「なんだったんだ一体……」
ごきげんよう、とにこやかに挨拶をして去っていたレイヴェルを見送りながら俺は思わず呟く。
なんと言うか、喰いつきすぎだった。正直、若干引いた。
俺の眷属にそんなに成りたいのか?俺と彼女の接点などあの婚約騒ぎのみだぞ。その時だってそんなに話した覚えも無いし。
「訳わからないと言った顔をされていますね、カレン様」
「ん」
横を見れば、ライザーの眷属の一人、イザベルがそこにいた。
「まあな、ってあんたに敬語を使われると何かむず痒いな」
「御身はグレモリー家の一族に連なるもの。私もそれ相応の態度を取らせていただきます」
うむ、それもそうだろうが、やっぱり奇妙な感じだ。
「話を戻すけど、俺、彼女にそんなに気にいられる事なんてしたっけ? 寧ろ嫌悪の対象真っ盛りな行動ばっかしていた気がするんだが」
あいつの兄貴の婚約パーティーに乗り込んで兄貴ブッ飛ばして、兄貴の婚約者を連れ去ったヤツ。
……うん、客観的に見たら俺最悪な事してんな。まあ、後悔は全然していないけど。
「いえいえ、むしろ逆です」
「逆?」
「はい、あの時の貴方の雄姿が……」
その時、ビクッとイザベルの体が震える。
「どうした?」
「あーすみません。私少し用事を思い出しまして、これで失礼します」
「は? え、ちょ」
戸惑っているうちにイザベルがそそくさとその場を立ち去る。
俺が首を傾げていると、ふと視界にレイヴェルが入った。
見れば、男性とにこやかに話していたが、どうも男性は若干引き気味だ。
何かあったのやら。
「よお、元気そうだな」
後ろからまた声を掛けられる。
今度は誰だ? いい加減めんどくさくなってきたぞ。
そう考えつつ、俺はそれを表情に出さない様にしながら後ろを振り向く。
そこにいたのは、
「……オズワルド・ダンタリオン」
「あの時以来だな、カレン・グレモリー」
黒い髪に黒い衣装。全身黒ずくめの悪魔。
オズワルド・ダンタリオン。若手悪魔の中でも最強と言われているサイラオーグと同等と言われるほどの男。
見れば、隣にはそれぞれ同じ顔で同じ衣装で、同じ茶色の髪を持つ少女達が侍っていた。
双子、何だろうな。同じ顔をしているし。
しかも、こいつ等まるで隙が無い。かなりの使い手だな。流石は、と言う所かな。
「何の用だ?」
若手悪魔が集った時の事を思い出すと、知らず知らずのうちに口調が固くなってしまう。
そんな俺の態度にオズワルドは苦笑する。
「怖い顔するなよ。俺はただ、お前に会いに来ただけだ」
「そうか、もう会ったから良いな。じゃあな」
「待て待て。もう少し話をしようぜ」
馴れ馴れしく肩に腕を絡ませるオズワルド。
「気持ち悪い。放せ」
「ははは、お前素直だな。やっぱ気に入ったわ」
何こいつ。本気でめんどくさい。
「で、話って何だ? 俺はお前と話すことなど何も無いぞ」
「やれやれ、つれないなあ。まあ、良いや。本題に入ろう」
一旦口を閉ざすと、オズワルドは声を低くして俺の耳元に囁く。
「……なあ、お前が持つ神星剣ってどんな感じだ?」
「っ!?」
思わず、息を呑む。
「あ、その反応。やっぱり持ってるんだ」
舌打ちしてしまう。
「……何故その存在を知っている?」
先生やゼクス兄さんが言うには神星剣の存在を知っているのは三大勢力の上層部の中でも本当に一握りだけだと聞いている。
間違ってもこんなヤツがその一握りの訳ない。
俺の質問にオズワルドは笑みを浮かべるだけだ。
「さあ、何でだと思う?」
