第一話
「……殺風景だな」
列車の外を見て、俺は思わずそう言った。
「どうしたの、カレン?」
隣にいたリアスが俺の呟きを聞いてこちらを見てくる。
「ん、いや外が何にも無いなと思ってな」
「ああ、次元の境目なのだから仕方ないわ。もう直ぐ冥界に着くから、そしたら色んな風景も見る事が出来るわ」
「そう、だな」
少し気の抜けた返事をすると、リアスが少しムッとした表情になる。
しかし、直ぐに表情を和らげると、俺のすぐそばに置いてあるものを見る。
「……叔母様を早く叔父様に会わせたい?」
「まあな……」
俺は傍にある――母様の遺骨の入った箱を見てそう言った。
******
「冥界に?」
夏休みが始まり、数日が経った日の事だ。
何故か俺の部屋に集まり部活会議をしているわけだが、リアスが唐突に冥界に戻ると言ったのだ。
「そ、元々帰省する予定だったから、夏休み中は殆どあっちに居る予定だからそのつもりで」
言葉から察するに俺たちも行くって訳か。
…………。
「リアス、8月31日には戻っているか?」
「ええ、流石に次の日から学校だから……何かあるの?」
「少しな……大したことじゃない」
良かった……それなら大丈夫か。
俺はソファーに背を預けながら部屋を見渡す。
昨日までと比べて大分変った。そう言わざるを得ない。いや、本当に。
朝、起きたら何故か天蓋付きの十人くらいが優に寝れるベットで寝ているし、部屋の広さ自体も以前と比べて数倍もある。
気になって家を探索してみたらなんと、六階に地下三階まであるとんでも屋敷にリフォームされていたのだ。
正直に言えばびっくり、というよりはドン引きした。
何がどうなっているんだと、事の元凶であろうリアスに聞いてみれば、
「カレンがお世話になっている兵藤家にお父様が何か恩返しをしたかったそうなの。だから、私も協力して家をリフォームしたの」
だ、そうだ。
寝ている間に家をリフォームとか、悪魔の力ってやっぱすげえなあ……。
「そういやあ、一誠は冥界に行った事無いんだっけ?」
「ああ、そういやあ、そうだな。兄貴はあるんだよな」
「そりゃあまあ、元々が冥界で生まれたんだしな」
ライザーの時との戦いや、コカビエル戦後の倒れたときなど、二回ほど戻ったが、結局殆ど冥界に足を踏み入れたという感じはしていないが。
「つまり、カレンにとってもこれが帰省というわけですか?」
朱乃の言葉に俺は頷く。
「そうなるな。まあ、正直覚えているかどうか不安だが」
「まだ、記憶はあやふやなんですか?」
自信なさげに笑うと、祐斗が聞いてくる。
「ああ、リアスの事はだいぶ思い出せたんだが、他は少しまだな……」
「……戻ったら思い出せるかも」
小猫ちゃんが言う。
「確かに、馴染みある場所に行ったら記憶が刺激されて思い出せるかもしれないな」
「そうですよね、自分の生まれた場所が思い出せないのは悲しいですし……」
ゼノヴィアに同意するアーシア。
ああ、本当にこいつ等、俺の事を心配しているんだなあ。その事がひしひしと伝わってくる。
――だからこそ、こいつらを置いて行きそうな気がして怖い。
「そうだぜ、思い出してもらわないと困る奴らもいるからな」
っ……はあ。
「部屋に入った時点で声を掛けようぜ、アザゼル先生や」
「良いだろ? こっちの方が面白そうだったんでな」
二カッと子供が悪戯に成功したみたいな顔を見て、皆、ため息を付く。
「で、誰だよ」
「何が?」
「俺に記憶を思い出してもらわないと困る奴らだよ。あんたか?」
神星剣、ひいては奴ら四死剣の情報は必要なのだろうけど。
「いやいや、俺じゃねえよ。お前の親父の眷属達だ」
っ! 親父の眷属……?
