力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

14 / 81
AS1話目です!
....急にASとか言っても分かりませんよね。頭の言い方ならピンと来るかもしれませんが、少なくとも私は来ません。
とりあえずアサルトシュ○ウドではないです。
アナザーストーリーの頭文字ですね。
これは一応意味ある、かつ、伏線回収したり引いたりな外伝となっています。楽しんでもらえれば嬉しいです。


それではどうぞ!


AS1話目 少年の名前は

 それは、1層ボス攻略が成功する1ヶ月ほど前の話。

 

 

 

「はむ」

 

 アインクラッド1層、第2の街《トロイ》。

 この街は全面石造りの《はじまりの街》とはうってかわり、建物の建築材料には木材の方が多く使われていて、どこか暖かみのある街だ。

 その代わりにこの街はそれほどの規模はなく、そのぶん人が少ないので賑やかさ、という点に置いては《はじまりの街》の方が上だ。

 それはつまり、この街は賑わっていない、ということではなく、この街の場合は落ち着いている、という表現の方が正しいのだろう。

 回りを見ても人は視界にはそれほど入らないが、その代わりに緑が目に入るし、耳を澄ませば小鳥のさえずりも聞こえてきそうだ。

 

(...まぁ、僕は人が多い方が好みだけど、これはこれでありだよね~)

 

 少年は午後の心地い日を体全体で感じつつ街を歩く。

 先ほどから食べているのはこの街特産の《レッシュ》という食べ物だ。

 《レッシュ》はその見た目は卵の生地で包まれたクレープそのものだが、実際に噛みついてみると中には果物などの具材の代わりにミンチにした肉が詰め込まれている。

 しかしクリームはそのままなので、甘いクリームのなかに炒めたミンチがぶちこまれるという、軽いゲテモノ料理になっているーーーー某甘い物好きの女剣士は、クーデターだ! と言って愕然としていたーーーーが、食べてみるとミンチの塩辛さとクリームの甘さが絶妙で、ミンチが良い食感を出しているのでそこそこいける...と少年は思っている。

 今の感想が世間一般とはかけ離れていることを少年は自覚していないが。

 少年は冬の午後という殺人睡魔とも言えそうな日光と、ほどよい甘さが口のなかに広がる、これはもう寝るしかないな! という状況に、まぶたを重く感じていると、ふと、店のガラスに映った見慣れないものに視線が吸い寄せられた。

 

(う~ん。やっぱり何度見ても見慣れないなぁ...)

 

 少年が苦笑いしつつ見たのは、ガラスに映った自分の姿だった。

 アバターの姿は現実と同じものに始まりの日、この世界の創造主でもある茅場晶彦に変えられているのだから、見慣れない姿にはならないはずだが、この少年は違った。

 実際、体も顔もどこを見てもおかしな箇所は見当たらない。

 顔は少しつり目ぎみの整った顔立ち。

 体を見ても、胸当てや小さなアーマーと一般的な防具、武器は背中に背負った薙刀と少々珍しい武器だったが、これも本人は気にしてはいない。

 身長だって少年の年、14歳の平均身長程度はある。

 特段変わった箇所はなかった...髪以外は。

 その少年は、髪の色が『藍色』だったのだ。

 もちろん、少年はリアルでも藍色の髪をしているような不良中学生ではない。

 この世界に順応してから数日後。少年が何か隠し要素はないかとウィンドウのなかを手当たり次第探っていると、髪色の変更ができることを知ったのだ。

 これは少し面白い、と思い、少年は髪を今の藍色にしてみたのだが、何か操作を誤ってしまったらしく元の髪色に戻せなくなってしまった。

 そして今に至るわけだが...

 

(顔や体が元と同じな分だけ、髪だけ違うと恐ろしく違和感があるんだよね.....)

