舐めていた、というわけでも無い。神星剣を持った奴の出鱈目な戦闘能力は俺自身、身をもって知っているし、過小評価など一切していない。
だが、これは何だ。俺自身も戦いが始まった時よりも強化された一誠の譲渡の能力。リアスの滅びの魔力を纏って普段よりも強力の筈だ。
なのに、届かない。こいつに。剣聖に。
さっきよりも攻撃に移ることは出来た。だけど、当てられない。攻撃を全然当てる事が出来ない――!
何故だ。あれから少ししか経っていない。だが、冥界で修行し、人間界へ戻っても一日たりとも鍛錬を怠った日は無い。
それでも、まだ、駄目なのか――!
「くそったれが……!」
思わず毒づいてしまう。
頭の方は思ったよりも冷静の様で、集中を切らす事無く戦闘を行う事が出来ている。
だが、時間が無いのも確かだ。翠がどんな実験を受けているのか。十中八九碌なモノじゃ無い事が分かる。
急がないといけないのに、何でこんなヤツが相手何だよちくしょうめ!
面倒だ。勝負を仕掛けるか、俺自身の方も時間が無いしな。
俺は一回、剣聖から距離を置く。
神星剣を上段に構え、力を籠める。
神星剣の刀身にリアスの滅びの魔力が纏っていく。
「はああぁぁ」
辺りにオーラを撒き散らしながら俺は貯めていく。
「ちょ、兄貴!?」
「何をする気よ!?」
一誠とリアスが驚きの声を上げる。
「ちょっと埒が明かないから一発デカいのを撃つ! お前ら、注意しろ」
「注意しろって!」
「もっと早く言ってほしかった!」
「……遅い」
「もう、後でお説教ですわ!」
皆、何故か口々に文句を言いながら距離を取っていく。
ある程度離れたのを確認した瞬間、俺は剣を振り下ろす!
次の瞬間、巨大な滅びの魔力が斬撃の形を取りながら剣聖に突っ込んでいく。
その速さは放った俺も驚くほどだ。
流石の剣聖もこれは躱すことが出来ず、そのまま受け止めた。
滅びの魔力プラス赤龍帝の譲渡の力プラス神星剣で強化された俺の魔力を込めた攻撃だ。そうやすやすと止められるはずは無い。運が良ければ最上級悪魔にでも深手を負わせることが出来る筈だ。
『…………』
剣聖が徐々にその位置を後ろにずらしていく。
押し込んでいる。いける。これならいける。
俺がそう確信した瞬間だった。
剣聖の持つ神星剣が大きく輝きを放った。
『
気づいたとき、俺の体は地面に叩きつけられていた。
「な……」
全身を上からまんべんなく押さえつけられるような感覚。指の一本も動かせないような状態だ。
何が起きている? 何で急に。
顔だけでも動かそうともがきながら俺は辺りを見渡す。
リアスたちもやられているらしく、全員が倒れこんで動けない様だった。
距離を取ったリアスたちがやられているのを見る所、範囲はかなりのものと見るべきだな。
けど、可笑しいのは神星剣で能力が底上げされている筈の俺もこのざまだ。何がどうなっている。
俺が体を動かそうとしていると、剣聖がゆっくりと近づいてくる。
『神星剣には、技が、ある』
「技?」
『然り』
つまり、この状況はその技が原因と。
神星剣には、って事は俺のにもあるって事だよな。
全く知らなかった。そんなモノがあるなんて。
神星剣の目先の能力に目が行き過ぎていたって事か?
「ぐぐぐ……」
何とか立ち上がろうとするが、体はピクリとも動かない。
そんな俺を見下ろしながら剣聖は神星剣を逆手に持つ。
そして、そのまま俺に突き下ろしてくる。
しかし、その刃が俺に突き刺さることは無かった。
神星剣と俺の前に魔方陣が出現し、神星剣を食い止めているのだ。
いや、よく見たら違うな。剣聖の体のあちこちを魔方陣で止めているのか!?
