ハイスクールD×D もう一人の紅髪   作:多騎雄大

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第八話

「はあ……」

 

 シャワーを浴びながら俺は大きく息を付く。

 

 勇気を振り絞った結果がこれだ。正直笑えてくる。

 

 翠と会う事になるとは。これはつまり俺に対する警告のようなものなのかもしれない。

 

 昔を忘れるな。これはその罰だと。

 

 もしそうなら最高に俺にうってつけの罰だ。翠にこれ以上ないくらいに嫌われた。

 

 元々、嫌われていただろうけど、今回でもう修復できない位嫌われたか。

 

 分かっている。全部俺の自業自得だ。翠に嫌われたのだって三年前に俺が逃げたのが始まりだ。それが今回、改めて示されただけだ。

 

「…………」

 

 シャワーを止める。

 

 そして壁の付いている鏡の前に立ち、自分の姿を見る。

 

「酷い顔だ」

 

 シャワーを浴びたのにまるで二回ほど徹夜したかのようなやつれた顔。

 

 これが自分かと思うと、正に自分の心を体現していると感じる。

 

 そのまま視線を下に移す。

 

 上半身には大きな傷が刻まれていた。

 

 あの男、ルーファス・アガリアレプトに付けられた傷だ。

 

 この傷だけは完全には治癒できず今も残っている。

 

 ふと思う。俺は縛られ過ぎなのかと?

 

 翠の事もそうだが、リアスや一誠。グレモリー眷属の奴ら。

 

 冥界に居る。ゼクス兄さんや叔父上、叔母上。それにティア達。

 

 あまりに多すぎるから俺はぶれているのだろうか? ただただ、奴ら四死剣に対してのみ殺意をぶつけていれば、こんなにも思い悩むことは無いのではないか? そんな事を考えてしまう。

 

 事実そうだろう。重い荷物を背負ったままじゃ俺は何時までもあいつらを殺せない。

 

 ならば、どうすれば良いのか? 答えは簡単だ。

 

 だけど。

 

 ――本当にそれで良いのか?

 

「っ!」

 

 無意識の内に鏡に拳をぶつける。

 

 鏡はひび割れ無数の破片が俺を映す。

 

 何をやってるんだ俺は。感情が全然制御出来ていない。

 

「なあ、俺はどうすれば良い? どうすりゃあいいと思うよ紫水」

 

 縋るようにあいつの名前を呟く。

 

 だけど、その問いかけに答える事は無い。

 

 当然だ。紫水は俺が原因で死んだ。そんなヤツの前に出て来る訳が無い。俺だったら唾を吐きかけて文句の一つでも言うけど。

 

 ……風呂に入ろう。取り敢えず熱いお湯に入りたい。

 

******

 

「全く、長風呂していると思ったら何をしているのよ、鏡を殴るなんて」

 

「あらあら、あまり物を傷つけてはいけませんよ?」

 

「……物は大事に」

 

「ぬう……」

 

 リアス、朱乃、小猫に言われてぐうの音も出ない。

 

「その、あれだ、鏡を壊したい気分だったんだ」

 

「どんな気分だよ……」

 

「カレン先輩もたまに発散したいことがあるとか」

 

「疲れているのでしょうか……」

 

 俺の言い訳に一誠はため息を付きゼノヴィアは妙な勘違いをし、アーシアは心配そうにこちらを見ていた。

 

 ぬぐぐぐ、俺の味方は居ないと言う事か。

 

 いや、まあ、鏡を壊したのは俺だしな。

 

 風呂から出たとき、バッタリ出くわした一誠が俺の傷ついた手を見て驚き、騒ぎを聞きつけた他の奴らも来てちょっと面倒な事になった。

 

 風呂場を見たリアスが割れた鏡を発見。理由を察し、今の至る。

 

「どうでしょうか?」

 

 アーシアの神器による治療が終わり、アーシアが聞いてくる。

 

「ああ、問題ないよ。悪いな、こんな事に能力を使わせちまって」

 

 手を何回か握って確認しながら俺は言う。

 

「いえ、そんな事……」

 

 手を振り大丈夫だと言うアーシア。

 

 うーむ、やはりアーシアは優しいね。一誠やリアスが溺愛するのも分かるってものだな。

 

「けど、らしくないぜ兄貴。どうしたんだよ?」

 

 一誠が本当に心配そうに聞いてくる。

 

