今回はちょっとコウキくんに触れる話になっています!
やっとここまでこれました......この話を出すまでどれだけ引っ張ったことか......まぁ、私の書き方が悪いんですけど。
それではどうぞ!
「コーウーキー。あーそびーましょー!」
ノック音とともに声が聞こえる。声の高さから男だということが分かる。
「コーウーキー。あーそびーましょー!」
今度は女性特有の高い声。
二つの声、どちらも聞き覚えどころか、聞きなれている声だが、後の女性の声には反応しなければならない。
だが、ここで返事をすれば男の声に返事をすることと同義だ。それだけは嫌だ。
......仕方ない。
俺はまだ覚醒しきっていない体に鞭を打ち、ウィンドウを操作しある人物にメッセを送った。
するとまた外から声が聞こえてくる。
「なになに......あはは......」
俺からのメッセを読んだと思われる女の子が苦笑いするような雰囲気が伝わってくる。
ちなみに送った内容は『眠い、そいつどっかやって』だ。
少しそっけないのは眠いから仕方ないのだ。せっかくの1ヶ月に1回しかない休養日の朝8時だし。
すると今度は男の声が聞こえてきた。
「コウキからメッセ? なになに......」
あ、これめんどくさいパターンだ。
「......ふざけんなぁ!! コウキー!! 出てこーい、朝だぞー!!」
うるさい、こっちは眠いんだ。
昨日だって今日休むために16時間ぐらいぶっ通しで迷宮区に潜ってたんだから。
「ヨウト、休みの日なんだしゆっくりさせてあげようよ」
「いーや、あいつは放っておくと延々眠り続けるからな。前に実験したから分かる」
「実験ってどんな?」
「あいつの目覚ましの電池抜いといた」
「......まさかとは思うけど、それ平日じゃないよね?」
「よく分かったな、ミウちゃんって推理もできるんだ」
「それコウキ学校どうしたの!?」
「だから来なかったよ。ずっと寝てたし、その日はあいつの親もいなかったしな」
「......コウキも前から苦労してたんだなぁ」
「あいつも大変だよな」
主にお前のせいでな。
非常にツッコミたくなったが、今は惰眠を貪ることを優先する。
二人の会話は続いていく。
「そうだ! ミウちゃん、コウキとパーティなんだから扉開けられるじゃん!」
「前に事故ったからちょっと......またあんなことになったら私倒れちゃうし......」
「事故って何!?」
男ーーヨウトの驚愕の声が聞こえてくるが、今回に限ってはその反応が正しいと思う。
ちなみに事故っていうのは着替え中の俺とばったりというあれだ。
「でも、ミウちゃんもコウキに休みの日も会いたいだろ?」
「それは......うん」
なぁ!? あいつなんて方法を!!
「じゃあ開けよう! すぐ開けよう!」
「でも......」
......ここまでか。
俺は愛しのベッドから抜け出て、あくびをしながら玄関扉に向かう。
たくっ、休みの日なんだから二度寝ぐらいさせろよ。
俺はドアノブに左手をかけつつ、同時に右手を力を込めて引く。
そしてゆっくりとノブを回して扉を開ける。
「ーーおぉ、コウキやっと出てきたかぐぼぉっ!?」
とりあえず、今日はじめて見たバカの顔を《閃打》で殴っておいた。
「で、用件は? バカヨウト」
「もぉう、コウキったらぁ、バカヨウトとかやめてよぉう」
「《閃打》千発追加」
「容赦なさ過ぎる!! ぶべぇっ!?」
今は俺の部屋の中にいる。
攻略に行く日ならこの時間はミウと店で何か食べているのだが、休みの日は基本朝は外食せずに、前日買っておいたものを食べる。
ミウとの約束があれば別だが、ミウは休みの日の朝はずっと《料理》スキルの熟練土アップに励んでいる。
だからこの時間は俺もまだ寝ていられたのだが。
こいつのせいで......
「ねぇ、コウキ?」
「ん、どうしたミウ? 俺あと992回ヨウトに《閃打》叩き込まなきゃいけないんだけど」
「えっ!? さっきの本気なのコウキ!?」
俺の下で転がっているヨウトがなにか騒いでいる。なにを言っているんだろうこいつは? こんなところで嘘ついても良いことなんて一つもないじゃないか。
「《閃打》だから千打......なんてな」
「怖い! 怖いから!! 洒落になってないからなそれ!!」
だって洒落じゃないし。
「えっと、大したことじゃないんだけどね」
「えっ? ちょっとミウ!? 今の状況スルー!?」
「ヨウトうるさい」
また1発《閃打》をヨウトに叩き込む(といっても圏内なので軽いノックバックしか発生しないが)
えっとあと......994発だっけ?
