力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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21話目です!!
今回は予告通りミウさんが頑張る回です!
ミウさんは戦闘やコウキくんを振り回すのもいいと思いますが、振り回される側もいいということが発見できました!
そんあタイトル通りの回です!

それではどうぞ!


21話目 少女の受難

 SIDE Miu

 

 その日は決戦の日だった。

 私は1層の自分の部屋にあるキッチンの前に立って考える。

 今の私のとって、今日はボス攻略や、超レアアイテムなんかよりも重要な日。

 それはもう、これ以上ないぐらいに大事な日だ。

 3月14日。世間で言うホワイトデー。

 .....別にコウキからのバレンタインのお返しを期待しているわけではない。断じて。

 そもそも私は1ヶ月前の

 バレンタインデーでコウキにチョコレートなどのお菓子は送っていないのだから、お返しなどあるはずもない。

 さて、ではなぜ私はそんな『女の子の日』とも言えるような日に、す、好きなコウキにチョコをあげなかったのか?

 答えは単純、私は先月、まだチョコを『作れなかった』のだ。

 手作りに拘らずとも、市販のものでいいという意見も確かにあると思う。実際、私も少し悩んだ。でも。

 

 ーーーーーそんなの、気持ちがこもってないみたいじゃない。やっぱり好きな人には、自分の手作りチョコで喜んでもらいたい。

 

 という、自分でも乙女チック+重いことは百も承知な理由で渡さなかったのだ。

 誰かに言えば引かれること間違いなしということは分かっているんだ。私が乙女チックだなんて失笑ものな訳だし。

 でも、自己満足でもなんでもいいから、こればかりは自作でいきたかった....その、夢だったし。好きな人にチョコ渡すの。

 

「あっ!」

 

 まぁ、もう今はバレンタインじゃないけどね、というどこかから聞こえてきた声のせいで、片付け中のボウルを滑らせてしまう。

 しかもどう滑ったのかそのまま宙を舞うと、逆さになって私の頭の上に落下してきた。

 さらにまだ水分が残っていたらしく、結果的にボウルの中の水が頭に降ってきた。

 

「......あぁ」

 

 ーーーーー朝シャンって、そんなに好きじゃないんだけどな。

 とりあえず色々思うことがあったが、すぐにタオルを取りに行って、髪を拭く。

 .....まぁ、いいよ。今日の私は最高に機嫌がいいからね。これぐらいの不幸は喜んで受けよう。

 そこで一旦思考を断ちきって、今度はキッチンの隅に置いてある小さめの冷蔵庫(チョコレートin)を見る。

 少し話が逸れたけど、理由の二つ目は《熟練度》だ。

 私の現時点レベルは24。先月の時点でも22。

 なので前に《疾走スキル》を入れてから、また新しく1つスキルスロットが開いたのだ。

 なので、レベル20になったときに開いたスロットに、私は《料理スキル》を入れた。

 この世界には、戦闘系スキルと生産系スキル、というものがある。

 戦闘系スキルは、いつも使っているような《片手剣スキル》などの、文字通り戦闘に使用するスキルだ。

 生産系スキルは、今言った《料理スキル》の他にも《釣りスキル》、《鑑定スキル》等がある。

 つまりは日常生活で使うようなスキルをさす。

 この生産系スキルも、使用する毎に熟練度が上がっていくんだけど、先月の時点だとまだ私の《料理スキル》の熟練度が低くて、チョコレートが作れなかったんだ。

 戦闘系スキルは攻略している人だったら自然と上がっていく。それもそのはず、戦わなければ攻略できないからだ。

 でも、生産系スキルは、戦闘のように使う場面が受動的には訪れない。自分から作業を行わないといけないのだ。

 しかもその作業がすごく長い。

 《料理スキル》ならリアルで料理を作るのと同じぐらいの時間がかかる。

 そしてその作業がすべて成功して終わったら、熟練度が0,1~0,2ぐらい上がる。

 成功して、ここがポイントだ。

 リアルと同じなので、もちろん失敗もする。そうなると熟練度は上がらないという鬼畜設定だ。

 ちなみにスキルの《完全習得》(コンプリート)は熟練度1,000だ。

 気が遠くなることこの上ない。

 

 

 

 ーーーーだがっ!!

