「お仕置き? お仕置きですって?」
翠は肩を震わせる。
「何様のつもりですか。貴方ごときが私に何をするというのですか!」
翠の激昂に反応するように翠の冥王の砕剣が輝きを増していく。
それすなわち、翠の体がどんどん不味い状況になっていくのが手に取るように分かる。
翠を止めないといけない。今度こそ絶対に。
リンド、テルティウム。力を貸してくれ。
『まあ、構わないですが』
『承諾』
それぞれ返事を返してくる。
改めて体の状態を確認する。
まだ五感が少し鈍いが少しずつ戻ってきている。
同時に痛覚も戻ってきているから翠に斬られた所から痛みが滲み出てきている。
まだ暫くは大丈夫だと思うけど、翠の事もあるし、あんまり時間はかけないでさっさと終わらせよう。
「――――」
一旦、深呼吸をする。
心を落ち着かせる。痛みを意識からなるべく排除して翠だけを見据える。
こちらをまっすぐ見据えている。
剣を構えて、今にも攻めてきそうな雰囲気だ。
…………次で決めよう。
ふと、そう考える。
俺としては翠のことを考えてそう思ったが、恐らく翠もそう考えているんだろう。
となると……。
俺も剣を構える。
場違いかもしれないが、道場で翠と試合をしていた時を思い出す。
あの時と違うのは、お互いに真剣を使っているのと。
お互いに殺しあおうとしていることだ。
「こい、翠」
「っ!」
俺の言葉が合図となり、翠は一気にこちらに迫ってくる。
その様はまるで弾丸のように鋭い。
「あああああああああああ!!」
獣のような叫び声をあげながら翠は剣を突き出す。
「…………」
ああ、やっぱり翠。お前はあの頃のままみたいだな。
それがたまらなく嬉しくて、同時にとても悲しい。
そんな複雑な感情を他所に、俺は冷静に翠の剣を弾く。
「なっ…………!?」
まさか止められるとは思っていなかったのだろう、翠は驚愕の感情を隠せていなかった。
そこは相変わらずみたいだな翠。だからこそ、ダメなんだよお前は。
俺は剣をまっすぐ翠の心臓に突き立てる。
…………肉を突き立てる感触。
ここ最近はずっと感じている感触なのに、今日のは一番重く感じる。
「あ……」
翠はか細く声を上げる。
「どう、して……」
何故、自分の攻撃があんなにも簡単に弾かれたのか、だろう。
それに対して俺は答える。
「お前、最後の決め手いっつも突きで決めようとする癖があるだろ? 俺や紫水から直せ直せって言われてたのに、結局直せていなかったな」
俺の答えに翠は目を見開くと直ぐに表情を和らげる。
そして、のろのろと手を上げると、俺の顔に添える。
俺は鎧のマスクを外す。
「あ……」
翠が嬉しそうに笑う。
「……なんで笑ってんだお前」
思わず口に出す。
それに対して翠は本当に嬉しそうに言う。
「だって、兄様、やっと私の事見てくれた」
「は?」
「私の顔、ずっと見てくれなかった……」
思わず、息をのむ。
それと同時に気付く。翠の言う通りだということに。
そう、だ。俺、紫水が死んでから翠の顔、まともに見ていない。
翠の顔を見るたび紫水を思い出してつらいから見てねえんだ。
「ごめん、翠」
「良いんです、見てくれた。それだけが私が望んだ、事、だから」
まさか、俺に顔を見てもらう為だけにこんな事を?
「お前、馬鹿だろ」
「兄様、に、言われ、たく、ありま、せん……」
だんだんと、翠の瞳から光が無くなっていく。
「兄様……」
「なんだ?」
「大、好き……」
その言葉を最後に、翠は何も言わなくなった。
俺の頬に添えられていた手は力なく、糸が切れた人形の様に地面落ちる。
死んだ。翠は死んだ。疑うことなく死んだ。
人の死なんて慣れているほうだ。特に、俺は俺自身に近しく者の死を多く経験している。
だから、今更……。
「カレン……」
後ろからリアスが声を掛けてくる。
「ああ、悪い。お前の事すっかり忘れていたわ」
「酷いわね……って言いたいところだけど、まあ良いわ」
そう言うと、リアスはふわりと、俺を包むように抱きしめる。
「何だよ?」
「辛いんじゃないかと思って」
辛い? 馬鹿を言わないで欲しいね。俺がそんな。
「無理しないの。泣いているじゃない」
「泣いて……?」
そっと頬に手を当てる。
確かに液体が自分の頬を伝っているのが分かる。
そう、か。俺は泣いているのか。何だ、まだ女々しい部分を残しているんだな。
「……ん?」
俺が自虐的になっているときだった。
翠の神星剣、冥王星の砕剣が闇色の光を放つ。
何だ? そういういやあ、所有者がいなくなったら神星剣ってどうなるんだ?
