「ドラゴンの上から空を見る。冥界に来てから色々な事を体験したが、コレが一番の大きな出来事かも」
ドラゴン――タンニーン殿の背中で寝そべりながら俺は呟く。
恥ずかしき着替えを終えて中庭に向かうと、既にほかの面々は揃っていた。
リアスたち女性陣は既にドレスに着替えて完全にメイクも済ませていた。
まあ、何故かギャスパーもドレスを着ていたのは突っ込みたくなったが。
で、会場にはどうやって行くのかと思ったら、なんとタンニーン殿が眷属を率いて現れたのだ。
聞けば、一誠がタンニーン殿と約束をしていたらしく、会場まで乗せていってくれるそうだ。
「しっかし、ドラゴンの上に乗って空を飛ぶ感じはどうよリンド?」
『……最悪ですね。まあ、これがドライグだったらゲロを吐きたいくらいです』
俺のからかいにリンドは酷く冷たく答える。
まーだドライグの事恨んでいるのか。相当根が深いな。
というか、吐き出す胃袋持っていないだろこいつ。
「お前はまだ根に持っているのか、リンドヴルム? いい加減許してやったらどうだ?」
呆れる様に言うのはタンニーン殿だ。
『貴方は封印されていないからそんな事が言えるのですよタンニーン。巻き添えでこうなれば私の気持ちも理解できるでしょう』
「まあ、確かに封印されたことは無いが……そうか、そう考えると、龍王の内、ヴリトラとファーブニルは神器に封印されて、ウーロンとミドガルズオルムは隠居。唯一現役なのはティアマットぐらいか。随分と減ったものだ。いつの世も、強すぎるドラゴンは退治されてしまうものだ」
どことなく寂しげなタンニーン殿。
そんなタンニーン殿をリンドは鼻で笑う。
『何を今更。私たちドラゴンは好き勝手に生きて、暴れて、他者への迷惑などお構いなし。自分の欲求を満たせればそれで良い。それが私たちドラゴンでしょうに。だからこそ、他の勢力の者達から嫌われていた』
「それを言っては元の子も無い気がするがな」
『まあ、滅びゆくドラゴンの種族を救うために悪魔に転生する貴方など、私には理解できませんね。というより、貴方ぐらいでしょうね、ドラゴンという種全体で物事を考えているのは』
「褒められているのであろうな。リンドヴルムの口からそのような事が出るとは思いも寄らなかったが」
そう、タンニーン殿はとある果物、ドラゴンアップルという果物で生きているドラゴンの種族を助けるために悪魔に転生したのだ。
何でもこのドラゴンアップル、既に人間界では存在せず、冥界の悪魔領のほんの一握りの土地でのみあるという。
当然、悪魔がタダでドラゴンに土地を分けるわけ無く、タンニーン殿は転生悪魔となってレーティングゲームを始めたと言う。
レーティングゲームで上級悪魔となれば、魔王から直轄領が貰える。そうすることでドラゴンアップルが成っている場所を丸ごと領土にしたのだという。
「おっさんは良いドラゴンだな」
一誠がタンニーン殿をそう表現する。
それに対してタンニーン殿は大笑いする。
自分は力ある龍として力ない龍を守っているだけに過ぎないと。
「俺もタンニーン殿以外に龍王と会ったことが無いから分からないが、リンドが言った様に貴方ぐらいじゃないのか、ドラゴンという種全体で物事を考えているのは」
「かもしれんな。ま、俺はこういう生き方が存外気に入っている。だから構わん」
一旦そこで口を閉ざし、タンニーン殿は話を変える。
「しかし、改めて見るとやはりそっくりだな元チャンピオンに」
「元チャンピオンって……親父殿か?」
「ああ、以前ゲームで戦ったことがあったが、いやはや。強かったぞ。現チャンピオンである
「無敗!?」
親父殿というか、セルヴィア達もそんなに強かったのか。まあ、強いのは分かっていたけど、そこまでとは……。
「それに、お前の母親の朝凪日月は女王でありながらどの騎士よりも剣で優っていた。正に、
どことなく遠い目をして言うタンニーン殿。
きっと、色々とあったんだろうな。
「兄貴の両親ってすごかったんだな」
一誠の言葉にタンニーン殿は首を振る。
「すごいと言うモノじゃない。レオン・グレモリーは朝凪日月を女王に迎えるまで女王無しで戦って負けていなかったのだからな」
