今回私が少々忙しく、更新が遅れてしまいました。
内容がアレだからせめて更新ぐらいはしっかりしようと思っていたのにぃぃぃぃ!!
これを反省して、これからはもっと精進します!
それではどうぞ!
「いらっしゃいませー! 2名様ですね? こちらへどうぞ!!」
「えー、ご注文を繰り返させていただきます。猪肉の蜂蜜漬けとシルードゥサラダですね? 畏まりました、少々お待ちください。」
「あ、いらっしゃいませー!」
店に入ってきたお客を接待し、お客の注文を聞き、お客に料理を持っていき、次のお客の接待をする。
俺たちは今、普段とはまったく違った服装で、まったく違う行動をしていた。
あ、また来た。
「いらっしゃいませー!」
俺はこれでもかというほどに張り付けた営業スマイルでお客に接する。
....想像以上に疲れる。
本当、なんでこんなことしてるんだろう?
俺はつい数時間前のことを思い出しながら、自分の不注意を呪った。
2層が解放されてから数日。街のなかはいまだに活気に満ち溢れていた。
街のどこを見てもプレイヤーたちがいるし、それぞれが楽しそうに談笑していたりする。
数日経った今でもここまで賑やかなのは、やはり最初の上層解放だったからだろう。
街をいくプレイヤーは全員が全員立派な防具や武器を装備しているわけではない。
むしろ持っていないプレイヤーの方が多いだろう。
それは、1層の《はじまりの街》に留まっていたプレイヤーも物見遊山でこの《ウルバス》を見に来ているからだ。
2層が解放されてから分かったが、各層の中心都市には《転移門》と呼ばれるものが設置されている。
その門をくぐれば、自分が行きたい層に自由に移動できるらしい。
...まぁ、もちろん解放されている層にしか行けないが。
「今日も人多いねー」
「もう少ししたら人も減るだろ」
人が多い。そう言っても何も道を歩くのが困難、というほどではないが、1層で他の街を回ってきた俺たちからすれば、どうしても多く感じてしまう。これほど人が多かったのは、それこそ《はじまりの街》ぐらいだったが...あそこはあそこで無気力な人たちが集まってる場所だったしな。
そう考えれば、その《はじまりの街》の人たちもこうして明るく笑える場所、虚栄ではなく心から活気が沸いている場所、というのは中々に心地よいかもしれない。
もしかすれば1層が攻略されてプレイヤー全員にゲームクリアの希望が沸いてきたのかもしれない。
...なるほど、これがディアベルの言っていた、『プレイヤーの希望になる』ということか。
本当に、あの人の思想は心底すごいと思う。
まぁ、今重要なのはそこじゃあないんだけど。
「ミウ、見つかった?」
「全然......さすがにこの中から見つけるのは厳しいかな」
俺たちは今、街のなかでクエストを探していた。
クエストは基本的に頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるNPCが持っているので、正確に言えばNPCを探しているということになる。
この街周辺も一通り回ったので、次の街に移動する前にこの街のクエストをいくつかやっていこうということでクエスト探索中なのだが......
とにかく人が多い!!
こんな中いくら頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるからって特定の人物を探し出せるかっつーの!!
......はぁ、本当に困った。
隣を見ればミウも少々げんなりした顔もちで歩いている。
「ミウ、今日はまだこの街にいるんだよな?」
「うん、街を出るのは明日からのつもりだし」
「じゃあさ......」
俺は人混みのせいで見辛くなった目的の場所を指差す。
「ちょっとそこで時間潰してからにしないか?」
「......喫茶店?」
俺たちが入った喫茶店は、外ほどではないがかなり人が多かった。
回りを見ると武器や防具を装備しているプレイヤーがそこそこいるので、攻略の中休みにここを利用しているということだろう。
まぁ、いまちょうど昼ぐらいだもんな......
