一旦本家の方に戻った俺たちは若手悪魔会合の為に魔王領の旧首都ルシファードに来ていた。
途中、リアスの人気っぷりからまるでアイドルの如くの騒ぎが起きていたが、直ぐに地下鉄に乗り換える事で騒ぎは収まった。
電車に乗って数分。やがて着いたのがこの都市で一番大きい建物だった。
地下から係りの者に案内されてエレベーターに乗る。
「みんな、もう一度確認するわ。何が起こっても平常心でいる事。何を言われても手を出さないこと。――上に居るのは将来の私たちのライバル。無様な姿は見せられないわ」
戦闘時のような真剣な声音でそう言うリアス。
さてさて、どれくらい強いのやら。ソーナたちシトリー眷属もいるだろうけど、他の連中はどうだろうな?
エレベーターが静かに動く。
背中を壁に預けながら俺は周りを見る。
一誠に視線を止めると、柄にもなく緊張していた。
「どうした一誠? 珍しく緊張なんぞして」
「だってそりゃ緊張するだろ? 部長と同じ上級悪魔の会合だぜ?」
「馬鹿か。そんなん緊張するだけ無駄だって話だ。気楽に行け。お前は伝説の天龍の片割れを宿しているんだ。大抵の奴になら負けはしないだろうよ」
「そうかな……」
俺の言葉を受けてもまだ一誠は不安そうにしている。
これ以上何を言っても効果なさそうなので仕方なく俺は話しかけるのを止める。
やがてエレベーターが止まり、ドアが開く。
廊下に出てある事数分。大きな扉から少し離れた場所に数人の集団がいた。
「サイラオーグ!」
その中の一人を懐かしそうに呼ぶリアス。
「久しぶりだなリアス」
にこやかにリアスにサイラオーグと呼ばれた男が返す。
短い黒髪に紫の瞳はギラギラと輝いている。
俺よりも身長が高い。しかも……。
「…………」
ジッと男を見る。
魔力というか、オーラはあまり感じられないがかなり鍛えられている。体つきを見ても明らかだ。
体の芯も一度もぶれていない。武術をかなり極めているな。
俺が冷静に男の評価をしていると、男が俺の視線に気づいたのか、こちらに視線を向ける。
「紅髪……リアス、この男が?」
「ええ、私の父方の従兄弟のカレン・グレモリーよ」
リアスが俺の事を紹介すると男が手を差し出してきた。
「噂は聞いている。初めましてだな。俺の名はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ。リアスとは彼女の母方の従兄弟に当たるな」
バアル。七十二柱の中でも元序列一位の大王。それの次期当主か。
つうか、リアスもバアル家の血縁者だったのか。ハーフの俺とはえらい違いだ。
「初めまして、カレン・グレモリーだ。色々あってリアスの眷属やっている」
俺の挨拶をしながら握り返す。
握られた手の感触で俺は感じる。
やはり、結構鍛えられている。それも生半可なモノじゃない。幼少期から血反吐吐くような鍛錬を積んでいたんだろう。
「ほお……」
俺の探る姿勢を感じたのか、面白そうに目を細めるサイラオーグ。
ほんの少しだけ睨みあう。
そしてどちらともなく笑い、手を離す。
「これから拳を交わすのが楽しみだ」
「そうだな」
俺たちが離れたのを見てリアスがサイラオーグに話しかける。
「それでどうしたのこんな所で? 待合室で待っていなかったの?」
「待っていたがな……下らんから出てきた」
「下らん? 他の家は集まっているの?」
「ああ、アガレスにグラシャラ=ボラス、アスタロト。それにシトリーにダンタリオン。お前以外は全員来ている。だが、到着早々ゼファードルとアガレスがやり始めてな」
心底嫌そうに吐き捨てるサイラオーグ。
やり始める? 何だエロいことでも始めたか?
俺がそんなアホな事を考えていると会場全体が揺れる。
続いて、ドオオオオオォォォンという爆発音も扉の中から聞こえてくる。
何ぞ? 敵襲か?
