洞窟の中は酷く暑い。マグマが至る所から流れており、気をつけなければ当たりそうな程だ。
「こんな所に住んでいるとか、どんなヤツだよ」
思わず口に出る。実際、ここに好き好んで住んでいるヤツなど、変人以外の何者でも無いだろう。
親父殿の眷属はどうも変な奴しかいない気がするな……まあ、それは俺たちグレモリー眷属も似たもんか。
そもそも、普通なヤツが強くなれるわけないか。そう考えると、家の面子は強くなれる奴らばっかりだな。個性は馬鹿みたいにあるし。特に一誠とかな。あれは最早変人で片付けていいレベルじゃないな。
リアスもまあ、普段はまともだが、あれも暴走するとめんどくさい事になるし。朱乃に至ってはドSだ。
祐斗も最近はホモ疑惑すら出てきているらしいし――主に一誠との。学校でとても噂になっていた――、ギャスパーなんて女装趣味野郎だ。
小猫も無口無表情の大食い野郎で、力持ち。アーシアも純情すぎて眩しくて見てられないし、ゼノヴィアなどはついこの間殺し合いをしていた仲だ。
そこで俺は足を止める。
今更だが、本当にうちの面子って濃いやつらばかりだよな。というか、普通がいない?
まあ、俺もその内の一人と考えると軽く憂鬱だな。少なくとも一誠と同列は勘弁だ。
「ん?」
それからしばらく歩いていると、人影を見つける。
男だ。非常にガタイが良く、上半身は何も着ていない。その上半身には無数の傷跡が残っており、この男の戦いの経験を感じさせる。
こちらに背を向けてしゃがみ込んでおり、顔までは分からない。
「……来たか」
ぼそりと、男が呟く。
「あんたが親父殿の眷属最後の一人か?」
「他の連中に会っているならばそうなるだろう」
「なら、多分最後の一人だな。で、あんたが俺の師匠を務めてくれるっていう話だけど?」
「そうだ」
さっきから素っ気ないなこのヒト。セルヴィアやペルセウスとは違うタイプだな。
「で、どうやってするのさ? 筋トレ? それとも技でも教えてくれる?」
さっさと修行を始めたい俺はどの様にやるのか方法を聞く。
すると男が、
「……ハッ」
小さく笑った。
「あ?」
俺が訝しんだ次の瞬間だった。
目の前に顔のぐらいの大きさと思えるほどの拳が迫ってきた。
「なっ……」
俺は殆ど無意識の内に両腕をクロスさせて顔の前に出す。
刹那、トラックにでも突っ込まれたような衝撃と共に俺の体は吹き飛ぶ。
「がっ……!?」
そこまでの広さを持たない洞窟の中だ。上下左右あちこちにスーパーボールの如く俺の体ははね跳び壁に激突していく。
全身に痛いところが無いと思えるようになってきた時だ。ふと、俺の視界が酷く明るくなった。
外に出たと直ぐに分かった。そしてそのまま近くにある岩に激突することで漸く止まった。
「くそ、体中が痛い」
痛みに顔を顰めながら俺は何とか上半身を起こす。
幸いなことに壁にぶつけて出来た傷は大したことは無い。無視できる程度の傷だ。
だが、問題は腕の方だ。
いまだに痺れている腕を見て俺は戦慄する。
咄嗟とは言え、今の俺の素での防御はそれなりにあるはずだ。禁手化状態の一誠の一撃でも悪くて骨折のぐらいの頑丈さはあるはず。
なのに、直接喰らった右手は完全に砕けてやがる。右手の後ろのあった左手も多分罅が入ったな。折れてないだけマシか。
おまけにしびれが取れない。右手は完全に、左手はしばらく動かせない。
「ほう、その程度で済んだか。正直もっとやられていると思ったのだが」
洞窟の方から声がした。俺は痛みをこらえながらそちらを向く。
