ダンジョンでモンスターをやるのは間違っているだろうか   作:BBBs

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久しぶりに


突っ込みたがるあの子

 

 彼女にとって彼は命綱。

 もし手放せば死ぬ、それが約束された環境に身を置かされた。

 ここに居たいと望んでいないし、そもそも自身が何なのかすらわからない。

 ここがどこなのか、自身は何なのか、わからないことばかりの中で唯一わかることが『彼から離れてはいけない』事だった。

 全力で追いかけて、あるゆる者を歯牙にも掛けない絶対的存在の側に居なければ時間を置かずして命を落とす事がわかっていた。

 

 しかしだ、彼女はすでに傷付いている。

 同族(モンスター)と武装した冒険者たち、両方から攻撃されて血を流している。

 じっとしていれば、怪物としての身体能力で出血くらいなら治まっていたかもしれない。

 だが動きを止めない彼の背中を追いかけるために、息を切らしながら追い縋り続けた結果は地面に残す多数の血痕。

 多くのものを失っていた、流れ出る血は体力を、纏わり付く死の気配は心を。

 

 彼女の視界は霞がかかったように、ぼんやりと滲んではっきりと見て取れなくなっていた。

 それでも燃えるような赤と底なしの黒を追いかけて、視界が真っ黒に染まった。

 

 

 

 

 

 次なる獲物を見つけて角待ちしてたら、背中にベシャリとぶつかった。

 何とか体勢を立て直そうと体に手を当て体を支えようとして、ズルリと血で滑ってそのまま前のめりに倒れた。

 ドスっと倒れたっきりピクリとも動かなくなった、血で体を汚されたし、後倒れた音で気づかれたし、困った子だと少々不機嫌になる。

 どうすっかなーこれ、と見下ろす。

 

 しゃがんでよくよく見れば中々の怪我だ、斬られて出来た切り傷、強くこすりつけたような擦り傷、矢かなにかを抜いて出来た刺し傷。

 どうやら俺よりも人気で皆が放っておかないらしい、雑魚に群がられるのは鬱陶しいから可哀想でもあるが。

 ん……? 人気があって群がられる……?

 

 閃 い た !

 

 ピコーン! パリイ! って感じだった。

 これはもう試すしか無いな、むしろ試さないと申し訳ないレベル。

 早速実行しようと立ち上がって振り返ればなんか居た。

 唖然とした表情で見上げてくる人間、何だこいつら。

 

(あっち行けオラァ!)

 

 追い払うための一度の咆哮(ハウル)、それを受けた冒険者たちは世界そのものが揺れたような衝撃を受けて激しく転倒。

 悲鳴を上げて逃げ出す者、腰を抜かしたのか変な声を上げながら這いずって離れようとする者。

 

「ひぃ!?!?」

(忘れもんだぞオラァン!)

 

 這いずる冒険者を掴み上げて、咆哮によって恐慌状態となり仲間を見捨てて逃げ出す冒険者たちへと放り投げた。

 ズドンとぶつかって冒険者たちは纏めて通路の奥へと消えていった。

 邪魔者は居なくなった、ここからは時間との勝負である。

 駆け出したときの衝撃で地面に爆発したような跡を残し疾走、腕をぶん回しながら階層を駆け抜けた。

 すれ違いざまにボッと音を立てモンスターたちの体を抉り、命である魔石を奪い取っていく。

 

 その影響で一時的にこの階層のモンスターは激減、そのおかげか一度も戦闘をせずこの階層を抜けていった冒険者多数居たがどうでもいいので無視した。

 数分と経たずに両腕一杯に魔石を持ったアステリオスが戻ってきて、彼女の横に魔石の山を置いて一つ摘み上げる。

 彼女を仰向けに起こし、まだ辛うじて生きていて呼吸をしているのを確認。

 そして左手で彼女の口を開き、魔石を押し込んだ。

 グイグイと彼女の口の中で指を動かして、喉の奥へと突っ込む。

 

