力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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はい、アナザー2話目です!

今回は2話目、というよりは、1話目の掘り下げ、という感じのお話です。
それでも敢えてテーマを上げるとするのなら、前回がヤマトくんの人間説明とするのなら、今回はヤマトくんと少女の付き合い方、という感じです。

それではどうぞ!


AS2話目 気難し少女との関わり方

 天才茅場晶彦が作った、最高のゲームと呼ばれていたこのゲーム、ソードアート・オンライン。

 そしてそのゲームの天空に浮かぶ浮遊城、《アインクラッド》。

 この世界には魔法と呼ばれるものは一切存在せず、あるのはただ一つ、己が持つ武器のみ。

 自分の全てを懸けると言っても過言ではないその武器を持ち、この素晴らしい世界を駆け巡る。

 これが、デスゲームとなる前のSAOの雰囲気だった。

 いや、確かに約1万人が囚われてしまったこの世界は素晴らしいものではなくなってしまったのかもしれないが、それでも前のキャッチコピーは今でも全く過言ではない。

 むしろ今の方がその考えは重要であると言える。

 なにせ、プレイヤーたちが持つ武器は、本当に比喩なしに本人たちの命が懸かっているのだから。

 そしてそんなプレイヤーの一人である少年ーーーーーヤマトはこう思う。

 

(武器の性能が全てを左右するとは言わない。プレイヤー本人の技量も同じぐらい大切だとは思う。でも、そこまで武器を売りにするのならーーーー)

 

 そしてヤマトは、武器屋のなかで膝まずいた。

 

 

 

「ーーーーーーーだったら、もっと日本の武器があってもいいじゃないかぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 

 

 ヤマトの心からの叫びが第5層《セイジュン》の街に響き渡った。

 

 

 

 

 

 話は少し前に遡る。

 ヤマトはボス戦に挑戦したり、攻略組に正式に参加したりはしていなかったが、それでも最前線と呼ばれる層で戦っていた。

 本人は自覚なしだが、ヤマトはどこかの少年とは違って才能があったのだろう。ソロプレイヤーだというのに、破竹の勢いで攻略を進めていき、実力もどんどんつけていった。

 といっても、やはりソロではあるので、パーティーを組んでいる攻略組には一歩遅れをとっていたが、そもそもヤマト本人に誰よりも早く攻略を進めてやる! というような気概はないので、特に気にしてはいなかった。

 だがそんな少年にも、最近少し悩みができた。

 それこそ今回の話の本題だ。

 その悩みというのは、武器の少なさだ。

 片手剣、両手剣、細剣、棍、鎚、クロウ、薙刀等々...

 武器の種類そのものは多いのだが、どうにも偏りがある。例えば、店に置いてある片手剣の種類は優に7、8種類はあるのだが、少年が使っているような薙刀、要は少年が欲しがっているような日本で生まれた武器は種類どころか置いていないことの方が多いのだ。

 少年がいくら新しい強力な武器に変えようと思っても、そもそも売ってすらいないのだから手に入れられるはずもない。

 結果、先ほどの叫びに繋がるわけだ。

 

「なんで刀とか薙刀とかってほとんど置いてないんだろう? ソード、って言うぐらいなんだから刀ぐらい置いててもいいのに...いや、別に剣と刀を同一視してほしい訳じゃないんだ。そもそも刀と剣のルーツは全くの別物で........」

 

「.....なにやってるのよ」

 

 少年が店のなかで膝まずいたままぶつぶつと呪詛のように愚痴を言い続けていると、少年の頭の上の方から声がかかった。

 ゆっくりと頭を上げると、そこには以前助けた鼠もどきの少女が心底呆れたような表情で立っていた。

 少女は少年の顔を見るなり、「うわっ、半泣きだし!」等と若干引いている。

 

「.......なんだ、君か」

 

 それに対して少年はすぐに興味をなくしたらしく、再び項垂れポーズに移行する。

 しかも先ほどまでよりも若干テンションを下げながら。

 この少女の存在も、最近は少年の悩みの一つであった。別に実害というのは特にこれといってないのだが、最近妙に少年に絡んでくるので、ヤマトもげんなりとしてきているのが最近のこの二人の関係だ。

 

「おいこら、出会い頭になんだはないでしょーが」

 

(しかもこの人、毎回何故か喧嘩腰でくるんだよなぁ....)

