力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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AS4話目です!
やっと書き終わったぁ! 長かった!!
今回すごい長いです! というか前回本当に途中で切っておいてよかった......してなかったら3万文字ぐらいいってたかも......

それではどうぞ!


追記 UA11111超えしましたわーい。
なぜ10000ではないかと言うと......書き損ねたからですよちくしょう。


AS4話目 気難し少女の変化

「あの......本当によかったんですか?」

 

 シリカから手伝ってもらうよう正式に頼まれて一時的にパーティーを組んでから5分後。早速シリカが確認を取ってきた。

 ヤマトもカリンも、いつも通り夫婦漫ざーー喧嘩をしていた最中に聞かれたので一瞬反応が遅れてしまう。

 というか、ヤマトとしては質問の意味すらも理解していなかったので、未だにピナを抱き締めて離さないカリンが返す。

 

「シリカちゃん。確かにこの男は胡散臭いことばっか言う男よ」

 

「ねー、そういうこと本人の前で言わないでよぉ」

 

「でも、嘘をつくような優れた脳もないから基本全面的に信じても大丈夫よ」

 

「うおー......落としたあとに上げられた。カリンって会話上手い人だったんだ」

 

「どういう意味よコラ」

 

「あ、あはは......」

 

 シリカが再び始まった2人の喧嘩に苦笑いする。

 実際のところ、カリンはシリカの質問には答えてはいないが、シリカには2人の喧嘩で何か伝わったのか微笑んでいる。

 カリンもこれで伝わるであろうことは何となく分かっていた。事実、自分がヤマトと触れあっているだけでヤマトのお人好しさが伝わってきたように。

 そして2人は喧嘩、シリカはそれを苦笑いで見ながらそのまま歩いていると、カリンが不意にヤマトに聞く。

 

「そういえばあなた......いいの?」

 

「なにが?」

 

「だから......ん」

 

 カリンは小さく声を出しながら自分の左腰辺りを叩いた。

 自然とヤマトの視線もそこへと集まっていく。

 

「......カリン、結構腰細いね」

 

「誰がそんなこと言えって言ったのよ!!」

 

 カリンはすぐさま不満の声をあげてパンチしてくる。もちろんヤマトはそれをかわすが、そのあとにカリンに視線をヤマト自身の腰に当てられて、ようやく言いたいことがわかった。

 そう、カリンの言いたかったことはヤマトの腰にある太刀のことだ。ヤマトが今回この森に来たのは《刀》スキルの熟練度アップ。それも人目のつかないところで、ということだった。

 理由は自分が《刀》スキルを所持しているとまだあまり知られたくないから。

 しかしここでシリカの手伝いをするということは、シリカにヤマトが《刀》スキルを所持していると教えることになる。

 ヤマトがその事実を考慮すること0.1秒ほど。

 

「ま、いいでしょ」

 

 特に気にした様子もなくヤマトはそう言い、カリンは恒例のようにため息をついた。

 1人話についてこれていないシリカ(とりあえずカリンの腰の細さには驚いていた)は小首を傾げている。

 

「あの、なんの話ですか?」

 

「あぁ、ごめんね。そりゃ急に話し込んじゃダメよね。ちょっと、見せてあげなさいよ」

 

「ほーい」

 

 ヤマトが答えながら自分の腰の鞘に納まっている太刀を抜く。

 その際に響く、太刀を抜く音いもヤマトは軽くトリップしかけていたが、今はスルー。

 そして太刀の全体が見えるようになると、シリカも感嘆の声を小さく上げた。

 

「わぁ......これ、直剣じゃないですよね? 曲刀でもないですし、もしかして刀ですか?」

 

「うん、つい昨日出てきたんだ」

 

「へぇ、《刀》スキルが出たっていうのはちょっと噂になってたけど、本物は初めて見ました......」

 

「下手に知られちゃうと色んな人が集まってきて大変なんだよ......」

 

 もちろん、ヤマトとしても情報の独占なんてことをするつもりは毛頭ない。

 これからは自分が《刀》スキルを手に入れた経緯などもカリンに頼んで公表してもらうつもりだ。

 ただ、基本的にマイペースに生きるこの藍髪少年は必要以上に自分の行動が制限されるのも嫌なのだ。

 

「だから、このスキルのこと内緒にしておいてね? そのぶんーー」

 

 ヤマトが笑いながらそこまで言うと、3人の近くにmobがポップした。今度はカマキリ型のではなく、シリカが先程まで相手していたような植物型のmobだ。

 胴体は花のつぼみのような形で、そこから口やら触手やらが生えている、なかなかにエグいフォルムをしている。

 ナイスタイミング、ヤマトは心のなかでそう呟きつつ、mobが触手を振りかぶるよりも先に一気に接近して、そのまま流れるように2連撃を叩き込み、まさに一瞬のうちにmobを葬り去った。

 

 

 

「ーー今みたいにmobが出てきたら僕が対処するから」

 

 

 

「あ、はい......」

 

 微笑みを崩さずにmobを倒してしまったヤマトのあまりの手際に呆けてしまうシリカ。

 そしてそんなヤマトに対してカリンは「相変わらず気障で嫌な奴......」と不機嫌そうに顔をしかめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーそういえば、カリンさんはパーティー組まないんですか?」

