グレモリー公爵家は元々の力も相まって、日本の本州と同等サイズの領土を持つ。
しかし、勿論全ての土地を管理できているわけも無く、その多くが手が付けられていない未開拓な地域だ。
だからこそ、ああやってリアスがポンポンと一誠たちに土地を渡すことが出来るわけだ。
「……デカ」
思わず口に出る。
それほど、目の前のものがデカいのだ。
あれから少しして、漸く冥界の空が見えてきた。
相も変わらない紫色の空だったが、記憶が少し戻った今は懐かしさを感じた。
駅に着き、グレイフィアさんの案内の元、俺たちはグレモリー家の本城に辿り着く。
「……こんなデカかった?」
「これくらいよ。さ、早く入りましょう」
そうだな。この大量のメイドさんと執事の列に挟まれていると息が詰まる。
しかも、その多くが俺の事を見て涙流しているし。
それだけ、俺の帰還が喜ばれていると言う事なんだろうけど、何かむず痒いね。
俺たちは揃って門を潜ろうとする。
「リアス姉さま! お帰りなさい!」
すると、執事の列から誰かが飛び出してきた。
紅色の髪を持つ少年だった。少年はリアスに抱き付いてきた。
「ミリキャス! 大きくなったわね」
少年、ミリキャスの頭を撫でながらリアスは言う。
ミリキャス。紅色の髪を持っていると言う事はグレモリー家だろうけど、誰だ? 俺たちより年下のヤツなんていたか?
「紹介するわ、この子はミリキャス・グレモリー。お兄様の子供よ」
……子供! ゼクス兄さんの子供と来たか。
まあ、俺がいなくなって十数年。そりゃ生まれるか。
そんで、魔王の座は一代限りだからこの子もグレモリーの性なんだな。
「初めまして、ミリキャス・グレモリーです。どうぞよろしくお願いします」
礼儀正しいな。流石グレモリー家って訳か。
つか、ゼクス兄さんの子どもって事は母親がいるって事だけど……ああ、あのヒトか。
俺はチラリと、前を先導するヒトを見てある考えに辿り着く。
考えていると、ミリキャスがこちらをジッと見ていた。
「貴方がカレン・グレモリー殿ですか?」
「ん? そうだけど……ああ、そういえば俺は君と一応親戚関係に当たるのか」
従兄弟のゼクス兄さんの子だから、いとこ違いってやつだっけ?
「はい! 会えるのを楽しみにしていました! よろしくお願いしますカレン兄様」
「っ……」
兄様、兄様と来たか。
「? どうかしましたか兄様?」
「……いや、何でも無いよ。よろしくな、ミリキャス」
「はい!」
そうこうしている内に、気づけば玄関ホールに辿り着いていた。
ここもデカいな……。上にはシャンデリアが付いているし。
辺りを見渡し、ふと気づけば、階段から誰かが降りてきていた。
「リアス、帰ったのね」
降りて来ているのは美少女だった。ドレスに身を包んだ体は出るところがしっかりと出ていた。
何となく、リアスに似ている。亜麻色の髪を除けば、殆どリアスと同じじゃないか。
いや、もしかしてこのヒト……。
「……叔母、上?」
自信が無いから声が少し小さい。
しかし、聞こえたらしく、美少女がこちらを見て、笑みを浮かべながら近づいてくる。
「カレン! ああ、また貴方に会えるなんて」
感慨極まったような顔をしながら俺に抱き付く美少女――つか、叔母上。
「叔母上?」
一誠がポカンと俺に抱き付いている叔母上を指さす。
「ああ、俺の叔母上。リアスの母親だよ」
「え、えええええええええ!? いや、だって部長と全然変わらない年頃の美少女にしか!」
一誠が仰天するように大きな声を上げる。
ま、普通はそうだよな。
「あら、美少女なんて嬉しい」
俺から離れて嬉しそうに頬に手を当てる。叔母上。
いやいや、そんな年頃でも……!
ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
「何か変な事考えたかしらカレン?」
笑みを浮かべているのに、めっちゃ怖いぞー叔母上ー。
困ったようにため息を付く叔母上。
「全く、貴方のそういう所、レオンにそっくりね。日月さんから受け継いだのは、剣の腕だけかしら」
そんな事俺に言われても困るのだが……。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。初めまして、私はヴェネラナ・グレモリー。リアスの母です」
優雅に一礼し、一誠たちも慌てて挨拶を返していた。
「しっかしまた、何でそんな姿しているんですか? 悪魔が魔力で姿を変える事が出来るからって、違和感を少し感じますよ」
「あら、良いじゃない。この方が過ごしやすいのよ」
何でだよ。意味わからん。
まあ、他人の趣味をとやかく言うつもりは無いけど。
******
「部屋も広い、と……」
部屋の中を見渡しながら俺は呟く。
凄いな。改築した俺の部屋よりも数倍の大きさはある。正直、使い切れないな。
つっても、ここはあくまで一時的な借宿。明日には俺の家……生家に行くことになっている。
『既に準備はしてあるから、旅の疲れをここで癒してから行きなさい。貴方を待っているヒトたちも大勢いるから』
と、叔母上の言葉だ。
俺を待っている。やはり、親父の眷属達かな。
正直、本当にあまり覚えてない。それを考えると不安もある。
「ま、なるようになるだろう」
とはいえ、今思い出せるのは親父殿と母様。それにリアスとあの金色の髪の……。
「……ん?」
そこで俺は自分に疑問を投げかけた。
ちょっと待て。この子誰だ? 俺の記憶にこんな子いたか?