 

 このままあと5分ぐらい絶望にうちひしがれたい気持ちだったが、このまま膝まずいていると少女に本気で蹴られそうな勢いだったので渋々と立ち上がる。

 少女の姿は前とは違い、もう鼠の意匠はほとんど見受けられなかったがローブとクロウは本人が気に入っているのか、色や形は違っても装備そのものは変わっていない。

 髪はロングで、首の辺りで一つに纏めて下ろしている茶髪。目は少しつり目気味で、青みがかった目が印象的な女性だ。

 

「で? さっきまで何してたのよ、あなた」

 

「別に....ただちょっと世界の理不尽に屈していたと言うか....」

 

「は? なにそれ?」

 

「いや、まぁ、単純に良い武器がなかったんだよ」

 

 少女は訳が分からないと眉間にシワを寄せていたが、あとに続いた言葉を聞いて納得する。

 実際、少女がβテスターの時も、そして今もそういったことはよく聞く内容だったからだ。

 合った武器がない、もしくは気に入った武器はあってもそのグレードアップバージョンはないといった具合にだ。

 

「ふ~ん、それで? なんの武器探してたの?」

 

「薙刀とか...刀とか?」

 

「またえらく珍しい武器ね」

 

「え、やっぱそうなのかな?」

 

 少年としても何軒も武器屋を回ってほとんどほしい武器を見なかったので、薄々とだがそんな気はしていた。

 だからこそ今しがた絶望していたわけだ。

 それでももしかしたら、という可能性をなんとか保っていたが、少女の言葉によって本当に泣きたくなってくる。

 少女は顎に手を当ててなにかを思い出すようにしながら話す。

 

「えーっと、確か私がβやってた時も刀なんかは装備してる人見たことがなかったわね」

 

 薙刀は本当にたまに見るぐらいだったわ。少女はそう言うと長い髪を鬱陶しそうに左右に振った。

 

「はぁ...やっぱりか...」

 

「大体、あなたその薙刀使ってそんなに強いんだからそのまま使えば良いじゃない」

 

「刀は男の子のロマンなの!! 一回で良いから装備してみたいんだよ!!」

 

「ロマンって...このデスゲームでそんなこと言ってられるあなたも相当よね」

 

 少女のジト目と言葉の裏の隠された言葉に気づいて、少年はさらに落ち込みそうになるのをなんとか堪える。

 いや、そもそも武器に拘ったり使いたい武器を使うことはこのゲームのなかにおいても重要なはずだ。

 少年はそう自分に言い聞かせる。

 

「でも確か...薙刀だったらこの前見たわーー」

 

「え! 嘘どこで!?」

 

「ひゃっ! ちょっと、急に近づいてこないでよ!!」

 

 少年はあまりの驚きに少女の手を握る勢いで詰め寄るが、すぐに押し返される。

 少女は煩わしそうに一度深くため息をついて、一度間をあける。

 

「はぁ...あのさ。言う前に一つに聞いておきたいんだけど」

 

「なに?」

 

「あなた、私の名前覚えてる?」

 

「...えーっと?」

 

「あなたねぇ......」

 

 少年はそこそこ頑張ってーーーー全力ではないーーーー目の前の人物の名前を思い出そうとするが、記憶の海馬のどこにもそういった情報は見つからない。

 というか、本当に聞いたのかさえも分からない。

 首を傾げて、その傾きが90度に近づきかけた瞬間、少女の忍耐力の限界が来た。

 

「帰る」

 

「うわわわ! ごめんごめん! えーっと...そうだ! テルナさんだ!」

 

「カリンよ! 一文字すらも覚えてないじゃない!!」

 

「そ、そうそうカリンさん! ごめんなさいカリンさん、忘れてた訳じゃないんですカリンさん! だから置いてかないでカリンさん!」

 

