力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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30話目です!!

うわー......また日にちが空きましたね......本当に申し訳ありません。
最近少し忙しくて更新が遅れぎみですが、間が空くことはあっても更新がないことはありませんのでご安心を。

そして今回、今回もまたえらい長いです。なぜこうなった......

それではどうぞ!!


30話目 決着と少女のやさしさ

「とりあえず、コウキの作戦は分かった」

 

「そ、そうですか......良かった」

 

 その後、俺たちは隊の後方まで戻ってきていた。

 ミウに作戦の概要を言えと脅されてーーゴホンゴホン。頼まれて連れてこられたのだ。

 やっぱりミウは、というより女子は怒らせたら怖いっす。皆も気を付けよう!!

 

「話逸らさないの!」

 

「ごめんなさい」

 

 しかも最近はさらっと心まで読んでくるので本当に怖い。

 

「で、コウキが今言った作戦は勝つためにはどうしても必要なんだよね?」

 

「......どうだろう? 俺が考えうる限りではこれが一番勝率が高いと思うけど、他の人が考えたら他の安全策が出てくるかも」

 

「......コウキはなんでいつもそこで嘘でも良いから自信たっぷりに言えないかなぁ」

 

 いや、つい性分で......

 俺の言葉を聞いてミウはなにか考え込む。

 うーん、どっか穴あったかな? そりゃ、成功確率100%とは言わないけど、一応最善策なんだけどな。

 ミウは2~3秒眉間にしわを寄せていたが、ため息をつくと同時に口を開く。

 

「......まぁ、コウキだから仕方ないよね。分かった」

 

 コウキでごめんなさい。

 でも良かった。ミウは色眼鏡なしでも《聖人》なんて呼ばれるほど優しいから、この作戦にも反対してくるかも、なんて考えたが、どうやら大丈夫なようだ。

 さて、話し合いも終わったし、早く戦線に戻らないとーー

 

「でも」

 

 戦線に戻ろうと走りだし始めた俺にミウが声をかけてくる。

 

「でも、コウキがする役、私にもやらせて」

 

「はぁ!?」

 

 俺がする役目を?

 そんなこと......

 

「やらせられるわけないだろ!? 大体、ミウには他に役目が......!」

 

「さっき言ってたケルベロスが怯んだ隙に攻撃ってやつ? 他にもいくつか聞いたけど、私ってあまり危険な所には割り振られてないよね?」

 

「それは......」

 

「皆がそれこそ死ぬ気で頑張ってるのに、私だけ安全地帯で見物なんて、絶対にできない」

 

 ミウが睨み付けるようにして言ってくる。

 俺だって、いや、俺だからこそミウの実力は一番知っているし、誰よりも信頼しているという自負もある。

 だが、それでも絶対はないのだ。それを俺は、痛いほどに知っている。

 もしも万が一なんてことがあったら......

 するとミウが不意に首を振る。

 

「ううん、違う。そうじゃない。これじゃあ前までと同じだ」

 

 ミウはまるで自分に言い聞かせるように一度言葉を切ると、再び俺をまっすぐ見据えてくる。

 

「コウキ、私前に言ったよね?」

 

 さらにぐいっと前に詰め寄ってきた。

 甘えるだとか、スキンシップだとか、そういうもののためではなく、俺と正面から相対するために。

 

 

 

「コウキと一緒にいたい、コウキと先を作ってきたいって。だから私は、リスクだってコウキと一緒に背負いたい......ダメ、かな?」

 

 

 

「う、くっ......あーもうっ! 分かったよ! 俺の負けです!!」

 

 なんでこう、ミウは人の目をまっすぐに見て、こんなことが言えるのだろうか?

 ......こんな風に言われて、断れるわけないじゃんか。まったく、これだからミウは......調子が狂うというかなんと言うか。

 仕方ない。腹を括ろう。

 実際問題、俺が務める役目はミウと一緒に行った方が成功確率は上がる。

 いざとなれば、俺が体を張るなりなんなりしよう。これだけは絶対だ。

 ......それにまぁ、さっきの言葉はちょっと嬉しかったしな。

 徐々にミウに感化されてるような気がすることに小さくため息をつきながら、ミウに耳を塞ぐようジェスチャーする。

 作戦第2段階、スタートだ。

 

「ケルベロス右辺の部隊!! 今すぐ戦線を下げ、後方まで撤退しろ!!」

 

 俺の指示に右辺の部隊ーーつまり俺が指揮をしている部隊ーーのプレイヤーたちが、一様に驚いた顔になる。

 それもそのはずだ。こんなに人数が少ない状態で戦線を下げなんかしたら、ケルベロスの攻撃でシーヴェルスの部隊である左辺の部隊が崩壊し、結果全体が崩壊してしまう。

 それを分かっているからこそ。

 

「そんなこと出来る訳ないでしょ!? そんなことしてなんになるのよ!?」

 

 ......アスナさんは本気で睨んでくるんだろうし。ていうか怖い、怖いよ。

 アスナの叫び声に続いて多くの非難の声が俺に向けて飛ばされる。

 だが、今はアスナたちの怒りに付き合っている時間はない。

 俺は再び息を大きく吸う。

 

