力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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20話目です!
新章突入です!
といっても今回とくに新しい動きがあるわけではありません、導入編というやつです。

それではどうぞ!


SAO 明るく儚い日常
20話目 日常と非日常


 2023年 3月2日 木曜日

 

「ふぁ~あ...」

 

 よく寝たぁ....

 空は....うし、今日も天気いいな。

 この世界は本当にゲームのなかなのかってツッコミたくなるぐらいに自然な天気してるし、雨の日だと攻略の効率も下がってしまう。

 これなら今日も攻略を進められそうだ。

 この世界に囚われてから、すでに5ヶ月近く経過した。

 階層が進むにつれて俺たち俺たちプレイヤーも攻略の方法が分かってきたらしく、攻略スピードはどんどん上がっていった。

 その甲斐もあって、最初は絶望的に思えた攻略も今は10分の1を越えた12層まで進んでいる。

 俺の実力もメキメキとーーーーとはいっていない、世の中はままならないものである。ちくしょう。

 コンコン。

 扉の方から軽い音が聞こえてくる

 

「コウキー! 起きてるー?」

 

「あぁ、起きてる! ちょい待って!」

 

 俺は素早くウィンドウを操作して、服から防具に着替える。

 基本的に朝に弱かった俺だったが、ミウと共に行動するようになってからは一つ一つの行動が早くなったと思う。

 というのも、前に俺が寝ぼけていてミウが来たのに返事をするのが遅れたときは、パーティーならドアを開けられることをいいことに、ミウが突貫してきたことがあった。

 しかも寝ぼけながらも俺は着替えていて、ちょうど服をストレージに入れたところだったので半裸状態でミウとばったり。

 その結果ミウが暴走してぶっ倒れる、ということがあったのだ。

 あれは本当に困った。

 後にミウになんであんなことをしたのか聞いてみると、

 

「いや、ちょっと寝顔をーーーーじゃなくて! 自分の欲望に勝てなかったというか......しかも突撃したらそれ以上のものが待ち構えてるし」

 

 と、よく分からないことを言っていた。

 部屋のチェックをして、扉を開ける。

 

「おはよ、ミウ」

 

「おはよ~」

 

 ミウがいつも通りの笑顔を向けて言ってくる。

 こうやってミウが隣にいるこの世界の風景も、最近では違和感もなくなり完全に見慣れた風景になっている。

 最近と言えば、ミウはこの頃おしゃれというものに気を使っているらしく(前までがおしゃれではなかった、というわけではないのだが)、いつもどこかにワンポイントグッズを着けていたりする。

 ここ1週間はヘアピンだ。

 

「今日はどこまで行けるかなー?」

 

「迷宮区手前ぐらいまで行けたらいいけどな」

 

 こうやって、ミウと朝に会い、二人で夕方まで攻略、夜は一緒に夕食を食べながら笑い話。

 これが俺とミウの日常だ。

 俺はこの日常にすごく満足している。

 そりゃ勿論、攻略で命を落としかけたり、そもそもこの世界に囚われている時点で快適ではないのかもしれないが。

 それでも俺はこの日常が割りと好きだ。

 まぁ、たまには命のかからない意味での刺激がほしいけど。

 

「おーい、コーウキー!」

 

 フィールドに出ようと街の真ん中辺りまで歩いてくると、大声で俺を呼んでいると思われる声が飛んできた。

 嫌な予感がしつつ、目線だけで声がしてきた方を見る。

 

「コーウキー!! ミウちゃーん!!」

 

 案の定、目線の先にはこちらに手を大きく振りながら駆け寄ってくるバカ(ヨウト)が。

 ミウを見ると、ミウも同じ方向を見て手を振っているのでどうやら俺の幻覚、及び幻聴というわけではないようだ。まことに残念だ。

 はぁ、なんというか....少し前の自分をぶん殴ってやりたい。なんで刺激が欲しいとかワガママ言ってたんだろう....

 あ、ミウ。ヨウトが俺を呼んでることに気付いてないわけでも、無視を決め込んでいるわけでもないから袖引っ張んなくても大丈夫だぞ?

 でも心の準備はさせて。

 そんなことをしている間に、ヨウトがこちらまで来た。

 

「うっす、コウキ、ミウちゃん」

 

「ヨウト、おはよ~」

 

「........おはよ、ヨウト」

 

「なんだよお前? 朝っぱらからテンション低いな」

 

「逆だろ、普通朝だからテンション低いんだろうが」

 

 落ち着け、下手に怒鳴ったりすればこいつのペースに乗せられてしまう。その先に見えているものはもう十分わかったはずだろう?

