夏休みに入ります。受験生(仮)なので、投稿スピードが落ちてしまいます。
なるべく頑張りますが、遅れてしまっていたら、「あ、あいつ補習か塾に囚われてるかだな」と察してやってくださるとありがたいです。
───振るわれる拳を体を右に少しずらしてよける。追撃してきた蹴りは、仕方なく後ろに下がっていなした。
「そうそう、」
テルさんは、わたしにアドバイスを与えながら攻撃をしかけ続けてくる。
「そんなかんじ!」
テルさんは、見た目がチャラくても、純粋に戦うことが好きなのかもしれない。
彼の動きについていって、それに対処しようとするだけで、自分のすべき行動が分かってくる。
後ろへ下がったわたしに、テルさんは蹴り出した足でそのまま深く踏み込んできて、みぞおちへ左ストレートを放ってくる。
まだ着地もままならなかったわたしは、そのまま容赦なくぶっ飛ばされて柱に背中を打ちつけた。
「うぐっ」
呼吸が詰まり、背中がジンジンと痛む。
おなかに深く入った拳は、数刻前ならもう再起不可能になっていた気がする。
それでもなんとか、足に力を入れて立つ。
わたしは強くなりたくなったから。こんな所でへこたれるわけには行かない。
壁から背を離して前を見る。
「相手を良く見てっ」
休む暇なく襲いかかってきたテルさんの跳び蹴りを横に転がって回避。
今までやったことのないような動きだけど、捕食のお陰か、自分の体が思うとおり以上の動きをしてくれていた。
わたしは、わたしが自分で狩って自分で食べた彼の命を無駄にする気は少しもない。
「目をしっかり、離さない!」
床から腕で跳んでさらに下がる。アドバイスに従ってテルさんを見ると、テルさんが彼の甲嚇を出して殴りかかって来るところだった。
昆虫の爪のように尖った二本の嚇子を腕近くに固定してある嚇子だ。
テルさんの体の動きを阻害することはなく、甲嚇特有の遅さが全くない。あれで殴られたらとても痛いことは既に経験済みだった。
テルさんは、
「おっそぉい!」
と叫びながら襲いかかってくる。
ピンチに際して、集中力が増していき、視界がだんだんと遅くなってくる。
慌てて嚇子を出して防御するも、朝顔の蔓のようなわたしの羽嚇では一瞬ももたず、そのまま突き破るように突破された。羽嚇は、防御ではなく攻撃に特化しているのだから、そうなって当然だ。今の対応は下策だった。
でも、
(ここから………!)
集中して彼の攻撃の軌道を見る。
左足を後ろに引き、右腕を彼の右腕の甲嚇の外側に合わせるようににもっていって、体を交錯させる。テルさんの勢いに合わせて、彼の甲嚇にわたしの腕をぐいっと押しつけて体軸を左にずらし、いなしきった。
(………よし!)
「まじかよアリス、やるなお前!」
そう、わたしを褒めるテルさん。
先ほどの攻撃の勢いで少し遠くに行っていた。やっぱりうまく避けられて良かった。
テルさんは崩れた姿勢のまま、左の軸足を沈めて回し、体をこちら側に向けて走り込んできて、今度は嚇子付きでわたしに殴りかかる。
でも。
(───それは、もう見ましたっ)
テルさんは手加減をしてくれているから、攻撃はそれほど早くない。少しだけ考える時間があった。
先ほどと同じ攻撃。違いは嚇子の有無。
わたしはその少しの間にちっぽけな作戦を立てて、さっきは右にずらした体を前に持って行く。
そして、
「おっ!ついに使ってきたな!」
捻れた羽嚇を2つ打ち出しながら、彼に向かって走り込む。
テルさんは腕の甲嚇でわたしの攻撃を弾いて、ニヤリと笑う。
でも、わたしの嚇子はそれでは防げない。
バンッ
「おわっ!?」
テルさんが弾いた瞬間に、捻れた蕾が花を咲かせ、瞬きの間も空けずに爆ぜた。その衝撃で、ダメージこそ与えられなくともテルさんの体勢を崩して注意をそちらに向けることには成功した。
(やったっ!)
初の試みでうまくいくかは分からなかったけれど、なんとなく爆ぜることをイメージして撃ったら成功して、油断していたテルさんのスキを突くことができた。
今がチャンスだ。
「っ!」
わたしは背中から出した蔓を、満を持して三本だけ、槍のようにして突き出した。
強くなるために、もっと!
(遠慮はしないです………………っ!?)
