なんと、この作品が日間ランキング36位になってしまいました!!
いやー、私の作品なんかよりも良い作品はたくさんあるだろうに、そんな中で私の作品を読んでもらえたことはすごく嬉しいです! やる気上がっていきます!!
そんなわけで本編どうぞ!
ここ、26層はどうやらヨーロッパの市街地をテーマにしているらしい。
赤の土塗りのレンガで作られている家、きれいな道に敷き詰められた淡い色の不規則なタイル。まるで絵本のなかに出てくるような空間。まさにヨーロッパ、といった感じだ。行ったことないけどないけど、ヨーロッパ。
これで人通りも少なければ、俺の脳内ヨーロッパの完成なのだが、いかんせん昨日開いたばかりの新しい層の街なので、人がいない場所を探す方が難しいほどに人が混み合っている。
今はミウが昨日言っていた、行きたい場所に向かって移動中なのだが......
「ミウ、もう30分ぐらい歩いてるけど、大丈夫?」
「うーん、アスナに貰ったメッセだともう着いてるはずなんだけどはずなんだけど......」
ミウがメッセを見て唸りながら歩く。
アスナから今日の朝届いたメッセ。そこにはミウ曰くアスナには教えてもらった『良い場所』が書いてあるとのこと。
その場所のことは昨日のボス戦後に聞いていたらしいのだが、詳しい場所はそのメッセでアスナに教えてもらったらしい。
いや、まだ教えてもらっている最中か。
忙しなくキョロキョロと回りを見るミウを、俺が後ろから見る構図。
......なんというか、前から思ってたけどミウって色々不器用だよなぁ。
口に出したら間違いなく拗ねるだろうから言わないけど、これって多分迷ってるし。
今はまだ辛うじて裏路地なんかには入っていないが、もう数分後には全く知らない道に入っていそうで怖い。
でも、ミウ本人にはまったく悪気はないだろうから、俺も言いづらい。
......これは、お互いのためにも一度ミウを特訓しないとなぁ。地図の見方や歩き方の特訓っていうのも変わってるけど。
「あっ、あそこだ!!」
だが、俺の予想に反して今回はすぐに目的地が見つかった。
ミウが声をあげながら指差したのは1人のプレイヤーーーここからでは女性プレイヤーということしか分からないーーが、道端に布を広げて看板を出している場所だった。
あれは......出店?
商業プレイヤーの場合、この世界でフィナさんのように自分のお店を持っているプレイヤーの方が珍しい。
単純な話、物件が高いからだ。
なので普通のプレイヤーが店を開こうと思うと、彼女のように道端に出店を出す、という形になる。
「で、あそこって何屋なんだ?」
出店は普通、その店で扱っているものを並べているものだが(ミウ御用達ののお菓子屋ならお菓子を並べている)、ミウが指した店は道端に布を広げているだけで何も並べていない。
すると、ミウは待っていました! と言わんばかりに笑顔になる。
「気になるんだったら早速行こうよ!」
そう言って、俺の手を引いていった。
ミウに連れられて店の前まで来てはみたがみたが、まだ開店前なのか布の脇に置かれている看板は裏に返してあって、未だに何屋なのか見当がつかない。
ていうか当たり前か。まだ今は朝の7時半。どこを見ても開いている店なんて僅かだ。
「あの、リズベットさんですか?」
「あっ、はい。お客様ですか?」
ミウの質問に答えたリズベットさん? は嬉しそうに聞いてくる。
髪はピンクでショート。雰囲気はどこかフレンドリーで明るい感じだ。同じ店を持っているフィナさんとはまた違った感じで人と話すことに慣れている気がする。
これが営業スマイル効果というやつだろうか?
俺がそんなことを考えているうちに、ミウがリズベットさんの質問に答えると、リズベットさんは一気に破顔した。
「リズベット武具店にようこそ!!」
......武具店?
てことはミウ......