 俺は一度深呼吸する。

 

「おっ、ミウちゃんそのヘアピン似合ってるな」

 

「えっ、ほんと? ありがと~」

 

 そうですか、俺の意見は無視ですか。

 しかもさりげなくミウのヘアピン褒めてるし。

 .............。

 

「えいっ」

 

「いたっ! コウキいきなり何すんだよ!」

 

「なんとなくだから気にすんな」

 

「理不尽っ!?」

 

 強いて言うならヨウトが慌てふためく姿が見たかっただけだから、そりゃ深い理由はないに決まっている。

 まぁ少しすっきりしたからよかった。

 

「もう、コウキ? あんまりヨウトのこといじめたらダメだよ」

 

「はーい....で、ヨウトはなんか用あったんじゃないのか?」

 

 ヨウトは、あぁ、と返事する。

 

「お前らこれから攻略に行くんだろ? 俺も混ざっていいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 この層は《ゴブリン》の住み処らしい。

 この12層はジャングルのように高い木が層全体に生い茂っているのだが、周りどこを見ても《ゴブリン》がいる。

 木が視界を阻害するように乱立している上に、《ゴブリン》はかなり人間に近い脳を持っているせいか、5~6で束になって連携しながら襲ってくることが多いので非常に戦いづらい。

 多対一なんてことになればよりいっそう辛くなる。

 そんな理由でソロのヨウトは今回の層は少々きつい面があるので、俺たちに組んで欲しいとのことだった。

 まぁ、俺とミウとしても、ヨウトと組むことで危険な場面に出会っても対処しやすくなるので、断る理由なんてなかった。

 これで今日の攻略はいつもよりも効率よく進みそうだ。

 .....と、思っていたのだが。

 

「はっ!!」

 

 俺の横一閃の剣戟が、《ゴブリン》を一刀両断する。

 これで23匹目!!

 ヨウトの方を見れば、今は2体同時に相手をしていて、少し苦戦しているようだ。

 チャンス! 今のうちに....!

 俺は素早く周りを確認して、比較的数の少ない《ゴブリン》の群れを探す。

 ーーーー俺たちが今何をしているかと言うと、俺とヨウトが前にもやっていた狩りレースだ。

 最初は普通に攻略していたのだが、その移動中の会話で以前の狩りレースの話題が上がり、ミウが「楽しそう」と目を輝かせた結果、今に至る。

 今回はもちろんミウも参加している。

 《ゴブリン》は群れで行動するが、単体の能力はかなり低いmobなので、囲まれたら=死ぬ、なんてことにはならないが、それでも俺たち3人だれかのHPが半分を切ったら、残りの二人はその一人のヘルプに行く、というルールは設けている。

 このルールは使用されるとするのなら間違いなく俺に使用されると思う。

 そんな今も絶賛力不足な俺は、今回もやはり最下位を突っ走っていた。

 2位との差はまだ絶望的なほどではないが、それでもかなり開いている。

 これは無理か....? 少し弱音が出てきた心に活を入れる。

 いや! こんなことで弱音を吐いてどうする? 俺はもっと強くならなくてはいけないのだから!

 だから、今回こそは!!

 俺は数の少ない《ゴブリン》の群れに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっしゃぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「うぐぐ.......」

 

「楽しかったー」

 

 夕方まで狩りレースを行った結果、ミウ56匹、俺47匹、ヨウト46匹。

 各々の感想は先ほどの俺たちの台詞通りだ。

 俺は両手を挙げて、ヨウトは膝まずき、ミウはそんな俺たちを見ながら楽しそうに笑っている。

 .......なんというか、《ゴブリン》を倒した数と器の大きさがそのまま出てる構図だと思った。

 ミウには完敗だとしても、ヨウトにはギリギリ負けていないのがポイントだ。

 とりあえず、ミウとの差を考えると少し恥ずかしくなったので、俺は挙げている両手を下げた。

 うん、でもまぁ、ミウには負けたけど、ヨウトの勝てたというのは1歩前進と言ってもいいんじゃーーーーーー

 

「って、全然攻略進んでねぇ!!?」

 

「あはは....すっかり楽しんじゃったね」

 

 ウィンドウを開いてマップを確認するが、昨日までに進めた場所からほとんど変わっていない。

 これは...他のやつらにかなり遅れを取ったんじゃ.....

