美少女超人キン肉マンルージュ   作:マッフル

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第2試合
【第2試合】 VSノワールプペ(1)


 笑顔と苦悶の表情を浮かべながら、ミーノと抱き合っているキン肉マンルージュに、マリは寄り添う。

 

「凛香ちゃん、お疲れ様」

 

 マリは優しく笑みながら、キン肉マンルージュの頭を撫でる。

 

「今夜は凛香ちゃんの大好きな、マリお母さん特製のキムチカルビ丼にしてあげるからね」

 

「わあい! マリお母さんお手製のキムチカルビ丼! うれしいな! うっれしいな! でもって、苦ッしいなあ!! ……ほ、本当に、おちちゃうぅぅ」

 

 キン肉マンルージュは口角に泡を吹きながら、ミーノの肩にタップする。するとミーノは、キン肉マンルージュに合わせるように、ポンポンとキン肉マンルージュの首の辺りを叩く。

 

「……ミーノちゃん、違うの……喜びのポンポンじゃないの……ギブアップのタップなのに……ああ、本当にもう、わたし……目の前が白いよ……限界だよ……」

 

 気が遠のいていくキン肉マンルージュを見て、マリはミーノの肩をポンポンと叩いた。

 

「ミーノちゃん、このままだと、あなたが正義の救世主を殺めてしまうわよ」

 

 マリの言葉を聞いて、ミーノはハッとした。そして、ミーノはキン肉マンルージュを離した。

 

「…………」

 

 キン肉マンルージュは物言わぬまま、倒れこんでいる。白目を剥き、口角からよだれを垂らしながら、キン肉マンルージュは完全に失神していた。

 

「はわわわわわあぁ! ごめんなさい! ごめんなさいですぅ!」

 

 焦りに焦るミーノは混乱し、自分を見失ってしまう。

 ミーノは何を思ったのか、ぐったりとしたキン肉マンルージュに、心臓マッサージを施そうとする。

 キン肉マンルージュの薄い胸に、ミーノの小さな手が乗っかる。

 

「こうなったら、心臓マッサージですぅ!」

 

「ミーノちゃん?! 凛香ちゃんは別に、心停止したわけじゃ、ないのよ?」

 

 マリは慌てて、ミーノを止める。

 

「はわわわわわあぁ! ごめんなさい! ごめんなさいですぅ!」

 

 焦りに焦りきったミーノは錯乱し、完全に自分を見失っている。

 ミーノは何を思ったのか、ぐったりとしたキン肉マンルージュに、口づけを交わそうとする。

 キン肉マンルージュの柔らかな唇に、ミーノの小さな唇が近づいていく。

 

「こうなったら、人工呼吸ですぅ!」

 

「ミーノちゃん!? 凛香ちゃんは別に、呼吸停止したわけじゃ、ないのよ?」

 

 マリは慌てて、ミーノを止める。

 

「こんな形で、お互いの大切なファーストキスを、失なわないで」

 

「はわわわわわあぁ! ごめんなさい! ごめんなさいですぅ!」

 

 謝ってばかりいるミーノを見つめながら、マリは優しく呟いた。

 

「まずは凛香ちゃんを、医務室に連れていきましょう。あれだけの戦いをしたのだから、相当のダメージが蓄積しているはずよ」

 

 混乱していたミーノは、マリの言葉を聞いてハッとする。そして、スーッ、ハーッ、と深い深呼吸を3回した。

 

「すみませんですぅ。取り乱している場合では、ありませんでしたですぅ」

 

 冷静さを取り戻したミーノは、失神しているキン肉マンルージュを、ひょいと頭上に持ち上げた。

 

「すぐに医務室に行きましょうですぅ」

 

 医務室に向かうため、ミーノとマリはリングから降りた。

 

「あーあーあーあー、ミゴトなまでに、ブザマにヤられちゃったねー」

 

 背後から聞こえてきた声に、ミーノとマリは身体をびくんとさせた。

 リングの上には、グレート・ザ・屍豪鬼しかいない。そのグレート・ザ・屍豪鬼は、もう声を出すほどの力も残っていないはずである。

 ミーノとマリは、恐る恐るリングの方に振り向いた。

 

「はわわわわわあぁ! そ、そんな! し、信じられませんのですぅ!」

 

 ミーノはキン肉マンルージュを抱え上げながら、顔を真っ青にした。

 リング上には、見るも無残な姿のグレート・ザ・屍豪鬼が、完全に立ち上がっていた。

 

「プペプペプペプペプペッ! ワラっちゃうよね! こいつってば、アレだけエラそうにしてたくせに、こーんなおコサマチョージンにヤられちゃうんだもんー」

 

 グレート・ザ・屍豪鬼は今までとは全く違った声色、口調で、声も高らかにしゃべっている。

 しかし、グレート・ザ・屍豪鬼の目は、全く焦点が合っていない状態で、光が完全に失せていた。

 口は全く開閉していないのに、それでも声は、口から発せられている。

 そしてグレート・ザ・屍豪鬼は、全身に骨折や脱臼をしていて、とてもではないが立ち上がれる状態ではない。立つどころか、動くことさえ、不可能なはずである。にもかかわらず、グレート・ザ・屍豪鬼は立っている。

 脚や腕があさっての方向を向いていて、全身が歪んでしまっている。しかしそれでも、グレート・ザ・屍豪鬼は、倒れることなく立っている。

 

「し、信じられないのですぅ! グレート・ザ・屍豪鬼、そんな状態になっても、まだ立ち上がれるのですかぁ!」

 

「プペプペプペプペプペッ! おーバカミーノ! そんなわけあるかよー! こいつはとっくのとうに、チョージンハカバにイっちゃったよーだ」

 

 グレート・ザ・屍豪鬼はミーノの方に顔を向けた。しかし、グレート・ザ・屍豪鬼の目は、どこも見ていない。

 

「そんなことよりもさー、キン肉マンルージュー、おまえのバトルを、トウクトウセキでミせてもらったよー。こいつのナカでねー」

 

 突然、グレート・ザ・屍豪鬼は口を大きく開いた。限界を超えるほどに、グレート・ザ・屍豪鬼は口を開いていく。

 

“ぐぐぐ……バキベキッ! ゴキバキンッ!”