とりあえずどこか席に座ろうとミウと空いている席を探すが、どこも埋まっていて座る場所がない。
これは困った、だが今から再びあの通りに戻るのも少し覚悟がいる、と席が空くのと外に出ることを天秤にかけていると、1人の女性NPCが近づいてきた。
「「あ」」
もしかしたら空いている席がないから入店拒否か待つよう言われるのかとも思ったが、そんなことよりも俺やミウの気を引くことがあった。
NPCの頭の上に、クエスチョンマークが浮かんでいたのだ。
......やばい、なんか今すぐ逃げないと面倒なことになるような気がしてきた。
なぜか急に頭の中のサイレンがすごい勢いで鳴り出したが、気のせいだと頭を振る。
いや、これはむしろラッキーだ。俺もミウもちょうどクエストを探していたのだから渡りに船というやつだ。
「あの、どうかしましたか?」
なので俺はクエストの内容を聞いた。
クエストを持っているNPCに『何かありましたか?』というようなことを聞くと、クエスト発生のフラグが立つのだ。
すると店員の女性は神様にでも会えたかように顔を綻ばせた。
「あぁ!! ちょうどよかった! ちょっと困ったことがあって、頼んでもいいかしら!」
む、内容は言われないか......
ここで『はい、いいですよ』とか言えばそれでクエスト受注だ。
そのあと断ることも一応できるが、一度受けたものを断るというのは少々忍びない......ってこれ、前ミウが言ってたことと同じか。
本当なら前情報も何もないクエストなど、受けない方がいい。なにせこの世界で少しでも気を抜けば冗談抜きで死ぬことになるからだ。
でも......
ミウを見ると、困ってるみたいだし受けちゃダメ? という感じのアイコンタクト。
ミウが乗り気なんだよなぁ.....よし。
「はい、いいですよ」
とりあえず本当に内容が危なそうならミウには悪いが無理矢理にでもクエスト中断することを決めて聞く。
まぁ、飲食店からのクエストなんてそこまで大それたものはないだろう。
それこそ、食料がなくなったからその辺の動物系、もしくは植物系のmobを倒してアイテム(材料)を採ってきてくれ、とか。
すると店員さんは、さらに嬉しそうに顔を綻ばせ俺とミウの手を握ってきた......て、え?
「さぁ、こっちよ!」
「え、ちょっ、話はーーーーーー!?」
そしてそのまま店の奥まで引っ張られていった。
バックヤード(で、いいのだろうか?)に連れてこられた俺たちはそのまま二人別々に分けられて、さらに他の部屋に連れられた。
ここは......更衣室?
そのことに気づいた瞬間に、さらに脳内のサイレンが響き始めた。
それと同時に俺をここまで連れてきた男性NPCが何か折り畳まれたものを手渡してくる。
これは、やっぱりそういうことなのか......
俺は半ば以上諦めつつも、最後の希望にかけて渡されたものを広げた。
......ですよねー。
Side Miu
手渡されたものを広げると、私をここまで連れてきた店員と同じ、この店の制服だった。
ていうことはこのクエストは接待とかのクエスト、なのかな?
SAOってそういうクエストもあるんだ......
でも、これならコウキが心配していた危険性とかも心配なさそうだ。
ただ......
私は制服を目の前に掲げる。
服のイメージカラーは白とか水色といった可愛い系と爽やか系が混在している感じ。
布の節々にはフリルがつけられていて、少し揺らすとそのフリルも揺れて可愛い。
下は上と一体型で当然のようにスカート。しかもかなり短めで、ここにもフリルがある。
足元は白ニーソで固めるらしく、この服のテーマは清楚可愛い系、といったところか。
所々にリボンなんかも付けられていて、メイド服......とまではいかないにしても、それっぽい感じがする。
とりあえず服を自分の体に当ててみつつ、更衣室に設けられた姿見で自分の姿を見る。
「......はぁ」
しまった、ため息が出てしまった。
いや、別にサイズが合っていないわけではない。むしろパッと見サイズが合いすぎていて少し引くほどだ。
問題なのは、単純に私に似合っていないということだ。
もちろん、私にはもっと似合う服があるわ! とかではなく、私が服に合っていない。
ぶっちゃけて言えば、私にはもったいなさすぎる。
こういう可愛い服、というのはもっと女の子らしい子が着るものであって、私のような肉体的にも精神的にも女の子らしさゼロな女子が着るものではない。
店員さんに他に制服はないか聞いてみたが、色好い返事は返ってこなかった。
これを......着るのか。
Side Kouki
「うーむ...」
心のそこから嫌だったが、先ほどもミウが乗り気だったことも考え、気力を振り絞って着替えた。
そして今は更衣室から出てバックヤードに戻ってきてるが......
