「成程、リアスがご迷惑をかけていなくて良かったです」
「とんでもない! リアスさんはとても良いお嬢さんですよ」
兵藤家リビング。そこで、義父さんたちとサーゼクス兄さんによる話が和気藹々と続いていた。
義父さんたちが座っている対面にサーゼクス兄さんとリアスが座り、グレイフィアさんが後ろに控えている。
一誠とアーシアは少し離れた場所に座っている。
で、俺はというと、両者の間に座っている。
あれから、色々と話した後、サーゼクス兄さんたちが宿泊施設を探していると聞き、一誠が提案したのだ。
――ウチに来ませんか?――
サーゼクス兄さんは突然の申し出に目を丸くしていたが、直ぐに笑顔になって言った。
『丁度良い。リアスやカレンが世話になっているのだ。挨拶に行こうと思っていた所だよ』
リアスは嫌よ嫌よ、と抵抗したが結局サーゼクス兄さんに押し切られて今に至る。
俺は特に何も言わなかったが、今更に感じるのは若干の居心地の悪さだ。
片や俺を今日まで面倒を見てくれた養父母。
片や俺の本当の血縁者。但し悪魔。
何これ。ビックリ仰天だよ。
「それでそちらのメイドさんは?」
義父さんがチラリとグレイフィアさんの方を見てサーゼクス兄さんに聞く。
まあ、普通はメイドなんてもの見る事なんて無いからな。
「ああ、彼女はグレイフィア。……実は私の妻なんです」
『ええええええええええ!?』
一誠たちが驚きの声を上げる。
当の本人のグレイフィアさんはサーゼクス兄さんの頬をつねりながら言う。
「メイドのグレイフィアです。我が主がつまらない冗談を言い、申し訳ありません」
「いひゃいよ、グレイフィア……」
何だ冗談……冗談だっけ? あれ、可笑しいな。あんまり記憶が無いな。まだそこら辺はぼやけているからな?
「所で、夏蓮に関して重要な話があると聞きましたが……?」
一通りの談笑が済んだ後、改めて義父さんがそう言う。
予め俺が家に連絡するときにサーゼクス兄さんから大事な話があると言う事を告げていたのだ。
まあ、今のうちに話して置くのも一種の手かもな。
「ええ、実は……」
そこからサーゼクス兄さんも真剣そうな表情になって話し始める。
俺がサーゼクス兄さんとリアスの実の従兄弟だと言う事。
長年俺の事を探していた事。
こないだリアスから話を聞いてもしやと思い。色々と調べた結果俺がカレン・グレモリーだと判明したことを。
当然、義父さん達も驚きを隠せていなかった。
「夏蓮が、グレモリーさんたちの……?」
「ええ、我々の血族なんです」
「なんと……いや、確かに夏蓮はハーフとは聞いていましたがまさか……」
「私たちも驚いています。失礼ながら先日DNA鑑定を行ったのです。そしたら、見事に一致して……」
はい? え、そんな事していたの? でもいつ? どうやって?
「あ……」
そうか……ライザー戦の時に俺が負傷して眠っていた頃にグレイフィアさんが看病してくれた、あの時か!
その時点でサーゼクス兄さんは気付いていたのか。こいつはまた早い……。
「そう簡単に信じられないかもしれません。ですので、本日はこちらをお持ちしたのです」
そう言ってサーゼクス兄さんは懐からあるものを取り出した。そのまま、机の上に置いた。
何だ? 俺や義父さん達が覗き込む。そして驚愕する。
「これって……」
そこにあったのは、一枚の写真だった。写っているのは三人。
一人は黒い髪を背中まで伸ばした二十代前半ぐらいの女性。その顔立ちは余すことなく写真に写っていた。
そしてもう一人は、紅髪を無造作に伸ばしている女性と同じぐらいの年頃の男性。けど、一番驚いたのは……。
「俺と同じ顔……?」
そう、瓜二つとまではいかないまでも間違いなく俺にそっくりだ。遠目から見たら分からない位に。
もう一人は女性に抱かれている赤ん坊。多分男の子だな。男性と同じ紅髪を持っており、不思議そうに視線を前に向けている。
女性の方は間違いない。俺の母様、朝凪日月だ。見間違えるはずが無い。
って事は、この写真は……。
「赤ん坊がカレン。女性が日月さん。そして、男性は私の叔父で、カレンの父親レオン・グレモリーです」
これが、俺の本当の家族……。
無意識の内に写真を手に取る。
そのままじっと、見つめる。
何であろう。全然記憶なんて無いはずなのに、酷く懐かしい……。
「カレン、貴方……」
リアスの言葉にはっと我に返り、頬を伝う何かを感じる。
咄嗟に手を当ててみると涙だった。
無意識の内に涙を流していたのか……?
