「いやあ、アーシアには驚いた。よくやった。褒めてやろう」
「あ、ありがとうございます?」
「アーシア、別にお礼を必要は無いぞ」
アーシアが正直に頭を下げていると、一誠が突っ込みを入れる。
「いやいや、あれは勲章ものさ。少し胸がスカッとしたね。お前だってそうだろ、一誠?」
「それは、まあ……」
大なり小なり、あの場にいた奴は怒りを感じていたはずだ。
部室に来たディオドラだが、まあ予想通りというか、当然というかアーシア狙いだった。
贈り物でダメと来たら次はトレードを申し込んできたのだ。
当然リアスは断るものの、ディオドラもそう簡単に引き下がらない。
というか、アーシアの意思を完全に無視してトレードを申し込んできやがった。
流石に一誠が我慢できなくなったらしく、口を出したが当のディオドラは低俗なドラゴンとして侮蔑を隠そうともしなかった。
それを見たアーシアも堪忍袋の緒が切れたらしく、何とディオドラの頬を引っ張ったのだ。これには流石に驚いた。
叩かれたディオドラはそれでも薄笑いを辞めなかったが、流石に分が悪いと感じたのかその場は引き下がった。
正直、ここまでくるともう純粋な心とかそんなもんを全く感じてこない。寧ろ、粘着的なストーカー的なモノをを感じる。
「私はその場にいませんでしたが、話を聞く限りその男は中々の屑野郎ですね。去勢したほうが世の為人の為になるのではないでしょうか」
「お前さらっと恐ろしいことを言うな」
翠の発言に俺は軽く引く。
さて、現在俺たちは家でのんびりと寛いでいるわけだが、翠が家に遊びに来ているのだ。
俺の眷属悪魔となった翠だが、基本的には実家の方で暮らしている。悪魔家業も中学を卒業してからに免除をしてもらっている。
で、今日はお師匠様とかが家におらず、一人で留守番させるのは不安ということでウチで預かっているわけだ。
そして、三年ぶりにお師匠様や翠と紫水の両親であるおじさんとおばさんに会った。
三年ぶりというのに、おじさんとおばさんは俺を快く迎い入れてくれた。いつの間に俺たちが仲直りしてのかと、驚いてはいたが。
お師匠様とは……あまり語りたくない。
五本勝負をして五本とも地面に叩き付けられるとは流石に思わなかったが。
というか、何だあれは。俺も悪魔に転生して修行もして実力はかなり上がったはずなのに、御年77歳の老人にボコボコにされるとか笑えねえよ。しかもお師匠様の奴、俺や翠の状態に何となくだろうけど感づいている節が当たったし。
で、家に来た翠だが、義父さんや義母さんに説明すんのもめんどくさかったなー。まあ、何とかしたけどさ。
そんな事で我が家に来た翠だが、意外と家に住んでいる奴らとはうまく交流出来ている。
元々、余り人とコミュニケーションを取るのが苦手な奴だという認識を持っていたこともあり、少し驚いている。
まあ、俺が会わなくなってもう三年も経つのだから翠もその間成長していてもおかしくは無いだろう。
「そういえば、リアスさん達はどうしたのですか? 先ほどから姿が見えませんが」
「リアス達? あーそういやあ、何か部屋に篭ったきり、出てこないな」
翠と会って何か秘密の話をした後、直ぐに部屋に入ったリアスと朱乃。気付けば小猫もいなくなっていた。
何となく嫌な予感がしてくるから何もアクションを起こしていないんだけど、そろそろ起きそうな気が……。
『カレン!』
ほら、起きた。
嫌な感じがしながらも俺は声がした方を向く。
果たしてそこにいたのは、浴衣を着た二人だ。
何で浴衣? つか、胸が出そうでじゃね? 少しでもズレたら間違いなく見えるだろアレ。
リアスは自分の髪色に合わせて赤色の浴衣。朱乃も同じように自分の髪色の合わせて黒に近い藍色の浴衣を着ている。
「……一先ず、何で浴衣?」
