コウキ「なぁ、リリ」
リリ「あ、はい! なんでしょう......?」
コウキ「リリのプレイヤーネームって『Lily』なんだよな?」
リリ「? ......はい」
コウキ「だったら名前はリリィになるんじゃないか?」
リリ「あぁ......それは、ですね......」
コウキ「?」
リリ「その、リリ、の方が可愛いかなぁって、その......あう」
コウキ「あー、なるほど? まぁ、でも実際合ってるから良いんじゃないか?」
リリ「っ! あ、ありがとうございます!!」
コウキ「お、おう......」
リリ「......」
コウキ「......と、とにかく! 今回はそんなリリのイラストが届いてるぞ! よかったな!」
リリ「ふぇっ!? え、あの、聞いてないですよコウキさーん!! ......あ、それと、ほ、本編どうぞっ!!」
【挿絵表示】
SIDE Lily
ーーこの人は、何を考えているんだろう?
私がコウキさんの友人であるミウさんに対して、最初に抱いた感想はその一言に尽きる。
少し失礼な考えだとは自分でも自覚しているけれど、それでも仕方がないことだと思う。だって初対面での最初の会話が「友達になろうよ!」だなんて中々にないことだと思う。
それだけならまだしも、その次はコウキさんにも私と友達になるよう言い出してたし。(すごく感謝してるけど。うん、これ以上ないくらいに)
すごく他人との距離が近い人なのかと思えば、ふとした瞬間にどこか大人びて見える不思議な人。
自慢できるほど交遊関係が広いわけでは決してない私だけれど。それでもミウさんが色んな意味で変わっていることだけは分かった。
そしてその考えは、今この瞬間に確信へと変わりつつあった。
「ねぇねぇリリちゃん、この服すごく可愛いよっ! 着てみようよ!」
そう言ってミウさんが私につき出してきたのは......なんでこのチョイスなのかチャイナ服と思われるもの(思われる、というのは細部が微妙に違うから)
ミウさんにバレないように表情を窺うけど、ミウさんが浮かべているのは、やっぱりいつも通りの笑顔。
それは太陽のように眩しくて、とてもじゃないけど私なんかじゃ足元にも及ばないほどに綺麗なものだ。
だからこそ、余計に思ってしまう
......本当にこの人は、何を考えているのだろう?
と。
話は1時間ほど前に遡って、攻略帰りの夜
私の無理な要望を叶えてくれた2人のお陰で、最近はたまにだけどコウキさんたちとも一緒に攻略に出られるようになった。
もちろん、前線の攻略に私も参加、なんてことはまだまだ無理。でも簡単なクエストとか下の層に降りて来るようなときは私でもついていけるようになってきた。
それでも、私なんかがいて邪魔ではないか? と不安になることもある。2人からすれば、私がいない方が攻略を効率的に、無駄なく進められるはずだからだ。どうしても私の勝手でついて回るのは罪悪感があった。
でも2人に聞いても、そんなことはない、と否定してくれた。
ミウさんは、基本的に嘘はつかない人のようで、嘘をついていないとはっきり分かった。
コウキさんは、そういったことに、なんというか、容赦がない人だ。私が邪魔なときは、はっきりとそう言って攻略には連れてかない。
でもそれは、私のことを思ってのことだと気づくのには時間はいらなかった。コウキさんは、嘘は上手だけど人を思いやるのが極端に下手だから。
そんな2人の優しさに感謝しつつ、私ももっと頑張ろうと意気込みを新たにしてた時にあった、ミウさんからの提案が物事の始まりだった。
「買い物......ですか?」
「うんっ! 今日は少し早く終わったから夕食前にどうかなって」
「えと、武器とかを、見て回る......ということですか?」
「違う違う。普通に服とかを、だよ。さすがに私でも攻略から帰ってきてまで武器買いに行ったりはしたくないよはしたくないよ」
他の攻略組プレイヤーはそうなんじゃ?
