強い。俺が一番最初に鎧野郎から感じたのはそれだった。
対峙しただけで分かる。この威圧感、恐らく純粋な戦闘能力ならばルーファスより上だろう。
無造作に立っているだけなのに隙がまるで無い。所謂、戦士の理想形の形とも言うべき感じだ。
何処から攻めるか。あんまりいいプランが思いつかんなあ。
『――汝、カレン・グレモリーか?』
俺が攻め手に苦慮していると、鎧野郎から声を掛けられた。
その声に少し違和感を感じる。何と言うか、口から発しているとは思えない。
違和感は一先ず置いておき、俺は言葉を返す。
「そうだけど? そういうお前は四死剣で良いんだよな?」
『然り。我、剣聖』
「剣聖?」
随分と大層な名だ。剣士として最高峰と言いたいわけか。
『我、使命果たす。我、汝との決闘なり』
決闘か。今の俺の実力を知りたいってあの野郎は言っていたな。
ん? そこまで考えて俺は一つ疑問に思う。
ちょっと待って。決闘なら何で俺だけを呼ばなかった? オカルト研究部全員を連れて来るって事はこいつらも戦力に入れて良い筈。なのに、俺との決闘? 訳が分からん。
俺が言葉の意味を考えていると、剣聖の影が大きく広がる。
「は?」
思わず、そんな声が出る。
俺たちが唖然としていると、影はどんどん大きくなっていき、ある一定の広さまでになるとそこで止まった。
そして、影から何かが出てきた。
「また、鎧野郎か」
そう、またしても鎧だった。剣聖のと同じ白銀色の鎧。形は少し異なっているが、概ね剣聖のとそっくりだ。
数にして十数体。そこまで多くは無いが、問題は奴らの持っている剣だ。
少量だが神星剣と同じオーラを有している。
どういう事だ? いわゆる量産ってやつか。もしそうなら手が付けられないとかそんなレベルじゃないな。
「成程、とにもかくにもそいつらも相手って訳か」
他の奴らも全員戦闘態勢に入る。
『…………』
剣聖が手を上げると同時に鎧達が剣を構えながら迫ってきた。
「お前ら、あいつらが持ってる剣、少量だが、神星剣のと同じオーラを感じる。間違っても斬られるな!」
「みんな、カレンの言う事は聞いていたわね? 攻撃は出来るだけ避けなさい!」
『はい!』
先ず最初に前衛の俺、祐斗、ゼノヴィア、一誠が突撃する。
一誠もカウントを既に終え鎧を着こんでいる。
俺も走り出すと同時に禁手化し、神星剣片手に突っ込む。
そして、鎧兵の一体と接戦、剣をぶつけ合う。
「っ!」
一撃で仕留めるつもりでオーラを込めたものの、後ずさりしたものの五体満足の鎧兵。
本物かどうかは置いておいて、神星剣の力を持っているのは確かみたいだな。
「おりゃあ!」
一誠は倍加しながらそのまま突っ込んでいく。
相も変わらず直線的だが、そのスピードは目を見張るものがある。
背中のブースターを噴射しながら一誠は鎧野郎に近づいていく。
そのままの勢いで鎧野郎を殴りつける。
鎧野郎も負けておらず、剣で防ごうとする。
しかし、一誠の勢いには勝てず、そのまま吹っ飛んでいく。
わお、痛そう。
鎧兵はそのまま何度もバウンドしながら地面を転がっていき、一定の距離で止まる。
そのままかと思ったが、鎧兵は何と立ち上がった。
先ほどよりも動きは悪く、糸の切れかかっている人形の様だ。
あれだけの攻撃を受けて大丈夫とか、何だあの鎧。
「はあ!」
「この!」
祐斗とゼノヴィアが絶妙なコンビネーションで鎧兵の急所を狙っていく。
だが、それでも彼らは倒れない。
「何だこいつ等! 斬ってもまるで倒れん!」
「いくら神星剣らしきものの加護があるとはいえ、これは流石に……」
ゼノヴィアや祐斗たちも困惑の声を上げる。
「……えい」
小猫が猫又モードで鎧兵に仙術を込めた拳を打ち込む。
すると、何かに気づいたようで、声を上げる。
「……皆さん! この鎧兵、中身がありません!」
「中身が無い?」
「つまり、鎧だけで動いていると?」
リアスたちの質問に小猫は頷く。
成程、仙術を扱い、生命力を感じ取ることが出来る小猫だから分かったというわけか。
そうなるとまた厄介だな。つまり、完全に動かなくなるまでダメージ与えないとこいつ等動かなくならないって事だろ? めんどくさ!