「これは指揮官命令だ!! お前たちのリーダー、ヒースクリフやディアベルの意見と同義だ!! 少しでも不安感、恐怖心がある者はこの場から逃げてもらって構わない!!」

 

 俺の続きの言葉を聞いて、非難の声は一気に収まっていく。

 前にも言ったが、ここまでくるプレイヤーというのは、多かれ少なかれ我が、つまりプライドが高い。

 そんな彼らが『ただ』のプレイヤーである俺に、ここまで言われてしまっては逃げられるわけもない。

 雑魚が戯れ言を......等と言われてしまってはおしまいだったが、各リーダーの名前を出しているから無視もできない。

 ......我ながら腹黒い誘導だなぁ、とかなんとか思わなくもないが、今は本当に手段を選んでいる場合ではないのだ。

 こちらは人数も少ないのだから、長期戦になれば、間違いなく押し負ける。

 そんな俺の考えが伝わったわけではないだろうが、右辺にいたプレイヤーたちは後方ーーこちらまで撤退してきてくれた。

 

「いいか皆!! 俺が合図を出したら全力で元いた戦線まで戻ってくれ!!」

 

「ちょっと、それじゃあなんのためにここまでーーまさかっ!!」

 

 アスナがケルベロスの方を振り向いた瞬間には、ケルベロスはすでにその長い尾を引き絞るような姿勢になっていた。

 しかもアスナは俺の狙いに気付いてくれたようだ。さすがは副団長様。俺なんかの考えはお見通しか。

 

「今だ、皆前に進めぇぇぇええ!!」

 

 俺の声と同時、ケルベロスが尾を動かし始める。

 やっぱり、尾での範囲攻撃できたか!!

 尾での範囲攻撃はケルベロスがバーサークモードに入ったとき一回きりで、今まで撃ってこなかった。

 いくらなんでもバーサークモードに入った瞬間にしかない攻撃、ということはないだろうから、あの時と今までの相違点を探してみた結果、分かったのはプレイヤーの配置だ。

 あの時はプレイヤーも多く、部屋全体にプレイヤーが散らばっていた。つまり、後方などにもプレイヤーがいたわけだ。

 しかし、今はプレイヤーが少なく、仕方なくプレイヤー全員を前線に詰めていた。

 だからあの範囲攻撃はこなかった。

 そこで俺は隊を後方に下げ、尾での攻撃を誘導したのだ。

 これなら今のように尾での攻撃が行われれば想定通りに俺たちは動くことが出来るし、攻撃が行わなければ俺たちは後方で回復して、これからの戦法をシーヴェルスの隊とスイッチしながら回復、にすればいいだけのこと。

 そしてケルベロスは攻撃を選んだ。

 あの攻撃の安全圏内は俺たちが実証済みだ。だからこそアスナたちをたちを前方へ進めたのだ。

 あとは目標である尾の部位破壊をミウと行うだけだ。

 狙うのはもちろん《武器取落》による尾の切断。しかもミウがタイミングを取ってくれるのだから成功率も上がる。

 ミウが抜けたことで攻撃隊の攻撃力は下がってしまったのだから、ここは絶対に成功させないと!

 

「じゃあ、せーのっ!!」

 

 ミウの掛け声と共に跳躍し、ソードスキルのモーションに入る。

 発動するスキルは発動が早い《スラント》。

 本当はもう少し威力がほしいのだが、ミウと2人で斬りつければ部位破壊はできるはずだ。

 ものすごし勢いで迫ってくる尾に合わせるように、俺たち2人の剣を加速させていく。

 タイミングは完璧、これならーー

 

「ダメだ!! 防御するんだ!!」

 

 瞬間、シーヴェルスの声が響いた。

 それとほぼ同時に、ケルベロスの尾が止まった。

 フェイント......!?

 タイミングをずらされたため、俺たちのスキルはそのまま空振りに終わる。

 視界の端に映ったケルベロスが気のせいかニヤリと笑った気がした。

 そして、スキル発動により硬直している俺たちを狙ってケルベロスの尾が再び動き出す。

 まずい、ミウだけでも......!!

 ミウを掴むなり押すなりして安全な場所に移動させようとするが、スキルディレイのため、一瞬体が動かない。

 目の前まで尾が迫ってくる。だがもう回避は間に合わない。

 悔しみの声を上げそうになった瞬間。

 

「よいっしょぉぉぉぉおおおお!!」

 

 ガァァァアアアン!! 目の前ですさまじく大きな鈍い音が鳴り響いた。

 気が付けば、俺たちと尾の間にはプレイヤーが1人滑り込み、尾を盾で弾いていた。

 盾防御スキル《バーストシールド》。スキルディレイが5秒と恐ろしいほど長い上に、盾で防いだぶんのダメージがそのまま装備者に通ってしまうというデメリットが半端ではないスキルだ。

 だがそのぶんメリットもあり、それは相手の攻撃を一撃だけ必ずパリィできる。

 団体戦であるボス戦ならではのスキルではあるが、ケルベロスのような異常に攻撃力が高いmob相手に使うには自殺覚悟なスキルだろう。

 俺とミウ、そしてそのプレイヤーが地面に着地する。

 この盾に片手剣。それに珍しい金髪は......