 俺が軽く意気消沈していると、ヨウトがいつも通りの軽いテンションで言ってくる。

 

「まぁまぁ、気にすんな。大丈夫だって」

 

「なぁ、毎回思ってたんだけど、なんで事の発端のお前が一番被害被ってないの? なんで一番開き直ってるの? もしかしてここまで全部計算でやってんのか? ねぇ、なんで?」

 

「ストップストップ!! コウキ、目がマジすぎるって!!」

 

 知るか、そんぐらいこっちはストレス溜まってんだよ.......!

 俺が今すぐ剣で目の前のストレス増幅機を破壊しようかどうか悩んでいると、増幅機は目を泳がせた後に、驚くべき速さでミウの後ろに回り込んだ。

 

「ミウちゃーん! 助けてー!!」

 

 こいつ....卑怯な....っ!

 ミウの後ろに移動されて手が出せない俺と、半泣きになりつつも、なお軽いテンションというヨウトに挟まれたミウが困ったように笑う。

 

「まぁ、いいんじゃない? 私たちも経験値稼ぎは目的にあったんだし」

 

 どうやらミウ的にはヨウトを許す方向でいるらしい。

 ....確かに、ミウの言うことも事実ではある。

 ある意味一日中レベリングに使ったようなものなので、経験値はバカみたいに手に入った。

 実力不足が悩みである俺にとってはかなり嬉しい.....のだが。

 

「ミウの後ろでニヤニヤしてるそいつの顔を見てるとどうしても頭にくるんだよなぁ....」

 

「そこは、まぁ、許してあげよう。ヨウトなんだし」

 

「はぁ...まぁ、ヨウトだしな」

 

「あれ? 俺に得な流れになったのに腑に落ちないのはなんでだろう?」

 

 それは最近ミウのお得意、隠れSを食らってるからだよ。

 ミウってたま~に笑顔のままですごい毒舌吐いてくることあるからな.....しかも本人はほとんど無自覚。

 まぁ、それは冗談にしても、ヨウトは本当に人の扱いが上手い。もちろん悪い意味で。

 なんというか、人が本気で怒るラインとそうじゃないラインの見分けが上手いというか....

 

「はぁ」

 

 結果、毎回俺がため息をつくしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ....なんで俺がこんな目に....」

 

 その後、今日はさすがにもう攻略は無理だろうということで、俺たちは街に戻ってきていた。

 最終的にミウが

 

「ヨウトに今日何か奢ってもらうってことでいいんじゃない?」

 

 という案を出して、あの場は丸く収まった。

 もう夕飯時だし、奢ってもらうのは夕食でいいだろう、ということになったのだが。

 

「完全に自業自得だろ。お前がこの層の食べ物が高いこと忘れてたんだし」

 

 この層は、どうもグルメ街という設定があるらしく、食べ物の味が他の層よりも格段に美味いのだ。

 そのぶん、値段も格段に高いが。

 参考までに言うと、ミウ大好きのスパゲッティが他の層では700コル程度なのだが、この層では1,500コルほどする。ミウが前に涙目になっていた。

 それでもテイクアウトのタイプーーーーホットドッグなどーーーーを選んで買ったお陰でまだ安い方だったが、俺、ミウ、ヨウト自身の晩ごはんを買った結果、ヨウトの財布のなかがかなり吹き飛んだらしい。

 今は俺の部屋に戻って食べるために、この層の転移門に向かっている。

 

「っていうかヨウト、別にこの層じゃなくても他の層で買えばよかったんじゃない?」

 

「へっ....あっ!! そうじゃん!! しくったーーーーー!!!」

 

 ミウの意見に男泣きする勢いで悶絶するヨウト。

 まぁ、俺も最初からそのことには気づいてたけど。やっぱりこいつバカだな。

 えっ? なんでヨウトに言わなかったのかって? そりゃもちろん、こいつのこういう苦しむ姿が見たかったからですヨ。

 いやぁ、眼福眼福。

 

「ヨウト、そんなに落ち込むなよ? なっ?」

 

「コウキー、顔と言動が一致してないよー?」

 

 おっと、どうやら俺の幸せ成分が顔からにじみ出てしまったようだ。気を付けなくては......ふふ。

 ただ今回はミウも止めには入ってきていないので、案外楽しんでいるのかもしれない。

 などとミウと軽くコントをしていると。

 

「うわーーーーーーーーーん!! お前らなんか嫌いだーーーー!!」

 

 そう言って、ヨウトがどこかに走っていってしまった。

 

「えっ、ちょっとヨウトーーーーー!?」

 

 ミウが慌てて呼び止めるが、それでもヨウトは止まらず、すぐに見えなくなってしまった。

 

「あー....行っちゃった」

 

「まぁ、転移門の方向だったし、うちの前にでもいるだろ」

 

 あいつが大枚はたいて買ったあいつ自身の晩ごはんも、俺とミウのと纏めて俺が今持ってるし。

 俺がそう言うと、ミウが何か言いたそうに困った笑みを浮かべる。

 ....そういえばヨウトがいるときは、ミウがこういう笑顔をすることが多い気がする。やっぱりヨウトがどうしようもないという考えは誰にでも共通なんだよな。

 うんうん、と俺が頷いていると、ミウがさらに力なく笑う......なぜ?

