力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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13話目です!!
ふと思ったんですが、ボスの攻撃を一人で食う止めるだなんてどこが無力だよ!!
ひどいタイトル詐欺だよ!!....と。
本当、自分がもしもSAOに入ったらもっと無力になる自信ありますよ。《始まりの街》の住人ですよ。
まぁ、これからコウキくんにはとことん不幸になってもらう(あくまでも予定)なのでプラスマイナスゼロにしますがね?

それではどうぞ!!




13話目 無力な少年の覚悟

 ある日、俺たちは攻略に出るためフィールドに向かっていた。

 この数日で2層攻略はかなり進められた。1層の時は完全に手探りな状態だったのに対して、2層は少しずつとだがみんなやり方が分かってきたというのが大きいのだろう。

 ディアベルのパーティーのようなところと比べたらさすがに勝てないが、それでも俺たちも大分早いペースで来ていると思う。

 そして今は街を歩いているのだが......

 

「ふふふふーん♪」

 

 ミウのテンションがえらく高かった。

 先日のバイトクエスト以降ずっと機嫌が良い。(店のなかでは何故か機嫌が悪かったが。理由は今も不明)

 前にもこんなことあったし、たま~にこうなるよな、ミウって。

 まぁ、嬉しそうにしていることは良いことだけど。

 そう思いながらミウの鼻唄をBGMにフィールドに出る門に向かって歩いていた、その時だった。

 

 

 

「あら、コウキじゃない」

 

 

 

 その声が聞こえた。

 久しぶりに聞こえた声の方を見る。

 

「ニック!? 久し振り!」

 

「えぇ、久し振りね、コウキ」

 

 そこにはこのゲームがデスゲームになる前に唯一知り合った人、ニックがいた。

 ......そういえば何気なく返答したけど、ニックの顔って前に会ったときとほとんど同じだな。

 このゲームに入ったときに作ったキャラクターの顔は最初の日に無理矢理戻されたわけだし......俺みたいに現実とほとんど同じ顔にしてたってことか。

 

「ねぇ、コウキ......」

 

 俺がニックとの再開に軽く感動していると、ミウが後ろから俺の袖を引っ張ってきた。

 あれ、おかしいな? 女の子に後ろから袖を引っ張られるなんて可愛い仕草、男冥利に尽きるってもんなのに、何故か冷や汗が止まらない。

 なんか最近こういうこと多いなぁ。もしかしてバグ?

 

「なんだ、ミウ?」

 

「その人、誰?」

 

「私も知りたいわね」

 

 ミウの声がいつもと同じ声のはずなのに、今は地を這うような呪詛の声にも聞こえてくる。

 やばい! 怖くて後ろを振り返られない!!

 さっきまで機嫌良かったのにどうしちゃったのさミウさん!?

 それに対して、ニックの声はどこか楽しんでいるように聞こえる。

 とりあえず怯えつつもミウにニックのことを、ニックにミウのことを紹介する。

 

「へぇ」

 

 しかしミウからはそれしか返ってこなかった。

 あまりに感情がフラットすぎて逆に怖い。

 このままでは話が平行線だ!

 何とかしなければ、そう思った俺は恐る恐るミウの方を見ると、

 

「......ミウ?」

 

 何故か微妙に涙目だった。

 はて、今までの会話のなかにミウが涙目になるような要因があったかな? しかもここまで怖くなるほどの要因。

 ミウはどこか一点を見ているようだったので、俺もそれに合わせて視線の先を見る。

 ......あぁ、ニックが巨乳だかーー痛ぁ!?

 

「ミウなんでつねるの!?」

 

「デリカシーの教育」

 

 バカな。気を遣ったから口には出さなかったたたたたたたたた!?