店の制服ってこんなに着苦しいものなのか......
上はこの店のイメージカラーだと思われる水色のYシャツ。それに紺色のネクタイ。下はネクタイ同様のスラックスだ。
こういったマナー等を意識したしっかりとした服装は学校の制服ぐらいしか着たことがないので非常に違和感がある。
まぁ、着ているうちに違和感もなくなるか......というか、女性店員の制服はあんなにフリフリとかついてるのに、なんで男性のはこんなにもガッチガチに固めているのだろう? いや、別にフリフリが着たいとかそんな倒錯的なことは考えてないけど。
「それにしても......」
肩を回しながら周りを見回す。
俺が着替え終わって更衣室から出てきて既に10分前後。ミウはまだ姿を見せない。
女子の着替えには準備がかかるものだ、とはよく言うが、SAOの着替えはウィンドウ操作のみだ。そこまで時間がかかるとは思えない。
ミウ、何かあったのか......?
「コウキ~?」
「ミウ?」
背後から声がかかったので振り替えると、予想した通りミウがいた。
いたのだが......
「わぁ、コウキ、すごい似合ってるよ!」
「おう、ありがと......で、なんでそんなところにいるの?」
「うぐっ......」
ミウはいたのだが、なぜか曲がり角から頭だけをこちらに見せている、尾行スタイルだった。
俺が聞くとミウは視線を逸らすし......どうしたんだろう?
もしかして渡された制服が着るに耐えないものだったもので俺には見せられないとか......はないか。ミウだったら大抵の服は普通に着そうだし、そもそもさっき見た女性店員の制服もそこまで変わったものじゃなかったし。
俺が無言のままミウに視線を送っていると、ミウが徐々に唸りだし、ついにはため息をつく。
「......笑わないでよ?」
「ん? あぁ......」
いや、だからそもそも笑うようなデザインじゃない気がするんだが......
ミウは恐る恐るといった感じで角から出てくる。
......おおう。
いかん、驚きのあまり変な声が出そうになってしまった。
それほどにミウにこの店の制服は『似合っていた』。
白や水色といった色合いもミウの雰囲気にとてもマッチしているし、デザインそのものにもミウらしさが引き立てられている気がする。
しかも足元を固めている白ニーソも、ミウの色白な肌を上手く魅せている。
......だというのに、それに対して、本人であるミウ自身が雰囲気が沈んでいて、顔も俯かせていた。
その表情は恥ずかしくて赤くなっている、とかではなく、ただ居心地が悪くてテンションが下がっている感じだ。
「......やっぱり、似合ってないよね?」
俺がずっと黙っていたことを不安に感じたのか、ミウが唐突にそう言った。
「いやいや! ミウすごい似合ってると思うぞ?」
「あはは......ありがと」
俺はすぐさま思った通りに言う。
実際、ミウのために作られたと言われても違和感がないほどに制服はミウに似合っている。
これほど似合うのはこの世界ではそれこそミウぐらいなのではないだろうか?
だが、ミウは表面上はお礼を言ってくるが、表情は全くと言っていいほど上昇していない。
まるで俺の言葉を完全にお世辞だと思っているよう......というより、自分がそんな言葉を貰えるわけがない、感じだ。
さっきの言葉からして、もしかしてミウ、服が自分に似合ってないと思っているのだろうか?
