ヤマト「いぇーい。新章突入~」
カリン「ちょっ、いきなりその一言目はどうなのよ......」
ヤマト「だって、最初はインパクトが大事だって、なんか手紙が置いてあったし、これ」
カリン「手紙? なになに......ぶっ!?」
ヤマト「じゃあ、カリンが手紙読んでる間に前書きコーナー進めちゃうよ?」
カリン「待ちなさいよ!! なんで今の反応をした私を放置するわけ!?」
ヤマト「いやー......だってなんだか面倒なオーラがカリンから滲み出てたから」
カリン「え、えぇ、そうね。今回は私が悪かったわ(手紙を丸めて後ろへ放り投げる」
ヤマト「? まぁ、なんでもいいけど。それじゃあ」
ヤマト・カリン「本編どうぞ!!」
ヤマト「(丸められた手紙拾う)えーっと......『可愛いものマジLOVE2000%のカリンですですっ! いつも冷たい態度をとっちゃうけど、実はあなたのことも......』......なにこれ?」
カリン「ヤマトー、戻るわーーって、なに読んでるのよ!?」
ヤマト「カリンって意外と.....」
カリン「なんでよ!? その手紙が勝手に私の台詞捏造してただけでしょーが!!」
AS5話目 藍髪少年のきまぐれ
例えばの話。
自分が常日頃お世話になっていて、その人に恩返しをしたいとしよう。
そうなると、まず誰しもが考えるのは恩返しの『方法』だ。
方法も細かく分ければ数多くある。その中でも最も代表的なものはプレゼントだろう。
母の日然り、父の日然り、少し踏み込めばバレンタインデーなどもその例に入る。日本人特有の感覚かもしれないが、感謝の念を伝えるとき、贈り物で感謝を表す人は多いのだ。
ならば次は、プレゼントを何にするのかだ。
これも、送る相手によって内容は変わってくる。
単純に、男性に渡すものなのか、女性に渡すものなのか。それだけでも大きく変わってしまう。
男性に女性服を贈っても脳を心配されるし、女性に男性服を送ろうものなら、最悪殴られても仕方がない。
さて、それらを踏まえた上で一つ問題が上がる。
「う~ん......女の子って、何が好きなんだろう?」
それは、女友達なんてほぼ皆無なオタク系男子の場合、女性に何を贈ればいいのか分からないということだ。
ヤマトは街を歩きながら唸る。その思考の中に浮かんでいるのは、「女の子って、鎖鎌とか、十手とか好きなのかな?」だ。その贈り物が好き、という女性も世の中には確かに存在するが、少なくともヤマトが恩返しをしたい相手は間違いなく喜ばない。というかキレる。
そう、ヤマトはこのレベルで悩んでいるのだ。
贈り物に迷う、とかではなく、贈る物が分からない、というレベルで。
ヤマトは普段は使わない脳の領域を使いすぎて疲れたのか、深くため息をつく。
それと同時に目的地である出店に着き、その出店の木の台に突っ伏した。
「エギル~」
「ん? おぉ、ヤマトか。いきなりウチの店の出入り口に抱きつくな」
「少しは心配してよ......というか、出入り口ってこれ台だよ?」
「客がここから商品を見るんだ、出入り口同然だろうが」
ヤマトは首を傾げながらも渋々と台から離れる。どうにも商人の考えはヤマトとは違うようだ。
そして改めてヤマトはエギルと向き合う。
お祭りの屋台のような出店の奥に見える黒い肌に、まさに戦士! とでも言うようながたいの良い体。人によってはむさ苦しいと思うかもしれないが、ヤマトはそうは思わなかった。
いや、むしろ。
(う~む、やっぱりこういう筋肉ムキムキっていうのもかっこいいよなぁ。昔の剣術家とか武士にもがたいの良い人多いし。それに比べて......)
