ついでに、新章突入です。
第四巻、発売されましたね。
まだ、読めていないというこの心の致命傷を、一体どうしたものでしょうか。
第19話 春雨
サァァァァァァ…………─────
静かに降りしきる雨の中、私は歩いていた。
ここは、どこだろう。
道横に立つ標識などを見ている余裕はなく、ただ
雨霧に邪魔されて視界が悪く、中くらいの背丈の草花の向こうは、喰種の目をもっても見渡せない。
私は、一体何から逃げていたんだろう。
靴に染み込んだ雨水が、びちょ、ぐちゅ、と奇妙な音を立てる。
ソーマさんは、殺したくなって日本に帰って来たのでは、という私の皮肉を、なんの躊躇いもなく自然に肯定した。
信じられなかった。信じたくはなかった。
私が初めてあの人と出会ったときも、ただ捜査官を殺したくて殺しただけだったのかもしれない。そんな推測さえ生まれてくる。
そう考えようとしても、ソーマさんは他者の命を奪いたいだけなんだ、という考えがまるでこびりついたように動かない。
……………私って、こんなに頑固だったっけ?
なんとなく、そんな考えが脳裏を
………違う、ソーマさんは本当にただ『誰かを殺したいだけ』だったんだ。
あの人が、あの喰種が望んでいたのは、ヒトとグールの共存する世界なんかじゃない。両者の壁が取り払われた世界なんかじゃない。それは、私が勝手に幻想していただけだった。
本当は、自分がヒトもグールも関係なく殺したいだけ。
適当な建て前、大義名分を掲げて、それに反対する人を殺していたいだけ。
ただ、そのためだけだったんだ。
そんなことに、私を巻き込まないで欲しかった。
実現する気もないことのために、たくさんの命を踏みにじって────
───今、何かが引っかかったような、そんな気がした。
何か、決定的に矛盾してるような、そんな気が────
───違う、それで間違っていない。
元々、自分が矛盾してることを分かってたんだ。
なにが『paradox』だ。
小説の中でも見たことないくらいのエゴイズム。それがエゴだと分からなかったくらいの。
あんな所から、一刻も早く離れないと。
と、私の歩く道の先から、一台の黒い自動車が走ってきた。
凄い雨の中を傘も差さずに歩く私は、あの車の運転手さんの目にはどう映るんだろう。
そう思いながら、私は白線の内側へと進路をずらし、馴れた鞭状の赫子を背中から12本だして寄り合わせて束ね────
────っ!!?
咄嗟に傍らの草むらに身を投げ、攻撃のための形をとっていたRc細胞達を必死で散らした。
熱くなった片目を抑えて、体の内側から出てくる何かを抑え込むように背を丸める。
ブゥゥゥン、というエンジン音と共に、急に倒れた私のことなど気にせずに、何事もなく自動車は走り去っていく。
傍を通るときに、水溜まりの水を盛大に撥ね掛けてきた。
高鳴る胸の鼓動を感じながら、ハア、ハアと必死で呼吸する。
私は今、何をしようとしていたの?
体が熱い。冷たい雨が、しとしとと私の体に当たる。雑草に乗った雨水が、混乱する私を落ち着けてくれる。
落ち着いて、改めて思う。
私は、あの場面で。
どうして赫子を出したりしたの?
「もう、嫌だよぉ…………」
誰も、壊したくない。
誰も、殺したくない。
その、はずなのに。
こんな私なら、死んだ方がましだ。
「………おや?」
朝から降り始めた雨は、暗闇に包まれる夜になってもぐずぐずと降り止まずにいた。
星月の光が無い夜は、心許ないオレンジ色の明かりを灯す外灯だけが、起伏の多い草原に通る一本道を途切れ途切れに示す。
「この
そんな外灯と外灯の間の、光の全くない場所に倒れている少女を、一人の老人が見つけ出した。
偶然通った自動車のライトが照らした場所の、不自然な盛り上がりが老人の目に留まったのだ。
3月の冷たい雨の中、倒れたまま動かない少女を見つけた彼は、白く、薄くなった頭を掻いて、
「どうしたものか………」
と、思案顔になるのだった。
如何でしたでしょうか?
ところで、ダンまちも新刊が発売されましたね。
…………私に死ねと?