「あー、もう!! 何度も呼ばなくても良いわよ!!」

 

 店のなかで個人名を連続点呼という軽いいじめに近いことをしてなんとか止める。少年としてはそういう気はとくになかったのだが、自然とそうなってしまったので仕方がない。

 そもそも少年は今も少女がなんで怒っているのかもよく分かっていない。

 この少年はいわゆる、天然純粋系男子なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ムカつく。

 少女ーーカリンがヤマトに抱いている感情はほとんどがそれだった。

 思えばヤマトの少女に対する態度はいつもふざけたもの、というか間抜けなものばかりだった。

 最初の出会いからして、何も損得なんて考えずに少女を助けたり。

 それから何度か会ってみても、会うたびに少女の名前を忘れていたり。

 話してみれば毎回マイペースに適当に話したと思ったら勝手に会話が終わらせられるし。

 とにかく、少女は少年のことが気にくわなかった。

 もちろん、少女も初対面で助けてもらったことは感謝している。

 そのあとも何度か少女のことを気遣ってくれたことも。

 だが少女からすれば、どうしてもその行動全てに裏があるのではないかと勘繰ってしまうのだ。

 それらのこともあって、その裏を取ってやろうと少女は何度も少年に会いに行っているのだが...

 

「それでミライさーーじゃなくて、えーっと...カリンさん! その薙刀はどこにあったんですか?」

 

(こいつ、本当はただのバカなんじゃ...)

 

 少女の中のなにかが早々に折れかかっていた。

 とりあえず先ほどの店のなかにいても仕方がないということで移動しながら説明しようと思った少女だったが、藍髪少年のあまりの呑気さに、今日何度目かももう分からなくなったため息をつく。

 

「カリンさん?」

 

「...あー、えっと、薙刀の話だっけ? 今からそこに連れていくからそこで説明する」

 

「分かりました!......あっ、ちょっと美味しそうなものあったので買ってきても良いですか!?」

 

「もう、好きにして...」

 

 言うと、少年は本当にスキップし始めるんじゃないかという感じで出店の食べ物を買いに行った。

 あの少年は、自己中...ではないのだが、先ほども言ったようにすごくマイペースなのだ。

 

(しかも、いつの間にか敬語になってるし...薙刀の所在が分かったからって、どれだけ現金なやつなのよ)

 

「すいません、待っていてもらってありがとうございます!!」

 

「それは別にいいけーーってなにそれ!?」

 

「え、なにって......」

 

 少女が顔を上げた先には、串に何か黄色や緑、紫色をした団子が刺さっていて、しかも何故か赤紫色に輝いているタレがかかった『何か』があった。

 気のせいか、妙に威圧感を感じる食べ物だ。

 

「団子ですよ?」

 

「その謎の物体を団子だなんて絶対に認めないわよ!! ていうか何よその色は!?」

 

「やだなー、この色が美味しそうなんじゃないですか」

 

(えっ!? この罰ゲームで食べさせられそうなものが美味しそうに見えるの!?)

 

 少女は今度こそ完全に引く。この藍髪少年は本当に分からない。

 そんな少女の反応をどういう風に捉えたのか、少年は少し首をかしげていたが、すぐに何か理解したように顔の位置をもとに戻す。

 

「あ、大丈夫ですよ! ちゃんとカリンさんの分もありますから!」

 

「絶対にいらないわよ!!」

 

「えー...スッゴク美味しいのに」

 

 はむ、と少年は串の上に刺さっている団子を一つ食べる。

 するとすぐさま頬を綻ばせた。どうやら満足のいく味だったらしいが、その反応に少女はさらに引いた。

 

「...とにかく、なんでもいいから、私への敬語はやめて。今までタメ口だったのに、急に畏まられても鬱陶しいだけよ」

 

 しかも少年の場合、敬語になった途端に妙にウザったいテンションで絡んできている。

 いくらなんでもこれは少女としてもキツイ。

 

「え、そうなの? だったら早く言ってくれればよかったのに」

 

「順応はやっ!?」

 

「え?」

 

