ダンジョンでモンスターをやるのは間違っているだろうか   作:BBBs

3 / 10
喜ぶあの子

(ムムム)

 

 こう、ざわざわするな。

 言葉にすれば「・・・・風が、・・・・くる!・・・・」って感じ。

 この感覚は嫌いじゃない。

 うん、むしろ大好きだ。

 

(もっと熱くなれよ!)

 

 ……あらやだ、ちょっとテンション上がりすぎちゃったわ。

 なんかいっぱい出てきたからついついもぎ取り過ぎたわね。

 誰も拾うの手伝ってくれるの居ないから捨て置くしか無いわ、MOTTAINAIけど面倒臭いから仕方ない。

 いくつかを拾って口に放り込む、バリバリと噛み砕きながら歩き出す。

 多分、飽くなき闘争はまだ来ないだろう。

 

 もう少しぶらりとしてようか、そうしたら向こうから来るだろう。

 明らかに俺は邪魔だろうしなぁ……!

 

(グフフ)

 

 シャランラーンとスキップしながら、新しく湧いて出た赤い虫っぽいのを踏みつぶす。

 虫汁ぶしゃーと体液が飛び散るが知らね、てか多すぎて邪魔でしょ!

 

(ほら、あっちいけって)

 

 シッシッと手を振るが、お構いなく向かってくるのでしょうがなく向き合う。

 カサカサと群れて迫ってくる先頭の赤い虫を一匹屈んで捕まえ、ガシガシと音を立てる顎を見ながら頭を引き千切る。

 頭の切断部からボタボタと体液が流れているがまだ死んでいないようで崩れて消えない、なので頭を手放して。

 

(……くらえ! オックスシュート!!)

 

 思い切り蹴飛ばした、だが虫の頭は粉々に弾けた!

 虫の頭ではなく破片でもない、ただの蹴りの衝撃で地面が大きく裂けて虫の大群が吹き飛んだ。

 

(……まいっか!)

 

 邪魔なのは大体居なくなったし、結果オーライだ!

 

(しかし楽しみだなぁ! ほんとぉぉにぃぃぃ!)

 

 何と言うか、楽しみな日を待ちわびる子供みたいだぜ!

 

(ヒャッホォォォォォウ!!!)

 

 足を揃えて勢い良く飛び上がる、一瞬で天井を大きく砕きながら上半身が埋まった。

 埋まり続ける趣味はなく腕の力だけで思い切り天井から抜け出し、地面に向かって一気に降りた。

 

(あ)

 

 超高速で降りたせいか地面が割れる、だが弾丸と化した俺を受け止められるほど地面に包容力はなく──。

 

(あら~!)

 

 そのまま階層をぶち抜いて下に落ちていった。

 

 

 

 

 

(いてててて……)

 

 痛くないけど、言っておかなければならない気がした。

 上に乗っかる瓦礫を吹き飛ばし、無造作に立ち上がる。

 どれぐらい落ちたのか、何枚か抜いたかもしれない。

 いかんいかん、はしゃぎ過ぎだな俺。

 頭を振って砕けて積もった岩の山の上から見渡せば、離れた所になんかでっかい人間っぽいのと普通の人間が数人居た。

 

 どちらも動きを止め、俺を見ていた。

 

「え、う、うそ。 あれって……」

「黒焔の……!?」

(あ、お邪魔でしたか)

 

 ざわ・・ ざわ・・ と人間たちがでっかい方の人間を警戒しつつも俺を見てなんか言っていた。

 とりあえず岩の山から飛び降りれば、なんかでっかい人間っぽいのが雄叫びを上げて向かってくる。

 

(えー、ちょっとそっちの人間と戦ってんでしょー? こっち来ないでよー)

 

 俺の3倍を超える巨体故、ドスンドスンと地面が揺れるぐらいに勢いよく向かってくる。

 それに対して俺は構える……、事もせず右足を膝近くまで岩の地面に突っ込む。

 両手を突き出し突進してくるでかい人間っぽいもの、俺を捕まえようとしているのが手に取るようにわかる。

 ああいった手合は単調だしなぁ、ミノタウロスと一緒で巨体を活かして突っ込むとか、捕まえて握りつぶしたり地面に叩きつけたりとそれしか芸がない。

 なので。

 

(よっ)

 

 突き出した手を掴み返し。

 

(そら)

 

 勢いを殺さず持ち上げて、砕けた岩の山に叩きつけた。

 同時にくぐもった声が聞こえるが。

 

(もいっちょ)

 

 岩の山から引き抜いて、今度は反対側の地面に叩きつける。

 岩の地面が砕けながら、でっかい人間っぽいものが地面に突き刺さる。

 

(あっよいしょ!)