 魔石を摘んで彼女の口へと押し込む、押し込んで押し込んで押し込み続ける。

 魔石の大きさは様々で、小さいものは1セルチから大きいものは5セルチに届く。

 それを1個2個3個、10個20個30個と魔石の山を消化していく。

 押し込んでいる途中、彼女の体が何度も痙攣してビクンビクンと震えていたがお構いなしに押し込み続けた。

 明らかに体内に入りきれない量を押し込まれているのに、彼女の腹は膨れていない。

 

 それもそのはずで、彼女の体内に押し込まれた魔石は体内に入るやいなや物体としての形を失って消えている。

 どうせこのままなら死ぬ、治療は出来ず、する気もない、だったら好きにしていいよね! と言う幸か不幸かやりたい放題に晒された。

 目論見通り行かずに死んだらそれでもいいし、成功して生き延びたらやったぜ! と言った軽い気持ち。

 

 その彼女への魔石を押し込み続ける仕事は、小山になっていた魔石を数個だけ残して終わりを告げる。

 この階層に存在していた大半のモンスターの魔石を一身に押し込められた彼女は、血塗れではあったが傷は完全に塞がっていて静かに呼吸をしていた。

 彼女がダンジョン最強の一角に挙げられる竜種の因子を含んでいたおかげか、この階層に出現する通常のモンスターだったらあっさり死んでいた魔力量を飲み干した。

 成功である、彼女は死の淵から生還して強化種として新生した。

 

 これにはオレサマもご満悦、彼女は生き残ったし強くなった。

 これで人気の彼女はより大人気になって、煩わしい雑魚が彼女に群がってくれるだろう。

 最近特に酷かった、無謀と勇気を履き違えたお馬鹿さんばっかりでうんざりしてたしていた。

 そんな奴らを彼女に押し付けようという魂胆、それなりに強くなれば狩られずにそれなりの時間は雑魚を引き寄せてくれるだろう。

 その間に強そうな、あるいは強くなりそうな冒険者と戯れるのだ。

 

 その目的の第一段階はクリアした、第二段階はこいつが元気よく走り回ってもらわなければならない。

 なのでもう元気になっている彼女の肩をトントンと指で突いて、意識を取り戻させた。

 

 

 

 

 

 ゆっくりと意識が浮上し、青白い瞼を開く。

 ぼんやりとした視界、その端に大きな大きな怪物が居た。

 彼女は驚くことはなかった、なんとなくではあるがそばに居てくれたような気がしていたから。

 顔を向けて、右腕を動かす。

 彼の顔に触れようと手を伸ばしたが、フイっと避けられ、その大きな手にガシッと掴まれ。

 

「ヴォッヴォッ」

 

 無理やり掴み起こされ、立たせられた。

 意識がまだはっきりしないために彼女はふらつく、だがすぐに再度体を掴まれ固定され、額の赤い宝石をゴンッと指で突つかれた。

 

「イタッ!」

 

 衝撃は彼女の頭を貫いた、それこそ額の宝石ごと頭蓋骨が割れたのではないかと思うほどの鋭い痛みだ。

 その痛みを以て彼女の意識は覚醒した。

 

「うっ、うっ……?」

 

 両手で額を抑えながら、彼女は彼を見上げる。

 巨漢の大怪物は赤い瞳で見下ろして、徐ろにズンズンと体の芯まで響くような重さで肩を叩かれた。

 彼女からすれば何がどうなったのか、彼が何をしたいのかまるでわからない。

 わからない尽くしで見上げていれば、大きな手から差し出されたのは紫色の石。

 反射的に受け取った彼女、それを確認した彼はもう片方の手に持っていた石を口の中に放り込んでガリッと噛み砕いた。

 

 そのままボリボリと咀嚼して飲み込む、その後彼女の石を指差して石を噛む仕草をする。

 食え、その一言を表した行動。

 しかし、そう指示された所で直ぐに行動に移せる者がどれほど居ようか?

