まずい、最近完全に週1更新になってますね......
しかも最近なんだか1話あたりの文字数増えてますし......
表現が下手だから長くなってしまうのか、構成が下手だから長くなってしまうのか。
うーん、もっと頑張らないとですね~。
それではどうぞ!
「おはよー、コウキ」
「おはよ」
いつも通りの朝。いつも通りの待ち合わせ場所でミウと会い、これまたいつも通り挨拶する。
この間ミウと衝突しあったりもしたが、今ではその時の気まずさなんて微塵も残っていない......と思う。
いや、正しく言えばミウは仲直りしてから数日間は俺の顔をまともに見てこなかったけど。
なんか、「なんであんな告白みたいな言い方したんだろう私、いやむしろプロポーズ? ......やばい、なんか今さら恥ずかしくなってきた!!」とかブツブツ言って。
俺は、俺は~......うん、まぁ俺のことなんてどうでもいいか、うん。
閑話休題。
とにかく、そんあ微妙に波瀾万丈な日々を過ごしてきた俺らだが、今日は特にーーおそらくはミウもーーいつもより少し声や雰囲気に緊張の色が含まれていた。
その理由は簡単だ。
「遂に、25層ボス攻略かぁ」
「4分の1、だな」
そう、今日は25層ボス攻略の日だ。
最初は100層攻略なんてとても無理、と言っていたプレイヤーも多かったが、半年と少しでここまで来られた、ということもあり、最近は攻略にも勢いがついてきていた。
それに最近、攻略の動力源のような怖い人も出てきたしな。ここまでの要素が揃えばそりゃあ嫌でも攻略は進んでいくだろう。
俺としてはもう少しゆっくり進んでもらわないとついていくのもかなりキツいのだが、攻略が進むことは間違いなく良いことだ。俺の意見なんて他所に置いておくべきだろう。
それに。
「今日も頑張ろっ!」
「......おぉ!」
俺たちは互いに手の甲をぶつけ合い、攻略組の集合場所に向かって歩き出す。
......それに、俺も、こうやってミウをこの世界から守るためになら、きっといくらでも頑張れる。
その後集合場所でヨウトとキリトと合流、移動し、今はボス部屋の目の前にいる。
周りを見渡せば、俺やミウのように今回はいつも以上に緊張している面持ちのプレイヤーが多い。
ボス攻略上限人数48人。これだけの人数の緊張している空気が伝わってくると、この世界がゲームオーバー=リアルでの死というデズゲームだというのが再認識される。
まぁ、だから......
「最近、フィナさんの料理食べてないなぁ」
「そういえばフィナのやつも言ってたぞ? 『あれ』以来2人が来ないから寂しい。嫌われたんじゃないかって」
「あ、ああああああ『あれ』ってなんのことかなヨウト!?」
「......? あー、そっか。そういえば俺はミウちゃんに会ってなかったな」
「......へ?」
「俺、あの時《旋風》にいたぞ」
「忘れてーーーー!!」
「うおっ、あぶな!? ミウちゃんタイムタイム、ここで俺殴るのはヤバいって!!」
......あんな風にいつも通り騒げているあの2人は心臓の構造がどうかしていると思う。
バカのヨウトはともかく、ミウはさっきまで緊張してたはずなんだけど......
さっきそのことをなんとなくミウに聞いてみたら。
ーーコウキに会ったら、なんか安心しちゃった。
だそうだ。
......まぁ、ミウのそんな風に自分の考えや気持ちを素直に他人に伝えられるところはすごく良いところだと思うんだけど、ちょいちょい男殺しな台詞を言うのはどうにかなんないかなぁ。正直心臓に悪いっス。
ミウも無自覚なんだろうから仕方ないけどさ。
だが、そろそろ本気で周りのプレイヤーの視線に殺意がこもり始めているので、あの2人を宥めるとしよう。
「おーい、2人ともそろそろ静かにーー」
「おっ、コウキ良いところに! 聞いてくれよ!」
「いや、だから静かにーー」
「ハンバーガーならやっぱりチーズだよね!?」
「いや! やっぱり照り焼きだよな!?」
「2人ともなんの話してんの!?」
おかしい、ボス攻略直前でハンバーガーの話をチョイスはおかしすぎるよお二人さん。
ほら、周りの視線もどんどん痛く......