見れば、男がこちらにゆっくりと近づていて来ていた。
ここにきて俺は漸く男の顔を見た。
褐色の肌に鋭い眼光。顔立ちは獣を印象させる。
だが、それよりも一番目立つのが額に生えている一対の角だった。
「鬼……?」
俺はその姿を見てそう呟く。
「然り。我が名は茨木童子。鬼の大将酒呑童子が配下の一人で、お前の親父の
堂々とした名乗りに俺は息を呑む。
茨木童子。日本における鬼の伝説においてビックネームの一人だ。
鬼の大将たる酒呑童子の最も重要な部下の一人と言われている。かの源頼光とその配下の四天王たちとの戦いでは唯一生き延びた。
その後、一条戻橋で、四天王のひとり渡辺綱を襲ったと言うがその際は返り討ちに遭い、左腕を斬られたと言う。
蛇足だが、その際は何故か老婆の姿で襲い掛かったとか。理由は知らないが。
茨木童子の左腕を見ると、包帯が乱雑に巻かれているが、間違いなく左腕がある。
たしか、斬られた後に取り返しに行ったんだよな。よく引っ付いたな。
まあ、今はそんな事どうでも良いか。
「で、何だっていきなり殴ってくるのさ。お蔭で両腕が全然使えないんだが」
「ふん、貴様は攻撃を受ける際に前もって宣言を受けないと戦いが出来ない男か?」
「うぐ」
それを言われると何も言い返せないが、だからって修行方法を聞いたとたんにいきなり殴りかかってくるのはどうかと思うが。
「それで? 俺の修行法って何? こうやってボコボコにされれば言い訳?」
皮肉る様に言うと、茨木童子は小バカにするように俺を見る。
「貴様がマゾならばそれでも良いが、生憎と俺はそんな面倒な事はしない。故に」
茨木童子が一歩踏み出す。
それと同時に茨木童子の体から破壊的なオーラが迸る。
その立ち姿は正に鬼。体が震えるのを感じる。
「どうした? 何を恐れる。俺を程度で恐れているようでは奴らには到底追いつけんぞ」
その言葉に、俺の頭は急激に冷えていく。
「……四死剣の事か」
「然り。今のお前では神星剣を使ったところで歯が立つわけもない。いや、神星剣に頼っているようでは一生勝てんだろう」
「何だと」
神星剣に勝てるのは神星剣のみ。少なくとも同じ力でなくては奴らには勝てない。俺はそう考えている。
知らず知らずのうちに俺は神星剣を抜こうとする。
だが、それよりも先に茨木童子の拳が俺に迫ってくる。
「っ!」
「愚か者が!」
紙一重が躱す俺。茨木童子の拳はそのまま俺の後ろの岩を砕く。
「最初から巨大な力に走るか! 貴様はその程度の器か」
「まるで俺が悪いみたいな言い方だな」
成程、確かに安易に楽な道を選ぶのはヒトとして駄目だろう。
だが、それが何だと言うのか。そんな事を屁理屈の様に言って、肝心な時に何も出来ない様では意味が無いでは無いか。
それで取り返しのつかないことが起きてしまったらそれこそ、後悔するしか無い。
ならば、俺は躊躇いなくその力を使う。
「愚かだな。今の貴様に必要なのはそんなものでは無い」
茨木童子がこちらに再び拳を振りかぶる。
「
生身は危険と判断し、俺は鎧を身にまとうとする。
だが。
「……? おい、リンド? 早く鎧を。リンド!?」
いつまでも鎧が出てこない。そればかりか剣さえも出てこない。
どういう事だ。この状況下でリンドが応えない理由が……。
そしてここにきて俺はあることに気づく。骨が砕けて使えなくなっている右腕に何か腕輪のようなものが付いているのだ。
「何だ、これ」
「それは
「あ」
あのくそ堕天使総督が~~~~~~!!
なんてものを! あの野郎一度しばいてやる!