リズベットさんの言葉のおかげで、俺の中でずっと引っ掛かっていた謎が一気に晴れた。
点と点が繋がった感じだ。
俺が驚きながらミウを見ると、ミウは少し照れたように頭を掻いて笑った。
「コウキの剣、折れちゃったし。それに皆のために頑張ってくれたんだから、これぐらいはね」
そうか......
なんというか、ミウは本当に良いやつだよな。
いつもいつも、俺なんかにも優しくしてくれるし、誰かを喜ばせようと頑張ってるし。
ミウに言ったらこれもまた拗ねてしまいそうだが、さすがは《聖人》だと思う。
最近、何度も思う。《はじまりの街》で、ミウに出会えて本当に良かったーー
「......あのー」
「うわっ!! すいません!!」
しまった。あまりにも嬉しかったもんだからリズベットさんの前で和んでた。
リズベットさんのも微妙にジト目になってるし。なかなかないぞ。初対面でジト目を向けられるなんて......
俺は嬉しさやら気恥ずかしさやらを誤魔化すために一度咳払いして、話をもとに戻す。
「あの、ここって片手用直剣も置いてますか?」
「もちろんです。数はそんなにないですけど......」
そう言ってリズベットさんはアイテム一覧のウィンドウを呼び出して、視覚モードにしてから俺に向けてくる。
そこに載っている剣は、確かに種類は少ないが、どれも数値的には現段階でかなりの水準を誇っているものばかりだ。
......すごいな。これだけ良いものが揃ってたらこのお店、もっと名前が通っていてもいいと思うんだけど。
さてはアスナ、自分だけが良い思いをしようと情報規制を......そんなわけないか。
でも、正直数値的にいくらよくても、実物を握ってみないとちょっと分からないな......
「これって、アイテム化してみてもいいですか?」
「どうぞ!」
それならと俺は、早速一覧の一番上にあった片手剣から順にアイテム化して、実際に手に取って握ったり振ってみたりする。
......おぉ、前の剣とはウェイトが違うせいかせいか、なんか不思議な感じだな。
今までは大体がひとつの種類の剣のグレードアップバージョンとか、強化したりして、同じ感覚で振り続けてきたからなぁ。
「そういえば、どうして私の名前知ってたんですか?」
「あぁ、アスナから聞いたんだ。武具店ならリズベット武具店が一番だって。確かアスナと知り合いなんだよね?」
「えぇ、ていうか、あなた達アスナと知り合いなんだ。じゃあ敬語なしで良い? 肩凝っちゃうし」
「うん、全然いいよ~。私はミウ。で、こっちはコウキ」
ふむふむ......あっ、こっちなんて前の剣に感覚近いかも!
「......おーい。コウキー?」
「ん、なんか言った?」
「あはは......なんでもないよー」
「? そっか」
ミウはなぜか困ったように笑っていた。なぜ?
ちょっと乾いたミウの笑い声が気になったが、なんでもないというのだったら剣選びに戻らせてもらおう。
おっ、これなんて攻撃力高そう!
「もう......コウキったら......」
「仲良いわね......私はリズでいいわよ」
「そっか、よろしくね、リズ!」
「えぇ、よろしく......あっ、もしかしてミウとコウキって、前にアスナとパーティー組んだことあった?」
「うん、組んだよ。アスナが《KoB》に入ってからは組んでないけど......なんで知ってるの?」
「なんでもなにも、アスナが前によく話してたのよ。天才としか言えない上に可愛いミウって女の子と、変な子で強いのか弱いのかよく分からないコウキって男の子がいるって」
「あははは、可愛いって......アスナはもう」
「でも......やっぱりアスナ、《KoB》に入ってから少し雰囲気変わったよね」
「......そうだね。その感じだとリズも詳しくは知らない?」
「うん、入ったのも変わっちゃったのも急だったから。最近は私のところにも来てはくれるけど、楽しく話すってことはないし」
「でもきっと、アスナは変わらずリズのこと大好きだと思うよ。信頼できる武具屋は?って聞いたら真っ先にここを教えてくれたしね」
「......そっか。はーあ、アスナは本当にーー」
「誰が変な子ですか!?」
「今ごろ戻ってきた!? ていうかツッコミ遅いよコウキ!!」
なんか久しぶりにミウからツッコミを受けた気がするが、今はそこではない。
まったく、油断も隙もない。俺が剣選びをしている間にいったいなんの話をしているのか。
変な子なんて俺にする評価ではないだろう。ミウならともかく。
等と考えていると2人から少し冷たい視線を感じた。なぜに?