ヤマトは自分のヒョロヒョロな体つきを3秒ほど見て、一気に肩を落とす。
明日から筋トレしようかな、とか考えるヤマトだった......ゲームの中でそれをしたとして、筋肉がつくとは思えないが。
「お前なぁ、人のところに来てるんだから、せめて俺にも分かるように話を進めてくれないか?」
「どうせ、また変なこと考えてるわよ。そのヤマトの気の抜けた表情は」
エギルでもない、ヤマトでもない声が聞こえた瞬間、ヤマトは小さく肩を震わせた。
そして、同時に思った。
ーーなんで、いつも来てほしくないタイミングで来るんだろう、と。
もう自分の背後に立つ人物には予想がついていたが、それでもせめてこの理不尽な世界への抵抗としてヤマトは振り返らない。認知しなければ大丈夫の精神だ。
が、無慈悲なこの世界はヤマトにそれを許さない。
「カリンか。今日は千客万来だな」
「こんにちはです、エギルさん」
エギルの声がけによってヤマトのささやかな抵抗は簡単に崩されてしまった。
......別に、ヤマトとカリンはケンカ中というわけではない。いや、カリンはいつも通りヤマトにイライラしてはいるが、それはヤマトからすればカリンの通常モードなのでケンカにはカウントされない。
ではなぜヤマトはカリンを避けているのか、ということになるが......もうほとんどバレているような気もするが、それでもしらばっくれるとするのなら、ヤマトにも並々ならぬ理由があるのだ。
(こうなったらいっそのこと、カリンに声をかけられるよりも先に自然に、かつ迅速にフェードアウトするしかないっっ!!)
決めたら即実行だ。
僕は忍者僕は忍者僕は忍者僕は忍者......と自己暗示をかけながら、ヤマトは忍者もびっくりなほど音もたてずに一歩目を踏み出す。こう言っては悪いが、驚くほど無駄な才能の使い方である。
それに、もちろん。
「......? そこの藍髪頭。どこ行くのよ?」
バレないわけがなかった。名探偵もびっくりなほどの早さで犯人逮捕である。
これはもう逃げられないと判断したヤマト。だがまだ諦めない。逃げられないのなら、今度は隠蔽工作をするまでだ。
腹をくくったヤマトは勢いよく振り返る。
「あー、こんにちはカリン。カリンっていつもそういう登場の仕方しかできないの? 心臓に悪いよ」
「は? そういうって何よ?」
「だからそういうのだよ。人の背後から登場というか、まるで幽霊みたいな?」
「そんなの意識してないわよ!! というか何その例え!?」
「うんうん、カリンといえばこのツッコミだよねぇ」
「ヤマトはいつも以上にうざったいわね......!」
「いやー、それほどでも」
悔しそうに歯を食い縛るカリン。それを見てヤマトはいつも通り楽しみながらも、内心息をついていた。
ヤマトの普段の会話は、基本的になにも考えずにその場の流れでしていることがほとんどなので、正直誤魔化しながらの会話なんて不安だらけだったが上手くいってよかった。
あとはいつも通りこの会話の流れで適当に話していけば......