 

 まだ生きているので引っこ抜いてもう一度砕けた岩の山へ叩きつける。

 さっきよりも力を込めたので岩の山が吹き飛び、岩とともにビチャビチャとでっかい人間っぽいものの血らしきものを撒き散らせた。

 

(……思ったよりしぶといな)

 

 じゃあもう一度、とさっきよりもちょっと力を込めて引き抜けば、反動でか右足を突っ込んでた地面が割れて引っこ抜け、グルングルンと回転しながら一緒に空へと舞ってしまった。

 そのまま仲良く一緒に岩の天井にぶつかる、訳もなく天井に足をついて。

 

(そぉい!!)

 

 掴んだ腕をへし折りながら背負い、地面へと勢い良く突っ込む。

 岩の地面が弾ける、煙とともに岩の破片をまき散らしながら。

 出来上がったのはクレーター、その中心には上半身が潰れたでっかい人間っぽいものと俺だけ。

 すぐさまでっかい人間っぽいものが黒い煙となって消えて大きめの宝石っぽいものだけになる。

 それを拾って口に放る、バキバキと噛み砕きながらクレーターを登ると最初にでっかい人間っぽいものと戦ってた人間たちが居た。

 

(獲物横取りしちゃってごめんねー!)

 

 とりあえず謝っておくと。

 

「ひっ!?」

「う、うわぁぁぁぁ!?」

 

 なんか悲鳴あげて逃げてった。

 降りかかった火の粉を払っただけじゃん、失礼な。

 逃げていく人間の後ろ姿を見送って辺りを見回す、ここ通ったことあったっけ?

 

(……覚えてねぇなぁ、まあとりあえず向こうに行ってみっか)

 

 人間が逃げていった方に歩き出す、言った先に上への道が無けりゃ天井をぶち抜きゃいいか。

 そう考えてノッシノッシと歩き出す、人間が逃げた方向には『安全階層』があり、人間が作り上げた『街』が有ることを知らずに……。

 

 

 

 

 

 

「た、大変だっ!!」

 

 一組の冒険者たちが『リヴィラの街』へと、悲鳴のような大声を上げながら入ってくる。

 

「あ、あいつが! 奴が!!」

 

 息を切らしながら、軽く混乱しながらも叫ぶ。

 

「うっせぇなぁ」

 

 喧しい声に、この街でたむろっている冒険者たちが顔をしかめて言う。

 むしろ黙らせるためにぶん殴ってやろうか、そんな気性の荒い者たちも居る。

 うるさい野郎を黙らせようと何人かの冒険者が叫ぶ男のそばに寄るも、その男は更に声を張り上げる。

 

「モ、モンスターが! あの、ギルドが張り出してたモンスターが!」

「あの黒焔よ! 黒焔のアステリオスが出たのよ!」

 

 肩で呼吸をしながら矢継ぎ早に告げていく、それを聞いた冒険者たちは顔を見合わせた後。

 

「はっ! ハッハッハ!」

「ひひっ! 何言ってんだこいつら!」

 

 大声で笑い出す、苦しくて堪らないと腹を押さえるものもいた。

 

「み、見たんだよ! 俺達が戦ってた迷宮の弧王を! ゴライアスを一方的に叩き潰してたんだよ!!」

 

 男は自分を抱きしめるように肩を抱き、その場に膝をついた。

 女もそれに寄り添うように膝をつき、ぶるぶると身を震わせる。

 他の仲間も青ざめた顔でその場にへたり込んだ。

 

「あ、あんなのに勝てるわけないわ……」

 

 その尋常ではない様子に再度顔を見合わせる。

 

「黒焔って、今噂になってるやつか?」

「おいおい、馬鹿言うなよ。 黒焔ってのは今上に居るんだろ?」

 

 ここは18階層だぞ。

 そうだ、一桁の階層を彷徨いてるって話だぜ。

 わざわざ上を彷徨いてる奴が何でここに降りてくるんだ?

