夜空先輩から受け取った脚本をめくると最初のページには役名が書かれており、
【登場人物】
・桃太郎
・おばあさん
・鬼
・ナレーション
・木
「登場人物少なっ!?」
「部員数に合わせて最適化した結果だ」」
「しかも鬼一匹だけなら村人と桃太郎が力を合わせれば勝てると思いますよ!?」
「気にしたら負けだ」
「じゃあ、最後の『木』ってのはなんなんだ!?」
「ちょっと削りすぎたので追加した」
「明らかにいらないだろ木!」
「それではまずは配役を決めるぞ」
小鷹先輩のツッコミを無視して夜空先輩が進行する。
「ここは公平にくじ引きで決めよう」
夜空先輩はルーズリーフを一枚使って簡単なくじを作った。
とりあえず全員くじを引き、配役が決まる。
【登場人物】
・桃太郎……柏崎星奈
・おばあさん……楠 幸村
・鬼……三日月夜空
・ナレーション……楠 咲夜
・木……羽瀬川 小鷹
「……なんかこーなるなって予感はあったけどやっぱり俺が木かよ……」
「でも小鷹先輩が桃太郎やったら……鬼が逃げますよね……」
「あにきさすがです!」
「別に嬉しくねぇよ……」
「ふふ、あたしが主役ね。まあ当然かしら。夜空先輩が鬼っていうのもお似合いのキャスティングだと思うわ。サクっと退治してあげる」
星奈先輩が満足そうに笑った。
「ふん、いい気になるなよ肉」
不機嫌そうに夜空が言って、
「では、さっそく始めるぞ。おおまかなあらすじは全員知っているだろうから最初から通し稽古でも問題ないだろう」
ソファや椅子を隅に移動させ、部屋を舞台に見立てて芝居を始める。
「小鷹。お前は木だから最初からこの位置だ」
小鷹先輩が夜空先輩の指示で壁際に一人立たされた。
正直、木の役は必要ないと思うのは僕だけだろうか。
「……………」
釈然としない小鷹先輩を見て、とりあえず最初のシーンが書かれたページを見た。
一行目は僕の役名であるナレーションだ。
とりあえず僕は、脚本に書かれたとおり舞台外の場所に行き台詞を読む。
「えっと……むかしむかしあるところにおばあさんが住んでいて、そのおばあさんがある日川で洗濯をしているとどんぶらこっこどんぶらこと大きな桃が流れて来たので持ち帰って切ったところ桃から出てきたのがこのアホ肉である」
星奈先輩は僕が読み始めると同時に舞台の真ん中に向かう。
「いやちょっと待て、桃から生まれたのに肉はおかしくないか?」
「でも、
ヤンキー(小鷹)
肉 (星奈)
男の娘(幸村)
美女(咲夜)
と読めって書いてありますけど……。それから、どうして僕だけ美女!?」
「間違ってないじゃないか」
「性別が合ってません!」
僕が抗議すると夜空先輩がムスッっとした顔になり、
「ナレーションがぐちぐち言うな。世界観が崩れる」
「………ひどいですよ」
目に涙が少し溜まったが、僕は必死で踏ん張った。
「ひどくて結構だ。はい次」
「桃から生まれたので、安易に桃太郎と名付けられた。
おばあさんのもとですくすく成長したある日のこと」
「桃太郎。鬼がしまのおいにがわるさをしているようです。こわいですね」
おばあさん役の姉さんが舞台に出てきて、まったく演技する気のないすごい棒読みで台詞を言った。
メイド服を着たおばあさんってすごい違和感があるんだけど……。
「ふっ、夜空なんてこのあたしがブチ殺してあげるわ!
桃太郎の初台詞を、星名先輩が情感はこもっているものの脚本に忠実に演技をする気などまったくなくいつもの調子で言った。
「そうですか。がんばってください」
……これでおばあさんの出番はそれで終わりだった。……きびだんごすら渡していない……。
姉さんが小鷹先輩の方にとてとてと近づいてきた。
「どうでしたかあにき。わたくしのはくしんのえんぎは」
なんと言えばいいのか分からないのだろう。
小鷹先輩は黙ったままだ。
すると姉さんが、
「さすがあにき。木になりきっているのですね。わたくしはまだまだみじゅくです」
とキラキラした尊敬の眼差しを小鷹先輩を見つめ終わると、舞台から降りて僕の方に近づいてきて僕をじっと見る姉さん。
『演技どうだった?』
と聞いていると思う。
さっきも思ったがなんと言えばいいのか分からないのだ。
僕が考えるフリをして実は感想がまったく浮かんでこないと悟られないようにする。
そして、
「とても良かったですよ兄さん!」
と僕は自分が出来る限りの屈託のない笑みを浮かべたつもりだ。
「ほんと!?。……♪」
姉さんがやんわりと微笑んだ。
そして僕の心に容赦なく襲ってくる罪悪感が……。
僕がその様な状況下であろうとも劇は進行する。
「おばあさんに送り出された桃太郎は家を出て鬼が島に向かった。その途中で犬と猿と雉が死んでいるのを見つけた。まあそれはさておき桃太郎は先を急いだ」
「なんてことしやがる!?」
僕が思っていたことを口に出したのが小鷹先輩だった。
そして小鷹先輩が夜空先輩にツッコんだが、
「桃太郎といえば犬猿雉だからな。登場させないわけにもいかにだろう。原作へのリス
ペクトというやつだ」
夜空先輩が平然と言った。
……というか縁起が悪すぎるよこの桃太郎。
それから死体で登場させることのどこにリスペクトが?
