力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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久方ぶりなヤマトくん話ですわーい。
あのツンデレな方も出てきますよ~。
あとミウさんに引き続きツンデレさんも描いてみましたので見てくださると嬉しいです。


【挿絵表示】


それではどうぞ!



AS3話目 相変わらずな藍髪少年

 皆さんは、あまりの喜びに笑顔を隠しきれなくなった、という経験はないだろうか?

 人という生き物は生まれた当時は感情がそのまま表情に表れ、喜怒哀楽がはっきりとしている。

 だがそれは成長と共に理性が育つことで少しずつ薄らいでいき、表情や感情を隠せるようになる、というより、そういう能力が成長と共に求められるようになるのだ。

 それが普通。特筆すべきことでもない一般的な話だ。

 そんななか、あえてもう一度問おう。

 ーー皆さんは、あまりの喜びに笑顔を隠しきれなくなった、という経験はないだろうか?

 

「うぇへ、うぇへへへへへ......」

 

 残念なことに、街中で1人不気味に笑っている藍髪の少年、ヤマトはあまりの喜びに笑顔を隠しきれなくなっているところだった。

 少年の目の前には、本人のウィンドウが浮かんでいる。

 そしてそのウィンドウに写っているのはヤマトが取得している数々のスキル。そこにはこれといって目を引くようなものはなかった......今までは。

 それが変わったのは昨日の夜だ。

 昨日の夜、ヤマトが寝る前に1日の熟練度アップを確認していたとき、取ったはずのないスキルが一つ増えていたのだ。

 そのスキルはーー

 

(うぇへへへへ、ついに、ついに《刀》スキルが出てきた!!)

 

 ということだ。

 以前ヤマトは友人である少女に《刀》スキルの情報を聞いたあと、時間と機会を見つけては《曲刀》スキルの熟練度を上げていたのだ。

 もちろんただ上げていて《刀》スキルが発現するとは限らないので、可能な限り情報を集めて、それらしきことを色々試したりもした。

 そして多大な時間と労力の積み重ねの結果、ついにヤマトは《刀》スキルとご対面できたわけだ。

 これでは確かに笑顔を隠しきれなくなっても仕方がないというものだろう。

 ただ。

 

「あの人なんか1人で笑ってるんだけど......」

 

「なんだあいつ!?」

 

「うわ、きしょ......」

 

 そんなヤマトの事情など周りのプレイヤーからすれば知ったこっちゃないわけで。

 ヤマトの喜びの理由を知らない周りのプレイヤーは当然のようにヤマトに白い目を向ける。

 だがそれは、それほどに今のヤマトは傍目に見て気持ちが悪いという証拠だ。

 おそらくリアルなら職務質問、もしくは通報されてもおかしくないぐらいには今のヤマトはアレだ。

 そんな周りの反応に対してヤマトはなにも反応を示さない......いや、これはただ喜びに囚われすぎて回りが見えていないだけか。

 しかし実際のところ、ヤマトの交遊関係はそこまで広くはないし、数少ない友人たちも、こんなヤマトの抜けたところは大体認識しているので、このヤマトの姿が一人を除く知り合いに見られてもそこまでダメージはない。

 そう、一人を除いては。

 

 

 

「あなた......実はただの変態だったのね」

 

 

 

 そしてこういうときに限って会いたくない人物に出会ってしまうのが世の常である。

 ヤマトの目の前に不機嫌そうな表情で現れたのは、件の除かれた人物である、カリンだ。

 カリンの不機嫌そうな表情に浮かんでいるのは、変質者(ヤマト)への嫌悪感と、ヤマトと出くわしてしまったことへの後悔だ。

 いつも通りといえばいつも通りだが、今回は特にひどい気がする。

 そんな本気で引いているカリンに対して、ヤマトは。

 

「......わーい」

 

 先ほどと同じように反応せずに素通りすることだった。

 

「って、うぉい!? 無視すんなーー!!」

 

 もちろん、そんなヤマトの反応にカリンは激怒して追ってくる。

 だが今回のヤマトの反応しないというのはわざとだ。

 理由は単純、カリンと関わると基本的に面倒だから。

 

「こらー! 聞いてるのー!?」

 

(すごくいい人なんだろうけどなぁ。最近は絡み酒かってぐらいに前よりも絡んでくるし......)