 

 森散策をしながらヤマトがmobを蹴散らしていくなか、シリカが聞いた。

 シリカも今さら気づいたので、聞くかどうか一瞬躊躇ったのだが、ヤマトとカリンの暖かな雰囲気のせいで少し精神的に解されたのか、普段なら間違いなく聞かないようなことだが今回は聞いてみた。

 普通、同じパーティーメンバーなら、自分のHPバーの下に、メンバーのHPバーも表示されるのだが、今現在シリカの視界には自分のものと、ヤマトのHPバーしか表示されていない。

 カリンのHPバーがなかったのだ。

 つまりそれは、カリンはヤマトとパーティーを組んでいないということになる。

 なのでシリカとしては、一緒に行動するのならヤマトとパーティーを組めばいいのに、という意味合いで聞いたのだが、カリンは「あぁ」となんでもないように言う。

 というか、未だにピナを抱き締めている。そろそろ解放してほしい、というシリカの視線には気付いてもらえない。

 

「言ってなかったわね。私って一応情報屋だから、特定の誰かとパーティー組むっていうのはないわ」

 

 どうやら勘違いされてしまったらしい。シリカは言葉を付け足す。

 

「いえ、えっとそうじゃなくて、今だけでもヤマトさんとパーティーを組めば、経験値とか入ってきていいんじゃないかと......」

 

「はぁ!?」

 

「ひうっ! ごめんなさい、聞いちゃダメでしたか?」

 

 カリンのあまりの態度の変化にシリカは萎縮してしまうが、先頭を歩くヤマトが軽く笑いながら言う。

 

「大丈夫大丈夫、それカリンの芸風の急ギレだから」

 

「誰の何が芸風よ!?」

 

「ん? カリンの、芸風が、急にキレる、略して急ギレって」

 

「ち・が・う・わーーーー!!」

 

「もう照れなくてもいいんじゃない?」

 

「今の私のどこを見て『照れてる』なんて表現できるのよっ!?」

 

「顔が赤くなってるところとか」

 

「怒ってるの!! 顔が赤くなるほどに!!」

 

「あのー......」

 

「はっ!?」

 

 シリカに声をかけられてようやく我に返るカリン。

 そんなにもペースに乗せられてしまうのは間違いなくカリンがヤマトの言動一つ一つに反応しているからだというのは、会って2時間も経っていないシリカにも分かったが、それを言うとカリンが変な爆発をしそうなこともシリカは分かったので言わなかった。というかホントそろそろピナを返してほしかった。

 

「えぇ、今回完全に分かったわ。私、もうあなたに話しかけられても相手にしない」

 

「え~......基本的に絡んでくるのってカリンからじゃん......」

 

「それでシリカちゃん。私があのバカとパーティーを組まない理由だっけ?」

 

「えぇっと、はい」

 

「うわぁ、本当に無視してるよ、しかもひどいこと言われた」

 

 ヤマトが自分の扱いのひどさにぼやくが、もちろんそれもカリンはスルー。

 パンチを繰り出す以外の方法でヤマトの奔放さを止められて、カリンは少し優越感に浸っていたが、ヤマトがどうでもよさげにmobを探しだしたので、すぐにいつも通りの悔しそうな表情になる。

 が、そんな一部始終をシリカに見られていると思ってか表情を取り繕う。妙なところで大人な少女だ。

 カリンはシリカからの質問の内容を思い出してーーすぐさまため息をつく。

 そして、言った。

 

 

 

「ーー嫌いだからよ」

 

 

 

「......はい?」

 

「だから、単純明快。私はあのバカが嫌いなのよ。それもこれ以上なんてあり得ないぐらいに」

 

「えーっと......」

 

 ーーそれは、あなたのことがとても好きです。という婉曲表現だろうか? と妙な勘繰りをしてしまうシリカ。

 だがそれも無理はない。確かに2人の会話は仲睦まじい、と言えるような内容ではなく、基本的にヤマトがカリンをからかい、カリンがそれに怒る、というような内容ばかりだが、その会話をしている間、カリンから本気の嫌悪感、というようなものをシリカは1度も感じたことがないからだ。

 それどころか、本人は気づいていないかもしれないが、時たまカリンの口元には、ヤマトとの喧嘩(じゃれあい)を楽しんでいるかのような笑みまで浮かんでいることもあるのだ。

 まだ知り合って間もないシリカでもそう思うのだから、今までもそんなやり取りが何回もあったはずだ。

 それで「嫌い」等と言われても愛想笑いを返すのも難しいレベルだ。

 反応に困ったシリカは、カリンに断りをいれてとりあえずもう一人の話の当事者であるヤマトの傍まで言って小声で話しかける。

 

「あの、つかぬことをお聞きしますが......」

 

「うん?」

 

「カリンさんって......もしかしてツンデレさんとか、ですか?」

 

「あー......」

 

 自分のあまり知られたくない《刀》スキルの情報をシリカに教えるときだって躊躇しなかったヤマトが曖昧に言葉を濁していたが、シリカからすればそれがすでに答えになっていた。