 

「ミ、ミウ? それ以上つねると贅肉どころか筋肉も抉り取られそうなんだけど」

 

「ふふふ、あなたたち面白いわね」

 

 俺たちの会話を聞いて楽しそうに笑うニック。

 でもニック、それは他人事だから言えることなんだよ。

 それから俺は何度かミウに謝り、ようやく解放された腹をさすりながらそんなことを思っていると、

 

「......ここで1度見ておくのも良いかもしれないわね」

 

 ニックがなにかを真面目な顔で呟いていた。

 よく聞こえなかったのでもう一度言ってもらうよう言おうとしたが、それよりもニックの方が早かった。

 

「コウキ、ここで会ったのも何かの縁よ」

 

「へっ?」

 

 急に何をーー

 しかし、ニックは俺に構わず続ける。

 

 

 

「だから、私とデュエルしましょ」

 

 

 

 一瞬、ニックが何を言ったのか分からなかった。

 それほどにニックが言ったことは突飛すぎた。

 デュエル。プレイヤー同士の戦闘を目的としたシステムだ。

 戦闘方法もいくらかあるが、どれもデュエル中はフィールドだろうが圏内だろうがプレイヤーのHPが減るのだ。

 つまり、死の危険性がある。

 なんでニックはそんなことを......

 

「コウキ、私はね、無条件で誰か他人を助けたり手伝ったりするほど善人ではないのよ」

 

 その時、ニックの得体の知れない凄みに鳥肌がたった。

 飲まれた、と言っても良いかもしれない。

 それほどに、今のニックは強烈な存在感を放っていた。

 

「覚えているかしら? あなたが私の前でスキルを成功させたときのことを」

 

「そりゃもちろん」

 

 あのときの達成感や快感は一生忘れないだろう。

 そしてニックは恍惚とした表情で語り始める。

 

「私はあのとき、身震いしたわ。この子と本気で戦ったら本当に楽しいだろう、と。でも、攻略会議の時あなたを見たときは正直ガッカリしたわ」

 

 語っていくにつれて、ニックの興奮していた表情は徐々に沈んでいく。

 でも攻略会議の時、ニックもいたのか。

 あのときは本当に余裕がなかったし気づけないでも無理はないか......

 そしてニックは再び上機嫌になって言う。

 

「でも、ボス戦の時のあなたの動きを見て確信したわ。あぁ、やはり私の目に狂いはなかったのだと」

 

「何が言いたいんですか?」

 

 そこで今までずっと黙っていたミウが口を開く。

 先ほどまでとは違い、気のせいか声に怒気が籠っている。

 そしてニックはまるで楽しい気分を害されたかのようにミウを睨み付ける。

 しかしすぐにニヤリと笑う。

 

「あら、もう胸のことは良いのかしら?」

 

「なぁっ!?」

 

 ミウの顔が一瞬で赤くなる。

 ......この二人、さっきから思ってたけど相性悪いな。特にミウの方が。

 しかしニックはミウのことなんか気にしていないように続けた。

 

「つまりーーーーーー

          ーーーーーー私があなたがこの世界で生きていけるか見てあげる、ということよ」

 

「そんなの勝手だよ!」

 

 ミウがニックに言い返すが、俺の耳には入ってこなかった。

 それよりもニックの言ったことが耳に残っていた。

 この世界で生きていけるか。

 それはつまり、俺が誰かを守れるか、ということに直結するんじゃないのか?

 俺がこの先、前に進んでいけるかということに。

 ミウを見る。

 ......自分の身も守れないやつが、人の身なんか守れるわけがない。

 

「コウキ! 受けることないよこんなの!」

 

「ーーミウは下がってて」

 

「コウキ!?」

 

 ミウが叫ぶように言ってくる。

 だが今回はどうしても聞き入れられない。

 俺にだって、譲れないものはある。

 

「ふふ、子供ね」

 

「あぁ。だから、挑発にも乗るよ。自分の大切なもののために」

 

 

 

 

 ニックからのデュエル申請を受けると、俺とニックの間に60という数字が現れる。

 どうやら開始のカウントダウンのようだ。

 デュエルのルールは初撃決着モード。先に強攻撃を喰らうか、HPバーがイエローゾーン、つまり半分に達した方が敗北するルールだ

 先程までデュエルに大反対していたミウが、急に静かになったので様子を見ると、呆れた顔で俺を睨むという器用なことをしていた。

 うわぁ、やっぱり怒ってるよなぁ......