 

 グレート・ザ・屍豪鬼の口から、顎が外れる音が、激しく鳴り響いた。そして、グレート・ザ・屍豪鬼の下顎は、だらしなく揺れ落ちてしまう。下顎は、ぶらりぶらりと、ぶら下がっている。

 

“ずるり……ずるずるぅずるるるぅぅぅ!”

 

 突然、グレート・ザ・屍豪鬼の口の中から、黒い物体が飛び出してきた。そして黒い物体はリング上に着地し、んーッと伸びをした。

 

「あー、こいつのナカにいるの、チョーしんどかったー」

 

 グレート・ザ・屍豪鬼はゆらゆらと揺り動き、どずずぅん、とキャンバスに沈んだ。そして今度こそ、グレート・ザ・屍豪鬼は動かなくなった。

 

「プペプペプペプペプペッ! はじめましてだよ! ボクはノワールプペ! あのおカタにツクられた、あのおカタにゼッタイチュージツなゲボクニンギョウ! それがボク、ノワールプペ!」

 

 自己紹介をする黒い物体。その姿は、キン肉族の少年を模した人形である。

 真っ黒い生地で、乱雑な縫い方をされた人形。それはまるで、裁縫に慣れていない子供が作ったような、稚拙な作りの人形である。

 背中には小さなコウモリ羽根が生えていて、小悪魔を思わせるような容姿である。

 

「プペプペプペプペプペッ! まったくしょうがないないよねー、こいつ。せっかくのデヴィルジュエルを、ムダにしちゃうなんてさー」

 

 ノワールプペは、仰向けに倒れているグレート・ザ・屍豪鬼の上に乗っかり、あぐらをかきながら、頭の後ろで腕を組んでいる。

 

「しかもこいつ、デヴィルジュエルをつかいこなせなくて、サイゴはデヴィルディスペアにクわれてやんのー。チョーだッさー」

 

 ノワールプペはあぐらをくずし、かかとでドカドカと、グレート・ザ・屍豪鬼を蹴り叩く。

 

「プペプペプペプペプペッ! こいつチョーだめだめ! やくたたずすぎ! チョーださださ! あのおカタにかわって、ボクがおしおきしてあげるよー!」

 

 ノワールプペのかかと叩きは、どんどんと激しくなっていく。あまりの激しさに、グレート・ザ・屍豪鬼の身体がバタンバタンと暴れ動く。

 

「やめなさい!」

 

 よく通る凛とした美しい声が、周囲を突き抜けていった。マリはノワールプペを睨みつけ、怒りをあらわにしている。

 

「プペプペプペプペプペッ! なんでー? なんでやめなきゃいけないのー? おしえて! おしえてー!」

 

 ノワールプペは、まるで無邪気な子供がふざけているかのように、悪戯っぽく笑っている。そして、かかと叩きを、更に激しくする。

 

「やめなさい! ノワールプペ! グレート・ザ・屍豪鬼は正々堂々と、戦いぬいたのですよ! 結果は敗戦でしたが、グレート・ザ・屍豪鬼は最後まで、全力で戦い尽くしたのですよ! そんな超人を愚弄する権利なんて、誰にもありはしないのです!」

 

 ノワールプペは更に声を高らかに、激しく笑い上げる。

 

「プペプペプペプペプペッ! プペプペプペプペプペプペプペプペプペプペッ! セーセードードーとタタカいヌいた? ゼンリョクをツくした? だからどーしたの? まけたらイミないんですけどー? ダイジなのはさー、プロセスじゃなくて、ケッカだよ? これヨノナカのジョーシキ! あんたはヒジョーシキ! プペプペプペプペプペッ!」

 

「非常識なのはノワールプペ、あなたですぅ!」

 

 ミーノはキン肉マンルージュを抱え上げながら、ノワールプペをきつく睨みつけた。

 

「マリ様の言うとおりなのですぅ! あなたには、グレート・ザ・屍豪鬼を笑う権利も、愚弄する権利も、亡骸を痛めつける権利もないのですぅ! さっさとそこから、離れなさいですぅ!」

 

 ノワールプペは背中のコウモリ羽根をパタパタと羽ばたかせ、ふわふわと宙に浮いている。

 

「うわー、チョーこわーい。おばさんとガキんちょが、チョーおこってるー」

 

 ノワールプペはグレート・ザ・屍豪鬼の周りを、ぐるぐると回りながら飛んでいる。

 

「あのさー、ジョーシキとかヒジョーシキっていうけどさー。そういうのってさー、ケッキョク、だれがキめるとおもう? そんなのさー、そのヒトじしんがカッテにキめるもんでしょー? だったらさー、あんたらのジョーシキはさー、ボクにとってのヒジョーシキでさー。ボクのジョーシキはさー、あんたらのヒジョーシキなわけー」

 

 ノワールプペは、取れかかっているボタンの目で、マリとミーノを睨みつける。

 

「こいつをグロウするケンリ? ワラうケンリ? なにそれってかんじー。そんなもの、そもそもソンザイしないってーの。まけたヤツをどーしよーがさー、ボクのカッテだっつーの。だ・か・らー」

 

 ノワールプペは、にたぁと歪んだ笑みを浮かべる。

 

“がぱぁああ”

 

 突然、ノワールプペは、信じられないほどの大口を開けた。

 

“がぶぅうう……ごっくんんん”

 

 巨大な口は、グレート・ザ・屍豪鬼をひと飲みにしてしまった。

 

「だからさー、ボクがこいつをくっちゃっても、ボクのカッテ、カッテー! プペプペプペプペプペッ!」

 

 マリとミーノは静かな怒りで身を震わせながら、静かに呟いた。

 

「なんてことを……」

 

「ひどい……ひどすぎますぅ……」

 

 ノワールプペは、げぷぅと大きなゲップをすると、ミーノが担いでいるキン肉マンルージュを見つめる。

 

「どうしようかなー。そいつ、くっちゃおうかなー」

 

 ノワールプペは歪んだ笑みを浮かべながら、ペロリと舌なめずりをした。

 それを見たミーノは、とっさにバックステップで、ノワールプペから距離をとった。

 

「プペプペプペプペプペッ! ジョーダン! ジョーダンだよー!」

 