 こっそりと後ろにいるカリンを盗み見る。

 その表情は先程通り、苦虫を噛み潰したようではあったが、あれがツンデレだとするとーー

 

(カリンさん、可愛い人だなぁ)

 

 そう思わずにはいられない。

 そして同時にこうとも思った。

 

「あの、カリンさんってお姉さんっぽいですね」

 

「......私が?」

 

「はい。さっきから話していて思ったんですけど、私に対する話し方とか、なんだかすごくお姉さんって感じがして」

 

 お姉さん、もしくは年上の女性。そんな表現がぴったり来るような雰囲気を、シリカから見たカリンは纏っていた。

 話し方、雰囲気、素振りなどが、正しくお姉さん、そんな感じなのだ。

 もしかしたらリアルでも妹がいるのかも、などとシリカは考えたが、さすがに会ってその日にリアルのことを聞くなんてことはマナー違反にも程があるので止めておく。

 

「あー、確かにそうかも。僕にもそんな感じで接してくれたらいいのに」

 

「お姉さん......」

 

 相変わらずヤマトの言葉は完全スルーのカリンだったが、なにか思うところがあったのか、1人小さく呟く。

 その表情はこれといって形容する言葉はない、強いて言うのなら無表情だが、『お姉さん』という単語がなにか本人の心に届くような意味を持っていたのはシリカでも分かった。

 

「そっか......」

 

 そして最後にそうとだけ呟いたカリンの表情や雰囲気は、先程までとなにも変わらないはずなのに、妙にシリカとヤマトの印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここで突然だが今回シリカが挑戦しているクエストの内容を説明しようと思う。

 それはずばり、収集系のクエストだ。

 この森でしか採れないと言われているキノコーー《ビミダケ》を採取し、依頼人へ届けろ、というのが大まかな内容だ。

 なんでもこのキノコは、この辺りで採れる料理の材料としてはかなり高ランクに位置していて、焼いてもよし、煮てもよしと、大体どんな食べ方をしても美味しいらしい。

 だが、クエストの内容を聞いてからカリンは疑うように目を細めた。どうやら情報屋であるカリンも知らないクエストだったらしく、上層の攻略進度によって解放される新クエストかもしれない、ということだった。

 シリカの話(正しくは依頼人の話)では、木の根本なんかに生えていることが多い、という話だった。

 ......さて、皆様も間違いなく思っていると思うが、なぜ今このタイミングでこんな話をしたかと言えば。

 

「ないですねぇ......」

 

「ないわねぇ......」

 

「おっ、また熟練度少し上がった」

 

 ーー開始から5時間ほど経った今でも、まったくもって進展がなかったからだ。

 いや、自分の《刀》スキルの熟練度にばかり興味が行っている藍髪少年はともかく、カリンとシリカは色々試してはみた。

 例えば実は情報が間違っていたんじゃないかと思って違うところを探してみたり、mobがドロップするんじゃないかと思ってヤマトに辻斬りよろしくの勢いでmobを斬りまくってもらったり、1層の某クエストのようにmobを倒すことでアイテムの出現率、もしくはドロップ率が上がるんじゃないかと思い(1層の某クエストはmobの出現率アップだったが)これまたヤマトに斬りまくってもらったり、色々頑張ったのだ。

 それでも、現在カリンたちはキノコらしいものには一切巡り会えていなかった。

 ......上記のことだけ見ているとヤマトがもっとも頑張っている気がするが気のせいだ。

 

「ねぇねぇ」

 

「ここまで来ると、やっぱり他になにか仕掛けがあるような気がするわね......」

 

「でも、大体見当たり次第思い付き次第やっちゃいましたよ?」

 

「ねぇねぇ」

 

「そうね。だから今までの発想とは少しベクトルの違った......」

 

「えっと......」

 

「ねぇねぇ」

 

「うん? なにか思い付いたの?」

 

「いえ、その、ヤマトさんがーー」

 

「まぁ、いいか」

 

「本人もいいって言ってるんだからいいんじゃない? あんな奴に構ってたら分かるものも分からなくなっちゃうわよ」

 

「はぁ......あ、それとそろそろピナを......」

 

「え、ピナちゃんがどうしたの?」

 

「あ、いえ......」

 

 

 

「あーあ、キノコどこにあるか分かったのに......ま、無視されるしいいか」

 

 

 

「「ちょっ、どこにあるのよ(ですか)!?」」

 

 

 

 あまりにあっさりとヤマトが呟くのに対して、これ以上ないぐらいに食いつくカリンとシリカ。

 そんな2人の反応に気をよくしたのか、ヤマトはふふーん、と笑って手招きする。

 ......ただし、シリカだけに向かって。

 

「シリカちゃん、教えてあげるからこっち来て」

 

「? はい」

 

「なっ、ちょっと待ちなさいよ! 私にも教えなさいよ!!」

 

「......えぇ?」

 

 カリンが聞こうとした途端に嫌そうな顔になるヤマト。

 

「な、なによその顔は」

 

「いやぁ、だってねぇ、カリンさんは僕と話すの嫌なんでしょ~?」

 

(こいつ今すぐぶっとばしたいっっっ!!)