まぁ、服なんて着ている本人が似合わないと思えば似合わないことになるんだろうけど......勿体ない。
ミウって女の子の格好してれば引く手あまただろうに。
すると、ミウが出てくるのを待っていたかのようなタイミングで、先程の女性店員も出てきた。
「さて、着替えてもらったところで、あなたたちにやってもらうことを言うわよ!」
ーークエストの内容はやはり店員として働け、ということだった。
店員の話では、普段はそこそこの客いれらしいのだが、ここ最近は異常なほど客が多く、完全に手が足りていない状態だそうだ。
おそらく、ひとつの街、もしくはひとつの店に一定以上のプレイヤーが存在すると発生するクエストなのだろう。
アルゴのガイドブックにも載っていなかったし......βテストの時もなく、この世界が始まってからも、ひとつの街にここまでプレイヤーが集まることがなかったのだろう。
内容と背景は話を聞いて分かったが......正直、ものすごく嫌だ。
ミウはヨウトと同じで人付き合いとかは上手いタイプみたいだし、そこまで苦にはならないかもしれないが、俺にとってはこれ以上ないぐらいの難易度だ。
......まぁ、今さらそんなことを言っても仕方がない。俺もさすがにここからクエスト中断とかは言い出したりしないです。
ミウの様子も少し気になるが、クエストを中断する気はないみたいだしな。
「それじゃあ頑張りましょうー!」
「「......お~」」
それにしても、受ける側がここまでやる気のないクエストというのもどうなんだろう?
そして現在に至る。
俺もミウも仕事は主にフロアに出て客を接待することで、実際にやってみると注文を取ったり、料理を運んだり、客を案内したりするだけなので作業事態はそこまで難しいものではなかった。
バイトなど一度もしたことがなかったのでーーまぁ、俺中学生だし当然だけどーー少し不安はあったのでこの事に関しては非常に助かった。
ただ、やはり不特定多数の相手に対して常に良い顔していないといけないというのは非常に面倒だし、大変だ。
「あ、はい! ありがとうございます!」
そしてミウも俺と同じように作業はなんの問題もなくこなしている。たまに男性プレイヤーからナンパされているぐらいだ。
先程まで沈んでいました、と言われても信じる人はいないと思うぐらいに元気で、笑顔を振り撒いている。
......だが、やはりそれはいつものミウと比べるとどこか表面的なもので、無理をしている、とはいわないが、自然体とはほど遠いものだった。
「店員さーん」
「はい、今行きます!」
あー、くそ。考えてる時間もないな......
こうなったら休憩時間に聞くしかないけど......
女性店員さんは休憩は1時間半後に入ってくれと言っていたから、休憩まではあと30分程度。
......まだ30分もあるのか。こんな時計ばかり気にしていて、これじゃあまるで学校の授業のようだ。
俺は初仕事1時間で、すでに休憩時間が待ち遠しくなるという、聞きようによっては相当けしからん状態になりつつ、フロアの仕事を続行した。
「ミウ、大丈夫か?」
30分後。待ちに待った休憩時間に入り、休憩室に入るなり俺はミウに聞いた。
「え、特になにもないよ?」
嘘だな。
話し方はいつも通りだが、明らかに視線が泳いでいる。
ここまで一緒にやって来たが、ミウは本当に純粋なやつだから嘘とか人を偽ることが極端に下手だ。
というより、基本的に嘘をつく必要が今までなかったのかもしれない。俺のような捻くれたやつならともかく、ミウはなにも偽ることなんかないだろうし。
......まぁ、もしもミウが嘘大得意なやつだったら俺は今ここにいないだろうけど。
ここは少し踏む混んでみるか。
「さっきも言ったけどその服似合ってると思うぞ?」
俺は先程とほとんど同じことを言う。しかし、それに対して返ってくる反応は、あはは、と何かつまった感じの笑顔でミウも同じ反応だ。
やはりこれは触れてほしくないのか、と少し諦めかけていたが、今回はミウに続きがあった。
「でも、ほら。こういう服ってもっと可愛い子が着るものでしょ? それに、こんなに可愛い服、私らしくないと思うし......」
言うとミウはまた笑った。
でも、少し意外だった。
ミウはいつも明るいわ、強いわで、弱い部分というのをほとんど見せることがないので、こういったコンプレックスのようなものがあるとは考えもしなかった。
まぁ、先日もミウが変な暴走起こしたことはあったけど、あれはどちらかというと混乱、だろうしなぁ。
とにかく、ミウの言いたいことは分かった。
同時に、今日俺がずっと感じていた違和感も。
「ミウってさ、可愛いもの好きだよな?」
「? ......うん」
「じゃあ、そんな可愛いもの好きのミウはそういう可愛い服も着てみたいと思う......んだよな?」
俺はミウが今着ている服を指差して言う。
後半自信がなくなったのは、女心というものは可愛いもの好きだから可愛い服を着たくなるかどうかが今いち分からなかったからだ。
だが俺の懸念は考えすぎだったらしく、ミウは服を着たいということは肯定してくれた。
「着てみたいとは思うけど......やっぱり私らしくないよ。私、胸ちいーーごほん、ちんちくりんだし、性格も男勝りなところあるからさ」
意地でも胸のことは言いたくないのか......