「お前どっち派?」
「俺はチーズだな」
「てめぇ分かってねぇな、男なら照り焼きだろ!」
「俺、ポテト」
みんなちゃっかり乗っかってるし!?
......いや、分かっている。真面目な話、ボス攻略前というのは何度目、何十度目になろうとも緊張はするし、とにかく怖い。俺が特別軟弱というわけでもなくみんなそれぞれ恐怖や緊張は感じていると思う。
だから、こうやって軽い話に少しだけ逸れたくなるのも分かるのだ。少しでも緊張や恐怖から目を逸らすために。
特に、ミウやヨウトは、なんかこう......不思議と暖かい空気を作るのが上手い。だからこうやってみんなもその不思議な暖かさを頼って、なんとか精神力を溜めているのかもしれない。それは痛いほど分かる。
それでも......やっぱりこの話題はどうかと思うんだよなぁ......みんなは盛り上がってるし、もしかして俺の感覚がおかしいのだろうか?
もちろん、俺がそんな風に現実逃避しても、目の前の2人は逃がしてくれない。
「ねぇ、コウキはどっち!?」
「お前も照り焼きだよなぁ!?」
「ほんと、何がお前らをそこまで駆り立ててるんだよ......」
これはもう、適当に言って場を収めるしかないか、そう考えたときだった。
「静粛に!!」
凛とした声が空間に響く。
どこまでも固く、甘さなどどこにも介在しないような冷たい声だった。
この場にいるプレイヤーたち全員が、声の主の方を向く。
「皆さん、ボス攻略前に、気を抜くようなことは止めてください」
その声の主は、その声に相応しい気品高い表情でプレイヤーたちに声をかけていく。それが進むに比例して先ほどまで暖まっていた空間が冷たくなっていくのを感じた。
「それと......」
そして、そのプレイヤーは俺たちの方を向き、近づいてきた。
「コウキさん。あなた達のパーティーは周りの方々に悪影響を与えます。今回は見逃しますが、今後はこのようなことがないよう注意してください」
「あぁ、悪かった。以後気を付けるよ」
俺が悪いわけではないのだが、今回は仕方ないか。
そして騒いでいた人物の一人であるミウは、自分のせいで俺が叱責されたことがショックだったのか、いつもよりも雰囲気を暗くしつつそのプレイヤーの前に出てくる。
「ごめんね、アスナ。私たちちょっとうるさかったね」
ミウがそのプレイヤーーーアスナに謝る。
アスナはミウの謝罪に、分かってくれればいいんです、とだけ返し、もと居た場所ーーギルド《血盟騎士団》の輪の中へ戻っていく。
......まぁ、確かに、アスナの言い分も最もだ。アスナ達からすれば、真剣な、精神をこれ以上ないぐらいに研ぎ澄ましていた状況で、妙な茶々を入れられたようなものなのだから、怒っても当然だと思う。
事実、俺もその辺りを気にして周りを押さえようとしていたわけだし。
だが、それがいつも正解というわけではないと思う。
ミウもヨウトも、調子に乗るところはあるが、誰かの迷惑を考えられないわけではない。むしろあの2人はそういったことに機敏だと思う。
だから多分今回の騒ぎも、2人なりに緊張しすぎて悪い意味で沈んでしまっていたみんなの空気を上昇させようと思って明るく振る舞ってたんだろうし(まぁ、それもどこまで狙っていたのかは分からないが)
だから......今のことはアスナに責められるほどのことではなかったと思う。もちろん騒ぎすぎたことは怒られなければならないが。
その辺りのさじ加減というか、微妙な感覚というのは本当に難しい。
どちらが悪いというわけでもないが、どちらかが悪くならないといけないというのも嫌なものだ。
なのでとりあえず必要以上に落ち込んでしまったミウの頭を軽く叩きながら、キリトに話しかける。
「なぁ、キリト。アスナっていつから《血盟騎士団》に入ったんだ? 俺が知ってる限り、17層ぐらいまではソロだったと思うんだけど」
アスナとは連絡が取れないことも多かったが、たまに会ったりはしていたしはしていたし、ボス攻略の時はパーティーを組んだりもした。
なのにいつからかアスナは俺たちから距離をとるようになって、気付けばアスナが《血盟騎士団》ーー《Kob》に入っているという今の状況が出来上がっていた。
そして俺の言葉にいつの間にか復活したミウや、ヨウトも便乗する。
「そうそう! しかも最近アスナ雰囲気堅いし......」
「だよな。まぁ、アスナが《KoB》に入るのは悪いことじゃないけど、副団長とか言われてるし。なんか知らないか、キリト?」
「......さぁ、俺も分からないよ。俺だってあいつと一緒に行動していた訳じゃないしな」
「そっか......」
ミウがキリトの言葉に項垂れる。
まぁ、そりゃあキリトがアスナの事情を全て理解しているとは思ってないけど......
