ハイスクールD×D もう一人の紅髪   作:多騎雄大

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かなりぎりぎりだった。最近、更新が上手く出来ていないからなるべく定期更新したい。


第七話

「紫水と付き合い始めてから別に何かが変わったわけじゃ無い。あるとすれば月に最低でも五回はデートに連れられたことかな?」

 

 デートと言っても、あれをデートと呼ぶのかどうかは生憎と他者がどのようなデートをしているか分からないから何とも言えない。

 

 兎に角、紫水に連れまわされてばっかりだった。

 

 しかし、楽しかったのもまた事実だ。そう考えると俺は女に振り回される方が嬉しいのだろうか。

 

「正直、すげえ幸せだった。母様の死を漸く乗り越える事が出来たと思った」

 

 紫水が何故俺の事が好きになったのかは一度も聞いたことが無いので分からない。

 

 それを考えると、俺も紫水の事が好きになったわけ……でも無いんだよな。

 

 あれ、ちょっと待って。今考えると俺たちの関係って変じゃないか?

 

 お互いに好きだって言った訳じゃ無いのに付き合っていた? 変だろ、変過ぎだろ。

 

「どうしたのカレン? 急に頭を抱えて?」

 

 三年ぶりの新事実に俺が頭を抱えていると、リアスが声を掛けて来る。

 

「……いや、当時の俺の頭加減についてな」

 

「はい?」

 

「何でも無い。話を戻そう」

 

 今は置いておこう。これは後々考えていけば良い。

 

「そんなこんなで、二年ぐらい付き合っていた。で、中学最後の夏に唐突に終わった」

 

「終わった……?」

 

 一旦口を閉じ、大きく息を吸う。

 

 ここから先は本当に言うべきかどうか。今でも迷う。

 

 だけど、言わなくてはいけない。ここまで話してしまったんだ。もう話すしか無いだろう。

 

「紫水が……」

 

 その時だった。

 

 鈴の音が鳴ったのは。

 

 俺は立ち上がり鈴の音がした方を向く。

 

 そこには当然あいつがいた。

 

「……翠」

 

 かすれる様に少女の名を呟く。

 

 当の翠は呆然と俺の事を見ている。いや、俺だけでは無く、俺の隣で突然の事に困惑しているリアスもだ。

 

「翠、いや、これは……」

 

 言葉が出ない。可笑しい。何もやましいことなど無い筈なのに、何故俺はこんなにも動揺している。

 

 狼狽える俺を見て、落ち着いたのか、翠は口元を皮肉げに上げた。

 

「……そうですか。もう三年経ちますものね、当然ですね。もう、姉さんの事は忘れたんですね。あれですか? けじめ的な奴ですか?」

 

「翠」

 

「良いですね、貴方と同じ紅髪。成程、実にお似合いです」

 

「翠……」

 

「過去の事は忘れて未来に思いを馳せる、的なあれですね。分かりますよ……」

 

「翠!」

 

 大きな声を上げて翠の言葉を遮る。

 

 ビクッと肩を震わせた翠はこちらを睨み付ける。

 

「……何ですか?」

 

「翠、話を聞いてくれ」

 

「聞きたくない」

 

「翠」

 

「聞きたくない!」

 

 今度は翠が大きな声を上げた。

 

 その瞳には涙が目一杯溜まっていた。

 

「貴方にとっては姉さんや私たちはもう過去の存在なんでしょうね。だからこんな事になるんでしょうね」

 

「っ……」

 

 翠の瞳が俺を責める様にして見て来る。

 

 その瞳に対して、俺は目を逸らしてしまう。

 

 あの日以来、俺は翠の顔を見れない。あの目をずっと見る事が出来ない。

 

 それが癇に障ったのだろう。翠は踵を返して走り去っていく。

 

「みど……」

 

 呼び留めようとして止めた。

 

 呼び留めてどうする? 何を話す? 何も話せない。話せるわけも無い。

 

「……はは」

 

 笑えてくる。自分の愚かさに。

 

 今まで問題を先送りにし、見ないふりをしてきた俺が招いた結果だ。

 

「カレン……」

 

 リアスが俺に駆け寄る。

 

