力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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29話目です!
今回は前回と比べて少し短めです。
それでも多くの思惑だとか戦闘だとかが多いのでボリュームはあると思います!

それではどうぞ!


29話目 希望ある戦士たちの攻防

 俺とミウが後方に到着した時、後方にいてくれたのはKoB団長ヒースクリフとディアベル、それにヨウト、キリト、2人のソロプレイヤーだった。

 プレイヤーも約半数が部屋から去ってしまい、ボスも今までのものと全くと言っていいほどいいほどの別物。しかも強力。

 こんな状況の今、欲しいものは挙げればキリがないが、優先すべきは確かな戦力の確保、そして情報だ。

 それらを得るためには、ほんの少しでもいいから会話が必要だ。

 おそらく、それが分かっているから俺のあんな言葉でもこんなにプレイヤーが集まってくれたのだろう。

 俺が着いたのを確認するとヒースクリフが口を開く。

 

「さて、時間もないので手短に話そう」

 

「あぁ」

 

 さすがは三大ギルドの団長、こちらが求めていることを的確にしてくれる。

 この人もディアベルと同じで、俺なんかじゃできないことをする人だなぁ。

 

「まず、我々《血盟騎士団》は12人全員がこの場に残って戦っている。今は副団長のアスナ君に指揮を任せて戦線を保ってもらっている」

 

「......すまない、俺たち《DKB》は俺を含めて6人だ。今は《KoB》のメンバーと一緒に戦線を作っている。

 

 ヒースクリフ、ディアベルの順に自分のギルドの現状を報告する。

 正直、戦線を作ってくれていることはこの上なく嬉しい。俺は先ほど宣言する際、密かにヒースクリフに視線を送っていた。理由は単純。今言ったようにこの話し合いの間戦線を作っておいてほしかったからだ。

 これも相手を利用しているみたいで心痛むが、それどころではないので許してほしい。

 

「......で、《ALS》は全員が逃亡ってことか」

 

 ヨウトよ、それは言わなくても良いんじゃないかい?

 だが、ヨウトが言ったことは言葉以上に重くのしかかる。

 先ほども言ったように、今欲しいものの一つは戦力。

 その戦力が決定的に足りていないことを、ヨウトの言葉は的確に示しているのだ。

 それでも......

 

「今は、この戦力でなんとかしないと......」

 

 別になにか意識して発した言葉ではなかった。ただ自分を鼓舞するつもりで言ったぐらいだったのだが......

 

「「......」」

 

「な、なんすか?」

 

 なぜかこの場に集まっているミウ以外のメンバー全員から不思議そうな顔をされた。

 俺がその謎の反応に戸惑っていると、ヒースクリフが小さく笑みを浮かべた。

 

「なら、こうしよう。ケルベロスの攻撃は《KoB》と《DKB》の連合で請け負う。なのでここにいるメンバーで攻撃する」

 

 ......なるほど。確かに良い考えかもしれない。

 《KoB》は各々のレベルが高く、しかも装備も殆どが重装備。つまり盾役ができるメンバーが揃っている。

 そして俺たち無所属のメンバーは、その特性ゆえに全員状況判断能力が高い。よって立ち回りが上手いので少数での攻撃には向いているかもしれない。

 しかし、そうなると問題が一つ残る。

 

「......指揮はどうするんだ?」

 

「主に私が執ろうと思うが、不服かね?」

 

「あぁ、意義ありだ」

 

 ヒースクリフは《KoB》の団長としても名前が通っているが、もう一つ、その名をこの世界に知らしめる要因がある。

 それは、純粋な戦闘能力。

 その無敵と言っても過言ではないような防御力によって、ヒースクリフはこの世界でも最強の一角として数えられている。

 その防御力はこれからの戦闘で絶対に必要になってくる。

 今はただでさえ戦力が足りていない。そしてそのツケが一番回ってくるのは、間違いなく前衛の盾役だ。

 このことからも、ヒースクリフには盾役をしてもらわなければ困る、というか戦線が崩壊する。

 今はアスナが戦線を保ってくれているらしいが、これからもそんなだましだましが最後まで続くとは思えない。

 それにいくらヒースクリフでも全体の指揮を取りながら、あのケルベロスの攻撃を防ぎきるのは難しいだろう。

 その旨を伝えると、ヒースクリフは顎に手を当てながら、ふむ、と頷いた。

 

 

 

「確かに一理ある。そういうことなら、君が代わりに指揮を執ってくれ」

 

 

 

 ........................................................................は?