と、喉元の寸前まで言葉が出かけたけど、その聞き返しは先が長くなりそうだったので止める。代わりに苦笑いで返した。
ふと隣を見るとコウキさんも全く同じ反応をしていた。
そのことに気がついて、胸の中心がほんのりと暖かくなる。
こういった、ちょっとしたことでコウキさんさんと考えや動きがシンクロした時、気分がすごく高揚することに気がついたのは、つい最近のこと。
ーーコウキさん。
私がmobに襲われて、
いつも周りがすごく見えていて、物腰が柔らかくて、たまに見せる笑顔が普段の固い表情と違って子供のようで。
なによりーーとても優しい人。
そんな自分の憧れの人と考えが一致したんだ。表情が緩んでしまっても仕方がないと思う。うん、仕方がない。
でも、私が急に黙りこんだことを返答に窮していると思ってくれたのか、私の代わりにコウキさんがミウさんに返す。
「でも服ってさ、そんなに防具以外着ることないだろ?」
「コウキは分かってないなー。可愛い服っていうのは、見て回るだけでも面白いんだよ?」
「えーっと、ウィンドウショッピングってやつだっけ?」
「うん、大体そんな感じかな。この前街歩いてたらすごくいい雰囲気のお店見つけたからどうかなって」
いいお店......
そのキーワードに意識がいく。
どれだけ自分に自信がなくても、人見知りが激しくても、やっぱり私も女の子ではある。いい雰囲気のお店、しかも服屋ともなればどうしても興味が湧いてしまう。
前に見たミウさんの私服、すごくセンスがよかったし、外れということも考えにくい。
しかもこの世界は戦うことを前提に成り立っているから、そういったお店はレアアイテム並みに希少だ。行かない手はないと思う......それに。
無意識のうちに、でもバレないようにコウキさんの顔を見てしまう。そんな自分に気づいてすぐに視線を元の位置に戻す。
ーーそれに、やっぱり、コウキさんにも可愛く見てもらいたい。
そして話は冒頭に戻る。
お店に入って数分でミウさんによって私の前に広げられたチャイナ服(露出過度)。それを目の前にして一瞬思考が停止しかけてしまったけど、なんとか口を開く。
「あの......どうして最初が、『それ』なんですか......?」
「......? 可愛いと思ったから?」
「はぁ......」
どうしよう、会話は噛み合っているんだけど、発想の次元がビックリするぐらいに違う気がする。
確かに、ミウさんが持っているチャイナ服は、可愛いか可愛くないかで考えたら、前者だと思う。
でも、だからといってそれを試着してみたいかと聞かれれば、申し訳ないけど願い下げたい。
ミウさんが言っていたお店は、壁が大理石のような作りで、どちらかと言えばリアル寄りな作りになっている。落ち着いている雰囲気が出ているので、確かにこれはいいお店の部類だと思う。
しかも品揃えも種類も豊富で、買い手も欲しい服がありすぎて困る、ということはあっても欲しい服がなくて困る、という心配はなさそう。
......まぁ、だからこそ、ミウさんが持っているような謎の服も出てきてしまうのだけれど。
「あの、ミウさん。こういう服って、その......私あまり似合わないと思うんですけど......私、スタイル、良くないですし......」
「えー、そうかな? リリちゃんウェスト細いし、似合うと思うんだけどなー。コウキはどう思う?」
コウキさん!!
ミウさんの呼び掛けに反応して、コウキさんの顔をどうしても見てしまう。
確かに、この服は恥ずかしいけど、もしもコウキさんが似合ってるって言うなら......
でも、そんな言葉私に向けられるわけもないし......
そんな色々な思いを込めた視線を向けた先にいるコウキさんの返答は。
「えっと......まぁ、言いたいことは色々あるけどさ。とりあえず、この世界でも珍しい
軽く涙目なコウキさんから返ってきたのは、そんな当然とも言えるような言葉だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい......っ!」
「いや、まぁ......リリがそんなに気にすることじゃないって」
ミウさんが試着室で着替えている間、私はひたすらコウキさんに頭を下げて謝っていた。
結論から言うと、コウキさんの申し出はミウさんに却下された。
ミウさんが「やっぱりコウーー男の子の意見も欲しいからここにいて!」と言ってコウキさんを引き留めたからだ。ミウさんの決定にコウキさんも半泣き......というかもうほとんど泣いてた。
やっぱりこのお店の中にコウキさんがいるのは精神的に厳しいものがあるんだと思う。美味しいって噂のラーメン屋に女の子だけじゃ入りづらいのと同じ感覚なんだろう。
だったら無理せずに外で待っていてもらった方がいいと思う......んだけど、外でただ待ってもらうっていうのもなんだか悪いし、それに、さっきも言ったけど私もコウキさんに意見をもらいたい。
でもやっぱりコウキさんにとってはただ辛いだけなんじゃ......
