力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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2話目です!
前回書きそびれましたが、何か直した方がいいと思われた箇所があった場合や、少ないとは思いますがよかった点等があれば、感想どんどんお願いします!!
それではどうぞ!



2話目 始まりの終わり

 2022年11月6日 日曜日

 

 

 店から帰る途中、陽とSAOに入った後のことを話していたので帰る時間が遅れてしまった。時計を見ると十二時半。昨晩家を出た時間から考えると半日以上外に出ていて、なおかつ寝ていないことになる。人並み以上には健康的な日常生活を送っていた体だからか、今スゲー眠いです。

 SAOの正式サービス、要はプレイできるのは午後一時からなので、昼食をとることを考えると少々時間がない。

 入るのが遅れて陽に文句を言われるのも面倒だ。急いで昼食を作り、食べて自室に戻ると既に五十五分。ギリギリだ。

 早速ナーヴギアにSAOのソフトを入れて、頭に被り、説明書にあった動作を行いベッドに寝転がる。これはゲームにダイブしている間、寝ているのとほぼ同じ状態になるので、ログアウトした後に体が固まらないようにするためだ。

 

 1時になるまでの残り時間はもう秒読み段階だ。いざナーヴギアを被り準備が終わってみると、少し、いやかなり興奮してしまう。陽になんだかんだ言っても俺も中学二年生だ。新しく面白そうなゲームの前では興奮もするし緊張もする。

 

 たった数秒なのにとても長い時間に感じる数秒。もどかしく感じる気持ちを抑え、時計の長針が頂点に達したとき、

 

 

 

 

「リンク・スタート!」

 

 

 

 

 

 意識を旅立たせる言葉を発し、俺の意識はゲームの中に入り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数瞬の浮遊感の後、意識が戻ってきたので目を開ける。そこにはただ真っ暗闇の空間が広がって

いた。

 少し見回していると、軽快な電子音とともに、頭上にSAOのロゴが現れた。一瞬どこか違う回線に繋がってしまったのかと思ったがどうやらちゃんとダイブできたらしい。

 その後、女性の音声が流れだしたので、俺はその声に従い、自分のアカウントとキャラ作成に移る。

顔の作成の時は少々戸惑ったが、どこぞの勇者か、と陽に笑われるのも癪なので髪型と輪郭以外は実際の自分とほぼ同じに作った。

 名前はなにも考えずに《Kouki》......自分のキャラを作成、という作業は今までしたことがなかったが、なるほど確かにこれは少し面白い。自分の分身を自由に作れるというのは楽しいものらしい。

 一通りキャラを作成も終わって、最後に幸運を祈ります、というアナウンスを聞き、俺の体は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 ゲームにダイブしてから、二度目の浮遊感がなくなり、目を開ける。

 ーー俺は絶句した。

 一瞬ここがどこだったか忘れてしまった。そう俺に思わせるほどに風景が、匂いが、世界が現実味を帯びていた。

 いや、道を行く人々は皆、何かしらの武器を持っていて、それこそどこぞの勇者かと聞きたくなるような風貌をしているからそこはファンタジーっぽいのだが、逆に言えばそこしか違和感がない。

 そこは地面は石畳、壁は石造りと全体的に石で出来た街、という雰囲気だ。そしてとにかく人が多い。近くにあった大きな石を見ると、何か文字が掘られていた。どうやらここは《はじまりの街》という場所らしい。

 

 どこを見ても人、というこの現状。この中から陽を探すのは大変だな、と思いつつ、周りを見回した。ログイン時は皆同じ場所からスタートということだったので、そこで一度合流しようという話だったのだが......

 

「こねぇっ!!」

 

 30分ほど待ったが、一向にこない。こちらから探しても陽の名前も顔も見つからない。

 そもそも陽が同じ顔、同じ名前でダイブしているとも限らないと思い至りため息をつく。事前に細かく集合場所を決めておかなかったのがミスか、くそ。

 さて、どうする。一応このまま待って陽が俺を見つけてくれる可能性もあるのだが......

