ハイスクールD×D もう一人の紅髪   作:多騎雄大

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今回は殆ど原作通りに進みます。


下僕にも色々とあるんだな……

「二度と教会に近づいては駄目よ」

 

 ある放課後、部室で一誠が直立不動なままリアスからの説教を受けていた。

 

「…………」

 

 それを俺はソファに寝そべりながら見ていた。

 

 やれやれ。あいつにもこういう神話とはそういった事を教えておいた方が良いかね? そうしないと気がついた時には死んでいそうだし。あーあ、やだやだ。

 

 さて、何故我が愚弟こと兵藤一誠が我が義兄弟の主でもあるリアスに説教をされているのか? それは少し前の事に起因する。

 

******

 

「おーい一誠? 我が愚弟よー? 何やってんだー」

 

 一誠に声を掛けるが、当の本人は「おう……」や「ああ……」などと要領の得ない返事ばかり。

 

 珍しいなこいつがこんな感じになるなんて。

 

 まだ部活が始まる前、少し校内を散策していると、窓から外にある椅子に一誠が座っているのが見えた。

 

 いつもの変態二人組と一緒では無かったので、変だなと思って外に出て行ったのだが。

 

 うーん、何だコレは? 一誠がこうなるとは。まるで……

 

「まるで、町を散策していたら自分にもろタイプの金髪美少女のシスターに会って一目惚れしたみだいな」

 

 俺がそう言うと、今まで殆ど反応が無かった一誠が慌て始めた。

 

「え、ちょ、ま、え? 兄貴!? 何で居るのっ? てか、何で分かったんだ!?」

 

「えー……」

 

 おいおい、一誠が秘蔵しているコレクションを偶々見て、一番上に置いてあったのが金髪シスターだったからそう言っただけなのに。当たるとはな……。

 

「まあ、悪魔であるお前が聖なる使徒であるシスター様に一目惚れとは……まあ、話せ」

 

「え、でも……」

 

「次は言わん。話せ」

 

「……あい」

 

 迫力有る笑みを浮かべると一誠は直ぐに折れた。ふっ、ちょろいな。

 

 少し躊躇いつつも、一誠は語り出した。

 

 まず、自分の契約相手がどうも変な相手ばかりで萎えていたときに町を散策していたそうだ。

 

 ……うん。契約者が変な相手が多いのはドンマイとしか言いようが無い。

 

 で、意気消沈しながら歩いていると、後ろからぶつかってくる人物。

 

 ご丁寧に「はうわっ!」何て漫画でしか聞きそうにない言葉を添えて。

 

 そして、後ろを振り向くと、ヴェールを付けたシスターらしき少女が一人。

 

 で、風に吹かれてヴェールが取れるとあーら不思議。そこにはとんでもない美少女がいるとさ。

 

「……何と言うか、お前、ある意味エンカウント率すごいと思うぞ」

 

「まあな。で、問題はそっからなんだ」

 

 その後、この町の外れにある教会に赴任したと言うから其処まで連れて行くことになったのだが……

 

「ちょっと待て。教会? あの町外れにある教会か?」

 

「え? ああ。どうかしたか?」

 

「いや……」

 

 妙だな。たしかその教会は数年前に老神父が無くなってから誰もいない無人の廃教会になった筈なんだが……新しいヒトが赴任したのか?

 

 って、今はそれを聞いているんだな。

 

「何でも無い。続けてくれ」

 

「分かった。それでな」

 

 連れて行こうとした矢先、目の前で男の子が転んで怪我をしたらしい。そして、その金髪シスターちゃんが駆け寄って怪我した部分に手をかざすと、淡い緑色の光が現れ、瞬く間に男の子の怪我が治ってしまったそうなのだ。

 

「……それってもしかしなくても十中八九神   器(セイクリット・ギア)だろうな。驚いたな。治癒系の神   器(セイクリット・ギア)もあるんだな」

 

「兄貴もそう思うか。でさ、結局その後彼女を教会まで送り届けたんだよ」

 

「成る程ね……」

 

 取り敢えず色々と言いたいことがあるが、一先ずはこう言っておこう。

 

「一誠……お前、バカだな。分かっていたけど」

 

「ひでえ!? 話せって言うから話したのに何で罵倒されなきゃいけねえんだよ!?」

 

「いやだって教会だろ? 天使の手先だろ? お前、悪魔じゃん。種族的な敵対関係だろうが。それともアレか? 種族を越えた禁断の愛ってか? というか、悪魔が教会に近づくなよ」

 

「うぐぅ……まあ、俺も教会に近づいただけでやたら滅多に寒気がしたしな」

 