 

 しかも髪の長さも現実と同じ額に被るほどのボサボサヘアー。本当に髪色だけ違うので違和感が半端ない。

 まぁ、そのうち慣れるか、と少年は背にしょった薙刀を担ぎ直し、暴力的なまでの眠気をどうにかするべくフィールドに向かった。

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...」

 

 フードを被った少女は追っ手に追われていた。

 その少女は、服装の節々にある意匠が込められていた。

 顔に描かれた数本の曲線に、着ているフードも正に灰色。それは足防具も同じだ。

 そして身に付けている武器は『歯』を模していると思われるクロウ。

 その少女はどこから見ても『鼠』だった。

 正しく言えば傍目から見れば、か。

 

 

 

 この少女は、本物の『鼠』ではない。

 

 

 

 以前本物の『鼠』が言っていた偽者が自分を騙っているという事件。その犯人こそこの少女だ。

 確かに、アルゴ本人と比べると所々相違点はあり、少女の姿はアルゴの知人が見たりしない限りは、一目で鼠だと思う格好であった。

 少女は背後にある木に寄りかかり、乱れきっている呼吸を整える。

 

(たはは...あんな悪いことして、いつかしっぺ返しはくるだろうとは思ってたけど...ちょ~っと早すぎる上にキツすぎない?)

 

 回りを見回せば、辺り一面緑色。森のなかだ。

 逃げる、隠れる、ということではかなり向いている場所ではあるが、この世界においてはその限りではない。

 この世界では圏内では生命の安全がほぼ100%保証されているが、圏外ではプレイヤーなんて簡単に命を落とすのだ。

 しかも少女自身、戦闘はあまり得意ではない。

 いくらなんでも追っ手に見つかれば即首チョンパ、なんてことにはならないと少女も思うが、それでもやはり勢い余ってということもあるので死の危険は付きまとう。

 ならば圏内に隠れ潜めば良いのでは? という話にもなるが、それはそれで街中では追っ手たちに囲まれやすいので得策とは言えない。

 体に負うダメージはなくとも心に負うダメージは圏内でもあるのだ。

 ぶっちゃけこの少女は大人数の男に囲まれて平然としていられるほど図太い神経は持ち合わせていない。某甘い物好き女剣士が異常なだけだ。

 

(でも、本人とかあの...なんとなく黒色な感じの人も嘘はついてない感じだったんだけどな...)

 

 少女が考えているのは黒色な感じの人と鼠本人に成敗されたときのことだ。

 この偽者の少女もまたβテスターだ。

 アルゴのことを知ったのはその時。βテストのときは「ほー、そんなゲームの仕方もあるのねー」程度の認識だったが、それが変わったのはあの始まりの日だ。

 少女は自分が弱いことを知っていた。このままではフィールドに出ても《はじまりの街》に留まっても、肉体的、もしくは精神的に死んでしまうと。

 そんなときに思い出したのが、件の情報屋であるアルゴだった。

 あの方法なら、自分も生き残れるのではないか?

 彼女自身もβテスター。ビギナーたちよりはよっぽど情報を持っているし、そもそも本当の情報である必要はないのだ。

 その情報が合っていようがいまいが、生きるための金を入手できれば何も問題はない。

 最悪の場合は本物の鼠に皺寄せがいくようにすればいい。

 その結果、偽者の鼠が誕生したわけだ。

 もちろん、そんなもの上手くはいかなかった。

 始めて1週間とちょっとで本物に嗅ぎ付けられた。さすがは鼠だ。

 そしてお供の黒い人と共に本物に成敗された。

 これは《黒鉄宮》送りか、とも覚悟したが、なぜか本物たちは二度としないという条件付きで見逃してくれた。

 しかも少女のことは公には晒さないという大盤振る舞いで。

 これは少女のことがバレれば冗談抜きで命の危険になることを危惧した本人たちの気配りだった、ということは今になって考えれば少女もわかる。

 しかし悲しいかな。人の口に戸は立てられなかった。

 何がどうなって広まったのかは分からないが、現状として少女は何人かのプレイヤーに狙われている状況だった。

 

「いたぞ!!」

 

(あぁ、もうっ!)