そう思うと、私はとにかく謝ることしかできなかった。
私がなおも謝り続けてると、閃いた! とばかりにコウキさんが人差し指を上に立てて言う。
「ほら、あれだよ! 確かにここにいるのは少し辛いけどさ? 2人の姿を拝ませてもらえるんだから役得なんじゃないか?」
「......へっ!?」
思わず大きな声が出てしまう。
きっとコウキさんはずっと謝っている私を励ましたり、慰める程度の気持ちで言ったんだと思うけど、私からすればこれ以上ないぐらいの一大事に発展してしまった。
今のコウキさんの言葉は、深い意味なんて特なくて、100%の善意によるものだと分かっていても、私はある淡い期待をしてしまう。
普段ならそんな期待は私の固くて重い口に塞がれて、言葉として発されることはないのに、今回は自然と口が言葉を紡いでしまった。
「あの、それはその......私の着替えた姿も、み、見たいってこと......ですか?」
自分の欲望に負けて、たどたどしくもコウキさんに聞いてしまう私。
でも、これは私にとって死活問題だ。
ミウさんは可愛さも綺麗さも兼ね備えた、私から見たら完璧超人に近いような人。
そんな人といつも一緒にいるんだから、コウキさんが見たいのは私なんかじゃなくて、ミウさんが着替えた姿だと思う。
でも、もし、もしもコウキさんが私の着替えた姿も見たいと言ってくれるのなら......
私は少し怖くなりながらもコウキさんを見るが、コウキさんはまた困ったように笑っているだけだ。
「いやいやいや、それは言葉のあやというか、俺はそんな女子を観察するような変態じゃないというか」
「......そう、ですよね。やっぱり私なんて汚いものを見ても、得なんてないですし......」
「え? ......いや、むしろ美人だと思うけどなぁ」
........................ふぇっっっ!!??
今、私の人生のなかでも1、2を争うほどのあり得ない言葉を聞いた気がした。
目の前で「あれ? こういうことって友達には言っちゃダメだったのか......?」とかコウキさんが1人唸ってたけど、それどころではない。
コウキさんが、私を美人って......? いやいや、そんなまさか。きっと何かの言い間違いだと思う。
だって、私にコウキさんが美人って言うなんて、そんなの、男の子は女の子の服を、女の子は男の子の服を着て生活しろ、という条例が敷かれるぐらいありえない。うん、なんだろうこの例え。ちょっと錯乱してきた。
万が一、コウキさんが本当に言ってくれたとしたら、それは社交辞令かなにかだ。それ以外ありえない。
私はもう目が回り出しそうなほど混乱しながらも、ある願望が湧いてきてしまった。
それってどういうことですか? とコウキさんに聞きたくなってしまった。
なんとか堪えようとしているのに、さっきから妙に軽くなってしまっている私の口は言葉を紡ごうとする。
99%は有り得ないと分かりつつ、残りの1%は......微かな期待を込めて。
コウキさんに聞こうとした瞬間、同じタイミングで、シャッと試着室のカーテンが勢いよく開いた。
「じゃじゃーん! 着替えてみました!!」
「おぉ......」
思わず、といった風に声を漏らすコウキさん。私もカーテンが開いた瞬間に口を閉じていなければ声を漏らしていたと思う。
それほどにミウさんの服装は似合っていた。なにもこんなタイミングで出てこなくても、とかそんな私の考えを吹き飛ばすほどに。
少しオレンジがかった無地のインナーの上にデニム生地のベスト、下はミニスカート。ミウさんの活発そうなイメージがそのまま生きている服装だと思う。
こういう、格好がいい服ってスタイルいい人しか似合わないからすごく羨ましい。ミウさんの腰細くて足スラーっとしてるし。
きっと私がああいうタイプの服を着ても、頑張って背伸びしている子供の図が完成するだけだ。
「うん、ミウのイメージに合ってるし、良いんじゃないか?」
私の感想とほぼ同じ感想をコウキさんが言ってくれたので私も続いて頷く。
でも、ミウさんは私たちの反応では納得できなかったようで、唇を尖らせる。
「コウキ、毎回同じ感想だよね? なにか定型文作ってない?」
「いや、そんなことないと思うけど......俺、そんなに言ってること被ってる?」
「前回は『ミウの雰囲気に合ってる』、その前は『ミウっぽくていい』、そのさらに前はーー」
「ごめんなさいこれからはもっと頭を働かせます」
これでもかというほどの勢いで腰を折るコウキさんを他所に、ミウさんを見る。
感想、全部覚えてるんだ......
