テストがようやく終わりました、ひゃっほーい!!
ということで久々に更新します。
今回は全話でも最長の話です。長いです。頑張りました。
まぁ、だからと言って面白いか、と言われると恥ずかしいんですが......
それではどうぞ!
「はぁ、はぁ......」
16層にある街《シールス》。
この街は俺とミウの間では緊急時、転移結晶で移動する街と決めてあった。
その《シールス》の街の入り口で、座り込んで乱れきってしまった息を整える。
......やばかった。
一つ間違えれば、間違いなく死んでいた。
それだけならまだしも、ミウまでも危険な状態になるところだった。
座りながらミウを見ると、ミウも今回はさすがに危険な橋だったのか、少し息を荒げていた。
「お疲れ、コウキ」
ミウはそう言っていつも通り右手の甲を俺に向けてくる。
......いつも通りの笑顔で。
「......コウキ?」
今回、俺はそれに応じようとはしなかった。
いや、できなかった。
どうしても、どれだけ譲歩しても納得できなかったことがあったからだ。
自分の意思とは別に口がゆっくりと動く。
「ミウは......」
やめろ、言うな。
「なんでそんなに......」
言っちゃダメだ。ミウの手の甲に自分のを当てる。それだけで良いんだ。それだけでいつもの日常に戻れる。
言ってしまったらーー戻れなくなる。
そんな俺の思考に反発するように、俺の口は、その言葉を紡いでいった。
「いつも他人のことばかり心配してるんだよ!?」
「......えっ?」
ミウが不意を疲れたかのように間の抜けた声を漏らすが、俺はもう止まれなかった。
ダムが決壊したかのように口からどんどん言葉が紡がれていく。
「少しは自分のことも気にかけろよ!!」
違う、これはただの俺の我が儘だ。
ミウを危険な目に逢わせてしまった自分の弱さを、不甲斐なさを、勝手に俺がミウに押し付けているだけだ。
「もしものことがあったらどうするんだよ!?」
こんなことを言っても、何もならないのに。
俺の言葉を聞いて、ミウはしばらく驚いたような顔をしていたが、状況に頭がついてきたのか、少しずつ不機嫌そうな顔になっていく。
「......コウキには関係ないよ」
「関係ないって......!?」
そりゃそうだ。ミウだって覚悟をもってこの世界で戦っている。俺が今言っているのは、なんでそんな覚悟を持っているのか? と聞いているのと同じだ。失礼だし、お節介にもほどがある。
分かっているのに、ただ俺が引けば良いと分かっているのに、心が理解を拒んでいる。認めたくないと。納得できないと。
この今の俺の叫びは、俺の心の叫びなのだ。
今回のことだけではない、今まで積み重ねきた思い。
それに火が着いたのが今回だった、それだけのこと。
ただ、それだけに頭に血がのぼっていく。
「さっきだってミウ、一人だったら死んでたかもしれないじゃないか!!」
「っ! 私一人でも大丈夫だったよ......あのとき助けてくれないでも......」
「大体、なんでミウはいつも相手が助かれば自分はどうでも良いみたいな行動ばかりーー」
「うるさいっ!! 私の覚悟にまで口出ししないで!!」
っ......!!
また、ミウから敵意に近いものを感じた。
そのお陰か、ミウの叫び声のお陰か、頭に上っていた血が一気に降りて頭が冴えてくる。
ミウも無意識のうちにさけんでしまったのか、しまった、というような表情になっている。
......くそ。アホか俺は。
そして頭が冴えてきたことにより、回りの状況に意識を向ける余裕ができた。
「......なにあれ?」
「ケンカか?」
「こんなとこでやってんじゃねぇよ」
がやがや......
......まずい、人が集まってきた。
こんな人の多い場所なのに、なにやってんだ俺は。
いつもなら間違いなく分かっていたことなのに、完全に周りが見えなくなっていた。
「ミウ、とりあえず移動しよう?」
せめてなにかフォローしないと、そう考えたのだが。
「......ごめん、今日はもう帰るよ」
ミウは俯いてそう言った。
気のせいでなければ、声が震えていた気がする。
このままじゃダメだ、なにか言わないと......
頭の中を多くの単語が行き交うが。
「......そっか」
それでも俺は、そんなことしか言えなかった。
......ダメ。
起きてよ。
僕を一人にしないで。
一緒にいて。
起きてよ......
「......ごめんな」
次の瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
「っ!! うぁ......」
まぶしい。
どうやらもう朝らしい。
起きようと思い体にかかっている布団をどけようと手を伸ばすが、右手は何も掴まずに空を切る。
あぁ、そっか。昨日帰ってきてそのままベッドにダイブして......