 ぐうの音もで無さそうな一誠だが、正直良かったと安堵している部分が俺の中にあるのも分かる。

 

 悪魔となってから色々と聞いた事だが、天使サイド。つまり、教会側にはエクソシストが存在する。

 

 中には悪魔を見つけたら問答無用で殺しに掛かってくる危険なヤツも居るそうだ。

 

 教会の目の前まで来て何も無かったのは不幸中の幸いってもんだ。

 

 が、こんなことが二度とあってはいかん。

 

「取り敢えず一誠。この事はリアスに報告するぞ」

 

「うえ……マジ?」

 

「マジだ。取り敢えず説教はされてこい」

 

 俺が説教しても良いけど、こういうのは家族ではなく他人がやった方が案外効くもんだ。その点ではリアスは適任だろう。

 

「ほら、行くぞ。善は急げだ」

 

「この場合はそうは言わないと思うけど……」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ! 何でもありません!」

 

******

 

「――分かった? 今回は偶々良かったけど。次は無いものだと思いなさい」

 

「はい……以後気をつけます」

 

 案の定、リアスに説教された。

 

 けれど、リアスも一誠を心配してこそのお説教だ。一誠もそれが分かっているから甘んじて説教を受けてんだろうけど。

 

 ……しかし、今は廃教会となった場所に神   器(セイクリット・ギア)らしき物を保有したシスターが赴任した、か。何かありそうだな……。

 

 

 ……後でリアスにそれとなく言っておくか。

 

「あらあら。お説教は終わりましたか?」

 

「朱乃、どうかしたの?」

 

 リアスがそう言うと、朱乃は少しだけ顔を曇らせて言った。

 

「大公から討伐の依頼が来ました」

 

******

 

 はぐれ悪魔。主である上級悪魔を殺害、もしくは主の元から逃走した悪魔の通称を指す。まあ、簡単に言ってしまえば野良犬ようなモノだ。

 

 悪魔たち及び、他勢力からも疎まれる存在で、見つけ次第討伐ーーつまりは殺害しろとの事だ。

 

 それで今回、リアスの人間界での領土とも言うべきこの街にはぐれ悪魔の一体が迷い込んだそうなのだ。それで、俺たちに討伐の依頼が来たそうだ。

 

 真夜中。殆どの人が寝静まっているだろう時間。俺たちは廃屋の中を歩いていた。

 

 この薄気味悪いとしか言いようがない場所にはぐれ悪魔がいるそうだ。

 

 廃屋を歩いていると、生臭い鉄の匂いがしてくる。これはーー

 

「血の匂いか……かなり濃いな」

 

「……はい」

 

 隣の塔城ちゃんも顔を顰めながら言った。

 

 件のはぐれ悪魔って奴、相当やってんな。早く終わらせたい。正直、こんな所さっさと抜け出たい。

 

「夏蓮、イッセー。いい機会だから悪魔としての戦い方を経験しなさい」

 

「た、戦い方? あの、俺、兄貴みたいに戦えませんよ?」

 

「まあ、夏蓮もまだ戦えないでしょう」

 

 即答か。まあ、今の俺じゃまだ分からんしな。

 

 俺の神   器(セイクリット・ギア)は間違いなく戦闘用だが、使い方がイマイチ分からん。こういう戦いを経験していくなら色々と知っていかないといけないだろう。

 

「けれど、悪魔の戦い方を見ることは出来るわ。今回は下僕の特性をしっかり学びなさい」

 

「特性……下僕にも色々種類があるのか?」

 

 俺が質問すると、リアスが頷いた。

 

「そうね。夏蓮には触り程度で教えておいたけど、いい機会だから二人には悪魔の歴史も交えて教えましょうか」

 

 そこからリアスのレクチャーが始まった。

 

 大昔ーーと言っても数百年前らしいが--に悪魔、神が率いる天使、そして堕天使の三すくみによる大きな戦争があったらしい。

 

 大軍勢を率いて、どの勢力も気が遠くなるほどの時間を争っていたそうだ。

 

 だが、その戦争はどの勢力もかなり疲弊しただけで勝者が出ない、つまりは痛み分けのまま、数百年前に終わったそうだ。

 

 悪魔側も相当な打撃を受け、二、三十の軍団を率いていた爵位持ちの上級悪魔や、純血の悪魔も大量に亡くなったそうだ。

 

 生き残った悪魔たちも、最早軍団を保てないほどに激減してしまった。

 

「そこで、悪魔は他の勢力に対抗するために少数精鋭制度を取ることにしたのその過程で出来たのが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)……」

 

 聞かない単語だ。悪魔専門用語かな。

 

「爵位を持った悪魔が人間界のボードゲームの一種であるチェスを下僕の特性として取り込んだのよ。悪魔への転生者の多くが人間であることの皮肉も込めてね」

 

 へえー。って転生者の多くが人間? つまり他にも種族がいるって事か? まさか妖怪とかか?