口ではコウキさんにダメ出ししているミウさんだけど、それに反して口許がすごく緩んでいる。なんだかんだ言って嬉しかったのかもしれない。
前から思っていたけど、ミウさんってやっぱり、というか絶対にコウキさんのこと......
「今度からは気を付けてね。さ、次はリリちゃん!」
「えっ、あの、やっぱり私も着替えるんですか......?」
当然ですとも! とミウさんは言い切ると、自分は試着室から出て、そのまま私を試着室に押し込んでしまう。
試着室の中は、外から見るよりも意外と空間が広く、着替えるのに手惑うということはなさそう。
しかも試着室を出なくてもいいように作られているのか、壁には2段の棚が設けられていて服が置けるようになっている......なぜか下の段にはチャイナ服もどきが置いてあったけど。
そして外からカーテンが閉められる。
「あの、私まだ服選んでないんですけど......!」
「大丈夫大丈夫。リリちゃんに似合いそうな服色々中に入れるし、それにリリちゃん、気になってる服を目で追ってたから大体分かるしね」
......この人は、本当に何から何まで規格外な人だなぁ。
確かにミウさんが服を選んでいる間、私も気になる服を少し見てはいたけど、まさかバレていたなんて。というか、目線ってそんなに分かるものなのだろうか?
ミウさんが「ちょっと待っててね」と声をかけてくると、続いて段々と遠ざかっていく足音が聞こえた。
ミウさん、試着したまま行っちゃったけど、いいのかな......?
「えっと......ごめんな?」
「い、いえ......謝ってもらうことでもないですし」
「あー、いや、それだけじゃなくてさ。うーん......」
コウキさんが何か言い悩むような雰囲気がカーテンの向こうから伝わってくる。
「えーっとだな。ミウ、今日テンション高く感じなかったか?」
「......言われてみると、そうだったかもです」
「だよな、なんかミウって自分が可愛い服とかを着ることに思うところがあるらしくてさ」
「え......? でも」
「うん。最近はそこまで気にしなくなってきたらしいんだ。理由は......まぁ、省くとして。それでも完全に気にしなくなった訳じゃないと思う。だから無理矢理テンション上げてた......んだと思う。だからあまり悪く思わないでくれないか?」
「......分かり、ました」
私が言うと、カーテンの向こうから今度は息をつくような雰囲気が伝わってきた。
本当は、また「私の方こそごめんなさい」とか、「私は全然気にしていません」とか言うつもりだった。
でも、今のコウキさんは私が今言ったような言葉を待っているような気がした。
ミウさんのことをまるで自分のことのように、いや、それ以上に大事にしているのが伝わってきて、それが少し悔しい。
多分、それが今回の私の行動原理になったんだと思う。
「あの、コウキさん」
「ん、どうした?」
「あの......いえ、その......」
聞くかどうか迷う。
こういう時、ミウさんのような行動力がすごく羨ましくなる。
私はいつもいつも、何をすればいいのか、それは本当に正しいのか、誰にも迷惑はかけないのか、という判断が遅いし、決めるのだって色々理由をつけて先延ばしにしようとする。
さっきだって、私がおどおどしていたせいでコウキさんに聞くより先にミウさんが来ちゃったし......
......今度こそは。
「......コウキさんも、さっきのチャイナ服みたいなのって......好きなんですか?」
「...... えーっと、俺ってリリからもそういう人認定されてるの?」
「へっ!? いや、そういう訳じゃないですっ! ただ......!」
「ただ?」
「ただ、あの、コウキさんの好みをーーなんてことは、ないです。ただ、コウキさんなら、こういうのも......好きなんだろうなって......」
「俺のキャラ設定が誤認されているだとっっ!?」
あーもー!! そうじゃないのに!!
なんで、私ってこうなの......
ただ、コウキさんの好みを知りたいだけなのに......2回も同じことを聞けないなんて......私のバカ。
知りたいけど、もう同じことは聞けないし......