「よっ!」
しかし、後少しのところでテルさんが身を捻り、わたしの渾身の一撃を回避してしまった。
(しまった………)
爆ぜる蕾が思い通り撃てたことに舞い上がって、その後の槍の攻撃が緩んでしまった。
予想よりテルさんの注意がこちらに残っていたということだ。
(やっぱり強い………)
「アリスっ!今のすごかったぜ!一瞬ヒヤッとさせられちまったよ」
と
でも確かに、確実に強くなっていることを体感できた交わりだった。
(………いい感じ)
「ありがとうございます、テルさん」
わたしは感じられた手応えに拳をぎゅっと握りしめる。
わたしは、隠れ家を捜査官さん達が襲っていたとき、弱いからといって逃げ出してしまった。
それなのにわたしは、苦しい時に隠れ家の皆に心の中で助けを求めてしまった。
なんて酷い心根だったろうか。都合のいいときだけ協力を求めて、大切な人たちが窮地に立っているときに手を出さないなんて。
しかしながら、わたしがあそこで飛び込んでいったとしても結果を変えられなかったことはもちろんわかっている。
だからこそ、わたしは自分の身を守ることで精一杯だった自分の非力を後悔した。
それで、わたしは自分で自分の命を守れるくらいの力が欲しい、そしていつか、わたしの守りたい命のために戦いたいと思えるようになった。
苦しくても、今はこの訓練で少しでも戦う為の技術を身につけたい。そんな思いがわたしの背中を押して、わたしの嚇子を動かしてくれる。
最初は地獄だと思っていたこの環境が、いつの間にか居心地がいい場所になっていた。
「拳を交えれば言葉なんかいらねー!」と、この訓練が始まったときに言っていたテルさんの気持ちが、だんだんと分かってくる気がする。
今はとにかく、無性に戦いの練習がしたかった。
「………っ」
テルさんが飛び出して来るのに合わせて、わたしも勢い良く前進する。
蔓を伸ばせば、この人のいる高みにさえも届く気がした。
♤ ♤ ♤ ♤
─────学校の門を過ぎて、校舎へと向かう。去年建て替えられたばかりのそれは、青みがかったグレーで、夏の朝のよく晴れた空にマッチしていた。
………そのスカッとするような青色も、今の私の心には不快な物に思えてくる。
「おはよー」「あ、おはよう!」「ねーねー朱里ぃ、宿題見せてぇ」「自分でやんなよ……まあ見せるけど」「今日の部活遅れっから!」「翔太、委員会忙しいのな」「まあな!」
校舎に入る生徒達の、中学生らしい明るい声が耳に入ってくる。
「田中ぁ!金曜の掃除サボったでしょ!」「げ、委員長!逃げろー!」「あ、こら!」「はは、またあいつらかよ」「慶ー、今日の放課後空いてる?」「塾行く前なら少し暇だよ」「32のアイス食べにいこうよ!」「ああ、いいよ」
そのはしゃいだ声、酷く耳障りです。とても煩い。
玄関で靴を履き替え、階段を上る。中学二年は、二階の教室だった。
「………」
一呼吸おいて荒れた心を静め、教室の後ろの扉に手をかけ、横にスライドして開ける。
「あ、
教室に入ると後列の座席に座る女生徒が挨拶をしてくる。
「おはようございます、
「ああ、おはよう、鳥海さん」
私と私の後ろにいた男子生徒が彼女に挨拶を返す。
教室の廊下側最後列にある自席に荷物を置いて着席し、一限目の支度をしながら教室を見渡す。
教壇で男女数名のクラスメイトが今週末の遊びの予定を立てながら大声で笑い、窓際の席に座る女子が静かに本のページをめくる。
暢気なものだ。自分達のクラスメイトが喰種の事件に巻き込まれて行方不明になったということを知ったら、彼らはどんな反応をするだろうか。
廊下に響くにぎやかな声に混じって、こんな会話が耳に入ってくる。
「そういえばさ、アリスが先週の金曜ガッコ来なかったじゃん?」
「あ、そうそう、真面目なアリスが無断欠席とか驚きだよね~」
「それで、渋谷さんがどうかしたの?」
「それがよ、俺昨日、アリスん家行ってみようかなって思ったんだけど、どっか知らなかったからさ、職員室行って調べてみたのよ」
「えー?許可もらったの?」
「どうせ勝手にみたんだろだろ?」
「まあな。日曜だったからせんせー少ないし、ちょうど誰もいないタイミング見計らったんだよ」
「やめろよー、個人情報だろ」
「アハハ」
「それでよ、そこに書いてある通りの住所に行ったんだけどよ、あいつの住んでたマンション、喰種が人に化けて住んでたことが分かったんだってさ!」
「えー!?マジ?」
「大マジよ。だって俺、昨日そのマンションで喰種捜査官の人たちがたくさん調査とかしてんの見てきたんだぜ!」
「てかさ、たった一回休んだだけなのにわざわざアリスちゃん家行くとか、
「ち、ちげーよ!そんなんじゃねぇって、あいつがガッコサボるとか、なんかあったかなとか思うだろ!?」
「まあ、思わなくはないな」
「普通にアリスちゃん良い子だしね」
「てことは、渋谷さんは聞き込みとかで忙しくって昨日来れなかったってこと?」
「そうなんじゃない?」
小さくて、真面目で、純粋であどけない。渋谷アリスの評価はだいたいこんなところだろう。
入学以来、欠席どころか遅刻すらしたことのないような真面目な少女。あまり給食を食べないからなのか、小さい体躯だけれども、どういうわけかまったく風邪の類に縁がなく、また運動も勉強も良くやる優秀な生徒だ。
私がこの学校で、否、この世界において家族以外で唯一心を許せる、大切な少女だった。
………本当に、聞き込みで忙しいだけだったら良かったのに。
わたしは机の下で手を堅く握った。
「千夜様、あなたのせいではございません」
「………わかってるわ」
周囲には聞こえないような小声で
私は外面を取り繕うのにはかなり自信があるけれど、この家族であり、私の従者である衛七にだけは嘘が通じなかった。
それでも彼は、私の言葉に素直に引き下がる。
そういった細やかな気遣いが出来るのが、衛七の長所だろう。
私は自分の無力と愚かさに歯を食いしばりながら、始業の鐘が鳴るのを待っていた。
あ、誤字とか、文構成的におかしなところがあれば、お教えくださると嬉しく思います。
では。