取り敢えずの疑問は解消しておこう。
「だって翠が言うにはカレンが浴衣とか和服が好きだって」
「ごふっ」
リアスの答えに俺は思わず咽る。
「翠お前か!」
思わず翠の方を向く。
当の本人は素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。
こ、この野郎……あの時話していたのはこれか。人の性癖を一端をばらすとか何を考えてやがる。
「ほら、どうですか?」
朱乃が俺の方ににじり寄ってくる。
今にもこぼれそうな胸を俺に押し付けながら耳元で息を吐く。
「……に、似合ってるとは思うけど、もう少し、露出は減らしたほうが良いと思うけど……」
ついつい視線は胸元に行きながらもちゃんと言うべきことは言う。
「……むっつりスケベ」
「おいこら翠! 何言ってんだ!?」
ぼそりと、しかしこの場全員に聞こえるように言う翠。なんて奴だ。俺の内面をそこまで知ってるなんて……。
「まあ、むっつりスケベなのは知ってるけどね」
そんなことを言いながらリアスが後ろから俺に抱き着いてくる。
布一枚で遮られた胸が俺の首元辺りに当たってくる。
くそ、やばい。ここまでとは……!
どうする。どうすればこの状況を!
「……えい」
この状況を打開する方法を探そうとするも、再び誰かが俺に抱き着いてくる感触がある。
「小猫お前もか!」
ブルータス! とでもいうかのように俺は叫ぶ。
白い浴衣に着替えた小猫が俺に抱き着いてきていた。
しかも猫耳と尻尾を出し、うるんだ瞳で俺を見てくる。
「……似合ってますか?」
小首を傾げながらそんな事を聞いてくる小猫。
やめろ。マジでやめてくれ。――可愛すぎるじゃねえか!
ええい、冥界から帰ってきてから小猫の奴どうしたんだ。前よりもずっと俺に密着してきやがる。
くそ、この溢れそうなモノをどうやって止めれば!
「……兄様、変態の顔をしていますよ」
「はっ」
ふと我に返る。
恐る恐る翠の方を向けば、まるでそこいらの小石を見るかのような目で俺を見る。
「待て! 変態の役割は一誠の筈だ! 俺では無い!」
「ちょっと待て! なんで俺なんだよ!」
「うるせえ! 俺は変態なんかじゃない! いや、確かに性的趣向はあるけどそれを一誠みたいにさらけ出すことは無い! よって俺は変態では無い!」
「要はむっつりスケベって自分でも分かっているんですね。まあ、知っていましたけど。姉様と二人きりの時は普通にさらけ出していた様ですが」
「待て、なんでお前が知ってる翠!」
馬鹿な。紫水と二人きりの時しかやっていなかったはずなのに!
「ドアはちゃんと閉めたほうが良いですよ」
「ぐふっ!」
ば、馬鹿な。あれが見られていたというのか。あ、あんなことや、こんな、事が……!
「兄様は女性と二人きりの時は結構積極的になりますよ」
「おいバカ!」
止めようとしても遅い。
「二人」
「きりの時は」
「……積極的」
俺の後ろから抱き着いていたリアスが耳元で囁く。
「ねえカレン。二人きりでいろんな事をしない? 大丈夫、私結構優しいわよ?」
何をする気だよ怖いよ。
「あらあら、リアスなんかよりも私と遊びましょう? リアスが出来ない事でも出来ますわよ」
こちらも耳元で囁く朱乃。なにこれ、ゾクッとしてくるんだけど! 寒気がしてきたんだけど。
朱乃の言葉にリアスが口元を引くつかせる。
「あら、朱乃。何をする気かしら? 生憎とカレンはこれから私と二人でやることがあるから諦めてもらえるかしら?」
「それはあなたの方よリアス。カレンは私と色々なことをしたいんですよ。ねえカレン?」
「え」
何故ここで俺に話を振る。やめろ、これじゃあ俺が決める必要が出てくるじゃねえか。
「……先輩」
ここで小猫も参戦かあ! いやあ、本当にどうしよう。誰か助けてくんないかな!
