力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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32話目です!

よし! 今週は3話投稿できた!
最近遅れぎみだったので投稿できて良かったです。
......とか思ってたら来週は1話も投稿できず、とかなりそうで怖いですよねぇ。

それではどうぞ!


追伸
お気に入り数が100人を突破しました!!
本当にありがとうございます!!


32話目 祭りの前兆or嵐の予兆?

 キィィィン!! 緑色の肌を持つ亜人型mob《ゴブリン》の剣戟を俺の剣で受け流す音が森のなかに響く。

 俺は《ゴブリン》の次の攻撃を避けるために一旦下がると、予想通り俺が先程まで立っていた場所を《ゴブリン》が振り下ろす剣が通過した。

 ゴブリンが連続して攻撃を外し、体勢を崩したことによってできた隙を逃すまいと再び接近し、《ゴブリン》の体を2回斬りつける。

 攻撃後に勢いよく減っていく《ゴブリン》のHPを見て、これで決まりか、と思ったが、《ゴブリン》はHPを数ドット残し、最後の悪あがきだと言わんばかりに片手剣単発ソードスキル《スラント》で斬りかかってくる。

 それに対し、俺も同じく《スラント》を発動させる。

 2本の剣は、ライトエフェクトを纏い、互いに接近していくが交錯することはなく、そのまま互いの狙った場所へ向かって進んでいく。

 《ゴブリン》の剣は俺の右肩へ。

 俺の剣はーー《ゴブリン》が剣を持つ、右手へ。

 そして着弾。

 ザシュッ!! という音を上げて《ゴブリン》の手首から先が宙を舞い、剣のみを残し右手はポリゴンになって消える。

 よしっ、俺の攻撃の方が早かったようだ。本当は《ゴブリン》の剣の根本を狙っていたのだが......まぁ、結果オーライだ。

 止めをさそうと続けざまに攻撃しようと、数瞬のスキルディレイの後に剣を振り上げたのだが、手首を斬った際のダメージでHPがなくなったらしい《ゴブリン》は、そのまま体全てをポリゴンに変えて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ~、コウキ」

 

「......お疲れ」

 

 剣を振り上げたままではさすがに恥ずかしかったので、ゆっくりと下げてミウと手の甲を当てる。

 今、俺たちはリズに作ってもらった新しい片手剣の試運転を行うために、23層の森の中に来ていた。

 この森は《ゴブリン》のような亜人型、植物系、昆虫系と多種多様なmobがポップするため、こういった試運転にはもってこいの場所なのだ。層も最前線よりも少し下だし。

 本当は攻略を遅らせないためにも、俺1人で夜中に街近郊で試そうと思っていたのだが、ミウに「コウキが新しい剣を使うところを最初に見たい!」と押し切られてしまったので今になる。

 ......俺が剣を振るところなんてところなんて、そんなに見たいものだろうか? 価値で言えばう○い棒にも負けそうなのに。

 

「それでどうだった? 剣の使い心地」

 

「あぁ、すごい使いやすい。前の剣と同じ感覚で、前の剣よりもしっくりくる」

 

 試運転の結果は、今言った通りだ。

 攻撃、防御、受け流し、ソードスキル、一通りのことを試してみたが、どの点においても前の剣と同等か、それ以上に使いこなすことができた。

 さすがはリズが作った剣。そう言わざるをえない。本当になんでリズの店ってまだ知名度低いんだろう?

 ......まぁ、とにかく。そんな素晴らしいリズの剣だ。それを使ったんだから、さっきの止めをさす前に決着がついたことは何も恥ずかしいことじゃあないことじゃあない。むしろ驚くところだ。剣の性能とリズの腕スゲーと。

 だから恥ずかしくない。剣を振り上げたまま戦闘終了しても恥ずかしくない。

 

「でも、コウキさっきの《武器取落》いらなかったんじゃーー」

 

「そんなことはない」

 

 そう、さっきのは必要なこと。あのまま《ゴブリン》が耐えきったときのこと考えてのことだから俺は一手先にいたんだから。

 ......かわせたような気もするけど絶対気のせいなのだ。

 

「......それにしても、本当に良い剣作ってくれたよな、リズ」

 

 右手に持った剣を上にかざす。

 《デスティニーリザスター》。意味は『運命に抗う者』

 朱色で少し広めの両刃剣。無駄な装飾は一切無く、剣の強固さをより強くしている。

 実際、剣の攻撃力は前の剣とは比べ物にならない。

 ......というか、装備者の俺が名前にも性能にも負けている気がする。頑張らねば。

 でも、本当になんでリズの店ってまだ知名度低いんだろう? フィナさんの店みたいに辺鄙な場所にあるわけでもないのに.......世の中は不思議で溢れている。

 