 

 少女は声がした方向とは逆の方向に駆け出す。

 相手も攻略に忙しいのだから、ほとぼりが冷めるまでどこかに隠れ潜んでいればこちらの勝ちだ、というのが少女の考え。

 今いるのは森のなか。確かに追っ手を撒きやすい地形ではある。

 そういう意味ではとにかく逃げる、というのは理にかなっている。

 だが、こういった地形だからこそ気をつけなけばならない要因が一つある。

 それは、

 

「おー! ナイスタイミング!!」

 

(なっ!? いつの間にそんなところに......!)

 

 それは相手の待ち伏せ。

 少女の目の前には剣を持った男が道を遮るように立ち塞がっている。

 しかも後方からはもう一人男が迫ってきている。

 俗にいう絶体絶命というやつだった。

 少女は回りを見る。

 

(......塞がれた方向はまだ二つ。逃げようと思えばまだまだ逃げる道そのものはある。でも......)

 

 少女が懸念しているのは彼我の能力差だった。

 この世界が始まって約半月。さすがにまだ5も10もレベル差が開いているとは思わないが、相手は二人かそれ以上。

 そんな人数の相手のほとんどが少女よりもレベルが上。そんな状況で挟まれてしまえばほとんどの行動は封じられてしまう。

 最悪mobがポップしてくれればそのどさくさに紛れて逃げるという手もあったが、この森は昼間はmobのポップ率が異常なほど低い。

 戦うのは論外。逃げの一手も潰された。運にも見放された。

 

(ははっ、本当、悪いことってできないなぁ......諦めることもだけど)

 

 正直、少女はたかをくくっていた。

 最終的にプレイヤーたちに捕まっても、少し痛い目に遭うぐらい、もしくは想像通り《黒鉄宮》送りにされるか。

 だが、今自分を追ってきたプレイヤーと向かい合って分かってしまった。

 これは、一つ間違えば殺される、と。

 この世界ではプレイヤーがプレイヤーを殺すことーーPKもありだ。

 こんなことになってしまったのは自業自得と少女自身も思っているし、こんな世界でいつまでも生き残れるとも思ってはいない。

 

(でも、何もせずにやられてたまるか)

 

 迷っていたら成功率はどんどん下がる。

 いつ目の前の男が襲ってくるとも限らない。

 それから少女の動きは速かった。

 少女は小さく息を吐くと、そこからノーモーションで右手に装備していたクロウで目の前の男を攻撃したのだ。

 今まで逃げ回ることしかしていなかった少女の、突然の反撃に男も反応しきれない。

 少女も攻撃はしたが、クロウの爪を当てはしなかった。しかし狙った部位は顔。つまりは目眩ましが目的だった。

 

(一瞬でも隙ができれば、また逃げ隠れできる!)

 

 攻撃直後、少女は再び走り出す。

 後ろから追ってきていたプレイヤーとも距離を離せた。

 少々リスクは高かったが上手くいったようだ。あとは逃げるだけ。

 少女がそう考えた瞬間だった。

 ズドン!! 背中に凄まじい衝撃が走った。

 あまりの衝撃に少女の口からは空気が漏れ、少女は冗談抜きで体が折れ曲がったかと思った。

 そしてそれはあながち間違ってもいない。

 少女は倒れることはなかったので、衝撃の詳細は気にせずに走りだそうとするが、体が思うように動かない。

 足を踏み込んでいるはずなのに前には進めないのだ。

 

(なにが......!!!?)

 

 足に何かあったのか? 少女は視線を下に向けると

 

 

 少女の腹から剣が飛び出していた。

 

 

「う、あ、あああぁぁぁあぁぁあああ!?」

 

 少女は錯乱する。

 それもそのはずだ。いくらPKありの剣が統べる世界と言えど、現実の自分と同じ姿をした体からあり得ないものが飛び出していることへの異常感。

 そして刺され続けていることでどんどん減っていく自分のHPへの恐怖感。

 それらがごちゃ混ぜになり、少女は何をしていいのかも分からなくなっていた。

 落ち着かなければ、という意識はあるのにそんな意識など簡単に押し流していく混乱。

 今、少女に突き刺さっているのは少女が攻撃した男の剣だ。

 少女が逃げ出した時、あまりにも頭に血が昇り、今すぐぶっとばしてしまいたいという衝動に駆られた結果、発動させた《レイジスパイク》という単発突進系スキル。それが少女に突き刺さったのだ。