 

「ん~、まぁ、とりあえず、コウキの部屋まで行こっか?」

 

「あぁ」

 

 転移門まではここから歩いて5分ほどだ。

 そこまではいつものようにミウと話ながら移動する。

 転移門に近づいてくると、俺たちと同じで他の層に移動しようとするプレイヤー、逆に他の層から来たプレイヤーたちのせいか、やはり人が多い。

 しかもこの12層は解放されてからまだ日が浅いので、観光目当てのプレイヤーたちもいて、人がいない場所がないぐらいになっている。

 うおぅ、人がごみのようだ....

 

「....コウキ」

 

「ん、なに?」

 

 ミウを見ると、少し俯いてモジモジとしている。

 もしかしたら人混みが苦手なのかーーーーいや、今までのミウからしてそれはない。

 じゃあなにが、と普段なら聞くところなのだが。

 

「ミウごめん。ちょっと人多いし、邪魔になるから急ぎでないなら後でもいい?」

 

 まぁ、そんな東京の交差点レベルで人が多い訳じゃないから、立っているだけでは邪魔にはならないかもしれないが、それでも気分的に周りからの視線がちょっと痛い。

 しかも前にも言ったが、ミウの場合攻略帰りはほとんど私服状態になるし。

 すると、ミウも周りのことが少し気になったのか、ちょっとだから、と焦りながら言ってくる。

 だが、そこからはまたなかなか進まない。

 

「えっと、その...........手」

 

 手? 手になんかついてるのか?

 そう思い自分の手を見るが、至って変化なし。いつも通りの俺の手だ。

 はて、どういうことだろうか?

 あれがミウの意図を汲みかねていると、ミウが次第に睨んでるような拗ねてるような表情になっていく。

 

「ほら! こんなに人が多いとはぐれちゃうかもだし、だから....」

 

 すると、ええい、ままよ! と言わんばかりにミウは自分の手を俺のそれに絡めてきた。

 ....あのー、ミウさん?

 俺がいまいちミウの行動が分からないことを目線で伝えると。

 

「これはあれだよ! そう! はぐれることへの対策!! だからこの行動はなんら不思議ではないのです!!」

 

「な、なるほど」

 

 ミウに一気に捲し立てられてミウの言う通りな気がしてくる俺。

 でも、ミウの目が泳ぎまくっているのはなぜだろう?

 うん、でも、まぁ、なんというか........

 

「いやいやいやいやいやいやいや」

 

 一瞬考えかけた思考を頭を振って追い出す。

 とにかく! このままだと本当に邪魔になる。早く移動しなければ。

 それにこう人が多いと、スリとかには絶好のポイントだよな...

 このゲームは現実に忠実に作られているためか、《スリスキル》というものまで存在する。

 なのでこういった人が密集する場所では気を付けなければならない。ヨウトの晩ごはんぐらいならともかく、重要なアイテムや武器を盗られでもしたら洒落にならない。

 頭を少し切り替え、周りへの警戒が緩まないよう気を引き締めて歩き出した(ミウと手を繋ぎながらなので説得力は皆無かもしれないが)。

 だが、急に歩き出したため。

 

 ドンッ。

 

 始めから人にぶつかってしまった。しまった、まだ少し動揺が残ってた。こんなことだから俺はいつまで経っても強くなれないんだよな....

 ミウなんかこんな状態でも周りのことは見えてる.....のか? なんかえらいトリップ状態に見えるんだけど...

