ダンジョンでモンスターをやるのは間違っているだろうか   作:BBBs

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見られたあの子

壁が裂けるようにして出てくるモンスターを見ながらこの地下は一体なんだろうか、とそう考えることはよくある。

考えてたら飛びかかってきた狼男っぽいのを空中で掴んで肩にかけて腰を落とす。

明らかにおかしいレベルで暑かったり寒かったりする場所がある、俺には意味ねぇんだけどね。

湧いてきてるモンスターだってそうだ、元々生きてるのが湧いてきてるというよりその場で生まれてきていると言ったほうがいい。

 

(出たー! 牛男くんの猛牛Vターンタックルだ!!)

 

湧いてきた10匹ほどの狼男っぽいのを高速で往復して跳ね飛ばす、吹き飛んだのは体が大きく変形するレベルで壁に叩きつけられて絶命。

残るのは俺が掴んでいるいまにも死にそうな奴だけ、そいつを壁に叩きつけて頭を潰した。

そうすれば体が崩れて紫色の宝石っぽいのが地面に転がり、それをせっせと拾って左手に集める。

 

(……美味い!)

 

テーレッテレー、実際は下にいる奴らよりもかなり不味いけど。

宝石っぽいのを口に放り込んで、キラーンと白く輝く歯でボリボリと噛み砕く。

俺の主食である紫色の宝石っぽい物、なんで宝石っぽい物を食って生きていられるのかはよくわからないけどそういう物だから悩んでも仕方ない。

多分、おそらく俺の体の中に似たような紫色の宝石っぽい物があるんだろう。

 

この地下に降りてくる人間たちは、壁や天井などから湧いてくるモンスターを倒しこの宝石っぽいのを拾って帰る。

俺の主食とは違う利用価値があるんだろう、使い道などまるでわからないが何かに使えるんだろう。

まあ俺にはどうでもいいけど。

……ん? 俺の中にも同じ物があるってことは人間に狙われるってことか。

それはそれでいいけど、勘違いした弱いのが押し寄せることもあるかもしれんか。

 

戦いたいとは思うが、ずっと相手にするのも面倒くさいな。

今だって離れたところからチラチラ見られてるし、好奇心は猫をも殺すってことわざ知らないのかよ。

 

(……キィィィヤァァァァァ!! ノゾキヨォォォォ!!!)

 

叫んで振り返れば、俺の様子を伺っていた人間と目と目が逢う瞬間好きだと気付いた。

気付かれたと判断した人間はすぐさま身を翻す、風が吹き抜けるかのような速度で駆け出した。

 

(ィヤッフゥゥゥゥゥゥッ!!)

 

ズドンと地面を蹴って走り出す、風よりも早く、風をぶち抜いて逃げる人間を追いかける。

ところでミノタウロスは基本パワータイプだ、その腕力で殴ったり捕まえて握りつぶしたりするのが攻撃の手段。

その代わりなのかそれほど俊敏性は高くない、おそらくミノタウロスが出現する階層で問題なく活動できる人間なら容易に攻撃を回避出来るだろう。

先日俺の同類を初めて見たが、姿形が似ているだけで別者だった。

そう断言してしまうほど頭が弱く貧弱で鈍い、今逃げてる人間がそこら辺で出てくるミノタウロスと俺を一緒に見ていたらどうなるか。

 

(待ってよぉ〜)

 

何度か角を曲がり直線を爆走し、追いかけっこに興じるその姿。

チラリと背後を確認するたびに距離が縮まり大きくなる俺の姿を見て、逃げる人間の表情には恐怖の感情が張り付いていた。

人間は湧いてくるモンスターを回避し、ひたすら全力で逃げに徹する。

あの人間からすれば背後からは耳を劈く咆哮とけたたましい足音、そしてモンスターが弾き飛ばされて潰れる恐ろしい音が聞こえているだろう。

プライバシー侵害の罪は清算されなければならない、この程度じゃ済まさんゾォォォォォ!!!

