お待たせ(?)しました。
どうぞ。
────慌ただしい喧騒が、CCG13区支部を包んでいた───
「───○○ビルで火災発生!喰種の戦闘と見られる通報が多数寄せられているとのことです!」
「至急、担当捜査官は現場に急行して下さい!」
「ダメだ!規模からして数が足りてない!」
「現場からの報告です!喰種集団《渦潮》の物と見られるマスクを発見とのこと!」
「《渦潮》の拠点の可能性があるとのことです!」
俺は、その報告に眉をひそめた。
《渦潮》は、ここ8区の中でもかなり捕食事件を起こしている喰種集団の一つだ。
その好戦的な姿勢は度々こちらの手を焼いてきた。
そろそろ駆逐に乗り出そう。
コクリアで収監している《渦潮》の喰種から聞き出した情報を、コクリアから派遣されてきた御坂上等捜査官と共に、駆逐の準備を着々と進めていた。
そんな折り、本部から《paradox》の情報が入って来やがった。
しかも、どこから入ってきたのか、奴らが8区入りしたらしかった。
最悪だ。
《paradox》の脅威は、先の13区の作戦での乱入戦を起こしたことからも明らかだ。
奴らは少数にこそなったが、その結束力は依然恐ろしい。
あいつらがいるとなれば、《渦潮》なんて正直構っている暇がない。
《paradox》の方が、出してきた被害は圧倒的であり、危険度は計り知れない。
大陸に集められた喰種捜査官連合との争いでも生き残り、数々の危険な喰種個体を駆逐し、腕のある捜査官を多数刈り取ってきた、戦いのプロだ。
そこらのチンピラ喰種なんざ、それこそエアーズロックの前に置かれた夜泣き石程度のもんだろう。
ん?例えがよく分からない?よく言われるぜ。
…………一体俺は誰と話してるんだよ。
そりゃ俺の中の俺にだよ。
……自分の思考のおろかさ加減に虚しくなってくる。中二病かよ。
中二病だよ言わせんなよ恥ずかしい。
………………ちょっと本格的に恥ずかしくなってきたから考えを打ち切る。
とにかく。
喰種というのは一般の人間にとっては十分な脅威であり、俺達捜査官だってクインケがあろうと無かろうと殺られるときは一瞬だ。
《paradox》への対応をする上で、《渦潮》はまさに目の上のたんこぶだった。
仮に奴らに手を組まれれば、もう目を覆いたくなるような大惨事確定である。
少なくとも、俺は軽く死ぬるだろう。
そろそろ遺書をしたためる準備をしておかにゃいかん、と思っていたところに叩き起こされ、この騒ぎである。
今、《渦潮》どもに問題を起こされるのは非常に面倒くさい。
正直やめて欲しい。眠い。
そして《paradox》は余計なことする前にどっか行け。
俺は眠気覚ましのコーヒーを傾けながら、対策室で次の報告を待った。
現場に行くことも大切だが、本部で待機して指示を出すことも大切。
行かないことの言い訳はしてない。異論反論批判批評は許さな───
「現場の赫子痕を検証した結果、『ヨロイ』の物と判明!《paradox》です!」
「ブーッ!?」
口に含んでいたコーヒーを思わず噴き出した。
「なんでだよ!?」
「そ、そんなこと訊かれましても」
「あーもう畜生ふざけんな死んね!
俺は喰種なんかだいっ嫌いだっ!もう良いめんどくさい寝てくる!」
「ちょっと待てぃ!」
ちっ、どさくさに紛れて現実逃避の二度寝にしけこもうと思ってたのに。
「離せモーガン!俺には行かねばならぬところが!」
「ンン、ボーイ、それは現場のことですかな、
「だーっ、もうめんどくせー!てかボーイゆーな!はぁ………」
コイツは
………いや、こいつは情熱的なやつなのだ。うん。
なかなか優秀な一等捜査官だから、俺の代わりにバリバリ働かs、もとい、研鑽を積ませている。
実家が寺らしいし、これは彼に与えた修行だ。ぎゃーてーぎゃーてー。
……………ふぅ。さて、真面目に現状把握といきますか。
「………現状把握をする。寄せられた情報をよこせ。《paradox》のを優先しろ」
「はっ!」
キーボードをカタカタと打つ音、現場の捜査官からの報告を受ける者、各員が一致団結して事に当たる。
そして厄介なことに、24区の喰種が頻繁に出没している地区でもある。
この土地は、本局付近にこそ及ばないが、喰種への対応が忙しいのだ。
そのおかげと言っちゃあなんだが、8区支部の捜査官はみな優秀だ、といえるレベルだ。
例え、喰種対策局が史上最大の討伐隊を派遣した『赤天狗』駆逐作戦で、単独特攻を仕掛けてくるような頭の沸いている連中だったとしても、やればできる。
はず。
「《paradox》の構成員五体を周辺住民からの目撃情報で確認!