 こいつ本当に厄介すぎる。そしてムカつく。

 少女は一瞬自分の右手を振り上げそうになったのを必死に堪えた。どうせ圏内だから当たらないし、そもそもこの少年なら普通にかわしそうだったからだ。

 

「そういえば、さっき武器屋で曲刀買ってたけど、なんに使うの?」

 

「......刀も薙刀もなかったから、せめて小太刀気分を味わいたかったんだよ」

 

 聞いてみたことを後悔するレベルのどうでも良い話だった。

 少女はまたため息をつく。

 本当、私もこんなやつさっさと見限れば良いのに。

 頭ではそう分かっているのに、どうしてかその気にはあまりなれない、カリンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《セイジュン》は少し変わった街で、街の中央には大きな池があり、道や店はその池の縁を沿うようにできている。

 しかもその池には橋や渡舟といったものは一切ないので、移動には不便と言える街だった。

 だがそのぶん風景に関しては今までの街のなかでもトップと言える街だ。なにせ街のほとんどどこにいても澄んで綺麗な池が見えるのだから。

 カリンはヤマトのマイペース会話に精神を減らしつつ、その都度素晴らしい風景を見て精神を回復させながらなんとか目的の場所に着いた。

 

「ここよ」

 

「よし、さっそく入ろう!」

 

「ちょっとは考えて行動しなさいよ、この単細胞。ここ、店じゃないわよ」

 

 少女が言った瞬間に目的地である建物のなかに突撃しようとする少年を装備の襟を掴むことでなんとか止める。

 確かに、少女が言ったように、今二人の目の前にある建物は武器屋ではなかった。それどころか何かを売っている店ではない。

 

「ここ...普通の一軒家?」

 

「そ。前のβテストの時と同じならここで報酬が薙刀のクエストが受けられるはずよ」

 

「あ、なるほど。報酬で武器がもらえるパターンもあるのか」

 

「じゃあクエストの受注に行くわよ」

 

 言って、少女は木製の扉をノックする。

 するとすぐさま家の中から足音が聞こえて、10秒と経たないうちに扉が開けられた。

 

「すまんのう、どちらさまで?」

 

 中から出てきたのは50代後半ほどの初老の男性だった。顎に蓄えれている長い髭が特徴的だった。

 

「はい、私たち、ここに素晴らしい薙刀があると聞いて、一目拝見したいと思って来たのですが」

 

「ほう、それはありがたい話だ。だがすまんのう、今少し立て込んでおって.....」

 

 そこまで男性が話したところで、少女は少年の腕に肘つく。

 ここからがクエスト受注なのだ。

 少女は少年とパーティーを組んでいないので、ここで下手に少女が何か言うと、少女がクエスト受注をしてしまうことになる。

 なのでフラグを進める要所は少年が行わなければならないのだ。

 その事に少年も気づいたようだ。

 

「あの、なにか困ったことがあるのなら、僕たちが相談に乗りますよ?」

 

 

 

 ...........................。

 男性の話はこうだった。

 男性はこの街で有名な薙刀職人であると同時に、子供たちに大人気な優しいおじいさん的存在だった。

 街の人たちも、この男性のことは信用していて子供たちをよく預けたりしているらしい。

 だがそんなある日、男性に一人客が来た。

 その客はカリンやヤマトと同じ理由で来た客で、男性に是非とも薙刀を打ってほしいと言ってきた。

 しかし男性は、薙刀はもうしばらく打っていない、もう引退したと言って打たなかったのだ。

 客もそれだけの理由では引けず、かなり食らいついたが、男性は頑として首を縦には振らなかった。

 そんな男性に客は遂に大激怒。その日は帰っていったらしいが、その翌日に男性に一通の手紙が届いた。

 子供を1人預かった。返してほしくば薙刀を人数分打ち、街を出て南に行った洞窟まで持ってこい、という内容だった。

 しかしその打つ本数がまた尋常ではない数で、今ある材料では全く足りないとのこと。

 そこでヤマトたちに薙刀の材料を採ってきてほしいとのことだった。

 そうすれば自分が今すぐにでも薙刀を打ち、あの客のもとへと持っていくから、と。

 