 

 だがこの女の子は無視してもなぜかめげずに絡んでくるのだ。確かに絡むというのは相手の反応が欲しくて、もしくは自分を構ってほしくてする行動ではあるが、無視を決め込んでもまだ絡んでくるというのはさすがに度が過ぎてやしないだろうか?

 いや、というかそもそも......

 ヤマトはあることが気になってカリンの方を向く。

 

「あ、やっとこっち向いたわね!」

 

「......あのさ、一つ聞いてもいいかな?」

 

「? なによ」

 

「カリンってさ......もしかして暇なの?」

 

「......はい?」

 

「だって、僕が圏内にいるときとか大体絡んでくるよね? 僕なんかに絡んでくるもんだから相当な暇人なのかなーって」

 

「おいこら、誰が暇人か」

 

 カリンがそこそこのスピードでパンチしてくるが、ヤマトが適当な調子でかわす。

 これも最近ヤマトがカリンのことが面倒になった要因の一つだ。なぜかこの少女、自分が不機嫌になるとしばしばパンチを繰り出してくるようになったのだ。

 前に少年が理由を聞いてみたところ、「あなたのことが嫌いなことの再認識のため」とのこと。

 そのぶん最近はだいぶカリンの接し方が砕けてきたのはヤマトとしても嬉しくはあったが、前述の内容と加味してプラスマイナス0といったところだ。

 

「大体私はーー」

 

「あ、分かった」

 

「ーーえぇ、もうあなたの脈絡のなさは慣れたわよ。で、なにが分かったの?」

 

「カリン、友達少ないんでしょ?」

 

「それは率直に言って喧嘩を売ってるってことでいいのよね?」

 

「よくないです......だってカリンなんて顔とかすごく綺麗なんだから知り合いも多そうなのにさ。なのに僕のところにばっか来るってことは友達いなくて寂しいのかなーって」

 

「なななななな、なにが綺麗よっ! そんなことーーじゃなくて!! 私友達多いわよ!? たくさんいるわよ!!」

 

「うんうん、そうだよね。いっぱいいるんだよね。僕は分かってるから安心してよ」

 

「なによその理解の示し方はぁぁぁぁああ!! 爽やかに笑うなぁぁああ!!」

 

 確かにカリンって顔はよくても性格キツいところあるし、情緒不安定だから友達は少ないかもしれない。でもそんなこと本人が言えるわけないもんね、僕だけでも本心を組んであげないと、うんうん。とヤマトが一人納得していると再びカリンがパンチを繰り出してきたのでかわす。

 ヤマトは暇潰しもかねて毎回カリンのパンチを観察してみたりしたが、どうやらこのパンチはヤマトにはあまり当てる気がないものだということが最近分かってきた。

 

「だから人の話を聞きなさいよ! 私をボッチみたいな言い方するな!!」

 

(あ、なるほど。このパンチって話の主導権握るためのものか)

 

「さっきだって女友達とお菓子とか食べてきたところなんだから!!」

 

(でもなぁ、カリンって根っからのツッコミ気質だからなぁ。一瞬だけ主導権握ってもあまり意味ないと思うんだよね)

 

「大体、私は一人寂しいソロのあなたと違って、仲の良い友達だってたくさんいるんだから!!」

 

(......あれ? さっきまでなんの話してたんだっけ? えーと......そうだ、カリンに友達がいないって話だった)

 

「ねぇ、聞いてる!?」

 

「え? あー、うん、あれだよ」

 

 その時ちょうどフィールドに出る門の前に着いたので、ヤマトはカリンと正面から向き合う。

 