それに男勝りか......思い付くのはmobを目の前にしたときのミウの無敵っぷりと、食事のときに俺よりも多く速く食べる光景。
......うん。できそうならフォローしようと思ったけど、少し難しいかも。
いや、そもそも俺はフォローしたいわけではない。
「でも、『らしさ』って言うのはそもそも基準はなんだ?」
「え?」
「俺はさ、やっぱりその本人がやりたいことをやってる『状態』のことを言うと思うんだよ」
大体、『らしさ』なんていうものは他人がその人を区分けするためのタグのようなものだ。
その誰か他人が決めたタグ以外の行動をすると、途端に『らしくない』などと言われる。
もしかしたらミウも同じような経験があるのかもしれない。
そして今回ミウが言った『らしさ』というのはそんな感じで、他人が求めてるミウの印象だ。
ぶっちゃけた話、そんなものクソくらえだ。
自分がしたいことをして糾弾されるだなんて間違っている。
だから俺は、本人が一番イキイキとできることがその人の『らしさ』だと思うのだ。
それこそが本人の本質で、行動指針や、目標などになるのだから。
「だからミウが、着たい服を着て、他人の目なんか関係なく楽しそうにしていることがミウ『らしさ』だと思う」
俺は自分の思いを最後まで言い切る。
......よくよく考えれば、他人の考えにここまで意見することは久しぶりかもしれない。
でも、やっぱり少し勿体ないと思うのだ。せっかく似合っている服を着ているのに本人が悲しそう、というのは。
俺は別にミウに今の制服を着ていろ、と言いたいわけではない。単純に気にすることはないんじゃないか、と言いたいだけだ。
まぁ、他人の目、とか言ったけど、その他人の目から見てもミウの服装は似合っているわけだけど。
こういうのは本人の気持ち次第だからこれ以上はどうしようもないけどさ。
「......ねぇ、コウキ」
「ん?」
「えっと、その......この服、似合ってるの?」
「おう、似合ってる」
「そっか......」
ミウが小さく呟く。
ミウの表情は俯いていたせいで分からない。
「あ、もう休憩時間終わりだね」
「え、あぁ、そうだけど......」
言うとミウはそそくさと休憩室から出ていってしまった。
結局上手く話せたのかはよく分からなかったが......