すると、何か気になったことがあったのか、カリンは「ん?」と首をかしげる。どうでもいいが、最近妙にヤマトとの会話からの回復が早くなった気がする。
「そういえばヤマトって、エギルさんと知り合いだったの? 今まで知らなかったけど」
「あぁ、うん。前にちょっとあってね」
「なにが『ちょっと』だ。妙にかっこのつけた言い方しなくてもいいだろう?」
エギルが小さく笑って言う。
ヤマトとエギルの出会い。これは本当にこれといって特別なものではない......と、ヤマトは思っている。
ただ、街中であまりにお腹がへって行き倒れていたところを助けてもらった、という出会い方は、十分特別なものだと思うのだが、ヤマト基準ではそれは『普通』であるところが怖い。
「俺からすれば、お前たち2人が知り合いっていう方が少し驚きなんだが。あまり接点もないだろう」
エギルの言葉を聞いてヤマトは冷や汗をかく。
ヤマトは、自分とカリンの関係のことは名前をぼかしながらも話してはあるのだ。もちろん、カリンが襲われていただの悪事を働いていただのという内容は伝えていないが、それでもヤマトとカリンの関係を言ってしまえば、ヤマトが隠したいことも表に出てしまう。
そういった理由から少し気まずかったのだが、エギルの言葉にヤマトよりも反応したのはカリンだった。
「あー、えっと、その......エギルさん。ほら、私の......」
「......あぁ、なるほど。そういうことか。すまんな、いらん質問だった」
「いえ、私の方こそすみません」
カリンがエギルに頭を下げる。もしかしたらカリンはエギルに1層の時の自分のことをもう話しているのかもしれない。
ただあの時の出来事をカリンが負い目にも感じて、なおかつ怖がっていることをヤマトもなんとなくは気づいていたので詳しくは聞かない。
そこでカリンとエギルの目がヤマトに向いた。
ヤマトとエギル、カリンとヤマトの関係という話の流れからするに、次はヤマトがカリンとエギルの関係を聞く番、ということだろう。
「うーん、でも情報屋カリンだったら別にどこにいたってあまり違和感ないしなぁ」
「......ヤマトって、相も変わらず流れとか空気を綺麗に切り裂くわよね」
「あ、切り裂くってかっこいいかも」
「はいはい、そうですねー」
「......なるほど、2人の関係がなんとなく分かる会話だな」
関係もなにも、ただの友達なんだけど......と考えるヤマトを見てエギルが再び小さく笑う。
ヤマトは特になにも思わなかった。カリンは何か言い返そうとしてーー結局なにも言わなかった。
それを見てエギルはさらに笑みを深くする。
「それで? お前たちの今日の用件はなんーーあぁ、そうか。何を悩んでいるかと思えば、ヤマトはあれか」
「え?」
「前に頼まれてただろ。クエストの報酬がーー」
「ほらっ!? こういう時はレディーファーストだと思うんだ僕! ってことでカリンからでいいよ」
なんでこのタイミングでそれを思い出すのーーー!!?? と心の中でヤマトは叫びつつも、なんとか軌道修正にかかる。
いつも自分のことを目の敵ぐらいの感覚で認識しているはずのカリンなら、ここで迷いなくエギルに先に用件を言うとヤマトは思っていたのだが。
「は? 別にヤマトが先でいいわよ。あなたが先に来ていたんだから。私だって順番ぐらい守るわよ」
まさかのカウンターである。
(あれ? おかしい。いつものカリンなら僕にこんな言葉はかけてこないはずなのに!!)
いつものカリンらしくない言動。というか、カリンが絶対にヤマトには言わないような言葉。
しかも思い返してみれば、今日のカリンはいつもの『あれ』をまだ放ってきていない。
その要因から、導かれる答えは一つ!
「カリンって、見た目もかなり綺麗だし、性格も良いから、将来良いお嫁さんになりそーー」
「にゃにゃなっ、なに言ってんのよ!?」
ビュン!! と最近実践でも使えそうなレベルになってきたいつものパンチがカリンの右手から飛び出す。
もちろんヤマトもそれをかわすが、それ以上に驚くべきことが判明し、表情に出てしまう。
今のパンチは間違いなくカリンのものだ。ヤマトには分かる。なにせ会うたびに5~7発程度は放ってきているのだから。
だが、それはつまり......
