ。その全身からは玉のような汗が噴き出し、身体中が汗でびしょ濡れになっている。

 

「プペプペプペプペプペッ! まるでフルマラソンを走り終えた後のような、サウナにでも入っていたかのような、馬鹿らしいほどに無様な姿よな。ションベンガキ超人よ」

 

 キン肉マンルージュはキャンバスに顔を落としながら、涙目になっている。

 

「……だめぇ……ず、すごく……む、難しいよぉ……」

 

 キン肉マンルージュの腕がぷるぷる震えている。そして肘がかくんと折れ、支えをなくしたキン肉マンルージュはキャンバス上に倒れ込んでしまう。

 

「……ううぅん……は、破滅の九所封じのせいで、全身が動かないから……動いてくれない身体を、マッスルアフェクションで無理やり動かしてるの……だけどそれが……すっごく難しいの……」

 

 キン肉マンルージュは不意に、背後に顔を向けた。しかしそこには真・悪魔将軍プペの姿は無かった。

 

「い、いない……どこにいるの……」

 

 真・悪魔将軍プペの姿を見つけられないキン肉マンルージュは、きょろきょろと周囲を見渡す。しかし真・悪魔将軍プペはどこにもいない。

 キン肉マンルージュはうつ伏せに倒れたまま、顔を前に戻した。

 

“がつッ”

 

 キン肉マンルージュの顎の下に、真・悪魔将軍プペの足先があてがわれる。

 真・悪魔将軍プペはいつの間にか、キン肉マンルージュの目の前に移動していた。

 真・悪魔将軍プペはつま先でキン肉マンルージュの顔を上げさせる。

 

「プペプペプペプペプペッ! マッスルアフェクションによる身体操作が難しい? それはそうだろうな。いきなりマッスルアフェクションを使いこなせというのは、どだい無理な話なのだ。ましてや自らの身体を操るほどにマッスルアフェクションをコントロールするともなれば、長年マッスルアフェクションを使い込んできた熟練者でなければ、そうそう出来るものではないわ」

 

 キン肉マンルージュはくやしそうに歯を食い縛りながら、弱々しい声を漏らす。

 

「マッスルアフェクションで身体を動かすのって……身体中に流れているエネルギーを操るって感じで……まるで自分の身体を、操り人形みたいに操るような……とにもかくにも、今までみたいに生身の身体を動かすのとは、全然違っていて……すごく難しい……脳みそが燃えちゃいそうなくらいに集中しなきゃだし……だからって身体を動かすことだけに集中していると、敵のことを見失っちゃうし……もう頭が変になりそうだよ……」

 

 真・悪魔将軍プペは下卑た笑みを浮かべながら、ぐいッとキン肉マンルージュの顔を上げる。

 

「そうであろうな。本来、デヴィルディスペアやマッスルアフェクションというものは、生身の肉体と合わせて使うことで、本領を発揮するものだ。だが肝心の肉体がぽんこつでは、肉体とマッスルアフェクションとのバランスが大きく崩れ、むしろ自身にとって大きな負担になってしまう」

 

 真・悪魔将軍プペはゆっくりと、脚を真上へと上げていく。

 足先にキン肉マンルージュの顎を乗せたまま、真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュごと脚を上げていく。

 ぴんと真・悪魔将軍プペの脚が伸びきり、まるでかかと落としをする直前のような、見とれてしまうほどに美しい体勢で脚が上がっている。

 その足先にいるキン肉マンルージュは、顎だけで身体をを支える格好となり、まるで絞首刑をされた受刑者のように、首から下がぶらりとぶら下がっている。

 

「さあ、余が貴様の手を握ってやろう。さすれば貴様は苦みや痛みから解放される。なにも考えられずに、ただただ真っ白な空間の中を脳内で彷徨い続け、漂い続けるがよい。この破滅の九所封じ、セミファイナル、握手でな」

 

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの手を握ろうとする。

 

“ずばしぃ”

 

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペの胸を蹴り上げ、そのまま後方に一回転してリング上に着地した。

 

「苦痛なんか怖くないよ! 怖いのは、あんたに負けちゃうことだよ!」

 

「なあに、怖いのなんぞ一瞬だ。さっさと余に倒され、楽になるがよい」

 

 真・悪魔将軍プペは全身をダイヤモンドに変化させる。そして両手からダイヤモンドの剣を出現させた。

 

「喰らえい! 地獄のメリーゴーラウンド!」

 

 真・悪魔将軍プペは前方宙返りをしながら、キン肉マンルージュ目掛けて突進する。

 

「ひぃうッ! きゃわわうぅッ!」

 