そのことを思い出すと同時に、体に嫌な寒気が襲ってきた。
今が4月でよかった。
もしも冬だったら体が凍えてしまっていたかもしれない......圏内でも凍えるのかは知らないが。
そんなことを思いつつ体をゆっくりと起こす。
体が恐ろしいほどにだるく重い。あの夢のせいだ。
......最近、あの夢見てなかったのに。
やっぱり、まだ昨日のミウとの言い争いが尾を引いているのか。
自分でも分かるほど緩慢な動きで窓の外を見ると、空は憎たらしいほどに快晴だった。
「......はぁ、最悪の目覚めだな」
こんな日ぐらい、雨でも良いのに。
SIDE Miu
「はぁ、アルゴー、どうしよう......」
「......いヤ、いきなりそんなこと聞かれてもナ」
昨日コウキと別れたあとは、そのまま部屋に帰って延々《料理》スキルの熟練度アップに専念していた。
なにか考える余裕があるとコウキへの罪悪感とかで押し潰れてしまいそうだったから。
次の日になればこんな気持ちは薄れるだろうと思ってたんだけど......
全くそんなことはなかった。
今日なんかも目覚めは最悪だった。
こんなことじゃいけないって分かってはいるんだけど、コウキになんて言ったらいいのか分からない。
こんなのはじめてだ。
それをアルゴに話すと、
「うーン、それはナー」
珍しいことに、困ったようにアルゴが笑った。
そのあまり見ないアルゴの反応にまた少し不安になってくる。
ちなみに今いるのは22層の草原だ。
相談がある、とアルゴに言うとここを指定されたのだ。
この草原には湖があり、その周りに大木が立っているので、ちょっとした隠れ泉のようになっている。
私もこんなところは知らなかったので、少し驚いている。
「なァ、ミーちゃン」
私と並んで大木に背中を預けて座っているアルゴは空を見上げる。
「ミーちゃんはコー坊の言い分はどう思ったんダ?」
「それは......」
昨日、私が襲われているプレイヤーを助けようとしたこと、それは間違っていないと思う。
そもそも、間違っていようといまいと私は私が決めたことに従って行動していたのだから正しいかどうかは関係ない。
それでも。
「......正直、コウキが言ってたことは正しいと思う」
コウキが昨日言っていたことは、いや、いつも言っていることは全て私のことを心配してのことだ。
昨日はカッとなっちゃったけど、コウキの言う通りコウキの助けがなければ今ごろ私はこの世界にいなかったかもしれない。
コウキが言うことはいつも正しい。それは私のことを心配して言ってくれているとだからだから。
「でも、例え正しいんだとしても、私はそれに応じないと思う」
「ミーちゃんは考え方が違うからカ?」
「それもあるけど、やっぱり応じちゃったら私じゃなくなっちゃうからかな」
私は、助けられる可能性があるのなら、生きられる可能性があるのなら、それに躊躇なく自分の全てを賭けて助ける。
それが私の覚悟だから。
自分の覚悟を誰か他の人に合わせて変えたりなんかしたら、自分が自分じゃなくなってしまいそうだから。
だから私は、コウキのように割り切った考えはできない。
......もしかしたら、そこが私とコウキの決定的な違いなのかもしれない。
助ける命を選んでいるコウキ。
誰でも助けようとする私。
コウキの考え方は否定しない。そういう考え方をする人がいてもいいと思う。
実際、そういう考え方の人たちのお陰で多くのことが上手くいっているんだと思う。
だからといって、私も自分の考えを曲げるつもりはない。
「どうしよう......」
その結果、堂々巡りになっちゃう訳だけど。
私の我が儘から始まっているだけに、一度考え込んでしまうとどこまでも落ちていってしまいそうだ。
「逆にミーちゃんはどうしたいんダ? コー坊に迷惑、っていうのは置いておいてサ」
私がどうしたいのか......