「まさか、カリンが本当に僕を気遣っていたなんて......!!」
「あなたは私のことをジャイ○ンか何かだと思ってるの?」
「だって、ツンデレで有名なあのカリンが、そんな素直になるわけ......」
「誰がツンデレよ誰が!!」
「......それで? 確かにお前らの漫才は見てて飽きないけどな。こっちも店の前でいつまでもそれやられてると商売上がったりなんだが?」
エギルの声に、ヤマトもカリンも止まる。
エギルも笑いながら言っていたし、皮肉などで言ったわけじゃあない。ただ確かにふざけすぎてしまったと反省するヤマトに対して、カリンは律儀にエギルに頭を下げて謝っていた。やはりいつものカリンらしくない。
確かに、ヤマトからすればおかしく見えるかもしれないが、普段のカリンの素はこちらなのだ。それに疑問を持たれてもカリンも困るだろう。
「結局ヤマトが先で良いのか?」
「あー、いや。カリンが先でいよ。僕の方は本当に大した話じゃないしね」
「......ヤマト、あなた本当に大丈夫? もしかしてなにか悪いところでもあるんじゃ」
どうやらカリンの中ではヤマトが誰かに気を使うことは病気と同義らしい。
そのことにヤマトもさすがに苦笑いを隠せなかったが、早く話を進めるためにもエギルに用件を言うように先を促す。
「って、言われてもねぇ。私もそこまで急な話じゃな、い...し......」
「......カリン?」
不自然に黙ってしまったカリンに声をかけるヤマト。だがカリンからは何も返事はない。
しかもカリンが微動だにもしないので、さすがに心配になりヤマトもエギルもカリンの顔を見る。
すると、やはり顔も微動だにしていない。だが、カリンのその目だけは妙に輝いている気がした。それはもう、少女漫画のキラキラ目のように。
ヤマトはカリンの視線を追う。その視線はエギルの背後に向けられていた。
そこにあったのは。
「......手袋?」
カリンの視線の先。そこには先ほどまでエギルが並べていた商品の数々、そしてなんだか妙に毛のようなものが生えてモコモコしている手袋があった。
いや、あれは本当に手袋なのだろうか? あれは手袋というよりは、もっとこうーー
「ん? 《ケモ手》がどうかしたのかカリン?」
そう。それは獣のーーというより、猫の手を模したかのようなデザインになっていた。
手のひらには大きく、そして弾力にとんでいそうな肉球。そして短い毛から僅かに見え隠れしている小さな爪。まさに猫の手。まさに《ケモ手》。
「って、いやいや。なんでそんなものがあるの? 《ケモ手》ってなに?」
「俺に聞くなよ。いつだったかこいつを売りに来たプレイヤーがいてな。珍しいもんだし買い取ったんだ」
「ふーん」
大抵のことには無頓着、ガンスルーを決め込むことができるヤマトだが。さすがにこれは無視できなかった。
こんなもの、一体誰に需要があるんだろう?
確かにパーティーや宴会などで手にでもはめて登場すれば場は盛り上がるかもしれないが、この世界ではそんな機会はほとんどない。あってもボス攻略成功祝勝会ぐらいだ。
そしてヤマトからすれば攻略組というのは頭が固そうなイメージがあるので(それはそれで偏見だが)、そんなメンバーがこの猫の手もどきを買うとは思えない。
ヤマトはとりあえず手に取ってみようと思い、エギルに手渡してもらう。
適当に表面を触ってみるが、やはりフサフサとした感触しか伝わってこない。
次に人差し指でタップし、《ケモ手》のウィンドウを出してみると、なんと《ケモ手》は装備できることが判明した。
うっそー......これって《クロウ》に分類されるの......とヤマトが愕然としていると、隣から妙に熱い視線を感じた。
「......」
そこでヤマトは、隣の人物を確認はせずに、右手に持った《ケモ手》を上下してみる。それについてくるように上下する熱い視線。
「......」
今度は《ケモ手》を左右に動かしてみるヤマト。そして再びそれについてくる熱い視線。
そんな隣の某可愛いもの好き情報屋を見て、ヤマトはどストレートに言葉のボールを放った。
「......カリン、欲しいの? これ」