「はあ?」
つまり、母様と出会うまで最強の駒を使わないで勝っていたのか? どんだけだよ。
「流石にそれは驚くな」
「だろうな。ま、他にもあの二人には色々な逸話がある」
「例えば?」
「朝凪日月が欲しがった剣の為に領土の一部を売ったとか」
「……おい」
「レオン・グレモリーが朝凪日月に何度も求婚を迫ったために『ストーカー野郎!』と罵倒されてもめげなかったり」
「ちょっと待て」
「後は――」
「もう良い! 何だろ、この聞きたくも無い残念な話を聞いた感じは!」
『事実、残念な話を聞いていたんでしょうに』
リンドのツッコミも聞かなかったことにする。
あれだな。うちの両親はどこかおかしいヒトなんだな。うん、そうに違いない。
『間違いなく受け継いでいますね』
あーあー聞こえなーい。何にも聞こえなーい。
くそう、セルヴィア達に聞くのが少し怖くなってきたぞ。他の両親の武勇伝を聞くと更に残念な感じになるだろうな。
はあ、今から憂鬱になってくるぜ。
******
パーティー会場に着いてまず最初に俺を迎えたのは目を覆うほどの光だった。
どうやら様々な会場が一箇所に集まった複合会場らしく、ドームが無数に存在している。
その中でもタンニーン殿達大型な存在用のフィールドに降り立った。
「では、俺たちは別の会場に向かう。またな、兵藤一誠、カレン・グレモリー」
「ああ、またなおっさん」
再び飛んでいくタンニーン殿達。
「さてと、俺たちはどこに向かえば良いんだ?」
「こっちよ」
リアスに先導されて車に乗る俺たち。
「カレン、分かっていると思うけど、今回貴方は挨拶回りが重要な事になるわ」
「ああ」
帰還したとはいえ、俺の存在はまだ完全に公になっていると訳では無い。
だからこそ、多くの上級悪魔が集う場所などでその存在をお披露目する必要がある。
「ところで、カレン、私に何か言うことない?」
「んー?」
どことなく、自分の体を見せつけるリアス。
俺は何となく見てみる。
リアスはドレスを身に纏っており、髪もキチンと整えている。
化粧も薄くだがしており、それが普段とは違う雰囲気を出している。
ふむ、何かいう事か。
…………。
「いや、別に」
「……」
「え、ちょ、襟元掴まないで。待て待て滅びの魔力は不味い! それをやられると流石に俺でも危ない!」
「構わないわ。女の褒め方を知らない男はこうなる運命なのよ」
「何言ってるのさ! お前大丈夫か!?」
何さこれ! 不味いぞ! ええい、兎に角何か言わなくては。
……何を言えばいいんだろ。
「……カレン、部長は自分の姿を褒めてほしいのですわ」
近くに座っていた朱乃がこっそりと伝えてくる。
「自分の姿って、リアスはいつも綺麗じゃねえか。ドレスだって結構着ているから似合うのは知ってるし」
「……そ、そう」
急に顔を真っ赤にしたリアスが魔力を霧散させて、座り込む。
やれやれ、何とかなったか。
ため息を付いていると、袖を引っ張られる。
そちらを見ると、朱乃も何か言いたそうにこちらを見ている。
「……」
「…………」
これはあれか? あれなのか。
「……朱乃も似合っているぞ。普段は和服ってイメージが強かったからドレスもギャップが合っていいな」
「うふふ、ありがとうございます」
心から嬉しそうに笑う朱乃。
で、リアスは面白くなさそうにすると。
ほんと、どうすれば良いのやら。
「そういや、ソーナと何か話していたけど、何を話していたんだ?」
話題を変えてリアスに話を振る。
「ああ、ゲームについて宣戦布告を受けたのよ。『私たちが絶対に勝つ』って」
「ほうほう、あのソーナがね。何だか意外かな」
「そうでもないわ。ソーナはああ見えて負けず嫌いな所もあるし。それに、今回のゲームもソーナにとっては夢を叶えるための第一歩といった所ですもの」
夢、か。冥界に誰もが通えるレーティングゲームの学校を作るっていう。
「けど、私達にも夢がある。だからこそ、今回のゲームは負けられないわ」
意気込むリアス。
リアスにも叶えたい夢がある。こんなに意気込むのも無理は無いか……。