 

 

 話を聞き終えて、家へ入れてもらった後に出されたお茶を少女が一口飲む。

 そうしながら横目で隣に座る憎たらしい藍髪少年を見るが、少年は話を聞き終えてもしばらく目を細めているだけだった。

 その様子を見て少女は、やはり、と自分の考えが正しかったことを理解した。

 

(今NPCに提示されたアイテムはどれもこの層で採れるものだけど、どれも入手するには面倒なものばかり。いくらこいつが筋金入りの偽善者でも、本心を表に出さないやつでも、こんなクエストは進んで受けようとは思わないでしょう)

 

 それでも、この少年ならこのクエストも受けるだろうと思った。

 その理由は、報酬の薙刀のためでもあり、少年が偽善者だからでもある。

 そしてそんな少女の予測は的中した。

 

「......はい、分かりました。お引き受けします」

 

 少年は男性にクエストを受ける一言を言った。

 少女の考え通り、やはりこの少年も偽善者なのだ。

 それでもクエストを受けたことは評価するが、少女はつい落胆のため息をついた。

 ......そこで自分の矛盾に気づく。

 

(ため息? なんで? 私はこいつの偽物の善性を暴きたかったんじゃないの!? なのになんで私はこんなに落胆して......)

 

「カリン?」

 

「っ! なに?」

 

「いや、何って......これから君も着いてくるのか聞いてたんだけど」

 

「え.....あっ」

 

 少女が違和感をもって辺りを見回すと、いつの間にか少女も少年も、薙刀の男性の家からは出ていて街中を歩いていた。

 どうやら考え事に集中しすぎて回りが見えていなかったようだ。

 いったいどれだけ無駄な落胆してたのよ。少女は軽く首を振って思考を振り払う。

 

「着いてくるって...どうせめんどくさい素材集めでしょ? まぁ、私が紹介したクエストなんだから手伝うわよ」

 

「え、いやそうじゃないんだけど」

 

 少年の言葉に首をかしげる少女。

 そもそも今話しているのはこのクエストのことではないのか? それ以外の話なんて......

 少女が顔をしかめているといると少年はまたもや少女の予想を越えてくることを言った。

 

 

 

「だから、今から子供助けにいくけど着いてくるの? って話してたんだけど」

 

 

 

「......え?」

 

 少女の思考に空白が生じる。

 こいつは今なんと言った?

 子供を、助ける?

 訳が分からなかった。理解できなかった。

 少女は目の前にいる少年に疑心感を越えて、どこか気味の悪い感覚を覚えた。

 

「あなた、何を言っているの? あなたの言っている『助けに行く』っていうのは素材を集めにいくことを指しているんじゃないの?」

 

「いや? 単純明快言葉通り。今から子供を助けにいくよ?」

 

 言うと。少年は既に歩き始めてしまった。相変わらずのマイペースさだ。

 そんな少年の行動にも少女は苛立ちと不安感を積み重ねていく。

 

「っ! そんなこと、できるわけないでしょ!? このクエストは素材を集めてこいっていう内容なのよ!?」

 

「表向きには多分そうだと思うよ」

 

「......表向き?」

 

 少年は適当に街並みを見ながら頷く。

 

「だって、本当に素材を集めてこいっていう内容だったら、その客(仮)が指定してきた場所とか言わなくても良いと思うんだよね~」

 

「それこそ深読みのし過ぎなんじゃないの? このSAOは設定が細かいところがあるからなんじゃ......」

 

「それならその時だよ......それで?」

 

 少年が少女の方を振り向く。

 そこはフィールドに出るための門の前だった。

 

「着いてくるの?」

 

 なんの緊張もなく、いつも通りのマイペースさで聞く少年。

 そこには前にも見た、ただただ真っ直ぐに前を見据えている、少年がいた。

 そんな少年を目の前にして、少女はただこう思った。

 

(負けた......)