なんか、最近キリトも微妙に様子がおかしい気がするんだよな。
どこがどういう風に? と聞かれると答えられないのだが、ミウ風に言うのなら、雰囲気が、だ。
俺なんかが誰かの悩みを聞いてヒーローのように解決できるだなんて馬鹿なことは考えていないが、それでも力になりたいと思う。
ただ見ているだけでは、なにも解決しないことはもう分かっている。
俺はゆっくりと口を開けようとする。が。
「.......」
なにも言えなかった。
いや、正しくはキリトがなにも言わせないような雰囲気を出していた。
まるで、無用な詮索は止めろとでも言われているかのようだった。
それでも何か言おうとしたが、結局俺はなにも言えずに口をつぐみ、話す代わりに歯噛みした。
また、自分の無力感に苛まれそうになるが、今はその時じゃないと頭を振る。
そんな俺の動作を見られていたのか、ミウが妙に明るい声で話す。
「でも、アスナが《KoB》に入るとは思わなかったなぁ」
《Kob》。ギルド《血盟騎士団》の略称だ。
攻略組のギルドは3つの組織に分けられる。
ディアベル率いる《DKB》こと、《ドラゴンナイツブリザード》。
キバオウ率いる《ALS》こと、《アインクラッド解放隊》。
そして、先ほども言ったようにアスナも所属する、ヒースクリフ率いる《KoB》こと、《血盟騎士団》。
《DKB》は言わずもがな、ディアベルのカリスマ性に惹かれたメンバーで構成されていて、団結力、統率力もある。1層からディアベルの力は衰えるところを知らずだ。
《ALS》はその名前からも分かる通り、この世界から解放されたい、脱出したい、という気持ちが伝わってくるせいかせいか、はたまたキバオウの力強い人柄に惚れたのか、現在存在するギルドでは最大の人数規模を誇っている。
《KoB》は、団長であるヒースクリフが一人ずつ声をかけて作ったギルドらしく、それ故に人数は少ないが、メンバーの実力は群を抜いている。
アスナはそのうちの《KoB》に所属しているわけだが、正直アスナはギルドのような人との関わりあいを鬱陶しく思う方だと思っていたので、入ったことを知ったときはかなり驚いた。
そしてアスナと久し振りに会ったとき、その雰囲気が前とは比べ物にならないほどの硬くなっていることにさらに驚いた。
でも......
「まぁ、ヨウトも言ってたけど、ギルドに入ることは何も悪いことじゃないしな。むしろ危険も減ったりしていいこと尽くしだし」
俺の言葉を聞いて、キリトを除く2人が渋い顔になる。
2人の言いたいこともなんとなく分かる。
つまり、自分を殺してまでギルドに入る必要はあるのか。そんなのはただの自己犠牲なのではないか、そういうことだろう。
それには俺も全面的に賛成だ。でも、前までのアスナがアスナの素だったのかは俺たちには分からないのだ。
それに。
「アスナが自分で決めたことなんだ。俺たちには口出しする権利はないよ」
キリトがミウとヨウトをを宥めるように言う。
つまり、そういうことだ。
アスナのことはアスナが決める。
人によっては冷たく思う考えかもしれない。それでも、俺たちがアスナが決めたことにとやかく言うのは失礼だし、そもそもさっきも言ったように何もアスナは間違っていないのだ。俺たちにできることは何もない......