 ノワールプペはバカにするように、リング上をふわふわと飛んでいる。

 

「あんたらのジョーシキにのっかてさー、セーセードードーたたかってやるよー、このボクがじきじきにさー……とはいえ、カンゼンにのびちゃってるしなー、キンニクマンルージュ。どうしよっかなー」

 

 ノワールプペは、がばぁと大口を開いた。

 

「やっぱ、くっちゃおー!」

 

「30分後ですぅ!」

 

 キン肉マンルージュを喰らおうとするノワールプペに、ミーノは叫び上げた。

 

「30分後に、ゴングですぅ! 試合開始ですぅ!」

 

 ミーノは真っ直ぐに、ノワールプペを見つめる。

 

「ふーん、まあいいかー。じゃあ、30ぷんごに、このリングであッそぼーねーッ! まーッてーッるよーッ!」

 

 そう言ってノワールプペは、リングの上にちょこんと座った。その姿は、まるで普通の人形のようである。

 ミーノはキン肉マンルージュを担ぎながら、猛ダッシュする。そしてミーノの後を、マリは追って走った。

 

「ミーノちゃん? そっちは医務室じゃないわよ?」

 

「いいのですぅ、こっちで大丈夫なのですぅ」

 

 ミーノが向かった先には、グレート・ザ・屍豪鬼戦で使った控え室があった。

 

「ここ? ここは控え室よ? ミーノちゃん」

 

「いいのですぅ、ここで大丈夫なのですぅ」

 

 ミーノはキン肉マンルージュを持ち上げたまま、器用に扉を開けて、中へと入る。

 控え室の中は、試合前と変わらず、同じであった。部屋の真ん中にはテーブルが置かれ、奥にはコスプレ衣装があり、更に奥には大きな姿見のある更衣室がある。

 ミーノは担いでいるキン肉マンルージュを、テーブル上に置いた。

 

「まずはキン肉マンルージュ様を、起こさないとですぅ」

 

 そう言ってミーノは、ブラの中に手を突っ込み、ブラの中をごそごそと探る。そして、ピンク色の小瓶を取り出した。

 

「シュラスコ忍法、おはようの時間ですぅの術! ですぅ!」

 

 ミーノは小瓶のふたを開けると、素早くキン肉マンルージュの鼻の下に小瓶をかざした。

 

「にゃ! ぎにゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!! うにゅーん」

 

 気を失っていたキン肉マンルージュは、目を見開いて飛び起きた。

 ミーノは素早く小瓶のふたを閉じ、ブラの中へと戻した。

 

「なになになになになになになになに!? 何事?! なんだか今、大小様々な花が咲き乱れているジャングルの中で、巨大な食虫植物の大群に襲われたような気がしたんだけど!」

 

 キン肉マンルージュは顔を左右に振りながら、目をぱちくりさせている。

 

「気がついて、よかったのですぅ!」

 

 ミーノは目をうるうるさせながら、心配そうにキン肉マンルージュを見つめている。

 そんなミーノの背後から、マリは心配そうな眼差しを向けている。そしてキン肉マンルージュをいたわるように、優しく言葉をかける。

 

「凛香ちゃん、すぐにお医者様に診てもらいましょう。あれだけの大激闘を闘い抜いたのだもの、相当のダメージが蓄積しているはずよ」

 

 マリの言葉を聞いて、キン肉マンルージュは、身体の痛みに今更に気づく。

 

「あううう、身体中が痛い……それに、全身が鉛のように重くて、かちかちに固くなってる……なんだか頭が、ぼぉっとするよ……」

 

 キン肉マンルージュはぼんやりとした目で、マリとミーノを見つめる。

 

「ミーノちゃん……凛香ちゃんがこんな状態では……すぐには試合に出られないわ……」

 

「マリ様のご心配はごもっともですぅ。でも、大丈夫なのですぅ」

 

 マリの言葉を聞いて、キン肉マンルージュは困惑する。

 

「試合? 何それ? どういうこと? ミーノちゃん!」

 

 ミーノに迫るキン肉マンルージュ。そんなキン肉マンルージュを、まあまあと手の平を揺らして、落ち着かせる。

 

「キン肉マンルージュ様は試合後、ずっと気を失っていたので、ノワールプペのことを知らないのですよね。それについても、あとからご説明しますですぅ」

 

 そう言うとミーノは、キン肉マンルージュの胸にあしらわれているマッスルジュエルを指差した。

 

「まずはマッスルジュエルによる能力授与の解除……つまり、キン肉マンルージュの変身を解きましょうですぅ」

 

「え? 変身解除? どうやってやればいいの?」

 

「マッスルジュエルに向かって“マッスルキャンセレイション”と唱えてくださいですぅ」

 

 キン肉マンルージュは動かない身体にムチ打ち、つま先立ちになってくるくると回りだす。そして両手でマッスルジュエルを包みながら、そっと目を閉じた。

 

「マッスル! キャ~ンセレェェェイショ~ン!」

 

 キン肉マンルージュは自分の胸元に向かって、言った。

 

「……ポーズはいらないのですが……でも、大事なんですよね、キン肉マンルージュ様にとっては……ですぅ」

 

 苦笑いを浮かべながら、生暖かい目でキン肉マンルージュを見守るミーノ。そんなミーノを尻目に、キン肉マンルージュはマッスルアフェクションに包まれる。

 

「あ! 帰ってきた! 帰ってきたよ! よかったあ! よかったよお!」

 

 マッスルアフェクションの球体の中から、キン肉マンルージュの喜ぶ声が聞こえてくる。

 

「もう会えないかと思ったよ! わたしの激レアプレミア超人プリントパンツちゃん! それに限定Tシャツちゃん!」

 

 どこからともなく、パンツとTシャツ、その他、凛香が身にまとっていた衣服が、ひらひらと飛んできた。

 久々の再会。凛香にとっては、かけがいの無いお宝アイテム達。凛香は涙を流しながら、帰ってきた衣服を抱きしめた。

 

「おかえりなさい、みんな!」

 

 ぱぁぁぁんと、マッスルアフェクションが弾け散る。そして、元の姿に戻った凛香があらわれた。

 

「あ、あれ? なんだろう、身体が軽くなった? 痛くもなんともない……どうなってるの?」

 