 ちなみにその『先ほど』までの会話としては。

 

 

 

「あ、あのさミウ。俺も別にその場のノリで受けた訳じゃないぞ?」

 

「挑発にも乗る、とか言ってたのに?」

 

「うぐぅ」

 

 それを言われると返す言葉もない。

 実際、今回のこの勝負、売り言葉に買い言葉というところは少しあった。

 もちろんそれだけではないが。

 ミウは項垂れている俺を見ると、一度ため息をついて今度は困ったように笑った。

 

「コウキは今回のこと、止めてもやめないんでしょ?」

 

「......あぁ」

 

 これには力強く頷く。

 

「なら、私はもう止めないよ。私はコウキの信念とか覚悟がどういうものなのか分からないけど、今回はそれがかかってること分かったしね」

 

「参りました......」

 

「うん、それでよろしい......コウキ、約束してよ? 死なないって」

 

 ミウが真っ直ぐと見据えてくる。

 ミウの言葉には重みがあった。

 デュエルだから、ということではないと思う。恐らくミウはニックの強さを感じ取っているのだろう。

 俺ですら分かるのだ。ニックは強いと。ミウが分からないわけがない。

 そしてその先には、俺の死という可能性が多大にある。

 俺だって恐い、が、そうも言っていられない。

 

「もちろん、俺は死なないよ」

 

 俺は笑って言った。

 

 

 ......そんな感じの会話があった。

 そう、死ぬ訳にはいかない。負けるわけにも。

 とは言っても、こうやって目の前に『敵』として立たれると、やはりニックの凄みのようなものが伝わってくる。

 それでも負けじと何か策を練ろうとはしているのだが...よくよく考えてみると、俺って対人戦初めてなんだよな。

 そのせいもあってどう戦えばいいのかも漠然としか考えられない。

 

「コウキ」

 

 ニックに呼ばれる。

 

「私はあなたに期待しているの。この戦いもすごく楽しみだわ。だから...あまり失望させないでね。『壊したくなってしまう』から」

 

 ゴクリと唾を飲み込む。

 ずっと気を張っていないと、逃げ出してしまいそうなほどの圧力。

 俺は震える手足を無理矢理抑えこむ。

 

「まぁ、頑張ってみるよ」

 

 そして強がり混じりにそう言った。

 そうでも言わないと本当に動けなくなりそうだったから。

 ......落ち着け。

 一度深呼吸して自分に唱える。

 カウントは残り、5秒。今まで考えたことを頭のなかで復唱する。

 4。俺は少し力みながら剣を左に引く形で、ニックは悠然と中段にと、互いの得物である片手剣を構える。

 3。ニックからの威圧感がさらに増した。

 2。ニックは確実に俺よりも強い。そんな相手に受け身なってしまえば間違いなく何も出来ずに終わる。それなら......

 1。俺は両足に力を込める。

 0。ビー! という開始の音とともに俺はニックに突進した。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 そして勢いに任せるように剣を左から右へと真横に振った。

 ニックは動じることなんて少しもなく、冷静に剣を盾のようにして俺の一撃を受け止める。

 俺はそこで鍔迫り合いには持ち込まず、バックステップで後退する。

 さっきの突進。少しでもニックが驚いたりしてくれたらそこから攻めようとも、あわよくばそのまま一撃いれて、と思ったんだけど......やっぱり無理か。

 ニックが一撃目を放ってこなかったのは......やはり俺の力を見るためだろうか? 舐めた真似を、とも言いたくなるが、実際にニックの方が強いのだから仕方がない。

 それに今の攻撃で少しもニックの剣が動かなかったことから、どうやらニックの筋力値は俺よりも上らしい。俺のステータスのなかでは最も高い値なので、それも足元にも及ばないというのはかなりショックだ。

 本当はピッタリくっついてあれやこれや試してみたいことはあるのだが、そんな筋力値で負けている相手に延々鍔迫り合いなんぞしていれば、俺の方が先にキツくなる。

 いくら微々たるダメージでも、それはニック相手には致命傷になりうるのだ。

 それほどのことが、今の一合で分かった。

 いや、分かってしまった。

 ここまで実力差があるのか......