 男の方も頭に血が昇っているのと、あまりの興奮によって思考が正常に機能していない。そしてその間にもどんどん減っていく少女のHP。

 そんな状況で、先に活動を再開したのは少女だった。

 あまりの混乱によって体を無茶苦茶に動かした結果、運よく剣が抜けた。

 そこからはもう訳もわからずに走り続けた。

 もしかしたら男の仲間がどこかに潜んでいるかも、とか、また後ろから剣で刺されるかも、とか、そもそも隠れた方が逃げるよりも効率がいいのではないか、とか。

 多くのことが脳裏をよぎったが。

 

「待てやぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「っっ!!!!??」

 

 後ろから再び迫ってくる男の声が少女の思考を纏まらせない。

 刺されたことが少女の思考のなかで大きく幅を効かせているせいで他のことが考えられないのだ。

 走る、走る、走る。それでも後ろから迫ってくる声は離れないどころか徐々に近づいてきている気がする。

 そして、

 

「ははぁ!!」

 

「あ、かっ!!」

 

 再び背中から切りつけられた。

 そして後ろからの急な衝撃に今度は足をひっかけてしまう。

 今倒れてしまったら、そんなこと考えるよりも明らかだった。それは混乱している少女も分かりきっていた。

 それでも、今からでは何をどうしても体勢をたて直せない。

 少女は走っていた勢いそのままに、前に跳ぶように倒れ込んでしまった。

 

 

 だが、起こった事象はそれだけではなかった。

 少女はこのとき混乱していたせいもあり、先ほどにもあったことを完全に失念していたのだ。

 そう、それは、『第3者』の介入。

 

 

 

 

 

 

「ーーえっ?」

 

 眠気覚ましに森に入っていた藍髪の少年は間抜けな声を漏らした。

 しかしそれも仕方がない。

 森でのんびりと歩いていたらーーーー急に女の子(?)が飛びつきの要領で自分に向かって吹っ飛んできたのだから。

 

「え、ちょっ......」

 

 一瞬思考が停止してしまったのが敗因。

 受け止めようとしたが間に合わず、少年は突然の飛来少女(?)に吹っ飛ばされる形で巻き込まれ地面に倒れ込んだ。

 ちなみに(?)はフードのせいで断定できないからである。

 

「いったたた......これ、リアルなら間違いなく骨折してたよ......」

 

 少年は軽く頭を振りつつ上半身を起こす。

 本当なら立ち上がりたいのだが、生憎下半身の方は少女が乗っかっている(エロい意味ではなく)のでそういうわけにはいかない。

 とりあえず吹っ飛んできた理由を訪ねるためにも少女を起こそう背中を何度か叩いてみるが、少女は震えるだけで何も反応はない。(体格からやはり女の子のようだ)

 そこで少年は二つの違和感に気がついた。

 一つ目は少女のHP。少し戦いました、というには無理があるほどに損傷している。

 二つ目は背中を叩いたときの感触。一部分が妙に凹んでいると思い、背中を見てみると、何かに刺されたのか赤いエフェクトが見えた。それだけではない、何かに切られたような跡もだ。

 

(......この森には『刃』をもつmobはカマキリみたいな奴がいるけど......でもあいつの鎌じゃこんな風に刺したりはできないはず)

 

 切る、刺す。この二つの攻撃を喰らう可能性。この森で。

 そんなもの、一つしか可能性はない。

 少女を見れば、未だに我を忘れたかのように震え続けてる。少年のことも恐怖対象なのか、離れようとはしないが、顔を上げようともしない。

 いや、もしかすればあまりの恐怖で足がすくんで少年からも逃げられないのかもしれない。

 少年は僅かにだが、目を細めた。

 そしてもう一度少女の背中を叩く。

 やはりそれになにも反応はないが、少年はそれでも言葉を紡いだ。

 

「大丈夫。僕が君を助けるから。僕が君を守るから」

 

