東京喰種√D   作:白雫

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お久しぶりです。
昨日投稿すると活動報告で言っておきながら、今日投稿しました。反省してます。
前回の投稿から随分と間が空いてしまいました。すみません。
詳しくは、活動報告に書きました。

ではどうぞ。



第18話 ココロ

 ………カウンターに置かれた椅子に座り、壁に掛けられた時計の針が進むのをぼんやりと眺める。

 最近は、規則正しく延々と、なんの不平不満も漏らさずに自らの役割をこなす時計にばかり、目がいくようになった。

 

 時計の仕事は、単調な変化を続けていくこと。

 秒針が、止まっているようにも見える短針をすっと抜かして、遅々とした歩みの長針を追い越した。一周したら、またいつの間にか先行している二つの針を追い抜かそうとする、その繰り返し。

 

 ………3、2、1。

 今、4時31分になった。閉店まで、あと6時間29分。

 フラワーショップ《スノードロップ》は、昼の10時から夜の23時までが営業時間。仕事帰りにお花を買っていきたいお客さんとか、家事が一段落つく昼間に園芸を嗜みたいお客さんとかをしっかり狙っている。あとは、お出かけ先にお花を持って行きたいお客さんとか。

 

 でも、この営業時間のお陰で、お仕事が終わったらすぐに食事の準備をしてからネオさん達と地下で戦う練習を始めて、夜明け頃に開店の準備をして、お昼の仕事始めまでが睡眠時間、っていう不規則な生活になってしまった。もちろん、食事の量は最低限、昼間に喰種の補食衝動が出てしまわないくらいに収めている。

 食事とかの関係で、規則正しい生活を送れる喰種(グール)なんてあんまりいない。

 昼間に狩りをするなんて危険を冒そうとする喰種は滅多にいない。大抵は、夕方とか真夜中とか、人目に付かなくなるときに狩りをする。特に何もせず、平穏に暮らしていれば、月に一度の補食で事足りる。

 けど、私みたいに毎日赫子を使い、欠損する肉体を補ったりしていれば、昼間に寝て、夜食べに出る、っていう生活になっちゃうのは必然だった。

 

 

 

 

(……暇だなぁ)

 

 本が欲しいなぁ、とふと思った。

 千夜ちゃんと、図書館に行ったり、千夜ちゃんのうちにある本を読んだり。あの時は楽しかった。

 

 中学校に通ってた頃のように、好きなだけ勉強するのも良いかもしれない。

 

(千夜ちゃんたちに、お別れできなかったなぁ)

 

 今会いに行っても、きっと驚かれて、拒絶されちゃうだろうけど。

 皆といたころは、本当に楽しかった。

 食事も、もう死んでしまったヒトの体から貰った肉を、少量食べるだけで済んでいた。

 

 今、私は楽しいのかな。

 

 《paradox》に入ってから、ちょっと前まででは考えられなかったくらいに戦い続けている。

 何人もの捜査官を殺し、敵対した喰種を片っ端から粛正して、挙げ句なんの関係もないヒトや喰種を殺し。

 そのたびに後悔と恍惚の波に呑まれた。

 

 私の手は、いくら洗っても血にまみれていて、千夜ちゃんや他の皆と、もう一度手を取り合うことはできない気がする。

 

 対立する二つを共存させるためのはずが、私達に賛同しない者全てを葬ろうとするこの手が、優しい人間であるみんなと手をつなぐことなんて、到底できない。

 

 自分たちが矛盾していてなお、この世界でその矛盾を貫き通すために、ただそのためだけに、無闇に誰かの命を奪っているんじゃないか。

 最近はそう思うことさえあった。

 

 私を捜査官の追っ手から救ってくれたソーマさんにも、私に戦うことを、傷つけることを教えてくれたネオさんにも、今の喰種としての生活を支えてくれるヘンリーさんやテルさんにも、皆に感謝の気持ちを抱いてるのは確かだ。

 

 でも、だからこそ────

 

 

 

 

 ───と、透明なお店の自動ドアがズーッと開いて、入ってきた人がいた。

 

(あ、ぼーっとし過ぎてた)

 

 私は慌てて立ち上がる。

 

「いらっしゃい………あ、ソーマさん」

 

「なんだよそのがっかりした顔は」

 

「お客様だと思ったんです」

 

 浮かしかけた腰をもう一度下ろして、ソーマさんの顔を見る。

 

「お久しぶりです。その、海外旅行はいかがでしたか?」

 

「海外旅行じゃねえって。昔の顔馴染みに呼ばれて会ってきたんだよ」

 

「それを旅行というんじゃないんですか?」

 

「言うようになったな、アリス」

 

「お褒めいただき、ありがとうございました。お出口はあちらです」

 

「おいおい、随分なご挨拶じゃねぇか」

 

 ソーマさんがくくっ、と笑う。

 ソーマさんが外国の知り合いに会いに行く、と言って去年の11月に日本を飛び立ってから、ネオさん経由でソーマさんの指示を受けて《paradox》は活動を続けていた。

 8区の喰種を大方支配下においてから、私達は24区で捜査官、喰種問わず襲ってくる者を片っ端から殺し続けてきた。

 私が思っていた以上に、24区は危険な場所で、喰種が後から後からうじゃうじゃと湧いてきて、その首を狙う捜査官が少数ながらいた。

 

 なんで、こんなに命を奪わなければいけないの?