 

「レン!?」

 

「へへっ、こんな危ない橋渡るんだったら一声かけてくれよ」

 

 レンがこちらを見てニヤリと笑う。

 そこには、先ほどまでの慌てようはなんだったのかというほどに逞しい姿があった。

 レン......あんな尾を一人で受けとめるなんて相当の覚悟が必要だったはずなのに。

 俺がレンに感謝の念を覚えている間にも、ケルベロスは尾を引き、再び俺たちを攻撃する体勢に入っている。

 

「お前ら、頼むぞ!!」

 

「......サンキューな、レン......ミウ!!」

 

「うん、今度こそ完全に合わせる!!」

 

 ミウの掛け声と共に、ケルベロスの尾が三度俺たちに迫ってくる。

 

「「はぁぁぁっぁぁあああ!!」」

 

 俺とミウの声が重なる。

 1度チャンスを不意にした上に、もう1度チャンスを貰えたんだ。

 同じ失敗を、誰よりも弱い俺がするわけにはいかない!!

 俺たちも再び跳躍し、尾に向けて《スラント》を発動する。

 

「当たれぇぇぇぇええええ!!!!」

 

 迫ってくる尾に、ライトエフェクトを纏った2本の剣が相対するようするように向かっていく。

 そしてーー一瞬の交錯。次の瞬間。

 

「ぐはっ!!」

 

「うぐっ......!」

 

 俺たち2人は地面を転がっていた。

 なっ......失敗したのか!? まずい、早く立たないと!!

 体を起こそうとするが、何かに縛り付けられたかのように体が動かない。

 どうやら剣が尾にぶつかった衝撃で大ダメージをもらい、ダメージディレイが発生したようだ。

 ミウを見ても俺と同じような状態だ。

 早くしないと、今攻撃されたら......!!

 恐怖のせいか、時間の流れが恐ろしく遅く感じる。

 どうにもならないのと分かっているのに、無理矢理にでも体を動かそうとしたその時。

 

 

 

 ボトッ......

 

 

 

 目の前に黒く長い何かが落ちてきた。

 それが先ほどの尾だと分かった瞬間には、尾はポリゴンになって消えていった。

 その時になって、ようやく時間の流れが通常に戻る。

 

「グッガ......ガァァッァァッァアアアアア!!??」

 

 ケルベロスが自分の一部を切断された痛みを堪えるように叫び声を上げた。

 尾の切断に成功したという事実を確認した瞬間叫び出しそうになったが、それをなんとか堪える。

 

「皆、ケルベロスが怯んでいる間に攻撃しろ!! 反撃してき次第後方に撤退!!」

 

 これが尾を斬る本当の狙い。

 さっきまで皆、なんとか隙を見てだましだまし回復をしていたが、途中からはほとんどのプレイヤーのHPがイエローゾーンに突入していた。

 しかし後方に下がればあの範囲攻撃が来ることが予想されていたから、尾を切断するのをずっと狙っていたわけだ。

 そして、理由はもう一つある。

 

「アスナ! 今送ったメッセに今後の作戦が全部書いてあるから、撤退したあとに指示を頼む!!」

 

 それがこれだ。

 

 これからはもう、俺が指示をする余裕はなくなってくる。

 もともと無理もあったのだ。ヒースクリフが戦いながら指揮を執れないように、俺ならば余計に無理だ。

 だから多くのプレイヤーには後方に下がってもらい、作戦の伝達をしたかったのだ。

 だが。

 

「でも、ケルベロスはどうするのよ!?」

 

 結局はそういう話になる。

 ケルベロスは尾を斬られて範囲攻撃ができなくなっただけで、移動も出来るし、攻撃も出来るのだ。

 そんなケルベロスを放っておいて作戦会議など、できるはずもない

 ......普通は。

 

「大丈夫だ! 俺たち7人で1分抑える!!」

 

 嬉しいことに、今この場には普通ではない実力者が数多くいる。

 ミウ、ヨウト、キリト、ヒースクリフ、シーヴェルス、先ほどケルベロスの攻撃を単独で防いでみせたレンに、おまけ程度だが俺。

 この7人がいれば、ケルベロス相手でも1分ぐらいならなんとかなるだろう。

 俺の言葉を聞いて、まだ不満はあったようだが、とりあえずアスナは引き下がってくれ、そのまま後方に撤退してくれた。

 それと同時に、ケルベロスが前線に出ていく俺たち7人に襲いかかってくる。

 ーーさて、多分人生で最も長い1分を頑張るか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Asuna

 

 ーーコウキ君はよく分からない。

 これが私がコウキ君に初めに抱いた感想だ。

 普段はナヨナヨしてて物腰が柔らかいような優柔不断のような(つまりヘタレ?)感じだと思ったら、戦闘やいざとなれば大胆不敵な態度や行動を取るようになる。

 私からすればあの黒ずくめさんもよくーーいや、全く分からないけど。

 あの人に至っては普段もそうだけど、戦闘中さえもなに考えているかいまいち分からないし、頼りないかと思えば急にドキッとするようなこと言ってくるし!! 本当なんなのよあの人は!!