 努力に努力を重ねた結果、私の《料理スキル》の熟練度は450に達したのだ!

 これならコウキに美味しいチョコを作ってあげられる!!

 コウキに喜んでもらうことも、コウキのかわいい子供っぽい笑顔も見ることができるのだーーー!!(※彼女は連日の練習の疲れとテンションが上がりすぎているせいで、少しおかしなことになっています)

 ふふふ、と笑っていると、ずっと見つめていた冷蔵庫から、作業終了の電子音が鳴った。

 

「終わったー!」

 

 私は冷蔵庫を開けて、チョコの出来映えを確認する。

 今回作ったのは、クッキーのように色々な形がある一口サイズのブラックチョコレートだ。

 コウキはお菓子だと甘いものよりも苦味があったりするものの方が好きな傾向があるので、このチョイスだ。

 試食用に、別の器に作っていたチョコを一つ摘まんで食べる。

 

「....うん、美味しい!」

 

 これなら大丈夫そう!

 今日もコウキと8時半に転移門前に集合して一緒に朝ごはんを食べる予定なので、そろそろ出る準備をした方がいいだろう。

 私はコウキの喜ぶ姿を想像しながら、胸を踊らせて出る準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 

「ミウ、遅いな...」

 

 現在時刻は8時45分。

 俺は昨日約束した通りの転移門前で周りを見回すが、どこにもミウの姿はない。

 ミウは基本的に時間通りに来るタイプなので、時間に遅れる、ということはたまにあるが、それでも1~2分程度だ。

 なのに15分も遅れているのは、珍しいを通り越して異常だ。

 それにミウの部屋からここまでは、ゆっくり歩いても10分弱ほどでつく。

 メッセも来てないから、なにかに巻き込まれたというよりは寝坊の方があり得そうだけど....ミウが寝坊というのはあまり想像できない。

 探しに行った方がいいよな....?

 俺は転移門前でもう10分ほど待った後、ミウを探しに行くべく移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

「こっちかな?」

 

 現在時刻は9時43分。

 私はある女の子ーーーーカナちゃんと手を繋いで歩いていた。

 あのあとすぐに準備を済ませて部屋を出ると、道を歩いて少しのところで右往左往している女の子がいた。

 困っている様子だったので話しかけて事情を聞いてみると。

 

「おうちどっちかわからなくなっちゃった......」

 

 とのこと。

 この世界が始まって約5ヶ月程度。この時期で迷子になることは少し珍しいが、カナちゃんはまだ7~8才ほどの子だ。

 《始まりの街》は今行くことができる街のなかでは最も大きい。知らない道に入ってしまえば迷子になるのも仕方がない。

 というか、絶対に迷う。私も始めの頃迷ったし。

 コウキと出会ったときも迷ってたらいいお店見つけて、ポーションをばらまーーーーーーー

 

「..........」

 

「ミウちゃんどうしたの?」

 

「はっ!」

 

 しまった、あのときのショックが再来してた。

 私は心配そうな視線を向けてくるカナちゃんに笑いかけて、なんでもないよ、と伝える。

 でも、コウキどころかこんな小さな女の子にも心配される私って....

 これ以上考えると、またカナちゃんを心配させることになるので考えを放棄する。

 そして再びカナちゃんの家探しを再開するけど....でも、カナちゃんの家を私が知ってる訳じゃないし、探すの結構大変かも。

 それにーーーー。

 

「コウキ、きっと心配してるよね....」

 

 カナちゃんに聞こえない程度の小声で呟く。

 9時ぐらいになってから、コウキからのメッセはなん分かおきに来ている。もちろんそれに返信しようとも思ったんだけど、それをすることでカナちゃんに自分が迷惑だとか

 勘違いしてほしくないし....

 なにより....