「コウキ。誤魔化せてないからね?」

 

 やっぱダメっすか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも、コウキはまだ《武器取落》の成功率そんなに高くないんだから、いざって時に使っちゃダメでしょ?」

 

「うぅ~、返す言葉もないです」

 

 その後、この森に入ってからすでに4時間ほど経過していることに気付き、試運転もかなりしたので休憩にしようと安全エリアまで移動した。

 今は一応、先ほどの俺のミスに対するお説教タイムだ。

 なぜ『一応』かと言うと。

 

「だからね? コウキはもっと安全な戦い方をした方がーー」

 

 正座して聞かされているのだが、いかんせん怒っている本人が全く怖くないせいか、雰囲気的にはただのお話タイムになっているのだ。

 25層のボス戦の時とかからするに、ミウも本気で怒ったらかなり怖いんだけど。

 というか、可愛い。いや、微笑ましい? なんか保母さんが児童に言い聞かせている感じで。互いに正座してるとことか、人差し指を立てて一個一個説明してるとことか。必死に怖い雰囲気出そうとしてるとことか。

 

「ーー私もいるんだしフォローできるんだから.....って、聞いてる!?」

 

「聞いてる。聞いてるって」

 

「じゃあ、私なんて言ってた?」

 

 む。どうやら本当は俺が聞いていなかったのではないかと疑っているようだ。いくら俺でも人の話ぐらいはしっかりと聞くというのに。

 えーっと、ミウが今言ってたこと。ミウが、ミウが......

 

「あれだろ? 俺の《武器取落》はまだ完璧じゃないし、保母さんが似合うミウもいるんだからもっと余裕をもって保育されても良いって話だろ?」

 

「なんか変なの混ざってるよ!? ていうか保母さんってなに!?」

 

 しまった、心の声と混ざってしまった。

 俺が頭を掻きながら謝ると、ミウは呆れたように深くため息をつく。そして足を崩しながら、ストレージから水筒を取り出した。どうやらお説教タイム(仮)はこれで終わりのようだ。

 そしてそのまま水を飲むミウ。話しすぎて喉が渇いたのだろうか? まぁ、普段はお説教とかするタイプじゃないしな。

 

「......なんか今、すごいイラッととした」

 

「誰か噂でもしてたんじゃないか?」

 

 まぁいいや。とミウは呟くと、再び飲みだす。

 どうやらミウが作ったフルーツジュースか何かのようで、仄かに甘い匂いが俺の場所まで漂ってきた。

 コクリ、コクリとミウがジュースを飲む音が辺りに響く。

 ......こうやって見ると改めて思うけど、ミウってかなり美人の部類に入るよなぁ。なんで最初男と勘違いしたのかってぐらい。

 いや、ミウの雰囲気が変わりだしたのはミウと会ってから少し経ってからだったし、顔は今でも確かに中性的ではあるんだけど。

 でもそれ以上に細かいところでは女の子っぽい仕草とか目立つし。さっきのお説教の仕方なんて良い例だ。

 体も本人はコンプレックスに思っているらしいけど、その小さな体でいつも全力全開で動き回っているその姿はきっと誰でも惹かれるものがあると思う。

 特に性格はいつも明るくて、周りにいる人まで元気にしてくれ、かと思えばたまにすごく大人びた面も見せてくる。

 ......本当、なんで最初男だと思ったんだろう?

 

「......ん? どうかした?」

 

 俺があまりに視線を動かさずに見ていたせいか、ミウが小首を傾げて聞いてくる。

 しまった、今のはさすがに失礼だったかも。

 

「あー、いや......ちょっとな」

 

「ふーん? あっ、コウキも飲む?」

 

 そう言ってミウはジュースを差し出してくる。

 あの、これってさっきまでミウが飲んでたやつだよね?

 俺の視線は自然と先程までミウが口をつけていた飲み口に吸い寄せられてしまうーーっていやいや、変態か俺は。

 ミウ、すぐに恥ずかしがったりするのに、なんでこういう接触系には無頓着なんだろう? あ、いや、手繋ぐ時も恥ずかしがってたな。余計に分からん。

 

「......いらない?」

 

 ミウが聞いてくる。

 これは、ミウが天然なのか、それとも俺が気にしすぎな気持ちの悪いブタ男子なのか......

