ハイスクールD×D もう一人の紅髪   作:多騎雄大

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非日常の始まり

「うーむ」

 

 休み時間、俺はあることに関して悩んでいた。

 

「どうかしたの、夏蓮君。そんな深刻そうな顔をして」

 

 横に座っているリアス嬢が心配そうに聞いてくる。どうやら、顔に出ていたようだ。

 

 そういえば、リアス嬢はオカルト研究部なんて妙な部活の部長をやっているんだよな。

 

 以前、そのオカルト研究部に誘われたこともあったが、断ったんだよな……。……その後も何度も誘われているけど。

 

 折角だし、少しリアス嬢の意見を聞いてみよう。

 

「実はだな、少し一誠、もとい愚弟に関して悩んでいてな」

 

「あら、また何か問題起こしたのかしら」

 

「いやいや、それに関しては特に問題は無いんだ。やったら後で俺が制裁すればいい話だし」

 

「制裁って……まあ、良いわ。それで、どうしたの?」

 

「それが……」

 

 アレは一誠のデートの次の日のことだった。

 

 一誠のデートの日、俺は用事があったために夜遅くまで家に帰ることが出来なかった。

 

 帰った時間は既に十時を回っており、一誠は疲れたと言って、眠ってしまったそうだ。

 

 デートの感想でも聞かせて貰いたかったのだが、寝てしまってはしょうがない。

 

 明日にでも聞こうとそう思い、俺も就寝に付いたのだが……。

 

『なあ、兄貴。俺、昨日デートしに行ったんだよな』

 

『……はい?』

 

 次の日、俺の部屋に来て真剣そうな表情を浮かべてそう言う一誠に対して、俺は咄嗟に言葉が出なかった。

 

 ……いやいや、それ以前に何言ってんのこいつ? え、マジでおかしくなったか?

 

『一誠……あんまりに楽しすぎて、記憶が吹き飛んじまったのか? それはそれでマジでやばいぞ』

 

『兄貴は本当に俺の事どう思ってんの!? 頭がアレなヒトとしか思ってなくね!? 俺そろそろ泣くよ!?』

 

『うるさい、一旦落ち着け。何がどうなっているのかちゃんと説明しろ』

 

『うぐ、実は……』

 

 *

 

『……つまり、デートは順調に進み、夕焼けが差し込む公園をラストに、ゲームなら此処でキス! と言うような状況に入ったと』

 

『うん、まあそんな感じ』

 

『そして、いざ! キスをしようとしたら、何か彼女に殺されたと』

 

『ああ、腹をブスリと刺されて』

 

『…………ふー』

 

 其処まで話を聞いて俺は溜め息を付くほか無かった。

 

『一誠、普通に考えろ。一介の女子高生が高校二年生の健全なる男子の腹をブスリと刺せる凶器を持っていると思うか?』

 

『いや、ナイフとか有れば……』

 

『お前の話を聞いている限りだと、一発で致命傷になったんだろ? 血がトバトバと出てくるほどに。さすがに、普通の女子高生は持っていないと思うぞ、そんな兵器』

 

『いや、兵器を持っているようには思えないんだ』

 

『ふーむ』

 

 どうしたものか、一誠が嘘をついているようには思えないし、そもそもこんな嘘をつくようなヤツでも無いしな。

 

『取り敢えず、その、夕麻ちゃんだっけ? 彼女に電話してみろよ』

 

『いや、それがさっき電話してみたんだ。そしたら』

 

《この電話番号は現在使われておりません》

 

『って、出て……オマケに夕麻ちゃんの写真も全部消えていて』

 

『……おいおい、ちょっと待てよ』

 

 コレはいよいよきな臭くなってきたな。一誠のケータイから全部の夕麻ちゃんの痕跡が消えて無くなっている……。

 

『……一誠、俺以外にお前に彼女が出来たの知っているどれくらいいる?』

 

『え、えっと、松田、元浜の二人だけかな。親父達には伝えていないし』

 

『そうか、ちょっと二人に連絡してみれくれ。夕麻ちゃんの事を知っているかどうか』

 

『お、おう』

 

 それから直ぐに一誠は二人に電話を掛けたのだが……。

 

『駄目だ。二人とも全く覚えていない……』

 

『つまり、お前に彼女がいたのを覚えているのは、俺たち二人だけか……もしくは二人とも全く同じ夢を見たか……』

 

 自分で言っておいてアレだけど、夢という線はほぼ無いだろう。一誠は分からんが、俺に関しては記憶がちゃんとはっきりしている。

 

 コレで全部夢でしたー何て言われたら俺は、自分の記憶を疑うよ。

 

『おい一誠、お前、夕麻ちゃんの家の住所とか知らないのか?』

 

『ああ、付き合ってくださいって言われて其処からテンションが変になっていて、聞いていないんだ』

 

 そうなってくると、彼女が通っていた学校の方もきな臭いかも知れないな……。

 

 ……たく、何なんだ一体全体。狐につつまれたような気分だ。

 

『……一誠、情報を集めよう。お前がデートをした時に行った場所を手当たり次第に当たるぞ』

 

『分かった……』

 

 

「それから色々と捜したんだけど、その一誠の彼女がいたという痕跡は結局見つからずじまいというわけ」

 

 長々と話したが、リアス嬢は黙って聞いてくれていた。

 

「……そう、大丈夫よ。その夕麻ちゃんの事ならきっと分かるわよ」

 

 ん……?