俺は警戒する中、リアスは迷うことなく扉の方に近づいていく。
「これだから顔合わせなど必要ないと言ったのだ。こういうのが起こるというのに」
サイラオーグも面倒そうに眷属らしき者達と一緒に歩き出す。
ああ、やり始めたってそういう事か。
俺が納得すると同時に扉が開かれる。
中は……まあ、惨状だな。
装飾は至る所が破壊され、無事なところを見つけるのが難しいぐらいだ。
そんな中で部屋の中央では二つのグループが睨みあっていた。
一つは眼鏡を掛けた何というか冷たい雰囲気を持つ女性を中心としている。周りの眷属らしき奴らも理性的な雰囲気を持つ奴らが多い。
で、もう一つの集団は何というか女の集団とは真逆だな。
中心にいるのは露出の多い服を着て、全身に魔術的なタトゥーを入れて緑色の髪を逆立たせている見るからに危ないヤツだ。眷属の奴らも人外の姿をしたヤツが多い。
「――ゼファードル、貴方馬鹿なの? 死ぬの? 死んでくれない?」
眼鏡を掛けた女が冷やかにそう言う。
うは、口悪。嫁の貰い手とか無さそう。
「かっ、随分と言ってくれるじゃねえの! 折角、処女臭いからあっちで一発やってやろうと思ったのによぉ! これだから頭の固いアガレス家の次期当主様はいけねえ!」
うん、男の方も見た目同様に口が悪いな。
状況から見るに男の方がちょっかいを掛けてそれに女がキレたって訳か。
悪魔って貴族社会の割にこういうヤツもいるんだな。いや、貴族社会でもやっぱりいるって事か。
で、他の連中は……。
周りを見てみると他にも二つ集団があった。
一つは優しげな雰囲気を持つ少年が中心にいる集団だ。少年は優雅に席に座って紅茶を飲んでいる。
ただ、周りの連中はフードで顔を覆っていて中が見えない。正直不気味だ。
で、もう一つの集団は全身黒ずくめの俺と同じくらいの年の奴が中心のメンバーだ。
周りの連中は……強いな。強者としての風格が滲み出ている。
ていうか、あの野郎、どこかで……。
俺の視線に気づいたらしく、黒髪のヤツが俺の事をニヤリと笑いながら見てきた。
何だ?
「やれやれ……面倒だが、いい加減止めないとな」
コキコキ、と首を鳴らしながら前に出るサイラオーグ。
それを見た一誠が止めようとするが、リアスが止める。
「イッセー、よく見ておきなさい。彼が若手ナンバーワンの一人よ」
っ! へえ……。
俺が見守っていると、サイラオーグが二つの集団の真ん中に来る。
「おい、二人とも、一度だけ警告する。今すぐにやめろ。これ以上続けると言うならば次は俺が相手をする」
凄むように言うサイラオーグ。
アガレス家、かな? あの冷徹なお姉さんは一瞬動揺する。
対して緑髪のヤンキーは怒りの色を濃くする。
「バアル家の無能が……!」
ヤンキーがそう言ったとき、サイラオーグの拳がヤンキーの頬に直撃する。
モロに入ったヤンキーはそのまま壁の方まで吹っ飛ぶ。
あれまあ、速い。若手ナンバーワンというのは伊達じゃないな。
ヤンキーの眷属は直ぐに怒りを露わにサイラオーグに向かおうとするも、直ぐにサイラオーグから主の方を優先するように諭されてヤンキーの方に向かった。
冷徹なお姉さんは一旦部屋を出て化粧直しに出かけて行った。
やれやれ、やっと終わったか。
そう思い、一息ついた瞬間だった。
突如として俺の方に目掛けて魔力の波動が飛来してきたのだ。
しかも、結構デカい。鎧を着てなければ割とヤバめな傷を負うしかないかもしれない。
それに気づいたリアスたちがギョッとした顔でこちらを見る。
対して俺は特に構える事もせず、ボンヤリと波動を見る。
「……リンド」
俺は呟き、右手に