そも、この後に未だに微動だにしない剣聖とルーファス・アガリアレプト、他の四死剣の連中もやり合う必要があるから、余り無駄な力を使いたくは無いんだがな。
「そうも言ってられないか!」
二体の鎧兵と剣を交じりあいながら俺は剣聖の方をチラリと見る。
何かをするわけでも無く、一番最初の時から変わらず動かないままこちらを見ている剣聖。
見た感じ、あいつが操っているわけでは無いらしい。という事は、あいつも倒せば良いって訳じゃ無いか。
このまま、というわけにもいかない。仕方ない。
神星剣の形状を変化させる。
通常のよりも細く、但し、長さはそのままのロングソードの形状に変化させる。
俺は高速で動き、鎧兵が反応するよりも前に二体の鎧兵を斬りつける。
一撃で終わらせず、二撃目、三撃目、と続けて斬りつける。
兎に角、相手が動かなくなるまで斬りつける。
脳筋みたいな戦い方だが、今はこれが一番手っ取り早いだろう。
十数撃やった後、完全にバラバラになった鎧兵を見て一息つく。
中身は……本当に無いみたいだな。鎧の一部を手に取り観察する。
鎧自体に何かがあるわけでも無いよな。
となると、鎧に何か魔方でも使って操っているのかもしれないのかな。
「消し飛びなさい!」
リアスが滅びの魔力を鎧兵目掛けて打ち込む。
「雷光よ!」
朱乃も雷光を鎧兵目掛けて撃ち落とす。
まともに攻撃を受けた鎧兵たちはバラバラになった。
「厄介ね、少し強力に撃てば大丈夫だけど……」
「数が少ないのが幸いですわね」
二人は渋面を浮かべながら攻撃を続けている。
他の奴らも連携しながら何とか鎧兵の数を減らしていく。
そして残り三体となった時だった。
『…………』
剣聖が神星剣を構えた。
「っ!」
来る。俺が神星剣を構えた瞬間だった。
「…………」
目の前に剣の切っ先。
剣の切っ先が頭の部分の鎧に侵入を始める。
「うおっ!?」
殆ど無意識に剣を弾く。
少し刺さっていた為、鎧の一部が抉れる。
慌てて後ろに下がる。
しかし、剣聖は追撃のまま、神速の剣戟を繰り返す。
「おおおおおおお!?」
防御出来ない。いや、何回かは防げる。
だが、殆ど防げない。鎧が徐々に削れていく。
何だ、これ。何だこの剣は!?
手が出せないとかそういうレベルじゃない。最早どうすれば良いかも分からない程。
間違いなく俺が今まで戦ってきた中で最強クラスだ。神星剣アリならば間違いなくルーファス・アガリアレプトよりも上であろう。そうとしか思えない。
「こ、の!」
何とか反撃しようとするも、まるで意味をなさない。というより、反撃しようとしたならば間違いなくやられる。
正に暴風。天災だ。
「カレン!」
俺の現状を見て加勢しようとするが、
「やめろ、来るな! こいつ相手じゃお前たちじゃ直ぐにミンチになる!」
「っ!」
俺の言葉に全員が止まる。
それだけの事だと理解したのだろう。
だが、本当にどうする? このままだと翠がまずい。
くそったれ! 何だってこんなヤツがいるんだ! ああもうめんどくさいなホント。
……いやまて。まだ方法があるじゃねえか。
「おい一誠!」
「お、おう!」
「今のお前の上限まで『倍加』しろ! で、リアス! 後は分かるな!?」
流石に全部を伝えるわけにはいかない。こちらの狙いまでばれるわけにはいかない。と、いうよりも、そんな余裕がそもそも無い。
ちゃんと分かっているよな一誠、リアス?