 

「来ないだろうなぁ、あいつのことだから」

 

 もしくは来たとしても脇目も振らずに一人で行動するかだ。一応、一度ログアウトして改めて集合場所を細かく話し合うという手もなくはないのだが、そこでヨウトがダイブしていた場合行き違いになってしまう可能性もある。

 

「仕方ない、先にフィールドに出てみるか。町の近くならもしかしたら出会えるかもしれないし」

 

それに、陽のことだ。そもそも約束を忘れて一人で行動している可能性だってある。だから仕方ない。

そうやって自分を納得させようとする程度には俺もこのゲームを待ち望んでいたようだった。

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

 ダイブ後、十匹目のモンスター(以降mobと表記)をポリゴンにしたところで休憩を入れることにした。

 俺が右手に持っている剣は先ほど武器屋で購入した《ブロンズソード》だ。この剣は《片手用直剣》という装備に分類される。

 実際に持ってみるまでは多分バットとかと同じような感覚かなー、などと考えていたがとんでもない。よくよく考えてみれば剣なんて金属の塊だ。持った瞬間に感じたずしりとした重さは俺に驚愕と少しの興奮を覚えさせた。

 今はまだ剣を振ろうにも体が流されてしまうような感じだが、これもレベルが上がったり練習することでいつかはかっこよく振れるようになるだろう。

 このゲームに入るまでは、《直剣》と《曲刀》の違いも怪しかった俺だが、この数時間でなんとなく分かってきた。

 しかも武器によって装備時の効果も、それどころか武器の重さや微妙な形状も違うそうな。奥が深いなぁ。

 座って辺りを見回すと、一面草原。何度見ても現実と見間違えてしまうほどの出来で、つい感嘆の息をついてしまう。

 

「お疲れ様」

「ーーっ!?」

 

 突然後ろから声をかけられ驚きながら振り返ると、そこには女性プレイヤーが立っていた。

 腰には俺と同じものだと思う片手剣。腰辺りまであるふんわりとした髪質の長髪、色は深みのある濃い茶色、身長も俺と同じくらいに高く、何より浮かべている笑みから大人の余裕とでも言うような雰囲気を感じられをなんとなく年上なんだろうなと察する。というか、体の一部分が、明らかに年上だと自己主張している。いえ、どことは言いませんけど。

 あれ、でもこの体って現実とは違うから年上とは限らないか......

 まぁ、なんというか、稚拙な言葉だと自分でも思うが、綺麗な人だな。

 

「えっと......」

 

 当然のように、俺にこんな知り合いはいない。そもそも、このゲームに入ってからノンプレイアブルプレイヤー―――NPC以外と俺はまだ会話をしていないし、あともうひとつ言うと、こんな綺麗な人と普通に話せるような対人スキルもない。

 その人は俺が困っているのを見ると、クスクス、と口に手を当てて上品に笑う。

 

「ニックよ」

「ニック......さん。俺はコウキです」

「えぇ。それとコウキ、敬語はいらないわよ。ゲームの中じゃ上下関係も何もないし」

 

 隣に座りながら、ゆったりとした笑顔で言ってくるニックさん、もといニック。

 急に距離を詰められ鼓動を跳ねさせ、俺はついその姿を必要以上に観察してしまう。そのことをニックも気づいたのか今度はからかうように笑ってくる。

 

「あら、どうかした? 一目惚れ?」

「あ......いや、そういうわけじゃ......まぁ、ちょっとしたクセ(・・)で......」

 

 と、いけないいけない。いくらなんでも女性相手に今の反応は少々失礼だった。

 悪い癖なのは事実だが、まさかこの世界に来てもそれが出てくるとは思わなかった。自分への戒めも含め小さく頭を振る。ニックも特に気にしてはいなかったのか、そう、としか返してこなかったが、すぐに不思議そうな顔になる。

 

「でも、どうしてソードスキルを使わないの? 少し見ていたけれど一度も使ってないわよね?」

 