『Absorb!!』
そしてそのまま俺の方に撃ってきたヤツ目掛けて放つ。
『Liberation!!』
ついでに俺の魔力も上乗せしておいてやる。
犯人――あの黒ずくめの野郎に真っ直ぐ進んでいく魔力の波動。
俺が魔力を上乗せしたからさっきよりも威力は倍増している。
眷属達が止めようとするが、野郎はそれを止める。
「――はっ」
軽く笑うと野郎は無造作に防御用らしき魔方陣を展開する。
魔力の波動がぶつかると、まるで最初から何も無かったかのごとく消え去った。
「……随分なあいさつだな。何か、喧嘩売ってんのか? 良いぜ、買ってやる。掛かって来いよ」
切っ先を野郎に向けて軽く威嚇する。
それに反応して直ぐに奴の眷属が前に出て構える。
「やめなさいカレン。また騒ぎなんて起こすものじゃないわ」
それを見たリアスが俺の肩を掴んで止めようとする。
そしてそのまま俺を庇うかのように前に出る。
「どういう事かしらオズワルド・ダンタリオン。折角サイラオーグがこの場を収めたと言うのに、貴方はまた騒ぎを起こしたいのかしら?」
リアスの質問に野郎――オズワルドは肩を竦めるだけだった。
「いやいや、別に、だよ。俺は彼を、かの無敗の王者のレオン・グレモリーの息子の力を確認したかっただけだよ」
「成程。親父殿の息子である俺の実力を知りたかったと? で、どうだ? 期待通りか?」
肩を竦めるオズワルド。
「さあな。流石にこれだけで分かるほど目は良くない。これからゆっくりと確認させてもらうさ」
ニイッと笑みを浮かべるオズワルド。
「……カレン、気をつけなさい。彼もまた、若手ナンバーワンよ」
つまり、サイラオーグと同等の実力の持ち主か。
「全く、最近大人しくなっていたと思ったのだがな……」
サイラオーグが頭を痛そうにため息を付く。
「知り合いか?」
「ああ、長い付き合いだ。しかし、あいつに目を付けられたか……リアス、気をつけろ。あいつは自分の欲望を最優先にする、正に悪魔らしい男だ。カレン・グレモリーはそのターゲットにされてしまったと言うわけだ」
おいおい、勘弁してくれ。面倒事はごめんだぞ?
どうやら初っ端から妙な奴に気に入られたと言うわけか。
若手悪魔ナンバーワンの一人。今の俺でどれくらい太刀打ちできるのやら。気が重いぜ。
******
部屋も魔力で元に戻し、ようやっと部屋の中央に置かれた円卓で顔合わせを始める若手たち。
各々が自己紹介をし始める。
サイラオーグにアガレス家のお姉さん。それにアスタロトのディオドラ・アスタロトも挨拶を交わす。
ヤンキーも顔を大きく腫らせながら自己紹介していた。
そんであのオズワルドも挨拶をする。
そしてリアスやソーナも挨拶を済ませた後、使いの者が来た。
「皆様方の準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
ようやっとか。
俺たちはぞろぞろとまた別の部屋に移動する。
さてさて、どうなるのやら。
廊下を少し歩いた後、少し開けた場所につく。
俺たちの前には高い所に設置された椅子が複数あり、そこには悪魔界の重鎮らしき悪魔たちが多くいた。
恐らく、貴族連中の中でもそれなりの力と歴史を持っている奴らなんだろうな。
重鎮の上の段には四人程座っていた。
男三人に女一人。
男の一人はゼクス兄さん。女セラフォルー様だ。
もう二人は知らないが、恐らく残りの四大魔王。ベルゼブブ様にアスモデウス様だろう。
四大魔王勢ぞろいか。まあ、ここには魔王血縁者がいるからな。
さて、これからどうなるのやら、ちょっと楽しみになってきたぜ。