スーツに着替えて俺は一誠の部屋に向かった。
このスーツ着心地が良いな。動きも全然阻害されないし、便利なもんだ。
けど、この後の事を考えると、面倒な事になりそうだ。ま、仕方ないか。
一誠の部屋の前に着くと、俺はドアをノックする。
「一誠、起きてるかー?」
ノックして聞く。
すると、少し部屋の中が慌ただしい雰囲気に包まれる。
何だ?
俺が訝しむ中、ドアが開いた。
「か、夏蓮さん……すみません、ってどうされたんですかその姿?」
中から出てきたのはアーシア嬢だった。まあ、一誠の看病しているって聞いていたし、当たり前か。顔が赤いのは何故だろうか?
今は置いとくか。先にアーシア嬢の質問に答えないと。
「ああ、リアスの婚約パーティーに乗り込もうと思ってな。丁度いい。二人に話があったんだ。入れてもらえるかな?」
「わ、分かりました」
アーシア嬢に通されて俺は部屋に入る。
「よお、兄貴。どうしたんだその服?」
「よお、一誠。気にすんな。今からカチコミに行くだけだから」
「カチコミ!?」
一誠が驚いた声を上げる。
「あの、カチコミって何ですか?」
アーシア嬢は言葉の意味が分からないらしく、首を傾げている。
「カチコミって、え、どこ行くの?」
「決まってんだろ――リアスの婚約パーティーに乗り込む。で、リアスを取り戻してくる」
「っ!」
俺がそう告げると、一誠は下を向いてしまった。
「一誠……?」
「……兄貴、俺悔しい」
俺が訝しんでいると、一誠がいきなり話し始めた。
「あんなに意気込んで、それに見合う様に修行して、あいつにも啖呵きったのに、こんな、こんな様だ……」
ぽた、ぽた、と一誠のベットに滴が落ちていく。
「ちくしょう……なんで俺はこんなに弱いんだ。いつもいつも、肝心な所で……! 俺は!」
聞いているこっちが悲しくなりそうな、悲痛な叫びだった。
「イッセーさん……」
アーシア嬢も涙目になっている。この子は感受性が強そうだしな。一緒に泣いてくれてんだろう。
全く、こいつは……。
俺はベットに座り、一誠の頭を撫でる。
「一誠、そりゃあ悔しいよな。大見得きってこれじゃあ、プライドなんてズタズタだ」
「…………」
「俺に対してライザーの野郎絶対にブッ飛ばすとか言っていたくせに、俺を先にリタイアしちまったんだもんな。もう情けないッたらありゃあしないな。ミジンコクラスの情けなさだな」
ははははは、と笑い飛ばす。
「……それ、どうゆう意味」
「ん? ミジンコ並に惨めで哀れな存在」
「最悪だなおい!」
一誠がツッコむ。
ははは、こいつ相変わらずからかうとホント、面白いなあ。どうやったらこんな風に育ってくれるんだろ。
「けどまあ、それは俺も同じだ」
「兄貴……」
「俺も負けた。リアスに約束したのにさあ。お前と同じように大見得きって偉そうにしてさあ、情けないったらありゃしない」
俺は自嘲気味に言う。
そう、俺は負けた。正直なところ、一誠の事を馬鹿に出来るような立場じゃ無いんだけどな。まあ、そこは義兄の特権という事で許してな。
「一誠、俺もお前と同じ気持ちだ。悔しい。めちゃくちゃにな。だから、行くんだよ。借りを返しにな。一誠、ついでだ。お前の分も返してきてやるよ」
「……ついでかよ」
さっきよりは大分マシな顔になったな。よしよし。
「あ、そうだ。俺、アーシア嬢に用があったんだ」
そう、俺はアーシア嬢にある事を頼もうと思っていたんだ。で、その前に一誠の様子を見ようとしたら、アーシア嬢も一緒の所にいたというわけだ。
「わ、私にですか……?」
「ああ。一誠も起きているなら丁度いいや。二人に手伝ってほしい事があるんだ」
俺の言葉に、一誠とアーシア嬢はお互いの顔を見て首を傾げていた。
******
世界が灰色に見える。なんて言葉をどこかの小説で読んだ気がするが、今の自分がそうだと、私リアス・グレモリーは思う。
広いホール。談笑する紳士淑女。そして、自分が身に纏う女性ならば誰もが一度は夢見るウェディングドレスに近い衣装。
普通なら心躍るのかもしれない。自分の婚約パーティーだ。そうなるのが当たり前なのだろう。周りの誰もがそう思っているに違いない。