 ーーソードスキル。SAOの代名詞と言ってもいいものだ。SAOにはRPGの定番、魔法がない。この世界では呪文を唱えても炎は手から出ないし、空から雷を落とすこともできない。しかし、その代わりにあるものがソードスキルだ。

 ソードスキルはいわゆる必殺技のようなもので、発動することで通常攻撃とは比べものにならないほどの攻撃を放つことが出来る。

また、装備する武器によって使えるものが異なる。もちろん、《片手用直剣》にも使えるスキルがあるのだが、俺はまだダイブしてから一度も使っていなかった。というより、正しく言えば、

 

「いや、使ってないんじゃなくて、使い方が分からないんだ」

「......ん?」

 

 という理由だった。

 するとニックは控えめに可哀想なものを見るような目でこちらを見て......って、ちょっと待って!!

 

「そういうことじゃなくて、正しいモーションの取り方が分からないんだよ」

「あぁ、そういうこと......」

 

 ソードスキルは名前を叫んだり、適当に武器を振ったりするだけで発動するものではない。ソードスキル一つ一つには発動前のモーションや、体勢が決められていて、それはメニューの中にある《スキル》というタグを開いた《片手用直剣》ソードスキルの欄に表示されている。

 制作者側からの意向としてはその画面を見てそこに表示されている通りにソードスキルを撃ってごらん? ということなのだろうが......俺はまぁ、俗に言う不器用な子なので、表示されているものだけではいまいち理解できなかった。

 だからといって、近くで戦っているプレイヤーを観察するのもマナー違反かと思い、結局通常攻撃だけでmobを倒していた。

 これはいざとなったら陽に頼み込んでスキルの使い方を教わるしかないか......

 

「なら、私のを見る?」

 

 俺が脳内でいかに陽を脅迫しようかとシュミレーションしていると、思わぬ声がかかった。

 一瞬理解が追いつかなかったが、ニックの言葉を捕捉するかのようにすぐ近くに猪のmobがポップする。

 

「......いいの?」

 

 すごく失礼な話だが、俺はニックを疑っていた。

 俺は他人からの親切を無条件で受け入れられるほど真っ直ぐな性格はしていない。

 善意と悪意を並べられれば、まずは悪意を疑う程度には捻くれた人間だ。

 

「まぁ、見られて減るものでもないしね」

 

 だが、あまりにも簡単に返されるので毒気を抜かれてしまった。

 ......まぁ、裏がある人はここで多かれ少なかれ何か反応を示すものだし、そもそもソードスキルを見せてもらうだけなのだから危険なんて何もない、か?

 

「......じゃあ、よろしく」

「えぇ、よく見てなさい」

 

 そう言うとニックは立ち上がり猪に相対する。

 俺が見やすくするためだろう、明らかにゆっくりと猪に向かってモーションの体勢に入る。するとニックが持っている片手剣が水色に淡く光出す。

 あれはソードスキル発動時に発生するライトエフェクトだ。淡い光であれど、その光は力を確かに示している。

 そして、ニックの体はソードスキル発動によるシステムアシストを受け、通常攻撃ではあり得ないスピードで動きーーmobを上段から切りつけた。

 ブモーーーーー、とmobが鳴き、ヘイト値を取ったせいか猪はニックの方を向いた。

 猪のHPはニックの攻撃で一気に減らされたが、一撃で倒しきるまではいかず三割程度残してしまった。

 すると、猪は何度か右前足の蹄を地面に擦り付けると、溜めていた力を解放するかのように一気にニックに突進していく。

 

「次、いくわよ」

 

 しかし、ニックは猪が倒れないことも計算済みだったのか、すぐさま違うモーションに入る。

 今度は右手で持っている剣を左手側に引き絞り腰を落とすような動作を取ると、剣が黄色く光だした。

ソードスキルは種類によってライトエフェクトの色が違うらしい。

 

「ふっ!!」

 

 軽く息をはき、ニックは右足を猪に向かって一歩前に力強く踏み出し、体を半回転させるようにして剣を一気に振り抜いた。

 

「ーーーーっ」

 

 mobを全く恐れる様子もなく、髪を翻し、華奢な体から繰り出される剣技で敵を圧倒するニック。そのアンバランスながらも確固としている姿に強く心を打たれた。

 そして、剣が振り抜かれると、もうお前は必要ないとばかりに崩れるように音を立てて猪がポリゴンに還る。

 一連の流れを呆けるように見ていると、

 

「どう? 何か掴めた?」

 

 声をかけられてはっとする。ヤバイ。今完全にボーッとしてた!