 彼女も例外ではなく、魔石に視線を落とすも口元へと持ってはいけない。

 それに業を煮やしたのか彼は彼女の手を取り口元へと無理やり移動させ、白い歯をむき出しにしてカチカチと噛み合わせる。

 

 ──食え

 

 有無を言わせない迫力に負けた彼女は、仕方なく魔石を齧ってみた。

 角の尖ったところが欠けやすい、そう思ってカリカリと削るように口の中に入れていく。

 カリ、カリ、と齧りつつ彼女はチラリと彼を見ると、カチカチカチカチと高速で口を動かして白い歯を合わし鳴らしていた。

 

 ──早く食え

 

 催促しているようにしか見えない行動に、彼女は意を決して口を大きく開けて魔石に齧り付く。

 ガキッと音を立てて魔石に歯を立て、そこで止まると思っていた彼女はガチンと歯を打ち鳴らした。

 ハッとして口元から手を離すと手の内に欠けた魔石が、口の中には欠けた部分の魔石があった。

 齧り取れるとは思いもしなかった彼女は動きを止めたが、目の前でカチカチと歯を鳴らされ続けて。

 

 ──もっと食え

 

 彼女は魔石を齧る事しかできなかった。

 結局持っていた魔石を食べ、彼が持っていた魔石も食べさせられた。

 そのすぐ後彼女が感じていたのは奇妙な満足感と、胸の辺りに灯る燃え上がる熱。

 初めて感じるもの、これがなんなのか分からないが決して悪い気分ではない。

 一体何なのだろうと彼を見上げれば、うんうんと頷いている姿。

 

 やけに満足そうな姿、一度彼女の肩を軽く叩いて踵を返した。

 ノシノシと歩いて遠ざかっていく後ろ姿に、当然のごとく彼女は追いかけ始める。

 それに気付いて足を止めた彼、同じように彼女も足を止める。

 肩越しに彼女を見やり、彼女へ向けて鬱陶しそうに腕を振る。

 しかし彼女はその意味を理解できず、また歩きだした彼を追いかける。

 

 数歩進んだ後に足を止め、今度は体ごと振り返る彼。

 追い払うように手を振る、囮が後ろから付いてくるなど運良く助けてやった意味がない。

 軽く吠えてあっちに行けと手を振る、軽くと言っても程度の低い冒険者なら転倒するほどの衝撃波が出ていたが彼女は一歩二歩と後退っただけ。

 そこまでしてようやく彼女は意味に気が付き、一度目を伏せて逡巡する。

 数秒ほどの迷い、だがすぐに決意して視線を上げれば……、そこには誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやー、成功することを祈っとくかー。

 

 そんなことを思いながら、さっさと彼女と別れて下層に移動していたアステリオス。

 悠々と、警戒も何もなく歩いて下へと進む。

 その都度モンスターが湧き出るか、もとから存在していたモンスターが気配を察知してアステリオスへと迫ってくる。

 それを前にして散歩気分で歩きつつ、口を半開きにして涎の代わりに骨まで焼き尽くす業火を吹き溢していた。

 

 呼吸と同じ要領で、軽く息を吸って灼熱の火炎を吐き出して、前方に存在するモンスターやらを焼却していく。

 伸びる炎は10メドルほどの幅のある通路全てを飲み込み、30メドルほど先まで燃やし尽くす。

 天井や壁、床を焦がしながら、角から姿を現したモンスターが炎に飲まれて魔石ごと消え。

 別に生み出されているモンスターも裂け目から姿を見せた瞬間燃え尽きて消えていく。

 途中その地獄を遠目で見た冒険者もいたが、異様な明るさと熱に恐れ慄いて踵を返して逃げ出した。

 

 炎によって黒焦げた通路を進み、オラリオに存在する全ての冒険者にとって死地となりえるダンジョン内を軽快に下りていく。

 5階層、10階層、20階層と下りていった先は広々とした領域。

 階層にして49、地上の冒険者たちからは大荒野(モイトラ)と呼ばれる見晴らしの良い広大な空間。

 そこには単体のモンスターが存在している、それは人型の山羊と言った姿のフォモール。

 この辺りの階層で平均的な能力であり、その他秀でたものを持ち合わせていないモンスター。

 

