ある日の放課後。
楠姉弟はメイド服を着ていた。
勘違いしないでほしいことがある。
それは決して自ら進んで着た訳ではないという事だ。
このメイド服を着る事になった原因は夜空先輩である。
「幸村。真の男に近づく特訓をするぞ!」
「はい、あねご!」
姉さんが珍しく大きな声で返事をした。
「あと、咲夜。お前もだからな」
「僕もですか!?」
「そりゃそうだろう。お前も小鷹の舎弟なのだから」
「ま、まあ、そうですけど……」
僕が曖昧に頷き、
「よし。まずは、服装からだ」
そう言うと夜空先輩が鞄からメイド服を二着取り出した。
カチューシャにフリルのついたエプロン、そしてやけに短いスカート。
男心にグッと来る衣装である。
そして決して僕の様な高校生が着るような品物ではない。
「二着って事はまさか僕も着るんですか?」
「当たり前だろ」
夜空先輩が平淡な口調で言う。
「男の僕達が着るのはおかしくないですか?」
僕は少し早口で言った。
姉さんは部室の窓から景色をぼんやりと眺めている。
「咲夜一度自分の家で自分の容姿を見てみると良いぞ」
「遠回しで言えば女顔って言いたいだけですよね!?」
「なんだ。自分でも分かっているじゃないか」
夜空先輩が僕を馬鹿にする様に笑う。
この人はもう少し遠慮するべきだ……。
「はぁ~……分かりましたよ。でもどうしてメイド服なのか教えてくれませんか?」
僕が嘆息しながら夜空先輩に尋ねた。
「いいだろう」
と先輩が呼吸を整え、
「真の男たるもの、例えどの様な格好をしていたとしても、隠し通すことが出来ない男らしさというものが滲み出る物なのだ。例え女中の格好をしようとも魂から男らしさを発揮できる様になったら、その時こそがお前達が真の男になった証になるのだ」
夜空先輩が淡々と言った。
すると、姉さんが、
「さすがあねご。その言葉しかと胸にきざんでおきますゆえ」
と尊敬の眼差しを夜空先輩に送っていた。
僕はもう……どうにでもなれと思った。
そして、現在に至るのである。
姉さんは物の見事に夜空先輩の話術に騙されてメイド服を着ている。
そして僕はその巻き添えである。
「うー、……下がスースーする」
「さくや。がまんがまん」
姉さんは無表情で僕に情けの言葉を掛けた。
その言葉が逆に心に突き刺さった。
人の言葉とは恐ろしいものだ……。
「うむ。よく似合っているぞ二人共」
「それ、褒めてます?」
「褒めているではないか」
夜空先輩が肯定する。
「僕の場合コンプレックスをいじっているとしか思えません」
「だが咲夜。幸村がメイド服なのにお前だけ学生服だと違和感があるぞ」
「だったら学生服のままでいいじゃないですか~!」
「私は小鷹に奉仕するための服装を用意しただけなのだが……」
「それに似合っているのだから問題はないだろう?」
「………………」
僕は項垂れてしまう。
もはやぐぅの音も出なかった。
だから僕は流れに身をまかせようと思った。
僕達は他の部員の人達が来るまで各自ぼんやりと時間を過ごした。
しばらくして。
ガチャリーーーー部室の扉が開いた。
そして来たのは星奈先輩だった。
「なんだ、肉か……」
夜空先輩が憎憎しげに言った。
「悪かったわ……」
そこで星奈先輩が僕を見て固まった。
「?」
「か、……かわ」
「……かわ?」
「可愛いーーーーー!!」
星奈先輩が僕が目で追えない速度で僕のところに来て抱きついてきた。
「ふみゅ!?」
ぎゅーっと抱きしめられた僕は星奈先輩の豊満なバストの谷間に顔が埋まってしまう。
「むー!、むー!」
僕は突然の出来事に対応できずにじたばたしてしまう。
「あねご。さくやが死んでしまいます」
「えっ?」
そしてようやく抱擁から解かれた。
胸の柔らかさと、呼吸困難に陥るという天国と地獄を同時に味わった。
胸の柔らかさがマシュマロみたいだった。
僕が心中で感想を述べていると、
「……イテッ!」
誰かに腕を抓られた。
抓ってきた人物が気になったのでその人物を睨み付けた。
抓ってきたのはなんと姉さんだった。
「……えっと」
意外な人物に僕は戸惑ってしまう。
「……………」
ぷいっと僕から目を逸らす姉さん。
その原因が分からなくてあたふたする僕。
すると星奈先輩が、
「ひょっとして……嫉妬してる?」
「……………」
星奈先輩が言うと姉さんが僕の腕に強く抱きついてきて。
「……………」
そして少し頬を赤く染めながら僕を見た。
「えっと、その、ごめんなさい幸村」
星奈先輩が気まずそうに姉さんに誤る。
「いえ。気にしないでください……」
と、姉さんは少し微笑みながら言った。
すると、
ガチャリーーーー部室の扉が開く音がした。
みんなの視線がその人物に注目が集まる。
そして一言、
「えっと、遅れた?」
僕達の先輩兼兄貴である小鷹先輩が部室内に入ってきた。
これからも応援よろしくお願いします。