「別に。ちょっとナーバスになっていただけだ」

 

「ナーバスって、別にって訳じゃ無いじゃないか」

 

 呆れる一誠。

 

 他の面々も首を傾げているなか、唯一リアスは表情を曇らせていた。

 

 俺の不調の原因に察しが付いているんだろう。

 

「まあ、何はともあれ、大丈夫だよ。だから」

 

 そこまで言いかけて俺はバッと窓の方を向く。

 

 窓の向こう、深い闇の中に何かがいる。

 

 俺の突然の出来事に皆戸惑うが、俺の視線の方を向くと、気づいたらしく警戒を始める。

 

 俺はゆっくりと窓の方を近づく。

 

 歩きながら神器を発動する。

 

 慎重に歩を進め、窓の近くまで歩き、窓を開ける。

 

「――誰だ」

 

 脅すように声を掛ける。

 

 だが、相手は何も反応せずにゆっくりとこちらに近づく。

 

 そしてその姿は――。

 

「……鳩か?」

 

 鳩。そう、鳩だった。くちばしに何かを咥えていた。

 

 何だって鳩がこんなに時間に?

 

 訝しげにしている俺の前に鳩はくちばしに咥えていたモノを俺に放り投げる。

 

 咄嗟にキャッチする俺。

 

 鳩に注意を向けながら俺は鳩から渡されたものを見る。

 

「――――」

 

 呼吸が止まりそうになった。

 

 鈴だ。鳩から渡されたものは鈴だった。

 

 それに俺は見覚えがある。俺が贈ったものだ。俺が買い、それをあいつにあげた。

 

 何故これがここにある? 何故、この鳩が持っていて、俺に届ける?

 

「カレン、どうしたの?」

 

 固まっている俺を心配したのか、リアスが近づいてきた。

 

「それ、鈴?」

 

 リアスが俺の手元を見ながら聞く。

 

『――贈り物は気に入って貰えたかい? カレン・グレモリー君』

 

 辺りに声が響く。

 

「この声……!」

 

 リアスの驚きを他所に声は続く。

 

『その鈴の持ち主は現在、私の手元に居る。一応、危害などは加えていないよ。一応ね』

 

 鳩だ。鳩から声が出ている。つまり、こいつは奴の手先って訳だ。

 

 神の使いとも言われる鳩を使うとか、皮肉としか思えないな。

 

『さて、何故こんな事をしたかと言うと、二つある。一つは君の今の力を知りたいのと、ある実験がしたいんだ。その実験に彼女が必要だったわけだ』

 

 実験だと? 完全に碌なモノじゃねえだろ。それで危害を加えていないだと?

 

『我々としては実験が優先されるべきなのだが、今回は君にもその実験に参加してもらいたい。具体的には今から指定するポイントに来てほしい』

 

 最後に、と鳩は続ける。

 

『このポイントに来るのはグレモリー眷属のみで願いたい。他の者が来た場合は我々は即座に撤収するのでそのつもりで。ではカレン・グレモリー君、待っているよ』

 

 その言葉を最後に鳩は飛び去って行く。

 

 後に残ったのは沈黙だった。

 

「カレン……」

 

「これは、翠の……今日会ったあいつの鈴なんだ」

 

 俺の言葉に口元を覆うリアス。

 

 ほんと、きついね全く。これも罰だったら、間違いなくこれを俺に科した奴は俺の嫌がる事を熟知してやがる。

 

 良いぜ。やってやるよ。どうせお前らの事は探す予定だったんだ。寧ろそっちから来てくれて嬉しいよ。

 

 ……覚悟しろルーファス・アガリアレプト。四死剣。

 

 全員殺してやる。

 

*****

 

「……なるほどな。カレンの昔の知り合いか」

 

 アザゼル先生が難しい顔をしながら呟く。

 

 オカルト研究部部室。俺たちグレモリー眷属とアザゼル先生はそこに集まっていた。

 

 あれから直ぐにあの場に居なかった奴らも含めて連絡を取り、俺たちは一度集合していた。

 

「先生、最初に言っておくが俺は一人でも行くぞ」

 

「やめろ、返り討ちに遭うのがオチだ。別に止めるつもりはねえよ。奴らの言う実験は防がないといけないし、お前たちを指名している以上、お前たちを寄越さないと駄目だろう。ただ」

 