 

「それってどういう――」

 

 意味、と続けようとしたら、ちょうど次の授業のチャイムが鳴ってしまった。

 

「さ、次の授業が始まるわよ」

 

「……そうだな」

 

 ……時々だが、本当に時々だがリアス嬢は実はヒトでは無いんじゃないかと、そう思ってしまうときがある。

 

 元々、容姿が人間離れしている所為だろうか。

 

 まるで、このような俺たち兄弟が体験した不可思議なことも、彼女にとっては簡単に分かってしまう問題なのでは無いのかと。そう思えてしまう。

 

――何を考えているんだ俺は――

 

 其処まで考えて、俺は頭を振ってその考えを止めた。

 

 

 リアス嬢がヒトじゃない? 何でそんな事が言える。ここ最近、不可思議な事が多かった所為で頭が回っていないのかね?

 

「……久しぶりに練習するか」

 

 うん、そうだな。そうしよう。体を動かせば、少しは頭もスッキリするだろう。

 

 今思えば、この時の直感にも等しいこの考えは間違いでは無かったのであろう。

 

 事実、彼女はヒトでは無かったのだから。

 

******

「はっ……」

 

 短く息を吐くと同時に、俺は右手の拳を突き出す。

 

 そしてそのまま、左手、左足、右足と繰り出して行き、一通りの型の練習をする。

 

 やはり武道は良い。無心と成って、拳を、足を出すことで、心の中がすっきりとする。

 

「ふー……」

 

 ほどよく汗をかいた俺は、近くの椅子に座り、その場に置いてあるペットボトルを手に取った。

 

 蓋を開けて、中に入っているスポーツ飲料を一口飲む。

 

 現在俺は、とある公園にて武道の練習をしていた。

 

 此処は、一誠が彼女の夕麻ちゃんに殺された場所らしく、少し気になって俺はここに足を運んだ。

 

 本来ならその件について調べるつもりだったのだが、一向に進まず、殆ど進展が無かったので、もう一つの目的である、体を動かすことをやったのだ。

 

 コレは、幼い頃に俺が世話になった今は亡きお師匠様の道場で習ったやつで、道場内では結構な腕前を持っていると自負している。

 

 道場自体は、お師匠様が亡くなった時に一緒に潰れてしまったため、俺は日々お師匠様に教えて貰ったことを反復で練習しているだけなのだが……。ここ最近、マンネリ化を始めているような気がしてならない。

 

「別の道場もなあ……正直、気が乗らないし」

 

 元々、お師匠様がいたからやっていた道場で、その上、お師匠様の道場は我琉の格闘技だったから、他の道場じゃ絶対に肌に合わないだろうし。

 

「しかし、此処で一誠は殺されたとか言っていたが……冗談としか思えないな……」

 

 体を動かす前に、この公園を調べたり、周りの人たちにも聞いたが、そんな傷害? 事件は起きていないし、動物一匹だって殺されたことは無いと言われるだけだった。

 

「本当に夢だったのかね……」

 

 自分で言っておいて何だが、この記憶を夢と断ずるには、あまりにも記憶が鮮烈過ぎて、否定しにくい。何せ、一誠にデートの相談を持ちかけられた日は今でもちゃんと覚えているし、一誠の彼女の写真も覚えている。

 

「ああもう、こういう変な考えにとらわれすぎているから、体を動かしに来たってのに、何やっているんだか……」

 

 髪の毛をガシガシと掻きながら、ぼやく俺。

 

 全く、また変なジレンマに囚われた感じがするぜ。

 

 仕方ない。今日はもう帰ろう。そろそろ一誠も帰ってくることだし、また改めて話をするか。

 

 因みに、一誠の奴は元浜と松田達に誘われてエロ動画見るとか。……まあ、最近あいつも頭がこんがらっていたから、今回は許してやろう。

 

 しかし、春先とはいえ、まだ寒いな。少し汗もかいちまったし、帰ったらシャワーを浴びよう。

 

 そう考え、ペットボトルを手に俺が公園を出ようとした時だ。

 

 ――足音?――

 

 夜遅くで殆どヒトが歩かないような時間帯で、物静かな場所だ。別段、足音が聞こえてきても何なら不思議ではない。

 

 だが、俺が違和感を感じたのは其処ではない。

 

「走っているのか……? それもかなりの速さで」

 

 物静かなのも加えて、元々の耳が良い俺は、この足音の間隔が短いことから走っているのが分かる。そうだったら別に構わない。ランニングしているのだろう。

 

 だが、この間隔の短さはランニングではない。それに、もう一つ足音が聞こえてくる。つまりは、何から逃げているような……。

 

「おいおい、しかもこっちに来ているぞ……?」

 

 何なんだよおい。厄介ごとに巻き込まれそうだなおい? 何か以前にもあったなあ、不良に追われているウチの生徒を助けたこと。

 

 取り敢えず、状況を見て判断するか。取り敢えず、いつでも体を動かせるようにしておかないとな。

 

 足跡の主達が俺の目の前に来たとき、俺は一瞬さっさと帰っておけば良かったと思って閉まった。何故ならば……。

 

「あ、兄貴!? 何でこんな所に……」

 

「ふむ、紅髪か……。グレモリーの者か?」

 

 義弟が黒コートを着て、更に黒い翼を生やした男に追われているなどと言う、非日常的光景を見てしまったからだ。




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