ーーというのが、この前までの俺の考えだった。
相手の考えにとやかく言うのは失礼、そうかもしれない。だが、それでも手を伸ばすぐらいのことはしてもいいはずだ。
今、俺なんかではアスナにかけられる言葉は存在しない。そもそも、何か言ったところでやはりなにも変わらないかもしれない。
それでも、何も行動しないという選択肢よりも、その行動は何倍も価値あるはずだ。
それを俺は、ミウから教わった。
ヨウトは小さくため息をつきながら言う。
「......なるようにしかならない、か」
「それでもお前のその馬鹿なほどのお人好しは良いとこだと思うぞ」
「それって、褒めてるのか......?」
失敬な、素直じゃない自覚がある俺からすればこれ以上ないぐらいの褒め言葉だというのに。
それから5分ほどすると、ディアベルがボス部屋の扉の前に躍り出た。
「今回は俺たち、《DKB》が主となってボスに挑戦する! 《KoB》、《ALS》、無所属の方々も協力を願います!!」
ディアベルがこの場のプレイヤー一人ずつに目を向けながら言う。
ディアベルが今言った『今回』というのは、毎回どこのギルドが主となってボス攻略をするか揉めているためだ。
前にも言ったが、ギルド同士というのは基本的に仲が悪い。
それに攻略組までのレベルになるプレイヤーというのは多かれ少なかれ我が強い。
そんな理由から指示する側、指示される側ということにかなり拘りを持つプレイヤーが多いのだ。
特に《ALS》のプレイヤーは、人数が多いこともあってか妙に拘りが強い。だからなのか前からどこのギルドが全体を統率するのかということを決めるのにも口を挟んできて、結果会議に時間がかかることもしばしばある。
それからもディアベルは二言三言話し。
「それでは皆さん! 今回も誰も死なずに無事帰りましょう!!」
「「「おおおぉぉおぉぉぉぉおお!!」」」
ディアベルの締めの言葉に共鳴するかのように雄叫びをあげるプレイヤーたち。
そんな光景を見て自然と頬が緩んでしまう。
やっぱり、どれだけいがみ合っていても皆考えることは同じだ。
生きて帰る。ミウや、皆と一緒に。
生きて帰るからこそ、またぶつかり合ったり笑いあったりできるのだから。
「コウキ」
隣から声がかかったので視線を向けると、ミウが俺を見て笑っていた。
......なるほど、確かに顔を見ると落ち着くな。
どうやら俺自身、偉そうなことを言いながらどこか変に力んでいたらしい。
「頑張ろうねっ!」
「もちろん!」
互いに声をかけあった瞬間、25層ボス部屋の重き扉が低い音をあげながら、ゆっくりと開き始めた。
「グルシャァァァァァアア!!」
前衛プレイヤーの剣がボスを斬りつける。
ボス戦が始まって10分が経ち、既にボスのHPバーは残り2本だ。
今回のボス《ザ・ケルベロス・グレイター》は、その名の通り3つ首の獣型mobだ。
体長約4メートル。全身は黒く長い体毛に覆われ、尾は長く太い。
そして胸と足首には、それぞれ金色の胸防具ととリングが装備されている。
今回は取り巻きをつけないタイプのボスらしく、そういったボスはステータスがかなり高いことが多い。
ケルベロスもその例には漏れていなかったが、ディアベルが相手の動きに応じて的確な指示を出して、つねにケルベロスを部屋の角に追い込んでいることで戦線は安定している。
それに取り巻きがいないお陰で、相手一体に注意を向けられるのも戦闘を有利に進められている要因の1つだろう。
ちなみに今回のボス戦、俺たちのパーティーの仕事は、ケルベロスにタイミングを狙って攻撃してヘイト値を稼ぎ、ケルベロスを引き付ける係りだ。
ヘイト値は相手が攻撃する寸前にそれを邪魔するように攻撃したり、ボスの弱点を攻撃するなど、まさに相手が『嫌がること』をすれば稼ぐことができる。
まぁ、つまり。
「うおっ! あぶなっ!?」
......いつも通り、ハズレの仕事を任せられた訳だが。
敵が攻撃する寸前に自分達から攻撃する、敵を引き付ける。それだけでもどれだけ危険な役割かが分かるだろう。
それもミウやヨウト、キリトのような異常な戦闘能力があってこそできる役割であって、俺のような狼に食べられる羊のような存在には正直辛すぎです。開始10分で命からがらである。
そもそもあの3人がおかしいんだよ! なんであんなに綺麗にかわせるの!?