 

「あ、いや、なんかは掴めた。うん!」

「そう、今見せたのが《バーチカル》と《ホリゾンタル》よ」

 

 落ち着けー、落ち着けー、と精神統一する。目の前ですごいことが起こったからって、それがどうした。そんなことで興奮しすぎるなんて陽じゃあるまいし。

 ......よし、もう大丈夫!!

 

「でも、すごかった。ニックの戦ってる姿すごかった」

 

 全然大丈夫じゃなかった。

 なんか変な日本語になってるし。俺はここまで緊張に弱い男だったのか。

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 しかしニックはまたもや気にしていない風に笑ってくる。これが大人の余裕か......

 そしてこれまたきれいな動作で剣を鞘に納めるニックの姿を見ていると、ふと気になったことがあった。

 

「そう言えば、すごく慣れてるみたいだけど、ニックってもしかしてβテスター?」

 

 ーーβテスター。SAOの試作機をプレイした人のことを言う。しかし、その時は抽選限定千人とめちゃくちゃ狭い門だったらしく今よりも入手出来る確率が低かった。

 陽が入手できず俺の携帯に八つ当たり気味に空メールを一日中送って来たのもまだ記憶に新しい。

 ちなみに、その時は友情の証としてタバスコ五〇パーセント入り缶コーラをプレゼントしておいた。

 ともかく、βテスターというのはそんな運ある者がたまたまこの世界をプレイする権利を与えられた者のことだ。それは光栄とまで言えるかは分からないが、決して不名誉なことじゃないはず。だが、聞かれたニックは笑顔を引っ込めた。

 

「コウキ」

 

 そして心なし低くなった声で俺を呼ぶ。

 その声には威圧感はないが、明らかに拒絶の色が含まれていた。

 

「私だったから良かったけれど、あまりそれは聞かない方がいいわよ」

「え、なんで......」

「βテスターのほとんどはその呼ばれ方を快く思っていないから、かしらね」

 

 今度は少し困ったように笑うニック......これ以上は聞かない方がいいな。

 俺も自分から地雷を抱え込みたくないし。こんな世界なのだから楽しくいきたい。

 ニックにも楽しい雰囲気に水を差して悪いことをしたな、と少し申し訳なく思っているとちょうどいいタイミングでmobがリポップしてくれた。

 俺はmobのもとまで駆け寄る。

 

「ちゃんと俺がソードスキル使えるか見ててよ」

 

 ニックに笑いながらーー実際はただぎこちない変な表情になってしまったがーー言う。空気を変えたい、これを先程の非礼のお詫びに、というのもあったが、それよりも早くスキルを試してみたい気持ちが強いかもしれない。

 先ほどは答える際少々どもってしまったが、確かにニックの動きを見て掴んだものはあった。

 今ならなんとなくだが使える気がする。いや、根拠もなにもないんだけど。

 ニックもこちらの心境を察してくれたらしく、少し離れて見守るようにこちらを見てくれた。

 

 一度深呼吸しニックの動きを頭にイメージする。スキルを使う、というよりはニックの動きを再現する、という感覚の方がしっくり来る気がする。

 もう一度深呼吸してさらに感覚を研ぎ澄まし、モーションに入った。

 

「ーーっ」

 

 一瞬ニックが息を飲むような雰囲気が伝わってきたが、今は無視。先ほどのニックの動き通りに体を動かすことにのみ集中する。

 すると自分のものじゃない力に体を動かされていくようなそんな感覚ーー言うなれば水のなかを流されていくような感覚を覚えた。これがシステムアシストというやつだろうか? 俺はその流れに導かれるままに体を動かしーーそれは一瞬で終わった。

