力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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19話目です!
今回はかなり長いです!
それと、今回は出会い編最終回です!
あと今回は心境の機微といった難しい感じの部分を書いているので、違和感を覚えた方は是非とも感想欄にてご指摘をお願いします!

それではどうぞ!!





19話目 戦いのあとのご褒美

 SIDE Miu

 

 パリィィィン。

 エンドがポリゴンへと変わり、綺麗に割れていく。

 その様子を間近で見つつ、私は背筋が凍るような思いと虚脱感に襲われていた。

 あ、危なかった...

 さっき、コウキに助けてもらえてなかったら、多分、いや、間違いなく死んでいた。

 

「ふぅ...」

 

 続けてどっと襲ってくる疲れと安心感からその場に座り込んでしまう。

 ちょっと今すぐには動けそうにはないかな...

 とりあえずいつも通り手の甲を当てようと、コウキを見るが、その私の命の恩人はエンドを倒した位置から動かず俯いていた。

 そして不意にこちらを振り向くと、そのままこちらに駆け寄ってくる。

 

「わっ...」

 

 コウキは私の前に来てすぐに、私に抱きついてきた。

 あまりのことに一瞬思考がパンクしかける私だが、どうにもコウキの様子がおかしい。

 そのこともあって思考の混乱はすぐに治まり、次には違和感を覚える。

 

「....コウキ?」

 

 そのまましばらく抱きつかれていると、少しずつではあるがコウキが肩を振るわせ始めたので、どうしたのかと思い呼びかけるが、返事は返ってこない。

 その代わりに、コウキの肩の震えに合わせるように嗚咽が聞こえ始めた。

 コウキ....泣いてる?

 コウキの顔をみようとするけど、抱きつかれていることもあってよく見えない。

 

「よかった...本当に、よかった」

 

 そう言うと、コウキは私を抱き締める腕にさらに力を込める。

 少し苦しいぐらいではあったが、続いたコウキの言葉でそんなことは頭から完全になくなった。

 

「怖かった...ミウが、死ぬんじゃないか、いなくなるんじゃないかと思って.....」

 

「コウキ....」

 

 コウキは強い。

 それは腕っぷしだとか、そういうことじゃなくて、心とか、もっと漠然としたものとしてだ。

 多分、アルゴやヨウト、アスナキリト。コウキと関わった他の人に聞いてもほとんどがそう言うと思う。

 でも、あの1層ボス攻略前日や、今のように本当に時々とだが、非常に脆くなるときがある。

 そこには何かしらの原因があるような気がする。

 私がまだ知らない、コウキの何かが。

 私の思いは、コウキの力になりたい。コウキを支えたい。それはどんな時になっても変わらない。

 それなら、私がすることは決まっている。

 

「....大丈夫だよ、コウキ」

 

 私はいつでもどこでも、何度でも、コウキを支える。

 例えコウキが、何を抱いていようとも。

 

「私は、コウキのお陰で助かったよ。だから今、ここにいるんだよ」

 

 私もコウキに回した腕に力を込める。

 コウキが助けてくれて、私が今ここにいることをより強く証明するために。

 それが少しは伝わったのか、コウキの体の震えが少しずつ小さくなっていく。

 でも、私もまだ伝えきれていない。

 私は今できる最高の笑顔を作る。私の思いが全部伝わるように。

 

 

 

「ありがとう、コウキ」

 

 

 

 

 

 

 

「....おーい。いちゃつくのも大概しろよー」

 

 バッ!!

 私もコウキも同時に互いから離れ、それと同時に一気に顔が熱くなっていくのを感じた。

 うぅ、ヨウトがいること忘れてた...

 時間が経っても少しも顔の熱さは引かない。

 それはコウキも同じようだったが、逆に先ほどまでの脆さはあまり見られなかったし、もう大丈夫だと思う。

 

「お前ら二人とも、するなとは言わないからさ、そういうことは部屋のなかでやれよ」

 

「う、うるさいっ! お前が考えてるようなことしてねぇよ!! この変態野郎!!」

 

「ふーん、人前で急に女の子に抱きつく奴がそういうこと言うんだ。へぇ~」

 

「うっ...」

 

 珍しい、コウキがヨウトに口で負けてる。

 さすがにコウキもさっきの場面を付かれるときついみたいだ。

 

「ほれ、さっさと依頼主のとこ戻ってクエストクリアしないと」

 

「わ、分かってるよ!!」

 

 ヨウトに急かされると、コウキが来た道をどんどん戻っていく。

 

「はぁ~」

 