「コウキ、スイッチ!」
ミウが自身に振り下ろされた巨足をギリギリでかわし、俺はミウと前衛後衛を入れ替わる。
そして振り下ろされた状態で硬直しているケルベロスの足首を斬りつける。
俺の攻撃は攻略組でもそこそこ上の方に部類する(まぁ、キリトには勝てる気がしないが)のだが、そんな俺の攻撃でもケルベロスは効かんとばかりに雄叫びをあげ、さらに右前足付近にいるプレイヤーをなぎ払いにくる。
「ディフェンダー隊、構え!!」
しかしそれはディアベルの指示で前衛の大盾持ちのディフェンダーが構え、ケルベロスの一撃を抑え込む。
......さすが《KoB》のディフェンダー隊。安定感が全然違う。
指揮者が他ギルドのディアベルでは、いくら《KoB》のメンバーでも上手く動けないのでは? 等と考えていた最初の頃が懐かしい。
他のギルドのプレイヤーたちは、指揮者が違うとどうしても戦闘開始時や、いざという時に浮き足だって上手く動けないこともあるのだが、《KoB》のメンバーは本当にそういったことがない。
ちなみに俺たちのようなソロだったり無所属のプレイヤーは誰が指揮者でも上手く動けたりする。その辺りは、やはり急な状況の変化にも自分で対処することを日常としている無所属のプレイヤーの特権と言えるだろう。
っと、しまった。
「今のうちにヘイト値稼がないとなっと!」
ディフェンダー隊がケルベロスの攻撃を抑え込んでいてくれるうちに、さらにもう2撃、ケルベロスの足に攻撃を叩き込む。
俺たちは基本的に左前足を攻撃して、ヘイト値を稼ぎ、攻撃本体は右前足と体を集中的に攻撃しているのだが。
この足首の部位、ダメージが少ないな......
そもそもケルベロスの足首は全て金色のリングで保護されていることもあり、攻撃が通りづらいし、足なんて頻繁に動く部位だから攻撃の効率も悪い。
......となると、まずは相手の動きを少しでも減らすことから考えないとな。
「ミウ、ヨウト!!」
ミウとヨウトに戦闘前から決めていたあるサインを出す。それに対して2人も頷き返してきた。
そして2人とも攻撃の隙をを見計らってケルベロスの足の正面に出てくる。
「いくぞー、ミウちゃん!」
「OK!」
2人はタイミングを合わせて同時に跳躍し、バック宙を決めた。
この間ミウも取ったヨウトと同じ《軽業》スキルの《ムーンサルト》。
このスキルは敵の前で発動することで、敵のヘイト値を一定時間内使用者に大量に向ける、というものだ。
このスキルはヘイト値を稼ぐにはこれ以上ないぐらいに優秀なスキルなのだが、あまりにもヘイト値を稼ぎすぎて使った瞬間にその敵に攻撃されてHPを大幅に削られるという危険も孕んでいるのだ。
だが、今回の場合それを2人同時に行い、大量に向けられるはずのヘイト値を半分ずつに分散することで、大量、同じ程度のヘイト値をもつプレイヤーが2人いるのでどちらを攻撃するか、敵の判断を一瞬遅らせたのだ。
そしてその遅れは俺たちの攻撃にも役立つ。
「キリト!」
「あぁ!!」
2人どちらに攻撃しるかケルベロスが迷っているうちに、俺は《クロス・シーザー》、キリトは《バーチカル・アーク》で相手の足を連続で斬りつけていく。
本当はもっと強力なスキルで攻撃したかったのだが、ケルベロスの硬直はダメージなどによるディレイではなく、ただの情報処理の隙間を突いただけなので、そこまでは長くない。なので発動の早いスキルで攻撃をせざるを得なかった。
でも、俺とキリトの攻撃はどちらも重攻撃、もしくはそれに近い攻撃で、しかも同じ方向から一ヶ所に当て続けている。
これなら......