「コー坊に謝らせたいのカ? それとも自分の意見を曲げル? はたまた反りが合わないからコー坊とは別れるカ?」
アルゴは人差し指を宙でくるくる回しながら聞いてくるが、気のせいか、その声にはどこか私を試すような声色がある。
どうするか......そんなの、最初からずっと変わらずに決まってる。
「......コウキと一緒にいたい。例え考え方が違っても」
結局私はそこに辿り着くんだ。コウキが好きだから。
考え方が違っても、私の想いは変わらない。変わるわけがない。
私と違う考え方を含めてコウキなんだから。
すると、アルゴがどこか安心したように笑う。
「じゃア、そう言えばいいじゃないカ」
「でも、何て言えば良いの? 謝ってもきっとまたぶつかると思うよ?」
きっと昨日と同じような場面に出くわしたら、私はまた同じことをするだろう。それをコウキがまた止めて、私がまた勝手なことをして、今みたいなことになる。
私の考えや行動で誰かが困るのは嫌だ。それがコウキならなおさらだ。
そこまで考えて目の奥が熱くなってきていることに気が付いた。今自分がみっともない顔をしているような気がして、それを隠すために膝を抱え込んで顔を埋める。
「なるほどな......」
アルゴがなにか呟いていたが、私が顔を膝に埋めたのと同じタイミングだったので聞き逃してしまった。
聞き返そうかと悩んでいると、アルゴは立ち上がって私を見下ろしてきた。
「なァ、ミーちゃン。良いところに行かないカ?」
そう言ってくるアルゴの目は、ニヤリと妖しく光っていた。
SIDE Kouki
「いらっしゃい......って、なんだ君たちか」
「うーっす、フィナ」
「......どうも」
今俺はヨウトと一緒に《旋風》に来ている。
まだ朝なので、やはり客は少ない
......フィナさんがジト目でこちらを見てきているような気もするが、いつものことなので気にしても仕方がない。
なんたって相手は心が読めるらしいし。
でも、もう何回も来てるけど心読まれるのはやっぱり馴れない。
「......ねぇ、コウキ君、まだ私が心読めるって信じてるの?」
「......だからあいつ変なところで純粋だって言ったじゃん」
そしてヨウトとここに来ると毎回こんな風に2人の内緒話が始まる。
いつもなに話してるんだろ?
フィナさんは咳払いをすると俺たちに席に座るように促す。
「で、どうしたの2人とも。朝御飯にしては遅くない?」
現在時刻午前10時、確かに朝食にしては少々遅い時間だし、昼食にしても早い。
それもそのはず、俺たちはここになにか食べに来たわけではない。
そもそも俺は、今日ここに来るつもりはなかったのだ。
なのに.....
「それがな、聞いてくれよフィナ!!」
「えぇ、聞きましょう?」
「なんかこいつ、9時ぐらいに汗だくで俺のとこ来てな? イライラする遊べ、とか言い出したんだよ。訳分かんないよな」
朝起きたあと、家の中にいると自分の中で何かが切れてしまいそうだったので、ソードスキルの反復練習に出たのだが、これがまた効率の悪いこと悪いこと。
つまりまったく集中できなかったのだ。
それでも3時間ほど頑張ってみたんだけど......はぁ。
で、練習も上手くいかなかったのでヨウトが泊まっていた宿に乗り込んだのだ。
「ほう、それで? イライラする理由っていうのは聞けたの?」
「それがなぁ......」
ここで2人の目線が俺を向く。
なんか2人のーー特にヨウトのーー目線がニヤついていたので俺は目線を逸らす。
っていうか、俺の話を聞く前に。
「部屋の中じゃあ息が詰まるよなぁ。そうだ、《旋風》に行こうそうしよう!」
とか、めっちゃ棒読みで言ったのはヨウトだろうが。
そう思い、隣に座っているヨウトの足を踏む。かわされた、ちくしょう。
するとヨウトはどこか呆れたようにため息をついた。
「あのなぁ、俺だって思い付きでここに連れてきた訳じゃないんだけど」
「......分かってるよ。部屋の中だと俺が息詰まるからーー」
「それもあるけどな。ここだったらフィナにも相談できるだろ? 男の俺だけだと、どうしても限界あるし」
「......俺、別に相談あるなんて言ってないけど」
俺がそう言うと、今度はフィナさんが呆れたようにため息をついた。
「コウキ君、いっつもミウちゃんと一緒にいたのに急に別行動、イライラ、こんなに条件が揃えばそりゃあなんか困ってるな、っていうの分かるよ」
「......俺たちだってたまには別行動しますよ」
「じゃあ、もうそれでいいや。で? コウキ君はなんでイライラしてるの?」
うぐっ。
......なんかもうどう言っても逃げられない気がする。さすがの読心能力。
でも、無茶苦茶ではあるけど、ヨウトの言い分にも一理あるし......