 そんなコウキの様子を見て、ヨウトはため息をつきながらコウキについていく。

 私も遅れまいと慌てて立ち上がると、先を行くヨウトに追い付き、横に並ぶ。

 

「ヨウトもありがとね」

 

「ははっ、さっきのコウキとのやり取り見る前だったら、跳び跳ねる勢いで嬉しかったんだけどね」

 

「あっ....ううん。私のこと助けてくれたのもそうだけど、コウキのことだよ」

 

 さっきヨウトが話しかけてきたタイミングは、明らかに狙ったタイミングだった。

 コウキのことだから私に気を使われた、とか後々気にするところをヨウトがわざとコウキをからかうことで、そちらの方にコウキの意識を向けたのだ。

 コウキがこの事を引きずらなくてもいいように。

 さすが長年の付き合い。私とは全然年期が違うや。

 まぁ、コウキのことだから、ヨウトのことにも気がつきそうだけど。

 するとヨウトはキョトンとした顔を私に向けてきた後。

 

「ミウ、本当に勘がいいね....一瞬ビクッたよ」

 

「それほどでも」

 

 私は笑ってそう返した。

 

 

 その後は何も起こらず、順調に物事が進んだ。

 洞窟の中もボスがやられたせいか、はたまたさすがにあのボスの後に戦わせるのは制作者側も気が引けたのか、《リザードマン》も《ゴブリン》もポップしなかった。

 そして《クラル》に戻ると。凶悪なモンスターを倒してくれた、ということで村のみんなが出迎えてくれた。

 その中には依頼主の息子さんもいた。どうやら村に無事に帰れたみたいだ。よかった。

 報酬にと村長さんと依頼主さんに貰ったアイテムは、どれも豪華なものばかりだった。

 特に、コウキがエンドのラストアタックで入手した《龍種の紅玉》は凄かった。加工してアクセサリーにすると、攻撃力と俊敏力が10ずつも上がる上に、タンブルに性能がつくのだ。いくらなんでもすごすぎる。

 村の人たちにお礼を言われて、今はこの層の主街区である《ウルバス》に向かってすっかり夜になってしまった街道を3人で歩いていた。

 

「そういえばヨウトはパーティー組まないのか?」

 

「うーん、組めるものならやっぱ組みたいんだけどさ。相手がいないしなぁ」

 

「お前の場合、お前の奇行についていける奴がいないんじゃ...」

 

「そうだよねぇ。ヨウトは実力はあるんだから問題はそこだね」

 

「ミウちゃんまでひどっ!!」

 

 ヨウトが誰かとパーティーを組めるチャンスは、ディアベルに誘われたあの時一回きりだったのかもしれない。

 

「そう思うんだったら自分の行動を見直せ」

 

「いいしー! 俺は俺の好きなようにするから!!」

 

 その結果また組む相手がいなくなりそうだけど...

 そんな考えが私、そして多分コウキの脳裏にもよぎったが、二人ともなにも言わなかった。

 私たちがそんなことを考えていると、ヨウトが何かを思い出したように声を小さく声をあげる。

 

「そうだ、お前ら3層からのギルドの話知ってる?」

 

「あぁ、ギルド作成クエのことか」

 

「私たちも知ってるよ。アルゴから聞いた」

 

 ギルドとはパーティーとは違って、一緒に行動しなくてもいいけど同じチームに属する団体で、分かりやすく言うと部活みたいな団体のことだ。

 ギルドメンバーが戦闘で得たコルの一部が自動的にギルドの資金になって、ギルドメンバーなら誰でも使える貯金になったり、多くの利点がギルドのメンバーにはあるらしい。

 

「お前らはギルド作らないのか?」

 

「...逆に聞くけど、なんで俺たちが作るんだ?」

 

「だって、こういう賑やかなこと好きそうだし」

 

 賑やかそうって...ヨウト的にはそういう着眼点なんだ。

 でも確かに、コウキはともかく私はそういった賑やかなことは好きかもしれない。

 いろいろな効率もよくて理にかなっているし、何より楽しそうだ。

 ....でも。

 

「うーん、今は作る予定はないかな?」

 

 もう少しコウキと二人でいたい。

 前よりもそう強く願っている自分がいるんだ。

 ヨウトは私の答えを聞くと、残念そうになる。

 

「なーんだ。残念。お前らが作るんだったらそこに入れてもらおうと思ったのに」

 

「ごめんね」

 

「ヨウトのことだからそんなことだろうと思ったよ」

 

 コウキがため息をつきながら言う。

 まぁ、確かに私も薄々そんな気がしてた。

 等と話しているうちに《ウルバス》の入り口に着いた。

 