「で、ミウどうしたんだ?」
「えっと、これ作ってきたんだけど......」
そう言ってミウがストレージから出して机に置いたのは2枚の皿だった。その上には2枚とも料理が乗っている。
乗ってるのは......肉じゃが?
なるほど、今日はこれか。
「なになに? 肉じゃが? ミウちゃん毎日コウキに作ってやってんの?」
俺の殴打から逃げ延びたヨウトが料理の前に来て言う。
「ううん、さすがに毎日じゃないよ? こんな休みの日はお昼に試食してもらおうと思って作ってるんだ」
ミウが台所に向かいながら言う。
おそらく箸とかを取りに行ったのだろう。
ミウはちょくちょく料理を持ってくるので、俺の家の台所回りもばっちし把握していたりする。
本当は、俺が作ってもらっている側なのだから、俺が色々準備したり、それどころか俺が食べに行くぐらいのことをしなくてはいけないのだが、それをしようとするとミウが毎回拗ねてしまうのだ。
なのでミウのしたいようにさせてあげたりはしているが......申し訳ないことこの上ない。
俺たちも机の前に移動する。
「へぇ~、女の子の手料理かぁ......」
「......なんならお前も食べるか?」
「いいの!?」
そりゃそこまで釘付けになって見てればなぁ......
俺とミウだけで食べても隣にこんなやついたら後味悪いし。
でも......
「今回は当たりか......?」
「なんか言ったか?」
「いやいや、なんでも」
そんなことを話しているうちに、ミウが箸とコップを持って戻ってきた。
俺もその間に肉じゃがの皿をそれぞれが座っている位置の前に置く。
「おまたせー、じゃあ、食べよっか?」
「うし、いただきます」
「「いただきまーす」」
俺に続いてミウとヨウトも言う。
さてと。
「ヨウト、お前先に食っていいぞ」
箸は基本的に俺とミウの2膳しかない。なので俺はヨウトに自分の箸を渡しながら言う。
すると、ヨウトは珍しく遠慮したような顔になる。
「いや、さすがに最初はコウキかミウちゃんだろ」
「別にそんなこと気にしないって。なぁ、ミウ?」
「うん、私も気にしないよ~」
というか、それよりもお前の輝いてる目の方が気になって仕方がない。
「じゃあ、遠慮せずに......」
ミウが作った肉じゃがはごく普通なもので、具はじゃがいも、豚肉、糸こんにゃく、玉ねぎだ。(ゲーム内なのでどれもそれに類するものだが)
つゆが香ばしくて、いい具合に空いていた腹に早くかきこみたくなる。
ヨウトは早速箸を伸ばすと、最初に一口サイズに切られたじゃがいもを取り、口に運ぶ。
......どうだ?
じゃがいもを咀嚼しているヨウトの顔を観察していると、少しずつ変化が出てくる。
それは......残念なことにあまり幸せそうではない。
ミウの《料理》スキルの熟練度はまだそれほど高くはない。
なのでこうやってたまに練習がてら俺に料理を持ってきてくれるのだが、外れた、つまり失敗したときはそれはもう大変なのだ。
なにが、とは言わないが、とにかく大変なのだ。
「......う、美味いよ」
それでも笑顔でそう言ったヨウトは男だと思う。今だけは心の底から尊敬してもいいぐらいだ。
しかし、ヨウトの反応を見たミウは苦笑いする。
「あー、やっぱりダメだった?」
「ヨウトー、今だけは無理しなくていいぞー、よくあることだから。ミウも正直に言ってくれた方が嬉しいらしいぞ」
「うっ......ごめん」
ヨウトはそう言って俺に箸を返してきた。
まぁ、さすがにこれを全部食えって言うほど俺も鬼ではない。
前に俺が食ったときはミウの好きなスパゲッティだったけど、あのときはすでに色がおかしかったし。
なんか、緑色だった。ミートスパゲッティなのに。
「でもミウ、これ昼飯用じゃないのか? 今食べちゃったら......」
えっ、これ食うの!? みたいな視線をヨウトから感じたが無視。
そもそも食うのは当然だ。残したりしたらミウに悪いし。
「あ、うん。私もそのつもりだったんだけど、なんかヨウトが美味しいお店があるって......」
「そういうことだ!」
ヨウトがニッと笑って言う。
なるほど、それが今回のヨウトの用件か。最初からそう言えばいいものを。
「どうせお前、どっきりでも仕掛けようと思ったんだろ。いいとこあるから連れていってやる、みたいな」
「えっ!? なんで分かった、お前エスパー!?」
いや、お前の考えてることなんて誰でも分かるっての。
でも......美味い店か。確かに最近、ものすごく美味い! っていうのは食ってなかったしな。
ちなみにミウの料理はカウントに入っていない。当たりの時は確かにメチャクチャ美味いんだけど。