 

 無駄に、というか明らかにわざと語尾を伸ばしてカリンをからかってくるヤマト。

 もちろんそんなヤマトの挑発をカリンがスマートにかわせるわけもないが、今回は相手から情報を提供される身。情報屋の端くれとして情報提供者に失礼になるような態度は取れない。いや、取りたくない。

 今の自分は、情報屋として真面目にやっているからこそ。

 そんな、昔と比べれば明らかに涙腺崩壊レベルの成長を見せるカリンだが、そんな尊い考えをも凌駕する思いが、今目の前のニヤニヤ顔の先にあった。

 それはーーまぁ、いつも通りと言えばいつも通りの憤激衝動。

 だが、それをカリンはプライドやらなんやらでなんとか堪える。

 

「その、どうか、教えてもらえないでしょうか......」

 

「うん、いいよ。あとついでに仲直りってことで」

 

「うるさいわよぉぉぉぉぉおおお!!」

 

「うわわ、カリンさんなんで急にヤマトさんに襲いかかろうとするんですか!?」

 

 シリカは驚いて咄嗟にカリンを抑え込むが、止まったのはカリンの体だけで勢いや感情は止まらない。

 なんで襲いかかるか? そんなものは決まっている!!

 

「離して!! なんかあのバカの顔見てるとすごいムカつくのよ!!」

 

「えぇ!? それはさすがに理不尽ですよ!!」

 

「あー......まぁ、いいか。シリカちゃん。そのまま抑えといてね」

 

 ヤマトはいつも通りなカリンの言動に微妙に安心したようなしないような気分になりつつ、2人に近づいていく。

 そしてカリンが森に入ったときから持っている花を奪い取り、太刀を抜いてその場で切り刻んでしまった。

 その突然の行動に、カリンもシリカも口を開いたままになる。

 

「あぁ、やっぱりこの鍔鳴りいいよね。キン!ってさ」

 

「ちょ、ちょっと、あなた何やってるのよ!?」

 

「うん? 何って刀特有の素晴らしい鍔鳴りに思いを馳せーー」

 

「そんなことじゃなくて!!」

 

「あの、ヤマトさん、そのお花無くなっちゃったら、この森が......」

 

「いや、いいんだよこれで」

 

「あなた本当にーーえっ、もしかして......」

 

「あ、分かった?」

 

 ヤマトの言葉にカリンは今日何回目かも分からない悔しそうな顔になり、シリカは首を傾げるが、ヤマト本人はなにも言わない。

 そしてそれから数分経つと、花の香りがどこかに流れていったのか、どこかから木の姿をしたmobたちがやってきて、森の最初の姿のように木のmobたちは並び立った。

 それら全て合わせて、計10分程度でもとの難易度Max状態の《レプトの森》の完成である。

 

「確か、この森の木の根本(・・・・・・・・)にキノコはあるんだよね?」

 

「木......あ、そういうことですか!」

 

 そう、この森には元々存在した木があった。カリンたちが入り口に咲いている花で排除してしまった木たちが。

 その木はmobなのでやはりキノコが手に入るとするならドロップアイテムだと思われる。

 答えが分かれば簡単なもの。ただ一度ドツボに嵌まると全くわからなくなる類いのトリックだ。

 カリンはそんな簡単なトリックをヤマトに教えられなければ分からなかったことが悔しかった。

 ヤマトが気付けたのだから自分だって気付くチャンスはあったはずなのに、と。

 どこでヤマトが気付いたのかが気になったが、ちょうどシリカがヤマトに聞いていたので盗み聞く。

 

「いやー、ちょっとこの辺のmobも大体倒し尽くしたなぁ、なんか他にmobいないかなぁ、って考えたら最初の状態の森を思い出してさ」

 

「へぇ、まさに発想の転換ですね!」

 

「ははっ、かもね」

 

(......なによ、そのアホみたいな気付き方は......)

 

 再びツッコミたくなったカリンだが、グッと堪える。

 そしてヤマトとシリカは周りを見渡し、mobの根本(足下?)を確認するが、やはりキノコのようなものはない。どうやらキノコはドロップアイテムで間違いなさそうだ。

 そして見渡した際に見つけた明らかに怪しい木のmobを2人して見る。

 

「あれ、かな?」

 

「あれ、ですよね」

 

 それは、回りの木と同じように直立しながらも、明らかに回りの木とは異質な木だった。

 まず雰囲気が異様だった。回りの木は普通の木と同じようなデザインなのに、その異質な木だけは場違いなほど変だった。

 率直に言えばーーなぜか虹色なのだ。その木は。

 うわぁ、悪趣味......とカリンがげんなりとしているとヤマトはこの数時間で段々と様になってきた動作で太刀を抜き、そのまま流れるようにその虹木を斬りつけた。

 

「あなたって、案外問答無用よね......」

 

「だってこの方が早いでしょ?」

 

 まぁ、そうだけど。そうカリンが答えようとした瞬間、信じられない光景が目の前で起こった。

 ブゥン!! という豪快な音と共に、ヤマトの体が吹き飛ばされたのだ。

 もちろんヤマトはカリンに返事はしながらも気を抜いたりはしなかった。それなのに吹き飛ばされたのだ。

 ヤマトはそのあとすぐさま体勢を立て直すが、それでもカリンの混乱は完全には治まらなかった。

 カリンのなかでヤマトは、戦闘力という観点のみで見れば、この世界でも5本の指に入るのではないか、というほどの人物だ。そのヤマトがなす術もなくただ吹き飛ばされた、というのがあり得なかった。