「そんなわけないわよ何を言ってるのこれだからヤマトは単細胞なのよ女子だから可愛いもの好き?ハッなにを安直なことを大体私はそんな子供っぽいものなんて好きじゃないわよ嫌悪の対象と言っても過言じゃないわそんなもの視界に入っているだけでもーー」
「エギルー、これ返すよ」
「ーーでも一情報屋としてはこのアイテムに興味あるわね。もしかしたら何か重要なアイテムという可能性もあるかもしれない」
(うわー、めちゃくちゃ欲しそう)
ヤマトは自分でもこんなことをするのは珍しいと思いつつ、カリンに生暖かい視線を送る。それに対してカリンは別の場所に目を逸らした。
別に、カリンも女の子。年齢もヤマトとそう変わらないだろう。そんなカリンがなにかメルヘンな物に興味を示そうが誰も文句はないと思うのだが......実際にピナを抱き締めて数時間離そうともしなかったという前例もあるわけだし。
だがそんなヤマトの考えほど上手くはいかないのが乙女心なのだ。カリンのそれは幾分ひねくれているような気もするが。
しかしこの場には、その乙女心を、少なくともヤマトよりは理解できる人物がいた。
「ほう、そんなに興味があるのなら譲ってやろうか?」
この場で誰よりも(肉体的にも精神的にも)大人なエギルが切り出した。
「えっ!? いいのーーいえ。私はそこまで興味があるわけではないですし」
「そこまで言ったなら最後まで言えばいいのに」
「なにか言ったヤマト?」
「なんでもないよーあははー」
「まぁ、2人とも聞け。カリンも言っていただろう? このアイテムが何か重要なものかもしれないと」
エギルの言葉に少し気まずそうにも頷くカリン。
それを見て気をよくしたように笑うエギル。
「じゃあ、カリンの情報網を使ってこのアイテムを好きなだけ調べてみればいい」
「え......それは」
「あぁ。これはもちろん、攻略を助けるための行動だ。カリンが調べ終えれば返してもらって構わない。終わらなければ終わるまで貸しといてやる。
エギルの言葉を聞くごとに、どんどんカリンの表情が明るくなっていく。
それもそうだろう。結局、エギルが言っていることを纏めれば「このアイテムをカリンにやろう」と、最初に言ったことと全く同じ内容になるのだから。
カリンの意地とかも守りつつカリンに《ケモ手》を譲る。この辺りはさすがはエギルだとヤマトは舌を巻いた。
カリンも少し考える素振りを見せたが、最終的には彼女の中で欲が勝ったのか、表面的には「仕方ないわね」というようにヤマトが持っている《ケモ手》に手を伸ばした。
ーーが、それよりも一瞬早く、エギルがヤマトから《ケモ手》を奪い取った。
その際にカリンの顔が捨てられた子猫のようになっていたが、それをツッコむとまた面倒なことになりそうなのでヤマトは何も言わない。
「あの、エギルさん......?」
「ただし、もちろん条件がある」
「条件ですか?」
「まぁ、そう大層なものじゃあない。ただ俺が欲しいアイテムを取ってきてほしいだけだ」
「アイテム......ですか」
「あぁ、あるクエストの報酬なんだ」
(ん!?)
不意に、ヤマトの背筋に今日何度目かの悪寒が走った。
あるクエスト、報酬。その単語がヤマトの思考をかき乱す。
確か、ヤマトがエギルに依頼したことはあるアイテムが報酬のクエストを探すことではなかったか!?
「《森縁の宝物》ってクエストなんだが、その報酬の丸い石が欲しいんだ」
(やっぱり僕が頼んだクエストーー!!)
もう冷や汗どころか、顔中ダラダラと汗をかきまくるヤマト。リアルなら即病院送りになっている。
「《森縁の宝物》......聞いたことないクエストですね」
「あぁ、最近出たばかりのクエストらしくてな。しかもほとんど最前線のクエストらしい」
最前線と聞いて唸るカリン。
カリンは自分に戦闘能力がないことを知っている。だからこそ情報屋をしているのだ。
そんなカリンは、最前線で逃げ回ることはできても、戦うことはできない。
つまり、最前線のクエストなんてほとんどクリアできないのだ。
というか、ヤマトからすればなぜエギルがこのクエストの話をカリンに持ち出したのかが分からない。そのクエストはヤマトがすべきものだ。そのクエストの報酬も、欲しいのはヤマトであってエギルではないのだかーー
そこでヤマトに電撃が走った。
まさか......