 

「ひっ....!?」

 

 特になにも変わったところはない、普通の男性NPCがカナちゃんの隣を通りすぎる瞬間、カナちゃんが怯えたように私に抱きついてくる。

 .....どうもカナちゃんはこの世界で何か怖い目に遇ってしまったようで、今みたいに少し背の高い人が近づくと怖がってしまう。

 私は大丈夫みたいだけど、コウキは私と比べてそこそこ身長が高い。

 だからこそ、コウキには頼れない。

 といっても、今のままただがむしゃらに探し回っても仕方がない。

 

「そういえばカナちゃんはどういう風に毎日過ごしてるの?」

 

 なので、何か情報を得られないか、それとカナちゃんの緊張を解くためにも聞いてみる。

 周りが気になってしまうときは誰かと話しているのが一番だ。

 すると、カナちゃんは途端に顔を綻ばせる。

 

「あのね! お姉ちゃんがいっしょにいてくれるの!!」

 

「お姉ちゃん?」

 

「うん!! お姉ちゃん!!」

 

 この場合のお姉ちゃんというのは、もちろん私のことを指しているんじゃなくて、他の人を指しているんだろうけど...

 ということはカナちゃんの保護者さんのことかな?

 でも、そりゃそうだよね。カナちゃんみたいな幼い子は誰か保護者がいて当然だよね。

 あれ? でもそれならもしかして....

 

「カナ!!」

 

「ふぇ?」

 

「あっ! お姉ちゃん!!」

 

 声が聞こえた方を見ると、20代前後の女性が息を切らせてカナちゃんを見ていた。

 青みがかった黒髪のショートヘアーに眼鏡。なんというか、文学系の女性って感じの人だ。

 この人が『お姉ちゃん』なのかな? やっぱりカナちゃんのこと探してたんだ。

 お姉さんはこちらに慌てて駆け寄ってくると、私に一度頭を下げたあとすぐさましゃがんだ。たぶん、カナちゃんに目線を合わせたんだと思う。

 

「もう! 心配したんだから! 離れちゃダメって言ったじゃない!!」

 

「っ.......ごめんなさい」

 

 怒られてシュンと俯いてしまったカナちゃんに対して、口調は怒っているけど明らかに安心したように顔を緩めるお姉さん。

 さっきから呼吸も全然落ち着いてないし、本当に心配して走り回って探していたのだろう。

 .....よかった。

 お姉さんの優しさに胸のなかが温かくなる。でもそれと同時に、カナちゃんと手を繋いだままだから、震えがダイレクトに伝わってきて私も少しだけ悲しくなってくる。

 私がカナちゃんの気持ちを受信していると、お姉さんが一度カナちゃんの頭を撫でて立ち上がり、今度は私と目線を合わせてきた。

 

「私、サーシャっていいます。この子に付き添ってくれて、ありがとうございました」

 

「いえいえ! そんな、顔をあげてください。困ったときはお互い様ですよ!」

 

 お姉さんーーーーサーシャさんが何度も頭を下げてくるので、両手を振って困ってしまう私。

 

「ありがとうございます」

 

「えと、それでどうしてカナちゃんは....?」

 

「あ、はい。実はお店で買い物をしている時に少し目を離したらいなくなっていて....」

 

 なるほど、確かにこの世界の買い物は基本ウィンドウ操作だ(武器は別だけど)。子供からすればつまらないかもしれない。

 それにもしかしたら、背の高い人にぶつかったりして、怖くて逃げてしまったのかもしれない。

 私は今まで俯いて話を静かに聞いていたカナちゃんの頭を撫でる。

 

「?」

 

 カナちゃんは不思議そうな顔をしていたけど、私はそれに笑顔で返す。

 すると、カナちゃんも笑い返してくれた。

 と、その時。

 pipipipi....

 不意に電子音が鳴った。

 この音は.....メッセ? って、そうだ! コウキ!!

 視線をずらして、常に視界の左隅にあるデジタル時計を見る。

 10時16分。

 まずい、早く連絡入れないと!