「......っ!?」

 

 少女は僅かに肩を震わせた。自分の声は届いていることに少年は少し安堵する。

 だがこれ以上何か言っても少女の負担にしかならないと判断し、少年は少女を持ち上げて自分の上からどかすと、少女の回復用に止血結晶を使い、素早く立ち上がった。

 少年は耳を澄ます。

 少女が受けた攻撃は、『出血』のデバフが付加されていた。しかもそれがまだ切れていないということはまだ受けてから間もない、ということだ。

 その攻撃を少女に与えたのは、間違いなく他プレイヤーだ。

 そしてあの少女の怯えよう、あれはすでに終わったことへの恐怖には思えない。今なお危険が迫っているということではないか?

 

(......いた)

 

 少女が吹っ飛んできた方向とは少しずれた方向から迫ってくる足音が......二つ。

 その方向に体を向けるとすぐに二人の男プレイヤーが木と木の間から出てきた。

 一人は狂気じみている片手剣を持った男、カーソルがオレンジなのはなぜだろう? もう一人は妙に長髪の男、武器は同じく片手剣。

 ギリッ、と少年の口の中から音が漏れる。

 

「あぁ!? なんだぁ、お前も偽者の仲間ぁ!?」

 

「......いや、違うよ。僕はここを通りがかっただけ」

 

「ならそこどけよ。俺らが用があるのはそこの女だからよ」

 

「そうなんだ。ところでこの子はなんでこんなにボロボロなの? やったのお兄さんたち?」

 

「しつけーな!! だったらなんだってんだよ!! そいつは偽の情報を俺たちに売り付けやがったんだよ!! そのせいで俺たちは金は取られるわ、死にかけるわ!!」

 

「俺たちがそいつをどうしようともお前には関係ないだろーが、おら、どけよ!」

 

 少年は二人を見据える。

 もしかすれば何かの勘違い、もしくは話し合いでどうにかなるのではないのかと考えたりもしたが、少年は平和的解決を完全に諦めた。

 少年は、自分の後ろにいる少女が何をしたのかもどういう人物なのかも知らない。知っていることと言えば今男たちが言ったことだけだ。

 だが、それでも少年はこう思ったのだ。

 ーーこの子が、ここまでひどい目に合わなければならないような人物なのかと。

 確かに今男たちが言ったことがすべて本当ならそれは反省すべき点なのだろう。

 ならば『反省』でいいではないか。殺す寸前まで傷つける必要はないはずだ。

 少年は、強い怒りを感じていた。

 だから、少年は真っ直ぐと言い放つ。

 

「どかない」

 

「......なんだと?」

 

「僕はどかないし、あんたらにこの子を渡すつもりもない、そう言ったんだよ」

 

「あぁ、くそ!! うざってぇ!! じゃあまずお前から死ねや!!」

 

 狂気の男が剣を振り上げて少年に襲いかかる。遅れてもう一人の男も。

 それに対して少年がしたのは、ただ背に背負っている薙刀を握り、地面に向かって振った、それだけだ。

 それだけで、今襲いかかろうとしていた二人は足を止めた。

 いや、止めざるを得なかったのだ。少年の攻撃範囲がその攻撃によって分かったから。

 片手剣の全長は長いものでも1メートル前後。それに対して薙刀は2メートル近い。

 単純に考えて少年の攻撃範囲は二人と比べて倍近く違うのだ。

 そして今の攻撃。これは『これ以上近づけば容赦しない』という少年の警告でもある。

 ......だが、残念なことに、今のこの二人はそれで止まるほど己の保身は考えていなかった。

 

「俺は右から攻める、お前は反対から攻めろ」

 

「あぁ!!」

 

(やっぱり、そうくるよね......)