 

「ふぅ」

 

 俺は息をはきピンと張りつめた集中力を緩めつつ、剣を背中の鞘に納める。ガキッと上手く剣が納まらず不快な音をたててしまったのはご愛敬だ。

 少し恥ずかしく感じるが......それは今起こっている現象とは何も関係がないことだ。

 そう、目の前ではmobがポリゴンになって散っていた。

 

「よっっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!! やっとできたぁあああああ!!」

 

 俺は両手を握りガッツポーズを取る。

 ヤバい、なんか泣きそう!! 大袈裟かもしれないが本当にそのくらいの感動だ。

 

「おめでとう」

 

 俺があまりの喜びに少しおかしくなっていると、ニックが微笑みながらこちらにやって来た。

 しまった、あまりの嬉しさにニックがいたことを忘れていた。

 またなんだか恥ずかしい反応をしてしまったと顔を赤くしながらも俺は体裁を守るためーーもう手遅れ感が半端じゃないがーーニックに向き直る。

 

「えーと、その、ありがとう。ニックのおかげでできたよ」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。それなら珍しくお節介を焼いた甲斐があったわ」

 

 俺のことなのに、本当に自分のことのように笑うニック。

 その光景は見ていればすごく綺麗な絵でニックの人柄のよさが顕著に表れているのだけれど...あれ、おかしいな。今背筋が冷たくなったような。

 

「じゃあ、今度は《ホリゾンタル》を使ってみましょうか」

「あ、うん...」

 

 しかし俺の妙な悪寒はニックの提案によって霧散していったのであった。

 今のはなんだったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、《ホリゾンタル》も成功し、それからは三十分ほどニックと狩りをしていると、遠くの方から声が聞こえてきた。

 

「おーい、コウキー!!」

 

 聞こえてきたのはもう何年も聞いてきた声。というか聞き飽きた声。

 ......陽の奴、やっと来たか。言いたいことは山ほどある。俺は陽への文句を頭のなかで整理しつつ声のした方を向いた......なんだアレ。

 そこにいたのは金髪にかっこよく立った髪。高い身長に切れ長の目。明らかに主人公としての要素をまとめてぶちこみました、というようなプレイヤーだった。正直見ているだけでも恥ずかしい。

 

「お友だちも来たようだしお別れね」

「......正直アレを友達とは思いたくないけど、色々ありがとう」

「どういたしまして」

 

 ニックは最後にもう一度微笑み、草原のさらに奥の方へ歩いていった。

 ニック......優雅というか、変わった人だったな。急に話しかけてきたと思ったらソードスキル見せてくれたり、戦闘のことを教えてくれたり。

 いい人、ではあるんだろうなぁ。

 俺が微妙に居心地の悪さを感じ頭をかき、ニックの姿がだいぶん見えなくなったのと同時に陽が駆け寄ってきた。

 

「たくっ、探したぞ。こんなところにいたのか」

「ん? 誰だお前?」

「ひどっ!?」

「何がひどっ、だよ......はぁ、陽、今までどこに行ってたんだよ? 俺結構待ったんだけど」

 

 非難の視線を向けると、何が不服なのか、陽は不機嫌そうな顔でこちらを睨んできた。

 だから、なんでお前が不満そうなんだよ、と言いかけたところで陽が自分に人差し指を向け注意するように言ってきた。

 

「陽じゃなくて《ヨウト》! そのことは何度も言ったろ?」

「......あー、悪い。今までどこにいたんだ、ヨウト?」

 

 確かに陽にはこの世界に来る前に耳にタコができるほど何度も言われていた。

 こういったオンラインゲームでリアルの話はご法度なのが普通らしい。ましてや、リアルネームを出すだなんてもってのほかだ。

 今回は自分が悪いかと思い、自省する。

 だが、さすがはヨウト。ただ俺を反省させるだけで話が終わる訳もなかった。

 

「いやー、テンション上がりすぎて約束忘れてた。さっきまで戦いまくってたわ」

 

 ......ほーう、約束を忘れていた、とな?