「で、良い剣はあった?」
「ありすぎて困る」
「ありゃりゃ......」
またミウがしょうがないなぁ、という感じで笑ってくるのに対してリズベットさんはどこか嬉しそうだ。
もしかしたら自分が作ったものを誉められて嬉しいのかもしれない。
......うーん、でも。
「ちょっとしっくりはこないかなぁ」
この世界がただの楽しい戦闘ゲームだったならば、俺はお金の許す限りリズベットさんの武器を即買いしていると思う。それだけの価値がリズベットさんの武器にはある。
だが残念なことに、この世界は本当のデスゲームだ。
だからこそ可能な限り数値的に良い武器を装備するプレイヤーもいるが、俺は使い慣れた質感をもつ武器の方が、本当に危ないときに上手く動けるのでそちらの方が好きだ。
どちらの考え方もプレイヤーの中では半々なので、俺が特別というわけではない。
それが分かっているからリズベットさんも、そっか、としか返してこなかった。
「でも、どうするのコウキ? 剣なしっていう訳にもいかないし」
「だよなぁ......」
俺、ただでさえ弱いのに、剣もなしに戦うなんて間違いなく死ぬ。死ぬ自信がありすぎて困る。
かといって感覚に合わない剣買ってもなぁ。我慢して新しい剣を買うか、それともいっそのこと下の層に戻って前の剣を買い直すか。
俺が今後の剣について考えていると、リズベットさんは何か考えるような素振りを見せた後。
「ねぇ。どんな剣が良いのかは具体的なイメージがあるのよね?」
「あ、あぁ......」
「なら詳しく教えて」
とりあえず言われた通りに今まで使ってきた剣のイメージを伝えると、リズベットさんは再び何かを考え出した。
あれ? 今気づいたけどいつの間にかリズベットさんタメ口になってる。俺が剣を選んでいる間に何かあったのだろうか?
「......じゃあ、これなんだけど」
そう言ってリズベットさんが出したウィンドウには、あるアイテムが表示されていた。
それは、まるで岩石のように硬そうな見た目で、色は朱色。
これは......
「インゴット?」
隣でウィンドウを覗きこんだミウが言った。
インゴット。俺も詳しくは知らないが、武器や防具などを作る際に材料として必要となるアイテムで、たまにmobがドロップしたり、クエストで貰えたりする。
良いインゴットからは良い武器ができる。とまで言われるほどに武器作りには重要なアイテムらしい。
「そう。そのインゴットから生成できる片手用直剣が、大体あなたの言う内容に近いのよ」
正しく言えば、どんな武器でも作成時に武器の重さや大きさ、攻撃力なんかも調整できるらしいのだが、それもある程度らしい。
なので、作りたいイメージにもともと近いものを作って調整した方が簡単だそうだ。
ということで早速そのインゴットをリズベットさんに渡そう! ......となるわけもなく。
くそう、このインゴット持ってない。
こんなことならインゴットとかの情報ももっと集めておけば良かった。
リズベットさんなら間違いなく良い剣を作ってくれるだろうに......