「言ったろ? お前の親父は結構有名だ。何せ、かつてレーティングゲーム成績無敗の男だったんだからな。正直、何で魔王にならなかったのか、不思議くらいだったさ」
そんなに強かったのか、親父。母様も世界のバグなんて言われているが、親父それなりだな。
……だけど、それでも神星剣には届かなかった。だから親父たちは死んだんだろう。
「親父の眷属、生きてんのか?」
「全員では無いな。あの襲撃事件で殆どがやられたらしい」
そうか……それはそれでやるせないな。
「ま、生き残った連中は全員一筋縄ではいかない相手だから覚悟しておけよ~?」
何でアザゼル先生がニヤニヤとしてこっちを見るんだよ。訳わからん。
「はあ……」
色々と予定が詰まって来て俺は天井を仰ぎ見ながら深々とため息を付く。
「あ……」
そこで俺はある事を思い出す。
そうだよ。冥界に行くんだったらやることあるじゃん。
「悪い、急用が出来た」
ソファーから立ち上がってドアを目指す。
「どうしたんだよ、兄貴? どっか行くのか」
「ああ、今からちょっと……寺に行ってくるわ」
******
「全く、あの時は一瞬何を言っているのかと思ったわよ」
深々とため息を付くリアス。
「仕方ないだろ。寺に母様の遺骨あるんだから。取るには寺に行くしかないだろうが」
「もう、寺は日本の教会みたいなところよ。三大勢力と同盟を結んだとはいえ、まだ日本の神々とはあまり交流は無いわ。行ったら敵対行動と取られるかもしれなかったのよ?」
「分かった分かった」
いい加減うっとしいぞ、おい。
まあ、何にせよこうして母様の遺骨を持ってこれたんだから良かったと言えるだろう。
交渉してくれたリアスやアザゼル先生には本当に感謝だな。
「にしてもやることねえなあ」
現在、冥界に向かう列車に乗ってるのだが俺とリアスは他の奴らとは別の車両に乗っていた。
というのも、上級悪魔とその下僕とは乗る場所が違うのだと言う。まあ、普通ならそれもありなんだろうが、こうもやることが無いと本当に暇だ。
「あら、私は楽しいわよ。貴方と二人っきりですもの」
ニコニコと笑いながら俺の膝に乗っかるリアス。
「おい、重っ……!?」
い、と言葉を続けようとした瞬間、腹部に衝撃が走る。
「カレン? 女性に体重の事を言うなんてどうなの?」
ニッコリと氷の笑みを浮かべるリアス。
俺は脂汗を堪えながら返す。
「し、仕方ないだろ。重いものを重いと言って何が悪……!?」
再び衝撃。
「すみませんでした……」
「分かれば宜しい」
満足そうに俺の膝に頭を乗せるリアス。
くそう……なんで男は女に勝てん。あいつにも結局勝ててないし。
「ほっほっほ、相変わらず仲が宜しいですな」
げんなりとしていると、後ろから声を掛けられる。
見れば、初老の男性が立っていた。
服装は駅員。つまりは車掌の姿をしている。
悪魔、だな。恐らく、この列車の管理をしているんだろうけど。
「あら、レイナルド久しぶりね」
俺の膝から体を起こしたリアスが男性、レイナルドに話しかける。
「はい、お久しゅうございますリアス姫。それに若様も。ご成長された姿が見れて、本当に喜ばしい限りです」
俺たちに挨拶をし、涙まで見せるレイナルドさん。
「カレン、貴方は覚えていないかもしれないけど、彼はレイナルド。この列車の車掌を務めているわ」
「若様とは幼き頃に二回ほど会っただけですから覚えていないのは無理ありません」
む、そんだけしか会ったことないのか。覚えていないのも無理ないと自分で言うのも何だな。
「それでどうしたの? カレンの悪魔としての登録かしら?」