 

「ヤマトさん! 大丈夫ですか!?」

 

「......あー、うん。だいじょぶだいじょぶ」

 

 言葉の上ではいつも通りの軽い言い方だが、ヤマトが纏っている雰囲気が少し固いものになった。

 それは緊張と言われるものだ。

 

「私も手伝います! せめて相手の気を引くぐらいは.....!」

 

「いや、いらない」

 

「ど、どうして!?」

 

「はははー、ちょっと困ったことにね。多分この虹木くん、30層クラスっぽいんだよね」

 

「......え?」

 

 ヤマトの宣言にシリカが小さく声を上げ、カリンも顔をしかめる。

 30層。今現在の到達階層は24層。つまり最前線の攻略組でさえ戦ったことのないようなレベルの相手が、今カリンたちの目の前ににいるということだ。

 ヤマトならまだしも、今日初めて17層に進出したシリカでは相手することすら難しいほどの相手だ。

 周りを見渡しても、他のmobなどが襲ってくる気配は全くないので、このmob相手に逃走を図るのはそう難しくはないだろう。

 普通はそう考える。現にシリカはそう考えたのかヤマトに逃げるよう進言しようとしていた。

 だが、カリンが見たヤマトは、そんなことを微塵たりとも考えていないように、虹木だけを見据えていた。

 

(そうよね。あなたが考えていることなんていつも同じ。なんなら当ててあげてもいい)

 

 そう、ヤマトがこの時この瞬間。考えていることはひとつ。

 この虹木を倒して、シリカにキノコを渡すことだけだった。

 ただただ、困っている人がいて、その人を助けよう、手伝おうと思って100パーセントの善意で行動しているだけのいつも通り。

 そこに自分の身の安否だとか打算だとかそういったものは欠片も存在しない。

 本当にただ、シリカ(困っている人)の笑顔が見たいだけだ。

 

「はぁ」

 

 カリンはため息をつく。その理由は自分でも分からなかったけれど。

 もしかしたらまたどこぞのヒーローみたいに気障なヤマトに嫌気が指したのかもしれないし、無駄に強いヤマトなら虹木に勝つことが予想できたからかもしれないし。

 それはもしかしたらヤマトの善意が今はシリカに向けられているからかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に向けて振り下ろされた木の腕での攻撃をヤマトはステップで右にかわす。

 そのままもうほとんど使い慣れ親しんだ太刀を相手の腕に向かって斬りつけるが、妙に固い葉っぱでガードされてしまう。

 どうやらこの虹木は、攻撃が通るのは幹や枝といった、木の皮の部分のみで、葉は盾のように役割をしているようだ。

 ヤマトは虹木から距離をとりつつ小さく歯噛みする。

 

(この虹木、厄介だな......)

 

 先程ヤマトはこの虹木が30層クラスと言った。それは間違っていないが正解とも言い切れない。

 なぜなら虹木の頭上に浮かんでいるカーソルは、他の木たちと同じ弱いことを示すペールピンクなのだから。

 つまりこの虹木は、レベルは低いが、能力値は30層クラス、ということになる。

 その認識については、ヤマト自身も初撃を食らった時点で直したのでそこはまだいい。

 一番厄介なのは、木の癖に妙に動きが早い、ということだ。

 足は遅いのだが、腕の動きだとかガードの早さだとかが最前線のmob以上に早い。

 しかもその上防御力もあるのだから、厄介なことこの上ない。

 これはカウンターでも決めないと一撃入れられないか。そう考えたヤマトは太刀を構えながら少しずつにじり寄っていく。が、ここで虹木が予想外の動きを見せる。

 急に頭部である葉っぱが大量についた枝をブルブルと振りだしたのだ。

 そして次の瞬間には、決して遅くはないスピードでヤマトに向かって黄色い粉のようなものが飛んでくる。

 

(これは、花粉か?)

 

 これもまた厄介な。

 こういった粉系の攻撃というのは、大体が状態異常系の攻撃だ。おそらくこの花粉も麻痺などの効果があるのだろうとヤマトはみる。

 しかもこの花粉、虫系のmobが繰り出してくるりんぷん攻撃よりも落下速度がかなり遅い。つまり粉攻撃の持続時間が長いのだ。

 ヤマトは飛んでくる花粉をかわそうと動き出すが、それに合わせて虹木も頭の向きを変えてくるので、さらに花粉が広がっていく。

 

(なるほど。下手に動けばあの虹木の周りは花粉だらけになって接近も難しくなるってことか)

 

 ヤマトは左右への回避は最小限に抑え、可能な限り後ろに下がってかわすことで、虹木の周りに花粉が留まることを防ぐ。

 そして花粉攻撃がついに終わった瞬間、ヤマトは再び前方へ急加速し、一気に虹木へ接近する。

 そしてすれ違い様に2連撃を叩き込んだ。

 叩き込めたのだ。

 

(ん? 攻撃が通った......? さっきは普通に防御されたのに。もしかしてあの花粉攻撃あとはいくらか行動不能になるのか?)