 俺の思考がヒースクリフの意見に完全に処理落ちしていると、俺よりも早くミウが反応した。

 

「やったじゃんコウキ! コウキいっつも色々考えてるし、絶対に上手くいくって!!」

 

「いやいやいやいや! そりゃいくらなんでも無理だって!! そもそも、俺が指揮執るなんて反対する人が何人出てくるか......」

 

 俺に誰かを動かす能力なんて皆無だ。

 それに仮に俺に隠された才能だとかそんなものがあったとしても、今は反対してくるプレイヤーを説得する時間なんてないことは、ヒースクリフも分かっているはずなのだが......

 そんな俺の疑問にヒースクリフは何でもないように答える。

 

「もちろん、《KoB》や《DKB》のメンバーには私やディアベル君から言っておく」

 

 あとはこの場にいるメンバーだけだと思うが? そう締め括った。

 この場にいるメンバーが納得すれば問題はなくなる、確かにその通りだ。

 でも、これは明らかにおかしい。

 話が上手く進みすぎている。

 確かに、この状況を打開する方法はギリギリではあるが思い付いたのでタイミングとしては良いのかもしれない。

 だが、それはあくまでも俺の主観であって、客観的には全く違う。

 単純な話、どこのギルドリーダーでもないただのプレイヤーである俺なんかがボス戦の指揮を執るなんて現実的にあり得ない。

 実力、実績、信用、何から何まで俺には足りていないのだから。

 ヒースクリフが指揮を執れないのなら、ディアベルや、アスナが指揮を執ると普通は考えるのではないか?

 それを説明だなんて面倒なことまでして、俺を指揮官にしようとしているヒースクリフの意図が分からない。

 

「......」

 

 俺がどれだけヒースクリフの真意を探ろうとしても、ヒースクリフは屹然と立っているだけだ。

 正直、俺はこいつが苦手だ。

 ヒースクリフと初めて会話したのは17層攻略会議の時、俺がボス攻略の方法に意見したときだ。

 その時から、なぜか俺はこいつにいい意味でも悪い意味でも目をつけられるようになり、行動しにくいったらありゃしない。

 少し前にも《KoB》に誘われたりしたが、丁重にお断りさせてもらった。

 何故だかは分からないが、この男に自分の行動が監視され、制限されるのは不味い気がしたのだ。

 もちろん、俺の考えすぎ、被害妄想という可能性もあるのだが......

 そんな時に今のヒースクリフの意見だ。

 さて、どうするか......

 するとヨウトが近くまで寄ってきた。

 

「......別に良いんじゃないか? 仮にヒースクリフが悪い奴だったとしても、こんなところじゃ変なことできないだろ?」

 

「そうだよ、コウキだってチャンスなんだし。それに......」

 

 ミウは一旦言葉を切る。

 

 

 

「コウキに何かするんだったら、容赦しないから」

 

 

 

 ーーゾクリッッ!!。

 体の芯を、冷たい感覚が走ったような気がした。

 俺たちの会話が聞こえていないはずの他の皆も急に緊張が走ったような表情になった。

 ......最近、ミウはこういう言動をするようになったから怖い。

 

「ミウ、すげぇな」

 

 ヨウトが俺にだけ聞こえるように言ってくる。

 俺もヨウトの意見に激しく同意だ。

 

「なんか最近、コウキにすげぇ似てきたし」

 