 

「じゃ、じゃあ貰おうかな?」

 

 とりあえず後者の確率の方が高いかなぁ、と判断して、ミウから水筒を受けとる。

 そして微妙に気まずくなりながらも水筒に口をつけようとしたーーその瞬間。

 ーーーーっ!!

 

「ーーっ。コウキ、聞こえた!?」

 

「あぁ、森の奥の方からだ!!」

 

 ミウと互いに確認を取った瞬間には、俺とミウは立ち上がって走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウキ、見える!?」

 

「......いや、《策敵》スキル使ってもまだ見えない」

 

 声が聞こえた瞬間からミウと走り出して、すでに数分。先ほど聞こえた声の大きさからするにもう見えてきてもいいはずなのに......

 走ってくる道を間違えたとか? いや、ここまでは完全に一本道だ。道を間違えることはないはず。

 

「......とにかく、もっと先に進んでみないと」

 

「あれ?」

 

 走りながら会話していると、俺、おそらくミウの視界にも変化が現れた。

 先ほどまでは1本しか見えなかった道に、急にもう1本道が増えて別れ道になったのだ。

 

「こんな道、攻略してたときにはなかったよね?」

 

「あぁ」

 

 ということは、攻略が進むことで開く時限性、もしくは他の条件で開く道か。

 でも、マップに乗っていない上に、俺の《策敵》スキルでも見えなかった道。そして先ほどの悲鳴。間違いなく何かしらの罠が待っていると考えていいだろう。

 ここは先に進むのを止めて、様子を見るのがセオリーだ。

 この世界は本物のデスゲームなのだから、可能な限りリスクを避けるのが基本......なのだが。

 

「こっちが新しい道だよね? コウキ、早く行こう!」

 

 ミウならそう言うだろうな。

 さて、どうするか。

 先ほども言ったように、この先に待っているのはおそらくは罠。

 そんな場所に自分、というよりミウを行かせたくはない。

 が、この層程度のmobならそれこそ100体同時に襲ってくる、なんてことにならない限りは俺たちが危険になることはないだろう。

 もちろん、他にも不確定要素はあるから油断は決してできないけど......

 でも、いくらなんでも助けることを一切考慮せずに逃げる、なんてのは俺でも目覚めが悪いしな。

 俺はミウに頷いて、新しい方の道を走り出す。ステータス的に、どうしてもミウが先行する形になる。

 すると、今度は10秒もしないうちに何かが視界に映りこんできた。

 あれは......やっぱりプレイヤーか!

 《策敵》スキルの応用範囲を全開にして地面に倒されているプレイヤーの付近を見ると、プレイヤーの他にも20体程度のmobが確認できる。

 mobの種類はこの森に存在する全てのタイプがいる。

 ここまでの種類、数のmobが1ヶ所にポップするなんて......やっぱりなにかしらのトラップか?

 とにかく、この場をどうするかと考えながら接近していると、プレイヤーに対して《ゴブリン》が剣を引き絞るのが見えた。先ほども見た、《スラント》のスキルモーションだ。

 まずい!

 しかも、同時に俺たちの進行を妨害するように花に脚が生えたような植物型のmobがポップする。

 

「コウキ、先に行って!!」

 

 ミウが花のmobに《バーチカル》を叩き込み、相手の体勢を崩す。おかげで襲われているプレイヤーまでの直線の道が開けた。

 だが、このままただ走っていたのでは間に合わない。なので俺は自分が出せる最高速度で走って、その状態で片手剣突進系スキル《ブレイヴチャージ》を発動させる。

 スキルによって細々とした条件は異なるが、《スラント》などと同じように《ブレイヴチャージ》は足が地面についている状態で、上半身でスキルモーションを取れば発動できる。

 俺が《ブレイヴチャージ》を発動させた直後、《ゴブリン》も《スラント》を発動させる。

 間に合うか!?