「あれ? 可笑しいな……涙が……」
止まらない。さっきからずっと溢れてくる。
「くそ……」
目を覆う。何か、情けない。この年になってこんなに泣くなんて……。
自分に四苦八苦していると、頭に柔らかい感触が入る。
視線を上げると、リアスが俺の頭を撫でていた。
「大丈夫?」
柔らかな視線で俺に聞いてくるリアス。
その目に、俺は知らず知らず笑みを浮かべる。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと落ち着いた」
******
「そ、そんな……カレンと一緒に寝てはいけないのですか?」
枕を抱きながら心底ショックを受けた顔をしているリアス。
「ああ、済まない。私もカレンと二人で話してみたいのだ」
漸く寝る時間になった時、サーゼクス兄さんが俺と二人で寝たいと言ってきたのだ。
普段はリアスと一緒に寝ているのだが、そのリアスを抜きにして寝たいそうだ。
リアスは強烈なまでに嫌がったが結局渋々とだが、折れた。
この頃、リアスは俺と離れるのを極端に嫌がる。普段はあまり表に出さないが俺がトイレに行こうとするのだって一緒に行こうとするのだからビックリだ。
……まあ、理由は何となく想像が出来ている。あまり言いたくはないが。
「カレン、大丈夫? 夜は一人で寝れる? トイレは直ぐに行くのよ。ベットから落ちないように気をつけて。後は……」
「お前は俺の母親か」
ため息を付く。
「前も言ったかもしれないが、俺はお前が覚えている頃のガキじゃねえぞ」
「でも……」
尚も言い寄ろうとするリアスだったが、後ろからグレイフィアさんが声を掛ける。
「お嬢様、これまでです。さ、行きますよ」
「……分かったわ。カレンそれじゃあまた明日ね……」
最後まで名残惜しそうに俺の部屋をグレイフィアさんと出ていく。
「随分とリアスに懐かれているね」
「記憶がお互いに戻って戸惑っているだけだと思いますよ。直ぐに治ります」
「そうかな?」
そんな会話をしながらお互いに寝る準備をする。そして、電気を消してベットと布団に寝転がる。
「……俺の立ち位置って今どうなっているんですか?」
「どういう事だい?」
ポツリと呟いた言葉。サーゼクス兄さんが反応する。
「今の俺はリアスの眷属って事でしょ? だから、グレモリーの一族としての俺の立ち位置がいまいち分からなくて」
俺がグレモリーの一族としていたのはもう十数年前。ぶっちゃけた話、余り覚えていない。まともに覚えているのは本当にリアスに関する事だけだ。
俺のそんな不安をサーゼクス兄さんは笑って言う。
「心配ないよ。お前がグレモリー一族という事は既に冥界でもちゃんと認識されている。上級悪魔として再登録される事になった」
「……よく通りましたねそんなの」
思わずそう言う。
うろ覚えだが、悪魔社会の貴族階級は血統やら伝統やらを重んじる。俺みたいなハーフを発見したとしてもあまりいい顔はしない気がするが。
「問題ないよ……これが通らないと怒る者達がいるからね」
「え?」
「いや、何でも無いよ」
何か小声で言った気がするが、まあ、良いか。
「そういえば、アザゼルに会ったそうだね」
「ええまあ」
話題はあの堕天使の総督に移った。
あの飄々とした堕天使の総督は結局のところ俺たちに何かをするわけでも無く、そのまま俺たちは帰ってきた。
「正直、堕天使の親玉だからこちらに敵意満々かと思っていました」
「アザゼルはそういう性格はしていない。どちらかというと、戦争反対派かな? かの大戦でも真っ先に手を引いたのが堕天使だったのだから」
へえ、そりゃまた意外というか。
「アザゼルが君たちに興味を持ったのはやはり伝説のドラゴンの
「一誠は天龍の一体を宿しているから分かりますけど、俺のは天龍って訳じゃありませんよ?」
俺の言葉にサーゼクス兄さんは苦笑する。
「そうかもしれないが、それでも十分強力だ。最も、アザゼルがカレンに注目しているのは別の理由もあるだろう。たださえ君の両親は各勢力、他神話からも目を付けらているのだから」
……今更だけど、俺の両親ってどんな人だったんだ? 母親が人間だったのは何となくだけど覚えている。まあそこも若干怪しいけど。
「けど安心しなさい。君の義弟である兵藤一誠君共々、私達がしっかりと守ろう。――今度こそ」
「………」
サーゼクス兄さんの言葉にどれだけの意思が込められているのか、俺にもほんの少しだけ分かる気がした。
だから、
「……ありがとうございます、サーゼクス兄さん」
心から礼を言う。
そんな俺の礼にサーゼクス兄さんは笑って答える。
「構わないさ、私たちは家族なのだから。私やリアス、父上も母上もそう思っているよ」
家族、か……。
それから俺たちは色んな事を話した。サーゼクス兄さんやリアスの今まで事や、俺の学校生活など本当に色んな事を話した。
「え! 兄さん子供が生まれたんですか?」
「ああ、男の子だ。冥界に戻ったら会ってみると良い」
「へえ……おめでとうございます」
そんな場当たり的な言葉しか出ないが、びっくりだ。まさかサーゼクス兄さんに子供が出来るているとは。
「そうそう、母上もお前に会いたがっていた。今回は来れないが冥界でちゃんと会っておきなさい」
「はい」
伯母上か……ほぼ覚えていないが、大丈夫だろうか。
「学校は楽しいか?」
「ええ、リアスたちのお蔭で充実しています」
「それは良かった。今度の授業参観、楽しみにしているよ」
「あははは……」
結局、俺のこの日聞くことが出来なかった。いや、サーゼクス兄さんも意図的に話さなかったのかもしれない。
何故が俺が日本にいたのか。何故俺と母様だけがいたのか。
――俺の記憶の中に残る親父を刺した相手が誰なのか。