小さくため息をつく。
「すいません。今このインゴット持っていなくて......」
「あぁ、そういうことじゃなくてね。このインゴットって特殊なクエストでドロップするアイテムだからさ。これを取ってきてくれたら私がオーダーメイドで作ってあげるあげるってこと」
「えぇ!? でも、いいのリズ?」
ミウが驚くの当然だ。確かにオーダーメイドで作ってくれる、という鍛冶屋のプレイヤーはたまにいるが、インゴットの所在まで教えてくれるプレイヤーはまずいないと思う。
というか、教えたら不味い情報なのではないだろうか? そんなアイテムを入手する方法を教えてしまえば、それこそ誰か他の人にアイテムを乱獲されてしまう可能性があるのに。
しかも、俺たちとリズベットさんは今日が初対面だ。
失礼なことは重々承知だが、ここまで親切にされると、どうしても裏を考えてしまう。
この世界では、いやこの世界でなくとも、甘い話には裏があるのだ。
そんな俺の考えが伝わったのか、リズベットさんはニッと、どこか男らしさを感じさせる笑みを浮かべた。
「友達の友達は友達ってね! 友達のためなら一肌脱ぐわよ、私は!」
失礼な俺に返ってきたのは、そんな頼り甲斐のあるかっこいい台詞だった。
「コウキ、さっきのわざとでしょ」
洞窟に入ってから少しすると、洞窟の壁や地面を眺める程度に見ていたミウが唐突に聞いてきた。
「何が?」
「私とリズが話してたとき、邪魔するみたいに入ってきたの」
.......ばれてたかぁ。最近本当に隠し事ができなくなってきたな。いや、しようとも思ってないけど。
でも、さっきのあの場面は第三者が無理矢理にでも介入しないとしんみり空気が流れそうだったし、そういう空気はミウも嫌いだし......
ミウが妙につまらなさそうだったので、迷惑だったかと聞くと、左右に首を振られた。
じゃあ......
「えっと、もしかして俺のお節介、リズ気付いてた?」
ミウのことだから、俺のせい(もしくは自分のせい)でリズーー別れ際にそう呼べと言われたーーに気を使わせてしまったことを気に病んでいるのかと思って聞いてみたが、これにも首を振られた。
えーっと......じゃあなんで?
何が悪かったのかは分からないが、おそらく俺が悪いのだろう。これはそういう流れな気がする。
俺が脳内でなぜか自虐していると(自分でも理由は分からない。強いて言うなら自虐根性?)、ミウがため息をついた。
「......なんだかんだ言って誰にでも優しいっていうのはコウキの良いところなんだろうけど、それを他の人に知られるのはなんかヤだな......」
「?」
ミウが何か呟いていたが、小さすぎる上に俺の方を向いていなかったので聞こえなかった。
それからいくらか声をかけてみたがかけてみたが、うん......、と生返事しか返ってこない。こういうときは大体ミウが何か考えているときなので俺も話しかけるのを止めた。
が、それはそれで居心地の悪い雰囲気が場に流れ出しそうだったので、mob探しついでに適当に周りを見回す。
リズに教えてもらったクエストは、指定のmobを規定数狩れ、という案外普通の
虐殺系のクエストは、お使いクエスト、護衛クエストと、多くあるクエストの中でも最も殺伐とする種類だ。
内容的に、ということもあるが、同じクエストで他のプレイヤーやパーティーが重なってしまうとmobの取り合いになるからだ。
mobのポップが早かったり、フィールドが広かったりすれば小さな小競り合いが起こるか起こらないか程度で済むのだが、ポップが遅い+フィールドが狭いという最悪な条件が重なると、最悪対人戦闘になってしまう可能性もある。
なので、今回も初めは自分の剣のためとはいえ少し気が重かったのだが。
「......誰もいないなぁ」