 なんで今のミウを見てそんな感想が出てくるのかは置いておくとして。

 まぁ、ミウにそこまで言われてしまっては仕方がない。

 俺はヒースクリフに向き直る。

 

「分かった、あんたの案に乗るよ。でも、2つ条件がある」

 

「ほう?」

 

「1つ目は俺以外の指揮者の任命だ。任命は......キリト、頼んで良いか?」

 

「あぁ、分かった」

 

「2つ目は、俺とその任命者の共同で指揮を執ることの許可だ」

 

 これらの条件は単純な話、俺のせめてもの抵抗策だ。

 このままいけば、ただヒースクリフの思い通りに事が進んでしまう。

 それは面白くないし、ただ言いなりになっているようで嫌だ。(一応、指揮者が俺だけでは反感を買いやすいだろう、ということでもう一人頼む、という狙いもあるにはある)

 そんな、ぶっちゃけて言えば子供じみた理由で意見したのだが。

 

「ふむ、いいだろう」

 

 軽く受け入れられてしまった。話の主導権も終始握られてしまっていたし、本当に不気味な奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、コウキ君、よろしくな」

 

 その後、キリトがもう一人の指揮者として指名したのは、ソロプレイヤーの1人、シーヴェルス。

 両手剣を背中に携え、青い甲冑を身に纏った男性プレイヤーだ。

 歳は20代半ばだろうか? 慎重は俺よりも高く、髪はベリーショートで真面目そうな雰囲気を出している。

 俺はシーヴェルスとは面識はなかったが、キリト曰く、今この場にいるメンバーの中では全体の状況把握の速さは間違いなく『2位』だこと。

 じゃあ、1位は? とキリトに聞くと、無言で俺を見てきたが、あれはきっと何かの間違いだろう。

 確かにミウに何か一つでもいいから勝ちたいと思って、必死になって『目』を鍛えていたが、間違いに決まっている。

 

「......聞いてる?」

 

「あ、あぁ、うん。こっちこそよろしく」

 

「じゃあ、早速やることを決めていこうか」

 

「あぁ、まずは指揮の区別、だな」

 

 さっきまでいた他のメンバーは俺たちを残して既に戦線に戻り、ケルベロスを食い止めている。

 俺たちはヒースクリフから2分の制限時間をもらった。

 皆がケルベロスを食い止めてくれているこの2分間で、打開策をまとめろ、ということだ。

 ......というか、打開策って。ヒースクリフの奴、俺の考えとかもしかして分かってるのか? そう言うのはミウとか

 俺は軽く頭のなかで状況を整理し、現状をまとめる。

 

「今、主戦力になっている《KoB》は、ヒースクリフ曰く部隊を団長部隊と副団長部隊の2つに分けてるらしいから、アスーー副団長の方を俺が、ヒースクリフの方をシーヴェルスが、ってことでいいか?」

 

「あぁ、適任だと思う。君に嫌そうに戦ってもらっても、ただ勝率が下がるだけだからね」

 

 シーヴェルスが笑いながら言う。

 うっ、俺がヒースクリフのこと苦手っていうか、嫌いなことバレてるのか......

 まぁ、そのおかげで俺の意見が通りやすくなるのは嬉しいけど。

 それに、今のこの配置には他の理由もあるしな。

 

「ケルベロスの攻撃パターンは......もう頭に入ってるよな?」

 

「もちろん、だから話ながら戦闘見てるんだしね。ランダム性はどうにもならないけど」

 

 そこばっかりは気にしても仕方がないしな。

 

「で、こっちの攻撃方法は、それぞれの部隊に分かれたソロプレイヤーと」

 

「そうだね、まずは......部位破壊で首か尾かな」

 

 ケルベロスの攻撃で最も攻撃力が高いのは、三つ首による噛み付き攻撃。これを喰らうとこちらの少ないメンバーだと受けきれずに戦線が崩れる可能性がある。

 なので第一候補は首......なのだが、あそこは位置的にも強度的にも破壊は難しいと思う。

 そしてあの長い尾での範囲攻撃も脅威だ。しかりと攻撃を抑え込めば先ほどのようにHPが半分近くも削られる、だなんてことにはならないと思うが、あの攻撃が来るとほぼ避けられないので全員防御体勢に入ることを強いられる。