 ーー閑話休題。

 とにかく、コウキ君はよく分からない。

 それは今回のボス戦もそうだ。

 攻略戦前になにか騒いでいると思ったら、戦闘では何故か途中から団長の代わりに指揮を執っていたこともそうだ。

 しかも、コウキ君が実行しているいくつかの作戦、あれはどう考えても失策に部類されるものばかりだ。

 そもそも、作戦というのは突き詰めれば自分達の危険をどれだけ潰しつつ、相手にダメージを与えられるか、そこに辿り着く。

 だからこそ、『戦い』を『作る』なのだ。

 なのにコウキ君が考える作戦というのは、相手には大ダメージを与えることには成功していても、その代わりに自分にそれ以上のリスクが降りかかっている。

 しかもこの『自分』というのは攻略メンバーのことではなく、文字どおりコウキ君一人にだ。

 先ほどのケルベロスの下に潜り込むというのは顕著にそれが出ていたし、今私たちが後方に下がって自分達だけで戦線を支えているのもそれだ。

 別に、今あの前線にコウキ君まで残る必要はあまりない。他の6人は実力者ぞろいだから戦線を支えるためにはどうしても必要かもしれないが、コウキ君はそうではない。

 せいぜいが『猫の手』程度の力しかない。

 他のメンバーからすればありがたいかもしれないが、コウキ君本人からすればいくらなんでも荷が重すぎる。

 なら、無理に前線で戦わずとも下がってくればいい。他人のことなんて放っておいて、この後方まで。

 普段なら仲間を見捨てるなんて下の下以下の行動だが、今のコウキ君の立場ではそれも仕方がない。

 なのに、コウキ君はその場に残ることを選んだ。

 ーームカつく。

 自分の命を賭けるだけならまだしも、今のコウキ君の行動は自ら命を捨てに行っているのと同義だ。

 そんな自分の命なんてどうでもいいと言わんばかりの行動は、少し前の私自身を見ているようですごく苛立つ。

 私が先ほどからよく怒鳴っているのはそれもーーといってもコウキ君が指揮を執ることが気にくわないというのがほとんどだがーー理由の一つだ。

 だから、始めの方は作戦が一つでも上手くいかなければいかなければ、それを大義名分にして団長に指揮を代わってもらうよう進言するつもりだった。

 なのに......

 他の人が指揮をすれば間違いなく失敗するであろう作戦を、コウキ君は成功させ続けた。

 それもありえないような方法で。考え付かないような手段で。

 これでは団長に進言するどころか、他のプレイヤーからの支持すら出てくる。

 そしてそんな状況で彼は私にメッセで指令書を送ってきた。

 それは詰まるところ、コウキ君の言う作戦も終盤を迎えている、ということだろう。

 ......ここまできたら、ついていくしかないじゃない。まこと遺憾ながら。

 こうなったら、ボス戦後に散々文句を言ってやる。

 私はそんな苛立ちを指に込めながらウィンドウを操作してメッセを開く。

 そこには。

 ......なによ、この作戦は。

 そこには、私の血管を切るつもりか! と怒鳴りたくなるような内容が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 

「はぁ、はぁ......」

 

 この世界では酸素なんて必要ないはずなのに、これ以上ないぐらいに呼吸が辛い。徐々にだが思考も霞んできた。そのうち自分が今何をしているかも分からなくなりそうだ。

 アスナたち隊を下がらせてもうすぐ50秒。

 ここにいる7人には最初集まったときに『最後』を伝えてあるからあと10秒ちょっとで『詰み』にできる。

 だが。

 

「まさか......1分が、ここまで、長いとは......」

 

 俺は小さく笑う。

 別に、1分という長さを甘く見ていた訳ではない。

 それどころか相当上手く立ち回らないと死ぬだろう、そのぐらいのことは考えていた。

 それでも......

 

「グルアァァァァ!!」

 

 ケルベロスの頭の一つが足を止めていた俺に向かって頭突きしてくる。

 タイミングもスピードもこれはかわせない。

 

「くそっ!?」

 

 俺はその攻撃に対して今日何度目かももう分からない受け流しを実行する。

 こうも何回も受け流していると、受け流しの最適なタイミング、最適な角度、最適な力加減というものが分かってきた。

 そのお陰もあって受け流すときにもらうダメージもHPの1割にまで減らすことができた。

 もしかしたら、前にキリトが言っていた『スイッチ』とやらが入っているのかもしれない。

 この集中力が続けば最後までいける、そう思った瞬間だった。

 

 

 

 バキン! そんな音をあげて、俺が右手に持つ愛用の剣が半ばからひび割れ、折れた。

 

 

 

 それを好機と思ったのか、ケルベロスは続けて俺に爪で攻撃してくる。

 

「ま......だまだぁ!!」

 

 攻撃が着弾する寸前に体術スキル《空閃》を使用し、宙に舞う。その直後、俺が先ほどまでいた場所をケルベロスの巨大な爪が通過した。

 このスキルの本来の用途は地対空で、空中にいる相手に向かって跳躍して裏拳を叩き込む、といったものだが、使いようによっては今のように緊急回避にも使える。

 とにかく、着地したらすぐに体勢を......!