朧げに残っている記憶を手繰り寄せても、俺はその金髪の女の子と良く遊んでいたように思える。
ただ、その時は必ずリアスは傍にいなかったと思う。何でかは分からないけど。
わ、分からん。本当にこの子、誰だ? 間違いなく俺はこの子の事を知っている筈なのに。何で想い出せない?
くそったれめ……。こんなじゃ本当にこの子にも、親父殿の眷属達にも会えねえじゃねえか。
いや、そもそもこの金髪の女の子がまだそこに居るとも限らないけど。
「誰なんだ?」
考えてみればみるほど少女の正体が分からなくなってくる。
家に仕えていた使用人の子供? いや、それにしてはやけに綺麗な身なりだよな。
どっかの家の子だと言われればそっちの方が納得できる。
「行けば会えるのかな?」
俺の生家がある方向を見て、俺は改めて思う。
自分の記憶だっていうのに、ここまであやふやだと、自信も無くなってくるなあ。
「ああ、憂鬱だ」
俺の偽りならざる現在の心情であった。
******
「遠慮せずにドンドン食べてくれ」
そんな叔父上の言葉で始まった食事。
馬鹿みたいに長いテーブルに座り、俺たちは豪勢な食事に圧倒されていた。
因みに席順は上座に叔父上。その隣にリアスと叔母上。で、俺とミリキャスが続いて、その後に眷属の皆だ。
しかし、ナイフとフォークの使い方、一応母様に習ったことがあったんだよなー。
貧しかったけど、本当に時たまに使う機会何かがあったし、今思えば、母様記憶が少しくらい戻っていたりしてな。
俺は少し忘れてしまったナイフとフォークを使いながら食事を進める。
うん、美味しい。流石はグレモリー家だ。素材から違うのかな。
そういうや、一誠はどんな感じかな?
俺はチラリと視線を送る。
見れば、案の定四苦八苦していた。
一応形は為しているが、こりゃあ、後で教えたほうが良いな。
そして、ふと小猫の方を見る。
……あれ? 全然食べていない。
いつもならモリモリと見ているとこちらが満腹になるような食べっぷりと見せる小猫が全くもって食べていない。
おいおい、どうした? 何かの前触れか?
それくらい、小猫が食事をあまりしないのが珍しいのだ。
ふむ、後でそれとなく様子をうかがっておいた方が良いかな。
「カレン」
そうこう考えていると、叔父上から声がかかった。
「はい、何でしょう?」
「うむ、食事は楽しんでいるか?」
「ええ、こんなおいしい料理は久しぶりですからね」
「それは良かった。料理人たちもお前の為に腕によりをかけたからな」
「それはありがたいですね」
いや、本当。久しぶりに帰ってきたらかな? つっても、ここで暮らしていた訳でも無い筈だが……そんなにここで食べる機会が多かったのかな?
「時に、兵藤夫妻はお元気かな?」
「ええ、あんな家までリフォームされて元気ハツラツと言った感じですよ。こっちに来るときは何かお土産を頼むとか言っていましたし。なあ、一誠?」
「あ、はい」
いやでも、冥界の土産って何を買えばいいんだろう?
「ふむ、土産か……」
叔父上は一瞬考え込むと、直ぐに手元に置いてあったベルを手に取り鳴らした。
すると、執事が静かに近づいてきた。
「如何なさいましたか?」
「うむ、兵頭ご夫妻に城を一つ用意しろ」
「ごふっ!?」
思わず咽る。
城!? 城って言ったよな!? え、マジで!?
「は、東洋風と西洋風どちらにしましょうか?」
執事も執事で普通に受け答えしているし!
「ううむ、悩みどころだな」
いやいや、悩まなくて良いから!
「叔父上、そんな城とか無理ですから。そもそも、置く場所が無いです」
「そうですわ、あなた日本の領土は狭いのですから平民の方は城を持つことなんてできませんよ」
叔母上の言葉に叔父上は眉を寄せる。
「しかし、カレンが長年世話に成っているのだ。何か恩返しはしたいのだよ」
「お父様、カレンとイッセーのご両親はあまり物欲もありません。下手に高価なものを送ってもあちらも困ってしまいますわ」
リアスの言葉に叔父上はふう、とため息を付く。
「そうか、少し急ぎすぎたかな。事を急ぎすぎるのがグレモリー家の男子の悪い癖だな」
あーそれはなんだか覚えがある気が……。
「ああ、そうそうカレン。こちらに滞在する間は勉強をしてもらいます」
ん、何か叔母上の口から変な言葉が……。
「……勉強って言いました?」
「ええ言いました」
「……何でです?」
冥界に久しぶりに帰ってきたと言うのに、何が楽しくて勉強なんぞ。
「当たり前です。貴方はグレモリー家の一員です。その名に恥じない教養を身に着けて貰わなくては。ああ、後は各貴族の方々にあいさつ回りを必要ですし、正式な帰還を発表しないと。それから……」
「ストップ、ストップ!」
マシンガントークが止まらないそうになり、一旦止める。
「叔母上待ってください。俺、やりたいことがありますので」
「やりたいこと……ああ、そういえばそうでしたね」
おう、納得してくれたか。
「では、それ以外の時間を使う事にしましょう」
「…………」
なんてこったい。叔母上は教育熱心なヒトだったのか。
ああ、いや、こういう有無言わせない迫力はリアスに通ずるな。怖い怖い。
しかし、この帰省ただ済むはずも無いか。
親父殿の眷属達。記憶の中の謎の金髪の少女。
小猫の方も何か様子が変だし。全く、何も起きずに過ごすことは出来ないようだな。
いかがでしょうか? 感想、意見待っています。