 

「チェスになぞえて主となる悪魔が『(キング)』。この中では私に値するわね。その下に続くのが『女王(クイーン)』、『戦車(ルーク)』、『騎士(ナイト)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』とあるわ」

 

「はー、悪魔も色々と考えているんだな」

 

 俺は感心するように言った。

 

「この制度は悪魔たちにはとても好評だったの」

 

「好評ねえ。確かに中々面白いアイディアだけど」

 

「競うようになったのよ。最初は自分の眷属自慢から実戦方式になってきて、今では『レーティングゲーム』と呼ばれるゲームが大流行しているの。このゲームの結果次第で、悪魔の地位や爵位にまで影響されるようになってきている程にね」

 

 何と……悪魔界において国技みたいになっているのか。悪魔界も色々とやっているな。

 

「私はまだ成熟していないから公式のゲームには参加出来ないわ。だから当分ゲームをする事は無いけど、必ずやるわ」

 

 おうおう、リアスの目が燃えてんね。よっぽどゲームに参加したいみたいだ。

 

 成熟か、人間でいう成人の事かな?

 

「成る程ね……ん? そう言えば俺たちの駒は一体何なんだ?」

 

「二人の駒は--」

 

 そこまで言って、リアスは言葉を切って一気に真剣な表情になった。

 

 っ!……近いな。どこだ、上か? 横か?

 

 俺たちに近づいているであろう気配を探りながら、俺は辺りを見渡した。

 

「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

 ……臭いに不味いとか美味いとかって無いと思うけど。単純に臭いの良し悪しだと思うんだが……俺だけか?

 

「はぐれ悪魔バイザー。あなたを消し飛ばしに来たわ」

 

 おおっ! 堂々としているねリアスは。それなりの場数は踏んでいるようで。

 

 ――ケタケタケタケタケタケタケタケタケタ――

 

 不気味な笑い声が辺りに響き渡る!

 

 ……マジで怖い状況だなおい! 普段なら間違いなくいたくない場所だよホント。

 

 待てよ……コレからも悪魔やっていくならこんな事ずっと続けるのか? うわあ、めんどくせえ。

 

「……どうかしましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 塔城ちゃんが不思議そうにこっちを見るが、余計な心配はさせない方が良いよな。主に俺の尊厳の為。

 

 そんな事を考えているうちに大きな足音が奥から聞こえてきた。

 

 やがて、闇から上半身裸の女性が現れた。

 

 普通にそこだけなら思わず反応してしまうかもしれない。だが、そんな反応を示すことは、絶対にあり得ないだろう。

 

 何せ、その上半身裸の女性の下半身は巨大な獣の体をしているからだ。

 

 下半身は四足で尻尾も蛇みたいなのが動いている。

 

 さらに両手には槍らしき得物。

 

 まさしく化物。そう言うのが相応しい風貌だ。

 

 これがはぐれ悪魔……力に溺れた者の末路か……怖いな。

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「こざかしいわ小娘が! その紅髪と同じように体を鮮血に染め上げてやるわああああぁぁ!!」

 

 ……すんげえ雑魚臭がするセリフだな。そこのはぐれ悪魔さーん。あなた、今自分で自分の死亡フラグを立てましたよー。

 

「雑魚ほど吠えるわね。祐斗!」

 

「はい!」

 

 リアスの命を受け、木場が動き出す。

 

 速いな。目で追いつくのがやっとなぐらいだ。

 

「夏蓮、イッセー。さっきのレクチャーの続きをするわ」

 

 む、ちゃんと聞いておくべきだな。今後に関わるだろうし。

 

「祐斗の役割は『騎士(ナイト)』、特性はスピード。どんどん速くなっていくわ」

 

 言葉通り、木場のスピードはどんどん速くなっていく。

 

 凄いな。今の俺じゃ躱すのがやっとだろう。

 

 はぐれ悪魔に至っては見ることも出来てないんだろう。槍を振り回しているが、全然当たる気配が無い。

 

「そして祐斗の武器は剣」

 

 見れば、木場の手には西洋剣があった。

 

 鞘から抜き去ると刀身が煌めく。

 

 ……良い剣だ。安物とは違うな。

 

 木場が剣を構えると、一気に目も止まらない速さで動き出した。

 

「ぎあああああああああああ!?」

 

 次の瞬間、はぐれ悪魔から痛みの声が上がる! 見れば、はぐれ悪魔の両腕が槍らしき得物と一緒に切断されて血飛沫を出していた。

 

 ……良い腕だ。翠と同等。いや、それ以上の技術を持っているな。

 

 うーん、一度手合わせしたいものだ。

 

 けどまあ、成る程。『騎士(ナイト)』のスピードと剣の才能を組み合わせているのか。

 

 ん、見ればもがき苦しんでいるはぐれ悪魔の足元に塔城ちゃんの姿が!