 

 

「ーーもしも寂しくなったら僕のところにいつでも来ていいから」

 

 

 

「......な」

 

 まぁ、絡んでくるのはやめてほしいけどね。とヤマトはあとに付け加えたが、もちろんそんなものカリンの耳には入っていない。

 それからカリンは数秒フリーズしたのち。

 

「う、うるしゃいわよバカ!!」

 

 結局いつも通りヤマトのマイペースさに振り回され、そしてヤマトも、一瞬ヤマトの言葉に心揺らされたカリンの心境など知るよしもなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 結局あなたが17層なんて下の層にいたのは《刀》スキルの熟練度を上げるため、と」

 

「まぁね」

 

 二人はそのまま門を出て、今は17層の南東にある、《レプトの森》にいた。

 この森はほとんど道のようなものは存在しない、本当の自然の森となっていて、歩くときも無差別に並び立つ木と木の間を掻い潜って歩かなくてはならない。

 唯一の救いは、足元に生えている雑草があまり背の高いものではないので歩きにくさ、というものはないことだが、結局木のせいでまっすぐ歩いたりはできないのであまり意味はない。

 だがそれは、初めてこの森に入ったプレイヤーの感想だ。

 この森は普通に入ると今言ったような森になるが、森の入り口に咲いている特別な花を持って入ると、どこもおかしなところはない、獣道もあり木が乱立するようなこともない普通の森になるのだ。

 森に乱立している木は実はほとんどがノンアクティブのmobで、それが森の風景と同化しているせいでおかしな森に見えるのだが、そのmobたちは入り口に咲いている花の香りが大の苦手らしく、それを持ったプレイヤーが近づくと一目散に逃げていくことで、普通の森となる。

 この攻略法を知っているプレイヤーからすれば、この森は他のフィールドよりもよっぽど楽な場所になるが、知らないプレイヤーが入ればたちまち攻略難易度が最前線の迷宮区並になってしまう。

 もちろん、ヤマトとカリンはそのことを知っていたので、カリンが花を持つことでいわゆる『普通の森』として《レプトの森》を闊歩している。

 

「それにしても、あなたならなにもこんな辺鄙な場所じゃなくても22層辺りでよかったんじゃない?」

 

「うーん、まぁ確かに曲刀ならそうしてたんだけど......ほら、《刀》スキルってまだ珍しいからさ?」

 

「あぁ、情報屋とか武士志望の人が押し寄せてくるからか」

 

 ヤマトが手に入れた《刀》スキルは、エクストラスキル、というものに分類される。

 エクストラスキルは、なにか特別な条件をクリアしないと手に入らないスキルのことで、そんな理由からレア度が高い。

 もちろんそんなスキルを取得しているとなれば、その特別な条件を調べるために、カリンが言ったような人物たちが押し寄せてくるわけだ。

 今現在《刀》スキルを取得しているプレイヤーはヤマトの他にも3人いるが、それでもまだまだ明かされていない秘密は多いので、ヤマトが《刀》スキルを所持していることがバレればその先は想像に難くないだろう。

 

「それに刀もまだあまり質の良いのはなかったからね」

 

「そっか、そういえば店でも刀ってまだあまり見ないわね」

 

「うん......で、さっきから気になってたんだけど、なんで着いてきてるの?」

 

 ヤマトとしては、先程の会話で一区切りついたと思っていたのだが、カリンとしてはどうやらそうではなかったらしく、ヤマトがフィールドに出ても着いてきた。

 いつもヤマトとカリンは最前線でもよく会うが、それは圏内のなかでは、だ。フィールドに出ても着いてくる、ということはまったくない。

 今日はまたどうしたのやら、とヤマトが考えているとカリンがため息をつきながら答える。

 

「あなたって、名前は知られてないけど存在はそこそこ知られているのよ」

 

「というと?」

 