それになにより、ヨウトは無茶苦茶だがセンスはいい。
前にリアルで連れていってもらった穴場のラーメン屋も、雑誌に載っているような店よりも断然美味かった。
「場所は?」
「13層の《旋風》ってお店。知ってるか?」
いや、全く知らない。俺は首を横に振る。
ミウのお菓子探しで、俺もどの街も人よりはよっぽど知ってんだけどなぁ。
「じゃあ、お昼はそこで食べるってことでいいのかな?」
「あぁ、いいんじゃね」
「うっし! まだ時間結構あるし街に繰り出すか!!」
「別にいいけど......ミウの肉じゃが食べてからな」
こらヨウト、そこで不安そうな顔すんな。
そして苦笑いしているミウ、半ばヤケクソ気味になっているヨウトともに肉じゃが討伐に取りかかるのだった。
「とーちゃっく!」
「ここか......」
あれからヨウトの言った通り街に出て色々ぶらついた。
といっても、もうどの層もほとんど知り尽くしているので途中からは穴場探しになっていたが。
そんななか、街にある時計が正午の鐘を鳴らすと同時に、ヨウトが「行こうぜ!!」みたいなことを言って、13層の裏道に入っていった。
俺もミウもこんな道があったのか、というような道をどんどん進んでいき、今は《旋風》という店の目の前にいる。
......なんで裏道に入ってから5分程度で知らない道に入るんだろう? ミウも知らなかった道なので相当に目立たない道だ。
「なんていうか......日本っぽいね」
《旋風》の建物を見ながらミウが言った。
確かに、外観はミウに言う通り日本っぽい。
というよりは、古きよき日本と言った感じだ。
壁はコンクリート、屋根はすべて木製。昭和時代のラーメン屋と言えばある程度分かってもらえると思う。
「んじゃ、入ろうか」
ヨウトの先導で店の中に入ると、やはりと言うべきか、中も基本木製の落ち着いた感じの雰囲気だった。
こんな目立たない場所にあるせいか、客は俺たちしかいないようだ。
NPCの掛け声を聞きながら、俺たちはカウンター席とボックス席があるなか、カウンター席にそれぞれ並んで座る。
俺を中心に、右にヨウト、左にミウという並びだ。
「こんな風にしてると本当にリアルに帰っていたみたいだね」
ミウがカウンターに置いてあるメニュー表を鳥ながら言う。
確かにこのメニューの感じとかすごい日本っぽい。この世界って基本的には全然現実感がない異世界って感じなのだが、たまに現実感ある風景ーー例えばちょっとした森とかーーがあったりするから、余計に現実という錯覚を感じてしまう。
しかも今のミウの場合、森のようなフィールドではなく圏内なので私服。そのせいで完全にリアルの風景になってしまっている。
「......へぇ、ここって雰囲気と同じで料理も日本食に近いんだ」
「そうそれ! だからここに連れてきたかったんだよ!」
俺もそのメニューが気になり、ミウが持っているメニューを見せてもらう。
メニューは写真付きのもので、そこには魚の塩焼きや定食など、これぞ日本! という感じの料理が満載だった。
これは......すごいな。
「コウキたちは何にする? あ、俺は照り焼き定食で」
「私は......この野菜満載セットかな? コウキは?」
「納豆定食」
「お前、前から好きだよなぁ。納豆」
別にいいじゃん。納豆体にいいんだし......この世界でも体に作用があるのかは知らないけど。
店員に注文し、10分ほどすると料理が出てきた。
今日2度目となる3人での合掌をして、まずは汁を吸ってみる。具は大根、玉ねぎ、ワカメだ。
......うまい、なんか久しぶりに食べた味だ。
ミウも自分のセットについていた汁を吸って驚いた顔をしている。あ、急に悔しそうな顔になった。
ミウのことだから、料理で負けて悔しいとか思っているのだろう。さすがに店の食べ物とまで張り合わなくてもいいと思うのだが。
「いいだろ、ここ」
「予想以上だよ、お前よくこんなとこ見つけるよな」
「お前らの休みみたいな日を街散策に使ってるだけだって」
それでも俺だったら間違いなくこんなところは見つけられない。
ミウもヨウトには負けたというように小さく両手を挙げている。
ヨウトはそんな俺たちの反応に気分をよくしたのか、ニヤリと笑うと、
「さて、ここでもう一つお前らにサプライズがあります!」
「サプライズって......ここの代金はヨウトが払ってくれるとか?」
「ミウちゃん最近コウキの影響受けてきてない!?」
まぁ、こんだけ一緒にいたらそんなこともあるだろうな。俺もミウの影響受けてるところいくつかあるし。
俺が適当にそんなことを考えていると、ミウが急に嬉しそうに笑った。どうしたんだろ? なんか珍しい野菜でも入ってたのか?