 大方、一流冒険者様にやられて逃げ出してきたんだろうよ。

 

 周囲の冒険者達は有り得ないと否定の言葉を出す。

 むしろそうであってほしいとの願望でも有った。

 

「……へっ、聞いた所によるとミノタウロスじゃねぇか」

「確かに、ミノタウロスって聞いたな」

 

 その言葉に何人かの冒険者に余裕の笑みが浮かぶ。

 

「たかがミノタウロス一匹だろ? この街にどれだけ冒険者が居ると思ってんだ」

「そうだそうだ! 袋にしてそれで終わりじゃねぇか!」

 

 それは一気に伝播していく、恐るべきは人間の意識か。

 覆せない数の利、何より自分たちはミノタウロスを倒したことが有ると言う自負。

 それが油断と慢心を生み出し、驚異的との評判を過大評価と認識させる。

 それは余りにも脆く、極大の異常の前には薄紙よりも遥かに柔らかくて薄く無駄なもの。

 だからこそ、それが現れた際の崩壊は一瞬。

 

「……あっ?」

 

 そんな中に集まっていた冒険者の一団の後ろ、ゴシャっと柔らかいものが落ちて何かにぶつかる音に何人かが振り返る。

 

「……え?」

 

 一体何だと振り返ってはじめに見えるのは赤い液体、地面に勢い良くぶち撒けたように広がり、それより少し離れた所に跳ねるように飛び飛びに残る赤い染みの先には。

 

「お、おい……、あ、あれって……」

「ああ? 何だよ」

 

 振り向いていなかった冒険者の肩を掴み、自分が見ている者が間違いでないか確かめさせる。

 

「……じょ、上半身?」

 

 そう、それは人間の上半身だった。

 右手には剣を握ったままの、目を見開いたまま事切れた人間の上半身だった。

 

「な、なん……」

 

 何でそんなものがいきなり現れるのか、人間の遺体であることにじわりと混乱が広まっていく。

 

「落ち着けよ! その何とかって奴が出たんなら武器を取ってこい! 全員で攻撃すりゃすぐ終わる!」

 

 あの上半身は話のモンスターがやったこと、そう判断して一人の冒険者が叫ぶ。

 あまりにも楽観的だった、あるいはそんな奴を倒せたなら二級の冒険者、いや、一級冒険者への道が開けるかもしれない。

 夢見る英雄的な偉業、こんな所で燻っているのはもう終わりだと有り得ぬ夢を見て各々が走りだす。

 それは英断ではなく愚行、だたただその一言に尽きた。

 

「居たぞ! 街に入ってきやがった!」

 

 ノッシノッシと悠然と歩くミノタウロスの姿に誰かが声を上げた。

 あのミノタウロスは俺の獲物だ! いや、俺のだ!

 早い者勝ちとミノタウロスに殺到、いの一番に剣を振り上げて斬りかかった冒険者が一人。

 渾身の力を込めて振り下ろし、ガンっと音を立てて胸に当たった剣が止まった。

 

「……き、効いて──」

 

 それがその冒険者の最後の言葉になった。

 月の無い闇夜よりもなお暗い黒を下地に、燃え上がる業火のように赤い毛並みの腕が無造作に振るわれる。

 それに当たった冒険者は哀れにも上半身と下半身が泣き別れ、下半身は地面を激しく転がりながら木造の建物に突っ込んで破壊し、上半身は血と臓物を撒き散らしながら上空に弧を描いた。

 

「……や、やりやがったな!」

 

 上げるのは虚勢、己を奮い立たせるための声。

 しかしそれは失敗でしか無い、勇敢と無謀は似て非なるものであるからだ。

 

「やっちまえっ!」

 

 雪崩れ込むように攻撃を仕掛ける冒険者達の雄叫びは、僅か十秒足らずで悲鳴に変わった。

 剣で斬りかかった者は、身長が五分の一になって地面にめり込んだ。

 槍で突きかかった者は、逆に槍を掴まれて30メドル以上の高さへと飛んで200メドルもある断崖の下へと落ちていった。

 弓で射かかった者は、死んだ冒険者が手放して転がる剣を拾い投げつけられて胸に大穴を開けた。

 その他諸々、数十名ほどの冒険者が瞬間的に命を散らした。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

 

 その一瞬で積み上げられた死を目の前に、受け入れられず無謀にも攻撃を仕掛ける者と、無慈悲なる恐怖に負けて悲鳴を上げながら逃げ出す者に分かれた。

 前者と後者、生死を分けたのは悲しきことか、冒険者であれば乗り越えるべき恐怖であったのは皮肉であろう。

 蜘蛛の子を散らすようにミノタウロス、黒焔のアステリオスの周囲から逃げ出して穴が開く。

 アステリオスは周囲を見渡す、歩みを邪魔する者が他にいないか確認するように。

 その確認が終われば周囲に転がる遺体を無造作に踏み潰しながら足を出し。

 

「ヴォ?」

 

