「ふん!」
「っ!」
茨木童子が繰り出す拳を俺は瞬時に躱す。
そしてその勢いに乗り、魔力を込めた手刀を茨木童子の首に目掛けて打ち込む。
しかし、茨木童子も直ぐに反応して上半身を後ろにずらして手刀を躱す。
躱されたのを見て俺は直ぐに距離を取ろうとする。
だが、茨木童子はそれを許さず、俺の腕を掴む。
「げ……」
思わず声が漏れる。
茨木童子がそのまま背中を俺に向ける。
そして勢いよく俺の体を投げ飛ばす。
気が付いたときには背中から思いっきり叩きつけられた。
「がっ……」
肺の中から空気が口に流れ、思わず咳き込む。
「……安易に攻めすぎだ。攻めるときも常に危険を考えておけ」
「了解……」
流石に甘かったか……もう少し考えてやるべきだったな。
昔はそれをきちんと考えていたのに、神器の防御力を手に入れてそれに頼りきりだったんだな。反省しなくては。
「だが、魔力の扱い方は大分マシになってきたようだな。最初に比べて攻撃と防御に使う魔力の使い方が上手くなってきている」
「まあ、それぐらいはな……」
自分でも魔力の扱い方は結構上手くなってきていると思う。お蔭で無駄な魔力消費を少しは抑えられるようになってきている。
ただ、瞬間的に防御するとか、そういった事はまだ難しい。
「まだまだ、だな……」
俺の呟きに茨木童子は首肯する。
「では、これも防いでみろ」
「え?」
次に俺が目にしたのは眼前に迫る拳だった。
******
「お前、とんでもない修行してんな……」
「別に、慣れれば何にも問題は無いぜ」
握り飯を食べながらアザゼル先生に返す俺。
「だからって体の殆どが包帯まみれじゃねえか。フェニックスの涙使った方が良いと思うが?」
「体を痛み付けてその分回復させる必要があるんだと」
「……実に鬼らしい」
呆れたように首を振る先生。
茨木童子の拳をもろに顔面に喰らった俺は右の顔を殆ど覆い尽くすようにして包帯を巻いている。
で、その包帯を巻いている最中にアザゼル先生が来たわけだ。
先生はリアスたちが作った握り飯を持ってきてくれて俺も現在休憩中だ。
ティアには悪いが修行とかにはこっちの方が食べやすいな。今度からはちゃんと言っておこう。
「イッセーの奴も中々にやっているが、お前の方が結構やばいな」
「む?」
一誠? そういやあいつ、龍王と修行してるんだっけ?
「あいつ、どんな修行してのさ?」
「ひたすらタンニーンに追いかけまわされているらしいぜ。死ぬかと思ったとか何度も言っていたな」
「そんな事してんのか」
ドラゴンに追いかけまわされるとか、まんま怪獣映画だな。
「お前もサイズが違うだけで追いかけ回されているのは同じだろうけどな」
確かに、それは言えているな。
「てか、先生が来たって事はダンスの方か?」
「何だ、聞いていたのか。ああ、そういう訳だから少し借りていくぞ」
先生が近くにいる茨木童子に声をかける。
茨木童子も無言で応える。
「しかし、イッセーやお前も無茶な修行をしているな……」
「今さらだろ。そういえば、他の連中はどうなっているんだ?」
流石に俺たちみたいな無茶苦茶な修行はしていないと思うが……。
「ああ、それな……」
先生が歯切れが悪そうに言葉を濁す。
「小猫が倒れた」
「は?」
小猫が、倒れた?
「何だってまた」
「俺が与えたメニューを過剰にやり過ぎたせいだ。つまりオーバーワークだ」
なんとまあ……何をしているんだあの後輩は。自分の限界がわからない訳では無いだろうに。
「何をそんなに必死になっているのか……」
俺は空を仰ぎながらぼそりと呟くのであった。
******
「はい、そこでステップ。次にターン」
音楽を耳に入れながら俺は必死に叔母上の指示に従う。
「はい、そこは遅れない。パートナーが戸惑ってしまいますよ」
「は、はい」
くそ、戦闘とは訳が違うな。相手と呼吸も合わせないといけないから、そこら辺もしっかりと考えないといけないし。
だが、ここで覚えなくてはいけないし、中々に厄介だ。
「ふう、すこし休憩しましょうか」
漸く休憩だ。さっきから延々と続いていたからこのまま叔母上が満足するまで続くかと思ったぜ。
「筋は良いわ。これなら予定通りにいけそうね」
「なら良いんですけど」
壁際に座り込んで俺は休憩する。
「しかし、茨木童子も相変わらずというべきかしら。顔大丈夫?ちゃんと治すのですよ?」
側に座った叔母上が包帯の上から俺の顔を撫でる。
「……叔母上は茨木童子と知り合いなんですか?」
「それはまあ、レオンの眷属でしたからね。あまり交流は無かったけど、レーティングゲームは毎回見ていましたし。まあ彼の戦いっぷりは恐ろしいの一言でしたから」
「恐ろしい?」
「ええ、相手に一切合切、躊躇なく拳を叩き込むから相手は生死の境目をよく送っていましたから。正直、死ななかったのが不思議なくらいです」
……茨木童子の奴容赦無いのは昔からか。俺も死な無いようにしないとな。
「……そういえば、小猫の奴が倒れたって聞いたんですけど」
少し気になったことを聞いてみる。
「ああ、今は部屋で休んでいるでしょう。リアスや朱乃さんが付き添っているはずです」
成る程、だからこっちにもどってから一度も会っていないのか。
「彼女も今は自分の存在と力に向き合っています。難しい問題です。ですが、これは自分で答えを出さないといけません」