 自分から話持ちかけた上に、半日以上一緒に並ばせておきながら?

 なるほどなるほど。

 俺は出来る限りの最高の報復方法に思考を巡らせ始めていたが、俺の怒りが伝わったのか、その後ヨウトはひたすら謝ってきた。

 ちっ、命拾いしたな。謝らなければ八つ裂きとかコンクリートコースだったのに。八つ裂きに関してはここでマジに出来るし。

 

「そうだ。コウキ、ソードスキル使ってみた?」

「まぁ、一応」

「あれ凄いよな!! 構えるとギューンってなって、ズバーンってなるし!!」

 

 効果音とともに体をすごい勢いで動かすヨウト。

 ダメだこいつ。テンション上がりすぎて興奮がカンストしてる。こうなるとヨウトは驚くほどめんどくさい。いつもの絡みが長続きするし何よりもーー

 と、俺の嫌な予感が正しく今的中し、ヨウトはなにかを思い付いたように顔を輝かせた。

 まずい、ヨウトがああいう顔をしたときは絶対に碌なことにならない!!

 そしてヨウトは満面な笑顔で言ってきた。

 

「狩りレースしようぜ!!」

 

 俺の脳内警報は強く鳴り響いていたが、当然こうなったヨウトを止める術は俺にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Nick

 

 まさか、ここまでの大物を引くとはね。世の中分からないものだわ。

 私は今、先程の草原の先にある小さな森のなかを歩いていた。

 この森はβテストの時から、新人(ルーキー)の登竜門と呼ばれていた。草原とは違い薄暗い森のなか。こんな場所ではある程度この世界に慣れなければmobの急襲に対応できないからだ。βテスト時代にもこの森で初めてのゲームオーバーを体験する者も多かったが......私にとっては今の初期レベルでもこのぐらいの場所の方がちょうどいい。

 確かに地形もポップするmobもβテスト時代となにも変わらないが、一瞬の油断から強者が敗北する、だなんて話よくあることだ。

 だからこそ私も気を引き閉める。βテストから今日までの移行期間に鈍ってしまった感覚を鍛え直すにはこれくらいがちょうどいい、そう思ってこの森に来たのだが....それが分かっていても脳裏をよぎるのは先ほど出会った少年ーーコウキだ。

 

 あの時、コウキを手伝ってあげたのは、正直なところただの気まぐれだ。強いて言えば反応が面白かったから。

 

「ふふっ」

 

 つい、笑みがこぼれてしまう。

 あの時、手加減していたとはいえ、私ですら一撃では倒せなかったあの猪を、コウキは一撃で倒して見せた。

 それだけではない。おそらくコウキのあの動きは私の動きをマネようとしたのだろう。あの一回だけだが、あれは私の動きだった。

 だが、別に私はそこに注目しているわけではない。初心者が熟練者の動きをマネて上達するのはどんな物事においてもごく普通のことだから。

 問題はそこではないのだ。

 問題なのは動きではなくその練度。

 あの時の一回、あれだけは私の動きよりも『上』だった。

 この世界に来たばかりで、それこそソードスキルだってろくに発動することができなかったあの少年が、私よりもいい動きをする? 

 確かに、ただの偶然、いわゆるビギナーズラックというものだろう。事実、最初の一回以外は威力も動きも落ちていた。

 だが、もしも偶然ではなくなったら?

 コウキが成長するにつれ、あれが偶然ではなく、必然になるとしたら?