「ほら、あなたって結構至るところで、その、人助け? してるじゃない。でもそれって基本的に最前線よりも少し下の層だから攻略組にはあまり名前が知られていないのよ。人助けしまくってる薙刀使いがいる、て存在は知られててもね」

 

「はぁ。それとカリンが僕に着いてくることになんの因果関係が?」

 

「......だから、あなたのことを知りたいって酔狂な人はいるのよ。しかもどこで嗅ぎ付けたのか私があなたと知り合いっていうのもバレてるらしいから、私にあなたのことを教えろって依頼がよく来るのよ」

 

 カリンが説明し終えてからももう一度ため息をついた。

 カリンはヤマトに助けられてから以降、偽の情報で稼ぐことからは完全に足を洗っていた。が、そうなると今度はカリン自身が生きていく術がなくなってしまう。

 ということでカリンは本当の情報屋として新たに頑張っているのだった。

 しかしそれは《鼠》のようななんでも誰にでも情報を売る、という商売方法ではなく、中層や下層と呼ばれるような層のプレイヤーたちに情報を売っていた。

 本当は攻略組のメンバーにも情報を売りたいのだが、それはカリンの能力的に不可能だ。

 そんなカリンだからこそ滅多にない攻略組からの依頼は無下にはできないし、慣れていないぶん今のようなため息もついてしまうのだろう。

 

「でもさ僕のこと知りたいって人がいるのなら、その人たち自身が僕のところに来れば良いのに」

 

「攻略組の皆様にはそんな時間はないそうよ。まったく、なんで仕事でまであなたに会わなきゃいけないのよ」

 

「だったら僕に会わなきゃ良いんじゃない? 僕の居場所だけ相手に教えてさ」

 

「さすがに私はそこまで腹黒くないわよ......それにあなたって薙刀に藍髪で結構目立つから、見かけると目についてつい話しかけちゃうのよ」

 

 ほんと、その外見なんとかならないの? とカリンがヤマトを睨むが、髪に関してはヤマト自身もどうにかしたい。

 でもこれで1つ謎が解けた。

 ヤマトとしては、なんでこうにも毎回カリンに見つかってしまうのだろう? とは少し考えていたのだ。

 一応フレンド登録はしているから、互いに現在第○層にいるのかは把握できるが、どの街のどの位置にいるのかまでは分からない。

 仮にヤマトが最前線の街にいると分かっても街中ではすれ違ってしまう可能性も高い。

 そこで今のカリンの台詞だ。

 

「なるほど~、この髪と薙刀って、そんなに目立つのかぁ」

 

 少なくとも、大量のプレイヤーが行き交う街中でカリンがヤマトのことを一目で見つけられる程度には目立つらしい、とヤマトは納得した。

 ......実際のところはそんなことほとんど不可能に等しいが、ヤマトは気づかない。

 

「じゃあ、せめて薙刀装備だけでも止めようかな......街の外に出てから装備するみたいにして」

 

「そうね、そうしたら? ついでにその藍髪も変えれば見つからないんじゃない?」

 

「いや、この髪はーー」

 

 なんか変えられなくなっちゃたんだよ、そう言おうとした瞬間に、木の影からカマキリ型のmobが一匹出てきた。

 しかしそのカマキリは、全長2メートルほどとかなり大きく、その鎌で切られてしまえば切り傷どころか体の中まで切り刻まれそうだ。

 ヤマトとカリンはmobの出現に素早く反応し、カリンはmobから距離を取り、ヤマトはいつも薙刀を装備している背中に手をやるが、その手は虚しく空を切る。

 

「あ、そうだったそうだった、っと」

 

 ヤマトはカマキリが振り下ろしてきた鎌をサイドステップでかわしつつ、いつもは何もない左腰に手をやって太刀の柄を掴む。

 今回ヤマトは《刀》スキルの熟練度を上げるためにこの森に来ているので薙刀ではなく太刀を装備しているのは当然と言えば当然なのだが、習慣というものは恐ろしい。

 カマキリは鎌を振り下ろしたことで鎌が地面に突き刺さった状態なので、ヤマトはそこを掻い潜るように一気に接近する。

 そしてカマキリの胴体が太刀の間合いに入った瞬間、ヤマトは腕を振り抜いた。

 