20層にある洞窟《ゴーウィ》は、どれだけ見回しても人っ子一人いなかった。
あれだけ良いインゴットが発見できるクエストなら今もプレイヤーがいると思っていたのだが......どうやらまだあまり知られていないクエストらしい。
もしくは俺のように、前線のプレイヤーでもインゴットの情報にはあまり明るくないのか。
まぁ、誰かがいて本当に取り合いになったりしないんだから文句はない。
ちなみに今俺が背中に背負っている剣は、俺のサブアーム、つまり予備の片手剣だ。昨日まで使っていた剣には敵わないが、それでも同じ感覚で使える残り唯一の剣だ。
なので誰もいないことも問題ではないし、今は武器も予備があるのでそこも問題ではない。
問題は別にある。
一つは、インゴットのドロップ率。
俺が欲しいインゴットはかなりレアなものらしく、クエスト達成の狩り数に届くまでにmobがインゴットをドロップするとも限らない。
もしも先に狩り数に到達してしまったのなら、一度依頼主の元へと戻って、もう一度クエストを受ければいい話だが、正直めんどくさい。
そんなことを言ってはいけないとは分かっているのだが、それでも攻略が遅れるというような問題も出てくるし、意外と切羽詰まっている。
そして二つ目の問題。これは攻略が遅れるだとか、そういう未来的な話ではなくて、今現在ナウに襲いかかってきている非常に厳しい問題だ。
「あの、ミウさん? さすがに手を繋いだまま洞窟を歩くのはさすがに怖いのですが......俺やられちゃう」
「大丈夫。下の層だからmobも弱いし、危険な場所もちゃんと全部覚えてるから」
「いや、そういうことじゃないような......」
これだ。
あっ! 今、またか......とか思ったやついるだろ!! 出てこい相手になってやる!!
いや、本当に圏内なら恥ずかしさやら俺の精神的ダメージだけで済むけど、圏外だと命の危機が絡んでくるから怖いんだよ!! 俺はボス戦前にハンバーガーの話で盛り上がれるほど強い心臓はしてません!!
いくらミウの言う通り、危険な場所さえ避ければ比較的安心だとしても!
その上ミウがたまに手をにぎにぎ握ってくるから精神衛生上悪すぎるんだよ!! なにこれなんの拷問!?
ーー以上俺の心の叫び声。
......まぁ、そういう本心は抜きにしても、だ。
「ミウ、さすがに圏外ではダメだって。そもそも俺と手なんか繋いで面白いか?」
前から気になっていたのだが、ミウが俺とこうして手を繋いでもなにも、メリットがあるとは思えない。
まさかアルゴのように俺が焦る反応を見て楽しむなんてことはミウはしないと......思いたい。
あと考えられるのは......まぁ、あるにはあるが
ではなぜ? という疑問が再び上昇するが、ミウは顔を俯かせて下を向く。
「......なんでいつもいつもコウキってそうなの? 私は......」
「ん? どうした?」
またよく聞こえなかったので今度は聞き返した。
すると......ミウからなにか聞こえた気がした。
実際には聞こえていないはずの音が聞こえた気がした。
表現するのならーーブチッと。
「なんでもなーい!! ていうか、コウキが悪いんだよっ!!」
「へ、俺?」
おぉ、ミウが珍しく荒ぶっている......
俺の返答にミウはしかめっ面になるが、それもすぐに不安げな顔に変わる。
代わりに俺の手が今までよりも強く握られた。
「......だって、昨日のボス戦もそうだけど、コウキすぐに無茶するんだもん。いつか致命的なことになっていなくなっちゃうんじゃないかって......不安になるよ」
言った後さらに強く握られる俺の手。
その姿は、まるで暗闇のなか親の手を離さないよう、離ればなれに絶対にならないよう手を強く握る子供のようで......