 2本の剣が各々違う動きを見せる。ただし今度は先ほどとは互いに狙いが違う。

 そして《ゴブリン》の剣がプレイヤーに届くよりも一瞬早く、今度も俺の剣の方が先に狙いに着弾した。

 俺の剣が《ゴブリン》の体を貫き、その動きを強制的に止めたのだ。一撃で倒す、とまではいかなかったが、ソードスキルを中断させるのも成功した。

 プレイヤーは......大丈夫そうだな。

 ローブを被っているせいで表情は窺えなかったが、HPを見る限りではまだ3割ほど残っていた。

 もしも《ゴブリン》の攻撃を受けていれば、全損していたかもしれない残量だ。危なかった。

 俺が密かに安心して息をついているとついていると、周りの他のmobが俺に向かって一斉に攻撃してきた。

 どうやら《ゴブリン》に大ダメージを与えたせいで、タゲが全て俺に向いてしまったようだ。

 俺はスキルディレイで一瞬体を動かせない。

 これだけの数の攻撃を一度に受けてしまえば、死にはしなくともダメージディレイで動けなくなることは必死だ。

 それでも、俺は恐怖には駆られなかった。

 

「はぁ!!」

 

 ミウなら、間違いなくこのタイミングで来てくれるだろうと分かったからだ。

 mobの攻撃が俺に着弾する寸前に、後ろから追ってきたミウの片手剣2連撃スキル《ホリゾンタル・デュアル》がほぼ全てのmobにヒットし、mobたちを怯ませた。

 《ホリゾンタル・デュアル》は、《ホリゾンタル》が2連撃になった強化版で、普通の《ホリゾンタル》を放った後に、回転してもう一度《ホリゾンタル》を発動するようなスキルだ。一撃当たりの威力も少し上がっている。

 2連撃になったことでより広範囲への攻撃が可能になっているわけだが、いくら密集状態でもこのように10体以上の敵に、味方には当たらないように攻撃を当てられるのはミウを入れてもこの世界に5人いるかいないかだろう。少なくとも俺には絶対に無理だ。

 

「ミウ、助かった!」

 

「私に危ないとか言うんだったら、もっと自分も気を付けてほしいんだけど」

 

「ミウがフォローしてくれるって言ってたじゃん?」

 

 俺の言葉にミウがうぅ~っと唸りで返してくる。

 その姿は見ていてとても楽しいが、今はそれよりも大事なことがある。

 

「君、転移結晶は!?」

 

 俺はプレイヤーに聞く。

 さっきまでならmobい襲われていて転移結晶を使う暇もなかったかもしれないが、今なら俺とミウはで庇えるので使用できるはずだ。

 襲われていたプレイヤーは、俺の声に驚いたのか体を跳ねさせながらも返してくる。

 

「......あ、あの、転移結晶が使えなくて......」

 

 おどおどしながら言ってくる。

 小声でよく聞き取れなかったが、とりあえず雰囲気で言いたいことは伝わってきた。

 なるほど、ここのトラップは結晶無効化エリアと、mobの大量ポップってことか。

 少々厄介なトラップだが、まだ『大丈夫』の領域だ。これでポップするmobのレベルが最前線並、とか言われたらプレイヤーを置いて形振り構わず逃げるしかなかった。

 このトラップは、最初に大量にポップするだけで、リポップはしないようなので、こいつらを倒すことができればそれで終わりだ。

 すると、考えている間にミウの攻撃から回復したのか、木の姿をしたmobの1体が俺に木の腕で攻撃してくる。

 かわすのは......無理か。後ろにいるプレイヤーに当たる可能性がある。

 なので俺は剣で受け止めることを選んだのだが、相手の攻撃が予想よりも軽いので簡単に受け止めてしまった。

 お、おぉ! さすがリズ作の新しい剣! 戦闘中にもその性能の良さにビックリ!!

 俺が剣の性能に驚いていると、木のmobが空いたもう一方の腕で横から攻撃してくる。

 

「っと、危ない!」

 

 2度目のその攻撃は、《閃打》を当てることで弾く。

 危ない、戦闘中に呆けてた。しかも剣の性能の良さに驚いて一撃もらうなんてバカなことしたら、またミウに叱られてしまう。

 ......それはそれでアリかも。あの状態のミウは見てて和むし。

 って、これ以上余計なことを考えてると本当に危ない。集中しろ!

 

「せぇい!!」

 

 目の前にいる木のmobに、切り上げ、突きの2連撃を叩き込む。

 俺は気合いを入れ直し、襲いかかってくるmobに相対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラストッ!!」

 

 ミウが《ゴブリン》に《クロス・シーザー》を叩き込み、ゴブリンを屠る。

 戦闘開始から約30分。ようやく全てのmobを倒しきることができた。

 それと同時に溜まっていたものを吐き出すようにため息が出る。

 さすがにこれだけの相手を一気に相手すると集中力使うな......