 

「あの、すいません! 私約束があるので!!」

 

「えっ? あの、お礼とかは.....」

 

「へ...いやいや!? そんなの貰えませんよ!!」

 

 そんなお礼を貰うほど大したことはしていないし、そもそもこれはクエストなんかではない。

 さっきも言ったけど、困ったときはお互い様だ。

 それに私からすればカナちゃんと話せてかなり楽しかったし。

 その旨を伝えると、

 

「あの、ならせめてお名前を」

 

 あ、しまった。まだ言っていなかった。

 こういうとき、自分の子供っぽさが嫌になる。

 

「ミウです。よろしくお願いします....すいませんけど急いでるのでこれでしつれーーーー」

 

 言って駆け出そうとしたが、ギリギリで手を繋いでいる相手のことを思い出した。

 さっきまでよりも幾分強く手を握られたのでカナちゃんを見ると、少し悲しそうな顔をしていた。

 こんな短い時間で私にここまでなついてくれたことはすごく嬉しいけど、再びカナちゃんの手から悲しみみたいなものが伝わってきて、嬉しいぶんだけ私も悲しくなってくる。

 そのせいもあって、手を離しづらい。

 ....うぅ~。

 私はカナちゃんと一緒にいたい気持ちをグッと堪え、すぐにしゃがんで先程のサーシャさんのようにカナちゃんの目線に合わせた。

 

「カナちゃん、さっきまでえらかったね」

 

「えっ?」

 

「サーシャさんと離れて寂しかったのに、泣いちゃうの我慢するなんてすごいよ」

 

 私なんて、コウキと一緒にいられなくなることを考えるだけでも怖くなるのに。

 それに比べればカナちゃんはものすごく強い。

 そんなカナちゃんなら、私が一緒にいなくても全然大丈夫だろう。

 空いた手でカナちゃんの頭を撫でる。

 

「それに私、また会いに来るよ。約束する」

 

「....ぜったい?」

 

「うん! 絶対!!」

 

 笑顔で言うと、カナちゃんはゆっくりとだが手を離してくれた。

 私は最後にもう一度カナちゃんの頭を撫でて立ち上がる。

 

「あの、ってことですいません。サーシャさん、フレンド登録お願いできませんか?」

 

 これからも会う予定があるのなら、フレンド登録して連絡を取り合えるようにしておいた方がいい。

 サーシャさんも私のお願いを聞き入れてくれた。

 すぐに登録を終えて、今度こそ走り出す。

 

「またねー!!」

 

「またねー、ミウちゃん!!」

 

 カナちゃんとサーシャさんに手を振って、少し走ったら角のところで曲がる。

 そこで走るスピードを少し緩める。

 早くコウキに連絡しないと....!

 ウィンドウを開けるため、右手に形をつくって振り下ろすーーーー瞬間。

 

「ドロボウだーーー!!」

 

「そいつだーー! 捕まえろーーー!!」

 

 そんな声が、背後から聞こえてきた。

 あー.............。

 このときの心境を、ミウは後にこう語る。

 

 

 

 なんていうか、正直頭では迷ったかな。

 今すぐ追えばドロボウは捕まえられそうだし、なにより困っている人がいるのに放っておくなんてできないし。

 でも、これ以上コウキを待たせるなんて非常識にもほどがあるのも頭では分かってたんだ。

 ある意味では、コウキも困ってる人な訳だしね。

 それに私も、いい加減コウキにチョコを渡したかったし。

 だいたい、カナちゃんともいい感じで別れて、コウキには謝る必要はあるかもしれないけど、それでもコウキに会ってチョコを渡せれば、すごくいい1日になってたはずなのに、なんでこんなに邪魔が入るかな?

 そんな感じで考えてたかな。

 もう気づいてるかもしれないけど.....

 考えてるうちに体が動いちゃってた♪

 あはははは........はぁ。

 ....あのときは本当に困ったなぁ。

 

                     以上、コウキとミウの会話より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ......」

 

 現在時刻は14時16分。

 完全にアウトだ。それどころかスリーアウトチェンジだ。

 あの後も手伝いやらなんやらコウキに連絡をいれようと思った瞬間に、狙ったようなタイミングで問題が起きた(最初のドロボウは街のイベントだったらしく、犯人はNPCだった)。

 もうこんな時間経っちゃって、コウキでも愛想尽かすよね....

 

 最初の方はコウキからのメッセも来ていたけど、正午を越えた辺りからは一切ない。

 その辺りから私もウィンドウを開くのが怖くなってきていた。

 今も怖い。

 ウィンドウを開こうとしたらまた邪魔が入るんじゃないか? そもそもメッセの中身を見たらコウキも怒っているのではないか?