「そうじゃなくて! ......あー、もういいや! フィナーー!!」
ヨウトが店の奥の厨房の方へ声をかけると、「はーい?」と、高い声が返ってきた。
「あ、ヨウト君じゃない。さっきの照り焼き定食ヨウト君のだったんだ」
奥から出てきたのは、俺よりも1こか2こ上ぐらいの年齢だと思われる女性だった。
髪は金と茶色の中間ぐらいの色をしたポニーテールで、くせ毛なのか所々カールしている。来ている割烹着と明るい色のポニーテールというのが意外とマッチしていた。身長は俺より少し低いだけなので、女性の平均で言えばかなり高い方に思う。
「来てたなら声かけてくれればいいのに」
「いや、さすがに仕事中のやつにそうほいほい声かけられないって」
「仕事中って言ってもあんたたちしかいないけど」
フィナさん? はニカッと明るく笑う。
なんか少し、いや、かなりフランクな人だな。
すると、フィナさんは今度は俺とミウに視線を向けてくる。
「で、この子達はヨウト君の友達?」
「あぁ、俺の隣にいるのがコウキ、で、そのとなりがミウ」
「こんにちは」
「......どうも」
ミウ、俺の順番で挨拶する。フィナさんも「こんにちはー」と返してくる。
......俺、また無愛想な顔してるんだろうなぁ。別に不機嫌って訳じゃないんだけど。
はぁ、ほんとこれ、どうにかならんものだろうか?
「お前らー、聞いて驚くなよ~?」
ヨウトはニヤニヤしながら俺に言ってくる。
どうでもいいけど、こいつのサプライズ体質もどうにかならんかな?
そんな俺の密かな願いを無視しつつ、ヨウトは手をフィナさんに向ける。
「なんと! ここの料理はすべて、フィナが作っているのでーす!!」
え......これ、全部!?
「えぇ!? それほんと!?」
「ほんとーだぞ、ミウちゃん」
ミウの驚きにフィナさんが答える。
マジか......
こんだけの料理をここまでの出来で作ろうと思ったら、いったいどれだけ熟練度アップに時間がかかったのやら......
実際ミウが毎日のように《料理》スキルの熟練度アップに四苦八苦しているのを知っているので、本当に途方もないようなことに思えてくる。
「ふっふっふ、教えてやろうコウキ君。私はゲームが始まった瞬間から《料理》スキルを上げ始めていたんだよ」
「えっ? ......あの、俺なにも言ってないんですけど」
「私レベルの料理人なら、顔見たら何が言いたいのか分かるのだよ」
そうなの!? はっ! 店長が老人とかだと欲しいタイミングで頼んだ料理が出てくるのはそれが理由だったのか! 前にヨウトに連れていってもらった例のラーメン屋もそうだったし!
じゃあ、料理人の人がトランプとかやったら最強なんじゃ!?
「おーい、フィナ。コウキって変なところ純粋だからあまりからかってやるなよー」
「いやー、なんかずっとむすっとしてたから空気を和ませてあげようと思ったんだけど......まさか信じられるとは」
「えっ!? 今の嘘なんですか!?」
「ミウちゃんも信じてたの!?」
「だって、本当っぽかったし......」
「......似た者同士だねぇ、二人とも」
なんか3人で話しているようだが、それどころではない。
もし今考えてることがフィナさんにバレたら、すごい失礼になってしまう......!