うぅ......もうこうなったら。
シャッとカーテンを開き、ミウさんがまだ帰ってこないことを確認する。
そして素早く試着室に戻り棚に置いてあった例の服ーーチャイナ服もどきを掴み取る。
「えっ......リリ、どうした?」
うぅ......やっぱりこの服、露出多すぎるよ......なんでこんなに切れ込み入ってるの......?
それに丈が膝よりも上ぐらいまでしかなくて妙に短いし......この服、何を目的に作られてるのか分からないよ......
でも、この服を着てコウキさんが喜んでくれたら嬉しいし、コウキさんの好みも分かるかもしれない。それに服を今さら戻しに行くのも変だし......
「おーい?」
私は少し震えながらもウィンドウを操作してチャイナ服もどきに着替える。
そして一応確認しようと試着室の中の姿見を見ーーたら決意が鈍っちゃいそうだから止めておく。
私はいつもロングスカートかズボンしか私服でもはかないから、ここまで丈の短い服を着ると、なんというか、太ももとかがスースーしてひどく落ち着かない。
「大丈夫か~?」
うー、でも。
「......コウキさん、私覚悟を決めました」
「え? なんか俺の知らないうちにシリアス展開になってる......」
「頑張ったので見てください!!」
「なんで試着でそこまでの心意気!?」
もうこれ以上迷ってたら決心がぐらついてしまう。
そう思った私は再びカーテンに手をかけて勢いよく開ーーこうと思ったけど、なぜかカーテンはびくともしなかった。
「リリ、一旦落ち着こう!?」
「大丈夫です! 私は、考えに考えた末にこの行動に出ているんですから!!」
「なんか今のリリからはからはヤバイ感じがするんだって!! 具体的には誤爆の雰囲気っ!!」
どうやらカーテンが開かないのは、向こう側でコウキさんがカーテンの縁を押さえているせいみたいだ。
なんで......!
「......確かに、コウキさんは私の着替えた姿なんて見たくないかもしれないですけど、それでも私は......っ」
「オーケー!! なんとなく今のリリが錯乱していることと、どんな格好でいるのかは分かった!! とりあえず一回自分の格好を見直して!!」
ふぇ......? 自分の格好......?
とりあえずコウキさんに言われた通りに背後にある大きな姿見を見る。
そこに立っていたのは......なんというか、一言で表現するのならすごく蠱惑的というか、はいたないというか......有り体に言えばエッチな格好をしている私だった。
っっっ!!!!????
そうだ、思い出した! こんな格好してるからさっき鏡見なかったんだ!!
私、なんて格好を......!
ここが自分しかいない部屋の中ならゴロゴロ転がり回りたいところだけど、お店の中、しかもカーテン一枚の向こうにはコウキさんもいるのでそんなことをできるはずもなく。
「落ち着いてもらえた?」
「.........................はい」
いくら混乱してたからって、これはさすがに......
まだ誰にも見られていなかったとはいえ、これ以上ないぐらいに恥ずかしさが込み上げてくる。
それにこんな状態でコウキさんと会話して、あまつさえ迷惑までかけてるし......もう、いっそのこと消えたい......
あまりの自分のバカさ加減に涙が出そうになる。
「その、すいませんでした......」
「あー、うん。気にするなよ? ミウもそういうことよくあるし」
「......そうなんですか?」
「あぁ、この前も自分で言ったことに自分で恥ずかしがってたしな」
「......そんなこと言ってたら、また怒られちゃいますよ?」
「げっ......今の内緒にしといてくれな?」
「ふふっ」
「ははっ」
さっきまで気分が沈んでいたというのに、コウキさんと話して、少し励ましてもらっただけでこんなに気分が向上するんだから、私もすごく現金だと思う。
他人から見れば、こんなに小さなこと。
でも、私にとってはとても大きな幸せ。
コウキさんと話しているときは、いつもこう。
普段は自己否定気味な私だけど、コウキさんが誉めてくれたり、慰めてくれた時は、それ以上に自分を肯定できる。
ここが、私の好きな場所なんだって強く実感できる。
ーーあぁ。
「コウキさん」
「ん?」
「私、やっぱりーー」
やっぱり、コウキさんのことーー
「......コウキ、試着室のカーテン握り締めて何してるの?」
「えっ、ミウ!?」
「ミウさん!?」
気づかなかったけど、いつの間にかカーテンの向こうにはミウさんが戻ってきたみたい。
......危なかった。今日の私は少し暴走しすぎだ。さっき落ち着いたばかりなのに......