 そうなると、こちらの攻撃を一時的にとはいえすべて中断しなくてはならない。それは効率が悪すぎる。

 

「じゃあ、最後にーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

「団長! どうして団長が指揮を執らないんですか!? 今は全く余裕はないんですよ!?」

 

 アスナがヒースクリフに向かって叫ぶのが聞こえる。

 《KoB》と《DKB》、ソロプレイヤーの合同隊は2つに分かれているけど、コウキたちが戻ってくるまではケルベロスの攻撃を食い止めておかなくてはいけないので、2つの部隊はほとんど密着状態で戦線を維持している。

 ......まぁ、だからこそアスナが違う部隊のヒースクリフに文句が言えてしまうわけだけど。

 アスナー、よそ見危ないよー。言っても無駄だったけど。

 

「彼らがこの場を指揮したほうが勝率が高い。そう判断したからだ」

 

「でも!!」

 

「それに、コウキ君のことは私よりも君のほうがよく知っているのではないかね?」

 

「それは......」

 

 アスナが言葉に詰まる。

 アスナも何度かコウキとパーティーを組んでいるからこそ、コウキの戦略眼、判断力は嘘ではないということを知っている。

 だから言い返せなかったんだと思う。

 そもそも、私はなにも楽観視してコウキなら上手くいくなんて言ったわけじゃない。

 自慢じゃないけど(いや、やっぱり自慢かも)コウキのことはこの世界で誰よりも見てきた。

 そんな私だからこそ言うんだ。

 あんなにいつも頑張っているコウキが、ボス戦の指揮ぐらい(、、、)できないはずがない。

 だから今は。

 

「はぁああ!!」

 

 私に迫ってきた牙を《バーチカル》で弾く。

 今はコウキのために時間を稼ぐ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

「守備隊構え!! 攻撃隊、7秒後のケルベロスの攻撃が止まった瞬間を狙え!!」

 

 その後、俺とシーヴェルスは各々の持ち場へと移動し、それぞれ指示を出している。

 俺が指揮している隊はアスナが指揮していた隊と、俺、ミウともう一人のソロプレイヤー、レンで構成されている。

 レンは盾装備、片手剣使いの男性プレイヤーだ。

 歳はおそらく俺より上。髪はこの世界では珍しいことに金色だった。

 今は壁役と攻撃を状況次第で行ってくれている。

 そしてその実力はーー

 

「ぐっ......うわ重いー!! 誰か、スイッチ! スイッチー!!」

 

 ーーなんというか、ひどく親近感が湧く感じだった。

 いや、俺よりも全然強いんですけどね? それでもやはりこの場にいる他のメンバーと比べると少し見劣りすると言うか......

 まぁ、とにかく。

 

「レン、相手を弾いてスイッチしろ!! アスナは空いたスペースにーー」

 

「分かってるわよ!!」

 

 俺が指示を言い終わる前にアスナが叫ぶ。

 あの、ヒースクリフさん。アスナ、全然俺が指揮することに納得してないじゃん。やりにくい、やりにくいッスよ、これ。

 だって俺が指示する度にアスナこっち向いて睨んでくるんだもん。調子にのってんじゃねーぞ、ああん? 的な目で。

 まぁ、アスナにはこの際我慢してもらおう。悪いのは俺を指揮者にしたヒースクリフだ。

 

「っと、早くフォローしないと!!」

 