 一瞬弱気が出てきそうになるが、すぐさま追い払う。

 それでも、攻めるしかないんだ!!

 俺はもう一度ニックに接近し、縦、横の順に切りつける。

 

「ふふっ!」

 

 しかしニックはそれも綺麗に防いでしまった。

 

「本当、ここまで強いだなんて反則だろ!?」

 

「あなたも色々考えているみたいね。なかなか面白いわ」

 

「そりゃ、どうも!!」

 

 俺はニックの足元にスライディングの要領で滑り込み、そこからニックの足を切りつける。

 今まで上半身への攻撃にばかり集中していたから反応が遅れるはずだ。

 が、ニックは軽くジャンプしてかわすと、足元を通り抜けていく俺を狙い、上から剣を叩きつけてきた。

 

「くっそ!!」

 

 俺は剣を滑り込ませて辛うじて防御する。

 そして通り抜けた後、素早く体を起こして剣を構える。

 ニックは......相も変わらず悠然と構えている。

 

「でも、私としてはあなたのソードスキルが見たいのだけれど」

 

「自分よりも格上な上に経験でも負けてるのに、わざわざ自分から隙の多い攻撃するほど物が分からない訳でもないんでね」

 

「あら、それは残念ね」

 

 三度、ニックに向かって駆け出す。

 

「なら、そろそろ私からも動いてみようかしら」

 

 言うと、ニックも俺に向かって駆け出した。

 瞬間、ニックが目の前に迫っていた。

 

「なっ!?」

 

 速い!?

 俺は攻撃のために振りかぶっていた剣を慌てて防御に回す。

 そしてニックは剣を振り抜く。『それだけ』だった。

 ガキィィィィン!!

 それだけで、俺の体は1メートルほど後ろに飛んだ。

 

「つっ! くっ......」

 

 俺は咄嗟に受け身を取って体勢を立て直し自分のHPバーを見ると、1割程削れていた。

 ーー強い。

 尋常じゃない攻撃力に、ミウやヨウト並みのスピード。

 改めて、俺なんかとは比べ物にもならないほどのプレイヤーだと痛感させられる。

 こりゃ、本当に参ったな......

 とにかく、何か手を打たないとーー

 

「考え事かしら? 意外と余裕ね」

 

 しかし、ニックがそうはさせてくれない。

 ニックは再び驚異のスピードで接近してくる。

 そして俺に迫ってくる左からの剣閃。

 俺は受け流すのは無理と判断し、逆に体を一歩前に出してニックの攻撃を剣で受け止めた。

 

「......なるほど」

 

 ニックが感心するように笑う。

 今の攻撃、俺は一歩前に出ることでトップスピードに乗る前のニックの剣閃と打ち合うようにし、攻撃を受け止めることができたのだ

 なのに......それをしてなおこの威力。

 先ほどニックの攻撃を真正面から受け止めたとき程ではないが、見て分かるほどに俺のHPバーは減少していた。

 いや、それはいい。直撃に比べればぜんぜんマシだ。

 それよりも今のこのニックとの密着状態は不味い。

 俺はもう一度バックステップで距離を取ろうとするが、

 

「どこまでついてこられるかしら?」

 

 ニックは身がすくむような笑みを浮かべつつ、俺が下がったぶんだけ前に出て追随してくる。

 すると先ほどまでの強力だが単調な攻撃とはうって変わり、高速で複雑な剣閃で攻めてきた。

 くそっ! 速すぎる!!

 右から左から上から下から。次々と剣が襲ってくる。

 俺は身を縮めつつ、最小限の動きと防御で直撃だけは避けるように受けているが、このままでは間違いなく押し負けるだろう。

 そして俺のHPバーはみるみるうちに減っていき、遂に4分の1減った。

 迷ってたらやられる!