 凛香は両手で身体をまさぐりながら、不思議そうに全身を見つめる。

 

「能力授与の解除を行うと、それまでに受けたダメージは、全てマッスルジュエルに蓄積されますですぅ。その証拠に」

 

 ミーノはおもむろに、凛香のTシャツの中に手を突っ込んだ。そして、ごそごそと凛香の身体を探る。

 

「きゃははははははんッ! く、くすぐたぁぁぁいよッ! わ、わたし、くすぐったがりなの! ひゃははははひゅん! や、やめてぇ! はひぃ! はひぃん! ホントにくすぐったぁぁぁいッ!」

 

 凛香は目に涙を溜めながら、悶えまくる。

 そんな凛香にはお構いなしに、ミーノは凛香の身体をまさぐり続ける。そして、凛香のTシャツの中から、マッスルジュエルを取り出した。

 

「これを見てくださいですぅ」

 

 マリはミーノの手の上に乗っているマッスルジュエルを覗き込んだ。

 凛香は身体をびくんびくんさせながら、涙を拭って、マッスルジュエルに注目する。

 

「こ、これって」

 

 マリと凛香の声がハモった。

 ミーノが持っているマッスルジュエルには、無数の小さな亀裂が入っていた。

 

「キン肉マンルージュ様が、グレート・ザ・屍豪鬼との戦いで受けたダメージ。それら全てがマッスルジュエルに蓄積されて、このように傷つくのですぅ」

 

 凛香は心配そうに、マッスルジュエルを見つめている。

 

「ご、ごめんなさい! 大事なマッスルジュエルを傷ものにしちゃって! どうしよう、正義超人界の至宝が、こんなにひび割れちゃって……」

 

「心配しなくても大丈夫ですぅ! マッスルジュエルの傷は、修復可能なのですぅ!」

 

「えっ? そうなの?」

 

 ミーノの言葉を聞いて、凛香はほっと、胸を撫で下ろした。

 

「マッスルジュエルは、自己修復するのですぅ」

 

「ホントに! どのくらいで直るの?」

 

「1ミリ直るのに1年ほどかかりますですぅ」

 

 凛香は、マッスルジュエルを見つめる。マッスルジュエルには、どう見ても5ミリ大の傷が、無数に入っている。

 

「……つまり、完全に直るまで5年かかるの?」

 

「いえ、ひとつの傷につき、1ミリ1年を要するのですぅ」

 

 凛香は、マッスルジュエルを見つめる。マッスルジュエルには、どう見ても5ミリ大の傷が、無数に入っている。

 

「……ってことは、完全に直るまでには……物凄い時間がかかるって……ことだよね……」

 

 ミーノはポンと、凛香の肩を優しく叩いた。

 

「心配しなくても大丈夫ですぅ! 傷の修復時間を短くする方法が、ちゃんとありますですぅ!」

 

「ホントに! どうすればいいの?」

 

「マッスルジュエルを、筋肉の滝、マッスルフォールから流れる水に浸すと、修復時間が飛躍的に短くなるのですぅ!」

 

 ミーノの言葉を聞いて、凛香はほっと、胸を撫で下ろした。

 

「どのくらい短くなるの?」

 

「半分の時間になりますですぅ!」

 

 凛香は、マッスルジュエルを見つめる。マッスルジュエルには、どう見ても5ミリ大の傷が、無数に入っている。

 

「えーと……確かに時間が半分になるのは、すごいことだけど……それって、すっごぉぉぉく時間がかかるのが、すごく時間がかかる、に変わっただけみたいな……つまり、結局は物凄く時間がかかるんだよね……」

 

「そうなのですぅ」

 

 凛香はマッスルジュエルを見つめながら、ふるふると身体を震わせた。凛香は涙目になっている。

 そんな凛香の肩を、ミーノは優しく叩いた。

 

「心配しなくても大丈夫ですぅ! 一瞬で傷を修復する方法が、ちゃんとありますですぅ!」

 

 ミーノの言葉を聞いて、凛香はほっと、胸を撫で下ろした。

 そして、逆ギレたように、ミーノをジト目で見つめる。

 

「最初から、その方法を言ってよね! んもう! ミーノちゃんってば! すごくドキドキしちゃったよ! それで、どうすればいいの?」

 

「ひとつは、マッスルジュエルに力を込めた超人によって、力の再注入を行ってもらうのですぅ。そうすれば、傷は一瞬で修復されますですぅ。もうひとつの方法は、別の超人に新しく力を込めてもらうのですぅ。これで傷は修復されますですぅ。つまり、力の新規注入ですぅ」

 

 凛香は、ぽかんとした顔をして、答える。

 

「そうなんだ、力を込めた超人さんに、会いに行けばいいんだ……って、え?」

 

 呆然としていた凛香の顔が、急激に輝きだした。

 

「そ、それって! このマッスルジュエルに力を込めたお方に、会えるってこと?!」

 

「はい、そういうことになりますですぅ」

 

 凛香は目をギランギランに輝かせ、ぶりっこポーズをしながら照れ笑いをする。

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁッ! すごい! すごぉい! すんごぉぉおおい! キン肉マンに会えるの!? 大王様だよ、大王様! それってつまり、謁見だよね! ロイヤルだよね! すごいよ! すごすぎだよ! わあああああぁぁぁぁぁい! 超うれしいッスルゥゥゥ!」

 

 大はしゃぎで浮かれまくる凛香。ミーノは笑顔を浮かべながら、チョンチョンと肩をつついた。

 

「えーと、とはいえですね、マッスルジュエルはこれくらいの傷であれば、すぐに砕けたり壊れたりはしないですし、時間が無い今、遠すぎるほどに遠いキン肉星に行く余裕はありませんですぅ。なので、マッスルジュエルはこのままで、ノワールプペとのバトルにのぞみましょうですぅ!」

 

 顔を輝かせたまま、凛香の動きが止まる。

 

「……次の試合って、何かな? ……ノワールプペって、誰かな?」

 

「えーと、それはですね」

 

 ミーノはかくかくしかじかと、終始笑顔で、ノワールプペとのやり取り説明する。

 

「…………」

 

 輝いていた凛香の顔は、どにょりと曇り、斜が入っている。

 

「……つまるところ、もうひとバトルしないといけないのね……」

 