「……すまん、見苦しい所を見せた」

 

「そんな事無いわ……大丈夫? 酷い顔よ?」

 

「そんなに?」

 

「ええ、死人みたいだわ」

 

 それは酷い。

 

 自分でも今の状態が酷いってのは分かっている。

 

「悪いなリアス、今日はもう帰りたいわ。帰って寝たい」

 

 本当に申し訳ない。リアスには全然関係の無い事だ。これはあくまで俺の問題だ。それにリアスを巻き込んでしまった。

 

「大丈夫よ、カレン……話の続きはまだ今度聞かせてくれる?」

 

「ああ、必ずな」

 

 その前にやる事も出来たが。

 

 

******

 

 胸が苦しい。普段なら全力疾走でもそう簡単に呼吸を乱さないのに、今はこんなにも簡単に呼吸が変になっている。

 

 寿翠は、何時しかフラフラとまるで幽霊のような足取りで歩き始める。

 

 ――夏蓮に新しい恋人が出来た――

 

 不思議では無いであろう。姉が死んでからもう三年が経った。

 

 彼は顔立ちも整っており、性格もそこそこ良く、女性受けもいい。

 

 だから、新しい恋人がいても不思議では無い。

 

 だが。

 

「うう……」

 

 胸が苦しい。体が痛いのではない。心が悲鳴を上げている。

 

「何で……?」

 

 もう断ち切ったつもりだった。会わなかった三年が思いを消し去ったはずだった。

 

 事実、姉の墓の前で再会したときも動揺こそしたものの、特に大丈夫であった。

 

 なのに。なのに。

 

 今日、カレンが女性と一緒に居たところ見た瞬間、自分の中で何かが崩れたのを感じた。

 

 カレンと同じ紅髪の美少女だった。同性である自分が見てもこんな美しい女性がいるのかと思った。

 

 姉もまた驚くほどの美少女だったが、彼女はまた別方向での美しさを持っていた。

 

 そして同時に思った。お似合いだと。

 

 同じ髪を持つのもそうだが、何故か分かった。この二人は一緒に居るべき存在なのだと。

 

 理屈とかそういう話じゃない。ただの直感とも言うべきものだった。

 

 ――だからこそ、余計に辛かった。

 

「こんな、こんな感情(もの)が何でまだ」

 

 辛い。辛すぎる。

 

 何故会ってしまったのだろうか。もう会わなければ良かったのに。

 

 いや、そもそも、最初から会わなければこんな気持ちにならなくて良かったのかもしれない。

 

「……どうしたら良いのよ、姉様。……兄様」

 

 縋るように声を振り絞った。

 

「――心は時に本人が思いも寄らない事を宿す。難儀なものだ」

 

 後ろから声を聞こえ、翠は後ろを振り向く。

 

 そこにいたのは、凡そ奇妙としか言えない人物だった。

 

 金色の髪にスーツを着こなした紳士然とした男性。顔立ちは外国人だ。

 

 この駒王町は外国人が多い事で有名だから別段不思議では無いが、こちらを見る男性の金色の双眸は何処か不気味さを漂わせている。

 

「いや、済まない。歩いていたら目の前に君がいてね、不躾ながら声が聞こえてしまってね。何だか尋常ではない様子だったので声を掛けさせてもらった訳だ」

 

「う……」

 

 しまった。ここは別に自分の部屋とかそういうのではなく、ただの道の一つだ。人が通っても可笑しくないのだ。

 

「申し訳ありません、見苦しいところを見せたようで。もう大丈夫ですのでこれで」

 

 そう言ってこの場を切り上げようとする翠だったが、男性の一言に体を止める。

 

「君は報われない恋をいつまで続けるのかな?」

 

「…………何の、事ですか」

 

 動揺を押し隠しながら翠は鋭い視線を男性に送る。

 

 当の男性はそよ風を受けるかのごとく受け流し、言葉を続ける。

 

「君は三年前からその恋を抱き続けていた。いつそれを自覚したかは自分でも分かっていないだろうけど、少なくとも気づいたのは、君の姉が付き合い始めたのが切っ掛けじゃないかな?」

 

「…………」

 