 しかもあのmobたちそれこそ倒れるまで延々襲ってきたし。

 まぁ、俺たちも無事で、襲われてた人も助けられたから良いけど。

 っと、そうだ。

 

「君、大丈夫か?」

 

 戦闘中、ずっと俺の背後でしゃがみこんでいたプレイヤーに声をかける。

 相変わらずローブを被っているので、どんな表情をしているのか分からないが、雰囲気的に安心しているように見える。

 身長からしてして......年下だろうか? ミウよりもさらに小さくて140後半ぐらいしかないし。

 

「その......ありがとう、ございました......」

 

 緊張が切れたのだろう、俺の予想通り安心したような声が返ってくる。

 ような、というのは戦闘中ほどではないが、声が小さくて上手く聞きとれなかったからだ。

 だが、この声の小ささは、正直戦闘中助かった。

 戦闘中叫んだりすると、耳などの音を聴く器官を持つmobは、その声を出したプレイヤーにタゲを変えることがある。

 しかもどうやって判断しているのか分からないが、恐怖などを含む叫び声ほど、mobを引き付けるから性質が悪い。

 

「あれ......もしかして.......」

 

 俺の隣まで来たミウが呟く。

 

「ミウ、もしかして知り合い?」

 

 疑問に思って聞いてみたが、よくよく考えるとそれは無い気がする。

 俺とミウはこのゲームが始まってからほぼ最初から一緒に行動している。

 だからミウだけの知り合い、というのはあまりいないと思ったからだ。

 そりゃあ、たまには別行動も取るが、晩御飯の時にミウはたいていその日にあった出来事を会話のネタとして話してくるので、俺が聞いていないというのも考えにくい。

 じゃあ、どういうことなんだろう? ミウにもう少し聞いてみようと思ったが、それよりも早く、ローブの人が声をだす。

 

「あの......なにか、お礼を......」

 

「あー、いや。いいって。なにかお礼をもいたくて助けた訳じゃないし」

 

「え、でも......」

 

 うーん、困った。本当にお礼などいらないのだが......

 いっそのこと今日の晩御飯代でも出してもらうとか? いや、それじゃあこの人と夜まで一緒に行動することになるし、それはあまりよろしくない。常識的にも俺の感覚的にも。

 そもそも、この人を真っ先に助けようと言い出したのはミウなのだから、お礼を受けるかどうか、何にするのかもミウが決めるべきだ。

 

「ねぇ」

 

「へ? あ、はい......」

 

 そんな俺の考えが伝わった、というわけではないと思うが、ミウがローブの人に話しかける。

 それに対してローブの人は妙に驚いたように声をあげた。

 そういえばこの人、気のせいかもしれないけどずっと俺の方だけ見てたな。

 もしかかして今ミウに気づいたとか? って、そんな訳ないか。

 

「もしよかったらだけど、お礼にそのローブ取ってくれないかな?」

 

「おい、ミウ......」

 

 それはさすがにまずいんじゃ......

 フードやローブ、もしくはフルフェイスいった、顔を隠すような布防具や金防具を装備しているプレイヤーというのは、基本的に素顔を隠したがっているプレイヤーだ。

 この世界はリアルとほぼ同じ顔で行動することになるので、それを隠したい、という人もいれば、なにか目立つ容姿をしていてそれを隠したい、他にも顔を隠していた方が何かと便利、などという人もいる。

 前までのアスナやアルゴが、それらに当たる。

 もちろん、純粋な防具として装備しているプレイヤーもいるが、金防具ならともかく、このプレイヤーは布防具だ。布防具は相等レアなものでも無い限り、性能が低いものが多いので、純粋な防具として装備しているプレイヤーは少数派だ。

 

「えっと、その......」

 

 やはり、予想通りローブの人は困ったように顔を俯かせてしまう。

 

「嫌だったらいいぞ? プライバシーの問題とかもあるし」

 

 そもそも、なんでミウがローブを取ってほしいって言ったのかもいまいち分からないし。

 それだったら無理してまで取らなくても、そう言うつもりだったのだが、ローブの人は、いえ、と首を振って、それからまた少し逡巡した後、ゆっくりとローブを頭から取った。

 って......えっ?

 

「なぁんだ。やっぱり女の子だったんだ」

 

 ミウがその場の事実を明確に言い表す。

 そう、ローブの中から出てきたのは、ミウにも負けず劣らずの目が覚めるような黒色の長髪。

 そして少し幼げだが整った小さな顔立ちに大きな双眸......これでもかというぐらいの女の子が出てきた。

 俺の脳が目の前の出来事にラグっていると、ミウがからかうような口調で言ってくる。

 

「あれれ~? コウキってば、『また』分からなかったの~?」

 

「い、いや、今回は仕方がないだろ!? ローブで顔も隠れてたし、さすがに身長とかだけで分かれっていうのはいうのは......」

 

「でも声とかすごく女の子っぽかったよ?」

 

「それはよく聞こえなかったからで......!」

 

「でも、その小さくしゃべる感じとかも、女の子っぽくない?」

 

「うぅ......」

 

 やばい、言い訳ーーじゃなくて! 反論が思い付かない......