「……やっぱり、小猫も訳ありだったんですね」
「あら、気づいていたのですか?」
「まあ、あれだけ過去に色々とある面子が揃っているんです。一人だけ普通、というのも何だか可笑しいですし」
俺や一誠が入る前からいるメンバーは皆が過去に碌でもない事を経験している。リアスも恐らくだけどそういった連中を中心に眷属として向かい入れている気がするしな。
「ただ、どんな過去を持っているかは分からないですけどね」
「まあ、貴方は最近になって戻ってきたのですものね。知らないのも当然です。少しお話ししましょうか」
そうして叔母上は語り出す。
良くありそうな、それでいて何とも悲しい二匹の姉妹猫の話を。
******
「……よお」
小猫が休んでいる部屋に俺はノックをしてから入った。
「あら、カレン……ってどうしたのその顔!?」
「ああ、兄貴ってどうしたんだよその顔!?」
「カレン、一体何が!?」
「お前ら、揃いも揃って驚きすぎ」
そりゃあまあ、右の顔全体を覆うように包帯を巻いていたらそんなリアクションを取るかもしれないけどさ。
「まあ色々とあってな」
「色々って……」
色々は色々だ。聞くな一誠よ。
俺は小猫が休んでいるベットに近づく。
近くに置いてあった椅子を逆にして、背もたれに顎を乗せるようにして座る。
小猫は上半身を起き上がらせており、普段と何なら変わらないように見えるが、決定的に違う部分があった。
「マジか」
小猫の頭の上、猫耳が生えていたのだ。恐らく、普段隠せているけど、それすら出来ないくらいに弱っているんだろう。
「聞いたぜ、小猫。猫又なんだってな?しかも、その中でも最上級の猫魈だと」
「……」
猫又。日本の鬼と同様妖怪の一種で大抵は死んだ猫が化けて二本の尾を持つ妖怪などで有名だ。
この猫又、人を襲ったり霊を司ったりと色々と伝承を持っている事で知られている。
その中でも上位クラスの猫魈は実力も半端ないそうだ。
「……そんな話をする為にここに来たんですか?」
少し、というか、マジで不機嫌そうに俺に聞いてくる小猫。
「別に。ただの確認。倒れたって聞いたから可愛い後輩の見舞いに来たのさ」
ニカっと笑う。
「しっかし、倒れるまで修行するとか、お前マゾか?」
からかうように言う俺。
「ちょっと兄貴」
一誠が咎めるように言う。
「……強く、なりたいんです」
「ん?」
「私、
ポロポロと涙を零しながら吐露する小猫
ふむ、ここまで感情を露わにするとは、よっぽど思い悩んでいたわけ、という事か。
「でも、あの力を使うのは嫌……姉様と同じようになるのは……嫌」
姉様。例のはぐれ悪魔か。
小猫は昔、同じ猫又の姉と二人きりで生活していた。
そしてある日、姉がある悪魔の眷属になる事で二人は漸く安住の地を見つける事が出来た。
しかし、そんな生活も長くは続かなかった。
悪魔に転生した事で姉猫の秘められた力が一気に解放されて、姉はその力に溺れた。
ついには、主を殺して数々の追撃を振り切るだけの凶悪なはぐれ悪魔になってしまった。
悪魔たちはこの責任を姉では無く、残された妹の小猫に押し付けた。
妹の方もいつ暴走するかどうか分からないから今の内に処分するべきだ、と。
胸糞悪い話だが、実際、犯罪者側の家族がひどいバッシングを受ける事は良くあることだ。まあ、処分ってのは行き過ぎだと思うが。
そんな小猫を救ったのはサーゼクス兄さんだったそうだ。
小猫にまで罪は無いと、自分の元で監視すると、上役達を説得したそうだ。
そして小猫をリアスに預けた。『小猫』という新しい名前を与えて。
「なあ小猫、俺も自分っていう存在に疑問を持ったことがある」
「……?」
「ガキの頃、まあ詳しい話は省くけど。当時俺はこの紅髪の為に色々と嫌な目にあっていたんだ。正直、何でこんな髪を持って生まれちまったんだって何度も思った」
ガキの頃は今以上にやさぐれていた。特に、母様が死んでからは一番やばかったかな。辺り構わず八つ当たりをしていた。
「俺一人じゃ多分受け入れることが出来なかった。俺という存在を受け入れてくれた人がいたからこそ、今の俺がある」
もしもそいつらに会わなかったら、と思うと正直考えられないな。
「小猫、自分で受け入れられるならそれで問題無い。でも、もしも一人で本当にダメなら周りを頼れ。信じろ。少なくとも俺は相談位なら乗ってやる」
ポン、と小猫の頭に手を乗せる。
「さて、じゃあな。俺はさっさと戻るわ」
目的も果たしたし、あの鬼との特訓に戻りますか。
「カレン」
部屋を出ようとした時朱乃に声を掛けられた。
「どうした朱乃?」
「……分かっているくせに」
苦笑する朱乃。
朱乃は俺の手を握ると、自分の胸元に押し付けるって、え、ちょ。
「な、何さ」
胸の感触が、え、ちょっと?
俺が混乱している中朱乃は目を閉じ、俺の手を握りしめる。
数秒して、目を開けると、パッと手を離す。
「ん、大丈夫ですわ」
「何さ、もう」
若干顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
「ふふ、私も少し勇気を貰いました」
「勇気?」
「私たちも頭では分かっているんです。でも、どうしても心が追いついて来ない。だから、もう少しだけ待っていてください」
「……追いついて来れるか?」
「ええ、勿論」
そう告げる朱乃の顔は心配なさそうであった。