「きぃぃぃぁぁぁあ......」

 

 一閃。ヤマトの剣閃が通りすぎた直後、カマキリは小さな悲鳴を上げながら、ゆっくりと崩れ落ちていった。

 そして太刀を握っているヤマトの右手に残る、微かな手応えと、今まで望んでいた切れ味。

 その感覚にヤマトは。

 

「っっっっっくぅぅぅぅぅぅっぅううう!! やっとこの感覚をあじわえたぁぁぁ!!」

 

 その場で両手に握りこぶしを作って歓喜に浸っていた。

 それもそのはずだ、ヤマトがこのゲームに入った8割ぐらいの理由は刀を使って敵を倒すことなのだから。

 このゲームが始まって半年弱、その半年分の想いを今味わっているのだから。

 いや、もっと言えば小さな頃からのヤマトの夢でもあった、太刀で悪い敵を切り伏せるというものまで半分ほど叶えたのだから、今のヤマトの喜びは計り知れない。

 まぁ、しかし。

 

「あなた......そりゃあなたの筋力値とその最前線辺りで入手できる武器を使えば17層のmobなんて大抵が一撃でしょうよ」

 

 ということだった。

 ヤマトのレベルは今現在36。17層の推奨レベルは安全マージンを含めても27程度。そんなヤマトなら17層のmob相手なら初めて使った武器でも簡単に倒せるのは当たり前だ。

 ぶっちゃけて言えば、ヤマトの喜びは子供相手にスポーツで勝った大人の喜びのようなものな訳だ。

 だが少年の夢とそういった現実性というおは昔から相容れないのと相場が決まっている。

 ヤマトはカリンの言葉を聞くと、すぐに喜びの雰囲気を潜め、カリンに呆れと非難の視線を送る。

 

「な、なによ?」

 

「あのさ......カリンってそんなんだから友達少ないんだと思うよ?」

 

「その話はもう良いわよ!!」

 

「だって、そんな人の喜びを踏みにじるようなこと言わなくてもさ......」

 

「事実を言っただけじゃない」

 

「はぁー、昔からの夢だったのに......」

 

「うっ......」

 

「やっと叶った瞬間だったのになぁ......」

 

「その......あー、もう。悪かったわーー」

 

「わっ! またポップした! じゃんじゃん倒すぞー!!」

 

「あなたもうわざとやってない!?」

 

 カリンが頭を掻きむしっている中、ヤマトは先程までの落ち込みが嘘のように再びテンションを上げてmob狩りに性を出し始めていた。

 今のヤマトのなかでは、基本的に優先順位が《刀》スキル以外どうでもいいようである。

 そんな会話を後も2~3回繰り返して、2人が森に入ってから2時間ほど経つと、ヤマトが10分ほど休憩するということで近くの岩に座り込む。

 そして小腹も空き始めていたのでウィンドウから小物を取り出す。

 

「で、またそういう謎の食べ物な訳ね......」

 

「なにが?」

 

「なんでもないわよ」

 

 今回ヤマトが取り出したのは、せんべいのようなものにキムチのような刺激臭がするものが乗っかっているお菓子(?)だった。

 本人曰く、塩辛さとつんと来る辛さが良い具合にマッチしている......らしい。

 ヤマトが買い物にいく出店は、大体がその店一体の過疎化が異常なほど進んでいることが多いが、ヤマト本人はその理由にまだたどり着いていない。それは良いことなのか悪いことなのかは分からないが、少なくとも現在ヤマトと共に行動しているカリンからすれば不幸以外のなにものでもなかった。

 

「ん? どうしたのそんなに見て。あ、もしかしてこのせんべいほしーー」

 

「絶対にいらない」

 

「え~、美味しいのになぁ」

 

 ヤマトはぼやきながらキムチせんべいを食べる。うん、やっぱり美味しい。

 ヤマトは満足そうに笑顔で、カリンは盛大に引きながらというわりといつも通りに小休憩を挟むこと10分ほどすると、小さな金属音が聞こえてきた。

 二人は互いに確認して、どちらかが鳴らした音ではないことが分かると、すぐさま周りを確認して音の出所を探す。

 

(お......)