 何故、この男はここまで詳しく知っているのか、等という考えは浮かばなかった。

 

 男性は知っているのだと()()()()()()()()

 

「敬愛する姉の恋人に自分も恋をしてしまった。普通は姉が付き合っているのだから仕方ないと、諦めるかもしれない。だが、君はそうはならなかった。寧ろ、余計に火が付いた」

 

「……」

 

「君は姉が恋をしているからこそ、彼に惹かれた。それはもう、人生で彼以外に有り得ないと思ってしまう程に」

 

 その通りだ。翠は思う。

 

 姉が付き合い始めたと聞いたときにショックを受けたのと同時に、更に愛おしくなったのだ。

 

 自分でも分からなかった。この感情をどうすれば良いのか。

 

「戸惑うのも仕方ない。だが、心に普通など無い。特に愛というものはそういうものだ。愛は国を亡ぼす程に激しく燃えることだってある。君のだってそれの一つだ」

 

「私のは、そんな……」

 

「事実だ。君の愛もまた、他者を傷つける事で成就されるものだ」

 

「…………」

 

「だが、それで良いのだ。愛は誰にも否定することは出来ない。してはいけない。例え神であろうともだ」

 

「……良い」

 

「そうだ。だから、その感情を閉じ込めてはいけない。解き放つんだ」

 

「解き、放つ」

 

 頭が上手く働いていない。男の声が染みつく様に耳から入ってくる。

 

「今の君では彼を手に入れる事は出来ない」

 

「出来ない……」

 

「そう、だが君は運が良い」

 

「え?」

 

「私がその為の力をあげよう。誰も彼も君の邪魔を出来ないほどの力を」

 

「力……」

 

 そうだ。力がいる。誰も翠の邪魔を出来ないような、強い、強い力が。

 

「どうだい、欲しくないか?」

 

「……欲しい」

 

 欲しい欲しい欲しい欲しい。

 

 力が。カレンを手に入れるための力が、欲しい。

 

「良いだろう。なら、少しだけ眠っていなさい。目が覚めたらその力を君にあげよう」

 

 男が告げた瞬間、翠の意識が暗転する。

 

******

 

「……終わったか?」

 

 男性――ルーファス・アガリアレプトは、寿翠を抱きかかえると、後ろを振り向く。

 

 そこには不健康そうな表情をしている黒髪の女性――仲間の内からはワイズマンと呼ばれている者が立っていた。

 

「やあ、ワイズマン。来てくれてありがとう」

 

「ちっ」

 

「何故そこ舌打ち何だい?」

 

「意味は特にない」

 

「そうか」

 

 いつもの事なのでルーファスは気にすることなく肩を竦める。

 

 ワイズマンは胡乱下に翠を見る。

 

「そんな小娘が本当に役に立つのか?」

 

「立つさ。少なくとも彼をより輝かせるためにはね」

 

 ルーファスが言うと、ワイズマンは不機嫌そうに表情を歪める。

 

「お前の一番のお気に入りカレン・グレモリーか。確かに強くはなってはいるが、それでも白龍皇よりはまだ下だろうに。そんなので良いのか?」

 

「なあにまだまだ。時間はある。それにこれからの禍の団との戦いで、カレンも苛烈な戦いに身を投じるだろう。今回はその手助けだ」

 

 にこやかに言うルーファスだが、ワイズマンは盛大にため息を付く。

 

「何が手助けだ。それで苦労するのは私では無いか」

 

「まあまあ。今回は剣聖とぶつけてみようと思うのだが、どうかな?」

 

 ワイズマンは眉を顰める。

 

「調整はもう済んでいるから出そうと思えば出せるが、正気か? お前、あいつを殺したいのか?」

 

「大丈夫さ。私のカレンならね」

 

 今度こそ気持ち悪いモノを見るような目でルーファスを見ると、ワイズマンは付き合いきれん、と首を振り、無造作に手を振るう。

 

 すると、二人の近くの空間に歪みが生まれる。

 

「その娘の調整せねばならん。連中に気づかれる前にさっさと戻るぞ」

 

「ああ、分かっている」

 

 三人が空間の歪みに入ると、歪みはもとに戻り、後は誰も居なくなった。

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