 キン肉マンルージュはバックステップでコーナーポストまで下がり、そのままコーナーポストの先端に飛び乗った。そしてキン肉マンルージュは思い切り飛び上がる。

 

「プペプペプペプペプペッ! それで逃れたつもりか!」

 

 真・悪魔将軍プペはぎゅるぎゅると回転しながら方向転換し、上空にいるキン肉マンルージュに向かって突進する。

 

「きゃふわッ! お、追い掛けてくるッ?!」

 

 キン肉マンルージュは宙で半回転し、リングに向かって急降下する。

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの動きに合わせるように、同じく急降下を始める。

 

“ずたん”

 

 キン肉マンルージュがリング上に着地すると、そこを狙いすまして真・悪魔将軍プペが突っ込んでくる。

 

「うわううぅッ! あ、危ないよお!」

 

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペから逃れるようにリング上を逃げ回る。そして真・悪魔将軍プペはそんなキン肉マンルージュを執拗に追いかけまわす。

 

「ひゃわううぅッ! し、しつこいよお!」

 

 どんなに逃げ回っても、そのすぐ後ろには常に真・悪魔将軍プペが迫ってきている。

 ふたりの動きはどんどんと速度を増していき、常人の目では追えないほどに速くなっていく。

 

「すごいのですぅ、キン肉マンルージュ様。あれほど難しいと言っていたマッスルアフェクションによる身体のコントロールを、これほどまでにこなしてしまうなんて」

 

“ぴしゃり”

 

 ミーノの頬に生温かいものが当たる。

 ふたりの壮絶な追いかけっこを見守っているミーノに、大粒の水滴が降り掛かってきた。

 ミーノは水滴を手にとり、それを見つめる。

 

「これは……汗? なのですぅ……」

 

“ぴしゃりッ、ぴしゃぴしゃりッ”

 

 大粒の汗が、キャンパス上、そしてリングの外にまで降り飛んでいる。

 

「この大量の汗……ま、まさか! ですぅ!」

 

 ミーノはハッとして逃げ回るキン肉マンルージュを注意深く見つめた。

 

「ああ……や、やっぱり……ですぅ」

 

 逃げ回るキン肉マンルージュは全身から汗を噴き出させ、びっしょりに濡れてた。そしてキン肉マンルージュの身体から流れ出た汗は、逃げ回る勢いで飛び散り、周囲に汗を飛散させていた。

 この異常な光景を前にして、今まで口を閉ざしていたマリが静かに口を開いた。

 

「真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの体力を奪う作戦だったようね。あくまで攻撃はせずに、相手のことを追い詰めて、逃げまどわせて……そして、自滅するのを待っているわ」

 

 ミーノはくやしそうに、手についているキン肉マンルージュの汗を握り締めた。

 

「マッスルアフェクションのコントロールが脳にとてつもない負担をかけることを、真・悪魔将軍プペはよく知っているのですぅ……真・悪魔将軍プペ自身、デヴィルディスペアの扱いに長けた熟練者なのですぅ……だからこそ、自ら攻撃するような真似はしないで……攻撃をするよりも、マッスルアフェクションが与える負担の方が、遥かに苦しいものだと知っているから……このようなやり方を……ひ、ひどいのですぅ……」

 

 必死になって逃げているキン肉マンルージュに、真・悪魔将軍プペは追い討ちをかける。

 

「プペプペプペプペプペッ! ほうれ、もっと速く逃げないと、後ろからぶすりといくぞ?」

 

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの背中を、剣でつぷんッとつついた。

 

「ひぃやぁうッ!」

 

 キン肉マンルージュは更に必死になって、スピードアップする。

 

「だ、ダメなのですぅ! そ、それ以上は! キン肉マンルージュ様が壊れてしまうのですぅ!」

 

 真・悪魔将軍プペは愉快とばかりに笑い上げる。

 

「プペプペプペプペプペッ! ミーノよ。このションベンガキ超人の身を案じて、動きを止めろなどとアドバイスするのはよいがな。だがもし、こやつが中途半端に動きを止めたならば、余は容赦なくこの剣で串刺しにするぞ」

 

 ミーノは口をつぐんでしまう。

 動き続ければ自滅、動きを止めれば剣で串刺し……ミーノは言葉を失ってしまった。

 

「ミーノちゃん、今は凛香ちゃんを信じましょう。凛香ちゃんなら、きっと現状を打破できるわ……ね、ミーノちゃん。相手を信じること、そして見守ること、それは決して、簡単なことではないのよ。セコンドの役目はね、あの子が必要なときに、必要な言葉を掛けてあげること。それができなければ、ここにいる資格が無いもの」