だが、私の心は少しも弾まない。と言うより、底なし沼に沈んでいるような気分だ。
好きでもない相手と結婚するのが理由なのかもしれないが、それはあくまで表の理由の気がする。本当はもっと別の所にあるのだろう。
ずっとずうっと前に交わした約束。誰と交わした約束なのかも忘れているのに、どうしてもその約束だけは忘れることが出来ない。
小さいころの話だ。恋も愛も何も分かっていないような年のころの約束。交わした相手だってひょっとしたら忘れているかもしれない。いや、忘れているだろう。
なのに、なのに何故私はこの約束を覚えているんだろう。絶対に忘れたくない。約束を破りたくない。
―――好きな相手と一生を添い遂げたい。
「好きな、相手か……」
思ったことをポツリ、と呟く。幸い、周りには聞かれていないようだ。
真っ先に頭に思い浮かぶのは私と同じ紅い髪をしたあの少年だ。
勉強の方はあまり出来ないが、不思議と、周りを引き付けるような性格をしている。正確に言うならば、私みたいな少し普通とは言えないような者を引き付ける、と言った方が良いだろうか?
今思えば、私は彼に精神的な部分で随分頼っていた気がする。先のレーティングゲームでも眷属たちが次々と倒されていく中で心が折れそうになった時、いつでも彼が私を助けてくれた。自分でもなぜそんなに彼に頼っていたのか、今思い返すと少し恥ずかしい。
最初は、私と同じ紅髪で隣の席だったのだ。そこから興味を持って徐々に親しくなっていたのだろう。
そして――。
意識を深いところに鎮めようとしていた私は強引に連れ戻された。
何かを叩くような音が聞こえてきたのだ。それも、かなりの強くだ。周りの悪魔たちも顔を見合わせたりしながら訝しんでいる。
何かしら? 辺りを見ても、誰も何かを叩いてなどいない。と言うより、これはもっと別の所から……。
そこで私はふと、ホールの大扉を見る。頑丈な作りで、万が一の侵入者の為の迎撃用の術式が組み込まれているものだ。
それが……揺れている。そう、音の原因はこれだ。誰かがドアを揺らしているんだ。
あの扉、質量自体も可なりのモノだったはずだ。サイラオーグのようなパワーの持ち主ならいざ知れず、普通の悪魔なら揺らすことなど出来ない筈なのだが……。
ホールにいる者全員が扉から発せられている音に気付く。
全員が呆気にとられている中、扉を叩く音が止む。
終わったのか? 一瞬そう思ったが、次の瞬間、声が聞こえた。
『――さっさと開けやコラァ!!』
それ同時にこちらまで伝わってくるような衝撃と共にに扉が吹き飛ぶ。
開く、では無い。文字通り吹き飛んだんだ。
扉近くにいた者達が慌てて落ちてくる扉から逃げる。
そうこうしている内にドアを崩落する音と共に床に倒れた。
だが、私にはそんな事はどうでも良い。さっき聞こえた声はまさか……。
「……やべ、勢い付けすぎたか。けが人いないよな? 大丈夫だよな?」
自分でやっておいて心配する言葉を彼は言う。
そうだ。勢いで物凄い事をやるくせに、後になってから自分のやったことで狼狽えてしまう。周りを気にしないのだか、小心者なのかよく分からないものだ。
最初は呆れてしまったが、結局、それが彼なのだと受け入れてしまった。
だが、今はそんな事はどうでも良い。
「どうして……」
来てしまった。
「どうして……」
もう傷ついてほしくなかった。
「どうして……」
ボロボロの姿を見たくなかった。
「どうして……」
ただ、笑っていて欲しかった。
「どうして……」
私が我慢すればそれで良かったのに。
「どうして……」
私の疑問に、彼は笑って拳をこちらに向けてただ一言、言った。
「約束を守りに来た」
そう言って彼、夏蓮は不敵に笑うのだった。
******
いきなり侵入してきた夏蓮に、会場の悪魔たちは驚愕していた。
その瞳に映るのは信じられないものを見るかのような目だ。
「まさか、彼は……」
「馬鹿な! 彼は死んだそれは間違いぞ」
「しかし、あの顔どう見ても……」
私の顔をチラチラ見ながらヒソヒソと話す上級悪魔たち。
何かしら? 夏蓮が一体何だと言うの?