 だが、ケルベロスはまだ俺を諦めなかった。

 ケルベロスは宙にいる俺を食らうかの如く、今度は牙で串刺しにするように攻撃してくる。

 今の俺は武器をなにも持っていない上に一瞬のスキルディレイのせいでですぐには動けない。

 このままでは攻撃が直撃する、が。

 

「フン!!」

 

「とりゃぁぁあ!!」

 

 俺に向かってくるケルベロスの攻撃の向きをずらすように、レンとヒースクリフが盾をケルベロスの頭に叩きつけた。

 そのまま俺は2人のお陰で無事に着地し、辺りを見回せば、ミウとヨウトは2人同時に攻撃することで左足の攻撃をパリィして、キリトとシーヴェルスは各々でケルベロスの動きを封じるように足を攻撃している。

 ヒースクリフでも6割、キリトですら残り5割を切っている。もうこれ以上はもたない。

 残り2割の俺はともかくとしても、残り5割以下ならケルベロス直撃一発でHPが全損する可能性はある。

 まだかアスナ!?

 

「きゃっ!?」

 

「ぐはっ!?」

 

「ミウ、ヨウト!!」

 

 声のした方を見ると、2人は地面に倒れこんでいた。

 スタンか!!

 ヨウトはすぐさま起き上がったが、ミウは起き上がる気配がない。

 そしてケルベロスは2人をそのまま攻撃しようと足を振り上げている。

 

「させるかっ!!」

 

 俺は着地した勢いを体を傾けることでそのまま走る力に変え、俺から最も近い足に向かって接近し《背撃》を叩き込むことでケルベロスを一瞬ディレイさせる。

 

「ヨウト、《ムーンサルト》!!」

 

「了解!!」

 

 攻撃を中断させることには成功したが、念には念をということでヨウトの《ムーンサルト》で一時的にタゲをヨウトに集めてもらう。

 その間にキリトたちがケルベロスに攻撃をしかけ、ヘイト値を調整する。ミウもスタンから回復できたようだ。

 それを確認した瞬間、待ちに待った電子音が俺の頭のなかに響く。

 アスナからの合図だ!!

 

「皆、来たぞ!! 各自展開!! キリト、頼んだ!!」

 

「「おう!!」」

 

 俺の掛け声と共に、7人が同時に動き出す。

 ミウはケルベロスの左の頭の、ヨウトとレンは右の頭の、ヒースクリフは右足の、シーヴェルスは左足の前にそれぞれつく。

 そしてキリトは俺の声の直後、俺と共にケルベロスの真ん中の頭の真下に潜り込んでいた。

 

「はぁっ!!」

 

 俺とキリトは同時に三度の斬撃を生み出す《サード・リメイン》を真ん中の頭に叩き込み、真ん中の頭のみを麻痺させる。

 本当は体に当ててもらって体全体を麻痺させたいのだが、どうも体の方は頭とは違いデバフ耐性が高いらしく、ディレイならともかく、麻痺させられないのだ。

 2人で攻撃したのは少しでも麻痺の確率を上げるため。

 足止めの1分間でこの戦法を取らなかったのは、先ほどの俺のように俺とキリトが集中攻撃を受けることを避けるためだ。

 だが、今このタイミングなら、俺とキリトが集中攻撃を受けることもないし、真ん中の頭が一時的にでも行動不能になったことで、邪魔なく足止めできる。

 そう、ここからが『詰め』だ。

 

「全軍、進めぇ!!」

 

 後方からアスナの声が響く。

 それと同時に後方で控えていた本体が雄叫びを上げながらケルベロスに向かって走っていく。

 これが俺が先ほどアスナに送ったメッセに書いた作戦内容。

 俺たち7人でケルベロスの動きを封じている間に全員で攻撃しろ、というものだ。

 1度本隊を下がらせたのは本隊メンバーのHPを回復させるため。

 そしてケルベロスの行動アルゴリズムを一人一人に把握してもらうためだ。

 この二つがあるのとないのとでは、攻撃の効率が格段に変わってくる。

 そして、攻撃本体は迷わずにケルベロスの真ん中の頭の下を通って、体の下に潜り込んだ。

 俺たちが足止めしているからといって、それでケルベロスの動きがすべて封じられるわけではない。

 なのでケルベロスを倒すにはもう速攻で倒すしかないのだ。

 そうなるとケルベロスの弱点である、金の防具の下を攻撃するしかない。

 だからこそ、本隊をケルベロスの下に潜り込ませた。

 そして。

 

「はぁぁっぁあああ!!」

 

 アスナの声が響く。

 あの金の防具は突攻撃に弱いことがバーサークモード前に分かっている。

 そうなれば、我らが副団長様の出番だ。

 アスナの声の直後、ソードスキルのライトエフェクトが無数に発生しては、斬撃音と共に消えていく。

 

「グルッ......ガァァァァアアア!!!」

 

「おおっと!!」

 

「させないよ!!」

 