「......客少ないのはいつものことだし、なんでこんなとこで店やってるのかって思ってくれても大丈夫だよ?」
うわっ!? 本当に当てられた!!
......この人、本物だ!
「......この子、面白いねぇ」
「だろ? だからつるんでんだよ」
「コウキー! 戻ってきてー!!」
「......えっ!? なに!?」
ミウに体を揺らされ、何とか思考の海から抜け出せた。
危ない、あんまりすごかったもんだから、つい考えに没頭してしまった。
俺は軽く頭を振って深呼吸する......よし、落ち着いた。
「......へぇー」
「? どうしたんですかフィナさん」
「いやね。なんかコウキ君とミウちゃんの距離、自然に近いなぁって思ってさ」
フィナさんの言葉につられて俺とミウの間を見るが、言われるほど近い気はしない。
ミウも同じようで、首を傾げている。
一応俺とヨウトの距離も見てみたが、やはりミウとの距離とほとんど違いは見られない。
そんなに近くないと思うけどなぁ、俺ら。
「そうやって自分達の距離に違和感持たない時点で二人ともーーもがもが!?」
フィナさんはなにか言いたかったみたいだが、途中でヨウトが自分の昼御飯である照り焼きの肉を一つ、フィナさんの口の中に突っ込んだせいでよく分からなかった。
そしてヨウトはすぐさまフィナさんを俺たちから少し離れたところに引っ張っていってしまった。
「ちょっ、なにすんのよ!?」
「フィナこそなに言おうとしてんの!?」
「なにって......ただ二人ともラブラブだなぁって」
「アウトだよそれ!! ミウちゃんはともかく、コウキはその辺色々あるんだから! もっと場所を選んで聞けなきゃ!!」
「知らないわよそんなの......」
二人ともなにを話しているんだろう? 小声でよく聞き取れない。まぁ、聞こうとも思ってないけど。
ミウも同じように聞く気はないようで、今もずっと大量の野菜にチャレンジしている。
この店、街のまん中辺りに店開いたら、本当に大儲けするんじゃないだろうか?
食べ物は俺たちプレイヤーの中でも数少ない娯楽の一つになっているので、ここまで美味しいのなら繁盛する確立はかなり高い。
俺は定食に付いてきた魚の塩焼きを食べる。
......うん、やっぱり美味い。
「食ったなぁ......」
「ここがリアルじゃなくてよかったよ......そうだったら絶対太ってる」
あれからは特になにも起こらず、平和に食事が進んでいった。
ヨウトがいて平和に物事が進んでいくってある意味奇跡だよなぁ。
でも、あんまり《旋風》の料理が美味いものだから、夜まであそこにいて晩御飯も食ったのはやりすぎだったよな。
俺は帰ろうと言ったのに、ヨウトが調子にのって騒ぎだして。それに段々ミウものって、最終的にはフィナさんも全力で盛り上がって......あれ? やっぱりヨウトのせいで平和に進んでなくね?
まぁ、とにかくそんなこんなで、帰りにフィナさんに和菓子のお土産をもらって、今は1層の俺の部屋にて3人で談笑中だ。
前までは別に部屋に拘りとかもなかったので必要なものだけ置いていたのだが、ふとミウの部屋のことを思い出して、最近はちょっとした小物を置いてみたりしている。
部屋の隅に観賞用の木を置いてみたり、物を飾るようの棚を置いてみたりだ。
それでもミウに言わせると、まだ物が少ない感じだそうだ。うーん、部屋作りって奥が深い。間取り的な意味ではなく。
しばらく喋って1時間ほど経った頃。ヨウトが小さく、本当に小さくと、まるで隠すように息をついた。
ミウは気付かなったみたいだが、俺がそのヨウトの行動に首を傾げていると。
「......そういえば、二人はいつから付き合いだしたんだ?」
「ぶふぅ!?」
珍しくラフな格好をしているヨウトの急な質問にミウが盛大に吹き出した。
俺も正直、思考が完全に乱れるほど衝撃を食らったが、それどころではない。
「お、おいミウ。大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。コウキありがとね」
俺が差し出したタオルを受け取りながらミウが言う。
まったく、ヨウトもなんてタイミングで聞いてくるんだ。
ミウがまたオーバーヒートしてしまうじゃないか。
「で? どうなの?」
「いや......そもそもなんで俺とミウが付き合ってるの前提なんだよ」
まだ少しむせているミウの背中を軽く撫でながら言う。
でも、アルゴといい、ヨウトといい、そんなに俺とミウは付き合っているように見えるのか?