 確かにミウの言う通り、気づけるチャンスはあったかもしれないけど......

 

「ん~?」

 

 ミウが俺の次の言葉を笑顔で待っている。

 あれは楽しんでいる顔だ。俺をいじり倒すことを。アルゴとかがよくする顔だ。

 最近のミウは本当に変わってきた......色んな意味で。

 だが、このまま言い負けるのもそれはそれでなんか嫌だ。なんとかして一矢報いたいーー

 

「あのっ!!」

 

「「うわっ!?」」

 

 俺とミウの間に入ってきた声に2人して驚く。

 しまった。ミウとの会話に集中しすぎた。

 

「ごめんごめん。私からローブ取ってって言ったのにね。コウキとの会話が盛り上がりすぎちゃったよ」

 

「で、どうしたんだ......えっと......」

 

「あ、リリです......それで、その、お名前、聞いてもいいですか......?」

 

 え? あっ、そうか。俺たちまだ名前言ってなかったか。

 というか、名乗るつもりもなかったしな。よく考えると人助けしたところから、なんか変に話が進んでるような気がするようなしないような。

 初めての流れに少し戸惑う。

 

「私はミウで」

 

「俺はコウキ」

 

「コウキさんに、ミウさんさん......」

 

 リリは口に馴染ませるように呟くと、そのまま再び俯いてしまう。

 そのせいか、少し会話が続かなくなって妙な空白が生まれてしまった。

 えーっと......

 なのでとりあえず先程から気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「そういえば、なんでこんな所にいたんだ? それも1人で」

 

「えっと......クエストで、来ていたんです......でも、突然さっきのmobの群れに、襲われて......」

 

 先ほどの恐怖を思い出したのか、小さく体を震わせるリリ。

 もう話さなくても大丈夫、と伝えるが、俺は少し引っ掛かるものがあった。

 クエスト......この辺りにあるクエストなんて攻略の時にあったかな?

 いや、もしかしたら先ほどの道と同じように、上層の攻略によって発生するクエストなのかもしれない。

 

「リリちゃんはこれからどうするの?」

 

「はい......その、クエストはもう中断するつもりなので......帰ろうと、思ってます」

 

「じゃあさ! 一緒に帰ろうよっ! 私たちも特に用事はないからさ。ねぇ、コウキ?」

 

「ん? ......あぁ、まぁそうだな。襲われたばっかりでまだ怖いだろうしな」

 

 この世界で死にかけた、というのはリアルで死にかけた、というのと同義だ。

 それこそリアルで車に轢かれかけたとか、ナイフを突きつけられた、というのと同じか、それ以上の恐怖がある。

 そんな時に、1人で帰れと言われるのはどんな人間でも不安があるだろう。

 女子ならそれは尚更だと思うし......この辺りはさすがは女子同士。俺じゃあ思い付かなかった。

 リリはすごい勢いで目を泳がせていたが、途中で俺に視線を向けたかと思うと、また俯く。

 そして消え入りそうな小さな声で。

 

「......あの、じゃあ......お願いします......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 私たちは今、森からもっとも近い街に移動中だ。

 最初は普通に女の子1人で怖い目にあってあって大変だろう、と思って一緒に帰ることをリリちゃんに提案した。

 転移結晶を使ってもよかったんだけど、この距離で使うのももったいないしね。

 それに、私にも考えというものがあったりする。

 私の隣で顔を俯かせながら歩いているリリちゃんに声をかける。

 

「ねねっ、リリちゃん!」

 

「はい......?」

 

「私と友達になろうよ!」

 

「......へ?」

 

 私の申し出にキョトンとした顔になるリリちゃん。

 しまった、さすがにいきなりすぎた。

 私は軽く頭の中を整理して、一つずつ説明しながら言うことにする。

 

「ほら、この世界って女の子少なくて女友達とかって作りにくいでしょ? だからこういう機会は大事にしたいなぁって思ったんだ......けど、えーっと、どうかな?」

 