 俺は剣を防御から外し、体の左側に振り絞った。

 

「はぁぁぁああ!!」

 

 俺は剣を一気に右斜め上に全力で振り抜いた。

 そしてそれが上手くニックの剣に当たり、パリィに成功する。

 もちろん、剣を防御から外したとき2、3発攻撃をもらったが、直撃コースではなかったお陰かまだ負けになってはいない。

 俺はニックの攻撃の嵐が収まった隙に後方に下がり息をつく。

 このままじゃダメだ。何か別のことをしないと......

 でもどうする? ソードスキルは間違いなくカウンターを取られる。かと言って、このままいってもただじり貧なだけだ。

 ......ソードスキル?

 

「......やってみるか」

 

 上手くいくかどうかはともかく、またニックのペースに巻き込まれたら今度こそ負ける。

 怖い、とか言ってる場合じゃないよな。

 俺は思い付くとすぐに、上空に向かって《ソニックリープ》を放った。

 あのときだって出来たんだ、今だってできる......はず。キリトの言っていた『スイッチが入った状態』というのにはなっていないけど。

 

「来たわね!」

 

 ニックが待ち望んでいたように歓喜の声を上げる。

 そして俺が発動した《ソニックリープ》の効果が切れ、次には落下が始まる。

 目標はもちろん、ニックの頭上。

 それに対してニックは空中にいる俺に向かって構える。

 前回のボス戦ではここで《バーチカル》を使った。

 だが、今回は違う。

 ソードスキルを使うとカウンターを取られるのなら、最大の通常攻撃をするまでだ!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ニックに向かって全力で剣を振り下ろす。

 隠しアビリティを使いまくったこの攻撃、いくらニックでもスキルなしじゃ防げないはず!

 スキルを使ってくれば上手く外してカウンターを狙う!!

 ニックが正面から受け止めるのであれば、攻撃が入って俺の勝ちだ!!

 そして、ニックは、

 

「ふっ!!」

 

 俺の剣に当てるように自分の剣を振り上げた。

 スキルはーー使われていない。

 一瞬の拮抗。

 ーーえ?

 気づいたときには、地面に落ちる寸前だった。

 っ! やばい!

 ギリギリのところで受け身をとるのが間に合ったが、ダメージディレイのせいで少しの間動けそうにない。

 問題はそんなステータスだけではない。

 なにより、意思が折れかけていた。

 ......強すぎる。

 今の攻撃をソードスキルなしで弾いた上に、攻撃事態を俺を弾き飛ばして防ぐだなんて。

 HPバーを見ると、半分(負け)まであと僅かの状態だった。辛うじて、ギリギリのところで踏みとどまっている状態。

 ここまで違うものなのか。トッププレイヤーとの実力差。

 ......もう、いいんじゃないのか? やれるだけのことはやった。

 もう、何も思い付かない。

 それに、ここで諦めても誰かに責められる訳じゃない。

 俺には、この世界で生きていく力はーー

 

「立ちなさい、コウキ」

 

 ニックの声が少し離れた場所から聞こえた。

 その声にはどこか咎めるような雰囲気がある。

 なんで......

 

「あなたはこの程度のものなの?」

 

 そうだよ、俺は所詮この程度だ。

 ミウとしばらく一緒にいて強くなったと思ったが、ぜんぜんそんなことはなかった。

 俺は結局、『あのとき』と同じ無力なまま......

 

 

 

「あなたの覚悟は、その程度のものなの?」

 

 

 

 ーーっ!

 ......覚悟。

 

「......違う」

 

「そう、なら立ちなさい。その言葉がただの見栄でないのなら、もう二度とその覚悟から逃げないよう、誓って立ちなさい」

 

 ニックの言葉を聞いたあと、黙ってこの戦いを見続けているミウを横目で見る。

 ......ははっ、さすが。目も逸らさずにこっち見てるよ。

 口を真っ直ぐに閉めているところを見ると結構限界は近いみたいだけど。

 でも、そんなミウを見たらすんなりと決められた。

 ーーもう、絶対に諦めない。

 そうだ、何を勝手に諦めているんだ。責める人がいない? 何をバカな。俺自身が責めるに決まっている。

 両手両足に力を込める。

 そして腕で体を起こす。

 俺はーー

 