「……間一髪、と言うヤツでしょうか」
凛とした声がフィールドに響いた。
顔だけでも動かしながらそちらを見ると、そこに居たのは……。
「――ティア?」
ユースティア。俺に仕えているメイド、になる。今は動きやすい戦闘服らしきものに着替えているが、間違いなくティアだ。
つか、あいつが剣聖の体を止めているのか? だとしたら凄いってもんじゃないぞ。このバケモンを一人で止めているって事なんだから、半端じゃねえ。
「破られますか」
は?
何を言っているのか、思わず、聞き返そうとした瞬間、剣聖は自分を縛っていた魔方陣を全て打ち破った。
早いなおい!
「茨木!」
ティアが声を上げる。
俺の目に入ったのは茨木童子が拳を振り上げている場面だった。
「はあっ!」
凄まじいオーラを纏わせながら茨木童子は拳を剣聖を打ち込もうとする。
剣聖は神星剣を盾にするように自身と茨木の間に滑り込ませる。
神星剣と茨木の拳がぶつかり合った瞬間、ふざけているのかと言いたくなるほどの衝撃が走った。
当然、目の前に居た俺はもろにそれを喰らい、俺の体は吹っ飛んでいく。
「うおおおおおお!?」
茨木覚えてろてめコラ!
そんな文句を言えないほどに吹っ飛ばされていく。
「――おっと」
吹き飛ばされる俺だったが、誰かが受け止めた。
「もう、大丈夫? カレン」
「セルヴィア」
ウィンクしながらセルヴィアは俺を降ろす。
「何でお前らが?」
冥界に居るはずのこいつ等がなんだって人間界にいる。
「アザゼル総督から連絡を受けてね。四死剣が襲来したと聞いていても経ってもいられなくなって」
ああ、アザゼル先生が言っていたアテってこの事か。
セルヴィアは厳しい視線を剣聖に向ける。
「漸く会えたわ」
「知ってるのか?」
「勿論。あの日、襲撃してきたメンバーの中にあいつはいたわ」
襲撃……俺が全てを失ったあの日。
「正直、あの当時からあいつの実力は半端じゃないわね。四死剣の中では純粋な実力ならあいつが一番上じゃないかしら」
一番、強いか。
確かにそう思えるほどの実力がこいつにはある。
それでもやはり悔しいと感じてしまう。まだ追いつけないと思うと自分の力不足に怒りすら湧いてしまう。
「焦っちゃダメよ」
自分の無力感に苛まれているとセルヴィアがポン、と手を頭に乗せてきた。
「貴方は素晴らしい才能を持っている。でも、それは一朝一夕で開花するわけじゃ無い。分かるでしょ」
「……ああ」
「だったら少しは私たちを頼りなさい。私たち全員あなたの為なら何だってするんだから」
「セルヴィア……」
セルヴィアはニッコリと笑うと、剣聖の方に鋭い視線を向ける。
腰に佩いていた二本のレイピアを鞘から抜き構える。
「さて、貴方のお父さんの
言うや否や、セルヴィアは俺の目の前から消えた。
何処に!? と思った矢先には茨木と戦っていた剣聖の懐に入り込んでいた。
「お久しぶりね」
『…………』
セルヴィアは凄まじいまでの剣速で剣聖に斬りかかる。
剣聖もそれに負けじと神星剣で全て捌いていく。
「すげえ……」
思わず、声が出てしまう。
何がすげえって、神星剣を持った剣聖に純粋に自分の力だけで渡り合えているのだ。驚かない方が無理な相談だ。
先に戦っていた茨木ともうまく連携して剣聖に攻撃をさせる隙を与えないでいる。
「すごいモノだろ? 茨木も、セルヴィアも」
後ろから声を掛けられそちらを向く。
「ペルセウス」
ペガサスの背に乗ったペルセウスはこちらを見ずに話を続ける。
「あの日以来、俺たち全員生き残った奴らは死に物狂いで修行を続けた。亡き主の仇を。そしてどこかで生きていると信じた主の妻である
淡々と言うペルセウスだが、その表情は憂いを帯びたものだった。
「だからこそ、同じことは繰り返さない」
ペガサスごと覆うようにオーラを迸るペルセウス。
オーラの質は神星剣無しの俺ではまるで歯が立たないだろう程のオーラだ。
かつてはレーティングゲームで負け無しと言われた親父の眷属の生き残り達。
そんな彼らが負けてしまった相手たちに再戦しようとしていた。
「さて、ここは俺たちに任せろ」
「……どういうことだ」
俺に、敵を前にして何もするなというのか。
ペルセウスは相変わらずこちらを見ず、言葉を続ける。
「待ってる子がいるんだろ?」
「っ」
俺の脳裏に浮かぶのは翠の顔。
「悔やんでも良い。だけど、出来るのにやらないのだけは止めておけ」
出来るのにやらない……。
……後悔はしたくないなあ。
「分かった。後は任せる」
「おう、恐らく剣聖の奥にある扉が次の場所だろう。行って来い」
ペルセウスが指さす先に、先ほどまでは見れなかった扉が出現していた。
来たときはあんなもの無かったと思うが。
ティアたちが来たためにあの扉が出てきたのか?