 そんな気がして仕方がない。

 

「........まぁ、そんなこと言っても仕方がないんだけどね」

 

 私は期待というよりは、諦めに近い思いを込めて右手を振り下ろすーーーーーー瞬間。

 

 

 

「ミウーーーーーーーーー!」

 

 

 

 え.....?

 ゆっくりと、声のした方を見る。

 コウキ.....?

 道の先には、走ってこちらにやってくるコウキの姿が見えた。

 どうやらまだ私のことを探してくれていたらしい。

 その姿を見た瞬間、心の奥底から叫びたくなった。

 コウキに抱きつきたくなった......が。

 ーーーーーコウキ、心配させたよね。

 そんな考えが頭をよぎり、反射的にコウキから顔を背けてしまった。

 少なくとも、私は喜んじゃいけないような気がしたから。

 もちろん、コウキはそんな私の考えを知るはずもなく、コウキは笑顔のまま駆け寄ってきた。

 

「ミウ~、聞いたぞ~。そこら中で困ってた人助けまくってたんだってーーーーーーーーどうした? 何かあったのか?」

 

 目の前までくると、さすがに私の雰囲気がバレたのか、コウキが眉間にしわを寄せる。

 コウキはこんなときまで優しい。私のことを心配してくれるんだから。

 コウキが優しいことは今に始まったことじゃない、今も嬉しい気持ちはある。

 それでも、今は....

 こんなことじゃ、もうチョコは渡せない。

 コウキなら嫌な顔一つせず、実際喜んで貰ってくれそうだけど、それでもチョコを渡すことは私自身が許せなかった。

 ......でも、喜んでもらいたかったなぁ、チョコ。

 こんなときまでわがままが出てくるなんて、私も相当欲張りだと思う。

 そんな多くの思いを丸々飲み込む。

 

「ううん、なんでもな「嘘言うな」いよ.....って早いよコウキ!? 私まだ最後まで言い切ってないーーーーーうにゃっ!?」

 

 コウキは私の言葉を遮るように、両頬を掴むと引っ張ってきた。

 えっ? えっ!? なにこの状況!?

 コウキなんでこんなこと!? もしかしてやっぱり怒ってる!? でも、コウキに触ってもらえてちょっと嬉しいなぁ....じゃなくて!!

 

「こおふぃ、こおふぃ、はあふぃふぇ」

 

 離すよう言ってもコウキはニヤニヤするだけ。

 それどころか、

 

「ウリウリ」

 

「にゃーーーーー!?」

 

 さらにコウキは掴んだ頬を上下に引っ張り出した!!

 そこまで痛くはないけど、これにはさすがに耐えられない。

 

「なるほど、柔らかいとは思ってたけど、まさかここまでとは....」

 

「コウキ、なにするの!?」

 

 私は無理矢理コウキから離れて、コウキを軽く睨み付けた。

 それに対してコウキは肩を竦めるだけで、これといって特に反応を見せない。

 なんだかちょっと子供扱いされているようで悔しい。

 そんな私を見てコウキは笑う。

 

「やっとミウらしくなったな」

 

「へ?」

 

「悲しいときまで笑えとは言わないけどさ、やっぱりミウはそういうふうに、笑ったり怒ったりしてる方が『らしい』よ」

 

 コウキはそう言うと、私の頭を優しく撫でた。先ほど私がカナちゃんにしていたように。

 そう考えると少し恥ずかしいけど、コウキに「笑っているほうがいい」なんて言われれば嬉しい。それどころか踊り出してしまいそうなほどだ。

 ....でも。

 

「....私、今少し悲しんでるんだけど?」

 

「でもそれって俺に対しての『なにか』でしょ? だったらいいよ、気にしてないから」

 

 私の言い分をコウキはあっさりと一蹴してしまった。

 なんか、コウキはこういうところがすごく大人だと思う。

 切り替えが早いと言うか、物事を客観視できてると言うか。

 それに比べて私は...