 

「......俺は、守りたいんだ」

 

 

 膝を曲げ、地を踏む。

 

 

「自分が守りたいと思ったものを」

 

 

 足に力をいれ、立ち上がる。

 

 

「自分の大切なものを」

 

 

 右手に持っている剣を構える。

 

 

 

「もう二度と! 手放さないために!! もう、大切な人の涙を見ないために!!」

 

 

 

 俺はもう、伸ばせば届いていたはずの手を見捨てるなんてことは、ごめんだ。

 綺麗事かもしれない。詭弁かもしれない。わがままかもしれない。

 それでも、これが俺のーー『覚悟』だ。

 ニックは俺の宣言を目を瞑って聞いていた。まるで自分のなかに刻み込むように。

 そして目を開け、こちらを見据えてくる。

 

「......なら、それを証明してみなさい」

 

 言って、ニックも剣を構える。

 ......さて。

 かっこよく啖呵切ったわけですが、正直なところまったく打つ手がありません。

 仕方ないじゃん!? 俺はどこぞの主人公じゃないんだよ! 都合のいい逆転の閃きとか、そんな特殊能力はないんだよ!!

 いっそのこと、特攻でもするか?

 俺が必死に脳を回転させていると、

 

「ふっ!!」

 

 ニックがこちらに接近してきた。

 くそっ! 先手取られた!

 あれほどニックのペースに巻き込まれたら不味いって思っていたのに! しかもこのギリギリの状況で!

 とにかく、受け止めーー

 

「えっ?」

 

 かわせる?

 ニックのすれ違い様の攻撃を、ギリギリだがかわせたことに俺の頭が疑問符だらけになる。

 さっきまではかわすどころか、受け止めるのも辛かったのに......

 俺に攻撃をかわされ、通りすぎていったニックを見る。

 ーーしまった!!

 ニックは通りすぎていった後、すぐにスキルモーションに入っていた。

 そしてニックの攻撃を辛うじてかわした今の俺は体勢が悪い。

 

「これはどうするの?」

 

 ニックは突進系攻撃スキル《ブレイヴチャージ》を発動させた。

 このスキルは《ソニックリープ》の発展系の突進スキルだ。《ソニックリープ》に比べ、射程距離が長く、威力も高い。

 ニックが剣を引き絞り、恐ろしいほどのスピードで迫ってくる。

 受け止めるのは論外、体勢が悪くてかわすのも無理だ。

 俺は咄嗟に無理矢理地面を蹴って、体を横にずらした。

 これなら体勢はさらに悪くなる代わりに、スキルの直撃コースからは外れることができる。

 だがそれでもまだ直撃しないというだけで、掠りはしてしまう。今の俺ではそれでも負けてしまうだろう。

 迫り来るニックの剣。

 それに俺は滑って上手く逸れるように自分の剣を添えた。

 キィィィィン!

 普段の剣がぶつかり合う時よりも甲高い音がなる。

 剣と剣が擦れ合う音だ。

 

「ぐっ!」

 

 無理な体勢で受け流したせいで体が地面に叩きつけられる。

 ニックはスキルの動きに沿い、再び俺の脇を通りすぎていった。

 HPは!?

 自分のHPバーを見ると、僅かだがまだ残っていた。

 あと二回ほど剣を打ち合うだけで負けになりそうだが。

 ていうか今の攻撃。まともに食らっていたら俺HPバー全損していたんじゃ......