 

 少年を中心として長髪の男が右側、狂気の男が左側に展開する。

 普通に考えて、数で勝っているのなら同じ方向から攻撃をしかけるよりも別々で攻撃した方が当たりやすい。

 もちろん誤爆の危険はあるが、男たちの武器は少年のような長くはない。当たる心配はほとんどしなくていいだろう。

 そして、男たち二人は同時に動いた。

 片方に対応すればもう片方がどうしても対応しきれなくなる。

 そんな中、少年は長髪の男の迎撃を選んだ。

 少年は薙刀を振り回し、長髪の男に当てにいく。それを長髪の男は一瞬驚きつつも剣で弾きにかかるーーが、薙刀が触れた瞬間長髪の男の体が軽く飛んだ。

 別に少年の筋力値がバケモノじみているわけではない。薙刀の長さを遠心力で生かした結果だ。

 考えてみてほしい。ボウリングの玉を持って殴るのと、ハンマー投げのハンマーを振って殴られるの。

 当然ハンマーで殴られた方が衝撃は強い。それが今の結果だ。

 だが、その結果にはもちろんもう一つ付いてくるものがある。

 

「ははぁ!! こっちがおろそかになってんぜぇ!!」

 

 狂気の男が自分の射程距離まで少年の背後に接近する。

 その距離は男にとっては絶好の距離であり、少年にとっては最悪の距離だ。

 薙刀のような全長が大きい武器の弱点。近接戦になったら武器そのものが振れず、邪魔になるのだ。

 要は小回りが効かない。

 だからこそ、懐に潜られたらそれだけで圧倒的に不利になる。

 男は剣を引き絞るとそのまま突いてくる。振るのを嫌ったのはできる限り動きを小さくしたかったからだろう。

 少年は薙刀を振ったばかりで薙刀は防御には回せない。

 だが、かわすのは別だ。

 少年は膝を落とすことで上半身を狙ってきた男の刺突をかわす。

 男は笑いつつ、すぐさま剣を引き戻し大上段から少年に切りかかる。

 一度攻撃をかわしてもこの距離が男の距離であることにかわりはない。

 男の剣が少年を切りつける、その寸前。

 

「これはそこの子の分」

 

「ごっ!? ぱ!!」

 

 男が奇妙な声を漏らす。

 男が視線を下に向けると、薙刀の柄の先端ーー石突きが腹に食い込んでいた。

 少年が行ったのは、単純なこと。学生が掃除の時間にでもやる、ほうきで突くというようなことを後ろに向かって行っただけ。

 たったそれだけでも、この世界でステータスを上げていればバカにならないほどの威力を発揮する。

 そして少年は跳んで男から距離を取りつつ薙刀を男の横っ腹にぶち当てる。

 当てたのは峰だったが、威力が半端ではないせいか男はそのまま横に吹っ飛ぶ。

 そして今度はすぐさま長髪の男を見ると、こちらに向かってソードスキルを発動しようとしているところだった。

 スキルの種類は分からないが、この距離ならおそらく突進系のスキルだろう、と少年はみる。

 その少年の予想は当たりだった。

 その後すぐに長髪の男は《レイジスパイク》を発動する。どうやら通常攻撃では少年の薙刀に捕まると判断し、スキルで無理矢理ぶち抜こうということだろう。

 少年は薙刀を引き戻すと、自分に向かってくる剣に対して突き出した。

 ただし、相手の剣の左側の腹に沿うように。

 すると、男が放った《レイジスパイク》は少しずつ右に逸れていき、薙刀の刃が相手の剣の柄に達した瞬間に少年が思い切り薙刀を横に押したことで、最終的に長髪の男は少年の脇を通りすぎるだけになっていた。

 少年が薙刀を先に剣に触れさせ、《レイジスパイク》の軌道をずらしたのだ。

 そして少年は薙刀を円運動の動きで振り、男に追撃をはかったが、これは上手くかわされてしまった。どうやら長髪の方は冷静に場を見ているようだ。

 長髪の男はその勢いのまま走り抜けていき、狂気の男と合流する。

 

「なんなんだよ、てめぇは!! 関係ねぇんなら引っ込んでいやがれ!!」

 

「これは俺たちとそこのガキの問題だ。それにあんたがそのガキを庇っても、なんのメリットもないだろう?」

 