 ケルベロスが苦しみ、自分の牙や足を使って自分の下にいるプレイヤーたちを追い出そうとしてしているが、それを俺たち7人で邪魔するように攻撃し妨害する。

 そして何度か、いや何十度か金属同士がぶつかるような音が聞こえた後。

 ガァァァァァァンッッッ!!! という鈍い音を上げて、ケルベロスの金の胸防具が砕け散った。

 それを見るや、攻撃本隊は先ほど以上に攻撃を激化させていく。

 胸防具の上から攻撃していたときは、本当に極僅かずつにしか減っていなかったHPバー。それが嘘だったかのようにケルベロスのHPは減っていく。

 そしてケルベロスのHPがついに残り数ドットにまで減った瞬間、ケルベロスの目が再びいやらしく歪んだ。

 

 

 

「ガァァァァァァアア!!!」

 

 

 

 そしてケルベロスは、自分の4本の足を俺たちの妨害など気にせずにがむしゃらに床に叩きつけた。

 すると。

 

「なんだこれは!?」

 

「体が......!」

 

 ケルベロスに攻撃していたプレイヤー、足止めをしていたプレイヤー全員がその場にへたりこんでしまった。

 ......なるほど、これが奥の手か。

 床を叩きつけて揺らすことで、近くにいたプレイヤーたちをすべてダウンさせる、か。

 これは、別に今の人数ではなくてもボス戦において最後の一撃はプレイヤーのほとんどが前線に詰める。そんな状況でこんなことをされてしまってはたまったものではない。

 自分の近くにいたプレイヤーたちが跪いているのが気分がいいのか、ケルベロスは雄叫びを上げると同時に、自分の三つの首を振り上げた。

 このスタンも、どうやら2秒や3秒で解けるような軽いものではないらしい。

 このままでは俺たちはなす術もなく全滅する。

 ここまでギリギリではあったが上手くいっていたのに......参った。

 

「本当に参ったよ、ケルベロス」

 

 ケルベロスは、非情にもその巨大で強大な首を俺たちに向けて振り下ろす。

 そして、ジュシュッ!! という何かが千切れるような音と青い光が俺まで届いた。

 

 

 

「ーーこんなに最後までギリギリの選択を持ちかけられるなんてな」

 

 

 

 ......結局、ここでもヒーローは俺じゃなかったってことだ。ちくしょう。

 ケルベロスの首と胸、それぞれを貫いたミウとアスナがケルベロスから離れる。

 それと同時に、ケルベロスは自分が貫かれたのが理解できていないかのように、無言のまま大量のポリゴンをばらまいて消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはーっ! 生き返った!!」

 

 ポーションを飲み干し、上げた俺の声がボス部屋に響く。

 ケルベロスを倒してから2~3分経ったが、張り詰めていた空気が一気に切れたせいか、まだ誰も次の層に行こうと言い出すプレイヤーはいなかった。

 ほとんどのプレイヤーが俺と同じように座り込んでいる。

 もしかしたら俺やシーヴェルスといったいつもとは他の人物の指揮のせいでストレスやら疲れが溜まってしまったのかもしれない......ごめんなさい。

 それにしても、なんでポーションってほとんどフルーツ味なんだろ? 上の層に行けば焼き肉風味とか出てくるのかな......って、それってどこのポ○チだよ。

 

「コウキっ!!」

 

 張り詰めていた空気の後遺症か、纏まらない思考で、ものすごくどうでもいいようなことを考えていると、今回のLA(ラストアタック)を取った天子さま(ミウ)が隣に座ってきた。

 ......いやいや、天子さまはないだろ俺。どんだけ疲れてたらそんな発想になるんだよ。せめてヒーローぐらいだろおい。

 

「いぇーい!!」

 

「いぇーい!!」

 

 普段は絶対にしないであろう掛け声を、絶対にならないようなテンションで言ってミウとハイタッチもどきをする。

 ......俺、本当に疲れてんのかなてんのかな? 帰ったら即行で寝よう。いぇーい!! はないだろう、俺のキャラ的に。

 あぁ、それにしてもミウの笑顔は本当にいいなぁ、なんかエネルギーもらえる。

 

「コウキさん」

 

「うん? ......なんだアスナか。おつかれ。っていうか、さん付けは止めろよ」

 

「礼儀ですから」

 

「あぁ、そう......」

 

 アスナがそう言うんだったら仕方ないと思いつつも、俺は少しため息混じりにアスナに返す。

 別に、ため口でカモンとか、そんなフレンドリーな意味合いはないのだが、なんかアスナにさん付けで呼ばれると、こう......ムズムズするのだ。今更急にミウに敬語で話されたら違和感しかないみたいな感じだ。

 

「で、何のよう? このようにもう心身ともにボロボロなので手短にしてほしいんだけど?」

 

 言った後に気がついた。

 しまった、あまりに疲れているせいで少しキツい物言いになってしまった。俺は何様だっての。

 だが、アスナはそんなこと全く気にしていないようで、そのまま話を続ける。

 

「えぇ、なら単刀直入に聞きます......あなた、このボス戦もどこまで読んでいたんですか?」

 

「最初から最後までだけど?」

 

 そもそも、相手がどう出てくるか?

 こちらはそれに対応できるのか?

 戦力は?

 相性は?