 難しい顔のまま、先生は言葉を続ける。

 

「間違いなく神星剣使いが相手に出て来るだろう。そうなった場合、今のお前たちでまともに相手取る事が出来るのは同じく神星剣を使った状態のカレンだけだ。てか、俺でも勝つのは難しい」

 

 堕天使総督である先生にそこまで言わせるほどの代物なのだろう、神星剣とは。

 

「本音を言えば、お前たちを行かせたくはない。確かに今のお前たちは大分強くなったが、それでも神星剣を相手取るには危険すぎる。――けど、行くんだろ?」

 

 諦めたようにこちらを見る先生。

 

 驚いたことに俺以外の奴ら全員が頷いていた。

 

「お前ら……」

 

「兄貴の妹分何だろ? だったら助けなきゃ!」

 

「貴方一人で行かせるわけにもいきませんわ」

 

「……一人だと心配」

 

 一誠、朱乃、小猫。

 

「先輩、僕たちの事も偶には頼ってください」

 

「は、はいいいいい! 僕も頑張ります」

 

「うむ、良い心がけだ、ギャスパー。なあ、アーシア」

 

「はい!」

 

 他の奴らも皆口々に言う。

 

「カレン」

 

 リアスが優しげに俺に言う。

 

「貴方の大事な人なら、私たちにとっても大事な人よ。だから助けに行きましょう」

 

「…………」

 

 胸の内にあった黒い何かが少し晴れた気がした。

 

「……ありがとう、皆」

 

 自然と、口から礼の言葉が出てきた。

 

 気にするな、と皆が笑いかけて来る。

 

 本当に、良い連中だ。俺には心底勿体ないと思えてくる。

 

 俺たちの様子を見て、先生はやれやれと苦笑する。

 

「どうやら、全員の腹は決まっているようだな。なら、俺も出来る事をやっておこう」

 

「何をです?」

 

「そいつは内緒だ。だが、きっとお前たちの手助けになるはずだ」

 

 先生は俺たちを見渡しながら続ける。

 

「本音を言えばお前たちを行かせたくは無い。だが、連中はお前たちを舐めきっているなら勝機はある。行って来い!」

 

『――はい!』

 

 全員が声をそろえる。

 

 戦いが始まる。

 

******

 

「……ここか」

 

 一時間後、俺たちは指定されたポイントに着く。

 

 辺りを見渡しても、何も無く、深夜でもあることから酷く不気味に感じる場所だ。

 

「何にも無いけど、本当にここなのか?」

 

「間違いない。奴らが指定したポイントはここだ」

 

 一誠の疑問も最もだ。人っ子一人は愚か、草木すら無いような場所だ。

 

 こんな所でどうやってと疑問に思っていた時だった。

 

『――良く来た』

 

 声が響く。

 

 次の瞬間、俺たちの足元に魔方陣が展開された。

 

「これって、転移魔方陣!? いけない、強制的に飛ばされます!」

 

 いち早く気づいた朱乃が声を上げる。

 

 強制転移か! また面倒なものを!

 

 俺たちが戸惑っている間に気づけば視界は光に包まれていった。

 

 

 

「っ!」

 

 光が収まり、目を開けると、そこは先ほどの場所とはまるっきり変わっていた。

 

 最初に目に映ったのは広い空間だった。

 

 直径で十数メートルくらいはあるだろう。壁も天井も白一色で、どこかの研究所でも思い浮かべる。

 

 成程、確かに実験を行う場所かもしれないな。

 

 そして、()()()はそこにいた。

 

 この白い空間で異色というか、一際目立つ姿をしている。

 

 全身を甲冑で包み、一部の肌の露出も無い。

 

 白銀色の鎧はどことなく神聖な雰囲気を醸し出している。

 

 そして、もう一つ見逃してはいけないものがある。

 

 ――奴の手に握られている剣だ。

 

 緑色の輝きを放つ。俺の持つ剣と全く同種のモノだ。

 

「神星剣……」

 

 紛れもない神星剣だ。

 

 つまり、こいつは四死剣の一人。

 

「丁度良い。翠を助けるのとついでにテメエも殺してやる」

 

 俺もあれを出す。

 

 赤き剣。奴の神星剣と同じ波動を持つ俺の火星の崩剣。

 

 空間の歪みから出ている柄を手に取るとそのまま引き抜く。

 

「さあ、覚悟しな」

 

 

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