 男たちは腕では勝てないから少年を説得しようと試みたーー訳ではない。

 むしろその逆。いくら少女を殺したいほど憎んでいるとしても、必要以上に戦いたくもないのだ。

 だからこれは最後通告。これ以上邪魔するのなら本当にお前も殺すという意思の表明だ。

 端から見れば現状少年の方が有利に見えるが、実際は少年にまったく余裕はない。

 少しでも気を抜けば自分が相手していない方の男が自分、もしくは後ろにいる少女に飛びかかるかもしれない、しかもだましだましやってはいるが、少年は少ない手札をフルに使っているのだ。

 少年としてもここまでは上手くできすぎだと思っていた。

 これ以上戦えば今度は少年の命が危険にさらされる。

 それでも少年は一切躊躇せずに男たちに向かって駆け出した。この現状の理不尽が許せないがゆえに。

 

「確かにこの子が何かあんたらに悪いことをしたのなら、それはいけないことだと思う。何かしらの形でけじめをつけないといけないとも思うよ......でもーーーー」

 

「この、くそがぁぁ!!」

 

 狂気の男が上段から、長髪の男が胸元を狙って突きを繰り出してくる。

 どちらも急所を狙った攻撃。二つともを完全にかわすのは不可能だろう。

 だから少年は、あえて自分から攻撃に当たりにいった。

 空いている左腕を前に突きだして、長髪の男の突きをあえて自分の左腕に刺したのだ。

 自分の体に異物が刺さっていることに少年は僅かに顔をしかめるが、それでも少年は止まらない。

 少年はそこから無理矢理左腕を振り、刺さったままの剣で狂気の男の剣を弾いたのだ。

 少年の右手にある薙刀に戻した左腕を添えた瞬間、淡いライトエフェクトを纏う。

 

「なんで、こんなガキに......!!」

 

 そして急加速し始める薙刀。

 どれだけ傷を負おうが、どれだけ危険なことであろうが少年には関係ない。

 少年が言いたいこと、したいことは最初からただ一つだけ。

 

 

 

「ーーそれでも、それがあの子を殺していい理由になるはずがない!!」

 

 

 

 少年の叫びと共に、2連撃ソードスキル《蛇電》が男たちに向かって放たれる。

 1撃目は踏み込みながら相手の足元に軽い衝撃効果もある斬撃を放ち、相手を強制的に後ろへ後退させ、本命の2撃目で薙刀の特性をフルに使える距離にて返しの刀で攻撃するスキル、それが《蛇電》。

 少々隙の大きいスキルだが、今回は攻撃のタイミングがカウンターだ。男たちがかわせるはずもない。

 少年の攻撃はそのまま吸い込まれるように男たちに向かっていき、それがこの戦いの終止符を打つ一撃となった。

 

 

 

 

 少年に怯えたのか、それとも自分達が死ぬ可能性に怯えたのか、男たちは慌てるように去っていく。

 その戦闘の一部始終を、少女は見ていた。

 というより実際のところは、藍髪の少年が守るから、とかなんとか言った直後には顔をあげていた。

 ただそのときには少年はもう少女に背を向けて目を瞑っていたので気づけなかったが。

 そして戦闘が終わった今、少女の胸に去来している感情は自分の危機が去ったことに対する安心感と...目の前の少年に対する疑心だった。

 

(この人は......なにを考えてるの......?)

 

 戦闘中の少年と男たちの会話、男たちは少女を殺すとは口には出さなかったが、やはりその気はあったのだろう。

 実際、話を聞いていてそうされても仕方がないとどこか諦めている自分がいたことを少女は自覚していた。

 だが、目の前の少年はそれを真っ向から否定した。こんなどこの誰かも分からない自分のために。

 そして命がかかっていたといっても過言ではない戦闘を繰り広げた。こんな知り合いどころか初対面である自分のために。

 いったいなんのために? なにか理由があるのではないか?