「ん、着いたな。じゃあ、俺はこの辺で。情報の開示は俺がやっとくからお前らはもう休んでくれていいぜ」

 

「悪いなヨウト。サンキュー」

 

「バイバイ、ヨウト」

 

「おぉ、待たなミウちゃん。コウキも、部屋に帰ったからって盛るなよ?」

 

「な、うるせぇっ! さっさと行けよバーカ!!」

 

 ハハハハハ。高らかに笑いながらヨウトはコウキから逃げるように街の中を走っていった。

 ヨウト、ここぞとばかりにコウキをからかってたなぁ。だからまたコウキにからかわれるんだろうけど。

 それにしても、嵐みたいな人だった。

 もう何回か会っているからどういう人かは分かってはいるけど、コウキと比較すると本当に賑やかな人だ。

 私的には楽しくて全然ありだけど。

 

「んじゃあ、俺たちも宿に行くか」

 

「うん」

 

 そのまま宿に向かって歩き出す私たち。

 この街には転移門もあるから1層の《始まりの街》にある自分達の部屋に帰ってもいいんだけど、今日はさすがに疲れたから宿泊まることにした。

 ...さて、ここからだ。

 作戦実行。

 

「さっき私一人でギルド作る予定ないって言っちゃったけど、コウキ的にもよかった?」

 

「あぁ、それでよかったよ。俺もそんな柄じゃないし、それに作りたくなれば作ればいいしな。ないと思うけど」

 

 その前にギルドを作るメンバーが足りないか。そう言ってコウキは笑うけど、私の方はそんあ余裕は全然なかったりする。

 自然なままに、自然なままに......

 私は頭のなかで何度も唱えて、コウキの方に顔を向ける。

 

「コ、コウキっ!!」

 

 そして響き渡る変に高い私の声

 ....声裏返ったーーーーーー!!

 コウキも必死に笑い堪えてるしっ!!

 うぅ、恥ずかしい...

 

「な、なに? ミウ」

 

 目に涙を溜めながらコウキ。

 一瞬自虐の波に飲まれそうになるけど、コウキの言葉でなんとか堪える。

 ....笑いを堪えてる顔はともかく、裏返ったことはなかったことにしてくれてるんだし、ここはもう一度落ち着いて...

 

「明日だけど...」

 

 また声が裏返らないように、深呼吸を一回。

 ....よし。

 

 

 

「デ、デートしない!?」

 

 

 

 コウキは一度瞬きする。

 そして次の瞬間。

 

「え、ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 

 9時55分

 約束の時間まであと5分。

 俺は普段なら攻略に出ているであろうこの時間。今日は1層転移門前にいた。

 そして普段なら攻略に向けて気を引き締めているはずのこの時間。今日は精神がいくらか乱れかかっていた。

 端から見れば、今の俺は頻繁にキョロキョロしている不審者かもしれない。

 それが分かりつつも、俺は不審な挙動をやめることができなかった。

 それにしても、なんでミウも急にあんなことを...

 昨日ミウにデートしようと言われたときは本当に驚いた。

 だって、あのミウですよ? 確かにボーイッシュだけど間違いなく美人にカテゴリされるあのミウですよ?

 そりゃあ、健全な男であれば幾らか慌てもする。

 まぁ、昨日あのあと。

 

「じょ、冗談冗談。ただの今日のお祝いだよ。あんなに強いmobをたった3人で倒したんだからそれぐらいは許されるでしょ?」

 

 と、ミウが言っていたのでいくらか落ち着けてはいるが。

 

「ねぇ、なにあの人?」

 

「あんまし見ない方がいいって」

 

「うわっ、なんか一人で唸ってるし」

 

 落ち着けてはいるが!!

 やはり、一度あんなことを冗談でも言われると意識せざるを得ない。

 はぁ、ミウもたちの悪い冗談言うなぁ。

 

「コウキ! ごめん遅れたかな!?」

 

 等と考えていると、ミウが転移門から出てきて走ってきた。

 

「おはよー、ミウ。遅れてないからだいじょうーーーーー」

 

 可愛い。

 一瞬、俺の頭のなかがその単語で埋め尽くされた。

 

「...コウキ?」

 

 はっ! やばいやばい。少しフリーズしてた!