「はい、そういうことになりますですぅ」

 

 凛香は控え室の角っこで、体育座りをしながら壁と向き合っている。

 

「……あんなに激しい大バトルをした30分後に、またバトルなの? ……死ぬほど怖くて、大変だったのに……それにそのノワールプペって、グレート・ザ・屍豪鬼よりも強そうだし……わたし、今度こそ殺されちゃうよ……」

 

 完全に意気消沈の凛香。もうバトルが出来るほどの気力は、残っていない。

 

「凛香ちゃん」

 

 マリは凛香の頭を優しく撫でる。

 

「……わかってるよ、マリお母さん……わたししかいないもんね……わたしにしか出来ないんだよね……でも、やっぱり怖いよ……泣きたくなっちゃうよ……弱音を吐いちゃうよ……さっさと逃げ出したいよ……」

 

 ミーノは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 いくら初戦で勝利したとはいえ、キン肉マンルージュは、元はただの女子高生である。超人バトルをするには、あまりにも未熟で、彼女には荷が重すぎる。

 しかも次の相手が、初戦の相手以上の強者となれば、なおさらリスクと負担が大きい。

 

「逃げ出したい、ですか……そういえばキン肉スグル大王様や万太郎様には逃亡癖があって、試合開始直前には、いつも逃げ出していたのですぅ……」

 

 ミーノは頭を抱えて、その場にへたり込んだ。

 

「……凛香様には、超人バトルの連戦は、あまりに酷すぎるのですぅ……でも、どうあっても、凛香様には戦っていただかなければなりませんですぅ……この状況、いったい、どうしたら……せめて、凛香様のモチベーションを上げることが出来れば……」

 

 モチベーションというキーワードに、ミーノはハッとする。

 

「……モチベーション……ご褒美……凛香様が喜ぶこと……そうですぅ! 凛香様が喜ばれる、至高のご褒美を用意すればいいのですぅ!」

 

 ミーノはバッと立ち上がり、角っこで小さくなっている凛香に駆け寄った。

 

「凛香様! 次の試合が終わったら、ミーノと一緒にキン肉星に行きましょうですぅ! 凛香様は悪行超人の驚異から人類を救った、救世主なのですぅ! キン肉星ではきっと、星をあげての大歓迎パーティになるのですぅ!」

 

 ミーノに背を向けている凛香の身体が、ぴくんと揺れる。

 

「パーティの席には、宇宙中にいる正義超人様たちが、一堂に会するのですぅ! それこそ伝説超人、新世代超人、なんでもござれで大集結なのですぅ!」

 

「大集結? 本当に正義超人が、みんな来てくれるの?」

 

「来ますぅ! 来ますですぅ! 凛香様のために、正義超人様達が集まってくるのですぅ! だって凛香様は、平和を守った救世主なのですぅ!」

 

 凛香がまとっていた薄暗い暗雲が、ギラギランに輝く桃色黄色なオーラに変わった。

 

「みなぎって、きたあああああぁぁぁぁぁッ!」

 

 凛香は体育座りのまま、ごろごろと後転し、控え室の真ん中でババッと立ち上がった。

 

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル!」

 

「おお! 言葉の意味は全くもって不明ですが、とにかく凛香様が大復活なのですぅ!」

 

 ミーノはパチパチと大きな拍手をしながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

“間もなく、キン肉マンルージュ選手の入場ですッ! 登場口にご注目をッ!”

 

 外から入場を促すアナウンスが聞こえてきた。

 いつの間にか、選手入場の時間になっていた。

 凛香とミーノは顔を見合わせながら、プフッと吹き出した。

 

「また試合の対策、たてられなかったのですぅ」

 

「さっきと一緒だね。でも大丈夫だよ。ね、マリお母さん」

 

 マリは優しい笑顔を浮かべながら、小さく頷いた。

 

「さあ、行きましょう。凛香ちゃん。ミーノちゃん。第2試合のはじまりよ」

 

 凛香は、うん! と、大きく頷きながら、マッスルジュエルを手にする。

 そしてお尻を突き出しながら、手でハートを作ってウィンクする。

 

「マッスルッ、フォ~~ゥゼッ!」

 

 凛香はマッスルジュエルが放つ慈愛の光、マッスルアフェクションに包まれた。

 そして、マッスルアフェクションは、次第に球体となっていく。

 

「あ、そうだ。ミーノちゃん、ちょっといいかな」

 

 マッスルアフェクションの球体から、にゅっと、凛香の手が伸び出てきた。

 

「これに書いてあるものを、持ってきてもらっていいかな」

 

 そう言うと、凛香は一枚のメモ書きを、ミーノに渡した。

 

「は、はいですぅ!」

 

 ミーノはパタパタと走りながら、控え室中を探して回る。

 入場の準備をするふたりを見て、マリはフフッと笑った。

 

「凛香ちゃん、先にリングまで行っているわね」

 

 そう言って、マリは控え室をあとにする。

 控え室を出ると、先ほどと同じように、リングまでのスロープが用意されていた。

 マリはスロープは使わすに、スロープ横の地面を歩いてリングに向かう。

 

“おおっとぉ! キン肉マンルージュ選手のセコンド、二階堂マリの登場だあ!”

 

 目立たないように、控えめな登場をしたマリであったが、アナウンサーがそれをよしとはしなかった。

 観客達はスロープ横を歩いているマリに注目し、声援をおくる。

 

“伝説超人の時代からご活躍だった、伝説の立会い人、二階堂マリさんだあ!”

 

“生きる偉人! マリさん! 現代では新世代超人達のお袋さんだぜ!”

 

“ルージュちゃん、凛子ちゃんのお母さん、マリさん! やばいよ! やばいよ! 神すぎるでしょ! そんなリアル神設定!”

 

 マリは静かに歩き続け、そしてリングサイドにたどり着いた。マリは観客席の方に向き直ると、控えめな礼をする。

 

「みなさん、キン肉マンルージュを、どうぞ応援してあげてくださいね」

 

 礼儀正しい、美しいおじぎを見せられ、観客達は清々しい気持ちにさせられた。

 

“れでぃーす、あぇんど、じぇんとるマッスル!”