脳裏によぎるのは、昨日の別れ際のミウの表情。
......今回は、申し訳ないが2人に甘えさせてもらおう。今回だけ。
「......昨日のことなんですけどーー」
「ーーって感じです」
俺は2人にミウとのことを話した。
さすがにレッドのことはぼやかそうとしたのだが、即行で2人にバレて白状させられた。
フィナさんは俺の話が終わると同時にお茶を持ってきてくれた。さすが達人だ。
俺が話終えてからは3分ほど、2人とも黙っていたのだが、その沈黙をヨウトが破った。
「つまり、ミウちゃんとケンカしちゃったから仲直りしたいと」
「ケンカって......なんかちがくね?」
「いや、同じでしょ? ケンカの理由が互いの覚悟云々ってだけで、要は意見のぶつかり合いなんだしね」
......確かに、フィナさんの言う通りかもしれない。
そもそも事の発端は自分の思い通りにならなくて駄々をこねている俺の我が儘みたいなものだ。ケンカっていう表現がしっくり来るかもしれない。
「でも、ケンカの理由がなぁ」
「うん、どっちも正論ていうのがまた......」
ヨウトとフィナさんが同時に唸る。
俺が正しいかどうかは分からないが、ミウが言っていたこと、していたことは正しいと思う。
ミウは結局誰かーー今回はあの襲われていたプレイヤーーーを助けようとしていただけだ。
その行動は完全に善の行動。誰が見ても間違いとは言わないだろう。
実際、俺も正しいと思っているから今までミウが誰かを助けるのも止めなかったし、協力もした。
でも、今回のミウは自分から死ににいくような状態なのに助けにいった。
それは看過できない。
ミウが死ぬ可能性だなんて考えたくもないのに。
いくらなんでも昨日のミウの行動はいきすぎていた。あれじゃあ本当に自分殺して誰かを助けるようなものだ。
だから俺は、ミウの考えに納得できない。
「......俺はミウに死んでほしくない。ある意味、ミウを守るために俺は戦ってるって言っても間違いじゃない......でも、これは俺の勝手な我が儘なのかな」
心の中で処理しきれなかった考えが独白のように漏れる。
ミウを守りたい。
言ってみて気が付いた。いつの間にか俺の覚悟はミウを守ることを基準になっていたことに。
でも、ミウが俺の考えで困るんじゃまったく意味がない。
それなら、もう......
パァン!!
「うわぁ!?」
不意に目の前で何かの破裂音が鳴った。
何事かと思って音の発生源を見ると、ヨウトが手を合わせたポーズでこちらを見ていた。どうやら思いっきり手を叩いたらしい。
「コウキー? 勝手に考え進めんなよー?」
「私たちがいること忘れてたでしょ?」
「いや、その......」
図星である。
「しかも。ミウちゃんとのパーティー解散しようとか考えたでしょ?」
「......はい」
別に、ミウを守りたいという俺の考えはミウとパーティーを解散してもやろうと思えばできる。
確かにミウと一緒にいる、というのはダメになるが......大事なのはミウが死ぬようなことがなくなることだ。
ミウもそれで伸び伸びとできるのなら......そういう考えだったのだが。
「却下」
「却下だな」
2人に言うと、即却下されてしまった。
しかも2人とも軽くキレ気味で。
「あの......これでも結構悩んで考えた末の案なんだけど」
「考えた末って......まぁお前ならあり得るかもしれないけどさ」
「コウキ君はなんでそんなに不器用かな.....?」
ヨウトが頭を掻きながら、フィナさんは腰に手を当てながら言う。
俺ならっていうのは......まぁ、昔のことだろう。
「コウキ君はミウちゃんを守るためって言ってるけど、じゃあなんでミウちゃんにそのことを聞かないの?」
「それは......」
「君がミウちゃんをすごく大事にしてることは分かったよ? でも、今のは君の考えであって、ミウちゃんの考えなんてどこにもないじゃない。ミウちゃんを守るのに、それはおかしいよね?」
「......」
.......そうだ、なんで俺はミウの考えを聞かなかったんだろう?
ミウがどうしたいのか、どうしてほしいのか。
いや、それ以前に、なんで俺はいつも自分一人で考えていたんだろう?
昨日だって、俺の最善を伝えただけでミウの最善なんて考えもしなかった。
つまり......
「......結局、全部俺の一人相撲だったってこと?」
「違うぞコウキ」
ヨウトが首を振って言う。
これにはフィナさんも予想外だったらしく少し驚いた表情になっている。
「これはお前のことを知ってるから言えることなんだけどさ」
そこでヨウトは一旦言葉を切り、言うかどうか迷うような素振りを見せ、口を開く。
「多分、お前は怖がってるんだよ。ミウちゃんとぶつかることを」
「......怖がってる?」
俺が? ミウと?
なんで?
「お前、『あの事件』から誰かを大事に思うことしないようにしてただろ」
ドクンッ。
不意に胸が鳴った。
それは図星を突かれたからか、それとも別の要因か。
まるで体中の水分が抜かれていくかのように、一気に喉が乾いていく。
息が......苦しい。
「か、仮にそうだったとしても、それがミウのこととどう繋がるんだよ......?」
「もう分かってるだろ? お前は自分とミウがぶつかることで離れ離れになるのが嫌なんだよ」
離れ離れ。
その単語を聞いて息苦しさがまた一段階上になる。
やばい、フラフラしてきた。
この感じは......ヤバい。
「でも......俺今、自分で離れようとしてたけど、それはどう説明するんだよ?」
「だから、ぶつかり合うのが嫌なんだろ? ケンカしっぱなしで別れるっていうのが嫌だから」
「それは......」
そんなことはない。例えケンカしても俺は......