 俺たちの部隊はケルベロスの右側を担当しているわけだが、シーヴェルスの部隊が担当しているのは左側。つまりケルベロスの頭全てに対応することはできないわけだ。

 なので、今回俺たちは真ん中の頭の対処は諦めた。

 キリトクラスのプレイヤーが、せめてあと一人いてくれれば対処可能だったのだが、それはさすがに無い物ねだりが過ぎるだろう。

 とりあえず、一つの首しか相手していない側の部隊がケルベロスに攻撃を仕掛ける、そういった攻撃方法を取っているのだが、それでもやはりキツい。

 二つの首を相手しないといけない側は、どうしても戦線が崩れかける。なので今の俺のように崩れかけている所に指揮者もヘルプとして戦線に参加するのだ。

 今は一列に並んでいる盾役の左翼部が中央の首にも襲われ、戦線が崩れかけていた。

 

「っああぁぁぁぁあああ!!」

 

 スキルモーションに入る。

 使うスキルは《サード・リメイン》。俺の剣がケルベロスの真ん中の顔を右斜め上に斬り上げ、それとまったく同じ軌道で右下へ斬り下ろす。そこから腕を右に捻り、真上に向かって斬り上げる片手剣三連撃ソードスキルだ。

 このスキルの良いところは、片手剣スキルにしては珍しいことに麻痺の付随効果があることだ。

 そして俺の狙い通り、ケルベロスの真ん中の頭は麻痺して少しの間動けないようだ。

 ......うーん。ボスにこういったデバフが効くのはかなり珍しいことだし、ケルベロスはデバフが付きやすいらしいからラッキーって言えばラッキーなんだけど。

 

「グルアァァァァァアアア!!」

 

 ケルベロスの右側(、、)の頭が続けて盾役のプレイヤーを攻撃する。

 このように、麻痺するのは攻撃した頭だけのようだ。なので他の頭は行動可能なのだ。

 もちろん、ディレイなどもこれに当たる。首一つだけがディレイ、なんて面白いことも起こったりするわけだ。全く笑えないが。

 なぜなら、この仕様のせいで、俺たちは大きな攻撃がほとんどできないのだ。

 ダメージを与えようと思って、一つの頭をソードスキルで総攻撃なんかしたら他の頭からカウンターを受けてしまう。かといって2つの首に攻撃しようとしても2つの首が

 同時に俺たちに攻撃してくることはほとんどない。

 そうなるとケルベロスの全長の高さ的に、攻撃が届かなくなってしまうのだ。

 まったくもってやりづらい。

 俺は一度下がり、ケルベロスのHPと味方のHPを大まかに確認する。

 ケルベロスのHPは、残り1本と2割。

 俺とシーヴェルスで戦線を建て直してからすでに10分。それでも削れたのはたった3割。

 それに対して、味方のHPはほとんどが残り5~6割だ。

 ......これはキツいなぁ。まだ『作戦』を実行するにも早いし、せめて最後の1本を3割ほど削ってからでないと。

 少し読み間違えたかな。

 ......仕方ない、博打張るか。

 俺は一度剣をストレージにしまう。

 

「ミウ!!」

 

「了解!!」

 

 ミウに最小限の意思疏通で一時的に全体のフォローを任せて、ケルベロスに向かって走っていく俺。

 ケルベロスの真ん中の首は先程の俺の攻撃でまだ麻痺していたので、簡単に真下に潜り込めた。

 気付いてくれよ、皆!!

 俺の両手が、黄色いライトエフェクトを纏う。

 

「いっけぇぇぇぇぇえええ!!」

 

 俺はその両手をケルベロスの胸防具に叩きつけた。

 《鎧透破》。防具の上から装備者本体にダメージを与える《体術》スキル。

 運が良ければ装備破壊もできるのだが、今回はそうはいかなかったらしい。

 それでも。

 

「グル......ガァァァァアァアア!?」

 

 そのぶん、ダメージは与えられた。

 ケルベロスが苦悶の叫びのようなものを上げる。

 予想通り、金色の防具で包まれた部分はダメージが多いらしい。

 ケルベロス最大の弱点を付いたせいか、ケルベロスのタゲが完全に俺に向く。

 今だ!!