「グゥ......グゥウウ......」
よし、予想通りタンブルした!
いくらステータスが高くとも、連続した攻撃、意識外からの攻撃でタンブルすることは《エンド》の時に実証済みだ。
もちろん、この絶好の攻撃チャンスをディアベルが見逃すはずがない。
「総員、突撃ぃぃぃいい!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉおお!!」」」
ディアベルの指示とほぼ同時にプレイヤーたちが一斉にケルベロスに攻撃をしかける。
それに俺たちも続いていく。
プレイヤーのよっては足を攻撃するもの、胸防具の上から攻撃しているもの、ケルベロスの背中を登って上から攻撃するもの、人それぞれだ。
さすがにこれだけの数の攻撃はこたえるのか、ケルベロスは唸り声をあげて自らのHPバーをみるみるうちに減らしていった。
そしてケルベロスのHPが残り1本と半分にまで減ったところで、ケルベロスがタンブルから回復しようと体を起こし始める。
ディアベルもそのタイミングを的確に判断し、攻撃のためケルベロスに突撃していたプレイヤーたちを下がらせる(といっても、俺たちはいまのこうげきで再び散ってしまったヘイト値の調整のためにも下がるわけにはいかなかったが)。
「皆! このバーも折り返しだ、一気に崩していくぞ!!」
ディアベルの掛け声にまたプレイヤーたちが雄叫びを上げる。
本当に、ディアベルは今のようにメンバーの士気を上げるのが上手い。
総攻撃が成功して、誰でも気を緩めてしまいそうな絶妙なタイミングで、あんなことが言えるのだからさすがギルドリーダーだ。
気は緩めさせずに、士気は上げる。目的は分かっていても、俺では絶対にできないようなことだ。
この流れを切らさない。そう考えたのかディアベルが次の指示を飛ばすーーそれよりも一瞬早かった。
「グゥゥ......ガァァァァァアアア!!」
ケルベロスがタンブルから完全に回復した瞬間、ディアベルの声をかき消すかのようにケルベロスの咆哮がボス部屋に響き渡る。
そして、次の瞬間には前衛で構えていた盾プレイヤーと、その後方で構えていた攻撃隊が吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたプレイヤーたちが次々と転がっていく。
なっ......!?
そのあまりの光景に一瞬呼吸が止まった。
完全にやられた。
ケルベロスは、今までの動きが全く本気ではなかったかのように高速で尾を振るったのだ。
俺たちはケルベロスの足元にいたお陰で、長い尾の攻撃範囲を偶然にも掻い潜れたようだ。
だが、今重要なのはそんなことではない。
吹き飛ばされたプレイヤーたちを見る。
「嘘だろ......?」
キリトが思わずといった風に声に出す。
それもそのはずだ、なんたって盾役のプレイヤーたちの、ほぼ全快だったはずのHPバーが4割近くも削られていたのだから。
いくら力を抜いた一瞬に攻撃されたからといっても、盾役のプレイヤーたちが一撃であそこまで削られてしまうのは異常だ。
しかもその後方にいた盾を持っていない攻撃隊はもっと酷く、6割近くも削られていた。
前衛の盾役が勢いを殺してもこれなのだ。
というか、これは......
「バーサークモード......?」
でも、バーサークモードはHPバーが残り1本になった時に発動するもののはずだ。
今回は特殊仕様とか? それとも何か特別な条件を満たしてしまったとか?
様々な想像が頭の中を駆け巡るが、すぐに頭を振る。
ちがう、今考えることはこんなことじゃない!
今俺たちは『そんな』ケルベロスの目の前にいるんだ。こんなところで放心状態になっている場合じゃない!
そう思って周りに目を走らせる......よかった、俺以外の3人もほぼ同時に頭が動き出したようだ。
「一旦後方に退避するぞ!」
「「了解!!」」
今はとにかく一度距離をとって様子を見ないと。ここにいてもなぶり殺しにされるだけだ!!