......いなくなる、か。
確かに。誰かがいなくなることを考えるのは不安になる。それが大切な人なら尚更だ。
そこまで考えて、ミウの大切な人カテゴリに俺が入っていたらちょっと嬉しいな、とか性に合わないことを思う。
まぁ、ミウだから俺なんかを大切に思ってくれるんだろうけど。
「......ごめん、今後は気を付けるよ」
「......絶対?」
「......できる限り」
「目、泳いでるよ」
そ、そんなこと言っても仕方ないじゃん。俺の場合実力が足りていないから、ミウを守ろうと思えば必然的にリスクを上げていかないとどうにもならない。
昨日のようなボス戦になれば、リスクはもっと高くなる。
あっちを立てればこっちが立たなくなる。
どうしよう......と俺がない頭を必死に回転させていると。
「......えい」
「......へっ!?」
ミウは手を離すと、すぐさま体を回転させて俺の背後をとり、そのまま抱きついてきた。
......なぜに?
ていうか、なんかこれすごい良い匂いしてくるんですけど!? 茅場さん、このゲームちょっとリアルすぎませんか!?
混乱している思考のなかで、とりあえずミウが胸防具だけは装備していて良かったと思った。いや、何がとは言いませんが。
「コウキは、何も分かってないよ......」
ミウがいっそう腕に力を込める。
そのお陰か、混乱しまくっていた思考が一気にクリアになっていった。
今、なにか声をかけなければ何かが崩れて、終わってしまう。混乱なんかしている場合ではない。そうな気がしたから。
すぐにその『なにか』の台詞は出てこない。それでも、なにかしなくては、という思いに駆られ、俺は自分に回されたミウの腕を握った。
「その、ミウ......」
ーーやばい、なにも頭に浮かんでこない。
そもそもこんな時にどんな言葉をかけたら良いのか分かる奴なんてこの世にいるのだろうか?
いや違う。他の奴の言葉なんかは問題じゃない。今必要なのは、俺がかけるミウへの言葉だ。他のことなんてどうでもいい。
時間の流れが恐ろしく遅く感じる。なのに相変わらず何も言葉は出てこない。
抱きつかれているせいで、ミウの体温や鼓動がダイレクトに伝わってくる。
なんか、俺まで変に緊張してきた......。
とにかく、早くなにか言わないとーー
「......コウキのバカ、意気地無し、頑固者......」
「へ?」
今回も呟くような小さな声だったが、抱きつけるほど近くにいるので今回は聞こえた。
ていうか、なんで俺は今罵倒されたの?
俺がさらに混乱していると、ミウは俺から勢いよく離れて、今度は前に回り込んできた。
「ベーっ!!」
そしてどことなく懐かしみを感じるアッカンベーなるものをしてきた。
......ミウって、こんな風に拗ねることもあるんだなぁ。
じゃなくて!!
「あ、あのさミウ!!」
しまった、アッカンベーのせいで完全に頭の中真っ白になった!!
え、えーと、なにかなにか......
「いいよ、もう」
「えっ......」
するとミウは視線を逸らして、珍しく言うかどうか迷うように体を縮こめると。
「......コウキの鼓動、ちゃんと伝わってきたから。ここにいるって何よりも教えてくれたから。今回はそれで許してあげる」
「......ありがとう」
すごい恥ずかしそうに俺に言ってきたのであった。
その際、俺も一瞬顔が熱くなったことがバレていないことを祈る。
その後は居心地が良いような悪いような、そんな微妙な空気になりつつもなんとかクエスト一回目でインゴットが落ちてくれた。
というか、ガッポガッポ落ちた。
俺たちの運が良かったのか、ドロップ率が高めだったのかは怪しいところだ。
なのに精神的には異常なほど疲れた......世の中上手くできてないなぁ。
......まぁ、今回に限っては嫌な疲れじゃなかったけど。
はい、インゴット調達回でした。
この話はクォーターポイント戦の後日談的な感じで書いてみました。
テーマ的には、ミウさんの気持ち......って、これは露骨すぎでしたかね?
コウキくんもミウさんも互いに背を預けて戦っているけれど、互いに相手には戦ってほしくない、無理をしてほしくないと願っているこの矛盾が浮き彫りになってきたかなー、って感じです。
次回は、新キャラが出てきます。