 

 この少年は、格好をつけているわけでも、ましてや素材を取りに行くのは面倒なわけでもない。

 少年が先程考えていたことは、『どうやったら最短で子供を助けられるか』それだけだったのだ。

 ......いや、少女はそもそも心のどこかではそれが分かっていた。藍髪少年に裏も表も、そんなものは存在しないと。

 だからこそ、先ほど少なからず落胆したのだから。

 

(......いいわよ、認めるわよ)

 

 ーーーーーーー彼は、ヤマトは本物だ。

 ヤマトは、もしも自分かもう一人の誰かしか助からないような状態になっても、その相手が誰であろうとも、迷いなく自分からその席を相手に譲るだろう。

 もしくは自分にできるありとあらゆることをしてそんな理不尽な現状を打開するだろう。

 その結果、自分の足が切れようとも、腕がもげようとも。

 それはもともと少女は理解していた。それでも認められなかったのは少女の意地ゆえか。

 少女は一度大きくため息をつく。

 

「......止めておくわ。私が行ってもただの足手まといにしかならないと思うから」

 

「そっか」

 

 それだけ言うと、少年は街の外へと歩いていった。

 少女が着いていかなかったのは、自分の実力不足だけが理由ではない。

 単純な話、ヤマトなら自分一人で何とかしてしまうだろうという予感、いや、確信があったからだ。

 

「本当、私も『甘いもの』好きだなー」

 

 甘い世界、優しい世界なんて、この中じゃどう考えてもあり得ないのに。

 ヤマトがやっていることなんて、やろうとしていることなんて無謀にもほどがあるのに。

 それを分かりつつも少女はヤマトの背を見ながら、小さく呟いた。

 そして少女はヤマトを見送ると街に戻っていった。

 けじめをつけるために。

 そのためには、まず、今度は明確な情報が必要だ。

 

「あの、すいませんーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、いたいた、ただいま、カリン」

 

 果たして、ヤマトは戻ってきた。ニコニコ笑顔で。隣に少女を連れながら。

 ヤマトが街を出てからほぼ5時間。辺りにはすっかり帳が降りていて、風も少し肌寒い。

 そんな中、2時間ほど待たされた少女は軽くキレ気味だった。

 

「......さっさとクエストの報告に行くわよ」

 

「はーい」

 

 いつも通りに返してくるヤマトに少女は小さく舌打ちする。

 少女としてはかなり声にも雰囲気にもドスを効かせたつもりだったのに、ヤマトの様子がなにも変わらなかったのが悔しかったのだろう。

 一人は能天気にニコニコ、一人はストレスからキレ気味、一人はよく分からず素の状態。そんなカオスな状態を維持したままカリンたちは依頼主の家の前についた。

 

「じゃあ、僕はこの子とおじさんに会ってくるよ」

 

「はいはい」

 

「......」

 

「......」

 

「......」

 

「......何よ、さっきからずっと見て。家のなかに入るんじゃないの?」

 

「いや、うん。まぁ、そうなんだけど」

 

「?」

 

 ヤマトにしては珍しい、奥歯にものが挟まった話し方をするので、少女は眉間にシワを寄せる。

 少女は、ヤマトがまた妙のことを言ってくるのかと身構える。

 

「今日はカリン、帰らないんだな、と思って」

 

「......はぁ?」

 

「いつもならここでカリン帰るでしょ?」

 

 そんなこと......少女はすぐに言い返そうとしたが、結局言えなかった。

 確かに今までの自分を思い出すとその通りだと思ったからだ。

 微妙に自分の行動が読まれていることに少女はため息をつく。

 

「そんなことどうでも良いから、さっさと行ってきたら?」

 

「あ、うん」

 

 ヤマトはそのまま子供を連れて家のなかに入っていく。

 その時になって、またこの寒空の下またあのバカを待たなくてはならないのかと気づき、自分も家のなかに入るべきだったと後悔し始める少女だった。

 それから10分後。

 

「あ、やっぱりまだいた、薙刀はちゃんと貰えたよ......ってどうしたの?」

 

「............別に」

 

「うわお、すごい殺気」

 

(そう言うんだったらもう少し怖がるとかなにかしなさいよ!)