 

 等とヤマトが観察しようとした瞬間、ヤマトの頭上から再び木の腕による振り下ろし攻撃が来る。

 この木に似つかわしくない素早い攻撃にはヤマトはだいぶん苦しめられたが、それでもそう何度も同じ攻撃を喰らうヤマトではない。

 太刀を盾代わりにしてして、腕の攻撃をなんとか受け流す。

 基本的に、刀、という武器は他の武器に比べて武器防御が難しい、という性質がある。

 理由は単純、刀身が薄く、まともに正面から相手の攻撃を受ければ武器そのものがへし折られる可能性があるからだ。

 そもそも、刀は腕がない人物が使って巻き藁などを切ろうと思えば、問答無用で刀の方が折れてしまう。

 このSAOでも同じということは耐久度的にないと思うが、それでも相手の攻撃を防御しにくい、ということはある。

 そんな中、相手の攻撃を受け流せたのはヤマトの技量あってこそだろう。

 そんなヤマトでも、どうしても相手の勢いを殺しきれずたたらを踏む。

 それでもヤマトがいる位置は、ギリギリ虹木の腕攻撃の範囲外。この場なら相手が近づいてきても対処可能、ヤマトはそう考えていたが、これも裏切られる。

 虹木は突如地上に出ていた自分の根っこを地面に叩きつけたかと思うと、次の瞬間にはヤマトの足下の地面から木の根が飛び出し、襲いかかってきた。

 

「がっ!」

 

 もちろん、体勢を崩していたヤマトはその攻撃をかわせない。

 そして弾き飛ばされて倒れてしまい、すぐに立ち上がろうとするが。

 

(な!?)

 

 体が動かなかった。

 そして自分の周りには黄色の花粉。

 虹木に吹き飛ばされて先程の花粉攻撃による花粉密集地帯に放り込まれてしまったのだ。

 ーーまずい。

 木のような中型、大型のmobは総じて攻撃力が高い。今回の虹木も同様だ。

 しかもステータスは異常なほど高い。そんな相手に一方的に攻撃されてしまえば結果は考えなくても分かる。

 

(......とは言え、多分あの虹木の攻撃なら7~8発は耐えらるみたいだし、それまでになんとか解毒結晶を使うか自然と麻痺が切れてくれれば......)

 

 麻痺状態でも右腕だけは動かせる。そしてmobが使う麻痺攻撃は大体がそこまで持続時間は長くない。なので最悪このまま攻撃されてもHPがなくなるより少し前には麻痺が切れてヤマトは動けるようになるだろう。

 だがここで問題が一つ発生する。

 それは今も上から降ってくる花粉だ。

 

(これって、麻痺から回復→花粉を浴びてまた麻痺っていうサイクルなのかな......?)

 

 だとするとかなりまずい。

 なにもしないという手段はこれで取れなくなった。

 となると、解毒結晶による回復だが、これも成功するかはかなり怪しい。

 結晶などによる状態異常からの回復は基本一瞬で行われるが、効果は一瞬ではない。

 つまり自分が状態異常から回復した直後数瞬は、状態異常にはならない、他のゲームでも使われる用語で言うのなら《無敵状態》というものがこの世界でも存在するのだ。

 だが、それは本当にごく短い時間の中での話で、0.5秒あればいい方だ。

 そんな短い時間ではできて一動作。それだけではヤマトがいる花粉地帯から脱出することは難しい。

 

(一応他にもなんとかできる方法はあるけど......でも、『これ』はなぁ)

 

 ヤマトにもう一つ選択肢が思い浮かぶが、それは自分で破棄する。

 理由は多々あるが、今回は割愛する。

 そしていよいよ虹木が近づいてきて、その太い腕を振り上げた瞬間。

 

 

 

「ピナ、《キュアーブレス》!!」

 

 

 

「きゅるるる!!」

 

 

 

 シリカとピナの声が響いた瞬間、花粉の中で(・・・・・)動けているピナの口から霧状の液体がヤマトにかけられた。

 そこからヤマトの状況判断は早かった。

 ヤマトは素早く右手を腰についているポーチに入っている解毒結晶に伸ばしつつ、真横にピナを抱え込むようにして大きく跳んだ。

 それで虹木の攻撃はかわすことができたが、しかしそこはまだ花粉地帯。ヤマトの《無敵状態》も切れて再び全身に麻痺が走る。

 だがそこでヤマトは、先程解毒結晶に伸ばしていた右手で結晶を掴み、「ヒール」と呟く。そして再びヤマトは麻痺から解き放たれる。

 そしてもう一度真横に大きく跳び、今度こそ花粉地帯からは脱出する。

 そのままヤマトは太刀を納刀しながら、虹木に接近する。

 

 

 

「これで、止めだ!!」

 

 

 

 そして鞘から抜き放たれる神速の一撃。

 単発ソードスキル《紫電》。

 これは抜刀術による一閃で、他のソードスキルのような『魅せる』という概念を一切削ぎ落とした攻撃だ。

 だがそれだけに1撃にも関わらず驚くべき威力を誇っている。

 そんな無骨だが斬ることに特化した一閃は、そのまま虹木の胴体に吸い込まれていき、見事虹木の胴体を両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、《ビミダケ》」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 虹木を倒して森の入り口まで戻り、ヤマトがシリカに《ビミダケ》を渡す。