 私の言葉は後半尻すぼみしてしまう。

 そして私の申し出に今度は慌てながらも必死になにか言おうとするリリちゃん。

 ......こういうところ、私には全く無い女の子らしさだよね。

 髪も長くて綺麗だし、体も小さくてお人形さんみたいで。すごくか弱い感じで守ってあげたくなるというか、保護欲を掻き立てられるというか、そんな感じ。

 ......いいなぁ。

 私がそんな無い物ねだりを脳内でしていると、リリちゃんは少し落ち着いたらしく、少し体を震わせながら言ってくる。

 

「あの......その、私で、よければ......」

 

「ほんとっ!? よかったぁ」

 

 つい安堵の息をついてしまう。

 正直、すごく安心した。私もコウキ程ではないけど友達作りというのは下手だから。

 とりあえずヨウトのテンションを参考にしてやってみたけど......上手くいってよかった。

 私に新しい友達が......うはー♪ まずい、ちょっとテンション上がっちゃいそうかも!

 ちょっとその場で小躍り(ブレイクダンスぐらいの)をしたくなったけど、他にも目的があるからそれはなんとか堪える。

 じゃあ、次は......

 私は前を歩いているコウキに向かってサムズアップする。

 

「次はコウキだねっ。さぁ、レッツトライ!!」

 

「ふぇっ......!?」

 

「はぁぁぁあああっっ!?」

 

 ずっと黙って私たちの前を歩いてmobを倒してくれていたコウキだが、これだけは無視できなかったらしく声をあげた。

 あれ? 今一緒にリリちゃんの声も聞こえた気がしたけど、なんで?

 って、そりゃそっか。普通の女の子は急に男の子と友達になってみようなんて言われても混乱しちゃうか。うぅー、私の価値観のズレがまた一つ分かってしまった......

 謝ろうとリリちゃんを見るけど、すごく恥ずかしそうに下を向いているだけ。

 ......あれ? なんだろ、この違和感。

 

「おい、ミウ......」

 

「ん? なになにコウキ?」

 

 コウキが自分のそばまで来るようにジェスチャーしてくる。それに従って嬉々として移動する私。

 ......コウキにこうやって近づけるだけで嬉しい私は正直どうなんだろう? 最近の私はちょっと危なくなってきてる気がする。

 まぁ、私的にはそれはそれで嬉しいしいっか、と上がった問題はどこかへ放り投げて、私に聞こえる程度の声のコウキの話を聞く。

 

「ちょっ、ミウ無理だって......俺の人見知り忘れたの?」

 

「えっ? あれって他の理由誤魔化すための嘘とかじゃないの?」

 

「ひどっ!? 立派なマジもんですって!!」

 

 うーん、今回もダメか。

 多分コウキとしては何か言いたくないことと関係あるんだろうけど、コウキがそう言うんだったらそこで納得するしかない。

 ただ......隠し事されるのは別にいいんだけど、気分はよくない。

 なのでコウキの言い分を利用させてもらおうと思います。

 

「なら、その人見知りを治すためにもさ? それのせいでコウキ友達少ないんだし。名付けて......『コウキの友達を作ろう!』作戦!」

 

「そのままじゃん!! それに俺だって友達ぐらいいるよっ!!」

 

「例えば? あっ、サーシャさんの所の子供たちっていうのはなしね」

 

「......」

 

 まさかとは思ったけど、本当に黙りこんじゃったよ!!

 コウキがなんかこっちをすごい悲しそうな顔で見てくるし......

 ......はー、可愛いなぁ、頭撫でたーーごほん、まぁ、とにかく!

 

「だからこそ、友達を増やすって感じでね?」

 

「......ミウだって俺と似たようなもんじゃん」

 

 するとコウキが若干拗ねたような口調で返してくる。

 む、コウキ、私を舐めてるな。

 確かに私も友達作ったりするのは苦手な分野だけど、コウキほど苦手じゃないんだよ私は。

 私はウィンドウからフレンドリストをを出して、可視モードにしてコウキに見せる。

 

「はい、これ」

 

 私が出したウィンドウをコウキに見せると、2~3秒ほど見た後、コウキがその場になし崩れた。

 

「まさか、ミウにこんなに友達がいたなんて......っっ!!」

 

「なんか聞きようによってはすごい失礼な言葉だなー。まぁ、とにかくリリちゃんにも友達になってもらおうよ」

 

「いや、でも......」

 

 うーん、強情だなぁ。

 

「そもそも、コウキのその人見知りってどういう条件で起こるの? アルゴとかフィナさんとか、あと戦闘中も大丈夫だよね?」

 