ミウが振り返る際、微かに口許を曲げていた気がするのでよしとしよう。
その後はミウの雰囲気もいつも通り、いや、いつも以上にご機嫌になり、俺の懸念事項も消えたことで滞りなくクエストを終わらせることができた。
...............とは上手くいかないのが現実である。
「ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、草原サラダに猪ステーキ、あとコーヒーで」
その後再び俺たちは接客に戻った。
俺は客から注文を聞きつつ、頭ではミウのことを考える。
......ミウ、さっきは大丈夫かとも思ったけど、やっぱりまだ心配だな。
自分が過保護、気にしすぎなことは百も承知なのだが、それでも気になってしまう。
「では、ご注文を繰り返させていただきます。草と猪と、豆汁ですね?」
「え?」
「店員さーん!」
「あ、今行きます!」
うーん、少しずつ慣れてきたから良いものを、やっぱり接待は難しい。
先程なにか変なことを言ってしまった気もするが、まぁ、気のせいだろう。
とりあえず思考を元に戻そう。
ミウを横目でみる。
......ん、やはり先ほどまでよりも顔色が良い。
「ご注文は?」
「えーとーー」
「とかげの熟成肉と天戸のピリ辛スープ、ブットから絞ったワインですね?」
「いや、まだ頼んでないですよ!? しかもなんで全部この店の高級料理!?」
「おっと、失礼しました」
少し間違えてしまった。
「トイレはあちらですよ」
「だから注文!!」
その後「集中してください」と店員さんに怒られてしまった。めちゃくちゃ怖かった。
まぁ、とにかく、ミウの方は本当に大丈夫なようだからもう気にするのは止めよう。
よくよく考えれば、やっていることは同僚のストーキングだしな......
よし、ミウを見るのはもう止めよう。
「いっらしゃいませ......あ、アスナ!」
あ、アスナ来たんだ。これはミウも嬉しいだろーーーっと、気にしない気にしないと。
「ミウさん? こんなところで何してるの? その格好......」
「あ、これは......ちょっと今クエストでこのお店を手伝ってるんだけど......」
「そう、その服、すごく似合ってるわ」
「......っ! ありがとう!」
......さーて、俺も仕事仕事っと。
「少しいいかしら?」
「はい、どうかされましたか?」
呼ばれた方にいくと、この世界では珍しい女性プレイヤーだった。
いや、ミウにアスナにアルゴにニックと、もう4人も会っている俺が言っても説得力がないが、実際人数は少ない。
そのプレイヤーは雰囲気としてはニックに近い感じで、年上の雰囲気を纏っている。
「さっき頼んだ料理がまだ届かないのだけれど?」
「あぁ、申し訳ありません。只今店内が大変立て込んでおりまして、少々時間がかかるかもしれません」
「あら......そうね。こちらこそごめんなさい。不躾なことを言ったわね」
「いえ、我々の不手際ですから......」
......あー、こういういい人っぽい人との会話は余計に疲れるな。
相手が善意しかないと俺も心込めて話さないといけない雰囲気になるし......なにより『いい人』というのは少し苦手だ。
女性客は少し考える素振りを見せると、良いことを思い付いたかのように顔をあげる。
「今言ったことを覆すようで悪いけど、あなたは今空いているのかしら?」
「え......?」
言われて周りを見回す。
確かに人も多く混んでいるが、今はフロアに出ている人数も多く少しなら大丈夫そうだ。
さっきも『お客様の要望は可能な限り聞くように』って言われたばかりだしな。
「はい、俺ーー私でよければ」
「そう、じゃあ料理が届くまでお話に付き合ってくれないかしら?」
「......ねぇ、アスナ」
「なに?」
「アスナは、イライラしたりする時はどうやって解消するの?」
「え......そうね......紅茶、特にミルクティーなんかを飲むわね」
「そっか、ありがと。今度試してみるね」
あれ? 微妙に寒気が......
まぁいいや。とにかく、この人の料理は長くても5分程度で来るだろう。たぶんそのぐらいの余裕はある。
俺となんか話して何が面白いのかは分からないけども。
「ありがとう。そうね......じゃああなた名前は?」
「コウキです」
「そう、私はマールよ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあまずは、その堅苦しい話し方をやめてもらってもいいかしら? これから楽しくお話ししようというのに、それじゃあ息が詰まってしまうわ」
......本当にニックにそっくりだな。実は姉妹って言われても信じるぞ。
ただ、やっぱりこういう風に話すのは苦手だ。どうしても相手の裏側を考えてしまう。
言っても仕方ないけど。
「......分かった。じゃあマール」
「......アスナ。ものすっごくイライラっていうか殺意に近い感じがしたらどうする?」
「ええっ!? 殺意って......つまりすごいストレスってことよね? う~ん......他のことで昇華するかしらね。お料理、はここじゃできないし......そうだ! お掃除なんか良いわね」
「......ありがとう。今度、ううん、帰ってからやってみる」
ビクゥ!! 背筋を冷たい感覚が走る。
おかしいな、フィールドでならいざ知らず、こんなところでなんでこんな感覚に襲われてるんだ!?