そう言えばいいのに、そう思っているはずなのに。
ーー『ごめんな』。
「っ!!!」
ある場面が脳裏をよぎった瞬間に、一気に世界が遠くなっていく。
次の瞬間には目の前がぐちゃぐちゃになった。
ヨウトとフィナさんが俺を呼んでいるような気がしたが、その声を境に俺の意識は暗闇へと落ちていった。
......真っ赤だ。
視界全体が赤に包まれている。
真っ赤な空間の真ん中に、誰かがーー子供だろうか?ーー1人座り込んでいる。
いや、違う。1人ではない。もう1人いる。
そのもう1人は地面に倒れていて、子供の影に隠れて見えなかったようだ。
その2人が気になって近づいてみると、子供の方がなにか言っているのが聞こえてきた。
「起きてよ......」
これは......
「起きてよぉ......」
子供は泣いていた。それはもう、この世の終わりに絶望してしまっているかのように。
そして、この世界の赤は倒れている人の腹から出ているものが発生源だということに気が付いた。
血......か。
なんだか、最近見ていなかった気がする。
倒れている人は、泣いている子供の頭に手をのせ、
「ごめんな......」
あやすように優しく、ゆっくりと一度撫でると同時に、力が血とともに抜けていってしまったかのように、その手が血で染まった地面に落ちた。
子供はそのあとも何度も何度も倒れている人を揺さぶっていたが、それ以上動くことはなく、世界は子供の泣き声で包まれた。
そこまでの経緯を見て、ようやく思い出したことがあった。
あぁ、そっか......
この子供、俺なのか......
ここまでリアルに思い出すのは久しぶりだから分からなかった。
軽い発作すらも起こらないということは、ここは夢の中かなにかか。
「つっ......」
頭が痛い。
自分が夢の中にいると気付いた者にはもう用がないのか、それともここから先は俺自身に記憶がないからか、世界が自分を拒んでいる感覚が伝わってくる。
それと同時に、世界が急速に暗くなっていった。
「......最近こんな夢ばっかだな」
「開口一番それかよ」
目を開けると天井の木目が見え、次にヨウトの顔が見えた。
木目......多分《旋風》か。
起き上がって周りを確認しようとするが、体が今まで感じたことがないぐらいに重い。それどころか体温までこれ以上ないぐらいに低い気がする。
......やっぱ、あそこまで鮮明に思い出すとキツいか。
夢の中のことを意識すると、再び目の前の風景が遠くなりそうだったので無理矢理頭を振って思考を切り替える。そして今度こそ周りを確認する。
俺が今まで《旋風》に来て入ったことがあるのは店の方だけだったので確証はないが、作りとかはやっぱり《旋風》っぽい。
それに床の作りが石ではなく畳だ。店の奥の生活空間か。
「俺、どんぐらい寝てた?」
「10分ぐらい? 夢見どうだった?」
「お前のお陰で最悪だった」
ヨウトと適当に雑談する。
昔、俺は発作で倒れるようなことは少なかったと言っても、皆無ではなかった。
たまに急に発作を起こすことがあったが、そういう時介護してくれたのは大体がヨウト(陽)とか親......まぁ、もう一人いたがそいつは割愛。
なので倒れたあとのアフターケアというのか、そういったものはヨウトはすごく慣れていた。
例えば今のように俺を横に寝かせたり、起きたあとも適当な軽い会話でいつも通りの空気を作ってくれたり。
そういうところは、本当に感謝している......あれ? でも今回俺が倒れた理由ってヨウトだったような......
「......はぁ」
「どうしたコウキ?」
「いや、俺も変な友人を持ったなぁと思って」
「?」
まぁそれは置いておくとしてだ。話を戻そう。
さっき見た夢、夢見はさっき言ったように最悪なことこの上なかったが、昔のことを明確に思い出せたお陰か、今なら色々分かったこともあったと言える。
俺は、ただ逃げてただけなんだな。
もう二度と大事なものを失ったりしたくないから。
もう二度とあんな辛い思いをしたくないから。
もう二度と喧嘩別れなんてしたくないから。
「俺は、弱いな......」
前を向こうと考えているわりに、結局心の方は過去にしがみついている。
まったく前を向いていない。
そんな思いから、誰に言うでもないただの独白が口から漏れたのだが、
「だから誰かと一緒にいるんだろ? 弱いのなんて、お前だけじゃないよ」
ヨウトから返答が返ってきた。
俺はヨウトの言葉に小さく笑う。
まったくもってその通りだ。
大切なものを失いたくない、でも自分が傷つくのも嫌だ。そんなどっち付かずの我が儘の結果が今だ。
傷付くのを恐れて行動できなくなるなんて、馬鹿らしい。
俺たちは弱いからこそ、一緒にいるんだ。
俺はミウのことを全部知っている訳じゃない。そして俺は強いわけでもない。だからこそぶつかるんだ。相手のことをちゃんと知るために。もっともっと強くなるために。
そんな当たり前のことにも気づけなかった俺に気付かせてくれたヨウトとフィナさんには感謝でいっぱいだ。
「まぁ、でも、それとミウの考えを認めるのはまた別の話だけど」
「......お前も強情だなぁ」
「あと、お前の俺に対するトラウマ弄りも許してないから」
「ちょっ!? それは必要経費みたいなもんじゃねーの!?」
「んなわけねぇだろ!? 俺ぶっ倒れるほどトラウマ抉られてんだから!!」
知らないでやったとしたならともかく、こいつは間違いなくわざとだ。
ていうかそもそも、ここまでやる必要なくね?