 

 少女は心のなかで愚痴りながらも、さらに殺気をヤマトに送るが、やはり変化はない。

 もういっそのこと本当に殴りかかってしまおうか?

 少女はそのままヤマトのことを睨んでいたが、一度目をつぶって精神を整える。

 そして目をつぶったままヤマトに話しかける。

 

「ーーーーーーーー曲刀」

 

「......へ?」

 

「まだ誰も使っているプレイヤーはいないけれど、噂だと《曲刀》スキルを上げ続けてるとそのうち《刀》スキルが出るかもしれない、とのことよ。よかったわね、さっき偶然買ってて」

 

「え......? もしかしてそれを言うためにーー」

 

「まぁ、あなたが曲刀を使わないことには意味ないけどね」

 

 それ以上は話すことはなにもない。そう暗に伝えるように、少女はそのままその場から離れるように歩き始めた。

 それは自分の本心をわざわざヤマトに言われるのが恥ずかしかったからかもしれないし、単純にこれ以上ヤマトと一緒にいたくなかったからかもしれない。

 とにかく、少女は一刻も早くヤマトから離れたかった。自分がヤマトが去った後に《刀》スキルのことを調べたなんてことを言われる前に。

 ....のだが。

 

「ちょっと待ってよ、カリン」

 

 そんな少女の気持ちお構いなしにヤマトは後ろから追いかけてきた。

 これにはさすがに少女も耐えきれなかった。

 

「あーっもう! 何でついてくるのよ!? あなたは空気が読めないわけ!? それとも私に何か嫌がらせでもしたいの!? それならもう大成功してるから私を一人にしてくれない!?」

 

「え、いや、何で急にそんなに怒ってるの?」

 

「私は今日あなたに会ったときからイライラしてるわよ!!」

 

「......なんで?」

 

「そんなの当たり前でーー」

 

「まぁ、それはどうでも良いや」

 

「もぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 ヤマトのあまりのマイペースさに完全に少女の堪忍袋の緒が切れる。

 少女の方がヤマトよりも身長が低いこともあって、端から見れば完全に妹が兄に駄々をこねているような光景だったが、運よく今はもう夜中なので周りには誰もいない。

 ......そのぶん少女の叫び声が夜の静かな空間に木霊して、余計に空しい光景になっていたが、ヤマトも少女も気づかない。

 

「それよりも、ありがとね」

 

「はぁっ!? なによ急に!?」

 

 少女ももうテンションがダメな方向に上がりすぎていて、なぜかケンカ口調になってしまっている。

 しかし、ヤマトはそんなこといつものように気にせず続けた。

 

「今回のクエスト。本当はβテストの時にはなかったんでしょ?」

 

 少年の一言で少女は頭に上っていた血が一気に下りる。

 その後に少女が感じたのは微かな後ろめたさだった。

 

「......なんで......知ってるのよ」

 

「この街に戻ってくる前にプレイヤーに会ってね。その人がストレージにも入りきらないほどの木とか持ってたから持つのを手伝ったんだけど、そしたらその人が持ってた木が今回おじさんに頼まれた材料だったわけ」

 

「......それで?」

 

 少女は少しずつ大きくなっていく後ろめたさで、ヤマトから視線を外した。

 

「それで、その材料のことを聞いたら、その人が『このクエストβテストにもなかったのによく知ってるな』って」

 

「......はぁーーーー」

 

 少女は大きくため息をついた。

 色々思うことはあったが、少女としては隠していたことがバレたのが何よりも恥ずかしかった。

 そう、今回のこのクエストは、少女が一から探しだしたクエストだった。

 ヤマトが新しい薙刀を探していることを知って、ヤマトの本心を探ることと、一応助けてくれたことへの恩返しにちょうどいいと思ったのだ。

 ヤマトが迷いもせずに材料を集めにいくのなら、本物だと信じてやってもよかったし、ヤマトが偽善者だと確信できれば、単純にクエストの報酬を自分を助けてくれた報酬として、これから先一切関わらないようにしていこうと思っていた。

 そんな少女の考えも、ヤマトは簡単に越えていってしまったのだが。

 

「あっ、あと」

 

「今度はなによ......」

 

