「ん……」
目を開けた俺が最初に目にしたのは、毎日見ている自分の部屋の天井だった。
「俺は……」
寝起きの所為か、頭が回っていない。
えっと、確か俺は……どうしたんだっけ。
えーと、レーティングゲームして、ライザーと戦って、そんであの世界に行って……ん? あの世界って何だ?
「お目覚めになりましたか」
俺が自分自信の記憶に頭を捻っていると、ベットの横から声が聞こえた。
「グレイフィアさん……」
俺は上半身だけ起こしてその人物の名前を呼ぶ。
銀髪のメイド、グレイフィアさんがポケットに何かを入れてから、軽くこちらにおじきしてくる。
「どうも。何であなたが俺の部屋にいるとか、何で俺は眠っているのかとか、ゲームの結果はどうなったとか、色々と聞きたいんですが、どこから聞けば良いですかね」
「そうですね。では、まずはゲームの結果から。結論から言えば、今回のレーティングゲームはライザー様の勝ちとなりました」
「っ……!」
そうか……。
「負けたのか……俺は」
あんなに負けるのが嫌だったのに、自分でも驚くほどあっさりと受け止められた。自分でも意外だ。
「驚かないのですね」
グレイフィアさんも不思議に思ったのか、そう聞いてきた。
「自分でも驚いています。あんなに勝ちに拘っていたのに。熱が冷めたんですかね」
まあ、負けたんなら、それは仕方ない。過去を変える事なんて出来ないんだからな。そこからどう行くか、だ。
「……他の皆は?」
今は状況の確認が先だ。取り敢えず、他のグレモリー眷属がどうなっているかを聞かないと。
「リアス様は冥界にて婚約パーティーに出席なされています。一誠様とアーシア様と貴方を除いて、皆リアス様に付き添っていかれました」
……ゲームが終わって直ぐに婚約パーティーって。早すぎませんかね? まあ、悪魔の貴族社会の事なんて俺には分からないけど。
「一誠のやつどうかしたんですか?」
「貴方と同様に傷が深く、まだ眠っておられます。今はアーシア様が付き添っています。それで私が貴方の看病を」
「そうですか……ありがとうございます」
ベットに座りなおして俺はグレイフィアさんに礼を言う。
恐らく、リアスに頼まれてのことなんだけどそれでも、ちゃんと看病してくれたんだ。礼を言わないとな。
「さてと。一誠の顔を見たら、俺も冥界に行こうかな」
「……リアス様の婚約パーティーに参加されるのですか?」
「ええ。朱乃達は行っているんでしょ? なら、俺も行くのが筋でしょ」
よっこらせ、とベットから降りる。
えーと、着替えはどうしよう。パーティーに着ていくようなスーツなんて持っていないしなー。
「……それで宜しいんですか?」
「よろしいも何も、元々そういう約束だったじゃん。なら、守らないと。そんな約束破っていたら、約束の意味なくなるでしょ」
そう、約束は守るためにあるんだ。それに、こういう事になるのも織り込み済みであのゲームをしたんだ。なら、覚悟はしていたはずだ。
「そうですか……貴方はそれで納得されたのですか?」
「納得も何も、もう決まったことでしょ? もう一介の悪魔である俺には何も出来ませんよ。それぐらいは悪魔に成り立ての俺にだって分かりますよ」
生憎と、自分が少しは大人だと思っている。
だから、世の中には本当にどうしようも無い事だって山ほどあるのは知っている。――ほんと、身をもって知っている。
今回だってそういうどうしようもない出来事なんだ。
だったら……諦めるしか無いじゃないか。
「そうですか……なら、最後に一つだけ宜しいですか?」
まだ何かあるのか全く、もう、俺はさあ……。
「――本当にこれで良いのですか?」
……はは。
「良いわけねえだろ!!」
自分でも驚くほどの怒声と共に俺は、拳を壁に叩きつけた。
拳を叩きつけられた壁は衝撃に耐えられず、拳大の大きさの穴を開けた。
「ふざけんな! なんであいつがあんな奴と結婚しなきゃなんないんだよ! 意味わからねえよ、理不尽だろうが!」
ああ、自分が抑えられない。塞き止めていた感情が次から次へと流れてしまう。
だけど、もう止められない。止める気も起きない。
「あいつは、悪魔で、強くて、凛々しいけど! だけど! どこにでもいる普通の女の子なんだよ! なのに、好きでもない相手と結婚するだぁ! ふざけんな!」
俺はもう一度壁を叩く。
「あんな奴、あんな奴に、リアスを渡したくなんかない……!」
自分で分かる。これは嫉妬だ。どういう種類の嫉妬かは分からないが、これだけは分かる。
「あんな奴に、リアスを渡したくない……」
最後まで言うつもりは無かったんだがな……。俺もまだまだか。
「……ふふ」
俺が自分のだらしない心の内を吐き出し終えた直後、後ろから笑い声が聞こえた。
後ろを見れば、グレイフィアさんが手を口に当てて上品そうに笑っていた。
グレイフィアさんが笑っている? あの鉄面皮とも言えるこのヒトが? 会ったのはこれで三回目だが、最初に会った時の狼狽以外は無表情だったから、笑うところなんて初めて見た。
「全く、やっと本音を話しましたね。一時はどうなるかと思いましたよ」
「はい?」
何だ、俺が本音で話すのを待っていたのか?