そんな考えを視線に乗せてヨウトを睨む。あっ! こいつ目ぇ逸らしやがった!! しかもなんだその「やべっ、今気が付いた!!」みたいな顔は!!
こいつに今度なにか奢らせようと固く誓っていると、湯飲みをお盆に乗せたフィナさんが部屋に入ってきた。
「おー、起きた? 体大丈夫?」
「すいません、迷惑かけてしまって......」
「いいのいいの。悪いのはそこにいるバカだから」
「まさかの裏切り!? ブベッ!?」
「はーい、ちょっと黙ってようねぇ」
フィナさんに蹴られ、部屋の外に吹っ飛んでいくヨウト。
うお......今ノーモーションでドロップキックしたぞフィナさん。
あまりの速さに目がついていかなかった......
達人恐るべし......
等と俺が脳内コントしていると、フィナさんはお盆に乗せていた湯飲みを俺に差し出してきた(ドロップキックなんて大技を繰り出していたのに、一滴も零れていなかった)
「はいこれ。まだちょっと熱いかもしれないから気を付けてね」
「どうもです」
湯飲みに入っているお茶を一口口に含む。
確かにまだ少し熱かったが、味が薄めで風味がいいのでとても美味しい。
そして熱い飲み物を飲んだお陰か、完全に冷えきってしまっていた体が内側から温まってくのを感じる。
ふぅ、ようやく落ち着けたかも。
フィナさんは俺の隣に座ってくる。
「なにか分かった?」
「......分かったのはちゃんとぶつからないといけないってことと、俺はやっぱりミウが大事ってことだけですかね」
あの夢で見たようなこと、あんなことはもう二度と嫌だ。ミウがあんな風になるなんて、考えたくもない。
......結局、前に進めたのか違うのか分からない結果だな。
そう思って俺は苦笑いしただが、
「うん、それでいいんじゃない?」
まさかの全肯定をもらってしまった。
えーっと、本当にいいんですかね?
「相手のことが大事で、相手の意見も尊重できる。逆に話し合いをする上でそれ以上なにかいる?」
......こんな考え方ができる人もいるのか。
正直、すごいと思った。
自分が折れるでもなく、自分を押し付けるでもなく、話し合うという選択肢を最初から持っていることが。
今までの俺だったらこんな風には、絶対に言えなかったと思うから。
「それに好きなんでしょ? ミウちゃんのこと。だったら大丈夫!!」
「はぁ!?」
「え、なに? 違うの?」
「いやそれは......」
「おかしいなぁ。私の考えではミウちゃんのこと好きだって気付くと思ったんだけどなぁ」
いや、そんななんか期待するような目でチラッチラ見られても......
この人もなんか、ヨウトと同じベクトルの人だよなぁ。いい人なんだけど。
まぁ、だからヨウトとも仲いいんだろうけど。
「で、どうなのどうなの!?」
訂正。この人ヨウトよりも厄介かも。
あと、そんなキラキラしてこっち見ないでください。少女漫画みたいなオーラ出さないでください。ていうかどうやって出してるんですかそれ。
退路は......なんで店のなかにmob捕縛用のトラップが仕込まれているんでしょう?
てか危なっ!! これ気がついてなかったら串刺し+麻痺だぞ!? いや、圏内だからならないけどさ!!