 

 ヤマトが木と木の間から顔を出した先には、予想通りプレイヤーとmob戦闘光景があった。

 mobの数は2匹。そのうちどちらも植物系のmobでプレイヤーは植物の長い蔦による攻撃に苦戦しているようだ。

 そしてその苦戦しているプレイヤーの方は女の子でかなり幼く見える。少し短めのツインテールが相手の攻撃をかわす度にピョコピョコ動いている。

 武器は短剣。そのリーチの短さ故に中々相手の蔦を掻い潜れないのかもしれない。

 それだけならただのプレイヤーとmobの戦闘。この世界で多くの人間が行っているごく普通な出来事。

 だが、今回はイレギュラーな要素があった。

 

「ピナ、《ヒールブレス》!!」

 

 ピィィ! 少女の周囲を飛んでいた小竜(・・)が指示に従って、少女に向かって何か霧のようなものを吹き付ける。それに応じて回復していく少女のHP。

 おそらくそれがブレスとやらなのだろうが、ヤマトの意識は完全に違うところにあった。

 プレイヤー、そしてNPC以外の存在であり、『敵』であるmobが、プレイヤーの命令を聞いていることに驚いたのだ。

 少女はHPが回復したことによりmobに攻撃を再開する。

 

「へぇ......《ビーストテイマー》なんて珍しい」

 

 ヤマトと合流したカリンが、ヤマトの疑問に答える。

 

「《ビーストテイマー》......?」

 

「えぇ。色々な条件をクリアした状態で、テイミングできるmobに遭遇したら数パーセントの確率でmobを使い魔にできるのよ。で、そんなプレイヤーを《ビーストテイマー》って言うの」

 

「へぇ......」

 

 ヤマトは返事をしながら再び少女とその使い魔の小竜ーーピナと呼ばれていたかーーを見る。

 少女とピナは正に一心同体と言わんばかりにコンビネーションがよく、ピナは少女の動きを阻害してしまうような場所は飛んでいないし(不躾なことを言うとプログラム上そういうものなのかもしれないが)少女も的確に指示を出している。

 そしてさらに驚いたのは少女の動きのキレだ。

 今現在ヤマトたちがいるのは17層。24層まで解放されている今では決して最前線とは言えない『中層』と言われる場所。

 中層にいるプレイヤーの目的は多くあるが、そのほとんどは攻略組のように攻略に躍起になっているわけではない。つまり戦闘においては何歩も遅れをとるわけだ。

 なのに、今目の前で戦っている少女は、所々粗削りな面はあるものも、ヤマトの目から見ても攻略組メンバーに限りなく近いイメージを感じたからだ。

 そして少女がmobの1匹を倒し、続けてソードスキルを使って2匹目を倒した。

 少女はピナに抱き締めて勝利の余韻に浸っている。

 その少女の笑顔は、この世界ではあまり見られないような本当に無邪気なもので、覗き見ている二人の頬もつい緩みそうになる。

 それが油断に繋がったのか。

 ヤマトの足がそばにあった草のかたまりに当たって、音をあげてしまった。

 もちろんそんなことをフィールドですれば何かが近づいてきているのかと、先程のヤマトたちのように注意力を引き上げてしまう。

 結果ーー

 

「「あ」」

 

「あの......だれですか?」

 