「…………」
口を割らせるか? 思わず考えたが、直ぐにその考えを捨てる。
何を考えているのやら。ここは上級悪魔たちが集う場所。そんな場所で騒ぎを起こしたら、俺以外にも迷惑が掛かってしまう。それだけは避けなくてはいかない。
俺はオズワルドの手を振り払う。
「悪いがお前に教えることなんて何一つ無い。じゃあな」
これ以上、こいつと話したくない。話していたら色々と厄介な事が起きるだろう。
俺がオズワルドに背を向けて歩き出した瞬間だ。
「所で、この会場から姿を消したヤツが三人ほどいるんだが、分かるか?」
唐突なオズワルドの質問に俺は足を止める。
「……何?」
思わず、俺は辺りを見渡す。
そして、ここにきて漸く気づいた。
「リアス、一誠、小猫……?」
三人がいない。一人だけならトイレ等と思えるが、流石に三人同時に居ないのは気になってくる。
「急がないと不味いんじゃないか?」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるオズワルド。
「……お前」
漸く気づく。こいつが何を目的としているのか。
「オズワルド・ダンタリオン」
「何だ?」
「覚悟しておけ」
短く告げる。
それを受けたオズワルドはますます笑みを深める。
俺はもう振り返ることも無く、急いで会場を出ようとする。
「神星剣には意思がある。聞いてみると良いよ」
「…………」
足を止めそうになるが、それを抑えて俺は走り出す。
******
「良かったのー?」
「ん?」
カレンの後姿を見送った後、オズワルドの両隣に控えていた茶髪の少女の内、髪をアップでまとめている方がオズワルドに話しかける。
「あんな敵対行動を匂わせるような事しちゃってさー。お蔭で彼、最後はすっごい殺気出していたよ? 思わず私、手が出そうになっちゃったもん」
「その通りよ、あんな事してどうなるか分かってるの?」
もう一人の少女、髪を肩辺りで切り揃えている方がジッとオズワルドを見る。
「いやあ、彼の反応があまりに良くて。ついついからかっちゃった」
テヘ、とでも言うような反応に二人の少女は同時にため息を付く。
「「この快楽主義者」」
そして同時に言い放つ。
「お、見事な発言だ。正に俺の事を指している。良いねえ。二人に座布団一枚ずつ!」
「「ふざけるな」」
ひとしきり笑ったオズワルドは不意に真面目な表情を作ると、告げる。
「まあ、彼があのまま行ったら直ぐに終わっちゃうでしょ? それじゃあ面白くない。それに」
そこで一旦口を閉じて、オズワルドは持っていたグラスの中身を一気に飲み干す。
そして、怪しく笑うと、
「大事なヒト達がボロボロになっていた方が、彼も怒るでしょ?」
「「サイテー」」
「あははははは」
ヘラヘラと笑いながらオズワルドはカレンの事を考える。
カレン・グレモリー。彼ならば、あるいはなるかもしれない。己の望みの為に。
「さあ、上って来いカレン・グレモリー。俺の為にもっと強くなれ」
******
「くそ、どこだ」
視界に映る森を見ながら俺は近くの木に拳を叩きつける。
それほどまでに焦ってしまっているのだと、自分でも自覚している。
急いで会場の外に出るも、これだけの広さだ。見つけるのは難しい。
だからこそ、一番近くで人気が最も少ないこの森に来たのだが。
「人影どころか、小動物一匹もいない。当てが外れたか?」
気配が全く感じない。違和感が無い訳で無いが、探しようが無い。
リンド、何か分からないか?