 俺は頭を振って一度脳内をリセットする。

 

「えーっと、ミウ、その服どうしたんだ?」

 

「えっ、あぁ...。昨日の夜コウキと別れたあと急いで揃えたんだけど....変かな?」

 

「い、いや全然!!」

 

 それどころかすごくいいと思う。

 

「そっか......よかったぁ」

 

 俺の言葉にミウは心の底から安心したように息をついた。

 ....もしかしてまだ可愛い服に抵抗があるのだろうか? こんなに似合っているのに。

 今日のミウの服装は、上は水色のフード付きニット。下は白のショートパンツに黒のニーソだ。

 ミウの普段着はちょくちょく見ているが、ここまで気合いの入ったものは見たことがない。

 あれ? でも今日って確か祝勝会的な感じなんだよな? なんでミウこんなに力入れてーーーーー

 

「コウキ?」

 

 気づくとミウが目の前にいた。

 

「うわぁ!? どどど、どうしたミウ!?」

 

「いや、そろそろ行こうと思って声かけたんだけど反応がなかったから....大丈夫?」

 

「あ、あぁ、大丈夫。じゃあ、行こうか」

 

 正直、全然大丈夫じゃない。今も絶賛混乱中だ。

 でもこのままじゃ埒があかないので、とりあえずミウの言う通り街にくり出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「コウキはどういうお菓子が好き?」

 

 街の中を適当にブラブラしているとミウが聞いてくる。

 ちなみに街の商店街に入ってから気づいたのだが、ミウの私服はやはり他の人から見てもかなりレベルが高いようで、何人かミウのことをガン見している奴がいたりするのだが、ミウ本人は全く気にしていない。しかも今回俺に向けられる視線はいつもよりも半端なく、すでに俺の精神HPは危機に貧している。

 それらをなんとか堪えてミウの質問に答える。

 

「うーん、ケーキとかも嫌いじゃないけど...急にどうした?」

 

「私の好きなものとかは普段からも食べてたりするからコウキも知ってると思うけど、コウキの好きなものって私あんまり知らないなぁ、と思って」

 

 ....つまり、俺は知っているのにミウは知らないっていう状態が悔しいってことか?

 なんというか、すごくミウらしい。

 

「そうだな、俺の場合好みがその時その時で変わるからなぁ...あっ」

 

 歩いているとあるものが目に入った。

 俺はそのあるものの前で立ち止まる。

 

「これなんか好きかも」

 

 そう言って俺はあるものーーーー饅頭を指差した。

 するとミウは少し驚いたように声をあげる。

 

「へー、コウキって案外趣味渋いね」

 

「そうか? 饅頭の生地なんて餅みたいなもんだし、あんこなんてあんパンにも入ってるし、材料そのものは結構普通だろ?」

 

「まぁ、そういう言い方をしたらね」

 

 ミウが苦笑いしながら言ってくる。

 むぅ、饅頭はそんなに渋い部類にはいるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「コウキは何色が好き?」

 

 さらに街をぶらついて、ボードなんかに掲示されている売り物の剣を見ながら歩いていると、またミウが聞いてきた。

 

「ミウは?」

 

「知ってるでしょ?」

 

 え...ミウの好きな色? 前にそんな話したっけ...あっ。

 ふと、あることを思い付いてミウの服を見る。

 

「水色か...」

 

「ピンポーン」

 

 言って、ミウは自分の腕をあげて水色の服の袖を見せてくる。

 今日着ている服も、そういえば前に入ったミウの部屋も、水色が入っている。

 ....これ、分からなかったときのダメージが半端なかった気がする。

 

「で、何色?」

 

「.......オレンジ、とか?」

 

 一瞬、水色、と言いそうになったが、後々間違いなく気まずくなると思い、とりあえず昔好きだった色を言っておいた。

 ていうか俺よ、何故に疑問系にしたし。

 オレンジは今も嫌いではないのだが、ミウに会ってからは水色が好きになったのだ。

 理由は....まぁ、いい。

 ミウは俺の答えを聞くと、今度はおかしそうに笑う。

 

「ふふっ、コウキってなんかアンバランスだよね」

 

「アンバランスって....何が?」

 

「お饅頭とか渋いものが好きだったり、普通の食事はカレーとか子供っぽいものが好きだったりとかさ」

 

「ミウから見るとそう見えるのか....」

 

 正直、他人から見た自分の感想なんて初めてーーーーじゃないな。昔散々贔屓目の俺の印象はリアルで言われたことあったな。

 まぁ、それらを除いて、本当に俺を見ての感想は初めて聞いたので返事に困る。というか、

 

 俺、そんなにカレーとか子供っぽいもん好きだっけ?