 そんなことを想像するとゾッとする。

 でも、その甲斐はあった。お陰で『見れた』。

 ニックはスキルディレイで僅かな時間ではあるが動けない。

 といっても、今ニックに攻撃してもディレイが切れて反撃を受け負けるだけだ。

 それでも、ワンアクション分の時間は稼げた。

 これがラストチャンスだ。

 俺は素早く立ち上がり、再び上空に向かって《ソニックリープ》を放つ。

 そして同じようにニックの上空まで移動し、落下を始める。

 

「見せてもらうわよ、あなたの覚悟を!」

 

 ニックも先ほどと同じように剣を構える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 体が落下していき、ニックが射程距離に入った瞬間、剣を振り下ろす。

 ニックも俺が射程距離に入った瞬間、剣を振り上げる。

 一瞬の拮抗。

 結果は......先ほどと同じ。

 俺の体は呆気なく弾き飛ばされた。

 弾き飛ばされる瞬間、ニックの俺を咎めるような顔が見えた気がする。

 結局あなたは、何も変わらないのか、そんな顔。

 でも、

 

「まだだぁぁぁぁあああ!!」

 

 背中から落ちる体を宙で捻り、足から着地する。

 って、あぶなぁ!? 今の着地できてなかったらそのまま負けてた!!

 ニックは今、剣を振り上げて俺を弾き飛ばした。

 俺も弾き飛ばされはしたが、ニックだってあの攻撃は片手間で弾けはしない。全力かそれに近い力で俺を弾いたはずだ。

 つまり、完全に剣を振り来た状態。しかも上空に向かって。

 これが、俺が死力を尽くして作った最初で最後のチャンスだ!!

 俺はスキルモーションに入る。使用するスキルはもちろん、今しがたニックに見せてもらった《ブレイヴチャージ》だ。

 このスキルの成功率、実はまだ3割程度なのだが、ニックという最高の手本を見せてもらったのだ。失敗する気はしない!!

 それを見たニックの顔が再び歓喜の色に染まった。

 

「ふふっ! やっぱりあなたは最高よ!!」

 

 俺のスキルが発動、ニックは剣を戻す。

 間に合うか!?

 ニックに高速で接近する。

 ガキィィィィン!!

 剣と剣がぶつかり合う。

 ニックの防御の方が一瞬早かった。

 これで剣の打ち合いは二度目。俺のHPがイエローゾーンに近づいていく。

 俺のHPが減りきるよりも先にニックの防御を貫く!!

 ギギギギっ!!! 拮抗は続く。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

「くっ......」

 

 ニックの顔がこの戦いで初めて苦悶に歪む。

 それもそのはず、こちらはスキル、ニックは素の状態で打ち合っているのだから。

 あと、もう一息......貫けぇぇぇぇ!!!

 カァァァァァン!!

 一本の剣が宙を舞った。

 俺の手元には......ある。

 舞ったのはニックの剣。俺の攻撃がニックの剣を弾いたのだ。

 だが、さすがはニック。剣を弾かれた反動を利用して体を仰け反らせ、俺の攻撃をかわしたのだ。

 俺はニックの脇を通りすぎる。

 俺はスキルディレイに囚われるだろう。

 だが、ニックは今武器を持っていない。新たな武器をストレージから出すにしても、剣を拾いに行くにしても、俺のスキルディレイが解けて攻撃する方が速い!!

 いける!!

 

「面白かったわ、コウキ」

 

 ニックが微笑みながら言ってくる。

 なにを......?

 そう思いながらも、ニックに向かって駆け出そうとした瞬間、

 ガンッ!!

 そんな音と何かの衝撃と共に俺は意識を失った。

 

 

 

 

「起きた?」

 

 目を覚ますとミウがしゃがみこんで俺の顔を覗いていた。

 気のせいか、目が赤い気がする。

 ......って、ちょっと待って。『覗きこんで』? 俺いつの間に倒れていたんだ?

 少し頭のなかを整理し、今の状況を確認する。

 

「ゲームの中でも気絶するんだな」

 

「開口一番がそれ......?」

 

 ミウが苦笑いする。

 だって仕方ないじゃないか。色々考えたけどそれぐらいしか分からなかったんだから。

 俺は起き上がり回りを見ると、ニックの姿がもうないことに気づいた。

 

「ニックは?」

 

「コウキが気絶してる間にどっか行った」

 

 ありゃりゃ、一回ぐらいお礼言っておきたかったのにな。

 ......殺されかけてお礼、って言うのもおかしな話な気もするけど。

 

「聞かないの?」

 

