神星剣は単体でも強大な力を持っている。使用者に加護を与えてその能力を極限まで上げる。
他にもいくつか能力があるが、そこはまだ分かっていない。追々分かってくるだろうか。
「素晴らしい」
「…………」
剣を打ちあっていると、そう男――ルーファス・アガリアレプトは言った。
「まだ数十分と経っていないのに神星剣をそこまで使いこなしているとは……私の目に狂いは無かったようだ」
心底嬉しそうにしている奴とは対照的に、俺は心は酷く冷めているのが自分でもわかった。
そうまでに、この男が憎い。憎くて憎くて、殺してやりたい。
「では、貴方に褒美と行きましょう」
「褒美?」
「ええ、神星剣には色々な能力があります。それ固有の能力もありますが、共通の能力があります。その一つを見せましょう」
「…………」
態々教えると? 気持ち悪い奴め。こいつ、俺と戦っているつもりが無いのか? だとしたら余計に腹が立つ。
油断なく構えていると、ルーファスが切っ先をこちらに向ける。
訝しむと同時に切っ先が……伸び!?
殆ど反射的に躱す。
切っ先が伸びた!? どういう事だ!
「これが能力の一つ刀身変化」
伸びていた切っ先が元に戻る。
すると、今度は剣がルーファスの身の丈を超える程の巨大な剣になる。
「こんな事も……」
今度は小型のナイフになった。
刀身変化か……。オーラの量は全然変わっていないから、あくまで見た目だけなのだろう。
だが、斬ってる最中に形状を変えられるのは非常に厄介だな。
「では、行きましょう」
ルーファスが一気に迫ってくる。
距離を取るとさっきの様に刀身を伸ばしてくる。ならば!
俺も距離を詰める。
再び残像を生み出すような勢いで剣を交じり合う。
「こ、のお!」
攻めきれない! 隙を見てヤツを直接斬ろうとしても全部防がれてしまう。
逆にこっちはどんどん斬り傷が刻まれていく。
つまり、こっちが下……。
その事実がたまらなく俺をイラつかせる。
「くそがあああああ!」
もっとだ。もっと力を寄越せ! ヤツを殺せるだけの力を、俺に!
俺の思いに――まるで神器の様に――応え、力を増していく神星剣。
だが、それに対抗するかのごとくヤツの神星剣もオーラの質が上がっていく。
「ちいっ!」
たまらず、一回距離を置く。
肩で息をする。
対するルーファスは未だに余裕で構えている。
どういう事だ……? 何で俺だけこんな。
「ふむ、どうやら力の使い方はまだ駄目の様ですね」
「あ?」
何を言っている?
「まさか、神星剣が無限の力を貴方に与えると? それは間違いですよ。神星剣はあくまであなたの力を引き上げているだけ。力を使いすぎれば当然、動けなくなる。運動と同じですよ」
……つまり、ペース全く考えずに俺は力を振るっていたと言うわけか。
ルーファスの言葉が引き金になったのか、体に一気に疲れが襲ってきた。
怒りで殆ど無視していたのだろう。ここに一気に表に出た感じだ。
「さて、動けなくなっているようですし、このまま……」
ルーファスが俺に一歩向かって歩き始めたその時だ。
『――そこまでだ馬鹿者』
突如声が響く。
見れば、ルーファスの近くの空間が歪み始めた。
まるで水面の様に波打っている。
そして、その何もない空間から人が出てきた。
鮮やかな黒い髪を無造作に伸ばしており、手足はスラリとしている。
顔は整っており、恐らくは女。ただ、酷く不健康そうな顔をしている。ただ、ルーファスと同じ金色の瞳はギラギラと輝いている。
「おや、ワイズマン。どうした?」
「どうしたではない。いつまで遊んでいるつもりだ。カテレア・レヴィアタンが死んだのならさっさと戻って来いと言ったはずだ」
「いやあ、中々楽しくなって。それに朝凪日月の神星剣の場所も分かりましたし」
「なに?」
ルーファスの言葉に眉を顰め、そして胡乱げにこちらを見る。
「カレン・グレモリー……そうか、ヤツが持っていたのか」