《渦潮》のアジトと見られる、炎上中の建物から出てきたため、《渦潮》担当の捜査班が交戦中!」
「バカヤロウッ!!なんでそんなことしやがった!?」
無謀に過ぎる部下たちの動きを聞いて、椅子を蹴って立ち上がる。
「準特等!すぐに応援を!」
「分かっている!お前ら、出れるやつを総動員しろ!」
「了解です!」
まずい。
いくら喰種同士の抗争後とはいえ、ヤツらの消耗は少なそうだ。
本局から来た情報と照らしあわせて考えれば、《paradox》の構成員は一体も欠けてない。
戦闘後の喰種は、血のせいで興奮している可能性が高い。
高ぶっている敵は、視界が狭まる分容赦なく攻撃してくるだろう。
そして、《paradox》の喰種は仲間への執着が異常に強い。
仲間に手を出されたとなれば、自分らの命を全く省みずに地獄を作り出す。
会議室の扉を蹴り開け、支部の廊下を駆け抜けながら、通信機に怒鳴りつける。
「負傷者の救護を準備!大至急現場に向かう!それまで保たせろと伝えろぉ!」
「ンン、ようやく腰を動かされるのですな!」
隣を走るモーガンが、自分のクインケを片手に話しかけてくる。
「ああ、そうだな」
少し遅すぎたくらいだ。
現場に向かったのは、準特等の俺以上の階の者はいない。上等捜査官の数は本局・24区に次いで多いが、それでも『トーレ』や『黒薔薇』の相手はあまりにも重すぎる。
「しくった」
「らしくもない」
モーガンは俺の呟きに返事をして、もさったい髭を動かして、フスーッ、と鼻を鳴らせた。
支部から少し離れていた現場は、消火活動を行うことができず、火の海となっていた。
「…………うーん、俺達は別に、ヒト喰ったわけじゃないのよ?」
車から降りた俺達の耳に、そんな語りが入ってきた。
そちらの方を見ると、炎に照らされて朱色に染まっている白黒マスクの男が佇んでいた。
纏った衣服の裾から、モーニングスターのような、先端が太くなっている尾赫を伸ばしている。
駆逐レートSS相当の喰種、『トーレ』だ。
その視線の先には、
「ほら、お仲間さんが来たよー」
「………」
「鈴木!」
鈴木上等捜査官が、壁を背にうずくまっていた。
気を失っているようで、ぴくりとも動かない。
「おい、今助けに────」
「ダメですっ、新庄さん!」
と、この場で戦っていたのであろう、羽赫のクインケを構えたまま、斎木一等捜査官が俺を静止する。
「………彼はもう、死んでいるんです」
「なに…………?」
もう一度鈴木上等を見る。目視では、目立った外傷は見られな、い…………!?
「一体何があった………?」
火災が赤々と照らす鈴木上等の体は、あたかも干からびたミミズのような、生気を感じない様になっていた。
「それが…………」
「ん?ああ、それ?俺がいろいろ吸い取ったの?」
ふざけた口調で『トーレ』が切り出す。
「俺が『オセロ』って呼ばれる前は『トーレ』って呼ばれてたんだけど、その前は『ドラキュラ』って呼ばれてたのよ」
「………どういうことだ?」
「…………ヤツの尾赫は特殊なもののようで、あの太くなった部分が人を喰らうのに使われたんです」
それを聞いて、俺はようやく納得した。
「………ああ、そういう」
『ドラキュラ』という呼称、赫子で喰う、干からびた人体。
つまり、『トーレ』の尾赫は、ヒトの体液を吸う、捕食特化型の赫子だ、ということか?
普通の尾赫は持久力に優れていて、なかなか形状が崩れにくい。
それだけに、体液を吸い取るなどと言う、鱗赫に似たトリッキーな使い方は出来ないはずだ。
ヤツの尾赫はただの尾赫ではないということだ。《paradox》の中でも戦闘内容の情報が少ない『トーレ』のことはよく分かっていない。気をつけなければ。
「ま、つまりはそっゆこと。
俺は攻撃されたから反撃したんですよー捜査官さん!これはせーとーぼーえーだー」
相変わらず、喋り方がふざけていて勘にさわるやつだ。
俺は手にもつ尾赫クインケの柄を握り締め、全身の力を抜く。
「フー………お前ら、準備はいいな」
作戦変更だ。
初めは尻尾巻いて逃げようかと思ってたんだが、気が変わったよ。
「フスーッ」「いつでも」「「「はいっ」」」「「了解!」」
頼もしい部下たちの声を背に受ける。
「んれー?やる気なの?
…………まぁいいや。それくらいはなくっちゃね」
肩をすくめると、どうやら戦闘態勢に入ったらしい『トーレ』が尾赫をヒュン、としならせた。
「…………行くぞ」
今日の夜にもう一つ入れます。
では。