 一匹二匹ならこの階層まで下りてこれる一流の冒険者ならば全く問題とせず、一撃で打破される程度。

 そう、単体で語るならば全く問題視されない、深層のモンスターとしては弱いと評価される。

 しかしながら、どれもが脅威にしかなりえない深層のモンスターが単純評価で計れるはずもなく、フォモールの真価は単体ではなく複数にある。

 具体的に言えば群れる、それも最低で三桁の数で、多ければ四桁に届く。

 

 そんなぞろぞろと大荒野を彷徨いているフォモールの一匹が、48階層から下りてきたアステリオスに気が付いた。

 気付かれたアステリオスは特に慌てることもなく、両腕を上げて右左と体を傾け背伸びをしていた。

 フォモールが雄叫びを上げる、それは49階層に異物が侵入してしてきたのを周囲に知らせるもの。

 アステリオスへと視線が向き連なるように雄叫びが響き、異物を排除しようとフォモールの群れが動き出した。

 雄叫びを上げる黒い波、そう見えるフォモールたちを前に、アステリオスは両腕を水平に広げて少しだけ前かがみになって背を丸める。

 

 頭も下げて角を突き出す形で、アステリオスは走り出した。

 傍から見れば不格好な走り方だ、それなりに速いがモンスターがはじけ飛ぶような速度ではない。

 そうしてフォモールたちとアステリオスはぶつかった。

 

「ゴォアアアアアアァァァァッッ!?!?」

 

 先頭の一匹目が頭に殴り掛かるもダメージを与えられず、その勢いのままアステリオスの黒々とした角が腹を貫いて根本まで刺さる。

 すぐ隣の二匹目は広げた腕に引っかかり、押し込まれて足が浮いた。

 その後ろの三匹目は一匹目の後ろに重なるように突き出ていた角が刺さり、四匹目は左の腕に二匹目と同じように引っかかって踏ん張れず押し込まれる。

 五匹目、六匹目、七匹目、八匹目、九匹目、十匹目が次々と折り重なり、十一、十二、十三と重なった圧力と押し込まれる力で潰れ始め、二十、三十、四十とフォモールたちが轢殺されていく。

 骨が折れる音、肉が潰れる音、止まることがない圧殺と轢殺、残るのは灰と魔石だけ。

 

 階下への入り口へとひたすら真っすぐ進んでいた足を止め、角に突き刺さってもがくフォモールを掴んで引き千切って投げ捨てる。

 全身フォモールの血でまみれ、それを払うためにグッとガッツポーズしただけで全身から炎が吹き出た。

 半径数百メドルの範囲で周囲に広がる炎、群がっていたフォモールは当然炎に巻かれる。

 炎が地面を撫で付けるように吹き抜け、周囲を赤く染め上げた。

 それだけで浴びていた血は蒸発し、周囲の地面は赤熱して溶け、フォモールたちの姿は燃えてなくなり、足に付いた赤熱した土を足を振るいながら落として次の階層へと下りていく。

 

 さらに五階、十階、十五階層と勝手知ったる何とやらと足取り軽く、モンスターを撫で殺しながら前人未到の領域へと下りていく。

 軽快に階層を下げていった先に、広大でありながら幾つかの部屋に分かれた空間。

 その中の一つに目的の場所があった。

 広々とした空間の中央には、巨大な水晶の樹木が生えており、その樹木から液体が溢れ出ていた。

 透明な液体、それは水ではなく食料、それもダンジョンに存在するモンスターたちの命の源。

 

 なみなみと溢れ出ている液体が、樹木を中心として溜まって大きな湖と化している。

 その食料の湖目当てにこの階層のモンスターたちが、それぞれに飽食に明け暮れて過ごしている。

 言わば憩いの場に近い、あえて争わないというよりも食べることに夢中で周りを気にしていないのだ。

 そんな所に食事のために寄ったのではないアステリオス、おもむろに湖へと近づいてそのまま湖の中へと入っていく。

 膝、腰、胸、首と全身を浸らせて水中へと潜る、平泳ぎで水底に沿うように泳いで底に近い水晶の樹木の根本。

 