「アルゴは取引相手、とかって感じだし、フィナさんはまだちょっと反応しちゃうけど......まぁ、お店の人だから。戦闘中はそんなこと言ってられないし、皆自分のこと考えてるからな」

 

 なるほど。

 確かにコウキは商売とか、そういうことが絡んだ相手には人見知りしない。リズの時もそうだった。戦闘中もそういう雰囲気はない。

 多分、そこに悪意だとか駆け引き、そんな思惑みたいなものが絡んでくるとコウキは大丈夫ってことかな? 戦闘中も、他人よりも自分、というような考えがコウキ的には大丈夫ってこと......なんだと思う。よく分からないけど。

 でも逆に言えば、完璧な善意のようなものを持った相手や、ただ仲良くなりたい、みたいな純粋な人には人見知りが出るってことになる。

 サーシャさんの場合は、子供たちに対する完璧な善意がコウキのセンサーに引っかかったのかな。

 不思議な線引きだなぁ。普通、悪意ある人とかの方が上手く関われなさそうだけど。少なくとも私はそうだ。

 ......あれ? そういえばなんで私の時はその人見知りが起こらなかったんだろう?

 別にコウキとは普通に仲良くなった気がするんだけど......

 ......実は私、結構腹黒キャラだったりするのかな?

 私がその謎に首を捻っていると、コウキはなにかブツブツ呟いて顔をあげる。

 

「リリ......さん!」

 

「は、はい!?」

 

 コウキが後ろにいるリリちゃんに向かって言う。

 おぉ! コウキがついに自ら友達作りを!!

 なんでさん付けなのかは気になるけど、ガンバレー! コウキー!

 

「その、よかったらなんだけど.......と、友達になってくれないか......?」

 

 言ったぁぁぁぁぁぁあああ!!

 普通に考えると友達になろうとして今の台詞は少しアレだけど(自分のことは棚上げ)、今までのコウキからしたらすごい進歩だ。

 それにこの考えには、ちゃんと勝算もある。

 リリちゃんはさっき、コウキに友達になるよう言ったときにすごく驚いてはいたけど、嫌がってる素振りは一切なかった。それなら友達になるぐらいはしてくれるんじゃないかと思う。

 私の勝手な考えにリリちゃんまで巻き込んでしまうのだから、その辺りはしっかりと考えている。

 もしもリリちゃんが本当に嫌がるようなら、その時はもちろん全力で謝る。何度でも。

 まぁ、それももしもの話で、さっきからリリちゃんのコウキに対する反応はかなり友好的だから大丈夫だと思う。

 これならリリちゃんも.......

 そう思ってリリちゃんを見ると。

 

「......」

 

 リリちゃんはただ黙っていた。

 それは嫌がっていて声もでないだとか、そういうことじゃなくて。むしろ、その逆。

 リリちゃんはコウキと目を合わせずにいるーー顔を赤くしながら。

 コウキの目線からじゃよく見えない、というより今は必死になりすぎて気付かないのかもしれないけど、私からの角度では見えてしまった。

 最初はただ恥ずかしがり屋で、コウキと目を合わすのが恥ずかしいだけだと思っていたけど。これじゃあ、まるで......

 突如私に襲ってきた不安なんて他所に、リリちゃんは本当に細々とした、可愛らしい声をだす。

 

「あの、えっと......わ、私の、方こそ、よろしくお願いします......っ!」

 

 この瞬間、私が前から考えていた、コウキにもっと友達がいればいいのに。コウキの良いところを他の人も知ってくれたらいいのに。そんな願いは叶えられた。

 もちろん、リズの時に思ったように、コウキの良いところを他の人に知られては、私だけが知っているコウキの良いところは少なくなってしまうけれど、それでもこれからがもっと楽しくなって、コウキが笑う場面が増えるのなら、そっちの方が良い、そう考えていた。

 でも、私は分かっていなかったんだ。

 誰かに、コウキの良いところを知ってもらう、という事の本質を。

 私が勝手に願って、勝手に行動して、それが叶った瞬間だったのに......

 私が今思っていることは最低な我儘。それが分かっていても......

 ひどく勝手な私は、その本質に気付いてしまって、言い表せない不安感で押し潰されそうだった。

 

 




はい、リリ登場回でした。

前半は現時点で可能な限り甘くしてみました。うぉぉ......遠慮なしにとことん甘い話が書けるのはいつになるんだ.....コウキくん、もっと頑張れよ!!

そして後半は少し影が射した感じに。これからはちょっと人間関係が色々面倒になりそうです(いい意味で)

さて次回は......掘り下げ?
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