『……先ほど、タンニーンの気配がこちらの方に向かったのは分かっています。恐らく、貴方と同じように貴方の弟たちを探しているのでしょう』
マジか、タンニーン殿も。でか、あの巨体で見つからないのは変だな。
「……隔離されている?」
『恐らくは。空間系統の術式でしょう。詳しくは無いので分かりませんが、タンニーンを閉じ込めるのだから相当なモノです』
龍王を封じ込めるだけの力を持っているって訳か。
「禍の団か?」
あり得る話だ。何せ、テロを基本的な活動とする連中の集まりだ。可能性は十分ある。
何せ、あの白龍皇が所属しているんだ。それだけの実力者の集まりって訳だろう。
「どうするか……ゼクス兄さんたちに報告するか?」
だけど、いなくなってから大分経っている。このままだと……。
「いや、まて……」
ここにきて俺はある事を気づく。
そうだ、俺にはあれがあるじゃないか。
『カレン……?』
俺は一度深呼吸する。
出し方は頭の中に既にある。後はそれを実践するだけだ。
右手を前に出す。
そして、念じる。
――来い――
それだけで十分だった。
俺の目の前に見たことが無い赤い色の紋章が浮かび上がる。
紋章はゆっくりと下に下がっていく。
すると、徐々にそれは姿を現す。
最初は柄だけだった。それがどんどん剣の形を成していく。
紋章が地面近くまで到達すると、自然と消える。
残ったのは一本の剣だった。
「……神星剣」
知らず、畏怖が籠ったように呟く。
それだけ、この剣に圧倒されているのかもしれない。
聖書の神が作った星の力を宿した剣の一本。その力は破格のモノだ。
俺は柄を持つ。
それだけで全身に力が漲ってくる。
『何をするのですか』
「神星剣で空間を引き裂く」
『な……』
俺の言葉にリンドは絶句する。
「以前、奴らが撤退するとき、同じようにやっていた。神星剣は、ほぼ共通の能力を持っている。ならば、俺のだって同じことが出来る筈だ」
そこでふと、俺はオズワルドが言った言葉を思い出す。
――神星剣には意思がある――
それが本当かどうかは俺には良く分からない。
いや、もしかしたら本当にいるのかもしれない。
あの時聞いた声はそれなのかもしれないな。
今はそれは置いておこう。やるべきことをやるんだ。
目を閉じ、意識を集中する。
この森であることは間違いない。ならば、その場所は正確に見つけるんだ。
神星剣の力を高める。そうする事で空間の歪みを見つける。
すると、神星剣が一際輝く。
見つけたか。
俺は神星剣をゆっくりと振りかぶる。
そして一息に振り下ろす!
******
「弱いにゃあ、これで赤龍帝?」
嘲笑するように黒い猫又――黒歌は嗤う。
その視線の先には一誠が這いつくばってる。
「イッセー!」
悲鳴の様に叫ぶリアスも体に力が入っておらず、体をしゃがみ込ませている。
近くにいる小猫も悔しそうに一誠を見ている。
「にゃははは、これでヴァーリと同格の神器を持っているんだから笑えるわね。弱すぎて話にならないわ」
その言葉に一誠は悔しそうにするだけで何も言い返せない。
黒歌の言う通り、今の自分には何も出来ない。大事な仲間二人も守れないでいる。
それがたまらなく、嫌だった。
「……姉さま、私がそちらに行きます。だから二人は」
「小猫!?」
小猫が二人を庇う様に前に出る。
「駄目よ小猫! 利用されるのが良い所よ!」
「分かっています。でも、こうするしか」
リアスも悔しそうに歯を食いしばる。
今のリアスは黒歌の毒によって動き事もままならない。それは小猫も同じだろうに。
(俺、あんなに修行したってのに、女の子一人も守れないのかよ? ちくしょう)
悔しくて涙が零れる。
『――男が何泣いてるんだ。みっともない』
声が響く。
黒歌が顔を上げる。
「……嘘」
その言葉が引き金になったのか、空間に亀裂が走る。
「そんな、あり得ない! 私の術を強引に破ったの!?」
信じられない、といったふうに頭を振る黒歌。
誰もが唖然としながら空間の割れ目を見ていると、中から人が出てきた。
「いやー初めてやったけど、案外何とかなるものだな」
「っ!」
その声を聞いただけで一誠は再び涙を溢れそうになる。
リアスも安心したように安堵の表情を浮かべている。
「……兄貴!」
一誠の叫びにカレンは笑う。
「おう、お前の兄貴のカレン・グレモリーだぜー。どうした、そんなボロボロになって」
手に持った神星剣を軽く振りながらカレンは一誠に近づく。
「ふむ」
カレンが一誠たちを見る。
そして、黒歌に切っ先を向ける。
「覚悟しろ。俺の身内に手を出したこと後悔させてやる」