 木の間から少女を見ていた2人は本人に見つかってしまった。

 ヤマトはすぐ隣から照射される冷たい呆れの視線と、見ていた先から放たれる疑惑の視線を浴びながら困ったように笑った。

 ーーこれが、ヤマトとカリン、そして少女こと《ビーストテイマー》のシリカとの出会いになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあとヤマトは(『たち』ではなく『は』)変質者だのストーカーだの誤解されそうになったが、なんとか無事に誤解を解けた。

 といっても、ヤマトが言ったことといえば。

 

「その、ピナちゃん? が綺麗だなぁ、とか戦闘センスあるなぁ、とか思ってたら覗く形になっちゃったんだ。ごめん」

 

 としか言ってないのだが。

 だがその言葉はシリカにとってのウィークポイントだったらしく、警戒が完全に解かれたわけではなかったが、それでも明らかに頬が緩んでいた。

 相棒であるピナのことを誉められたのが嬉しかったのか、自分のセンスを誉められたことが嬉しかったのか、はたまたその両方か。それは定かではなかったが警戒しながらも頬を緩めるそのシリカの姿には、ヤマトもカリンも微笑ましく思った。

 だが実際のところ今のヤマトの感想は本心だ。

 戦闘センスは前述の通り。そしてピナに関しても水色の毛に覆われた細い美しいフォルム。顔も鋭くはあるが愛嬌も兼ね備えていて、その姿は綺麗だとか美しいという表現が合う。

 ちなみにカリンは今そのピナの頭を撫でるなどして可愛がっている。ヤマトが「動物とか好きなの?」と聞いたらすごい勢いで睨まれた。解せない。

 

「じゃあ、シリカちゃんは今回クエストでここに来てるってことか」

 

「はい。この層に始めてきたんですけど、この森のクエストは簡単だって聞いたんです。それで挑戦してみたんですけど......」

 

「思ってたよりも全然難易度が高くて少し参ってた、というわけね」

 

 はい......。カリンの言葉にシュンとしながらシリカが笑う。

 それにおかしいな、と首を傾げるヤマト。

 この森の難易度は単純に考えても2つ下、つまり15層程度の難易度しかない。それに苦戦というのはシリカが相当下の層から来たということか、とも考えるが先程の戦いかたからしてそれはないと否定する。

 

「あの、私もさっきから1つ気になっていたんですけど......」

 

「なに?」

 

「この森、さっきまでと雰囲気が違いませんか?」

 

 シリカに言われて2人は辺りを見回すが、これといって特に違いはない。

 強いて言うのなら自分達の風景にシリカとピナが入ったことだが......

 

「あ、そういうことか」

 

「へ?」

 

「シリカちゃん、これって持ってる?」

 

 カリンがずっと左手に持っていた花をシリカに見せるが、シリカは首を振る。

 そこでヤマトも合点がいった。

 シリカはこの層に初めて来たと言っていた。ということはこの森の仕組みも知らないはずだ。

 つまり、難易度Max状態のこの森に入ってクエストに挑戦していたということだ。

 それは確かに苦戦もするだろう。というか、苦戦で済んでいたことがすごいぐらいだ。

 何せこの森の難易度Max状態は最前線の迷宮区並(もちろんmobのレベルとかはその層に見あったものだが)。それにいきなり挑戦だなんて無理がありすぎる。

 そのことを一通りシリカに説明すると「あうぅ......」と項垂れていた。自分たちの苦労が非効率なことだったのがショックなようだ。

 

「でも、それだと少し困ったわね、この花は入り口のところにしか咲いてないし、私たちも予備は持ってないし......」

 

「あ、いえ! 貰ったりするわけにはいきませんし! 私なら大丈夫です。なんなら入り口に一度戻るのも手ですし、いざというときは転移結晶を使えば」

 

「......そうね、悪いけどそうしてもらえるとたすかーー」

 

 そこまで言って、しまった! とカリンは自分の失態に気がついた。

 最近のカリンは今のように人助けとまでは言えないようなアドバイスを中層、下層のプレイヤーたちに行っているので、今回もその習慣通りに同じことを行ってしまった。

 いや、その行為事態はとても素晴らしいものだ。初めて会ったプレイヤーに警戒もされずにアドバイスもできるというのはカリンの人柄のよさ(本人は絶対に認めないだろうが)あってこそだし、微力だろうが誰かの力になろうとしている。