 ミウが主語もなく唐突に聞いてきた。

 何が? って、そりゃ勝敗のことか。

 

「まぁ、俺が今こうしてるってことは負けたんでしょ?」

 

 ミウが俺の言葉に頷く。

 うーん、やっぱりか。良いところまで行ったと思うんだけどなぁ。

 分かってはいたが、勝ちがもう目の前まできていたぶん、落胆も大きい。

 あ、でも。

 

「俺、どうやって負けたの?」

 

 それだけはどうやっても思い出せないし、見当もつかない。

 あのときニックは武器を持ってなかったし、そもそも俺はニックをずっと見ていたがなんの素振りもしていなかったと思う。

 するとミウは俺から視線をずらした。

 

「弾いた剣が頭に降ってきて」

 

 ......いつもならここで、俺バカだーーーーーー!! 恥ずかしいーーーーー!! と小一時間ほど転び回るところなんだけど。

 今回に限っては、さすがはニック、かな。

 たぶん、剣を俺に弾かれたときからどこに剣を落とすか決めていたのだろう。

 なるほど、だからあのとき終わりを宣言したのか。完全に俺の敗けだ。

 等と考えていると、急にミウが顔をしかめる。

 

「......ニックさんからの伝言」

 

 うわぁ、嫌そうな顔。

 そんなにニックのこと嫌いなのかな?

 俺は心のなかで苦笑いする。

 

「ん、なんて?」

 

「突進系のスキルは軌道が分かりやすいし隙が大きいから注意しなさい、だって」

 

 うぐっ、痛いところ突いてくるなぁ......

 確かにニックと衝突するあの瞬間、連撃系のスキルを使っていれば結果は違ったかもしれない。

 でも、他のスキルだとそもそも攻撃が間に合わずニックに防御されるだろうし......作戦自体がダメってことかぁ。

 

「それと......」

 

 そこでミウは言葉を一度切る。

 しかしそのまま続きを話そうとはしない。

 

「うん? どうした?」

 

 ミウは目を細め、まるで子供が大人に嫌なことを我慢させられているような顔になる。

 

「あなたのその愚直で無謀だけど綺麗な覚悟、守れるといいわね、だってさ」

 

 ーーっ。

 ......とりあえず、合格ってことかな?

 はぁ、思わず安堵の息が出る。

 良かった......

 この勝負、別にニックの合格が出ないでもこの世界でも生きてはいけただろう。

 だが、それではダメなのだ。ダメだということが、この戦いで嫌というほど分かった。

 覚悟が足りなかったのだ。誰かを守るということに対しても、意思を貫くということに対しても。

 今日ニックと戦わなければ、俺はいつか間違いなく折れていた。

 

「ミウも心配かけて、ごめん」

 

「ふぇっ!? う、ん......」

 

 俺は先ほどから不機嫌そうにしているミウの頭を撫でる。

 それに対してミウは驚いたあと、どこか安心したように頬を緩めた。

 普段なら絶対に頭を撫でるなんてことはしないが、今はなんとなくそうしたかった。

 俺が折れかけていたとき、ミウがいたからこそ俺はもう一度立ち上がれたのだ。

 俺はミウのその顔を見て、もう一度決意する。

 もう、絶対に諦めない。守ってみせる。

 




はい、ずっと言っていた急展開の回でした!
え、別に急展開じゃない? それは....言わないでください。私の技量不足です....
本当、何度目か分かりませんが、他の作者さんはなんであんなに綺麗に文章を纏められるのでしょう?
私なんかこれで精一杯ですよ、本当。
練習あるのみということは分かっていますが、どうにか秘密のコツのようなものを見つけられないものか...

さて、今回は初の対人戦です!
実際のところコウキくんは策略家タイプなので対人戦は非常に書きやすいです!
そしてコウキくんの覚悟。この話は私個人としてはかなり重要なターニングポイントでしたね。
この挫折からも立ち上がれたコウキくんは、今後どのように成長していくのか!?
そしてミウさんの心の動きは!?
なんて盛り上げつつ次回へ続きます!! お楽しみに!!
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