何となく、羨ましくも思う。今の俺には残念ながらそういった夢は無い。
憧れない、と言えば嘘になるが、そうまでして夢を持つ気は無い。
今の俺にとって叶えたいことはただ一つ。それさえ叶えられればいい。
******
パーティー会場に着き、あいさつ回りを始める俺とリアス。
途中、親父殿たちの話を聞いたのだが、残念がらタンニーン殿が話したような事ばかり。
……いや、ホント何してんのあの人たちは。
そしてもう一つ分かったことがある。
あいさつ回りをしている中で少なからず俺に嫌悪を感情を向けていた奴もいた。
勿論、露骨に出していたわけでは無いが、俺の事を見下すように見ている様に感じた。
恐らくは親父殿根強い人気や俺がハーフだってことが影響していると思うが、まだよく分からないな。
グラスに入ったジュースを飲みながら俺は壁に背を預けて会場を見渡す。
リアスや朱乃は他の同世代の女性悪魔と楽しそうにしゃべている。
祐斗もお姉さん世代を中心に囲まれている。
一誠たちは周りの空気に圧倒されたのか、壁際で休んでいた。
さて、大体の挨拶は済ませたし、ここからどうするか。
「お、お久しぶりです」
「ん?」
話しかけられて俺はそちらを見る。
見ればそこには金髪縦ロールの少女が。
「……ごめん、誰だっけ?」
「レイヴェル・フェニックスです! 貴方に決闘で負けたライザー・フェニックスの妹の!」
「ああ、君か」
あの時以来だからすっかり忘れちまっていたぜ。
「全く、リアス様と同じグレモリー一族と聞いていたのに、何ですかその態度は」
「はは、済まない済まない。ほら、あの時は俺も色々と余裕が無かったしさ、許してくれよ」
いやあ、本当に久しぶりな気がするな。
「そういや、馬鹿兄貴は何している? 相変わらず女の尻でも追っかけているのか?」
「馬鹿……いえ、貴方に負けたショックで家に引きこもっておりますわ」
「あ? マジで? あいつが?」
あの自分に酔っているとしか思えないあの野郎が? はは、笑えてきた。
「まあ、調子に乗っていたところもありましたからいい薬だと思いますが」
この子、意外に冷たいな。兄貴が引きこもっているのに。
「と、所で、貴方も王としてレーティングゲームを始めるのですか?」
「まあ、そのつもりだけど」
「眷属はもう集まっておりますの?」
「いや、まだまだだな。僧侶なんかは全然候補いないし」
あいつらもなってくれるかどうか。
「そ、そうですか」
ぱあ、と顔を輝かせるレイヴェル。
「確か、お前さんも僧侶だったな」
「ええ、今はお母様の僧侶ですが」
「どういう事だ?」
聞けば、同じ駒同士なら『トレード』が出来るそうだ。レイヴェルはライザーと母親の未使用の駒で『トレード』したことで今は母親の僧侶らしい。
で、母親はゲームをやらないから実質フリーの状態らしい。
「成程ね。そんな制度もあるんだな」
「主同士が決めればそれでトレード出来ますが、デリケートな部分もありますから慎重にする必要がありますが」
「ふむ」
まあ、多分俺には縁が無い話だろう。
「しっかし、お前さんが俺の僧侶になってくれれば案外助かるかもな。まあ、あり得ないが」
軽く冗談を言ってみると、
「本当ですか!?」
「うお!?」
身を乗り出す勢いでレイヴェルが迫ってくる。
「わ、私を貴方の僧侶に?」
「え、いや、そうなったらいいなーって」
何この子。めっちゃ喰いついてきた。え、どういう事?
「レイヴェル、旦那様がお呼びに……ってどうしたんだ?」
右の顔に仮面をつけた女性が俺たちの様子を見て目を丸くしていた。
確か、このヒト一誠と戦ったライザーの戦車でイザベルだったな。レイヴェルの付き添いか?
イザベルの言葉にハッと我に返ったレイヴェルは顔を話し、恥じらう様に顔を赤くする。
「す、すみません。私ったら」
「まあ、良いけど」
いや、ホントビックリしたわ。喰いつきっぷりが半端ないわ。
「カレン様、今度一緒にお茶でもしながらお話ししましょう」
「あ、ああ」
「では」
最後は礼儀正しく挨拶をしてレイヴェルは離れていく。まるで嵐の如く。
……ホント、何なんだろうな。