******
「ああ、分かってるよ兄貴!」
直ぐに義兄の狙いに気づき『倍加』を始める一誠。
『Boost!!』
倍加が始まる。
しかし、焦燥が募っていく。
他の皆もそうだろう。リアスや朱乃などは今すぐにでも加勢したいと思っているのだろう。
だが、今行われている戦いは常軌を逸している。
白龍皇たるヴァーリも戦闘力は桁違いで、今の一誠では全く歯が立たないだろう。
しかし、この戦いは何だ。ヴァーリですら超えているのではないだろうか。
『その認識は間違っていないだろう。神星剣の能力もあるだろうが、あの鎧の者、尋常では無い力量だ。今の相棒では恐らく、一分で片が付くだろう』
(一分……)
そこまで強いというのか。
確かに神星剣を持った兄は訓練で戦うさいは神星剣を使うことは無かった。
神星剣で斬られた傷はほぼ治す事が不可能だからでもあるが、一番理由は自分たちでは相手にならないのだろう。
悔しい。これだけ修行してもまだ届かない。兄が本当に遠く感じる。
他の皆も同じ気持ちだろうか。恐らくそうだろう。
だからこそ、追いかけ甲斐があるというものだとも思う。
「イッセー」
リアスから声をかけられ、一誠はそちらを向く。
リアスは既にオーラを高めており、準備万端といった感じだ。
「後どれくらいで出来る?」
「もうちょいです」
「急いで。カレンも恐らくそうもたないだろうし、敵はまだ多いわ」
「分かってます」
『Boost!』
そう言った直後に十数回目の倍加を告げる音。
「来ました!」
「カレン!」
リアスが声を上げる。
それだけで伝わったのか、カレンは剣聖相手に鍔迫り合いを始める。
「はあっ!」
リアスは直ぐ様、魔力を撃ちこむ。
狙いは正確で真っ直ぐ――カレンに向かっていく。
剣聖を動かさない様に鍔迫り合いを続けるカレン。
そんなカレンの背中にリアスの滅びの魔力が直撃する。
『Absorb!』
滅びの魔力がカレンの鎧に吸収されていく。
「行くぜ兄貴!」
『Transfer!』
一誠も続けて譲渡の力をカレンに贈る。
これは以前、コカビエル戦でもやった方法だ。
あの時と違うのはリアスと一誠もあの時よりも格段に力が上がっており、カレン自身も成長することでその力を受け止められるようになっていた。
「行くぜこの野郎!」
『Liberate!』
カレンの鎧の宝玉からその音声が響いた瞬間、カレンの纏うオーラが劇的に変化した。
赤黒いの銀色のオーラが入り乱れて撒き散らされていく。
その光景に全員目を剝く。
以前も凄まじかったが、ここまで変化するとは。
リアスから譲り受けた滅びの魔力がカレンの体から迸っている。
『その、力』
「悪いね。これでも中々に手一杯でね。こんなふうにしないといけない」
『構わず。我、望むのは、汝との、戦い』
「そりゃどうも!」
言葉と一緒にカレンは力を込めた。神星剣に滅びの魔力を纏わせての攻撃だ。
『……』
ここに来て初めて剣聖は一歩後退する。
「はっ、漸く一歩か……だが」
カレンは鎧の翼からを羽――以前の戦いで使用した水晶の欠片――を展開する。
自分と剣聖との周りに置く。
「強化された滅びの魔力――全方位から喰らえや」
刹那、カレンの周りに魔力の弾が無数に展開。それが同時に水晶の羽に飛んでいく。
そして、無数に反射していき、剣聖に襲い掛かる。
それに対して剣聖は、
『…………』
三歩後退し、神星剣の形状をコンバットナイフ程度の大きさに変える。
更に自身に襲い掛かってくる。魔力弾を弾き落としていく。
『なっ……』
それを見たグレモリー眷属達は瞠目する。
全方位からの攻撃を魔方陣による防御もせず、ナイフ一つで捌いていくのだ。
「無茶苦茶じゃないか……」
同じ剣士だからこそ祐斗には分かった。
剣聖は全ての弾を見切り、全て正確に落としていっているのだ。
あれだけの速度で、しかも当たればかなりのダメージを受けるであろう滅びの魔力の弾を全て弾き落としていった。
全員が唖然としている中で、剣聖は再び神星剣を元の形状に戻した。
誰もが固まっている中でカレンが再び動き出した。
「……上等だ。覚悟しろや」