退避しようと後方に向かって駆け出す、が。
「う、うわぁぁぁっぁあ!?」
「やばい、逃げろぉぉ!!」
後方のボス攻略本体では、逃げ惑うプレイヤーが続出していた。
くそっ、完全に頭から抜けていた。
こんな絶望的な状況を見せられれば、逃げ出すプレイヤーが出てくるのも当然だ。
ダメージを食らった本人たちよりも、それを間近で見せられたプレイヤーたちが恐怖で逃げ出しているようだ。
しかも一人が騒ぎ出せば、それが周りの人たちにも伝染していくのが団体の特徴だ。恐怖はすさまじい速度で伝染していき、ボス部屋内は悲鳴で包まれていく。
時間の経過と共に、状況が加速度的に悪化していく。
「ガァァッアア!!」
ケルベロスが再び動きだし、今度は左前足で振り払ってくる。
ターゲットは......俺か!!
まずっ、かわせない!!
「ぶっ、がはっ!!」
そのまま俺はなぎ払われ、壁近くまで吹き飛ばされる。
「コウキ、大丈夫!?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。ギリギリ剣を挟んで流したから」
すぐさま俺のカバーに来てくれたミウに答える。
そして自分のHPを見ると、3割ほど削れていた。
......参ったな。咄嗟だったとはいえいえ、正直これ以上ないぐらいに上手く流せたつもりだったのだが、それでもこれだけ削られるのか。
しかも、ケルベロスが再び動き出したのを見て、恐怖感が煽られて部屋の中の収集がつかなくなっている。
指揮者のディアベルも混乱しているぐらいだ。他の連中は現状把握すらできていないかもしれない。
実際、俺自身もまだ混乱から抜けきれていない。
「む、無理や! こないな奴に相手にしとったら死んでまう!」
どこかのギルドのウニ頭リーダーが叫んだ。
その声が引き金となったのか、遂には恐怖のあまりボス部屋から出ていくプレイヤーまで出始めた。
このままじゃダメだ。
そうは思うのに、何も良い案が浮かんでこない。
ヨウトやキリトを見てもそれは同じのようだ。
どうすれば......
だが、俺が思考している間にもケルベロスは行動を継続していく。
「コウキっ!!」
瞬間、ミウに体を引っ張られる。
ダァァァァァァァァァンッッッッ!!
ミウの声の直後、すぐ近くで大音量の衝撃が発生した。
衝撃に圧され、体が転がりそうになるのをなんとか堪え、体勢を整える。
俺たちがもといた場所を見ると、どうやらケルベロスが突進してきたようだ。壁にケルベロスが激突していた。
「コウキ、なにしてるの!? 余所見してたらやられるよ!!」
「ごめん、助かった!」
くそっ! 俺は戦闘中になにやってんだ!!
歯を思いきり噛み締めて無理矢理思考を切り替える。
......どうやら、ケルベロスのタゲは俺に向いている、というわけではなく、無差別に攻撃しているようだ。
だがタゲを分散しているからといって、このままではケルベロス相手には何もできない。
しかもそんなことをしているうちに、錯乱したプレイヤーの一部はボス部屋から出ていってしまった。
......もう、考えてる暇も、迷ってる暇もないか。
このままじゃ、俺どころかミウも危ない。
俺は大きく息を吸い込み、唯一思い付いた、作戦だなんてとても言えない作戦を実行する。
「戦う意思がある奴! ケルベロスに立ち向かうことができる奴! まだ戦闘を続行できる奴は、今すぐ後方に集まれぇぇぇぇえ!!!!」
俺に向けられてくる視線やら、涌き出てくる恥ずかしさを無視しながら、俺はミウの手を引いて後方に駆け出した。
......これが、後に語られるクォーターポイントでの戦いの最初の1つ目になることを、俺はまだ知らない。
はい、クォーターポイント前編でした。
今回はボス戦の導入と、ミウさんさんとの喧嘩後のコウキくんの考え方の変化を重点的に書いてみました。少しわざとらしすぎたかなぁっと思ったりもしてます。
そして今回、コウキくんくんは遂に自分から表舞台に立とうとしています。これもちょっとした変化というのを出してみてます。
次回は、中編です。コウキくん活躍します。