それでもちょっとした衝撃みたいのは襲ってくるし。
「言っちゃった方が楽だぞ~?」
フィナさんが四つん這いで俺に迫ってくる。
何故だろう? 他に誰もいない部屋のなかで美人の人に迫られる。とっても素敵イベントのはずなのに、生命の危機しか感じないのは。
怯えている俺に対してフィナさんは妖しく笑った。
「ほ・お・ら?」
SIDE Miu
「お邪魔しましたぁ!!」
コウキがお店の外に出ていく音が聞こえる。
「おーい、そろそろ出てきてもいいよー」
続いてフィナさんの声が店内に響く。
それに応じて、私とアルゴはコウキがいた部屋とは別の部屋の、もう一つの部屋から出ていく。
「......ここ、思ってた以上に大きいですよね」
「ふふっ、ありがと。アルゴちゃんに教えてもらったからね~」
「いヤー、見つけるの苦労したんダゼ? あとアルゴちゃんやめろナー」
笑顔で会話を続ける2人。
なんとこの2人、リアルからの友達らしい。
《旋風》開店資金にもアルゴが一枚噛んでるとかなんとか。
「で、どうだったミウちゃん?」
「うぇっ!? な、なにが、でしゅか?」
「コウキ君の台詞の感想♪」
「えート、ミウは掛け替えのないない大切なやつ、だったケ?」
「うにゃぁぁぁぁぁぁああ!!」
言わないでぇ!!
アルゴの言葉を聞いた瞬間に先ほど聞いていたコウキの台詞がリピートされる。
ダメだ! 顔爆発しそう!!
こんなことならアルゴについていくんじゃないかったよ!!
《旋風》についた途端裏口から入るとかアルゴが言い出して、入ってみればコウキとフィナさんが2人で部屋にいて、そのまま覗いてたらコウキが押し倒されてマウントポジション取られてたし......
それで、その時コウキの台詞を聞いちゃったんだけど......
でも、コウキ、私のことあんな風に思ってくれてたんだ。
掛け替えのない、大切かぁ......
「おーイ、ミーちゃーン?」
「こりゃ完全にトリップしちゃってるね。なんかポーッとしてるし」
ポー。
「うーム、仕方ないナ。えイ」
ムニュ。
あれ? なんか胸に違和感が......
ってーー
ひにゃあぁぁぁぁああぁぁ!?」
「おー、アルゴちゃん大胆」
咄嗟に両腕を胸の前でクロスして飛び退く私。
「アルゴなにするの!?」
「なんか聞こえてなかったみたいだカラ。いいダロー、別に女同士なんだカラ」
うぅ~、それでもこんなことしなくてもいいじゃん~。
触られたー!!
「でモ、ミーちゃン」
「なにー......?」
涙目になりながら聞く。
するとアルゴは私に向けて笑顔と親指を上に立てた右手を向けてくる。
「もうちょっとは成長すると思うから大丈夫サ! 多分!!」
「うるさい、余計なお世話だよ!?」
ていうか多分ってなに!? そんなに私って壊滅的なの!?
私が世の中の理不尽さに涙目どころか半泣きになっていると、アルゴが微笑んだ。
それはいつもの会話の中で見せるようなものじゃなくて、どこか暖かみがある笑みだった。
「ミーちゃン、ちゃんと掴めたカ?」
「.......うん」
結局、私も怖かったんだと思う。
コウキに自分が否定されるのが。
好きな人に自分を否定されるなんて、あんなことをもう一度繰り返すのが。
「それでも、ちゃんとぶつからないとダメだよね。ぶつからないと相手の考えも理解できないし、自分の考えも伝わらないから」
それがちゃんと意見を伝えたい相手、好きな人だったらなおさらだ。
私はコウキのことをもっと知りたい。そしてコウキにも私のことをもっと知ってもらいたい。
だから。
「私もコウキと正面からぶつかってみるよ」
どれだけ怖くても、その先にあるもっと嬉しいことを楽しいことを掴みたいから。
私が言ったあと、アルゴもフィナさんも笑顔で頷いてくれた。
それと同時に電子音が鳴る。
「あ、メッセ......コウキからだ」
メッセを開くと、今から《シールス》の門の前に来てくれ、とのこと。
昨日コウキとケンカした場所だ。
「あの、2人とも......私」
「うん、行ってきなよミウちゃん!」
「お土産にいい結果教えろヨー!」
本当に......この2人にはお世話になりっぱなしだなぁ。
今度なにかお返ししないと!
「ありがとう! 行っていまーす!!」
私はそう言って、見送ってくれる2人に手を振りながらお店の出入り口から走っていた。
SIDE Kouki
俺がミウにメッセを送って5分もしないうちに、ミウは門の前に来た。
「コウキー!」
ミウが俺のいる場所まで笑顔で手を振りながら走ってくる。
......なんかすごく久しぶりにミウの笑顔を見た気がする。たかだか1日見てなかっただけなのに。
そんなミウの笑顔を見ているだけで暖かい気持ちが胸に広がるが、その笑顔をこれから曇らせることになるかもしれないと思うと、また目を背けたくなる。
まぁ、そういうわけにもいかないけどな。
俺は、ミウと正面から向き合いたい。
「ミウ」
「ん?」
「話がある」
「......うん、私も」
ミウが笑顔を潜めそう言ってくる。
その顔は、俺と同じようになにかを決意するように見える。
「じゃあ、一緒に言うか?」
「......うん、いいね」
「んっじゃ、せーのーー」
「「ーー俺(私)はミウ(コウキ)の考えに納得はできない」」
「「......ぷっ」」
「「ははははは!!」」
言うと同時に、俺とミウは笑いだした。
それにしても......