「貴方はもう少し、義弟様の様に素直になられた方が宜しいですよ。貴方はまだまだ子供なんですか」
えーあんな変態丸出しの一誠みたいに? 冗談じゃない。死んでも嫌だね。
「貴方の決意は聞きました。――貴方がその気ならこれを渡すのも問題ないでしょう」
そう言ってグレイフィアさんは紙切れを一枚、俺に渡してきた。
受け取って見ると、紙には魔方陣が書かれていた。裏にも魔方陣が書かれているが、それは表のとはまた別物だった。
「……これは?」
「表のは転移用の魔方陣です。それを使えば、リアス様の婚約パーティー会場に直接行けます」
俺の質問にグレイフィアさんは簡潔に答えた。
「……なぜこれを俺に?」
少し警戒しながら聞く。
たった今感情を爆発させた所だ。そんな俺にこんなものを渡すなんて何かあるに決まっている。
俺の質問に答えるようにグレイフィアさんは言う。
「我が主、サーゼクス・ルシファー様からの伝言です『妹を取り返したかったら、乗り込んできなさい』だそうです」
っ! 魔王ルシファーが!?
思わぬ名前に危うく魔方陣が書かれた紙を落としそうになった。
どういうことだ? だってルシファー様は、この婚約に賛成側だったんじゃ……。
「あの方も魔王であると共に、妹の幸せを祈る兄でもあるんですよ」
俺の疑問を察したのか、そう答えるグレイフィアさん。
妹の幸せを祈る兄、か。何となく事情が分かってきた気がする。
「貴方も、貴方の義弟も面白いものです。今まで色んな悪魔を見てきましたが、貴方たちのような悪魔は初めてです。サーゼクス様も同じように貴方たちを面白いと評しておりました」
褒められているのだろか? まあ、褒められていると思おう。一誠と同列に扱われている気がしてならないが……。
「では、私はこれで失礼させてもらいます。――ああ、言い忘れていましたが、裏の魔方陣はリアス様をお救いになられたら、お使いください。では」
それだけ言って、グレイフィアさんは転移魔方陣でどこかに消えてしまった。恐らくは冥界なのだろう。
そういや、一誠大丈夫か? あいつも俺に負け劣らずの重傷だったはずだが……。まあ、アーシア嬢がいるから問題ないか。
さて、これからどうするか。いや、乗り込むのは良いんだが、まずは準備をしなくちゃいけないからな。
まずは服だな。今は半袖に半ズボンというラフな格好だが、流石にこれで行くのは不味いな。
そこまで考えた俺の目にあるものが映り込んでくる。
「なんだこれ?」
俺は置いてあった布らしきものを手に取る。
「背広……?」
広げてみると、それは背広だった。紅色に黒を帯びた臙脂色というやつだな。ライザーの着ていたワインレッドみたいな品のないスーツでは無く、こちらは品が良い。多分、グレイフィアさんが置いていった物なんだろう。背広の下にはこれまた臙脂色のズボンが置いてあった。
というか、何かすっげー高級感あふれているんだけど。手触りだけでかなり値打ちがあるものなのが分かるほどだ。
これを着てこいって事なんだろうけど、これいくらすんだよ。もし破いたり、汚したりして弁償とか言われたら俺、とてもじゃないが払えないぞ、多分。
けど、他に着ていくものも無いし、これを着ていくかしかないか……。
で、後は一誠の様子を見に行って、それから冥界に向かうか。
でも、その前に……。
「壁どうしよう……ポスターとか貼って誤魔化すか?」
自分がバカやって開けた壁の穴の処遇を何とかしないと。
******
冥界、魔王サーゼクス・ルシファーが所有する城の一つに転移したグレイフィアは、一息を付く。
「――やあ、グレイフィア。ご苦労様だったね」
後ろから聞こえてきた声に、思わずため息を付きたくなるが、ぐっと堪える。
「このような所で何をなさっているんですか?」
後ろを向いてグレイフィアは言う。
グレイフィアの目の前にいたのは、紅い髪をした男性だった。
装飾の多い貴族服を着た貴公子ようなヒトで、表情は穏やかなものだ。
「魔王である貴方がパーティーを抜け出て良いんですか? サーゼクス様」
男性、魔王サーゼクス・ルシファーはグレイフィアの言葉に笑顔を変えずに言う。
「いやいや、今回のパーティーの主役は私では無いからね。少し、休憩を貰ってきたんだよ。丁度君が帰ってきたところだしね」
朗らかなサーゼクスの言いように頭が痛くなるグレイフィアであった。
「それで、彼に渡せたかな?」
「はい、ご指示通り。本当に良かったのですか? 事が大きくなれば、後々の始末が……」