「いえ、それは以前からあったのも再登録すると言う形になりましたので。姫様の新らしい眷属様方の確認の前に姫様たちにご挨拶をと思いまして」
「確認?」
俺は思わず口で繰り返す。
「ああ、貴方は知らなかったわね。列車に乗って冥界に行く際に、機械を使って本物かどうか確認するのよ。列車を占拠、なんてことになったら大変だもの」
成程、空港のパスポートを使っての本人確認と似ているな。悪魔もそこら辺は考えているんだな。
「丁度いいや、俺たちも一緒に行こうぜ。二人でいてもやることないんだし」
「あら、私は貴方と二人でも楽しいわよ」
不満げにそう言うリアス。
「良いじゃないか。あいつらが何をやっているのかも気になるし」
俺はさっさと一誠たちがいる車両へのドアを開ける。
******
「よお」
「兄貴?」
一誠たちがいる車両の方に来ると、皆、トランプなどをして遊んでいた。
「どうしたんだよ、部長と一緒に前の車両に乗っていたんじゃないのか?」
「ああ、だけど、暇なんでね。こっちに遊びに来たって訳さ」
「……何か部長が不満そうにしているけど?」
「気のせいだろ」
その後、レイナルドの審査を終えて、俺は近くの席に座る。
そしたら、ごく自然な形で朱乃が隣に座ってきた。
「……どうした朱乃? 何か用か?」
「いえ、そういうわけではありませんが、用が無いと来てはいけませんでしたか?」
「いや……」
「……ええ、問題ありよ」
俺の言葉を遮るようにリアスが言う。
「朱乃、カレンの隣は私のものよ。貴方の物じゃないわ」
いつからそうなった。
リアスの極寒の視線に晒されながらも朱乃は笑みを崩さない。
「あらあら、相変わらず部長は独占欲というのがお強いですねえ。これぐらい眷属のスキンシップの一つとして大目に見るのも主として必須スキルのですわよ」
朱乃が俺の腕に絡みつく。
それと同時に朱乃の胸が俺に押し付けられる。
「……朱乃」
「うふふふ……」
朱乃の笑いを見て確信犯だと感じる。
「…………」
ああ、何かリアスがオーラを迸らせているぞー。こえー。
一誠たちもビビっているしどうすっかなー。アーシアに至っては涙目だし。
俺がここに来るって言ったからな。だから責任は俺にあるんだろうけど……。
仕方ない。ちょっとやるか。
「リアス、ちょっと来いよ」
「……何かしら」
怖い声出すなよ。俺も嫌になってくるだろうが。
「ほら、良いから」
「…………」
リアスは俺の言葉に従い俺の前まで来る。
「よっと」
「え、ちょ……」
俺はリアスの腰を抱き、そのまま俺の方に引き寄せる。
そしてそのまま俺の膝の上に乗っける。
「カレン……?」
「これで我慢しろ。流石にこれ以上はもうやらん」
つか、やっぱ重いな。おまけにリアスって俺と身長あまり変わらないから視界もこいつの紅髪で埋められているし。
「…………」
再び黙りこくるリアス。だけど、今度はオーラは出していない。
「……兄貴って時々凄く大胆な事するよな」
一誠が呆れたように言う。
「流石だな。カレン先輩は部長や朱乃先輩を上手く囲っているな」
「それはちょっと違う気がするな……」
「流石ですぅ」
何やら見当外れな事を言っているゼノヴィアに祐斗が突っ込む。ギャスパーも何やら感心している。
んで、ここで小猫の毒舌ツッコミが……。
「…………」
来ないな。俺は小猫の方を向く。
小猫は元気がなさそうにボンヤリとしている。
珍しい。普段から無表情で分かりにくいけど、あそこまでボンヤリとする事は無いと思うんだが……。
俺は小猫の様子を疑問に思いながらも冥界に着いてからの事を考えているのであった。