 

「マリ様……そ、そうなのですぅ……キン肉マンルージュ様……まだきっと、大丈夫なのですぅ……今は、信じるとき……なのですぅ……」

 

 ミーノは心配な気持ちで顔を曇らせながらも、必死になって逃げ回っているキン肉マンルージュを見守っている。

 

「そうら! そらそら! そんなとろくさい動きでは、余の剣の餌食となるぞ!」

 

 真・悪魔将軍プペの目が怪しく光り、真・悪魔将軍プペは逃げ飛ぶキン肉マンルージュの周囲をぎゅるぎゅると回った。

 そしてダイヤモンドの剣が、キン肉マンルージュの身体を切り刻む。

 

「き、きゃあああぁぁぁやああぁぁん!」

 

 キン肉マンルージュがまとっているコスチュームが、所々刻まれてしまう。切られたコスチュームは、べろりと剥がれ、少女のやわ肌があらわとなる。

 

「そらそらそら! そうらそら! もっとだ! もっと動けい! さもなければ、貴様は余の剣によって、素っ裸にされてしまうぞ?」

 

 真・悪魔将軍プペは下衆い声で笑い上げながら、キン肉マンルージュをせきたてる。

 

「貴様のようなションベンガキ超人のことだ、フルヌードなんぞ、まだ異性に晒したこともなかろう? そんな汚れを知らないションベンガキ超人の裸体を、これだけの大観衆に、堂々とお披露目というこうか!」

 

「いやあ! いやあああん! そんなの、そんなのは、恥ずかしすぎマッスルぅぅぅううううッ!」

 

 必死の悲鳴を上げるキン肉マンルージュ。そして命を削るように懸命になって逃げ続けるキン肉マンルージュ。

 あまりにも必死なキン肉マンルージュは、姿が確認できないほどに強く輝くマッスルアフェクションに包まれる。そして、ピンク色の光球と化す。

 

「こんなところで裸んぼなんて、絶対、絶ッッッッッ対に、いやだよおおおぉぉぉおおおぉぉぉんッ!!」

 

 キン肉マンルージュという名のピンク色の光球は、ただただひたすらに逃げ続ける。

 ピンク色の光球を追いまわす真・悪魔将軍プペは、真っ黒い暗球となって執拗にキン肉マンルージュを追い詰める。

 

“ぶわわあああああッ”

 

 光球と暗球が超高速で、リング上を飛び交い続ける。その勢いと衝撃で、嵐のような突風が周囲に吹きすさぶ。

 光球と暗球の超高速は、どんどんと激しさと速さを増していく。そしてリング上にはピンク色と漆黒の螺旋が、何重にも重なって描かれていく。

 

「ううぅ……ル、ルージュ様ぁ……」

 

 ミーノは突風を避けることなく、まともに受け止めている。

 胸が張り裂けそうな気持ちにさいなまれながら、ミーノは脚と膝を踏ん張らせて、突風に立ち向かっている。

 ミーノは悲痛な想いを胸に秘めながら、光球と暗球の大逃走劇を見守っている。

 そんなミーノに、そして観客達に、光球から飛び散っている汗が降り落ちてくる。

 

“うわッ? な、なんだ? 雨?”

 

“こんなに天気いいのに? 天気雨? でも、お空は雲ひとつない晴天だけど?”

 

 キン肉マンルージュが流している汗は、会場中に降り注いでいた。少女特有の甘ったるい香りが、会場を満たしていく。

 ミーノは尋常ではない汗の量に、血の気が引いた。どう考えてもキン肉マンルージュは脱水している。常人であれば、とうにミイラ化している程の水分が、キン肉マンルージュの小柄な身体から失われている。

 いくら超人といえども、ここまでの水分を失ってしまっては、命を落とすのは時間の問題である。

 

“ぐごおおおぉぉぉんッ”

 

 突然、重々しい鈍い音が周囲に響き渡る。そしてリング上を飛び交っていた光球が、ふっと消えてしまった。

 リング上は漆黒の螺旋だけとなり、螺旋はやがて真っ黒な暗塊となる。

 

「プペプペプペプペプペッ! ションベンガキ超人よ! その無様な姿、観客達にお披露目といこうか!」

 

 暗塊は霧状になって、飛散していく。そして暗塊の中から、少しづつ、キン肉マンルージュの姿が現れる。

 

「ッ! あああ……うあああ……ですぅ……」

 




※メインサイト(サイト名:美少女超人キン肉マンルージュ)、他サイト(Arcadia他)でも連載中です。
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