 アステリオスが声を出して視線を足元に落とした。

 凍っていた、踏み出して左足が遺体を巻き込みながら凍っていたと認識した瞬間、まるで巻き付いていくかのようにアステリオスの全身を包んで氷像へと変化させた。

 バキバキと軋む音が鳴り終わっての静寂、未だ隙を突いての一撃を狙っていた愚者たちが覗き込む。

 あるのは氷に閉じ込められ、ピクリとも動かなくなった黒焔のアステリオス。

 動かないモンスターの姿を認識しはじめた冒険者達が喜びの声を上げ始める、モンスターを倒したんだと。

 

 歓声が湧き上がる、やっぱり大したことなかったじゃねぇかと大口を叩くものも居た。

 だからこそだ、輝く希望が眩しければ眩しいほど、絶望は全てを飲み込むほど底無しに広がる。

 そうして歓声を響く中に負けないほど、絶望の音が鳴り響いた。

 突如氷が砕けて何事もなかったかのようにアステリオスが右足を踏み出す。

 その光景に水を打ったように静まり返る、それを認識しているアステリオスは胸を逸らしながら息を吸い。

 

「──ヴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 天に響く雷鳴に勝る咆哮を上げた。

 その大声に、比較的近くにいた冒険者は激しく突き飛ばされたように転倒する。

 叫び終えたアステリオスはわずかに屈伸し、飛んだ。

 飛んだ先は明らかだった、数秒もない滑空の後に着地したのは少し離れたところにある一つ上の段差から凍結の魔法を撃ち放った冒険者の前。

 

「は、え?」

 

 数十秒に渡る詠唱から対象への行使、当てた! 私が倒した! これって間違いなく偉業だわ!

 そう喜びに溢れて、輝かしい未来に思いを馳せていた時には死が目の前に有った。

 引きこまれそうなほど赤々とした、暗闇に浮かぶ炎のような瞳が冒険者を射抜く。

 なぜ魔法を当てたモンスターが目の前に居るのかわからない、混乱の内にその大きなアステリオスの手が冒険者の頭にそえられる。

 それはグリグリと、父親が小さな子供の頭を撫でるような動かし方。

 

 そうして冒険者は膝を付いた、首から上を無くして。

 アステリオスはその手にあって、呆然とした表情のまま絶命した冒険者の頭を放り捨てる。

 そして先程よりも深い屈伸の後、数十メドルもの高さに飛び上がって崖下に消えていった。

 

 

 

 

 

 この事は当然ギルドにも届いた、死者は約30名。

 建物への被害はわずか数棟、大規模な破壊の跡は一切なかった。

 この被害の少なさから黒焔のアステリオスはリヴィラの街を意図的に襲ったのではなく、ただ通り掛かって反撃しただけだと思われた。

 事実攻撃しなかった者は見向きもされず、黒焔のアステリオスは魔法を当てた者を見つけてわざわざ殺しに行ったと言う。

 攻撃されたから反撃した、言わば正当防衛のような感覚ではないかとも推測された。

 

 では、やはり攻撃を仕掛けなければ無害なのでは?

 なら攻撃していない者が襲われたのは一体どういう理由だ?

 攻撃していないと虚偽を申したのでは?

 だが戦ったLv.5の冒険者は殺されなかったと言うぞ。

 最初に襲われたというLv.1の冒険者のはどう説明するんだ。

 

 推測を重ねるだけの確証のない無駄な問答。

 進展のないそれを経た後、結局脅威であるモンスターとして討伐することは変わらない。

 何より協力を要請した各ファミリアからの返答から、より討伐の方向へと傾く。

 各系統のファミリアから色好い返事を貰えた、それこそ協力を要請した上位のファミリアのか半数以上が参加する旨を伝えた。

 Lv.6と5を複数揃えるロキ・ファミリアや、オラリオ唯一のLv.7を有するフレイヤ・ファミリア。

 鍛冶系トップとも言えるヘファイストス・ファミリアもその要請に応じ、医療系もポーションなどのアイテムを万全に揃えて参加する。

 

 オラリオ総意とも言える黒焔のアステリオス包囲網は完成されつつ有った。

 ただ当の牛頭人身は感覚だけでそれを察し、階層をぶちぬくほど心躍らせて楽しみにしているとは誰にも予想できなかった。

 

 




凍結を抜けだした主人公の一言
「凍って凍死するようなミノタウロスだと思った? 残念! 絶対零度でも寒くないミノタウロスちゃんでした!」

主人公のお気に入りの場所はダンジョンの『闘技場』
理由は延々と三國無双出来るから

あとアニメのオッタル謹製ミノタウロスと色合い似てるけど、主人公はもっとはっきりと赤と黒に分かれてます、それこそ毛並みが光ってるようにみえるくらいに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。