 

「.......」

 

「.......」

 

「.......」

 

「あー、今日はもう攻略休みにするかな。最近こもりっぱなしだったし、ちょうどいいか」

 

 私がずっと黙り込んでいると、沈黙に耐えられなくなったのかコウキは時間を見ながらそう言って、どこに行くとも言わず街を歩き出した。

 私もコウキとまた離れるのはもうこりごりなので、なにも言わずについていく。

 .....何かのお話で、責められるよりも許される方が罪悪感は増す、みたいなことが書いてあったけど、本当だなぁ。

 今はコウキに優しくしてもらうと逆に辛い。

 私が今日を楽しみにしすぎてたせいかもしれないけど。

 その後もしばらく無言のまま街中を歩いていると、コウキが私の方をチラチラと見てきた。

 なんだろう? そんな風に思っていると、

 

「....なんか、小腹が空いたなぁ」

 

「....へ?」

 

「それに最近疲れてるからなぁ、なんか甘いものがほしいなぁ」

 

 コウキが独り言のように呟いた。

 えーっと....

 なんだろう、今のわざとらしさ。

 コウキは先ほどまで以上に私の方をチラチラと見てきていた。

 そんなコウキの大根ぶりに、つい吹いてしまった。

 

「えっ? ミウ、なに!? 俺どっか変だった!?」

 

「いや、だって.....はははっ!」

 

 コウキ、演技下手すぎ....!!

 コウキの慌てた顔を見て、余計に笑いが込み上げてきた。

 まずいっ、お腹痛くなってきた!!

 私は頑張って笑いを抑える。

 コウキは本当に、どこか抜けてるなぁ。戦闘の時とかはいつも不敵に笑ってたりするのに。

 さっきまでの落ち込みなんかもうどこかに行ってしまったのか、それともコウキが取っ払ってしまったのか、なんだかもう、色々とどうでもよくなってきてしまった。

 私は久しぶりのように感じつつ、軽い気持ちでウィンドウを開き、チョコが入った包みを取り出す。

 

「はい、コウキ」

 

「ん? なにこれ?」

 

「分かってるんでしょ~?」

 

 私は笑いながら言う。

 それに対してコウキは一瞬悔しそうな顔をした。

 もしかして、さっきの演技自信あったのかな...?

 そう思うとまた笑いが込み上げてきたが、グッと堪える。

 そしてコウキはまた笑顔に戻って、私のチョコを受け取ってくれた。

 

「今食べても?」

 

「お腹空いたんでしょ?」

 

 コウキは、参りました、というような顔になってチョコの包装を開けて、中に入っている一口サイズのチョコを一つ口に運んだ。

 チョコの感想は、私が幸せになったことだけ言えば分かってもらえると思う。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、チョコのことなんで知ってたの?」

 

「えっ? なんのこと?」

 

「コウキ、それはもういいから.......ぶふっ」

 

「笑わなくてもいいじゃんかぁ!」

 

「ごめんごめん、それで?」

 

「....こう、なんかミウが持ってそうな直感がピーンと来たんだよ」

 

「へ~、コウキすごいねっ!!」

 

「そうだろう!?」

 

「......」

 

「......」

 

「で、本当は?」

 

「......アルゴに聞きました」

 

「最初からそう言えばいいのに....ぷぷぷっ」

 

「もーー! ごめんなさいでしたーー!! 笑わないでくださいよーーーー!!」

 




はい、ミウさん苦労回でした。

なんというか、私的にはコウキくんを呪いたくなる回でしたね。自分で書いてるのに。
それと今回はコウキくんが普通に主人公しているという、おかしい、作者的にはコウキくんにはもっと良い子な外道さんになってもらいたいというのに...

それにミウさんはやっぱり書きやすいですね。
常識人でもあり、ボケもできて、ヤマトくんほど聖人君子でもない...実に書きやすいです。
しかも予定では次回もミウさん回になるという...いえ、違いますよ? 別にミウさんを完全主人公にしていこうとか、そういう考えはないですよ? (まぁ、ダブル主人公なところはありますが)
コウキくんすごい好きなんだけどなぁ...なんでこんなに冷待遇なんだろ?

次回もよろしくお願いします!

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