 

「次に小猫。あの子の特性は『戦車(ルーク)』。その特徴は」

 

 リアスが言い終わるうちに、はぐれ悪魔が塔城ちゃんに気がついて巨大な足を上げる!

 

 ってまさか!

 

「小虫めええぇえっ!」

 

 激昂したはぐれ悪魔が巨大な足を塔城ちゃんに向けて振り下ろす。

 

 い、いかん! 塔城ちゃんの華奢な体じゃ……。

 

 だが、俺の心配は杞憂に終わる。

 

 はぐれ悪魔の足が地面にくっついていない。少しずつ持ち上がって行く。

 

 見れば、塔城ちゃんがググググとはぐれ悪魔の足を持ち上げつつある。

 

「『戦車(ルーク)の特性は単純。ばかげた攻撃力と防御力。あの程度の力では小猫は潰せないわ」

 

 ……いやいや、最早筋力とか完全に無視しているよなあれ。何、悪魔は能力で筋力をカバーしてんの。やだなもう。

 

「……ぶっとべ」

 

 言うやいなや、塔城ちゃんははぐれ悪魔を吹っ飛ばした。

 

 ……無表情のロリっ娘で怪力属性か。よく分からんな、うん。

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」

 

 リアスの言葉を受けて朱乃がはぐれ悪魔に近づいていく。

 

「朱乃は『女王(クイーン)』。私の次に最強の者『兵士(ポーン)』『騎士(ナイト)』『僧侶(ビショップ)』『戦車(ルーク)』、全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」

 

「ぐうううぅう……」

 

 はぐれ悪魔が朱乃のことを睨み付ける。

 

 が、睨まれた当の本人は相変わらずのニコニコスマイルを浮かべるだけだ。……けど、その笑みが何やら普段とは違うような気が……。

 

「あらあら、まだ元気みたいですね? それなら、これはどうでしょう?」

 

 朱乃が天に手をかざす。

 

 刹那、空が光り輝き、雷がはぐれ悪魔にたたき込まれる!

 

 

「あががあああ!!」

 

 激しく感電するはぐれ悪魔。その体は見ただけで重度の火傷を負っているのが分かる。

 

「あらあら。まだ元気そうですわね? なら、これはどうですか」

 

 次の瞬間、はぐれ悪魔に再び雷が襲う!

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

 最早断末魔をあげるしか無いはぐれ悪魔。

 

「うふふふ。まだまだ行きますわよ」

 

 そう言って三たび雷をはぐれ悪魔に叩き落す朱乃。

 

 ドSだ。俺の目の前に間違いなくドSがいる。怖いよ。さっきとはまた別の恐怖が俺の中を横切るよ。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なのよ。火や水、氷に雷といった自然現象を起こすことなどね。そして朱乃はS。究極のSなのよ」

 

 いや、もうやめてあげなよ。はぐれ悪魔敵なのに可哀想に見えてきたよ! 恐いだけだよ!

 

「怯える必要はないわ、二人とも。朱乃は味方にはとても優しいから」

 

 その言葉を信じたいが……。

 

「うふふふふふ。どこまで私の雷に耐えられるのかしらね? まだ死んではダメですよ? トドメは私の主なのですから。おほほほほほほほっ!」

 

 ……高笑いしているよ朱乃。味方には優しいからとか全然信じにくいわ、うん。

 

「朱乃、その辺にしておきなさい」

 

 リアスの言葉で、ようやく朱乃が雷を放つのを止める。……少し不満そうだったけど。

 

 トドメは朱乃の言う通り、リアスがさすらしく、はぐれ悪魔に近づいていった。

 

 この時、俺ははぐれ悪魔が醜悪な笑みを影で浮かべていることに気がついていなかった。

 

******

 

「何か言い残す事はあるかしら?」

 

 この時、私に油断が無かったと言えば、嘘となってしまうだろう。

 