「まさか2人とも同じこと考えてたとはな」
「ほんとにねぇ」
俺はミウにそう言いつつも、いや、多分ミウも俺に言いつつも、互いに同じことを考えていることは分かっていた。
ミウのことを信じていたとかそういうんじゃあなくて、ミウの顔を見た瞬間にそんな気がしたのだ。
きっとミウも似た感覚があったから、同時に言うことに賛成したんだろうし。
「それで、コウキはどうするの?」
ミウが微笑みながら聞いてくる。
どうするか、か......
......そもそも、俺たちはどうしようもないぐらいに別人だ。
自分が他人と違うことは仕方がない、それは前にミウが俺に言ってくれたことだ。
俺はミウじゃないからミウの考えのすべては分からない。ミウの場合もそれは同様だ。
今回も結局はそれだ。互いの覚悟を完全に理解し合うのは難しい。
......だが。
「もちろん......ミウと一緒にいたい。だから、もうミウと正面からぶつかることから逃げない」
だが、それは相手と自分は違うだけであって、考えが理解できないということの証明にはならない。
理解することが難しくても、相手の考えを理解したいからこそ何度もぶつかって互いのことを理解しようとするのだ。
今すぐには無理でも、何度もぶつかっていればきっと俺たちは俺たちの答えを見つけられると思うから。
そう信じているから。
「そっか......」
俺の言葉を聞くと、ミウは目を瞑って嬉しそうな顔をした。
「ミウはどうするんだ?」
ミウも俺と似たような考えだと思うが、それでもミウの考えによっては......解散もありうる。
ミウが本当にそれを思っていたら、だが。
しかし、俺のそんな心配をよそに、ミウは笑う。
「私は......ううん、私もコウキと同じ考えだよ。私もコウキと一緒にいたい。コウキのことをもっと知りたい」
......よかった。
聞いた瞬間、体の緊張が一気に解けるのを感じた。
似たような考えを~とか言いつつも、心はやはりミウが離れることを怖がっていたようだ。
俺は安堵の息をつく。
「でも、それだけじゃないよ?」
が、ミウの言葉で俺はまた緊張することになる。
「私は......」
そこでミウが言葉を一旦切り、顔を俯かせる。
どうしたのかと思い、ミウの顔をよく見てみると......震えてる?
恐怖や緊張で、という割りには顔が赤い気がするし、恥ずかしがってる?
なんでこのタイミングで? と思いつつ首を傾げてミウの言葉を待っていると、ミウが勢いよく顔をあげた。
「私はっ......互いのことを知るだけじゃなくて......そこから先にも進んでいきたい!! これからの自分達を作っていきたい、コウキと!!」
ーーっ!
ミウ......
......ヨウトの言う通り、俺は心のどこかで誰かと必要以上近づくことを拒んでいた。
もう傷つきたくないからと。
でもミウは......
ミウは今までの俺もそうだが、これからの俺のことも考えてくれた。
また自分のトラウマのせいで、全てから逃げ出してしまうかもしれない、こんな俺を。
ミウはそれを知らない。それでも、こんなに嬉しいことはない。
「......? どうしたのコウキ?」
急に俯いてしまった俺を心配してミウが声をかけてくる。
いけない、ミウに心配をかけちゃダメだ。
「いや、なんでもない」
声が震えてしまいそうになるのを必死に堪える。
俺は、俺のことをそこまで考えてくれたミウに応えたい。
だから全力で笑って言う。
「あぁ、俺も同じだ!!」
するとミウも笑ってくれた。
結局、今俺たちがしたことは直接的な解決にはなっていない。俺たちの間の問題はなにも解決していないのだから。
それでも、今までの俺たちは問題に気づいていても目を逸らし続けていたんだ。それに比べれば俺たちは確実に前に進んでいる。なぜなら今回、俺たちは考えをぶつけ合ったのだから。
空を見上げる。
今日の空は相も変わらず快晴だったが、今はそれでも憎たらしくはなかった。
ケンカ回でした。
ラノベや漫画によくあるような喧嘩後の解決、実際のところ現実だとあんな風には中々できませんよね。
ということでそういう所をピックアップしたケンカにしてみました。
いや、実際のところは上手く纏められなかった、という事情があったりなかったりですが......
コウキくんもミウさんも、基本的に相手に合わせるところがあるのに、自分の決めたことは絶対に曲げないキャラということもありますからねぇ。
次回はちょっと趣が変わります。