ヤマトの顔色がもう完全に危ないレベルまで悪くなったのと反対に、最前線のクエストと聞いて今まで落ち込んでいたカリンの顔が一気に明るくなる。
ヤバイ、とヤマトは直感し逃げようとしたが、それよりもカリンの手がヤマトの肩を掴む方が早かった。
「ねぇ、ヤマト」
「どうしたの、カリン?」
いつも通りの会話。
そのはずなのに2人の間の空気は完全に異常だ。
いつもは余裕があるはずのヤマトに余裕がなく。いつもテンパっているカリンが落ち着いている。
「あなた、いつものように大した用事はないのよね?」
「なかなかに酷いこと言ってくるね......」
「ヤマト、私の代わりにクエストをクリアしてきなさい」
(やっぱりそう来たかぁ......)
ヤマトはもう諦めたように笑うしかなかった。
出店の中では、エギルが楽しそうに笑っている。
ここまで完全に、エギルにしてやられた。この会話の流れは全て読まれていたのだろう。
この様子ではヤマトがプレゼントを送りたい相手=カリンということもバレているだろう。
「お礼は弾むから!!」
「お礼って言われても......」
カリンが手を合わせて頭を下げて来る。
あのカリンが、あのヤマトに、だ。
すでに逃げ道など存在しない。
もうここまで来ては完全に詰み。ここからの逆転はあり得ない。
ヤマトにはカリンの頼みを聞いて、クエストにいく道しか残されていない。
その上ヤマト自身も、カリンには少なからずお世話になっているのだ。基本我が道を行く彼でも、その恩人にここまで頼まれては無下にはできないわけで。
「......はあ、分かったよ。行くよ」
結果、この日ヤマトはカリン(とエギル)に、完全敗北したのであった。
さて、ここで先ほど藍髪少年のせいで明かされなかったカリンとエギルの関係を説明しておこうと思う。
この二人の関係は、一言で言うならば『お得意様』だ。
カリンはエギルに情報を売り、エギルはカリンにアイテムを売る。
そんな2人の出会いは、カリンが中層のプレイヤーに情報を売っているところにエギルが来た、というものだった。
カリンもあとになって知ったことではあったが、エギルは攻略組である本人の知識や技術を使って中層プレイヤーの育成を行っており、カリンと出会ったときも中層プレイヤーを育成していたところだったのだ。本人は知り合いには隠したがっているが。どうやら恥ずかしいらしい。
かたや、中層プレイヤーを中心として情報を売っている情報屋。かたや、中層プレイヤーを育成してる攻略組兼商人。
そんな2人が互いの存在を知り、持ちつ持たれつの関係になるにはそこまで時間はいらなかった。
ぐちぐち言いながらゲッソリ顔のヤマトをエギルと見送ったカリンは、早速今回の自分の目的である、エギルとの情報交換を開始した。
といっても、そんな大層なことをするわけではない。
単純にエギルに頼まれた情報や、中層プレイヤーの育成に役立ちそうな情報をエギルに伝え、それにみあった情報や、アイテムをエギルから貰うだけだ。
mob、新クエスト、武器、アイテム等の情報。今までもう何度も行ってきた問答をし、互いに新たな情報を得ていく。
そうして互いにある程度情報を言い、一段落ついたとき、カリンはエギルに聞いた。
「.......それで? ヤマトが何か隠していたことは、私は聞いてもいいんですか?」
「おっと、気づいてたか」
「当たり前ですよ、洞察力が優れていないと情報屋なんてやっていけません.......って言いたいですけどね。単純にあのバカの場合、普段が本当にバカ正直に会話しているから、何か隠そうとしたら不自然すぎて一瞬で分かりますよ」
「まぁ、そりゃそうだ」
肩をすくめて見せるエギル。そういえばエギルはヤマトとの会話中、妙に笑っていたが、もしかしたらそんなコウキの不自然さがツボにでもはまって面白かったのかもしれない。
事実、カリンとしても、少々、いやかなり楽しくはあった。