 虹木を倒してからも色々あった。

 まず、どうやってここ、入り口まで戻ってくるか。先程ヤマトが花を切り刻んでしまったので難易度Max状態の森を戻らないといけなくなってしまったのだ。

 カリンがふと、「さっき、花をストレージに入れればよかったんじゃ」と言ったときには場に何とも言えない空気が流れたが、無理矢理全員テンションを上げて根性で森を脱出した。

 次に《ビミダケ》の見た目。

 カリンやシリカからすればとても食べ物だなんて考えることもできないほどの代物だったが、変食好きのヤマトからすればどストライクだったらしく、もう一体虹木を倒そうとか言い出したので、それはなんとかカリンがヤマトを踏んじばって止めた。

 

「いや、僕の方こそありがとうね」

 

「あ、いえ。私は全然お礼を言われるようなことなんてーー」

 

「いや、そんなことないよ」

 

 シリカの言葉をヤマトは真っ向から否定する。

 

「僕は君のーーじゃないね。君たちのお陰で今日も生き残れたんだ。それは僕のためにも誇ってほしい......そんなの色々含めて」

 

 

 

「ありがとう。シリカちゃん、ピナ」

 

 

 

「......はいっ!」

 

 優しく微笑むヤマトにつられてシリカも笑う。

 こんな優しくない世界ではあまり見られない、優しくて暖かい一場面だ。

 そんな場面で1人、その空気には入れない人物がいた。

 カリンだ。

 カリンも、シリカはヤマトに、というより誰からでも誉められるような素晴らしい行いをしたと思っているし、カリン自身もすごいと思った。

 なのに、今こうしてヤマトと向かい合って立っているシリカを見て、妙に心乱される。

 なんで? 自分に向けて問う。

 

(これって、まさか、寂しいとでも思ってるの私?)

 

 だとするなら相当にバカな話だ。

 なぜならヤマトは自分にとってただの喧嘩相手。もっと言うのなら先程シリカに言ったように嫌いな人物。

 そんな相手が誰かと仲良く話していて寂しく思うだなんて、取られたように思うだなんて、本当にバカな話だ。

 

「でも、さっきなんでピナ動けたの?」

 

「あ、はい。あの木の花粉、他の木に当たっても麻痺状態になっていなかったんです。だからピナは効かないんじゃないかと思って」

 

「なるほど~」

 

 2人の会話を聞くでもなくただ眺めるカリン。

 カリンも、2人の様子を見てイライラしたりなんてことはしなかった。

 ただ、なぜか不安感がどこかから溢れてくるだけで。

 カリンは髪を掻き上げつつため息をつく。

 

(......まぁ、せいぜい喧嘩相手がいなくなっていつものペースがまた崩れそうになるのが怖いだけか)

 

 ここ最近、ヤマトとカリンは妙なほどよく会っていたから、それはそれでカリンの日常の1ページとしてヤマトが組み込まれそうになっていただけ。そしてそれがなくなりそうだから少し体が驚いているだけだろう、とカリンは適当に見切りをつける。

 カリンの経験上、こういったよく分からない感情とはさっさと見切りをつけた方が絶対にあとが楽だ、そう考えたのでそうすることにする。

 これといって特に理由はない。

 

「あの、カリンさん」

 

「.....ん? なに?」

 

「すいません、私そろそろ町に戻ろうと思って......」

 

 声をかけられてシリカとヤマトを見ると、もう既に別れの挨拶はできているらしくあとは自分だけのようだった。

 回りが見えなくなるとか、どれだけ考え込んでるのよ私......と軽く自己嫌悪しつつシリカに向き合う。

 

「うん、シリカちゃん、今日は私からもありがとね。またシリカちゃんとピナちゃんに会いにいってもいい?」

 

「はい、私の方こそ是非!!」

 

「ふふっ。あ、それから何か情報欲しいときは呼んで? 安くしとくわよ?」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

 2人笑って、最後にシリカがヤマトとカリンにお礼を言って別れる。

 本当にいい子だな、とカリンは思った。自分なんかと違ってすごくまっすぐな子だな、と。

 これなら私も彼女とはこれからももっと交流を持っていきたい。そう思った。

 

「......」

 

「......」

 

 そして場に残ったのはヤマトとカリンの2人。

 ちょうどいいタイミングだしカリンもヤマトと別れよう、「それじゃあ」とでも言おう、そう思ったのだが。

 

「ねぇ」

 

「うん?」

 

 

 

「私さーー本当にこのままでいいと思う?」

 

 

 

 カリンの口から出てきたのはそんな、突然で意味も伝わらないような言葉だった。

 急にこんなことを言っても、ただ変なやつ、という烙印を押されるだけなことはカリンも分かったが、口から出てしまった言葉を撤回しようという気持ちにはなぜかなれなかった。

 そして、そんなカリン考えが伝わったのか、ヤマトも少し顔を引き締めた。

 