 それを考えるだけで私の胸は踊る。

 これは願掛けのようなものかもしれないが、私に願掛けさせるだけのものはコウキは私に見せた。

 

「コウキとは長い付き合いになりそうね」

 

 誰に言うでもなく、私はそう呟いた。

 私がこの世界に舞い戻った、本当(・・)の理由を一時的に忘れさせるくらいに面白く、興味深い、彼の成長を期待しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Kouki

 

 ヨウトが言う狩りレース、というのは一定時間内でmobをどちらが多く狩れるか、という単純なものだった。

 その狩り途中も一言では言い尽くせないほどのドラマがあったのだが、今回は割愛し、率直に結果だけを言おうと思う。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」

「っしゃぁぁ!! 勝ったぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

 十一対十五でヨウトの勝ちだった。

 その結果を前に俺は地面に膝をつき拳を叩きつけ、それに対してヨウトは天に向け両手を突き上げる。

 惜しかったんだ。勝負の半ばまではほとんど拮抗していて俺が勝ってる場面だってあった。だが途中からヨウトが相手に向かって高速で突進していく見たことのないソードスキルを使いだしてーーというか、

 

「なんでそんなにスキル使えるんだよ!?」

「数時間に及ぶ練習の成果ですヨ」

 

 ヨウトがニヤリと笑って言う。何か言い返したいがこればかりは完全に俺の敗けだ。

 ここがヨウトのすごいところだ。どんな状況どんな内容だってなんでもスポンジのようにどんどん知識や技術を吸収していく。要は吸収スピードが恐ろしく早いのだ。

 不器用というのもあるが、俺が何時間もかけてようやく二つソードスキルを使えるようになったのに対して、ヨウトは四つも使えるようになっている。

 昔からのことだし、分かってはいるのだが......この違いはやはり理不尽だ。

 

そしてそれとは別に腹立たしい理由がもう一つ。

ソードスキを習得するのにはスキル熟練度という物が関係してくる。

俺たちで言えば《片手用直剣》だ。このスキルの熟練度を上げていけば使用可能なソードスキルや補助スキルが増えていく。

俺がソードスキルを二つしか使えないのも、そもそも熟練度がまだ低く、使用自体不可能だからだ。それに対してヨウトはすでに四つも使える。それはつまり、俺をほっぽっていた間に一人熟練度を上げまくっていたということで……

 俺がヨウトを恨めしく見ていると、苦笑いを返してくる。

 

「でも、コウキの攻撃えらく威力高くないか?」

「......そうか?」

「だってチラッと見たけど与えてるダメージが明らかに俺よりも多かったし」

 

 確かに、言われてみればそうだった気もするが......

 

「俺が戦ってたmobのレベルが低かったんじゃない?」

 

 そうだとすれば相対的に俺が与えるダメージが増える。というか、そうでもなければおかしな話になってしまう。

 ......別にヨウトの出来がすごすぎて拗ねている訳ではない。

 だが、ヨウトはまだ納得出来ていないようで、小さく唸っていた。

 

「まぁ、なんでもいいじゃん。それよりももっと狩ろうぜ。レベル上げにもなるし、今度は負けないようにもっとソードスキルに慣れる!!」

 

 俺は拳を握って言う。俺は特別負けず嫌いというわけではないが、こいつにだけは負けっぱなしというのは嫌だ。

 すぐにでも上達に向けて動くために俺はすぐさまmobのいる方へ駆け出した。

 

「おらー、行くぞー!」

「ちょっ、おい待てよ!」

 

 その後俺たちは再び戦いに暮れる。

 そしてさらに時間は過ぎて午後五時二十分。夕陽が橙色に照らす草原に俺たちは二人して大の字でぶっ倒れていた。

 

「あー、疲れた」

 

 ヨウトの言葉に俺は返事が出来ないほど疲れていた。

 さすがに、二時間ほど連続で狩りまくるのはミスった。しかも途中からは奪い合うように狩ってたし、バカなことしたなぁ。

 現実世界の体はほとんど疲れを感じていないはずなのだが、体が鉛のように重い。何も疲労感まで再現しなくてもいいのに、ほんとによくできてるゲームだ。

 

「でも、おかげでレベルも一つ上がったし良いんじゃね?」

 