俺が戸惑っている中、冥王星の砕剣から少女が現れた。
「お前……」
驚いた。別に神星剣から少女が出てくるのは別に不思議じゃあない。テルティウムの例があるしな。
でも、驚いたのはテルティウムと全く同じ顔なのだ。
あ、いや髪の色と瞳の色は黒で来ている服も黒だからまるで格ゲーの2pキャラみたいな感じだ。
「お前は……」
「解答します。識別名称オクタウム。冥王星の砕剣の管理人格です」
これまたテルティウムと同じようにスカート裾を掴んで挨拶をしてきた。
「で? 何の用だ」
まさか挨拶だけで終わらせるわけでもないんだろうし、何かあるに決まっているんだろうけど。
「解答します。盟約に従い御身との契約を開始します」
「……は?」
何言ってんだこいつ? 盟約? 契約?
「……質問だ。その盟約とは何だ?」
「解答します。我らを制作せしめた主より付与されしこと。神星剣の担い手同士が戦った場合、勝者に敗者の神星剣の所有権が移ること」
なんだそりゃ。それって聖書に記されし神が神星剣同士が争うってことを予め分かっていたことじゃ……。
「――その通りだよ」
バッ俺は後ろを向き、リアスを庇うように前に出る。
「……ルーファス・アガリアレプト!」
「おめでとうカレン。無事、神星剣の二本目を手に入れたようだな」
「何だその言いぐさ。まるでその事を望んでいるように聞こえるぞ」
相も変わらず不気味な笑みを浮かべているルーファス。
こいつは本当に何を考えているのか分からない。俺の家を襲ったのも結局良く分かっていないからな。
「ふむ、望んでいる。確かにそうかもしれないな。事実、私は君が強くなるのを望んでいる」
「あ?」
何なんだこいつ……何を考えてやがる。
「おい、ルーファス」
不機嫌そうにしてるワイズマンがルーファスに声を掛ける。
「これで実験は終わりの筈だ。さっさと帰るぞ」」
「実験……?」
訝しげに呟くリアス。
「待ちなさい。実験ってどういうこと? 貴方たちはカレンを使って何がしたいの?」
詰め寄るようにリアスが問いを続ける。
それに対してワイズマンはめんどくさそうに頭をガシガシと髪の毛をかく。
「なんでそんな事を答えなくてはいかん。こいつを育てることで神星剣の担い手として最高の状態にすることが目的などとって、あ……」
思わず、といった感じでワイズマンは口に手を当てる。
『…………』
こいつ、
「くそ、これも寝ていないせいだ。どうしてくれるルーファス」
「ええ、私の所為かい?」
「当然だろう! 貴様の計画が面倒だから私がそのしわ寄せが来ているのだ。剣聖なんかは全く役に立たんし、あいつはあいつでやろうともしない!」
「はは、そう怒るな。眉に皺が寄って戻らくなるよ?」
「そうか、そんなに死にたいのだな。ならば死ね」
突如として現れた球体の金属を手のひらで転がすワイズマン。
すると、球体が尖ったピックのような形になる。
その形になった瞬間、ワイズマンはピックをルーファスめがけて打ち出す。
しかしルーファスは首を動かすだけでそれを躱す。
「やれやれ、短気は損気というだろ? ワイズマンという名を持って者として恥ずかしくないのかね?」
「黙れ。そして地獄に落ちろ」
「悪魔に地獄に落ちろとか笑えるね」
「ちぃっ!」
思いっきり舌打ちをするワイズマン。
「まあいいや。取り敢えず、冥王星の砕剣は君に暫く預けておくよ。それじゃあまた会おう」
そう言ってルーファスは手にした神星剣を使って次元に穴を開けるとワイズマンと一緒にその中に入っていった。
ルーファスたちが消えるのと同時に空間が崩壊を始める。
「ええい、面倒な! さっさと逃げるぞリアス」
「ええ!」
俺はリアスと翠の体を抱えると直ぐに飛び立つ。
来た道を戻っていき、最初に剣聖と戦った場所まで戻る。
「お前ら!」
広場に着くと既に剣聖の姿は無く、一誠達は一か所に集まっていた。