「えっ? なに? じゃあお前ら付き合ってないの!?」
「あぁ、前にアルゴにも言ったけどな」
「そうなのミウちゃん?」
「けほっ、うん、本当だよ」
「前アルゴに聞かれたときにはloveじゃなくてlike。俺は家族みたいなものだってさ。まぁ、俺も同じ感じだから意義なしだけど」
あのときはなんとなくとしかミウの意見に賛同できなかったが、今ならすごく納得できる。
俺の場合、なんとなくとしか賛同できなかったのはあの頃はミウに対して尊敬の念が強すぎたせいかもしれないが。
あの頃、かぁ。まだ半年も経ってないのにな。
それだけここでの時間の密度が濃いのだろう。
俺がようやく落ち着いてきた思考に、軽く安心していると、ヨウトはニヤニヤとした笑みを俺に向けてきた。
「へぇ~、家族ねぇ」
「な、なんだよ」
「ひひっ、いやまぁ、よかったな、と思ってな」
うぐっ、そういえばこいつは『あのこと』知ってたな......
それ故の意見なんだろうが......なんか上から目線なのがスゲームカつく。いや、実際ヨウトには世話になってるから上から目線で正しいんだけど。
「み、ミウからもなんか言ってやってよ!!」
助けを求め、もう一人の当事者であるミウに声をかけるが。
「......ミウ?」
「......ふぇっ? あ、うん、そうだね! あんまりからかわないでよヨウト~」
ミウは2回声をかけてようやく反応を示した。
なんだろ、今の間......
聞くべきか否か迷っていると、
「あ、もうこんな時間! ごめん私もう帰るね!」
ミウの言葉につられて時計を見るとすでに9時前。明日はもちろん攻略に出るつもりだし、確かにもう帰った方がいいかもしれない。
「それなら送ってくよ」
「ううん、大丈夫! 久しぶりにヨウトと話せるんだし、ゆっくり話してて! じゃ、おやすみ~」
「あ、おいミウ!」
一気に捲し立てて部屋を出ようとするミウを追おうとしたが、立ち上がったときにはもうミウはそのまま部屋を出ていってしまった。
......あちゃー。
俺は小さくため息をつく。それはミウのことでやってしまった、ということに対しての自責の念からのため息なのか、ミウに自分のことがバレなくてよかったという安堵のため息だったのか。
「うわー、コウキ最低」
ヨウトが半眼で睨んでくる。
お前、俺の今の心理状態とか全部分かってやってんだろう、と問い詰めたくなったが、今は堪える。
「......なんのことだ?」
「それ、本気で言ってんのならぶん殴るよ?」
友達思いのこいつのことだ、ここで俺がとぼけたりしたら冗談抜きで殴ってくるだろう。
俺は先程のように座り直して、ヨウトに向き合う。
「で、まさかとは思うけど、本当に気付いてないなんてことはないよな?」
俺は無言で視線を逸らす。
「......はぁ、なんでお前はこうも不器用かな」
ヨウトが心から呆れたように嘆息する。
なんかこいつにはこういう大事なことは隠し事できないような気がして少し腹が立つ。
「うっさいな。お前だって不器用だろうが」
「例えば?」
「......こういう助けかたしかできないところとか」
「くくっ、確かにそうかもな。でも、相手がミウちゃんとか女子ならもうちょっとかっこよく決められるぜ?」
「なんか今日は本格的にうざいな、お前」
「そうでもしないとお前が言わないからだろ?」
くそ。
こういう真剣な場面になるとやっぱりヨウトの方が強い。
どこまではぐらかしてもしっかりとついてくる。
いつもはなんか飄々としているのに......
いや、違うか。こいつの場合俺の事情を全部知ってるからこそついてくるんだろうな。俺が問題から逃げ出さないためにも。
さては今日の本当の目的はこっちだな。
俺は降参の意を込めて軽く両手を挙げた。
「分かった、言いますよ。言えばいいんだろ」
「言った上で認めるのならいいぞ」
「それは......」
分かっている、ヨウトも『あのこと』を知っているから俺にそう言ってくることも。
そしてヨウトは俺のことを心配してそう言ってくれていることも。
それでも......