 

 と、先程とは真逆のことを考えつつ頭を捻る俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

 ふぅむ、なるほどなるほど。

 私たちは今服屋にいる。

 このアインクラッドの中には、武器やアイテムを売っているお店の他にも、こういった生活雑貨といわれるようなお店もある。

 私が今日着ている服も、2層の服屋で買ったものだ。

 今日ここに来た理由は、コウキがどういった服が好きなのかを調べるために私が連れ込んだのだ。

 昨日も思ったことだけど、私はコウキのことで知らないことが意外と多い。

 それらを知るためにも、今日コウキをデ、デートのようなものに誘ったんだ。

 ...まぁ、本当の目的は別にあるんだけど。

 とにかく、今日街に出てから2時間程度しか経っていないけど、コウキのことを色々知ることだできた。

 例えば服ではコウキは機能性を重視するとか。

 例えばーーーーー

 

「あのー、ミ、ミウさん? これ本当に着なきゃダメか?」

 

 ーーーーー弄ると意外と可愛いとか。

 試着室に入ろうとしているコウキが今両手に持っているのは、明らかに設定ミスだろうとツッコミたくなるデザインのメイド服だった。

 しかもメンズ。

 

「罰ゲームだからねー」

 

「うぅ...」

 

 私が笑顔で言うと、コウキが観念したように試着室に入っていった。

 まさかこんな代物が1層の服屋にあるなんて私も驚いた。

 ちなみに罰ゲームっていうのは、ここに来る前にやったゲームのことだ。

 前に《始まりの街》に来たときはにはなかった、《腕試し所》なるものができていたので二人で挑戦してみたのだ。

 ゲームの内容は、大量に沸いてくる偽のmobに攻撃を受けるまでに、どれだけその偽のmobを倒せるか、というものだ。

 結果は....今の通りだ。

 その罰ゲームとして、負けた方がなんでも一つ言うことを聞く、ということになった。

 

「こ、これでいい...?」

 

 着替え終わったコウキが試着室から恐る恐ると出てきた.......わお。

 これは、なんというか....

 

「男の子にしておくのがもったいないなぁ...」

 

「それ!? 見た瞬間に出てくる感想がそれってどうよ!?」

 

 いや、だって...ねぇ?

 まさかここまで似合うとは思ってなかったんだもん。

 

「もしかしてコウキって、実は女の子とかそういう設定ないよね?」

 

「ないよ!! そんなミウみたいな設定!!」

 

 ほほう、そういうこと言っちゃうんだ。

 今のは少しカチンと来た。

 

「でも、すっっっごく似合ってるよ? 『コウキちゃん』?」

 

「うぅ....」

 

 私が言うと、そのままコウキは俯いてしまった。

 よほど今の自分の格好が恥ずかしいのか、少し涙目になっている。

 しまった、さすがに少し言い過ぎたかな? でも、今のはコウキも悪いし...

 コウキを見ると、慣れないスカートが気になるのか、何度もスカートの裾を直している。

 ....まずいなぁ。

 

「ちょっ、ちょっとミウ? その不気味な動きをしてる手は何?」

 

 コウキが後ずさるが、後ろにはすぐ試着室の壁がある。私が近づいた分だけコウキが下がるから、すぐに壁にぶつかってしまった。

 

「コーウキー?」

 

「ミウ、一旦落ち着こう? うん! それがいい、絶対それがいいって!!」

 

「かわいいーーーー!!」

 

「ぎゃーーーーーーーーー!!」

 

 そのあと私はお店のNPCに注意されるまでの約10分間、全力でコウキを愛でた。

 ....正直、店から出るときにコウキの様子を見て、やりすぎたかな、とか思わなくもなかったけど、後悔はしていない私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 

 どうやら今日は質問デーのようだ。

 そのあとも、犬派か猫派か、どっち派かなど、色々なことを聞かれた。(ちなみに俺もミウも猫派)

 中には返答に本気で困るものもあったが、まぁ、ことなく乗り越えられたのでよしとする。

 

「いやー、今日は楽しかったな」

 

 時刻は夕方。俺たちはフィールドに出るための門の前に立っている。平原に沈む夕日が眩しい。

 本当に楽しかった。

 色んな店を回ったり、食べ歩いたり、SAOならではの剣を使ったゲーム屋に入ったり。

 なんか心に深い傷を追わされたような気もするけど、気にしたら負けな気がするので記憶の奥底に封印しておくことにする。

 でも、こんなに遊び尽くしたのはこの中に囚われてから初めてかもしれない。これ、本当に死亡フラグとか立ってないよな? 途中からはそんなことを本気で気にしてしまうほど楽しかった。

 

「コウキはさ」

 

 ミウが外を見たまま言ってくる。

 