「カリン、初めて会ったときから騙した人全員に謝りに行ってるんだってね」

 

「っ!?  なななな、なんで知ってるのよ!?」

 

「いやー? これは単純に噂になってたから」

 

 そこで少女は、しまった、と顔を押さえた。

 確かにヤマトの言うとおり、情報屋の偽物、というだけでも話題を集めやすいのに、その上その偽物が改心して謝りまわっていたらそりゃあ、噂にもなるだろう。

 

「でも、カリンって本当に悪いことしてたんだ」

 

「......だったら何? 今からでも《黒鉄宮》にでも連れていく?」

 

「なんかすごい心が荒んでるな......。別にそんなことしないよ。カリンはもう改心してけじめもちゃんと自分でつけてるんだし、そんなことしても意味ない......どころか、カリンに失礼だし」

 

「分からないわよ? もしかしたら改心したっていうのもただのポーズで、明日からでもまた同じことをし始めるかも」

 

 もちろん嘘だ。

 少女としてももう一度あんな思いをするぐらいなら他の道を選ぶ。少女は自分からトラウマを作りにいくほどマゾではない。

 それでも今は色々暴露されたあとだったのでかなり自棄っぱち状態だった。

 

「まぁ、そんなことはないと思うけど......そうなっても今度は友達が止めるから大丈夫でしょ」

 

「......友達? そんなやついないわよ」

 

「? 僕とカリン。友達じゃないの?」

 

 ヤマトが自分と少女を交互に指差す。

 それに対して、完全にフリーズする少女。

 数秒間フリーズしたままの少女だったが、その完全空白状態の脳に、一つの感情が沸き上がった。

 ヤマトと、友達。

 こんな面倒でムカつくやつと?

 こんな完全マイペースで他人の心中を鑑みないやつと?

 こんな......優しくて、真っ直ぐなやつと?

 ...........それは、少し嬉しーーーーーーーー

 

「って、そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

「うわっ!? 急にどうしたの!? なんか今日情緒不安定じゃない!?」

 

「うるさい! あなたのせいよ!! 全部全部全部、あなたが悪いのよ!!」

 

「え、本当になんの話!?」

 

「大体、私はあなたのこと認めなんかしないから!! あなたなんか大っ嫌いよ!!」

 

 絶叫しながら、少女は今度こそヤマトから一秒でも早く離れるため全力で街を走り去っていく。

 それをヤマトは止めはしなかったが、一つ言い忘れたことがあったのを思い出す。

 そしてヤマトは大きく息を吸い、叫び返した。

 

 

 

「カリーーーーン、薙刀とか刀とか、色々ありがとーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

「うるさーーーーーーーーーーーーーい!!!」

 

 

 

 

 そんな叫びの応酬が、夜の街に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 本当、あいつなんなのよ。

 会うたび会うたび人の神経逆撫でするような言動ばかりだし、狙ったかのように人が嫌がることしてくるし。そのくせ全部天然っぽいし。

 変な食べ物好きだし、薙刀、刀マニアだし。

 いっつも他人のことなんか気にせずにマイペースに動いてるし。

 なのに戦うとめちゃくちゃ強いし、子供みたいな理想論振りかざして、それを本当に実現するし.....

 

 ーーーーーー本当、ムカつくやつ。

 

 

 

 




はい、戦闘がありそうでない回でした。

....おかしいな。もうちょっとこの二人の関係って少しビター系になると思ってたはずなのに、なんでこんなギャグ関係....
....おかしいな。この話、なんで出会い編最終話とほぼ同じぐらいの文字数になってるんだろ?
ヤマトくん同様、ASは分からないことが多いです。

さて、今回名前初登場のカリンちゃんですが、分かってもらえた(と思う)ように、ツンデレっ子ですね。しかも本人も無意識のうちにって重度なやつです。
まぁ、別に彼女恋愛感情とかはまだ持っていないのですが、というか、持つのかもまだ不明ですが。
持つようになったら...かなり面倒な子になりそうだなぁ、そこがまたいいんですけど。

次回は本編の方で、新編突入です。
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