 

必死に足を動かし逃げていた人間が角を曲がった瞬間一気に減速したのはわかった、そしてその原因が別の人間にある事もわかった。

要は曲がった角の先に別の人間がいて、それを避けようとして転倒したというところだ。

だからと言って追いかけるのをやめるという選択肢はない、追いかけ曲がり角の壁にぶつかりながら無理やり止まる。

 

「に、逃げろ! 早く!!」

 

突然現れた俺を呆然と見上げる人間たち。

逃げていた人間は怪我をしたのか足を抑えながら立ち上がる、同時に他の人間に警告を飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

ギルド本部は頭を抱えたくなっていた、アステリオスの動向を探らせていた冒険者が帰ってこなかったことに。

同時に入ってくる被害者の数にも悩む、冒険者たちに警告を大々的に出していたのにこの結果。

黒焔のアステリオスには決して手を出すなと、ギルド職員にも口を酸っぱくして言わせてもいた。

それでいて手を出す馬鹿が予想以上に多い事も悩ませる種。

考えようによっては警告を出してからそれほど日にちが経っていない、どうしてこんな警告を出したのか正しく認識していないが為の被害とも言える。

まだしばらくは黒焔のアステリオスによる被害は出続けるだろうと判断されていた。

何せ元々はミノタウロスだ、多少強くなったところでどうにでもなると考えているのが大半だった。

 

中には偶然遭遇した者たちもいるだろう、それで攻撃されず生き残った者たちもいた。

その冒険者はアステリオスの威容に震え上がってなにも出来なかったと答えた、そしてその者たちに共通するのはミノタウロスが出現する15階層に到達していない者が大半を占め。

逆に被害にあった冒険者たちはLv.3や4といった15階層を超えれた者たちばかり、そこから導き出されるのは大元のミノタウロスを討伐出来るか否かの認識であると思われた。

言わばミノタウロスと言う見た目に油断と慢心をして攻撃を行い、返り討ちにあい無残な死に様を晒した。

原因としてはそんなものだろう。

 

ギルド本部としてはダンジョンに潜る冒険者を止めることはできない、出入り口からモンスターが飛び出てくるなら話は別だが。

ただダンジョンの管理やダンジョンから持ってきた魔石の売買などを行うだけであり、冒険者がダンジョンに潜るのは危険を承知した上での自己責任となる。

それでも将来有望なLv.3や4が大きく数を減らすのは色々と困る、だからもたらされた情報を大きく公開することを決めた。

数少ないLv.5の冒険者がアステリオスと戦い負けたこと、戦闘における敗北した冒険者の無残な遺体など。

アステリオスに対する危機感を煽る為に色々と出した。

 

「アステリオスと戦い、首から上を失った冒険者」

「アステリオスと戦い、鎧の上から胸を貫かれた冒険者」

「アステリオスと戦い、上半身を吹き飛ばされた冒険者」

 

そう言った冒険者が出ているので、絶対に手を出さないように気をつけてくれ。

それがギルド本部に出来る最大限の行動、そしてもう一つの計画も動き出していた。

それは『黒焔のアステリオス討伐計画』である。

そもそも上層階に深層級のモンスターがうろついてること自体がおかしいのだ。

冒険者に追いやられて上がってくるモンスターもいることはいるが、深層級のモンスターがダンジョン出入り口にほど近い階層をうろついているなど予想できようものか。

 

この黒焔のアステリオスが長々と上層階に居座られたら、下級冒険者はダンジョンに潜ることを控えかねない。

攻撃しなければ無害、なんて絶対とは言えないがためにドロップアウトする者もいずれは出てくる。

魔石の産出数も大きく減るだろう、質は低くとも数は多いのが下級冒険者だ。

その数が積もり積もっていまの魔石産出数に繋がっている、その下級冒険者数が大半の魔石産出数と直結しているために早期の討伐計画でもあった。

故にギルド本部は戦闘系の有力なファミリア、またバックアップに製造系や医療系ファミリアに黒焔のアステリオス討伐の協力を強く要請した。

こうして前代未聞のギルド本部主導の『黒焔のアステリオス討伐計画』が動き出していた。

 




主人公が冒険者を追いかけてる時の姿勢は、開いた手を両方前に突き出して雄叫びをあげながら自動車よりも速く走ってる感じ。

やっぱ人間側の描写っているかしら。

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