そういえば、グレイフィアも信じられないようなモノを見るような目で初めて夏蓮に会ったときに見ていたわね。普段から表情を崩すことなんて滅多にないのに、あれは驚いたわ。
確かに、夏蓮は私たちグレモリー一族と同じような鮮やかな紅髪をしているけど、それだけの筈よ。悪魔に転生する前だって、
……いや、少しおかしな事がある。
彼の不自然な魔力だ。
通常、悪魔は魔力量は本人の素質によって左右される。
イッセーの様な子供以下の魔力は流石にそうそうに居ないけど。しかし、夏蓮は異常なのだ。
一定以上の魔力を放出すると急激に魔力が使え無くなるなんて聞いたことが無い。私自身で少し調べてみたがそのような事例は無かった。
では、何故か? そんな疑問が浮かび上がるが、今の私には残念ながら必要ないだろう。
――彼が濃密なまでの魔力のオーラをその身から発しているからだ。
どういう事……あれは間違いなく上級悪魔クラス。少なくとも私以上の魔力よ。確かに、夏蓮の魔力は私に匹敵するほどだけど、夏蓮は上手く魔力を出すことが出来なかったはず。それがこんな……。
「貴様! 何者だ!」
突然の事に呆気にとられる会場の悪魔たちだが、その中でいち早く、警備兵たちが怒声を上げながら
「……うるせえな」
それを見た夏蓮は煩わしそうにため息を吐く。
「貴様ら程度の者が俺の行く手を阻もうとするとは……いい度胸だな」
底冷えするような目で警備兵たちを睨み付ける夏蓮。
「っ!」
その眼光に、警備兵たちは為すすべなく、立ち止まるしか出来なかった。
かくいう私も、自分が見つめられているわけでも無いのに、体が竦んでしまう。それほどの迫力が今の夏蓮にはあった。
「よろしい」
立ち止まった警備兵たちを満足そうに見て夏蓮は歩みを進める。
「こんばんは皆様。私は兵藤夏蓮と申します。誠勝手ながら、我が主リアス様を奪いに来ました」
などと、言う夏蓮。
いきなり何を言い出すの夏蓮! あなた一体……。
「こ、これは……」
「リアス様、どういう事ですか……」
一族の関係者たちが私に詰め寄ってくる。私だって何が何だか分からないのだ。夏蓮は怪我を負ってイッセーと一緒に人間界で療養していたはずだ。それがどうして……。
「――私が用意した余興ですよ」
そう言いながらこちらに歩み寄ってくる人影があった。
「お兄様」
私は呟く。
私の兄にして魔王サーゼクス・ルシファーは普段と何ら変わらないにこやかな笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。
「サーゼクス様これは一体……」
タキシードを着たライザーがお兄様に詰め寄る。
「まあまあ落ち着き給えライザー君。改めて伝説のドラゴンの力を見てみたいと思ってね。グレイフィアに少し段取りを整えてもらったんだ。それに、ゲーム初心者で駒も完全に揃っていないリアスがプロのライザー君相手だと些か以上に分が悪すぎると思いまして」
「あのゲームにご不満が……?」
「いやいや。魔王である私がそのような事を言っていたら切りが無くなってしまう。此度の件で関わっている上級悪魔の方々の顔も立たないしね」
そう言って笑うお兄様だが、恐らく誰もこの事態を止めることは出来ない。魔王であるお兄様が首謀者なのだ。いかに上級悪魔と言えどそうそうに意見をいう事は出来ない。
ライザーも押し黙り、夏蓮がこちらに近づく。
そして、お兄様の前に立つと、片膝をついて臣下の礼を取る。
「御身が魔王ルシファー様ですね? お初にお目にかかります。私、妹君のリアス様の
一瞬、思考が固まる。
…………誰、これ?