 

 会場に設置されているスピーカーから、キン肉マンルージュの肉声が流れだした。

 

“プリプリプリティ、ルージュなマッソォゥル! キュンキュンキュートなハートもマッソォゥル!”

 

 そして先ほどの入場でも歌われていた、キン肉マンルージュによる謎のアカペラソングが始まった。

 

“全身ピンク、でもルージュ(赤!)マッスル守護天使、キン肉マンルージュゥッ!”

 

 キン肉マンルージュのテーマソング。ひらひら、きらきら、ピンク色。そんな気分にさせられる歌が流れる中、キン肉マンルージュの控え室のドアが、勢いよく開かれた。

 

“超人強度は控えめだけど~、絶対倒すよ悪行超人~”

 

 控え室から、ピンク色の光に包まれた球体が飛び出してきた。そして球体は、スロープ上で、ぱぁんと弾ける。

 

“おおおおお! ……んんんんん?!”

 

 キン肉マンルージュの登場を心待ちにしていた観客は、キン肉マンルージュの姿を目の当たりにして、またも頭の中を疑問符でいっぱいにした。

 観客達の前に姿を現したキン肉マンルージュは、顔に真っ白いベールを掛け、真っ白いドレスを身にまとっていた。

 手にはブーケを持っていて、花を包んでいる紙には

“肉”

の文字が、ドット柄のようにプリントされている。

 背中には、またもダンボールとは思えない完成度の、真っ白い羽根が生えている。

 足元が見えないほどに長いドレス。その裾を、ミーノは後ろから掴み上げている。

 キン肉マンルージュの姿を目の当たりにした観客達は、全員が全員、同じ事を思った。

 

“……結婚式?”

 

 キン肉マンルージュの姿は、どう見ても洋装の花嫁であった。

 

「キン肉マンルージュ様……やっぱり皆様、花嫁さんにしか見えていないみたいですぅ……」

 

 ミーノの言葉を聞いて、観客達の反応を見て、キン肉マンルージュはわざとらしい大声で言い放った。

 

「炎のプリンセス、キン肉マンルージュ!」

 

 キン肉マンルージュの言葉を聞き、観客席がざわつく。

 

“プリンセス? 花嫁さんじゃなくて?”

 

“どうみても結婚式だよなあ”

 

“あのドレス、どう見てもロイヤルじゃなくて、ウエディングだよな”

 

 キン肉マンルージュは、頬をぷくぅと膨らませる。

 

「ほ・の・お・のプリンセスぅぅぅぅぅ! キン肉マンルージュぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 ふてくされた声で、キン肉マンルージュは叫ぶように言い放った。

 

“ぼぉッ! ごおおおおおぉぉぉぉぉッ!”

 

 突然、キン肉マンルージュの感情に反応したかのように、スロープの両端から、ごおっと炎が上がった。

 

「女は度胸! 2も度胸! 3、4がないなら、それも度胸!」

 

 キン肉マンルージュは、顔に掛かっているベールを静かに上げた。そして、いかにもお上品さを意識していますよと言わんばかりの歩き方で、スロープ上を歩き出した。

 自分でプリンセスだと豪語するだけあって、気品溢れる、お上品な入場をする。しかしその出で立ちは、レッドカーペットの上を歩くプリンセスというよりは、バージンロードを歩く花嫁さんである。

 

「キン肉マンルージュの半分は、度胸と優しさでできてマッスル!」

 

 バージンロードを歩く花嫁さん……もとい、プリンセスは、両側が激しく燃え盛っている、炎のスロープ上を歩いている。

 

“おおお! これは凄まじい! キン肉マンルージュ選手、さも当たり前のように、炎の中をゆっくりと歩んでいます! その姿は、まるで炎の花嫁さん……もとい、炎のプリンセスだあ!”

 

 解説席にいるアナウンサーが、興奮した様子で声を上げた。その裏で、ミーノは腕で汗を拭いながら、ふらふらとスロープ上を歩いていた。

 

「……あつい……あついのですぅ……」

 

 両側が燃え盛っているせいで、スロープ上はとんでもない温度になっていた。更に、炎のせいで酸素が燃えてしまっているのか、空気が薄い気がする。

 

「……これは……ダメですぅ……試合前に、体力が無くなってしまいますぅ……キン肉マンルージュ様は、この状況、大丈夫なのでしょうか……」

 

 ミーノはそっと、キン肉マンルージュの顔を覗いてみた。すると、キン肉マンルージュは顔じゅうに玉のような汗を流し、はぁはぁと息を荒くしていた。

 

「……私よりも、大丈夫ではないご様子……コスチュームの上に、更にドレスを着ていますし……あれではもう、修行ですぅ……荒行なのですぅ……」

 

 ミーノは顔を横に向けて、炎を見つめる。

 

「ああ……燃えていますぅ……すぐ横が燃え燃えですぅ……でもきっと、この炎の演出は、キン肉マンルージュ様の心の現われ……内に秘めたる、キン肉マンルージュ様の魂を表したもの……きっときっと、そうなのですぅ! ……ああ、キン肉マンルージュ様……燃えているのですね! 燃え盛っているのですね! あまりの炎の強さに、ミーノは……丸焼けになりそうですが……」

 

 可愛らしい少女の、丸焼きのできあがり! ……しゃれでは済まされない。

 しかし、確かにスロープ上は、地獄のオーブンと化している。少しでも気を抜いたら、美味しくお料理されてしまうであろう。

 

“それにしても、あの炎……やばくね?”

 

“炎が高すぎて、ルージュちゃんがほとんど見えないんですけど”

 

“あれって、絶対に熱いよね? ……絶対、大変なことになってるよ、あれ”

 

“これから試合なのに、なんで自らすすんで、命がけの入場行進してんだろ?”