普段は適当にあしらわれまくっているぶん、ヤマトに会話で勝てたときの嬉しさは、かなりのものだったのだ。
あまりの嬉しさに、「お礼は弾むから」などと口走ってしまった気もするが、今はそんなことどうでもいい。カリンのテンションはそれほどまでに上がっていた。
ただそんな喜びが生まれる反面、ほんの僅かにではあるが気に食わなくもあった。
その会話でカリンが勝つ要因となったヤマトが隠していた何かの秘密。
別に、カリンだって隠し事をヤマトにされることぐらいはいいのだ。誰にだって人には言えないような悩みや秘密ぐらいあるだろう。
ただ、その隠し事とやらをヤマトとエギルは共有しているのに、同じこの場にいた自分だけは蚊帳の外、そんな状態が嫌なのだ。
もしも藍髪少年が今のカリンの心の中を覗くことができたなら「それって結局寂しいだけだよね?」とぶっこんできそうだが、今この場にそんなことを言う人物はいない。
「それで、どうなんですか?」
「お前も分かりながら聞いてるだろ......これだけはどんな情報やアイテムとも交換できねぇな。男の沽券に関わる」
「男と男の約束......ってやつですか?」
「そうなるな」
そう言われてしまっては、カリンは押し黙るしかなかった。
ただ、自分も少し無理を言っていると思ったのか、エギルは自分から新しい話題を振る。
「それにしても驚いたな」
「なにがですか?」
「お前さんが言っていたムカつくけど大好きな相手ってのが、まさかあのヤマトのことだったなんて」
「言ってませんそんなこと!! ......あ、いや、確かに言いましたけど、前半の部分だけです!! なんですか、だ、大好きって!?」
「ん? いや、俺はお前がグチグチよく言いに来ていたのは、てっきり惚気かなにかかと」
「そんなわけないですよ!! 誰があんなマイペースキザ刀バカのことを!!」
最近はたまに会っているシリカにも同じようなことを言われているカリン。
確かに、ヤマトとはなんだかんだ言って1層からの付き合い。しかもたまにドキッとするようなことも無きにしもあらずではあるけど.....かといってこれが恋愛感情だなんて、そんなことがあるはずがない。そもそも自分はヤマトのことが嫌いなのだから!!
と、基本的に大人な対応ができているが、ヤマト絡みになった途端に年相応にまで精神年齢が下がるツンデレ中層情報屋。
自分の気持ちを理解できない人は、いつどこでも苦労するのは古来からの絶対法則なのだ。主に弄られ対象として。
「じゃあ、なんでそんなに一緒にいるんだ? お前が俺のところに来たとき、毎回話していくぞ?」
「それは......そう! あのバカの思考回路ってよく分からないですから。私はヤマトを観察対象として見ているんですよ!! なにか分かれば、さっきみたいに会話でも勝てるかもしれなですしね!」
「......なるほど」
「? なにがですか?」
「いやな。ヤマトのやつが俺のところに来るたびに、『前からよく会うツンデレさん』の話をしていくからな......確かにこれはツンデレだな、と」
「だからっ!! ツンデレじゃなーーーーーーーーいっっっ!!!」
こうして、結局カリンはヤマトが隠していたことの内容については、一切聞くことができなかったのだった。
そしてこれが、小さくも大きい事件の始まりになっていることには、誰も気づかない。
はい、新章突入&ヤマトのツッコミ回でした。
やっと新章に入れた......すごい寄り道したからなぁ。よかった、ちゃんと入ることができて。
あ、ちなみに新章は主人公変更! とかそういう話ではないです。単純にここにしか入れられなかっただけです。ごめんなさい。
この章から一気に話を動かしていくので、お楽しみに!!(とかいってまーた無駄に話を長くしそうですが)
それにしても、ヤマトくんのツッコミもありと言えばありですね。カリンと2人きりじゃできそうにないですけど。
次回は......一度本編に戻ります(伏線