「どうした? また質問?」

 

 ミウがコクりと頷く。

 そしてミウはそのままフィールドに沈む太陽をどこかぼんやりと見ながら言った。

 

 

 

「コウキはーーーーーーーーー

              ーーーーーーーーなんで私に優しくしてくれるの?」

 

 

 

「ーーーーっ」

 

 瞬間、ここら一帯の空気が一気に変わった気がした。

 ....前にもこんなことがあった。

 そう、俺がヨウトのことで悩んでいたときだ。

 つまり、これはミウにとって、とても大事なこと、ということだ。

 ......ふぅ。

 

「なんで、か。また難しいこと聞くね、ミウは」

 

 なんで。

 そういえば、俺もミウに前に似たようなこと聞いたっけな。

 俺の場合は....『なんで助けてくれたのか』だったかな?

 ミウを見る。

 ミウはまだフィールドの方を向いていて、顔色がよくわからない。

 俺が答えを脳内で決めあぐねていると、ミウがそのまま口を開く。

 

「いつもそう、私がどんなにコウキに迷惑をかけても押し付けても、コウキはいつも笑ってくれる.....あぁ、『押し付ける』は禁止だったね」

 

 そこでミウは小さく微笑む。

 その笑い方が今まで見たこともない大人びたものだったので、不覚にも少し鼓動が跳ねた。

 そしてミウは続ける。

 

「このことはさ、前から思ってたことだし、昨日コウキに助けてもらったあとに聞こうって決めてたんだ」

 

 あのときか....

 

「これは、私にとって大事なことな気がするんだ」

 

 大事なこと。

 なるほど、本当に俺がミウに聞いたときとそっくりそのままってことか。

 さて。

 なんで、か。

 俺は先ほど言ったことを心のなかでもう一度呟く。

 ....きっと、答えなんていく通りもある。

 ミウが俺のことを助けてくれたから。

 俺がミウを尊敬しているから。

 ミウの力になりたいから。

 考えればもっと出てくるだろう。

 でも、素直な気持ちなんてものは、考えた瞬間にパッと出てくるものだ。

 

「やっぱり....」

 

 俺はそれをーーー

 

「ミウと一緒にいたいからかな」

 

 ーーーミウに伝える。

 

「......へ?」

 

 案の定、ミウは呆けた顔でこちらを見てくる。

 ...まぁ、想像通りの反応ではあるんだけど、さすがにちょっと傷つくぞ。

 それは置いておいて。

 

「ミウが前に言ってただろ? 自分が助けた相手が笑ってくれたり、幸せそうにしてくれたら嬉しいって」

 

 ミウが頷く。

 

「結局、それと同じなんだよ」

 

 俺はそこで一旦言葉を切り、フィールドを見る。そして

 

 

 

「俺もミウが笑ってくれたり、幸せそうなら嬉しいし、そんなミウと一緒にいたいと思う。だから俺はミウにできる限りのことをしようと、したいと思うんだよ」

 

 

 

 ミウにはっきりと伝える。

 自分が今思っていることをそのままに。

 ....話し方、下手だったかな?

 ミウの反応がずっとないので、だんだんと心配になってきてミウの顔を見る。

 

「っ!」

 

 ....ミウと出会ってからもう2ヶ月になろうといしている。

 自意識過剰でなければ、ゲームのなかではミウのことを誰よりも分かっているつもりだった。

 でも。

 今、目の前にいる女の子の、こんな表情は一度も見たことがなかった。

 さっき見た大人びた微笑みなんかよりも、もっと。

 

「ミウ...?」

 

 自分の目の前にいる相手が本当にミウか分からなくなる。そんなバカみたいなことに本当になり、つい不安になってミウの名前を呼ぶ。

 するとミウはゆっくりと目を瞑る。

 

「そっか...」

 

 そしてそれだけを言うと、

 

「ありがと、コウキ!!」

 

 ーーーそれは、平原に沈んでいく夕日なんかよりもずっと綺麗で、幸せそうな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出会い編 後日談

 SIDE Miu

 

「ふぁ~あ」

 

 朝5時起床。

 リアルでも同じぐらいの時間に起きていたけど、よく早起きって言われてたっけ。

 ...今はそれが死にたくなるぐらい恨めしかった。

 うっっわぁぁぁぁっぁぁぁあ!!

 昨日コウキと一日中遊んだ本当の理由は最後に聞いたあれだ。

 前々から気になっていたことを思いきってコウキに聞く、それが目的だったのに...