「無理だ......さすがに」
分かっていれば乗り越えられるほど、俺にとっては簡単なことじゃない。
あれから何年も経った今、ようやく少し振り返ることができるようになったのに、また同じことをするなんて、とてもじゃないが俺には無理だ。
......本当に、俺は弱い。
するとヨウトは一瞬、本当に一瞬今にも泣き出してしまうんじゃないかというほどに悲しそうな顔をした。
しかしヨウトはすぐさまいつもの表情を作ると、小さくため息をつきながら言ってくる。
「......まぁ、今はいいわ。んじゃ、言ってみ?」
「これ、言う必要あるのか? よくよく考えてみると俺が理解してればそれでいい気がするんだけど......」
「答え合わせみたいなもんだよ、ほれほれ」
「......」
こいつ、途中から楽しみだしてないか?
確かにヨウトには色々世話になっているが、これはさすがに......
でも、ここで言わなきゃずっと付きまとってくるだろうし。
いつものニヤニヤ笑顔で見てくるヨウトに対して、俺は一度ため息をつき、
「......最近ミウは、雰囲気が変わったような気がする」
言った。
俺の最大限譲歩、限界は言った。これで文句はないだろう。
......でもこれ、取りようによってはただの痛い奴の発言なんじゃ。
そんな俺の不安とは裏腹に、ヨウトはさっきとは逆に安心したように息をついた。
「まぁ、そんぐらいで許してやるか。かなりギリギリだけど」
「......うるさいな」
「お前さっきからそれしか言ってないな」
うるさい、と言いかけて、確かにこればっかり言っていると思い口をつぐむ。
ヨウトの癖に生意気な......
「で?」
「......なにが?」
「だから、最近変わってきたミウちゃんはコウキ的にはどうなんだ?」
「はぁ!?」
そこまで聞いてくるかこいつは!?
なんぁもう修学旅行の夜みたいなテンションになってないかこいつ......
実は俺の事情とか全部知らないんじゃないかとまで思えてくる。それを言い訳にする訳でないが、それでもここまで聞いてくるのはどうかと思う。
そう思い、ヨウトに避難の眼差しを向けるが、ヨウトは笑いながらも纏っている雰囲気は真剣そのものだった。
......こいつなりに真剣ってか、くそ。
「............可愛いとは、思ってる」
「また当たり障りもない返事だな」
うぐっ。
「仕方ないだろ......本当に、これが素直な気持ちなんだから」
ミウのことを守りたいというのも事実。ミウと一緒にいたいというのも事実だが、ヨウトが言おうとしているところの彼氏彼女になりたいかと言われるとすぐに頷けないのも事実だ。
すぐに頷けない理由の一つには、確かに『あのこと』もあると思うが......
「さっきも言ったけど、家族っていうほうがしっくりくるんだよ、今は」
「なるほどねぇ......そんぐらいって分かってたけど、これでミウの気持ちにも気付いてたら100点なんだけどなぁ......」
ヨウトが呟くように言ったせいで、後半はよく聞き取れなかった。
「ごめん、後半なんて言った?」
「いや、コウキも変わったなぁって思っただけ」
「俺が?」
なんか前にミウにも言われたな。
俺が疑問に思っていると、ヨウトは床に寝転がって天井を見る。
「だってお前、なんていうか、『あれ』以来さ......」
「『人間恐怖症』か?」
実際にそんな病名の病気はない。これは俺のことを診てくれている先生が分かりやすく説明するために言った仮の病名だ。
本当の病名は心的外傷後ストレス障害ーーPTSDだ。
俺は過去にあった『ある事件』以降、重度のPTSDを患ってしまったのだ。
最初の頃は本当に手のつけようがないほどの状態だったらしく、当時小学校低学年程度の俺が完全に誰とも話さず、なにも食べず、ただ呆然と虚空を見ていたり、たまに自殺も図っていたらしい。その代わり急に錯乱状態に陥る、という症状はあまり見られなかったらしいが、それでも毎日生と死の境を行ったり来たりしていたそうだ。
なぜこんなにも他人事かというと、俺にはその頃の記憶がほとんどない。
別に恐怖から記憶が、とか、薬の影響で、とかそういうものではなく、単純に覚えていないのだ。まぁ、多分頭の中をずっと『ある記憶』がぐるぐると回っていて、他のことを覚えていられなかったのだろう。その『ある記憶』だけは覚えてるし。