いや、考えても仕方ない。さっさと終わらせに行こう。
「ペルセウス、皆を頼む」
「了解した」
俺は鎧の翼を広げると、そのままトップスピードに乗る。
それに気づいた剣聖が俺を止めようとするが、
「おい、何処を見ている」
「貴方の相手はこっちよ」
茨木とセルヴィアが止めに入る。
「カレン様!」
ティアの方を向くとこちらを真剣な表情で見ていた。
「――ご武運を」
それだけだ。だけど、その言葉にどれだけの思いが乗せられているか、容易に理解出来た。
「ああ!」
短く返すと、俺は真っ直ぐ扉に突っ込んでいく。
******
「行きましたか……」
おのが主が言ったのを確認してユースティアは小さく息を吐いた。
恐らくあの扉の向こう側には四死剣がまだ残っているだろう。
なのに、主を単身で行かせたのには理由がある。
(恐らく、あのヒトはカレン様を今すぐどうこうする気は全くない)
ある種の確信である。でなければ、誰がいかせるものか。
剣聖は茨木やセルヴィアなどに任せおこう。自分は彼らを。
「大丈夫ですか皆さま」
ユースティアは剣聖の重力攻撃から解放された一誠たちの元に近づく。
「はい、大丈夫っす……」
鎧が解除された一誠はしゃがみ込んでだまま荒い息を付いていた。
他の面々も怪我などは負っていないが、体を押さえつけられていた痛みが残っているのだろう。皆しゃがみ込んでいた。
「……ん?」
ここで眉を顰める。
一人足りない。周りを見るも彼女は何処にもいない。
「……ペルセウス、彼女は?」
ユースティアは同じく護衛に付いていたペルセウスに問いかける。
ペルセウスはどこか楽しそうに言う。
「いやあ、ちょっと目を離したすきにどこかに行ってしまってね。恐らく、あの扉の向こうに行ったんじゃないのかな?」
「何を考えているのです?」
自然、ユースティアの声は固くなっていく。
「今の彼女では足手まといになるだけでしょうに」
「いや、それは分からないさ。やってみないとね」
「本気ですか?」
「本気さ」
にこやかに答えるペルセウスの表情からは何も伺えない。
思わず舌打ちをしたくなる。
昔からそうだ。この男は何を考えているのか今一つかめない部分がある。問いただしてものらりくらりと躱してしまう。
「何かあったらどうするのですか」
「何も起きないさ。彼女には」
******
扉の向こうは先ほどの空間よりも更に広くなっていた。
さっきと違うのは無数の計器が綺麗に置かれており、忙しくデータらしきものを取っていた。
俺は一度鎧を解除して前に進む。
恐らく、まだ戦闘は無いだろうし、体力は温存しておいた方が良い。神星剣もついでに仕舞っておく。
「何だこりゃ。さっきのは実験場でこっちはそのデータ取りか? はっ笑えねえな」
「全くね。私たちの実験動物か何かと思っているのかしら」
…………。
「何でお前がここに居るリアス」
めんどくさいと感じながら俺は後ろを振り向く。
そこにはやはり、リアスがいた。
「お前、何してんだ」
「何って、貴方がどっか行こうとするか追いかけてきたんじゃない」
「えー」
何を馬鹿な事を聞いていると言いたげだ。
「勘弁してくれ」
思わずそんな言葉が口から出てしまった。