 足を底に着け樹木を掴み、アステリオスは口を開いた。

 変化はすぐ現れた、湖の中に大きな水流が生まれた。

 樹木から溢れ上から注がれ水面が僅かに波立つだけであった湖に、腰まで浸かれば水中に引きずり込まれるかのような猛烈な勢いの流れが出来上がった。

 同時に水面では水位が急激に下がり始めた、文字通り水量が猛烈な勢いで減っていく。

 それに気がついたモンスターたちはまだ食い足りないと慌てて下がっていく水面を追いかけた。

 

 食料の湖はすり鉢状、水位が下がれば自然と水面は小さくなる。

 水面を追いかければ湖の中心にある水晶の樹木に近づくことになり、空間に対するモンスターの密度が跳ね上がっていく。

 減る食料と求めるモンスター、考える必要のないほど供給があった食料が急激に減り、需要が上回った時争いが起きる。

 そこは地上の生き物と地下のモンスターと言えど変わらない、欠かすことが出来ない必要なものであるために何としても手に入れようと、競争相手を排除しようとするのはおかしくはなかった。

 その上モンスターの方が直情的であるために、他の手段の模索や話し合いなど起きるわけもなく弱肉強食であるために当然のごとく潰し合いが始まった。

 

 憩いの場から一転して争いの場になった、灰が飛び魔石が転がる、そして構わず下がっていく水位。

 ざざざと水が引いていく内に、それを仕掛けたものが水面から頭を出していた。

 口元までで水位の低下は止まり、見えたのは頬を膨らませた牛の頭。

 パチパチとまばたきして、周囲で争っているモンスターたちへと顔を向け、パカっと口を開いた。

 

 その開いた口から巻き起こったのは、モンスターの強靭な肉体を打ち砕く濁流だった。

 高位のドラゴンのブレス、そう言って差し支えない水流がモンスターたちを薙ぎ払った。

 実際には食料の液体を、肺活量と身体強度に任せて口の中に押し込んだだけだった。

 その膨大と言える水量の殆どがその口の中、凄まじいまでに圧縮されていた液体に一つの出口を与えると弾けるように飛び出すのは当然のこと。

 

 吐いている途中で口を窄めれば、液体は口元と同様に細くなって鋭利な刃物となった。

 容易く音を超える速度で液体が飛び、射線上に居たモンスターを通り過ぎた。

 それに気が付かず他のモンスターを攻撃しようと足を踏み出し、その反動で体がずり落ちた。

 視界が傾き、強烈な痛みを感じて灰となり消えていく。

 

 モンスターたちの潰し合いと、時折飛んでくる超圧縮された液体で次々とモンスターたちが灰と魔石になり消えていく。

 一匹、また一匹と数が減っていき、あらかたこの場で弱かったモンスターが消えて、残るのは運の良かった屈強なモンスターたち。

 とは言え、アステリオスは別に生き残っていたモンスターたちに興味があったわけではない。

 向かってくるモンスターたちに顔を向け、右から左へ、流れが扇状になるように大きく口を開いて頭を振った。

 瞬間的にモンスターたちは液体に轢き殺され、地形を抉りながら洪水が過ぎ去った。

 

 残るのは濁流の轟音と、どぼどぼと口から液体を垂れ流すアステリオスだけ。

 モンスターの憩いの場による虐殺、それを行った理由は特に無く、強いて言えば邪魔したくなっただけ。

 幾ら殺そうとも幾らでも湧いてくる、だったら幾らでも殺ってもいいよね!

 地上の冒険者たちが聞けば頬を引きつらせるような、本当の意味で戯れに殺して回るアステリオスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ経ったか、遊び(さつりく)に飽きて上層へと足を向けていたアステリオス。

 その途中で感じ取ったのはあの感覚、もっと上の方で無謀にも立ち向かってきた奴の気配。

 なんだかちょっと気配がでかくなってる気がしたから、ちょっと見ていこうかな? と言う軽い気持ちで行き先を変える。

 40、30、20と登っていき、18階層で壁にぶつかった。

 気配を追ってきたら森の中にあった岩壁の向こうから感じる、ついでに色々と倒れていたりして何かあったのは確実。

 