「そんなこんなで桃太郎は鬼ヶ島にたどり着いた。鬼ヶ島には鬼がたくさんいて襲いかかってきたが俺はそいつらをばったばったと次々に斬り殺して鬼の親玉がいる城の奥へと向かっていった」
読んでいて思った。
……展開速いなあ……。
「そしてついに桃太郎は鬼の親玉のところにたどり着いた」
そこで夜空先輩が舞台に上がった。
「やっと出てきたわね夜空!覚悟しなさいよね!あんたをブチ殺せばこの島の金銀財宝は全てあたしのものになるのよ!」
私欲丸出しな桃太郎、どうみても悪役にしか見えなかった。
そして鬼役の夜空先輩が情感たっぷりの演技で桃太郎役の星奈先輩に切なさそうな眼差しを向ける。
「何故だ?何故このような非道を平然と出来るのだ?我らは大和朝廷に追われたし異民族の末裔。貴様らはわれらをこのような不毛の地へと追いやっただけでは飽きたらず、命までも奪おうというのか……!。血も涙もないこの所行、鬼とは貴様たちのことではないか!」
鬼のボスのセリフかっけぇ!。
あれ!?悪役だよね……。
「え……何この展開……」
星名先輩が戸惑いつつ台詞を読む。
「え、ええい黙れ!貴様は罪なき民を殺したではないか!」
「何を言う!この島に追いやられたわれらの祖先が血の滲むような努力によってようやく掘り当てた金山を狙い兵を差し向けたのは貴様らの方ではないか!我らはただ平穏に暮らしていたかっただけだというのに!」
「重い!話が重すぎますよ夜空先輩!これただの童話ですよね!?」
僕は我慢できなくなってツッコんでしまったが無視されてしまい劇は進行する。
「そうなの?ええい黙れ鬼め!貴様らの存在そのものが罪なのだ!この桃太郎が正義の剣で邪悪なる鬼を成敗してくれよう!……どこが正義よ!?」
「そのような無法がまかり通るとは……果たして正義とはなんだ。この世に正義がないのなら、よかろう、我は本物の悪鬼羅刹となり、神も仏もおらぬこの世界を破壊尽くしてくれん!ゆくぞ朝廷の犬め、我が名は黒天之命、吉備国最後の王として、この世に破滅をもたらす存在なり!」
「ちょっと夜空!どう考えても鬼の方がオイシイ役じゃないの!ていうかボスの名前なんて脚本に書かれていないわよ!?」
そしてついに不満を爆発させる星奈先輩に、夜空先輩が笑う。
星奈先輩乙です。
「書いているうちにやっぱり勧善懲悪の物語など面白くないと思ってアレンジしてみたのだ。名前は今考えた。」
「ずるいわよそっちだけかっこいい名前で!こっちは桃太郎よ!?」
「ずるくない。……この世に絶対の善悪などない。歴史は常に勝者によって書き換えられる。すなわちこの戦いに勝った者が正義を名乗ることが許されるのだ!」
そう叫んでいた夜空先輩は、いつの間にか手に持っていた地図帳を丸めて星奈先輩の頭を叩いた。
脚本を確認してみると、最後のページにはト書きで『ここで桃太郎と鬼のガチンコバトル。どっちかが泣くまでやって勝った方が正義』と書かれていた。
演技の練習とは何だったのだろうか……。
「いたっ!ちょっと、ずるいわよそっちだけ武器使うなんて!」
涙目で抗議する星奈先輩を夜空先輩はさらに叩く。
「問題無用!虐殺された同胞の仇、討たせてもらうぞ!」
ぽかぽかぽかぽか!
本当に容赦ないなあの人……。
「ああもう!」
星奈先輩も対抗しようと脚本を丸めたが、ペラペラの脚本は固い地図帳ブレードによってすぐ折られてしまった。
「ちょっと、痛い、痛いってば! ううっ! あんっ! ううぅ……バカーーーッ!!」
星奈先輩はついに逃げ出し舞台から退場した。
そして僕に抱きついてきた。
星奈先輩が涙目になっていて僕としてはかなり居たたまれないし、
「…………………」
姉さんがジト目で僕を見てくるのだが殺気がビシビシと伝わってくる。
そして夜空先輩は見て見ぬフリをして舞台の中央に悠然と立ち、酷薄な笑みを浮かべた。
「……待っていろ人間ども……桃太郎を血祭りにあげた我が、貴様らの世に終焉をもたらしてくれる……ファファファ……ファファファファファファファファ………!…………終わり」
素に戻って夜空先輩が言った。
「なんだこのぐだぐだな劇は……」
小鷹先輩がげんなりしながら言った。
仕方ないよね……一言も台詞がないから。
それと『木』だし……。
小鷹先輩が言うと、
「べつにいいだろう。どこかで発表するわけでもないし」
夜空先輩が平然と言った。
「しかしなかなか面白いな演劇。隣人部として定期的にやっていくとしよう」
一人だけ満足げな顔で汗を拭う夜空先輩に、小鷹先輩と星奈先輩は心底嫌そうな顔をした。
その後、星奈先輩を慰める為に頭を撫でたり、それに嫉妬した姉さんの機嫌を取るために家に帰り何度もキスをしたり「愛しています」などの甘ったるい言葉を掛けたりするなどの事をしてかなりの疲労困憊になった僕であった。
……幸村が好きすぎて生きていけない。
キャラ崩壊に関しては申し訳ございません。
あと僕百合とか大好きなので咲夜と幸村がこうしてほしいなどの妄想が浮んでしまいます。
まぁ、咲夜は男の娘なんですけどね……。