「それは、今日途中からカリンの様子が少しおかしかったことを言ってるの?」

 

「......私、おかしかった?」

 

「うん、まぁちょっとだけど。あのお姉さんどうのこうの、ってあたりから」

 

「あぁ......確かに、それもあるのかもね」

 

 別に、特別なことではない。

 ただ単純な話。誰にでもあるような『トラウマ』のようなものが、カリンにとっては『お姉さん』という単語に含まれていた。それだけの話。

 それにカリン自身、今回の自分の妙な精神状態が、その『トラウマ』のせいなのかはよく分かっていなかった。

 いや、それ以前に、カリンはヤマトになぜあんな質問をしたのか、ヤマトになんと言ってほしいのか、それすらも分からなかった。

 でも、そんなカリンでもこれだけは分かった。

 

(あぁ.....私はこのバカに、何か言ってほしいのか......)

 

 自分の価値観まるごと変えてしまうような力のある言葉でも、はたまたそこら中にありふれたちんけな言葉でも、なんでもいい。

 とにかくカリンは、今ヤマトに何か声をかけてほしかったのだ。

 ただ、それでも質問した内容、それはカリンにとって軽いものではなかった。

 それは、前からーー『あのとき』からカリンの中にある、ずっと変わらないまるで呪いのような問いなのだから。

 簡単に言えば、ただ急に寂しく不安になったからヤマトに聞いた、カリンの心境はそんな感じなのかもしれない。

 それでも、カリンにとっては大事なことだった。

 と、そこでカリンは心の中で小さく笑った。

 よくよく考えれば、自分はこの少年に会うたびに何か質問しているような、そんな気がして。

 この少年は、いつも自分の想像の上をいくような答えを持っていた。

 だから今回も、そんな答えで自分を驚かせてくれるんじゃないだろうか? ......救ってくれるんじゃないだろうか?

 もしかしたら、そんな淡い期待をしているのかもしれない、カリンはそう思った。

 そして、ついにその少年ーーヤマトは口を開いた。

 

 

 

「カリンってさ、結構女の子女の子してるよね」

 

 

 

「......はい?」

 

「だってさ、いつももそういうとこあるけど、今日なんてずっとピナを離さないでさ、シリカちゃん後半半泣きだったよ?」

 

「そ、それは、だって......」

 

「それに、いつもいつも、僕に絡んできては怒鳴るわ、パンチしてくるわ、拗ねるわ」

 

「う、うるさいわよ! それはあなたがーー」

 

 

 

「でも、僕はそんなカリンと一緒にいるの、結構楽しいよ?」

 

 

 

「ーーへ?」

 

 急に自分を肯定されて、間の抜けた声が出てしまうカリン。

 そんなカリンを気にせずヤマトは続ける。

 

「僕って適当でマイペースなところあるからさ、だからカリンみたいに自分のペースのまま楽しく話せる相手って、一緒にいるだけでも楽しいんだ......まぁ、カリンはイライラするかもしれないけどね」

 

 あはは、とヤマトがばつの悪そうに笑う。

 

「で、そんな適当でマイペースな僕はカリンの質問に答えはあげられない......ごめん」

 

「い、いや......」

 

 カリンはなんとか返事するが、未だに思考が纏まらない。

 

「でも、僕個人の単純なワガママでいいのなら......やっぱりカリンはそのままでいてほしいかな。僕の適当でマイペースな感じにも一つ一つ相手してくれる、楽しいカリンのままで」

 

 それは、本人の言う通りなんの答えにもなっていない、ただのヤマトのワガママだ。

 カリンの悩みのすべてを解決するような神様のような言葉でもない。

 それでも。カリンは。

 

「......ふふっ」

 

 ーー小さく笑った。

 

「......え、カリンが笑った!?」

 

「なによ、その失礼な言葉......あはは」

 

 また笑う。

 ヤマトの言葉は、神様のようなものではなかった。

 それでも、確かに、少しカリンは心が軽くなるのを感じた。

 ヤマトの言葉は、確かにカリンを救うような素晴らしい言葉だったのだ。

 ヤマトに認められたような気がして、ただただ嬉しかったのだ。

 こんなムカつくやつに認められたところで、良いことなんて何一つないのに。そう確かに思うのに、カリンは嬉しかった。

 

「ねぇ、あなーーいえ、ヤマト」

 

「えっと......なんでしょう?」

 

 初めて自分に笑顔を向けられたどころか、さらに初めて名前を呼ばれて、変に身構えてしまうヤマト。

 そんなヤマトの反応も、今のカリンからすれば面白かった。

 そして、カリンはこの世界に来てから初めて心の底から笑い。

 

「ばーか」

 

 ヤマトに言ったのだった。

 

 

 

 この日から、カリンはヤマトを名前で呼ぶようになったのだが、それはカリン自身も気付かない。

 

 




はい、シリカ、とみせかけてカリンのデレ回でした。
といってももちろん彼女はまだまだツンデレです! まだ落ちていないのでご安心を!
今回は訳わからなくなってしまっただけですね。
というか、本当にこの2人の話は書くの面白いなぁ......まぁ、たまにやるからかもしれないですが。

次回は本編に戻ります! なんとクオーターポイントです!
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