 

 観客達も気づき始めていた。今、目の前で行われている入場が、生死を賭けた戦いであるということに。

 

「ああ……キン肉マンルージュ様……キン肉マンルージュ様は、大丈夫なのでしょうか……この灼熱の中、平然と歩き続けていますが……」

 

 ミーノは心配そうに、キン肉マンルージュの顔を覗いてみる。するとキン肉マンルージュは、どこも見ていない目で、遠くを見つめていた。そして、何やらぶつぶつと呟いている。

 

「うふふ……成功よ……成功だわ……これだけの演出なら、キン肉マン様にも、キン肉万太郎様にも、顔向けができるよ……キン肉マンの名を持つ者として、恥ずかしく入場になったよ……うふふふふ……さすがは、わたしだよ……」

 

 ミーノの心は氷ついた。入場に賭ける想いの強さは、キン肉スグル、キン肉万太郎以上のものがある。さすがのキン肉スグル、キン肉万太郎も、生死を賭けるほどの入場は、当然だが、したことがない。

 

「ああ……キン肉マンルージュ様……すごいのですぅ……すごすぎるのですぅ……もはや、やりすぎを通り越して……苦行と化しているのですぅ……」

 

 炎に照らされ続けたミーノは、思考能力が極端に低下した状態にあった。そんな半死半生な状態のミーノは、キン肉マンルージュの背中を、ぼんやりと見続けている。

 

「ああ……さすがですぅ……さすがなのですぅ……燃えていますぅ……キン肉マンルージュ様が、燃えているのですぅ……私には見えますですぅ……キン肉マンルージュ様の、燃え盛る魂が……」

 

 確かに、燃えていた。実際に、燃えていた。

 キン肉マンルージュの背中に生えているダンボールの翼は、当たり前であるが、燃えやすい。着火するのは、しごく当たり前のことである。

 

「おおお! 燃えている! 燃えています! キン肉マンルージュ選手の翼が、本当に燃えています! 本物の炎を背負う、まさに炎のプリンセス! ここまでやるのか! すごいぞ、キン肉マンルージュ!」

 

 アナウンサーの声が響き渡る。ミーノも、観客達も、マリでさえも、誰もがキン肉マンルージュの演出であると思っている。背中が燃え盛っているキン肉マンルージュを見ても、それがハプニングであると、誰も気がつかない。そのせいで、誰も消火にあたろうとはしなかった。

 キン肉マンルージュは、かちかち山のファイヤーたぬき状態のまま、気品溢れる入場を続けている。

 

「ああ……熱い……でも、この熱さが、わたしに勇気を与えてくれる……でも……本当に熱い……あっつぅぅぅうううういッ!!」

 

 キン肉マンルージュはカッと目を見開き、物凄い勢いで振り向いた。すると、背中が大火事になっていた。

 

「ああ! 熱い! こ、この熱さは、わたしに火傷を与えてくれるぅぅぅ!」

 

 自分の身に起こっている大惨事に、今頃気がつくキン肉マンルージュ。

 

「熱い! あつい! あっっっつうううぅぅぅうううぅぅぅいいいぃぃぃッ! 大変! タイヘン! マッスルたいへん! へのつっぱりどころの騒ぎじゃないよ!」

 

 キン肉マンルージュは、思い切りスカートをたくし上げ、ドタバタと暴れるように走り出した。

 突然、猛烈な勢いで走り出したキン肉マンルージュ。ミーノはスカートの裾を掴んだまま、宙に浮いてしまう。

 

「ひにゃあああああぁぁぁぁぁ! 走るなら走ると、言ってくださいなのですぅ!」

 

「ひにゅうううううぅぅぅぅぅ! 燃えてるなら燃えてると、言ってくださいだよぉ!」

 

 ひどい勢いで走り出したキン肉マンルージュを見て、アナウンサーは興奮する。

 

「おおおおお! 炎のプリンセス! まるで弾丸のようだ! 炎の弾丸! ロイヤルファイヤープリンセスブリッド! スロープという名のファイヤーロードを突き抜ける!」

 

 キン肉マンルージュはリングの目の前まで来ると、膝を最大限に使って、飛び上がった。

 

「炎のプリンセス、雄雄しく舞う!」

 

 男顔負けの跳躍を見せるキン肉マンルージュ。ドレスのスカートは、ぶわさぁと広がり、スカートの中が丸見えになっている。そしてスカートの裾を掴んでいるミーノは、涙を風に飛ばされながら、歯を食いしばっていた。

 更に、飛び上がった勢いで背中の炎があおられ、手に持っていたブーケに着火してしまう。

 

「ぅあっつうううううぅぅぅぅぅいいいぃぃぃ!!」

 

 キン肉マンルージュは、燃え盛るブーケを持ち続けるのに耐え切れず、両手を挙げてブーケを放り出した。

 

「炎のプリンセス、炎のブーケトスだあ!」

 

 燃え盛るブーケが、観客席に向かって飛んでいく。

 突然、火の塊が飛んできて、観客達は蜘蛛の子を散らすように、必死になって逃げていく。

 

「ごめんなさぁぁぁぁぁあああああいいいぃぃぃ!」

 

 空中で観客に謝りながら、キン肉マンルージュはリングの中に飛び込んだ。その姿は、まさに炎の弾丸であった。

 

「炎の弾丸、リングに着弾!」

 

 アナウンサーの声など届いていない様子で、キン肉マンルージュは着ているドレスを大胆に脱ぎ、メラメラと燃えているドレスをキャンバス上に投げ捨てた。そして、だんだんずだん! と、足蹴にして消火する。

 気が狂ったようにドレスを踏みつけにするキン肉マンルージュを見て、観客とアナウンサーは、やっと状況がのみこめた。

 踏みつけられたドレスは、最後にプスンと黒い煙を上げて、鎮火した。

 しばしの沈黙――

 周囲には、はぁはぁ、というキン肉マンルージュの荒くなった息だけが、聞こえている。

 スカートの裾部分だけになってしまったドレス。そのドレスのスカートを握り続けて、呆然とするミーノ。固まる観客。いつもと変わらず見守っているマリ。

 アナウンサーは目を点にしながらも、ひと言いった。

 

「炎のプリンセス、無事、鎮火」

 

 キン肉マンルージュは涙目になりながら、背中をさすっている。

 

「ううう……ひりひりするよう……」

 

 リングに放り出され、ぺたんとキャンバスに尻をついているミーノは、きょとんとした顔をして、キン肉マンルージュを見つめる。

「キン肉マンルージュ様……コスチュームが焦げていますですぅ……」

 

 ミーノはブラに手を差し込み、ごそごそと探る。そして、真ん中に“肉”と書かれた、大きなうちわを取り出した。

 ミーノは、ぶわさぁ、ぶわさぁと、キン肉マンルージュの背中を仰いだ。

 