 私、リアス・グレモリーは私の領土に侵入したはぐれ悪魔を討伐するために、眷属を引き連れて討伐に向かった。

 

 元々、特に強さをもったはぐれ悪魔では無かったようなので、今回悪魔の戦闘を始めて経験する夏蓮とイッセーに体験させるのが目的だった。

 

 私の予想通り、はぐれ悪魔バイザーは大した強さを持っておらず、普段通りのやり方で事足りた。

 

 あとは私が消し飛ばすだけ。そう思った矢先だった。

 

 顔を上げたはぐれ悪魔がニヤリと笑った。その笑みはどこか醜悪で、まるで嫌がらせを思いついた者の笑みだった。

 

 私はその笑みに何か嫌な予感が横切った。

 

 その予感は最悪な方面で当たった。

 

「一人は道連れにしてくれるわああああぁああああっ!」

 

 そう叫ぶや否や、はぐれ悪魔は首だけ離れて、飛び出す!

 

「っ!」

 

 私に最後の特攻をするのかと思い、腕で体を守るように前に出す。

 

 だが、はぐれ悪魔は私の横を通り過ぎ、後ろに向かっていく。

 

 まさか! 私は慌てて後ろを振り返る。私の後ろには今回、悪魔の戦闘を始めて経験する二人が――夏蓮とイッセーが!

 

 案の定、はぐれ悪魔は夏蓮とイッセーに向かって行った。突然の出来事に私も、朱乃達も反応が出来なかった。

 

 まずい! 彼らが、夏蓮が!

 

「死ねえええぇえええ小僧っ!」

 

 はぐれ悪魔が最後の力を振り絞って夏蓮に迫る。

 

 しかし、

 

「――…………あ?」

 

 一瞬の、はぐれ悪魔の呆けたような声。私達も一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。

 

 夏蓮に迫ろうとしていたはぐれ悪魔の頭を途中で止まっており、やがて左右にずれた。

 

 そして大量の血飛沫を上げて、地面に落ちていった。

 

 その二つに分かれた顔には、何が起きたのか理解出来ていない顔だった。

 

 私は呆然としながらも、夏蓮の方を見る。

 

 突然のことに呆気にとられているイッセーの隣で、夏蓮が自分の神   器(セイクリッド・ギア)、『灼 輝 の 龍 刃(グロリオ・ドラゴ・エッジ)』を逆刃にして右手で振り上げたまま止まっていた。

 

 それを見て、私は何が起こったのかようやく理解した。

 

 単純なことだ。自分に迫ってきたはぐれ悪魔を、夏蓮は神   器(セイクリッド・ギア)を展開して、下から斬り上げたのだ。

 

 だが、それが今の彼にとってどれだけ驚くことに値するか。

 

 彼が武術を嗜んでいることは彼の口から知っていた。一度型の練習をしている所を見せて貰ったこともあり、なかなかの腕前を持っており、祐斗や小猫にも引けを取っていなかったと思う。その事から余計に眷属に欲しくなったのは此処だけの話だ。

 

 だが、彼はまだ悪魔に転生したばかりで、こんな経験は無いはず。そんな状況で落ち着いて神   器(セイクリッド・ギア)を展開して、襲いかかってくるはぐれ悪魔の頭を真っ二つにするなど、あり得るのだろうか。

 

 はぐれ悪魔の返り血を全身に浴びた夏蓮はどこかボンヤリとした表情で辺りを見渡した。

 

 ゾクリ……。

 

 私は彼の姿を見て、恐れより……畏怖を覚えた。まるで、血まみれの状態が彼の本来の姿なのかと思ってしまうほどに。

 

 だが、そんな雰囲気は直ぐに霧散してしまった。

 

「――あーリアス」

 

「え、あ、あの……」

 

 突然夏蓮に声を掛けられて私は思わず動揺してしまう。

 

 い、いけない! 私は夏蓮の主なのよ? その主が眷属に声を掛けられたからって動揺してはいけないわ。

 

「って、大丈夫なの夏蓮? 何処も怪我は無い!?」

 

「ああ。それについては問題無いんだが……」

 

「無いんだが……?」

 

 指で頬をかくと、困ったように彼は言った。

 

「魔力とかで水とか作れない? 血が体中に付いて滅茶苦茶気持ち悪いんだ」

 

 ……取り敢えず、彼の体に付いている血を洗い落とすことから先決のようだ。




今回、初めて主人公以外の視点でやってみましたがいかがでしょう? 正直、あんまし自身がありません。

ちょうどこんぐらいが良いかと思い、此処で区切らせて貰います。次回で主人公の駒を明かします。
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