風邪......は引かないしな......
「コウキ?」
「あ、いや、なんでもない」
「なら、少し腰を落としてもらえない?」
「はぁ......?」
言われた通りに腰を落とし、マールに視線を合わせる。
するとマールは両手で俺の顔を押さえるようにしてきーーえぇ!?
「あの、マールさん?」
「......」
しかしマールはなにも言ってこず、ただ俺の目を見つめてくる。
あの、これ、どういう状態? なんで俺クエスト中にこんなことになってんの?
それから十数秒ほどそのままになっていると、マールが小さく息をついて俺から離れた。
「あなた、きれいな目をしているわね」
「へ......?」
「でもただ綺麗なだけじゃない......そう、人の醜いところや汚いところも知って、それでも前を向こうとしているような......いえ、前を向き始めている感じかしらね」
ーーーーえ。
「あ、今少しドキッとしたわね?」
「あの、いったい何を......」
「ふふっ、ごめんなさい。私少し占い方面のことをかじっていてね。気に入った子を見るとつい、ね」
「はあ......」
「アスナ、あとでとかじゃなくて今すぐこの苛立ちをどうにかしたいならどうしたら良いかな......?」
「ちょっと、ミウさん? 本当に空気が痛いのだけれど......えーと、そこまでいってるのならもう元凶を何とかするしかないんじゃない?」
「そうだよね......」
「って、ミウさん!?」
ーーっ!? だからなんでさっきからこんな殺気まみれの視線を感じてるんだよ俺!?
しかもなんか段々強くなっているような.....あれ?
俺が内心戦々恐々としていると、急に視界が動いた。
これは、体が動いてる?
そこでやっと俺は後ろから誰かに引っ張られたことに気がついた。
「って、ミウ!? いったいどうしたんだ......よ?」
あれ、さっきまで機嫌良かったのに、なんで今こんなにバイオレンス状態なの?
「......コウキ」
「は、はい......」
「仕事、戻って」
「はい」
怖えええぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!!
ミウは別に顔も無表情とはいえ怒ってないし、声もいつもより少しだけ低いだけなのに、纏ってる雰囲気が怖すぎる!!
そしてミウは言ったあと俺の顔を見てなにか小さく呟き、そのまま仕事に戻っていった。
それと同時にキッチンの方からマールが頼んだ料理名が聞こえてきた。
「二人とも可愛いわねぇ」
「あ、あはは、じゃあ俺はこれで......」
「えぇ、すごく楽しかったわ」
俺は逃げるようにーー料理を取りに行くためにもーーバックヤードに引っ込んだ。
......それにしても、マールの言動もそうだけど、ミウはどうしたんだろう?
「............コウキのバカ」
その後、今度こそ何事もなくクエストを終え、無事報酬をもらえた。
異常なほど報酬がよく、俺とミウが恐れおののいたのはまた別の話。
今回話は長かったですが、ちょっとした中間回でした。
それから前書きに続いてもう一つごめんなさい。急展開は次回からになりそうです。
次回の話はもう構成はほとんど出来ているのでちゃんと急展開になると思います!
さて、今回少し書きましたが、実はコウキくん、ミウさんやヨウトのような相手でもないと、基本的に話すのを面倒と思う人です。
アルゴとかは互いに利益があるような、仕事相手みたいに付き合ってるからですね。
実際ニックに対しても少し冷めた目線で接していましたし。
コミュ症というわけではないのですが...本当に主人公としてどうよ?
そして少しずつとですがミウさんが動き始めました!
この子はいつ頃デレてくれるのか(今も結構デレてるけど)すごい楽しみです!
それでは次回こそいつものペースで急展開で行きます!