「プペプペプペプペプペッ! おまえ、おもしろいのな!」

 

 不意に上がった笑い声に、キン肉マンルージュは辺りを見回す。しかし、周囲にはミーノしかいない。

 

「なんだろ、あれ……人形?」

 

 リング上には、真っ黒い人形が、ちょこんと座っていた。

 

「あの人形が次の相手、ノワールプペですぅ!」

 

 人形は首を上げ、歪んだ笑みをキン肉マンルージュに向けた。

 

「はじめまして、ノワールプペだよー。おまえをころすまでの、みじかいつきあいだけどー。なかよくしてよねー」

 

 ボタンの目で見つめられ、キン肉マンルージュの全身に、冷たい電撃が流れた。

 

「あの子がノワールプペ……なんだろう……すごく……すごく嫌な感じがする……すごく変な……すごく怖いよ……」

 

 

「私も、同感なのですぅ……ノワールプペ……とても悪魔的というか……本物の悪魔と対峙しているような……ひどい違和感に襲われるのですぅ……」

 

 ノワールプペは、のたりと立ち上がる。そして、首を斜めに曲げて、うつむき加減にキン肉マンルージュを見つめる。

 

「さあて、じゃあ、さっそく、ヘンシンといこうかなー」

 

“ざくぅ!”

 

 ノワールプペは、自らの胸を切り裂いた。そして、乱暴に手を差し入れる。

 

「えーと、どこかなー」

 

 ノワールプペは胸の中をかき回しながら、何かを探している。

 

「あ、あったあったー」

 

 ずるりとノワールプペの胸から出てきたのは、真っ黒に輝く悪魔の形をした宝石であった。

 

「あ、あれは……デヴィルジュエルなのですぅ! ノワールプペは……能力の上書きを行うつもりなのですぅ!」

 

 憂い顔でデヴィルジュエルを見つめるミーノに、ノワールプペは顔を向ける。

 

「プペプペプペプペプペッ! さあてモンダイだよー。ボクはいったい、ダレにヘンシンするでしょー」

 

 そう言ってノワールプペはデヴィルジュエルを真上に投げ、大きく口を開ける。そして、ばくんと、デヴィルジュエルを食った。

 

「デヴィルフォーゼッ!」

 

“ぶわわああぁぁああぁぁわわわわわぁぁぁッ”

 

 ノワールプペの口の中から、真っ黒な煙状の気体、デヴィルディスペアが溢れだした。口から吐き出されていくデヴィルディスペアは、ノワールプペの身体を包み込んでいく。

 

「プペプペプペプペプペッ! そうだ、ボクがヘンシンするまでのあいだ、おもしろいハナシをしてあげるよー」

 

 全身を、デヴィルディスペアという名の暗雲に包み込まれたノワールプペは、笑いながら話し出す。

 

「おまえがさー、たおしたさー、グレート・ザ・シゴキはさー、d.M.pにいたチョージンのナカでさー、ゆいいつ、デヴィルジュエルがつかえたチョージンだったんだよー」

 

 ノワールプペの声に反応するかのように、デヴィルディスペアがゆらゆらと揺れている。

 

「すこしまえにねー、d.M.pのイキノコリをあつめてねー、デヴィルジュエルのジッケンをしたんだー。そしたらねー、みーんな、みんながみーんな、しんじゃってさー」

 

 ノワールプペは、まるで楽しい話をしているかのように、笑みを浮かべて話している。

 

「デヴィルジュエルをつかいこなすにはさー、それソウオウのジツリョクがヒツヨウなんだよねー。グレート・ザ・シゴキはさー、d.M.pのメイキングチョージンだったからか、それなりにチシキもジツリョクもケイケンもあったんだよねー。それでも、グレート・ザ・シゴキってばさー、デヴィルジュエルをつかうことはできたけど、つかいこなすことは、できなかったんだよねー」

 

 ノワールプペは悪戯っぽく、クスクスと笑った。

 

「そうだなー、グレート・ザ・シゴキはさー、せいぜい、デヴィルジュエルの60パーセントか、よくて70パーセントくらいのチカラしか、ひきだせてなかったなー。だからさー、おまえみたいなションベンガキチョージンでもさー、たおせちゃったってワケ、グレート・ザ・シゴキはー……でもね!」

 

 突然、デヴィルディスペアから、ノワールプペが飛び出してきた。ノワープペはキン肉マンルージュに突進し、キン肉マンルージュの目の前でピタリと止まった。

 

「ひゃうッ」

 

 いきなりのことで、キン肉マンルージュは反応することが出来なかった。キン肉マンルージュの数センチ前には、鈍く黒光りする、ノワールプペの真っ黒い顔がある。

 

「でもね! でもね、でもね! ボクはね、ちがうんだよ! プペプペプペプペプペッ! ボクはね! デヴィルジュエルのチカラを、100パーセントひきだせるんだよ! すごいでしょ! ほめて! ほめてほめて! たくさんほめてくれたらね! ボクね! うれしくて! うれしくッて! おまえをグッチャングッチャンに、こわしちゃうんだからね!」

 

 キン肉マンルージュの目の前で、ノワールプペは、げらげらと、声高らかに笑い上げた。そして歪みきった顔を、キン肉マンルージュに押し付けるように、ぐいぐいと近づける。

 

「プペプペプペプペプペッ! おまえをころしたらね! ボク、あのおカタにね、ほめてもらうんだ! たくさんたくさん、かわいがってもらうんだ! わーい、わーい! ほめてもらおう! かわいがってもらおう! プペプペプペプペプペッ! ボク、すっごいコウフンしてきちゃったよおおぉぉ!」

 

 ノワールプペは、にたりと笑い、口を大きく開いた。それを見たキン肉マンルージュは、とっさに、後ろに向かって飛び上がった。

 次の瞬間、ノワールプペの口から、大量のデヴィルディスペアが吐き出された。そして、ノワールプペは、再びデヴィルディスペアに包み込まれる。

 

「プペプペプペプペプペッ! さあてモンダイだよー。ボクはいったい、ダレにヘンシンするでしょー」

 




※メインサイト(サイト名:美少女超人キン肉マンルージュ)、他サイト(Arcadia他)でも連載中です。
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