 この殺しに意味なんてあるの?

 

 そう思いながら赫子を振るい、彼ら彼女らの死にせめてもの意味をもってもらわねば、と奪った命を全て喰らった。

 

 今の生活に不満が言いたいわけじゃない。

 でも。

 

「俺が何しに日本(コッチ)に帰ってきたと思ってんだ」

 

 ───私は、殺したくて喰種やヒトを殺しているわけじゃない。

 

「はて?また日本でたくさん殺したくなったんじゃないですか?」

 

(……………あ)

 

 自分の考えに集中しすぎて、ついつい皮肉が口からでてしまった。

 良くない、これは良くない、と、ソーマさんの赤くなった(・・・・・)目をこっそりと見やると、

 

「ああ、そうだな」

 

 ソーマさんは、あまりにもあっさりと、にっこり笑いながらそう言った。

 

「俺達の理想は、敵対感情を抱いたままじゃあ絶対受け入れてもらえない。そう言う感情を片っ端から潰さにゃあならんのよ」

 

「……………」

 

「そのための、必要な犠牲だ。殺すしかない」

 

(必要な、犠牲…………)

 

「しょうがないさ、尊い目的とか、素晴らしい構想とか言ったもんは、初めは誰にも受け入れてもらえねーことが多いし、実現するのにも大量の生命が生け贄になるっつうことは歴史が証明してらぁ」

 

 私は…………、私は………。

 

「大体な?自分の意見を通すためには、必ず何らかの力が必要になるし、なんの能力も行動も選べないやつじゃあ、自分の夢を叶えるとか、そんなこたぁできっこねえ───」

 

 ソーマさんが何か言ってるけれど、それが耳から耳へと抜けていく。途中から、何も聞こえなくなった。

 段々と、顔が熱くなっていくのが分かる。

 上頬が(りき)んで、側頭部が痛くなる。

 

(なんで、そんなことを言うの?)

 

 ソーマさんは、必要だからと、しょうがないからと、誰かの命を切り捨てるような方じゃないと思っていた。

 これじゃあ、捜査官と何が違うのかが分からない。

 人間社会を脅かす私たち喰種を、仕方がない、共存できないと決めて殺す喰種捜査官と、なんら変わらない。

 初めて会った頃は、もっと、いがみ合う者達ですらその両方に手をさしのべて、貪欲に助けようとしていたのに。

 なのに。

 

 私は、胸の奥から溢れ出てくるものを止めることができなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからな、アリス、」

 

「───私はっ!!」

 

 一度決壊してしまった思いは、出し切る以外の選択肢がないのだ。 

 心の成長しきっていない少女には、今の生活に対する心の拠り所がすでに終わってしまっていたことを、ただ受け入れることなど出来るはずもなかった。

 

「あなたから、あなたからだけは!!そんなつまらない事を聞きたくはなかったっ!私たちの目的を、殺すことの理由にして欲しくなかった!誰かを殺すことでしか生きられない私たち(グール)を変えようと、いがみ合って、殺し合う関係になっちしまってる世界を、変えられると、そう思ってたのに…………どうしてっ?どうして…………!

 私は、もう、誰かを殺したくない………………」

 

 涙を流しながら一生懸命に言葉を吐くアリスのその言葉に、

 

「……………」

 

 ソーマは、ただ押し黙るだけだった。

 二人以外の誰もいない花屋に、耳に痛い静寂が訪れる。

 シーンとした室内で、ソーマはしかし、アリスを不思議そうな目で見つめるだけ。

 そんな彼の様子を見たアリスは、

 

「………もういいです───」

 

 椅子から立ち上がり、体に掛けていたエプロンを外す。

 そのままスタスタと歩いて、ソーマの入ってきた自動扉の前まで行った。

 彼女はそこで立ち止まり、視線だけを後ろに向けて言った。

 

「《paradox》は、抜けます。さようなら」

 

 そのまま勢いよく、未だ肌寒い夕暮れの下に飛び出した。

 

「お、おい、アリス───」

 

 ソーマがその後を追って店の外に出るも、まだ日の沈まぬうちに喰種特有の脚力を存分に生かして走り去っていったアリスの姿はどこにも見あたらず、ただ少女の慟哭の残り香が漂うばかりだった。

 

 一人ポツンと取り残されたソーマは、左手に持つ袋を見やり、それから困ったように頭をポリポリと掻いた。

 彼は春の夕日に目を細めながら、こう呟いた。

 

「………3月21日(きょう)はおまえの誕生日だろうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、アリスもソーマも、自分達の変化の理由に、最後まで気付かなかった。

 気付くことが、出来なかった。

 




まだブランクのせいで執筆の勘が取り戻せておらず、至らぬところもあると思います。
なにかお気づきの点が御座いましたらお知らせいただけると幸いです。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。
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