「そこは問題ないよ。私も力を尽くすさ。……何より、リアスのあんな顔を見たら、ね。少しでも可能性のある方に賭けたいじゃないか」
「で、どうだったかな?」
サーゼクスの真剣な表情に変わったのを見て、グレイフィアも意識を切り替える。
「ご命令された通り、いくつかの検査と、あれを持ってきました」
グレイフィアはポケットに入れていたモノを取り出してサーゼクスに渡す。
グレイフィアが出したのは、試験管の様なもので、中には紅い髪が数本入っていた。
そう、グレイフィアが夏蓮を看病していたのは、リアスの願いも含まれているが、実際のところサーゼクスからの命令の方が大きく割占めている。
グレイフィアが出した試験管をサーゼクスは受け取る。
「ご苦労。直ぐにアジュカの元に送ろう」
「アジュカ様に解析を?」
四大魔王、アジュカ・ベルベブブの名前が出たことで、グレイフィアも流石に驚く。
「事が事だからね。出来るだけ信頼できる者に内密に調べたいんだ」
「その件ですが……本当に彼がそうなのでしょうか? 確かに、顔は本当に瓜二つです。ですが、魔力の質は少し違いますし。――何より、リアス様が何も反応を示さないとは……」
遠慮がちにそう言うグレイフィア。
グレイフィアのいう事も尤もだとサーゼクスは思う。
しかし、他人の空似と言うには彼はあまりにも似すぎている。そう判断するのに、あまり時間は掛からなかった。
「確かに、リアスが反応を示さないのは気になる。だが、私たちがかけた術が上手く作用しているという事かもしれない。……しかし、何という運命か。本当にあの子だったら、リアスの元にいるとは……冥界中、それこそ堕天使領にまで足を踏み入れたのに見つからなかったのに……」
「そうですね……」
暗い顔をする二人。
それだけ、あの出来事は二人の中で引きずられているのだ。いや、グレモリー一族やその関係者ならだれでも忘れられないことだろう。
――ただ一人、リアスを除いて。
「この事、ユースティアや茨木等には伝えますか?」
「いや、まだ伏せておこう。あの件で一番責任を感じているのは彼らだろうからね。ならば、真偽がはっきりするまではあまり変な気を起こさせない様にした方が良いだろう」
「分かりました」
そして、サーゼクスは空気を変えるように笑顔で言う。
「さて、私はアジュカにこれを送ったら会場に戻るよ。グレイフィアは先に行っておいてくれ」
「分かりました。……彼が来るまでには来てください。多分、予想より早く来ると思いますから、貴方がいないと……」
「分かっているよ。直ぐに行く」
まだ何か言いたげだが、グレイフィアはそれ以上何も言わずに一礼して部屋から去る。
それを確認してから、サーゼクスは連絡用の魔方陣を手元に展開する。
繋いだ相手は直ぐに出た。
『――サーゼクス、急にどうした? 確か、今はお前の妹の婚約パーティ中だろ? 兄でもあり、魔王でもあるお前が放り出して良いのか?』
妖艶な顔つきの青年が口元に笑みを浮かべながらそう聞いてくる。
「アジュカ、君に調べてほしい事がある」
サーゼクスは青年、アジュカ・ベルゼブブにそう頼む。
アジュカ・ベルベブブ。現四大魔王の一角で、
そして、サーゼクスとはライバル関係に当たり、今でも良き友人でもある。
『調べてほしい事? 妹の婚約パーティを放り出してまで急ぐ必要のある案件なのか?』
珍しいものを見るような顔をするアジュカ。
それだけ、サーゼクスは妹のことを大事にしているのだ。そのサーゼクスが妹よりも重要な事なのだ。よほどの事なのだろう。
『良いだろう。内容によるが』
「助かる。今から送るものを調べてほしいんだ」
そう言い、サーゼクスは髪が入った試験管をアジュカのもとに転送する。
程なくして、アジュカから返事が来る。
『今、届いたぞ。これは……毛髪か? これで何を調べろと?』
「今から言う人物のDNAデータと検索を掛けて欲しい」
『サーゼクス、そういうのは医療関係の者に……いや、待て。紅髪という事は、この髪はお前の一族の者だな? そして、お前が妹の婚約パーティの抜けてまで急ぎたい……まさか、この毛髪の持ち主は……』
信じられい、といった表情でアジュカはサーゼクスを見る。
「そうだ、その髪は私たちの兄弟のもう一人の従弟のモノかもしれないんだ」
そう、サーゼクスは告げた。
いかがでしょうか? 感想、意見待っています。
7月下旬からはいよいよテストが始まります。それに伴い、更新を少し遅れるかもしれませんが、ご了承ください。