 

「攻撃隊!! 総員突撃!!」

 

 シーヴェルスの声が響く。

 それと同時にいくつもの斬撃音、打撃音が聞こえ始めた。

 そう、これが俺の狙いだ。

 先ほどミウとヨウトが行ったスキルによるタゲ誘導と同じで、ケルベロスのタゲを誰かーー今回は俺ーーが取り、その間に他のプレイヤーが攻撃する。

 これはこの世界での定石とも言えるような戦闘方法なのだが、定石故にはまったときの効果は絶大だ。

 防具の下が弱点かどうかは少し賭けだったのだが、上手くいってよかった。

 皆の攻撃のお陰でケルベロスのHPも残り1本を切った。先ほどまでの停滞ぶりが嘘のようだ。

 さぁ、あとは。

 ケルベロスの足元からどうやって抜け出すかだ。

 

「うわっ!!」

 

 右からケルベロスの足が襲ってくるのを地面を転がってかわす。

 さらに上から降ってきた足を後方に跳び、これもかわす。

 まさか、ここまでタゲを取ることになるとはなるとは......

 このタゲ誘導には、どうしても残る欠点がある。

 タゲを取ったプレイヤーに攻撃が集中すること、そして今回の場合は俺がケルベロスの大ダメージを与えるために剣を手放さないといけないということだ。

 まぁ、簡単に言えば、俺の死亡確率が非常に跳ね上がる。

 それでも他のメンバーが攻撃すれば、少しずつでもそっちにタゲが向いて、いくらかここから抜け出しやすくなると思ったんだけどな。

 どれだけ時間が経っても一向にタゲが移ることはない。もしかしたら自分の体の下にいるプレイヤーに無条件でタゲが向くようになっているのかもしれない。

 これはマズいか......

 再び迫ってきた足を身を捻ってかわすが、次の瞬間背後から別の足が迫ってくる。

 四方八方を常に囲まれているというのはいうのは動きにくすぎる。

 

「くっそ!!」

 

 迫ってきた足を《閃打》でなんとかいなす、が。

 っ、マジかよ!?

 スキルを当てていなしたはずだ。そのはずなのに俺のHPは4割ほど削られてしまった。

 弱いスキルとはいえ、スキルで流してもこんなに喰らうのかよ。

 さっきの作戦タイムにHPを回復してなかったら本当にヤバかった。

 俺が戦いている間にも、次の足が迫ってくる。

 俺は一瞬のスキルディレイで反応が遅れてしまう。

 マズ......

 こうなったらもう身を固めるしか、迫ってくる足を喰らう覚悟を決めた次の瞬間。

 

「コウキ!!」

 

 右腕が誰かに引っ張られる。

 そして俺がもといた場所を、ケルベロスの足が猛然と通過していった。

 そのまま俺は引っ張られる形でケルベロスの体の下から抜け出した。

 俺は改めて腕を引っ張って助けてくれた恩人を見る。

 

「......今回は助けられてばっかだな。ありがとう」

 

「まったくだよ。ほんと、無茶はこれぐらいにしてほしいんだけど」

 

「ミウもよくやってるから、そのお返し」

 

 俺の言葉を聞いて、ミウが渋そうな顔をする。思い当たる節があったのだろう。

 それに今回は俺ごときがいくら無茶しても、勝てるかどうか怪しいので勘弁してもらうしかない。

 でも、これだけは言っておかなくてはならない。

 

「なぁ、ミウ」

 

「なに?」

 

 ミウがケルベロスを睨み付けながら言うのに対して、俺は素早くウィンドウを操作して再び剣を取り出す。

 

 

 

「これからもう何回か無茶するけど、許してな?」

 

 

 

 言った瞬間、世界が凍りつくというのを肌で実感した俺だった。

 ......これは、生きて帰ってもあとが大変そうだなぁ。

 

 




はい、中編でした。
コウキくんはピンチには強いのですが、基本スペックが低めなのでどうしても簡単に死にかけますね。
しかも本人がミウを大事にするあまり自分の命の価値が相対的に下がっていくという謎の反応が起こってしまっているという......

さて、次回は後編、決着です。
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