普段の夏蓮は目上のヒトにはちゃんと礼儀を持っているけど、ここまで礼儀正しいところは見たことが無いわね……。
確かにこれから私の眷属悪魔として上級階級のパーティー何かにも出席してもらうつもりだったから礼儀作法はイッセーと一緒に覚えてもらうつもりだったけど、何時こんな作法を身に付けたのかしら?
「ああ。レーティングゲームでの活躍見させてもらったよ。これからもリアスを頼むよ」
「非才な身なれど、持てる力全てを使い、妹君を支えさせていただきます」
夏蓮の答えに、お兄様は懐かしむような悲しむような、色んな感情を混ぜたような表情を見せる。
しかし、直ぐにいつもの笑みに戻る。
「会場の皆さま、いかがでしょうか? ここにいる伝説のドラゴンを宿すものと、フェニックス家才児と謳われるライザー・フェニックス君の一騎打ち。――ドラゴン対フェニックスというゲームでもそうそうに見ない好カード。見てみたいと思いませんか?」
そう言うお兄様。
会場の悪魔たちは突然の事に頭が付いていっていないようだ。こんな、下級悪魔がその主の婚約パーティーに乗り込んでくるなんて事早々に無いからだろう。というより私は聞いたことが無い。
会場が押し黙る中、パチパチ、と拍手が響く。
「宜しいではありませんか。つまらないパーティー。見世物としては最高のモノだと私は思いますよ」
人ごみを分けてこちらに歩み寄ってくるのは、軽いウェーブがかかった黒い髪に、黒い貴族服。そして黒い瞳と、全身黒ずくめの少年だった。
「オズワルド・ダンタリオン……」
会場の誰かがぼそりと、呟く。
オズワルド・ダンタリオン。私と同じ七十二柱に連なる上級悪魔ダンタリオン家の次期当主で、私やソーナとは同世代。その実力は若手最強の一角に数えられているほどの実力者だ。
オズワルドは不敵な笑みを浮かべながら言う。
「このまま談笑して終わりだなんてあまりにも詰まらない。ならば、魔王様のが用意した余興を楽しみましょうよ。いや、余興というレベルではありませんかもね。下手をすればこれがメインになるかもしれない」
つらつらとしゃべるオズワルド。
少し彼を知るものがいれば彼の意図は容易に掴める。
彼は自分が楽しめればそれで良いのだ。楽しめれば周りがどうなろうと関係ない。そんな快楽主義を掲げる悪魔なのだ。
……こんなのが若手最強の一角なのだ。今どきの悪魔業界もどうかしていると言えるだろう。
「オズワルド君の、まあ、少し行きすぎだが、どうだろうライザー君? 君のその炎今一度私に見せてはくれないか?」
「……魔王様からの申し出に断われる訳ありませんでしょ。良いでしょう。このライザー見を固める前の最後の炎をお見せしましょう!」
不敵な表情を浮かべるライザー。
「さて、カレン君? 君はどうかね?」
少しイントネーションが違う気がするが、お兄様が夏蓮にも聞いてくる。
「問題ありません。ドラゴンの力。思う存分御覧に入れましょう」
こうして、夏蓮とライザー。私を賭けた戦いが始まった。
…………当事者の私が全くの蚊帳の外なのはどうなんだろうか?
いかがでしょうか? 感想、ご意見待ってます。
もうじきテストが始まります。その為二、三週間更新が止まると思いますがどうかご了承ください。