「兄貴! 部長!」
直ぐに気付いた一誠がこっちに駆け寄ってくる。
「っ! その子……」
「話は後だ。直ぐにここを出る」
「既に準備は出来ています。直ぐにでも出れます」
ティアが手元で何かを操作しているらしく、魔方陣の中の文字が高速で回転している。
「よし、離れるぞ!」
俺の一言で俺たちはこの場所を離れていくのであった。
******
「そうか、そんな事が……」
一誠の表情に影が差す。
ほかの奴らも皆同じような表情だ。アーシアなど、涙を流している。
優しいものだ。翠とは会ったことないのに。
俺たちは最初にルーファスに指定された場所に戻り、体を少し休めていた。
アザゼル先生も直ぐに駆けつけて、俺と翠を見て何かを察したのか何も言わずにただ、俺の頭に一度ポン、と頭を乗せて後は事後処理に入っていた。
「悪かった皆。今回は俺個人の問題に巻き込んでしまって」
「そんな事ありません! それを言うなら、僕の件だって」
「水臭いぞカレン先輩。私たちは同じグレモリー眷属だろ?」
祐斗、ゼノヴィア騎士コンビが心外だとも言いたげに言い、
「そ、そうですうううう! カレン先輩の為なら、僕たち、なんだってしますううう!」
「……私たち仲間ですから」
後輩コンビたちも励ますように言ってくる。
「カレン、そんな事言わないでください。貴方だって私たちの個人の問題を色々と助けてくれたじゃありませんか。なら、私たちも助けますわ」
「はい、その通りです」
朱乃やアーシアも励ましてくる。
「なあ、兄貴。俺たち仲間だし、俺は兄貴の義弟だ。兄貴の為なら何だってするぜ」
「一誠……」
やばい一誠に励まされる日が来るとは……本当にどうしよう。
「……何だろ、今馬鹿にされた気が」
「気のせいだろう」
意外と勘が鋭いよな一誠の奴。
「ねえカレン」
「んー?」
「つらいならつらいと言いなさい。私たちだって、貴方に慰められることがあるのだから、その逆があってもいいはずよ」
「…………」
何だ急に。恥ずかしくなってくるぜ。
「あーティア、皆も今日はありがとうな助けに来てくれて」
俺は逃げるようにティア達の方に視線を向ける。
「眷属として当然のことをしたまでです」
「そうよそうよ。気にしなくて良いわ!」
ティアは相変わらずの様子でお辞儀をし、セルヴィアはウィンクする。
「……ふん」
「はは、ま我々も久しぶりに楽しんだからな問題ないさ」
茨木はそっぽを向き、ペルセウスは笑いかける。
「さて、カレン。相談があるんだが」
「何だよ?」
ペルセウスの言葉に俺は胡乱げに返す。
今度は何だ。もう、流石に今日は色々と疲れた。
「実は今日はこんなものを持ってきていたのだー」
そんなふざけながらペルセウスが懐から取り出したのは……。
「悪魔の駒か」
そう、悪魔の駒、その一つの騎士の駒。
「それ、俺のか?」
「ああ。今回の話を聞いて持ってきたのさ」
ニヤリと笑うペルセウス。どこまで読んでいたのやら。
「それで? それを使って翠を甦らせれば良いと?」
「決めるのはお前だよカレン。俺たちはそれを全力で支えるだけだ」
ずるいもんだ。そんなことを言われたら考えないといけないじゃないか。
他の奴らも固唾を飲んでじっとこちらを見ている。
俺はペルセウスから駒を受け取り、横たわっている翠の体を見る。
果たしてこのまま翠を甦らせていいのか。
翠は恐らく、それを望まないんじゃないだろうか。そんな風に選択させたのは俺が原因だろうし。
そんな翠を甦らせたらどうなるやら。また殺し合いになったら笑えねえな。
けど。だけど、翠は、紫水の妹で、俺の妹分だ。
そんな奴を失うのは……辛いなあ。
でも、翠は意思は尊重はすべきではあるだろう。
「…………」
迷いながら、俺は一つため息をつく。
そして、決断する。
あと一話で終わる予定。