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。早く謝らなければ。

 謝ろうと、ぶつかった人を見る。

 

 

 

「.......ちっ」

 

 

 

「ーーーーーっ!!?」

 

 そいつは深緑色のローブを被っていて、全体像は分からなかったが、身長は150センチ程度でミウよりも低い。

 そして顔だけをこちらに向け俺を見て、舌打ちしていた。

 一応ぶつかった相手に、その態度は無礼とは思考の片隅で思わなくもなかったが、問題はそこではない。

 脳はまだ動揺していたが、体はしっかりと警戒していたのかもしれない。

 だからこそ、ローブから微かにそいつの目が見えた瞬間に理解できた。

 

 

 ーーーーヤバイ。

 

 

 全身の筋肉が無意味に収縮して、固くなっていくのが分かる。まるで暖かい南国の国から、急に北極に放り込まれたようだ。

 ニックと戦ったときに感じたものよりも、ずっと明確でずっと強い.......殺意。

 それがそいつから俺に向かって発せられていた。

 もしも、今ここで俺がなにか行動ミスをしようものなら、俺はここで死ぬ。圏内なんだから、そんなことありえないのに。それなのにそんな確信のようなものがある。

 突如訪れた死の危険に頭に鈍い痺れのようなものが走る。思考が薄れ始めている証拠だ。

 このままではまずい、と咄嗟にミウを引っ張って背に庇い、剣を抜きそうになったが。

 

「おーい!! コウキーー!!」

 

 今朝と同じように、どこかからヨウトの声が聞こえてきた。

 ヨウトの声のお陰で、少し俺の緊張にも余裕が生じる。

 

「.......ちっ」

 

 そしてそれは相手も同じようで、興が削がれた、とでも言うようにもう一度舌打ちして、人の波のなかを歩いていった。

 た、すかった....のか。

 俺は遠ざかっていく背中を見て、次第に力を抜いていくが、それでもまだ周りの気温が5度は低くなっているような気がした。

 

「コウキ?」

 

 ミウが急に顔を強張らせた俺を心配してか、声をかけてくる。

 どうやらさっきのやつは完全に俺だけに向けて殺気を送っていたようだ。あれほどの殺気を個人にのみ当てることができるのは驚きだが、そうでもなければ勘のいいミウが気づいているはずだ。

 頭のなかではそう冷静に分析しながらも、俺はミウの手が絶対に離れないように強く握っていた。

 今は、ミウの手の柔らかな暖かさが、唯一の救いだったのだ。

 手を離した途端、全身が動かなくなってしまう、そう錯覚させるほどに。

 だが、いつまでもこんなことではいられない。

 俺は一度大きく深呼吸する。

 

「......ごめん、大丈夫だ」

 

 ミウにぎこちなかったかもしれないが、笑ってそう返した。

 ミウ相手にこんな顔で「大丈夫」だなんて言っても絶対に信じてもらえないのは分かっている。それでも「大丈夫」と虚勢でも言える程度には大丈夫ということは伝えられたはずだ。

 それほど今の俺は追い詰められていた。

 そうこうしているうちに、ヨウトが俺たちを見つけて駆け寄ってきた。

 

「やっと見つけたぜー! お前の部屋行っても扉開かないんだもんぁ.......どうした?」

 

 まぁ、こんな状態でヨウトに会っても、そりゃバレるよな。

 

「いや、なんでも。サンキューなヨウト」

 

「....あぁ!」

 

 俺が言うと、さすがは長年の付き合いとでも言うべきか、ヨウトはなにも聞かずに笑ってそう言った。

 ヨウトのこういう察しのいいところは本当に助かる。

 本人には死んでも言わないが、ヨウトのいいところだと思う。

 でも、さっきのやつはいったい.....?

 とても普通のプレイヤーとは思えない。見たこともなかったし、ボス戦とかには出てこないソロプレイヤーだろうか?

『オレンジ』.....いや、まさかとは思うが、殺し専門の『レッド』ってことも.....

 

「コウキ、行こ?」

 

 ミウが俺の手を引いて言ってくる。

 ....まぁ、今は考えても分からないか。

 

「あぁ、腹減ったしな、さっさと帰るか」

 

 ひとまず、さっきのやつについては考えないでおこう。今無理に考えて心をすり減らすこともない。

 それにあんなやつとそう何度も関わりなんか持たないだろうし。

 俺は未だ体にまとわりついているような気がする殺気を振り払うように頭を振る。

 さーって、さっき(ヨウトが)買った料理は美味いかな?

 

 

 

 

 このときの出会いが俺たちにとって、とても重要になることを気付くのは、もう少し先の話。

 

 

 




はい、新章初回でした!
話は前回から少し飛んだところからスタートです。
まぁ、さすがに1層ずつ書いていくわけにもいかないので...
時間が飛んだぶんコウキくんとミウさんの間柄は少し変化したものになっているのですが...わかってもらえたでしょうか? 分からない方も大丈夫です! ただ私の描写不足です。すいません...

今回は『入り』の回なので、少し気になる引きにしてみましたが....後が気になる! となってもらえると幸いです。

ちなみに《日常編》だなんて言っていますが、前章よりも確実に戦闘は多いです、万歳です。

次回は....ミウさん苦労回、かな?
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