 それらを把握し、可能な限りの状況パターンに対応できるよう考えなくてはならない。

 だからこそ、『戦い』を『作る』なのだ。......まぁ、俺はそこまでできなかったけど。

 だがそんなこと、俺よりもギルドの副団長をしているアスナの方がよく知っていると思うのだが......

 

「......誰もが完全に負けたと、死ぬ未来を想像していたあの状況で全て読みきったと? いえ、それ以前に、あの場だけでは情報もなかった。読みきるなんて不可能です」

 

「誰がどう考えたなんてことは知らないけど、別に不可能じゃないだろ? 情報もあったし」

 

 ていうか、アスナはなんでこんなに食らいついてくるんだろう? 今後のための勉強とかだろうか? ボス戦後なのにすごいな......さすがは攻略の鬼。俺も見習わなくては。

 あとミウさん。別に無視しているわけでもないのでその背筋が冷たくなる不思議な魔法止めてもらえませんか? あと背中つねるのも。

 

「まぁ、全部は言わないけど最後の方なら......アスナ、俺メッセでなんて送ったっけ?」

 

「......1分後の総攻撃と、胸防具破壊後の私の後退です」

 

「まず、攻撃本隊の後退、総攻撃の流れは分かるだろ?」

 

「えぇ、後退はケルベロスのアルゴリズムを再認識するためと、各々のHP回復。それに作戦を細かく伝えるためですよね?」

 

「あぁ、じゃああとはアスナの離脱だ」

 

「そこです。ケルベロスのあの最後の攻撃、あれだけはどうやっても予測不可能です」

 

 確かにそうだ。あの最後の攻撃は事前情報が全くなかった。アスナが先ほど言ったように情報なしでは予測はできない。

 だが。

 

「そもそも俺は、予測なんてしてないよ。したのは予想と想定、それと対応策の考案」

 

「え......?」

 

「いや、正しくは予測もしたけど、予想と想定も織り混ぜた、か」

 

 俺の言葉を聞いてアスナが怪訝そうに顔をしかめる。

 俺はそんなアスナを気にせずに続ける。

 

「予測っていうのは、なにかの情報をもとに未来を考えることだ。それに対して予想や想定っていうのは情報はなくても『例えばこう』っていう曖昧な情報ーー想像でもいいかーーから未来を考えることなんだよ......まぁ、ただの言葉遊びみたいなもんだけどさ」

 

「でも、そんなの......」

 

「あぁ、予測と違って選択肢は増えるよ? だからーー」

 

 

 

「ーー全部潰した。ケルベロスがしうる行動全ての可能性を。逃げ道のないように」

 

 

 

 アスナが今度は驚いたような顔になる。ここまでアスナが表情を変えるというのもここ最近では珍しいかもしれない。

 前はミウに抱きつかれてよく慌ててたのになぁ......って、話がまた逸れかけた。

 

「だから、ケルベロスに何かしらの奥の手があると想定して、アスナを下がらせて、尚且つミウにも上空にスキルで跳んでもらって止め役をしてもらったって訳。おかげで常に難易度Max状態だったけどな」

 

 俺もつい苦笑いする。

 いや、今回は本当にキツかった。アスナに言ったこともそうだが、まさに机上と実践の違いを思い知らされた。

 例えば、ミウに俺の作戦を言うのは想定通りだったから良かった。これがなければ最後のミウとアスナのダメ押しができないからだ。

 でも、まさか尾の切断を一緒に実行することになるとは......

 結果的にはそれのおかげで切断が成功したが、それはあくまで結果論だ。

 よって問題になるのは......やはり俺の実力不足。

 そもそも、俺がもっと強ければミウのーー他の皆の負担だってもっと軽くできたはずなんだ。

 これは早急に、なんとかしないとーー

 

「コウキさん!! 聞いてます!?」

 

「へっ? あ、あぁ、ごめん」

 

 しまった、思考が逸れた。これも悪い癖だよな。なんとかしないと......

 えっと......どこまで話したっけ......そうだ。

 

「ケルベロスの攻撃を予想していたから、アスナとミウ、2人にダメ押し役を頼んだって訳。最後の攻撃が天、地、どっちでもいいように。最後の攻撃がなかったらなかったでそのまま止めをさせるしな......えっと、こんなかんじでいいっすか?」

 

「......まだ納得はいきませんけど、とりあえずは分かりました」

 

 アスナは渋々とだが、ようやく引き下がってくれた。

 まぁ、確かに俺も事前情報から絶対にありえない予想は潰していたが、やはり予想なしでは今回は戦えなかったと思う。

 そして俺とアスナの会話が終わると同時に、ついに26層に移動しようと立ち上がるプレイヤーが出てきた。

 

「さて、ミウ行くか!」

 

「うんっ! ......っと、その前に、アスナちょっといい?」

 

「? 別に構わないですけど、って、きゃっ!?」

 

 アスナが返事をすると同時にミウはアスナの手を引いて俺から離れていった。

 ......なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

 コウキ、疲れてるとか言ってたのに、あんなにアスナと楽しそうに話してるし......