さっと周りを見ても皆目を逸らしてくる。この人でなし! いや、人ではないけどさ。
くそっ! ここで手助けは無理か。ならば!
俺は自分の足元に転移魔方陣を作る。最近はこいつは即興で作れるようになったんだよな。まあ、長距離移動はまだ出来ないけど。
作った転移魔方陣を通って俺は直ぐ近くの床にジャンプする。
「きゃ!?」
「あら?」
「……」
突然寄りかかっていた俺がいなくなって所為でリアスたちがソファーに倒れこむ。
『…………………』
一誠達が何やってんだこいつみたいな顔で俺を見ている。
フ、しょうがないだろう。こうするしかないんだから。
「カーレーンー?」
地獄からの使者のごとく低い声が辺りに響く。
怖いと思いながらも俺はそちらを見る。
……うん、見なきゃよかったな。そう思ってしまう。
リアスたちがそれぞれ危険なオーラを身にまといながら立ち上がってきた。
「………………」
「…………」
「…………………」
「……さらば!」
ダッシュで駆ける。
「逃がさないわよ!」
「あらあら、いけない子ですね」
「……逃がさない」
怒りの形相で俺を追いかけてくるリアスたち。
「なんで逃げるのよ!」
「そりゃ逃げなきゃお前ら何をする気だ! それが怖くてしょうがねえんだよ!」
「何もしないわよ! 失礼ね!」
「じゃあ追いかけてくんな!」
「あらあら」
「朱乃は何さその不気味な笑いは。怖えよ」
「…………」
「小猫は何か言ってくんない!? お前が何も言わないとそれそれで怖いんだよ!」
「……酷いです」
「えー」
俺そんな悪いこと言ったか?
考えても欲しい。小猫みたいに無表情がデフォルトの場合何か言ってくんなきゃ分からない事だってあるだろうに。
「ええい、とにかく俺は捕まらないぞ!」
階段を上らずジャンプしながら上に登っていく。
「ふははは! 隠れるならばそう簡単に見つからない自身があるからな。このまま逃げ切ってきやるって、しまった!?」
今気づいたけど、あっち小猫いんじゃん! そうなったら俺隠れても意味ねえ!
「今頃気付いたのね……小猫」
「……問題ありません。カレン先輩の気は辿れています」
「あらあら、どうしてあげましょうかねえ」
「……うわーやばーい」
さー地獄の鬼ごっこだ。逃げるぞー。
「ちくしょーー!」
叫ばなきゃやってられない。
******
「…………なんてこったい」
一先ず、それしか言葉が出てこなかった。
夜、寝ているわけだが、俺は眠れていない。
「…………」
右を向けばリアスがピタリとくっついている。
左を向けば朱乃がこれまたぴったりとくっつている。
そして前を向けば小猫と翠が俺の上に乗って寝ている。
「……暑苦しい」
取り敢えず感想はこれだけだ。
九月になったとはいえ、季節はまだまだ夏だ。そんな中で四人にくっつかれてみろ暑いわ!
ま、そんな事言った瞬間に俺はボコられると思うけどね。
あーあー。結局捕まるし何故かリアスたちと一緒に寝ることになるし。
やっぱり、どうも居心地が悪い。昔は母様と同じ部屋で寝ていたけど、流石に布団は別だったし。おまけに四人と寝ているわけだ。変な感じになるのも当然というべきかな。
明日はテレビの取材があるというし、寝不足なって変な事を言わないようにしないとな。
「……寝よう」
とにかく寝る。目を閉じて何も考えないようにして眠ろう。
――眠ってしまえば、またあの悪夢を見ることになるだろうが。