 一日中コウキを観察したことと、コウキから聞いた答え。

 あれのせいで無自覚にだけどコウキと距離を置いてしまった。

 置いてしまったから、気づいた。

 いや、気づいてしまった。

 今までは近すぎて気づくことができなかった自分の気持ちに。

 ....今なら、アルゴがいっていたことが全部分かる。

 私はコウキのことがす、す、すーーーーーーー

 

「うにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

 今自分がとっている行動が以前コウキもとったことがあることを知らないまま、私はベッドの上で暴れ続けた。

 

 

 

 

 

 

 1時間後。

 

「とりあえず落ち着こう....」

 

 いくらなんでも1時間も一人ベッドの上で暴れ続けるなんて頭おかしすぎる。

 今日は普通に攻略に出るんだから、それまでにこの状態を何とかしないと....

 

「あっ...」

 

 そういえばアルゴが理由わかったら報告しろって言ってたっけ。

 答えがあってたらいいこと教えてくれるって言ってたような...

 いいことってなんだろう?

 アルゴには最初から私の気持ちがわかっていたということも恥ずかしかったが、それよりも今はいいことの方が気になった。

 私は切り替えができる人間なのだ!!

 段々わくわくしてきた私は、早速アルゴにメッセを送ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 

 フィールドボスを倒して得た情報をヨウトが公開したためか、昨日のうちに迷宮区が発見された。

 俺たちは今、その迷宮区攻略をしている。

 

「コウキっ、スイッチ!」

 

 ミウが《リザードマン》の剣を弾いた隙に《リザードマン》に接近する。

 

「はっ!」

 

 俺が発動した《バーチカル・アーク》が《リザードマン》にVの字を刻み込み、ポリゴンに帰した。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、お疲れミウ」

 

 そのあとも俺たちは迷宮区の攻略を続けて、1時間ほど経った。

 

「うん、お疲れ」

 

 ミウと互いに手の甲を当てる。

 .....ここまではいいんだよな、ここまでは。

 さらに奥に進もうと、俺とミウは歩き出す。

 

「......ん」

 

 そう、ここだ。

 歩き出すと、気のせいか、いや間違いなく、ミウがいつもよりも俺の近くを歩く。

 というより、少しずつ近づいて歩いている感じだろうか?

 ミウの表情を窺っても、何故か妙に緊張していることしか分からない。

 

「ミウ、どうかしたのか?」

 

「ふぇ!? い、いや、なんでもないよ!?」

 

 このように、ミウに声をかけたりすると、かけた瞬間に離れていってしまう。

 だが、、また少し歩いていると。

 

「......」

 

 また近づいてくる。さっきからこれの繰り返しだ。

 うーん、俺また何かしたかな?

 昨日はミウも楽しそうだったので、今日は雰囲気よく攻略できると思いながらミウに会うと、すでにこの状態だったのだ。

 つまり、今日ではなく、昨日何かしたということになる。

 しかし、今言ったようにミウは昨日楽しそうだったので、その確率は低い。

 いやそもそも別にミウは今の状態でも、しかりとmobは対処してくれるし、俺もミウに近づかれても離れられても嫌ではないので

 何も困ったことはないと言えばないのだがーーーー

 

「あっ、コウキ、安全地帯あったよ。ちょっと休んでいこうよ」

 

「えっ、あぁ、うん」

 

 ミウに言われて俺は安全地帯に向かって歩いていく。

 フィールドや迷宮区にはいくつか安全地帯と呼ばれる、mobがポップしない場所があるのだ。

 ミウはその安全地帯に入ると、座り心地のい居場所を探したのだろう、辺りを軽く見回して、少し大きめの岩の近くに座った。

 俺もそれにならってミウの隣に座る。

 最初の頃はさすがに気後れしたが、今では隣に座るのもそこまで恥ずかしくはない。

 .....のだが。

 

「....ん」

 

 ミウが俺との距離を詰めてきたのだ!!

 ....いやいやミウさん、これはさすがに心臓に悪いッスよ?

 うーわー、近い、近いよ!!

 って、そんな混乱している場合じゃない!!

 

「ミウ、本当にどうしたんだ? もしかしてどこか調子悪いとか!?」

 

 しまった、この世界なら病気にならないからと思って油断してた。

 もしかしたらリアルの体の方でなにか起こっているのだとしたら......!

 だが、ミウはそれに対してはすぐに手を振る。

 

「いやいやいや、別にそういうんじゃなくて!」

 

「でも、顔赤いし...」

 

「にゃっ!? き、気のせいだよ!!」

 

 先ほどまでは正面を向いていたミウだが、こちらを向いて自分の手を強く握って否定してくる。

 でも、ミウさん? 病気じゃないのも、今ミウがなんか興奮してるのも分かったんだけど、こんな近くでこっちを向いたら....