 コウキに聞いたら否定されそうだけど分かるもん。コウキ、話すのが楽しいときって結構饒舌になったり頬緩んだりするし。

 ......拗ねてはないもん。ただ話に混ざれなくてつまらなかっただけだし。

 はぁ、やっぱり男の子ってアスナみたいな知的美人系がいいのかな......アスナ、スタイルもいいし......

 

「ちょ、ちょっとミウさん? 話って......」

 

「へ? あ、うんごめんごめん」

 

 そうだった、私が話があるって言ってアスナを連れ出したんだった。

 回りを見回すと、もう他のプレイヤーたちがいる場所から10メートル以上離れている。

 この辺りなら大丈夫かな?

 

「それでね、アスナ。話っていうのはーー」

 

「コウキさんのことなら別にミウさんから取ろうだなんて考えてないから大丈夫よ」

 

「違うってば!!」

 

 なんでアスナにしろ、ニックさんにしろ私が話あるって言ったら全部コウキの所有権の話になるの!?

 私ってそんなにコウキのことしか考えてないように見えるのかな......否定もできないけど。

 

「そうじゃなくて、アスナのことなんだけど」

 

「私の?」

 

「うん」

 

 ボス戦前には、アスナの決めたことなんだからアスナの好きにさせようなんて言ってたけど、それは私の主義に反する。

 せっかく仲良くなれたんだから、最後まで付き合っていきたいし、考えが違うから、はいさよならなんてもっと嫌だ。

 

「アスナはさ、なんでそんなに私たちから距離を取るようになっちゃったの?」

 

「......そんなつもりはないですし、仮にそうだとしても私の勝手です」

 

 こんな話はこれでもう終わりだと言わんばかりにアスナは皆がいる場所に、いや、《KoB》に戻ろうとする。

 でも、私はまだ全部を言っていない。

 

 

 

「じゃあ、なんでそんなに苦しそうなの?」

 

 

 

 遠ざかっていくアスナの背中を見ながら言う。

 それと同時にアスナの足が止まった。

 

「......私、息苦しそうに見えますか?」

 

「うん、すごく。なんか、他人に求められるがままに自分を動かしている感じかな」

 

 アスナは背を向けたままだったから表情は分からなかったけれど、なんとなく唖然としているのは雰囲気から分かった。

 何秒か、アスナは黙りこくっていたけどこくっていたけど、私の方を振り向く。

 

「私は一刻も早くこのふざけたゲームを終わらせたい、それだけです」

 

 いつものように、どこか冷たい目で私に言い、今度こそ私から離れていく。

 ......結局こうなるのか。

 コウキともちゃんと話終えた訳じゃないから、アスナともこうなるのかな、とは考えていたけど。

 アスナにはアスナの考えがある、全くもってその通りだ。

 この場合は、大人な対応ができていないのは私、波風を無闇に立たせているのも私だってことぐらいは分かる。

 それでも、私の考えが子供なんだとしても、友達が悩んでいるのをただ見過ごせ、なんていうのが大人なら、私は大人になりたいとは思わない。

 そもそも。

 

 

 

「うん、アスナがそう考えてるんだったら、それでいいよ」

 

 

 

 今度は本当に虚を突かれたのか、アスナが振り返る。

 そもそも、私はアスナの考えを否定する気は毛頭ない。

 ただ、アスナには知っておいてほしいんだ。

 

「でも、もしもアスナが、その自分の考えに少し疲れて休憩したくなったら、私たちがいること、それだけは忘れないでね」

 

 今のアスナは硬くなりすぎてて、いつか崩れてしまうような気がする。

 そうなった時、アスナには帰る場所......寄りかかれる場所がちゃんとあることを知っておいてほしい。

 私の願いはそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「ん、ミウ、話はもういいのか?」

 

「うん、言いたいことは言えたよー」

 

 私たちの話が終わった頃には、皆はもう次の層の扉の前まで移動していた。

 先に行ってても良かったんだけど、LAプレイヤーがいなくてどうする! というヨウトとレンの意見により、皆待っていてくれたらしい。

 

「で、どんな話してたんだ?」

 

「コウキー? ガールズトークの内容を聞きたがるなんて無粋だよー?」

 

「うぇ!? 別にそういうつもりじゃないって!!」

 

 コウキが慌てて否定してくる。あー、もう。コウキは弄ると本当に可愛いなぁ。

 

「冗談だよ! ......あ、そうだ。コウキ、次の街に着いたらちょっと行きたいところあるんだけど」

 

「いいけど......それってどこ?」

 

「アスナが教えてくれたお店っ!」

 

 私の返答にコウキが首を傾げる。

 それに私は笑顔で返す。

 ......アスナがちゃんと分かってくれたかは分からないけど。

 私がコウキのもとに戻ってくるまでにアスナがポツリと漏らしたあの言葉。

 

 ーー『ありがとう』。

 

 あの言葉を今は信じるしかない。いや、信じてみたい。そんな気に私はなっていた。

 




はい、後編でした。

めちゃくちゃ長い戦闘回になりましたね。ASと続けてですので相当長い間戦闘を書いていた気がします。
そして今回は、コウキくんのめちゃくちゃ回でしたね。この辺りからコウキくんはどんどんおかしくなっていく予定です(いろんな意味で

次回は......調達ですかね?
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