めんどくさそうにガシガシと髪を掻く女……ワイズマン。
「まあ、良い。所在が分かっているなら後は簡単だ。ほら、さっさと戻るぞ」
「これからが良い所なんだが……」
「黙れ殺すぞ」
容赦がない。
やれやれと首を振ると、ルーファスは神星剣を空間の裂け目に仕舞う。
「分かったよ……では、カレン・グレモリーまた会いましょう」
「何を……逃がすわけ」
ガクッ、と足が崩れる。
ガクガクと震える。
震えを止めようと足を殴りつける。
何度も叩く。何度も。
「くそ、があ……!」
だけど震えてしまう。力が入らない。
遂にその場に座り込む。
神星剣を杖にして何とか上半身は保つ。
肩で息をしながら睨み付ける。
奴らは既に空間の歪を作ってその中に入ろうとしていた。
ルーファスがこちらを振り向いて言う。
「ではカレン・グレモリー、また会いましょう。次は我ら『四死剣』を紹介しよう。それまでもっと力を付けてくれたまえ」
楽しそうにヒラヒラと手を振るいながら歪の中に消えていくルーファス。
ワイズマンは俺の事をジッと見ながら静かに歪に入っていく。
俺はそれを為すすべなく、見るしか無かった。
仇が、母様と親父殿の仇が目の前に居るというのに、何も出来ないのか……!
「っ!」
頭を地面に叩きつける。
何度も何度も。己の無力さを噛みしめるように。己の不甲斐なさに。
気づけば血が滲み出ているが気にしない。気にしてはいけない。
もう一度叩きつけようとする。
「――やめとけ」
肩を抑えられる。
見ればアザゼルがいた。
「……離せ」
「嫌だね」
殴ってやろうか?
「カレン、やめなさい」
首を動かせばリアスがいた。
「今は傷を治すのが先決よ。自分で自分を傷つけるのは馬鹿のする事よ」
「黙れ」
低い声で返す。
一瞬、リアスが泣きそうな顔になった気がした。そして、顔を伏せるとフッと手を上げる。
「カレン……覚悟しなさい」
は? と一瞬思うも、背筋に冷たい汗が流れる。
リアスの手元に不穏な魔力が集まる。
え? 思った瞬間、頭の上に衝撃が走る。
リアスに殴られたと気づいたのは意識を失う瞬間だった。
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「お前……おっかないな」
アザゼルが若干引き気味になりながら言う。
「問題ないわ。カレンを止めるにはこれくらいしないと」
そう言うと、アザゼルが若干後ずさりした。
何かしら? 変な事でも言ったとは思えないけど。
まあ良いわ。今はカレンが重要。急がないと。
カレンに駆け寄り、抱きかかえる。
目を回しながらぐったりしている。顔に掛かった髪を払う。
傷は……殆ど治りかけている。神星剣が影響しているのかしら?
だけど、私が気絶させたとはいえ、全然起きる気配がしない。多分疲れているのだろう。恐らく、神星剣を使いすぎなのだろう。
「全く、グレモリー家はとんでもないな」
アザゼルがやれやれと来る。
「ま、神星剣を自分の息子の中に隠す朝凪日月もとんでもないちゃあ、とんでもないな」
「神星剣程のものを出来るの……?」
「さあな……まあ、あの女の持つ術なら何とか出来るかもな」
なら、あれもそうなのかしら?
アザゼルは気付いていないのだろうか。
カレンの、カレンの両の瞳が金色に染まっていたことを。
******
「いやあ、楽しかったなあ今日は」
「……何を楽しんでいるんだ貴様は」
「まあまあ、それでルーファス殿、彼の様子は?」
「ああ、ライヴラ、問題ないよ。発芽していた。神星剣の封印が解けたことで始まったんだろう。……後はこちらで挑発すれば良い」
「ちっ、まどろっこしい……残りの神星剣もさっさと集めんといかんのに」
『……何を、焦る? ワイズマン』
「剣聖か……お前には分からん」
『受、諾』
「ほらな」
「みんな落ち着き給え。大丈夫。すべては私たちの思う通りに動いている。これから少しずつやっていこう。すべては我らの理想の世界の為に」