そしてそんな幼少?時代と数年に渡るカウンセリング、それに親やヨウトたちの必死な看病により少しずつと症状も良くなっていき、今に至る。
そのお陰で、自殺しようとしたり、自分の中に閉じ籠ったりということはなくなったが、医者風に言うとまだまだ心の壁が厚いそうだ。
PTSDにも個人差があるらしく、俺が発症したPTSDはとにかく心に壁を作るものだったらしく、そのせいで今も他人との距離感が上手くつかめない。
しかも『ある事件』の一件から、俺はどうにも他人の悪意を向けられやすくなってしまったせいで、悪意や裏の魂胆がある人物とはそこそこ話せるようになったのだが、そのぶん完全な善意者には警戒体制をとるようになってしまったのだ。最近で言えば、サーシャさんがこれに当たる。
「正直驚いたよ、攻略会議で再開したときはさ。コウキが誰か他人と一緒にいるとこなんて、すごい珍しかったし、今日だって昔は全然他人と話せなかったのに、フィナとは普通に話せてたし......まぁ、さすがに心から信頼、とまではさすがにまだ無理みたいだけど」
「そういえば......そうだな」
言われてみると、そうだったかもしれない。
人間恐怖症になってからちゃんと付き合えたのは、家族にヨウトにその家族と小さい子ぐらいだった気がする。
「なんていうか、ミウは初めて会ったときからあんまり警戒してなかった気がする。ミウのあの性格のせいかもしれないけど」
それにもともと年下の男として見ていたからかもしれない。本人に言ったらまた拗ねてしまいそうだが。
俺、もともとニックは最初会ったときはかなり警戒していたし、アルゴは警戒してもそんなもの掻い潜ってくるし、そもそもアルゴの場合裏の魂胆とかがありすぎて俺の警戒センサーにもあまり引っ掛からなかったし、サーシャさんは前述の通り、フィナさんも軽く警戒はしていた。
思い返してみると。ミウと会ってからは他人との距離感というか、関わり方が少し変わった気がする。
等と考えていると、ヨウトはまた起き上がり、その勢いのまま立ち上がった。
「まぁ、なんにしろよかったよ。お前も前に進めてるみたいで」
「......お前は誰かとパーティ組まないのか?」
「今んとこ予定はなしだな......なに、心配してくれてんの?」
ヨウトがまたニヤニヤしながら聞いてくる。今度は雰囲気も完全にいつも通りのヨウトだ。
とりあえず俺は何も言葉は返さずに、本気で嫌悪感を表している表情をヨウトに送っておいた。
それにヨウトは苦笑いを返してくる。
「まぁ、お前らがギルド作ってくれるのなら、喜んで入るけどな」
「その話、まだ諦めてなかったのか......」
そもそもギルドを作ろうにもメンバーが足りない。
キリトは最近ボス戦以外じゃほとんど見かけないし、アスナも......最近はちょっと。
「ま、気が向いたら作ってくれよ、そんときは俺も入るからさ。じゃあ、またな」
「そんなときは一生来ないと思うけどな......おやすみ」
ヨウトが扉を開け、外に出て帰っていった。
部屋の中には俺一人になり、途端に妙に静かに感じる。
「......」
そういえば、この世界に来てからは『あのこと』ほとんど考えなかったな。
特にミウと出会ってからは。
思い出さないほど大変で、楽しい毎日だったから。
「......はぁ、寝よ」
一瞬、ミウやヨウトと猛烈に会いたくなったが、そんなこともできず。
今日のところはミウのことも一旦忘れよう。さすがにヨウトに振り回され過ぎて疲れた。
そんなこんなで俺の休みの一日が終わった。
はい、コウキくん回でした。
コウキくんの設定については最初から考えていましたが、それでもやはり文章に実際にするのは中々に難しいです。というか試練レベルでした。
しかもそれなのにまだコウキくんの過去については全部は拾わないという......あぁ、またこんな下手な書き方ですみません......
コウキくんにも色々あったみたいですが、そんな現状からいかに立ち上がっていくのか、成長していくのか、見守っていただければ幸いです。
次回は戦闘回です! やっとかけます! また矛盾ご都合が多々あると思いますが
こっちも見守っていただければ幸いです!