それにしてもコウキさん、まだカーテン握ってたんだ......
カーテンの向こうで必死にミウさんに弁明しているコウキさんの声が聞こえてくる。
「あの、ミウさん。これには訳がありまして......」
「うん? なに?」
「実はかくかくしかじかで......」
コウキさんが、私が混乱➡私を落ち着かせるためにカーテンを押さえると説明する。
「なるほど~......ね、コウキ?」
「えっと、なんでしょう? というかそのそれだけでmobの大量討伐ができそうな視線を納めてもらえませんか?」
「ん~?」
「ごめんなさい」
あれ? コウキさん今なにか言われた訳じゃないの謝ってる......
ミウさんが細く息をはくのが聞こえる。
「まず、コウキも嫌だったのに無理矢理残ってもらったのはごめんね? ちょっと私も回り見えなくなってて......」
「え、あ、いやいや! ミウもなんか思うところがあったみたいだし、仕方ないって!」
「うん......コウキ、ありがとね」
「ミウ......」
カーテンの向こうになにやらいい雰囲気が流れる。
「......それを踏まえた上で、今回の件だけどね?」
「ですよねー?」
「もう説得し終わったなら、その手、離してもいいはずだよね?」
「......あ」
「コウキ、目立ちたくないのならあんなに大声出しちゃダメだよね? まぁ、これは私も悪いんだけど」
「はい.......」
......なんだろう、カーテンの向こうですごいことが起こってる気がする。
「それにーー」
「......それに?」
「そんな状態で笑ってたら、誰だってコウキがいかがわしいことしようとしてるって思うよね?」
「............ごめんなさい」
なぜか今、どこからかゴングの音が聞こえてきた気がした。
それと同時にカーテンで見えないはずずの外の光景が脳裏に浮かんできた。
具体的に言うと、コウキさんが跪ずいている光景が。
......2人とも、大変だなぁ。
事の発端は間違いなく私なのに、私自身はどこか他人事のようにそう感じた。
......後になって考えてみれば、おそらくそれがいけなかったのだろう。
「まったくもー......リリちゃん、大丈夫~?」
先ほど、コウキさんは致命的なミスを犯していた。
それは、ミウさんに状況説明するとき、ただ私がコウキさんに服を見せようとして混乱していた、としか言っていなかったことだ。
つまり、ミウさんは私がコウキさんに『普通に』可愛い服を見せようとしていたと勘違いして、私の今の格好を知らない。
その結果、無慈悲にもミウさんによって開け放たれるカーテン。
障害物がなくなったことにより、私とミウさんの視線が合う。
そして、お互い固まること数秒。
私はこれでもか、というほどに体温が一気に上昇して、ミウさんはきょとんとしていた。
「あの、これは......その、違うくて......っ!」
必死に弁明しようとするけど、何から言えばいいのか分からない。
というか、今の自分の状況が把握しきれない。
えーと、私は今、ミウさんに服を見られていて、これはコウキさんに見せようとしていた服で、服のデザインがちょっとエッチで、でも色合いとか縫い目はすごく綺麗で、そういえばこのカーテンのデザインも綺麗で......
しかし、混乱する私とは反対にミウさんは現状を把握できたみたいで、いつも通り綺麗な満面の笑顔になる。
「うんっ! リリちゃんすごく似合ってるよ、可愛いねっ!!」
「うぅ.......うわぁぁぁぁぁぁぁああああん!!!!」
だけどそんなミウさんが私に投げ掛けてきた言葉は、私に恥ずかしすぎる現実を突きつけるだけだった。
......もう2度と、あんな服は着ないよう心に刻んでおこう。
はい、リリ回でした。
リリ視点は書いててすごく新鮮ですね。自己否定はコウキくんでもあるのですが、恥ずかしがり屋というのはコウキくんにもミウさんにもないですからね。
ただリリの立ち位置がツッコミなのか天然ボケなのかまだ完全に決まっていないのでそこのバランスが難しいです。
そして文章力だけならず、絵もダメな自分に色々折れそうです。こっちも練習しないとなぁ。
次回は、久しぶりなあのキャラも出てきてちょっとした事案発生です!