 

「ミウ」

 

「なに?」

 

「その、なんていうか.....顔が、そのね? 近いと言いますか....」

 

「.....へっ?」

 

 数秒の沈黙。

 

「っっっっっ!!??」

 

 ようやく気づいたようで、ミウが立たないまますごい勢いで離れていった。

 そのままミウは顔を赤くしたまま俯いてしまった。

 そんな一連の動作を一瞬可愛いと思ってしまったが、こればっかりは男の性なので仕方がないと思いたい。

 でもミウもそんなに恥ずかしいなら、急に近づいてきたりしなければいいのに....

 まぁ、ミウももうこんな変わったことはしないだろうしーーーーー

 だが現実はやはりそんなに甘くなかった。

 ミウは「やっぱりーーー」となにか呟くと、今度は四つん這いになって俺に近づいてきた。

 

「コウキ......」

 

「な、なんですか?」

 

 気のせいか、ミウの声が妙に艶っぽい気がする。

 そう言っている間にも、少しずつミウが俺に近づいてくる。

 そしてついに俺の目の前まで来て、言った。

 

 

 

「私と、ずっと一緒にいてくれるよね?」

 

 

 

 ....正直、息を飲んだ。

 ミウの顔を見ると、頬が赤くなって少し目が潤んでいる気がする。

 最近、ミウの新しい表情をよく発見するなぁ、とか現実逃避しかけていたが、なんとか踏みとどまる。

 いや、もっと正しく言えば、ミウの目に引き戻された。ミウの目から視線を外せなくなった。

 これはーーーーー。

 

「ミウ」

 

「ひゃい!?」

 

 俺はミウの両肩を掴んで、ミウを見る。

 ゴクリ、と唾を飲み込んだのは俺とミウ、どちらの音だっただろう?

 ミウの目は先ほどとはまた変わって、とても不安そうで、でも心なしか何かを期待しているような目になっている。

 口のなかが妙に乾く。そして。

 

 

 

「ーーーーー誰の入れ知恵だ?」

 

 

 

「.....え?」

 

 一瞬後、ミウの目が泳ぎ出す。

 それはもう、バタフライしているように。

 

「えっ? えっ? い、入れ知恵ってなんのこと?」

 

 なんというか、ミウはこういった類いの嘘が本当に下手だと思う。

 まぁ、今回はそれに助けられたが。

 

「ミウ」

 

 俺がもう一度念を押すようにミウの名前を呼ぶと、観念したようにミウは顔を俯かせる。

 

「.....アルゴです。こうやったらコウキが喜ぶって聞いて」

 

 やっぱり....

 あの小悪魔め、今度こそやり返してやる...

 ちなみに前回の《体術スキル》の仕返しは、速攻でばれて反撃された。

 俺がアルゴにどうやり返そうかと頭を悩ませていると、服の袖を引っ張られた。

 

「ん、どうしたミウ?」

 

「あの、さっきの返事ってどうなのかな? なんちゃって....」

 

 ミウが照れながらも困ったように笑った。

 俺は、ミウがあまりしないようなその笑い方になんだか違和感を覚えた。

 これは....さっきと違うな。

 なんとなくとだが、ミウの本音を感じる。

 ....うーん。恥ずかしいな。

 俺は頭を掻きながら立ち上がる。

 

「...昨日も言ったろ? 俺もミウと一緒にいたいって。俺は自分で決めたことだけは曲げないのを心情にしてるから」

 

 これ以上は俺の恥ずかしさメーター的ななにかが振りきれてしまうので、とりあえず座ったままのミウに向かって手の甲を出した。

 

「だから、まぁ、大丈夫だ。なっ?」

 

 少し顔が赤くなっていること自覚しつつ、笑いながらミウに言うと、

 

「.....ずるいよ」

 

 珍しく目を背け、顔を赤くしながら俺の手の甲に自分のそれをぶつけた。

 




はい、出会い編最終回+ミウ回でした!
今回は(も)ミウさんを全力でデレさせてみました。正直コウキくんが羨ましいです。こんちくしょう。
でも、上でも書いたように、今回はミウさんの心境の機微を書いていて、それが難しかったですね。しかもコウキくん視点でミウさんの心境を描くとか難しすぎます。
その辺りのことも、なにかご指摘があれば貰えると嬉しいです!

さて、次回からは、新編.....かもしくは、ヤマトくんの方を書くかもしれません。書かないかもしれません。

では次回で~
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