俺が思わずあの駄教師に復讐を誓っていると茨木童子が話を続ける。
「貴様は安易に他の力に頼る傾向がある。故に、これから終了日まで己の肉体のみで戦ってもらう」
「己の肉体のみ……」
つまり、神器と神星剣を使う事は禁ずるって事だな。
「なんとまあ」
使えるのは己の拳と魔力のみって事か。
ああ、くそ。この二つでどうやってこいつブッ飛ばせた良いわけさ。
おまけに両腕は全然使えないし、体中痛いし。最悪な状況だな。
「では、行くぞ!」
茨木童子が拳を振りかぶるとそのまま地面に叩きつける。
衝撃で地面に小さいクレーターが出来る。
何てヤツだ。鬼ってのは誰もかれもがあんなにも馬鹿力なのか。
俺がヤツの力に戦慄していると、地面が揺れ始めているのに気付いた。
地震? いや、ここは火山。まさか……!
噴火、という単語が俺の頭をよぎった瞬間、俺の周りで地面から溶岩が間欠泉ように噴き出た。
「っ!?」
咄嗟に体を魔力のオーラで覆う。こんな事ならばリアスとか朱乃に防御用の魔方陣の使い方習っておけば良かった後悔するが、今はそんな事を言っても仕方ない。
幸いなことにマグマは普通のだったらしく――それでも触れればやばいが――新しい傷を負うことなく防ぐことが出来た。
だが、それよりも問題なのは茨木童子が何をしたかだ。
いきなり溶岩が噴き出のはこいつがさっき地面を殴ったことによるものだろう。だが、それだけで溶岩が噴き出る物なのか?
「そら、次だ」
その言葉に俺は身構えるのであった。
******
「…………」
カレンの実家。その一室でセルヴィアは針の筵の中に居るような気分でいた。
(どうしてこうなったのかしら……)
原因は明らかだ。カレンの修行相手が茨木童子なのが理由なのだ。
茨木童子は基本的に容赦がない。例え主であろうと自身が気に喰わなければ命令を簡単に無視するのだ。
更に、今回の修行だって恐らく、グレモリー眷属の中でも最も過酷な修行となるだろう。下手をすれば命を落としかけないほどの。
だが、結局はそれだけやらねば強くならない。そういう事でもあるのだ。
普通の修行であっても恐らくカレンはしっかりと成果を出すだろう。しかし、彼自身がそれでは満足しない。
セルヴィア達にとっても因縁があるルーファス・アガリアレプトを殺す為には更なる力がいるのだ。
「ティアちゃん、あのね」
「分かってます」
セルヴィアが何かを言う前にユースティアが遮るように言う。
「え?」
「カレン様は強さを求めていらっしゃる。それは一目瞭然の事。なればこそ、私たちはその手伝いをしなくてはならない。あの方の眷属となるのだから」
「やっぱり、カレンちゃんの眷属に?」
「はい。この身の全てをあの方に捧げると誓っておりますゆえ」
迷う事無く澄んだ瞳で言い切るユースティア。
そんな彼女にセルヴィアは不安を抱くも、それを飲み込み、話を進める。
「そ、ならティアちゃんは
「私が、ですか?」
「そうよ、ティアちゃん、私たちの中でも攻守ともにバランスよく対応できるし、カレンちゃんをサポートすると言う点では一番いいと思うわ。私やペルセウス、茨木なんかじゃ無理よ」
「私が、女王……私なんかで良いのでしょうか?」
「勿論。ティアちゃん以外考えられないわ」
ユースティアは少し影を帯びた表情を浮かべる。
それをあえて無視してセルヴィアはパン、と手を叩く。
「さて、じゃあカレンちゃんに差し入れを用意しましょうか。あそこじゃあ食事だって満足に取れないでしょうし」
「分かりました。ここからでしたら転移魔方陣よりペルセウスのペガサスが早いでしょう。彼を呼んでください」
「了解よ」
セルヴィアがペルセウスを呼びに部屋を出る。
それを見送ったユースティアは窓の方を見る。
「カレン様、貴方様が強くなられることを心よりお祈りしております」
それだけ呟くと、ユースティアもカレンへの食事を用意するために部屋を出るのであった。