 あ、これはなんか面白いことが起こってるな。

 ビンビン来ていた、間違いない。

 いやぁ、俺ってば本当にいいタイミングだなぁ。

 つい笑ってしまって声が出る、とりあえずは俺の声に反応した木の裏に隠れている奴を見てみようか。

 

 飛ぶ、走ると音が鳴るので腕を使って木の幹を押しながら衝撃を殺し、木の間を跳ねるように移動。

 目標の木の前に着地と同時に木ごと裏にいる存在を抱きしめる。

 

「グガッ!?」

 

 おっと、力入れすぎたか。

 危うく木と一緒に抱き締め殺す所だったので力を抜く。

 そうして頭を動かして木の裏に居る人物を覗き込む、見えたのは緑色の被り物とそこから覗く尖った耳。

 

(お、耳が尖った奴は珍しいな)

 

 今まで殺してきた奴らの中に居なかったわけではないが、数えれば少ないことが分かる程度には見なかった。

 なんとなく左腕を離してこいつの左耳を引っ張ってみる。

 

「ぐっ……」

 

 引っ張った反動で頭も一緒に付いてきたのですぐに手放す。

 木に抱きついたままだと面倒だったので、掴んで木の裏から引っ張り出す。

 居たのは緑を混ぜたような金髪で青い瞳の耳長、どっかで見たなこいつ。

 

「やはり……、違ったか……」

 

 思い出そうと首を傾げたら、なんか言い始めたので耳を傾ける。

 

「………」

 

 それ以降沈黙、おわりかーい!

 こいつ自体、特に気にならないから手放す。

 時間を無駄にした感じもするが、話なんてする気が無いんで気配がある方へと向かう。

 

「……お前は、一体何なんだ……!」

 

 自分、自己紹介とかする気ないんで……。

 自己アピールを要求してきた耳長から離れ、気配がある方、と言うか気配上に登ってるんだけど。

 まあいいや、追いかけよっと。

 

 そのまま小走りで壁に突っ込むと岩壁が吹っ飛び、石造りの通路が現れ、その奥にはどっしりと佇む金属の壁、壁の左右には悪趣味な彫像があった。

 

(こういうのってセンスの欠片もないって、それ一番言われてるから)

 

 そんなことを呟きながら徐に右腕を後ろに引き絞る、握った拳と連動して前腕と二の腕、そして肩周りが少し膨れる。

 振りかぶって握った拳がボッと音を立てながら叩きつける、すると耳障りな轟音を鳴らしながら金属の壁がわずかに奥に移動し、拳は壁にめり込んでいた。

 もしこの壁、門を作った者が見たら間違いなく悲鳴を上げていただろう。

 妄執の果てに壊れないようにと世界最硬の超希少金属(オリハルコン)で作られた門が、たった一撃の拳打で歪み凹んでしまったのだから。

 またこの変形で開閉機能は消失、鍵を使ったところで二度と開けることは出来なくなっていた。

 

 それを成したアステリオスは、力を抜きすぎたか、と壊れなかった壁にもう一発、より力を込めて拳を打ち込む。

 すると轟音とともに拉げて穴が開く、その穴に両手を差し込んで左右に開くよう力を込めた。

 途端に悲鳴が上がる、冒険者でも、モンスターでもない、無機物の悲鳴。

 身を引き裂かれて金切りの悲鳴、曲がる、捻れる、超常の剛力が人間(ヒューマン)亜人(デミ・ヒューマン)たちの技術の結晶を容易く破壊する。

 扉に拳をぶつけて約5秒、それだけの時間で不壊が破壊された。

 

 その超常を見てしまったエルフ、リュー・リオンは等身大の穴を開けて奥へと進んでいくアステリオスを見送ることしか出来なかった。

 

 




牛視点なのでベルとかウィーネの出来事はまるまるカット、一応原作とは違います、後でその違いを書く。
ウィーネ、強制的に強化種に。
牛が幹ごとリューを抱き締めた時、紳士だからおっぱいには触れていない。
オリハルコン壊れる、『ほぼ壊れない』せいで壊れてしまった!

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