 少女はまだなにも終わっていないと気を張り直す。そうだ、こんな自分のために理由もなく助ける人がいるはずないのだ。

 絶対になにか対価として要求されるに決まっている。

 警戒した目付きで少年のことを観察するが、少年は少女の無事を確認すると、「よかった、じゃあ」と言ってそのままどこかへ歩いていこうとした。

 それが少女には信じられなかった。

 

「な、ちょっと待って!」

 

「ん? どうしたの?」

 

「あなた、なにか目的があって私を助けたんじゃないの!?」

 

「......へ? いや......特には......」

 

 というか吹っ飛んできたのあなたではありませんでしたっけ? そう聞き返しそうになったが少年はギリギリのところで抑える。

 そして少女はさらに混乱する。

 

(じゃあなに? こいつは単純にボランティア精神で私のことを助けたっていうの!? あんな男たち二人に向かっていくことをただの善意で!?)

 

 すると少年が得心得たりとばかりに手を打つ。

 

「あ、確かに襲われたばかりじゃ一人で帰るのは怖いよね。僕が街まで送っていくよ」

 

「そうじゃなくて!」

 

「え、そうじゃない......? もしかして君、他の人からも狙われてるの? それは確かに困ったな。僕がずっとついてるって訳にもいかないか、パーティーでもないんだし。となると......」

 

「だからそうじゃなくて! あなたはなんで私を助けたの!?」

 

 ただの善意で誰かを助けるだなんてことはあり得ない。

 人間誰しも行動をする際自分の損得勘定をするものだ。それはエゴイストだから、という意味ではなく自身の保身のためだ。

 それをまったく考えないなんて人間は仮にいるとするのなら、間違いなく自殺願望者ぐらいだ。

 だからこの少年にもなにか考えがあったはず、そう思って少女は聞いたが、その考えは少年自身によっていとも簡単に崩される。

 

「ん~......君を助けたかったから?」

 

「は......?」

 

 今度こそ少女の思考には空白が生じた。この少年はなにを言っている? もしかして本当に自殺願望者なのだろうか?

 しかしすぐに、少年は手を振って「ごめん、ちょっと違うかも」と訂正し、数秒考える素振りを見せる。

 

「まぁ、なんというか......さっきの人たちと君の処遇に納得がいかなかったから、かな?」

 

「私の......?」

 

「だって、君がなにをしたのかは詳しくは知らないけど、君、さっきまでそのまま死ぬんじゃないかってぐらいに震えてたんだよ? そんな女の子を傷つけよう、殺そうだなんて納得できるわけがない......うん、これが理由かな」

 

「そ、んなことで......」

 

 少女が唖然とする。

 つまり、少年は本当に今完全に初対面の少女のために心を痛め、憤り、戦ったのだ。

 少女はすぐには信じられなかった。だが、今まさに目の前でそれを実行されたのだから信じるしかない。

 まだこのあとなにかを要求される可能性はあったが、なぜか少女にはそれはないと断言できた。

 今の今まで、いや、今でも善意だけで動く人なんていないと思っているのに。

 少女も自分が矛盾しているということは十分に自覚していた。

 それでも断言できてしまうほどに、少年の目は曇りなく、真っ直ぐだったのだ。

 

「あなた......名前は?」

 

 そして少女は気づけば聞いていた。

 少年はそれに対して軽く微笑むと。

 

 

 

「僕はヤマト。よろしく!」

 

 

 

 

 これは、無力な少年の物語ではない。

 これは、なにか一つ違えば、SAOの英雄になっていたかもしれない、正義を貫き続ける、そんな男の一つの物語である。

 

 

 




はい、初外伝だったわけですが....

三人称視点って...こんなに難しいの...?

おっと、すいません、少し漏れてはならない本音が漏れました。
いえ、私も三人称視点は書いたことありますし、一応は書けます。
ですが、最近コウキくんたちの一人称視点ばかりやっていたせいか、完全に勘を見失っている状態でしたね。(言い訳であることは自覚している
こちらの主人公はコウキくんとは正反対な感じにしてみました。王道系主人公ですね。
まだまだ書き始めなのでなんとも言えませんが、この外伝はこれからもたま~に進めていこうと思っています。
コウキくんたちもですが、ヤマトくんの物語も応援してくれるととても嬉しいです!
とりあえず次回は普通にコウキくんの方を書くので、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。