 俺は起き上がりながら言う。

 ダイブしてから知ったことなのだが、この手のオンラインゲームはレベルアップに必要な経験値が馬鹿みたいに多い。

 なのでダイブしてからこうやって戦いまくってようやくレベル二、ということだ。

 そう言えば、と言ってヨウトが起き上がる。

 

「レベル上がったからステータスポイント振れるぞ」

 

ヨウトが言うには、キャラ一つ一つにステータスがあり(これはさすがに俺も知っていた)、ステータスが高ければ高いほどキャラ的には強いらしい。

 さらにステータスには大きく分けて筋力値、敏捷値の2つがある。そのステータスを上げる方法が、レベルアップか、ステータスポイント(以降SPと表記)だ。SPでは筋力値と敏捷値が上げられ、SPはレベルによって一定量もらえる。

 今回の場合は5ポイントだ。それを自分の好きなように振る。

 

「よし、これでどうだ!」

 

 ヨウトが満足そうに頷き、ウィンドウを俺に見せてくる。

 別にどうでもいいことだけど、他人に自分のステータスを見せるのはすごく危ない行為なのではないだろうか? そのこともプレイヤーネームと同じで俺はヨウトに習っていたのだが......

 まぁ、ヨウトも俺相手だからそういうこと特に気にしてはないんだろうけど。

 俺は微妙に罪悪感を感じつつ、ヨウトのウィンドウを覗きこむ。えーと......うわ。

 

「お前、本気?」

「もち」

 

 こいつバカだ。今回は(正しくは今回も)そう思わざるを得なかった。

 だってこいつ......

 

「一点振り......」

「スピードってやっぱ大事じゃん?」

 

 敏捷値に一点振りしてるバカなんてこいつくらいなんじゃ......

 いや、もしかしたらこういった他の人は取らないような行動こそが実は最適解だったりするんじゃ......ないな。

 かくいう俺は攻撃重視で3:2で振った。

 これからもこのバランスで振るかどうかは分からないが、最初ということもあってバランスよく振っておいた。

 ん? でも最初だからこそヨウトみたいに思いきってみてもよかったんじゃ......

 俺が思考を巡らせていると、遠くからゴーン、ゴーンと鐘の音が聞こえてきた。

 その鐘の音はどこまで響いていきそうな重くも神聖さを感じる音だ。おそらく巨大な鐘が奏でている音だと思うのだが。

 

「......?」

 

 何の合図だ? と考えていると、急に体が光だした。

 

「なっ、ヨウト!?」

 

 何か良くないものを感じとり、咄嗟に名前を呼んだが返事が聞こえる前に周りの景色が急に遠ざかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が消えると、周りが見えてきた。

 ここは......《はじまりの街》? さっきまで草原にいたはずなのに......

 周りには同じように強制的に連れてこられたと思われるプレイヤーが何人もいた。それぞれが混乱を隠そうとする余裕はなさそうだ。

 ヨウトは......近くにはいないな、違う場所連れていかれたのか?

 すると、突然空から何か液体のようなものがにじみ出てくる。その液体はドロドロと粘着性がありどす黒い。まるでヘドロのようだ。生理的に拒否反応を起こしそうな光景は混乱していた俺たちには十分すぎるインパクトがあり、中には恐怖に負けて叫んでしまう人もいた。

 しかしそれはそんなこと気にかけることもなく、液体は宙からは落ちずにそのまま留まり続け、徐々に一点に集まり何かの形に固まっていく。

 あれは......人か?

 疑問系になってしまったのは、人というには少々抵抗を覚える姿だったからだ。

 出来上がったのはひとがたのローブを纏った何か。しかもローブの中にはただただ暗闇があるだけだった。

 そして、それはこう言った。

 

 

 

「プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ」

 

 

 

 その瞬間から、一万人の命をかけた、デスゲームが始まった。




....あれー?
おかしいな。二話目は最初の予定だとこれの半分ちょっと多いぐらいの量になるはずだったんだけどな。
しかも戦闘描写、難しいこと難しいこと。
これからはもっと努力しないとダメってことですな。



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