 だが、今回はカリンの隣には善意の塊、もしくはお節介の化身のような男がいるのだ。そんな男が今回のような場面に出くわしてしまったらーー

 

「シリカちゃん、僕たちがそのクエスト手伝うよ」

 

 ーーもちろんこんな発想に至ってしまう。

 カリンは深いため息をつき、シリカは混乱する。

 

「え、いや、でも、申し訳ないですよ!」

 

「いいよいいよ、どうせ僕らもこれといって目的があるわけでもないし、mobと戦えればいいしね」

 

「でも、その......」

 

 どうしてそこまでしてくれるんですか?

 そんな思いがシリカの表情に浮かんでいた。

 それはやはり困惑と警戒の色。だがそれは当然の反応だ。

 前のカリンのことではないが、この世界、どうしても他人を利用して甘い蜜を吸おう、という考えのプレイヤーは多くいる。

 そんなプレイヤーの『蜜』になってしまわないようどんなプレイヤーも大体が他プレイヤーに疑いの眼差しを向けるようになる。近寄ってくるプレイヤーが友好的であればあるほど。

 シリカからすれば、今のヤマトが正にそれだ。

 ヤマトがシリカを手伝っても特はなにもない。それどころかクエストも手伝うだなんて疑うな、という方が無理な相談だ。

 もちろんヤマトにはそんな考えなど一切ない。純度100パーセントの善意だ。だがそれがシリカに伝わるかどうかはまた別問題。

 ヤマトとシリカ、2人の間に決定的な温度差が生じてしまう。

 シリカがもう一度断りの言葉を口にしようとする、が。

 

「バカか、あなたは」

 

「いてっ」

 

 それよりも早くカリンがヤマトの頭を叩いていた。

 そして「ちょっとごめんね?」とカリンがシリカに言ってヤマトを引っ張っていく。

 

「あなたは単細胞生物か何かなの? 町キャラみたいに一つの行動しか取れないの?」

 

「いや、このゲームのNPC(町キャラ)って結構な数の行動とるけど......」

 

「屁理屈こねない」

 

「はい」

 

 そしてシリカから少し離れた場所で、なぜか急にお説教タイムが開始されていた。

 シリカからすればもう本当に訳がわからない。急に手伝うと言われたり、その言った本人が急に怒られだしたり。

 本当にヤマトたちのことを警戒しているのならここで逃げ出すのが正解だと思うのだが、シリカはそうしなかった。

 2人のの謎のコントのようなものに圧倒されたせいかもしれない。そして......ヤマトの言葉と目に少し惹かれたせいかもしれない。

 それは、ヤマトと出会ったばかりの頃のカリンが感じたものと全く同じものだ。

 どういうわけか、この人は嘘をついていない、そう思わせてしまうような真っ直ぐさが、ヤマトにはあった。

 ぶちぶちとカリンに怒られているヤマトを見てシリカは小さく笑った。

 この人たちは、本当にいい人たちなのだろう、ということが見ているだけで伝わってきた。

 そんな抽象的な理由で自分の命の問題にもなるようなことを決めるのはおかしいかもしれない。それでも、シリカはこの2人を信じてみようと、いや、信じてみたくなった。

 

 

 

 それから数分後、シリカは申し訳なさそうにも、ヤマトたちに協力してもらうことになった。

 

 




はい、何気にシリカ登場回でした。
すいません、本当はこの1話に全部入れるつもりだったのですが、2万文字の恐怖に負けて途中で切ってしまいました......なので次回もASになります。くそう、それもこれもヤマトくんとツンデレさんの掛け合いが楽しすぎるのが悪いんだ......(責任転嫁)

では次回、シリカ編完結です!
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